燃える/母/父/何よりも守らねばならなかった妹が燃えていく。
自分を守って炎に包まれる/無意味。
すべてを焼く炎の向こうには、赤色の光線を放つ黒い物体/八つ当たり。
ねえ。
あれが、あれこそが、すべてを/俺のせいだ。
起きなさいよ。
「起きなさいってば!」
目を覚ます。目の前には、口の締まったきつい顔/いかにも度胸の良さそうな少女/背中まで伸びるロングヘアー/巫女服を押し上げる大きな胸。まるで身綺麗な扶桑人形のような女の子――扶桑陸軍穴拭智子少尉。彼女が覆い被さるように覗き込んでいた。
きつくつり上がった瞳と、目が合う。
「やっと起きたわね。伶実(レミ)。朝食の時間よ。食堂に早く来てね」
「ああ、わかった。直ぐ行くよ。智子」
白の巫女装束に短くした赤い袴を着た智子と言われた少女は、布団から身を起こした赤松伶実の返事に頷く。
巫女装束を押し上げる胸を張りながら立ち上がると、ベットから離れ部屋から出ていく。
赤松は自身が何処にいるのか確認するように、辺りを見渡した。
二三人は優に眠れる大きな布団/軍事資料の乗った机。机の横には、一振りの刀が寄りかかっている。机の上にはもうひとつだけ荷物があった。彼の肉親が生きていた頃の写真が立っている。
「あれからまだ二ヶ月も立っていないのか」
少しの間彼は過去に思いを寄せる。まだ、その程度の時間はあるはずだから。
幻覚/炎。幻影/全てが燃える。それは彼を燃やす
炎の薫り=幻臭――その匂いにむせつきそうになる。
子供の頃から彼は異質だった。裕福だった家の書棚にある外国語の本を、三歳の頃には読みだしている。
誰も知らない料理法を、著書として出したのは五歳の頃。
カールスラント人の父と扶桑人の母が経営していた貿易商の切り盛りを、僅か六歳で手伝うほどであった。
僅か八歳の頃には、通っていた道場で大人を打ち倒す程になっていた。その道場で大人をも蹴散らす、彼に臆することなく立ち向かってくる。そんな少女も居たが。
(まさか同じ部隊になるとは思わなかった)
それ程の異質さでありながら、伶実は他の子供達から排除される事無く育っていく。むしろ同じクラスでは、リーダーシップを発揮していた。
その頃に学校で竹井という年下の少女の面倒を、見ていたことを彼は覚えている。彼女は家が名家だった為に、子供達から疎まれていたのだ。
その程度ではあっても、遠ざけるのが子供である。
それなのにうまく自身を溶け込ませた、伶実の異常さは押して知るべし。まるで子供では無いかのように。
そう伶実は体は子供だが、精神は大人の物だった。
それゆえの異質=異常=異端。
なぜそうなったのか。彼には全く覚えがなかった。
ただいつのまにかそうなっていたとしか言えない。
無論彼は苦しんだ。前世との常識との解離などに狂いそうだった。
何故かズボンを履かず、前世ではパンツを晒す少女達。大戦前のような世界。似た物でありながら多々ある
自身の思うように動かない体。
両親に対する、子供を奪ってしまったかのような罪悪感。
両親は気づいていただろうか。息子の中に、大人の精神を持った何かが居た事を。
何時も彼は恐れていた。両親が解ってしまい、悪感情を向けられてしまうことを。
それでも彼の肉親は確かに無償の愛を注いだ。怒声や罵声を浴びせられることはなかったのだ。
その親愛こそが彼の苦しみを癒すこととなる。
伶実もそれに答えた。両親の仕事を手伝い、後に生まれた妹の面倒をよくみた。
妹も兄の事を尊敬していたことだろう。良く伶実の事を、自身の友人達に自慢していた。
竹井という少女とあったのもそんな時だ。妹と同じようによく世話をしていた。
幸せな家族だったのだ。あの時までは。
切っ掛けは伶実が15の時に拳銃と剣道、古式武道大会の優勝祝に行った家族旅行だった。
闘牛と情熱の国ヒスパニア。そこで彼の幸せは破壊されたのだ。ネウロイ共に。
突如発生したネウロイ達に蹂躙されていく町。そこに伶実達はいた。
彼の目に写るは焼かれていく両親/瓦礫から守っていた。そして自身の傷に違わず伶実を癒す妹/自身の傷を治せば生き残れるのに。
このままでは死んでしまうのに、伶実は何もできなかった。
「生きて兄様」
彼女はその言葉と共に事切れた。
この時に彼は全てを奪われた。
妹や両親の亡骸を前に、伶実は茫然自失となるが、そんな暇はない。
突如現れるネウロイ。その異形を前に彼は、近くにあった拳銃を拾い向けた。
撃ち方は銃剣道の道場で習っていた。
放たれた弾は、ネウロイに外れることなく当たる。
その弾は弾かれることなくネウロイを破壊した。
彼は知っていた。ネウロイを倒す力があるのだと言うことを。
彼は知っていた。自分には特別な力があることを。
彼はそれを誰にも教えなかった。特別であることは、決して良いことばかりではない、と知っていたからだ。
(そんなはずはない。家族の死は決して無駄ではない)
黒猫の耳と尻尾が、生えてくる。
残っていた傷を
様々な感情や思考を、どす黒い復讐の念に変えていく。
ネウロイのクソッタレ共を殺せるのだと思い、感情を復讐を遂げる為の燃料としていく/八つ当たりにすぎない。
とは言え、拳銃片手に仇共に突撃するほど、彼は子供ではなかった。
何せ彼は、生き延びねばならない。
体からわき出るこの力の使い方は、自分自身がよくわかっている。隠れて練習していたからだ。
先ずは武器を集めなくてはならない。
伶実の目線には、古い美術館がたっていた。
古い美術館に、侵入した伶実は展示されている弓矢とクレイモアを手に取る。明らかに窃盗だが、非常時と言い訳をしながら美術館から出ていく。
それから伶実はひたすらにゲリラ戦を開始したのだった。