次の日。手早く拠点からでた三人/幸運にも、ネウロイに会うことなく目的地点にいた。
紐を持っているロスマンが時計を見る。哨戒まで後数分。そろそろ空に上がらないと、 間に合わないかもしれなかった。
「エディータ、時間か?」
隣にいた伶実/女の時計盤を覗きこむ。
「ええ、そろそろね」
若干顔を紅潮させたロスマン/彼の言葉にたいしてうなずいた。
それを見た伶実/かすかな笑みを浮かべる/もう一方の隣にいたアンジェラに視線を送る。
「アンジェラ、時間みたいだ」
「……解った」
彼の言葉にたいして、いささか不機嫌そうに、アンジェラは返答した。
彼女が不機嫌な理由/察知しつつ無視/伶実は一歩前に出た――その顔はやはり愉しそうに笑っていた。
アンジェラが自身の後ろに移動する/彼は乗りやすいように腰を下ろす。
彼女はその背中に抱きつくように乗った。
背中に当たる胸の柔らかさを楽しみつつ、伶実は彼女を支えながら立ち上がる
(おおきい)
骨組みのがっちりした背中/引き締まった筋肉/黒板のように広い背中=男らしさ。それを感じて/昨日の事を思い出して――アンジェラの体温が上がっていた。彼女の心拍数が上がる/感じたことのない痺れるような快感/初めてのことに対する困惑――静めるために抱きつく腕の力を強めた。
「エディータ、頼む」
隣で紐を準備していたロスマンに声をかけた。彼女は首を縦に降り、訓練を思い出しながら、アンジェラと伶実を紐で固定していく。
「これで大丈夫」
ロスマンの力強い断言を受けて、伶実がアンジェラを支える手を離した。
がちがちに固まった紐が、アンジェラをしっかりと支えている。
伶実が目線を後ろにやり、背中に乗るアンジェラに声をかけた。
「どうかな」
「こちらに対する負担は一切ない」
赤い顔の熱を振り払うように、アンジェラが首を横に降る。
彼女の言葉を聞いて、伶実が笑みを浮かべて頷く。
視線を前に戻すと、「エディータ」とロスマンを呼びつけた。
ロスマンが彼の言葉に答える/目の前まで動いた。
伶実は彼女を優しく横抱きにする。
彼の腕に身を預けながらも、自身の体を紐で固定していく。意図的にか無意識にか、かなりきつく縛っている。その為彼女自身が伶実の胸に抱きつく様になっていた。
筋ばった厚い胸板/タイヤのように固くしまった筋肉/力強さを感じる太い腕=雄のたくましさ。
女性では感じられない物も感じて、ロスマンの体に甘い疼きが走る。吐く息が熱を持ち、心臓の鼓動が早まる。
偶然にもアンジェラとロスマンは、頭を冷やそうとして、同時に深く呼吸する=男の体臭/雄のフェルモン――二人の体内に侵略。身体中に、甘美な痺れが走る。
双方ともに、口を固く閉じ、嬌声が流れないようにした。
伶実は後々の
「飛ぶぞ」
彼の声かけに、アンジェラとロスマンはただ頷いた。彼女達の肯定を受けて、伶実に猫科の耳と尻尾が生える。荷物になるものはすべて置いていくようだ。
足元に小さな扶桑式の魔方陣が現れて、彼等の体が浮遊していく。そのスピードは遅く、風船が浮いていくようだった。
この状態でネウロイに襲われたら、確実に皆殺しになるだろう。だからこそ、三人とも回りを目を皿のようにして、見渡している。
数分かけて上空10,000mまで上がり、哨戒の時間まで待機。
しかし、予定時刻になっても、哨戒の部隊は現れなかった。さらに数分待つが、まだ姿形もない。
「カールスラント人は時間厳守が特色だったはずだが?」
「予定はあくまでも予定よ」アンジェラの皮肉げな言い回しに、ロスマンは余裕をもって答える。
「扶桑の列車だったら、車長がケジメとして指を落とされる案件だ」
「なんだ、それは!」
「扶桑怖いわね!」
伶実の真面目な顔から出た意見に、二人の少女の顔が青くなる。
「冗談、冗談だとも」
伶実は笑みを浮かべながら、真相をあかした。
「そ、そうよね。いくら扶桑でもそこまで厳しくないわよね」
ロスマンは安堵のため息を吐いた。アンジェラも、彼の後ろで、ほっと息を吐いている。
伶実のウィットに富んだジョークで、彼女達の力みも程よく抜けたようだ。
その後も警戒を解くことなく、くっつきながら飛び続けていく。
数分後、アンジェラの瞳が何らかの影を捉えた。
「あっちの方向から来ている!」
影の方向を指差す/ロスマンと伶実の視線が動く――二人の目に映る。
伶実はすぐに動けるように魔法に意識を向けた。
ロスマンとアンジェラが、しっかりと見やる。
緊張/期待と不安――三人の心臓が高鳴る。
段々と大きくなる影/目を凝らしてみている二人――人の形をしている。
「ウィッチだ! 哨戒が来たぞ」
アンジェラが声を上げて喜ぶ/助けが来た。
ロスマンも顔がほころんでいる/手が動かせるため、大きく横に振る。
彼女達も怜美達に気付いたようだ。飛んでいるスピードを上げて近づいてくる。
直ぐに哨戒のウィッチ達の姿がくっきりと見え出す。
片方は腰まで届く黒いロングヘアー/白い猫耳に長い尻尾/厚いジャケットに長ズボン――この世界には珍しいかなりの厚着。
そのパートナーは白髪のレイザーカット/トレンチコートをだらしなく着ている/茶色い犬耳に尻尾。
彼女達の後ろをカメラを構えたウィッチが追随している。
「ロスマン軍曹だ。無事のようだな」
「しかし、隊長。あれは誰が支えて浮いているのでしょう?」
嬉しそうな厚着の少女に、トレンチコートを着た部下が疑問を投げ掛けた。
彼女の言葉を聞いた三人が、怜美達を訝し気に見ていた。
伶実達がユニットも無しにどうして浮いているのか、わからないからだろう。
観察力のある従軍記者のウィッチが、伶実の足元にある魔方陣を見つけた。
「もしかして!」
カメラでしっかりと三人を撮影/男が空を飛んでいる――世界初である男の魔女の発見に興奮。
「ガランド中尉!ボニン少尉!男です!男が魔方陣で空を飛んでいます!」
大声で報告/伶実の足元を指差す。
「なんだって」「なんだと」
二人同時に指の先へ視線を動かす。伶実の足先から扶桑式の魔方陣が出現しているのを発見。
ガランド中尉と呼ばれた厚着の少女は、足先の魔方陣と伶実の精悍な面を何度も往復。部下のボニン少尉は、驚きのあまり目を白黒させていた。
その間に、伶実達の前まで移動した。記者は何度も引っ付いている三人の姿を写真に撮っている。
「ガランド中尉。ボニン少尉。こんな格好で申し訳ありません」ロスマン軍曹が、お姫様抱っこのまま上官である二人に頭を下げた。
「いや、無事でよかった」
部下が健在であったことにガランド中尉の顔に喜色が現れる。だが、隣のボニン少尉は伶実の顔に視線を合わせていた。記者もボニンも中尉をたててただ黙っている。
ガランド中尉も好奇心を抑えきれない様子で、伶実の顔に視線を移す。
「それで、君は?」
「どうも、レミ=アカマツだ。後ろの彼女は」
顎で後ろを示す。
アンジェラが幾分緊張した面持ちで口を開いた。
「アンジェラ・ララサーバルです」
二人の自己紹介のあと、
「二人共に避難先までの保護を願い出てます」
とロスマンが説明した。
ガランドは伶実から視線をはずさずに、
「それは良いのだが……」
と淀んだ答えを返した。
何を聞きたいのか察した伶実が、口を開ける。
「彼女達を支えてるのは、俺の固有魔法だ」
自身が魔法を使えることを告白した。
一度ガランドがボニンへ目線を会わせる。
ボニンは少々後ろに下がる。どこかへ報告しているようで、ぼそぼそと小声でしゃべりだす。
前に出たガランドが、伶実へ話しかけた。
「部下を助けてくれたようだね。礼を言うよ」
彼女の礼に対して、伶実は軽く頭を下げることで答える。
そして申し訳なさそうに、口を開いた。
「申し訳ないが、できるだけ早めに避難できないか?浮遊するための魔力が少なくなってきているんだ」
自身の魔力事情/嘘――申し出る。
一瞬ガランドは困った様に顔を掻く。後ろにいるボニンへ視線で問う。
その視線を受けたボニンは、黙って頷いた。
伶実に顔を向け直したガランドは、「解った。今直ぐ移動しよう」と言い、先導していく。
守るように彼等の横に移動したボニンが、「我々カールスラント軍が安全な場所まで保護しよう」と申し出るのだった。
この小説は、男と女じゃなくて雄と雌という風に書いてます。
その為、ある程度の差別的な表現があるかもしれません。気に障ったら申し訳ありません。