現在玲実はロスマン共に、哨戒任務に出ていた。
一面の青い空の中、二人だけで空を飛んでいる。
玲実は周囲を索敵/ロスマン――同じ様にしながらも、彼を盗み見てた。
少女からの視線を楽しみ、玲実はくるりと空中で回る。すると、ロスマンのすぐ隣に近づく。
「どうかな? 体調は?」
驚いたのか、ビクリと体を震わせるロスマン。
「え、ええ、そうね」
一度吃りつつも、きちんと彼女は答えを返していく。
「正直言うと、今までで一番体調がいいのよ。何処までも飛んでいけそうなくらい」
柔らかい笑みが、ロスマンの表情いっぱいに広がる。
その表情を見て、玲実の悪戯心が刺激された。
くるりと体を回す/ロスマンのすぐ横に移動/手を伸ばす/彼女のお腹に触れた。
「どうやらお腹にたまったのは、消化された様だな」
「っ〜〜〜〜!」
触られたロスマンがビクンッと震えた/顔が熟れたトマトの様に紅潮/羞恥の余りに持っているMG34を振る。
玲実はそれを横に移動して避けた。
「後で覚えてなさい」
彼女の恥じらい混じりの悪態に、玲実はただ笑みを浮かべて答える。
悔しそうに息を吐いて、前に向き直る。そんなロスマンの視界へ、黒く浮遊とした物体――ネウロイが現れた。
ロスマン軍曹が無線連絡/敵の発見報告と戦闘許可願い/ガランドが直ぐに許可を出す。
「ネウロイ発見。先に突撃するから、この間と同じようにね」
先程までの感情を一瞬で振り払うロスマン/玲美に軽い指示/自身は速度を上げて突進。
彼も視界の端に映る炎の幻影を納めつつ、先行する白い短髪の背中を追う。だが、はっきり言って、その必要はなかった。
放たれたレーザーは、彼女のシールドに遮られ、撃った銃弾により直ぐに光の塵と消える。現れた5体の中型ネウロイは、ロスマンの手により鎧袖一色同然に倒されてしまったからだ。
光の塵を通り過ぎれば、空にネウロイの姿はなくなっている。それは、僅か一掃射の事だった。
一番驚いておるのは他ならぬ、ロスマン軍曹だろう。目をパチクリ/口が大きく開いている——驚愕の表情。
玲実――彼ですら唖然として、彼女をまじまじと見つめていた。
数瞬後、2人とも身を寄せ合って、先の戦闘の感想を言い合っていた。。
「銃の威力が上がっている?」
「それだけじゃない。シールドの強度も上がっているわ。さっきの攻撃すごく軽く感じたもの」
感覚を確かめる為か、ロスマンは開閉する自身の手を眺めていた。
「残りの魔力量は?」
「それほど減った感じはしてないわね。まだ一戦できそう」
玲実の質問に軽く自信を込めて、彼女は返答した。
丁度その時、ロスマンと玲実の無線から、声が鳴り響く。
「ガランドだ。ロマーニャからの救援要請を請け負った。速やかに、B−52地点へ向かってほしい」
「「了解」」
2人は背中にいるユニットを背負い直す/体の向きを変更/救援に向かって飛んでいく。
人が避難して無人となったヒスパニアの上空を駆ける。数分もすれば目的地へ。
ロスマンと玲実の目に、初めに映ったのは、1人の航空歩兵。灰色で肩にかかる程度の髪/頭から茶毛のヤマネコの耳/褐色の肌/手には爆弾/小柄な体にはロマーニャ空軍の制服=味方のウィッチ=ジョゼッピーナ・チュインニ曹長。周りに敵影は無し。
彼女が地面の方に、体の向きを変えよう――としたその時、突然下から赤い閃光が走った。
悠々とロマーニャ空軍の少女は、ビームを避けた。
それに安堵しつつ、ロスマンと玲実が、ビームが放たれた地面の方へと、視線を動かす。
「ひどいな」
「ええ」
玲実の呟きに、ロスマンが頷く。彼の言う通り、目線の先の状況は悲惨な物だった。
煙渦巻く瓦礫の山/擱座した戦車/炎の帯が辺り一面に広がっていた。
何かが焦げたような臭いが、玲実の鼻に直撃。
ヴィジョンが追いかけてくる。
幻覚/家族が燃える。幻影/爆炎に包まれて(赤い雨)。幻/自分以外の死体の山(燃え盛る炎の臭い)。
昔/過去/前世――忘れるなと言う警告。
「煙の中に何かいるの?」
煙に巻かれた瓦礫跡を見下ろしながら、ロスマンが呟く。その声が、玲実を現実に戻した。
その時、煙をぶち抜いて赤いビームが走った。そのビームは玲実の目の前を駆けていった。
「っネウロイ!」
煙を注視していたロスマンの視界に、中型ネウロイ――真っ黒な扁平の物体/六本の生えたアーム/頭から黒い線。
「うっわ」ロスマンの口から思わず溢れる呻き声。見た目は人より大きい
同じようにその姿を把握した褐色肌のジョゼッピーナが、嫌悪感を丸出しの表情で、
「気持ち悪い。
吐き捨てるように言葉を発する。ローチの様なネウロイに向かって急降下。
「不味い! エディータ!」
「解ってる!」
玲美とロスマンが、ネウロイを攻撃しようとする、ジョゼッピーナの援護の為に飛び出した。
彼等の嫌な予感は当たる。突如ローチ型ネウロイの横から、赤く銃口が生えた。その先は、降下するジョゼッピーナの姿。
「っあ」
急降下中で一切回避行動及び防御できない、彼女の口から発せられるあっけない呟き/目の前に赤い光。思わず目を瞑る=現実逃避。次の瞬間、体に軽い衝撃。
「……あれ?」
痛みが無い事を訝しんだジョゼッピーナが、目を開ける。黒髪の男が、彼女自身を抱きしめて、ネウロイのビームから避難していた。
「大丈夫みたいだな。ロマーニャ娘」
軽くからかう様に、玲実が話しかける。
(助かった? なんで男の人に抱きしめられて? この人空飛んでる? どこかで、見た事がある様な?)
状況の変化についていけずに、ジョゼッピーナは呆然と玲実を見上げていた。同時に、ハツラツとした男の体臭が、彼女の鼻孔を犯そうとする。
「あっ! 初発見のウィザード。赤松玲実特別伍長!?」
「知ってるのか。俺も有名になったものだ」
彼の方は、腕にいる褐色肌の女子から目を離す/ネウロイを見下げた/MG34機関銃を片手で構えて狙い発砲――多数の火花、轟音――ネウロイは無傷。
「硬いか。エディータ」
玲実の要請に、ロスマンはネウロイに銃撃を当てる事で答えた。玲実の性で威力が上がっている、彼女のMG34の銃弾が、敵に直撃/黒い背中にひび割れ。
「撃ち抜けない」
玲実の近くに移動しながらの、ロスマンの面倒そうな呟き。
かさかさかさと更にスピードを上げて、瓦礫の上を動き回るローチ型ネウロイ/砕けた瓦礫が散る。どう見ても台所の現れる、黒い怨敵。
その姿に、さすがに嫌悪感を隠しきれずに、ロスマンは眉をしかめた。
その表情のまま、隣にいる玲実を睨み、
「いつまでそうしてるのかしら?」
ふてくされた様な声を出した。
その声色から、機嫌を察した玲実が腕にいるジョゼッピーナを離し、「何時迄も抱きとめていてごめんな」と頭を下げた。腕に残る少女の淡い髪の残り香を、密かに楽しんでいる。
彼女も顔を赤くさせながら、気にしないでと言う風に両手を横に振っている。
「こちらも助けられたから、おあいこって事で」
「なら、よかった」
「それより、あの硬いネウロイをどうにかしないといけないでしょ」
ロスマンが玲美に対して苦言。
ローチ型ネウロイの硬さでは、銃撃はほぼ無効と言っていい。銃撃は……。
玲美とロスマンが、後方にいるジョゼッピーナに目を向けた。視線を受けて、彼女は爆弾を持ち直しつつ、
「ジョゼッピーナ・チュインニ曹長です。よろしく!」
生粋のロマーニャ人らしく、明るく名前を答える。それを受けて、玲美とロスマンが自身の名前を告げる。
「チュインニ曹長。私達があのネウロイの動きを止めるので、その時に爆撃をお願いします」
ロスマン軍曹の要請/ジョゼッピーナ曹長は快く承諾。
玲美とロスマンが、中型ネウロイに近づく/ジョゼッピーナは上空で、いつでも動ける様に準備。ひたすら動くローチ型ネウロイ=気色悪い=気持ち悪い=狙い難い。MG34の銃弾が当たらない・
何とかネウロイの動きを止めないとならない2人。
「何か持ってない?」
「同じ物(MG34)しか持ってないな」
手に持つ機関銃から銃弾が出るのを尻目に――当たっても火花しか跳ばない――玲実は周りを見渡す。
彼の瞳に一本だけ形の残ったガス灯が映る。地面に刺さった槍の様に、ストレートに建っていた。
≪使えそうだ≫という悪どい笑みが、玲実の顔に浮かび上がる。
「ちょっと行ってくる」一言囁くと、そのままガス灯に向かって滑る様に飛んでいく、
目標の目の前に着くと、機関銃を背負い直す/ガス灯を掴む。そのまま引っこ抜いて、持っていく。
「何持ってきてるの」ロスマンが予想外の持ち物に対して、唖然として呟いた。
「これであいつをぶっさしてやろうかと思ってね」
玲実が彼女の方に向き直る。
「何とか、あいつを追い詰めてくれ」
「……」
「頼むよ」
彼の願いに、白い短髪を揺らしながら大きなため息を吐き、「……わかったわよ」と頷いて動き出す。
目的地=周りに瓦礫の山=移動が制限。ロスマンの威嚇射撃で、追い詰められ棒立ちするしか出来ないローチ型ネウロイに対し、玲実がガス灯を持って真上に移動。外さない様に、降下していく。
彼に気づいたのだろう。ネウロイが又、横腹から銃口が生える。狙われた玲実が、即座に避けれる様に魔力を高めつつ、降下を続けていく。
発射される寸前、
「つっぅ!」
赤い光線は、とっさに横に避けた彼女の脇腹を掠めていく。
「エディータ!」
「大丈夫よ! 掠っただけだから!」
突進していく玲実がぶれないように、ロスマンが痛みを我慢しつつ、大声で自身の状態を告げる。
声を受けて、玲実は振り返らず、ネウロイに向かっていく。そしてガス灯を直上で離す。
ガス灯が自身の重さのまま落ちていき、ネウロイに突き刺さった。
ネウロイの体が、悲鳴をあげるかのように軋んだ音を発する/悲鳴/断末魔。
カサカサ移動しようとしても、深く刺さったガス灯が邪魔になって動けないでいた。それ目掛けて、一人のウィッチが急降下――手に爆弾――ジョゼッピーナ・チュインニがトドメを刺しにやってきた。
「今度こそ! アッディーオ(さようなら)」
見事なまでの急降下爆撃/黒い煙が晴れれば、あとは光の塵のみだった。
戦闘終了後。玲実はすぐさまロスマンの元へ飛んで行った。
「大丈夫か」
「ええ、かすり傷よ」
軽い感じでロスマンは話している/顔色は悪く脂汗がにじみ出ていた/傷口を抑えている場所は真っ赤に彩られている。
彼女の容体と返答を理解した玲実の片眉が上がる。「傷を見せろ」舌先に氷を乗せたかのような口調で言い放った。
彼の様子に、びくりとロスマンが一瞬震える。おずおずと胸あたりまで服を上げた。そのまま飼い主の様子を伺う子狐のように、玲実を見上げた。視線から外れて玲実は、彼女の腹部の傷の顔を近づけた。
そして、「ひぃ、っぁあ!」傷口に舌を触れさせた。その瞬間、舌先と傷が触れ合った箇所が淡く光る――癒えていく。
「エディータ軍曹、玲実伍長終わりまし……あわわ」
ネウロイを始末したジョゼッピーナが、その触れ合いを目撃/目を手で覆い隠す/指の間から丸見え。
「はぁっんん、ちょ、ちょっとチュインニ曹長が見て、っぁ」
「ひりょうこういだ」
「 バカッ。ひぁ、舐めながらぁん。喋らな、いぃでぇ」
顔を紅潮させたロスマンが、玲実の髪を力無く掻き毟る。それでも玲実は、完全に傷が治るまで辞めたりしなかった。
「……マンマミーア(すごい)」
ジョゼッピーナが指の隙間から見守る中、その
漸く記事が癒えた頃に、玲実は傷口から顔を離した。
「傷は治したし、基地に戻ろうか」
「……本当に覚えておきなさい」
悪態と共に、口元を拭いだロスマン。基地の方向へ振り返り、飛んでいく。玲実も、ジョゼッピーナの方へ振り返りる。
「じゃあ、またな」
「は、はい。チャオ(また今度)」
別れの挨拶を交わし、玲実は先に行くウィッチを追いかけて行った。
一人の取り残されたジョゼッピーナ/顔が赤い/瞳が濡れている。
「………っん。帰らないと」
微かな声と共に、唇を舐めた/もじもじと、膝を擦り合わせているのだった。
ユーベルブラッドという本の、主人公が仲間にする傷舐め治療シーンはエロかった。だから書きたかった。ただそれだけの話です。