「うー寒いねぇ」
体育倉庫は予想通りとても冷えていて、話し合いの場としては最悪だ。
それでも、今から話すことの内容を考えれば、人気の少ないところがいいし、そうなるとやはり体育倉庫が一番適しているということになる。
「西嶋は寒くないの?」
「なんであんたが俺の名前知ってるんだよ」
「秋山に聞いた」
「花奈のやつ余計なことしやがって……」
「そうじゃなくてもお前の名前は有名だよ、二股しているって噂でね」
先日秋山が言っていた江沢による西嶋の噂の内容は、西嶋が二人の女子生徒と付き合ってるということだった。
彼女である秋山は根も葉もない噂だと言っていたが、そう答えるのは当然だ。
突然自分の彼氏に他の女がいるなんて言われて、はいそうですかと受け入れられるやつは早々いない。
つまり、本当かどうかはわからないけど、嘘なのかもわからない噂なのである。
ならどうやって真偽を確かめるか、証拠を探す?本人に聞く?俺は一番手っ取り早いのを選んだ。
噂を流した張本人、江沢拓海に聞くという方法をな。
正直江沢が本当のことを言うかなんてわからなかったし、俺個人としても会いたくなかったのだが、それなりの収穫はあったので良しとする。
どんな収穫があったかは、俺がここにいる時点でわかっているだろう。
「俺は二股なんて──」
「していないって言うんだろ?でも残念ながら俺は知ってるんだなぁ」
「何をだ……」
「お前が二股をしているってことをだよ」
西嶋遼は二股をしている、そう江沢は俺に言った。
そしてこの話し合いが成立している今、江沢の発言は本当であり、同時に遼の二股も事実であることになる。
そうとわかればあとは簡単、俺は秋山のことを黙ってもらう西嶋は二股のことを黙ってもらう、まさにウィンウィンというやつだ。
「いやぁ本当に驚いたよ、まさか昨日俺を殴った相手が二股をしているクズ野郎だなんて」
「何を馬鹿なことを言ってんだ?証拠もないのに決めつけるなんて頭悪いな」
「まあ確かに証拠なんてねぇよ、でも仮に二股していないならなぜ俺との話し合いに応じた?」
「それは、だな……」
「ほら、答えられないだろ?まあ二股している事は一旦置いといてお前に提案があるんだが……」
「おっ俺は悪くないんだ」
「は?」
「かっ花奈の奴が俺と勝手に付き合いやがって、俺は他に好きな人がいたのに……だから俺は悪くないんだ!」
「……」
これは、予想外の反応だ。
俺的には怒り狂うか、冷静に対処するかのどちらかと思っていたのに。
しかもいきなりなに?秋山が勝手に付き合い始めた?他に好きな人がいる?ふざけるのもいい加減にしろ。
ならなぜ今もなお秋山と付き合っている?二股しているという事は、その好きな人とも秋山とも付き合ってるってことだ。
しかもこいつは、昨日俺が秋山に手を出したことを怒っていた。
それは秋山も好きだから怒ったんじゃないのか?
それなのに自分の立場が悪くなっただけで平気で切り捨てるなんて、そんなんで秋山の彼氏名乗ってんじゃねぇよ。
「秋山はお前が二股してるって噂を全然信じてなかったよ」
「お前と連絡が取れなくて本気で落ち込んでいた、秋山は本気でお前のことが好きなんだ」
「それに比べてお前はどうだ?曖昧な態度で接してるから二股する状況になったんじゃないのか?」
「いいか!?お前が二股しているのも今こんな状況になってるのも全てお前が原因なんだよ!それなのに、お前の味方でいてくれてる秋山を犠牲にするのか?」
「お前は、秋山のことが好きなんじゃないのか!?」
「……好きだけど、あいつが悪いのは本当なんだ」
「っ!そうかよ……」
「俺、もう戻るから」
「あぁ」
なんだ、なぜこんなにも胸糞悪いんだ?
確かに西嶋のやっていることは許されることじゃない、でも俺には関係ないことじゃないか。
秋山が可哀想だから?
確かにそれはそうだ、あんなにも西嶋のことが好きなのにあの言われ用はひどすぎる。
でもそれだけじゃない、もっと俺に関係があって最も嫌う何か……。
「そうか、江沢に似てるんだ」
好きでもないくせに複数の女子と付き合ってる江沢と、好きと言いつつ平気で片方を切り捨てる西嶋はどこか似ているのだ。
この世界において、同時に二人の女の子を愛すことなど不可能だ。
必ずどちらかに偏りが出てしまう。
例え二人から告白されたとしても、どちらか片方を切り捨てる覚悟を持たないと人と付き合うことなんてできない。
それは西嶋にも言えることだ。
二人の女の子と付き合い、うまくやっているつもりだったんだろうが全然うまく出来ていない。
現に秋山は犠牲になって傷ついてしまっている。
それなら俺はどうするべきか?答えは簡単。
「好きな人に裏切られた気持ちをわからんやつには俺が直々に教えてやらないとな」
二兎追うものは一兎も得ず、西嶋にはこの言葉通りになってもらう。
次回から主人公ガチ寝取りモード入ります