カールスラント派遣軍=コンドル軍団――駐屯地の一室。
ガランド中尉/ボニン少尉/ロスマン軍曹――彼女達に敬礼していた。
「レミ・アカマツ特務伍長です。よろしくお願い致します」
三人共、伶実に向かって返礼する。
「第88飛行隊へようこそ。我々は君を歓迎する」
形式的な挨拶を終えて、彼等は敬礼を解く。
「こんな感じでいいか」
部屋の中の緊張した雰囲気が弛緩した。
任官の儀式が終わり、伶実は体の緊張を解く。
「しかし」
一言呟くと、体ごと後ろに振り替える。彼の視線の先には、わずかに開いた扉。
隙間に向かって手を振る。
ドアの向こうに居た多数の気配が、遠ざかるのを確認して、伶実は三人のウィッチに向き直った。
「中々楽しそうな部隊だな」
「そう言って貰えると嬉しいわね」
彼からの称賛を聞きながらも、ロスマンは悩まし気なため息を吐く。
どこか愉快そうな伶実へ忠告する為に、ボニンが口を開く。
「解っていると思うが、ウィッチ達に」
「同意もなしに手を出したりしないさ。まして、シールドが張れ無くなる事までの事は絶対にな」
彼の真剣な面持ちでの返答に、ボニン少尉は解っているならいい、と黙って一歩下がった。他の二人もほっと安堵した様な顔つきである。しかし伶実は、真面目な表情の裏側で、どす黒い欲望を宥めていた。
同意なく、そしてシールドを張れなくなるまでの事。つまりそれは同意さえあれば、シールドが張れなくなる事以外の事はする、と言うことに他ならないのだ。
(まぁ、彼女たちの上層部も俺の固有魔法の事を調べたいだろうし)
伶実は怜悧な思考と共に、横目でロスマンを盗み見た。
(楔はすでに打ち込んでいる。それで俺の
体内をも焼こうとする情事の炎を抑えつつ、彼は下ごしらえを考えていく。
「特務伍長(イレギュラー)とは、上層部も中々考えてるな」
「皮肉ったとも受け取れるが」
ガランドの笑みを浮かべなら放つ言葉に、伶実も皮肉気に口の端をつり上げた。特別=異物/ウィザード=イレギュラー――アイロニカルな任官名。
彼も苦笑いを隠せないようだ。
「ここでの詳しい話はロスマンに聞いてくれ」
下がってよしという台詞で、ガランドが締めくくる。
伶実も敬礼をして、部屋から出ていく。彼を追うようにロスマンも去っていった。
二人が居なくなった部屋の中=ガランドは疲れたように、椅子の背もたれへ体を預けた。
「ロスマンなら上手くやってくれるだろう」
「ですな」
肯定の言葉と共に、ボニンは頷く。
護衛/監視――ロスマンなら、共に上手にこなせると判断されたのだ。楔が打たれていることも知らずに。
実際問題、伶実がウィッチの処女を破りシールドを張れなくさせたとして、罰せられるかという疑問が二人にあった。上層部はそれを望んでいる節があったのだ。
だからといって自分達の部下を生け贄当然に差し出すほど、彼女達は冷酷になれない。
ウィッチ達も年頃の少女達。しかも生命の危機を感じる戦争中。同姓同士で破らない程度の
そんな中に、男のウィッチ。しかも、もしかしたらセックスをしても大丈夫かもしれない男。それを放り込むのだ。
「問題起きるかな?」
「起きるでしょうね」
此れから起きるであろう事を思い、ガランドとボニンは同時に、大きな息を吐いたのだった。
ロスマンに基地を案内されている伶実。
「こっちが格納庫。貴方の装備もすぐに来るそうよ」
現在格納庫。ちょうどユニットのエンジンを吹かしているウィッチがいた。
小柄ながらもガッチリとした体/熊の耳に尻尾/腰にテディベア/階級は軍曹――伶実をチラチラと盗み見ていた。
彼女に向かって伶実が、手をヒラヒラと軽く降った。軍曹は直ぐ前に視線を向けて、赤くなった顔を誤魔化す。
「ちょっかい出してないで次行くわよ」
「了解」
急かすロスマンに対して、彼は素直に着いていく。
格納庫から出て次に向かう間も、至る所から突き刺さる目線。。
物珍しい/好奇/猜疑――様々な感情の視線が、伶実の体に注がれる。
それを楽しみながら伶実は、目の前のロスマンに声をかける。
「俺の事はすでに?」
「ええ、皆に伝えてあるわ」
ロスマンは、質問の答えを隠すことなく伝えた。
彼にウィッチ達の興味が、集中するわけである。すでに世界初の
「まぁ」一拍置いて伶実は言葉を続ける「仕方ないか」
どこか疲れたかのようなため息が続いた/演技=実際は、楽しんでいる。
彼の様子を察したロスマンが、どこか申し訳なさそうに口を開いた/騙されている。
「数日もすれば収まるから」
「本当に?」
伶実の訝し気な目線から、外れるようにロスマンは顔を背けた。
内心で彼女の反応に、愉悦を感じている=表面上は、少々不満そうに、歩いていく。
ロスマンも、困ったような表情で、歩み続ける。彼女の瞳に、食堂の文字が映る。
「ほら」ロスマン軍曹が、看板に指を指して、言葉を綴る。「あそこが食堂。そろそろお昼時だし、何か食べましょう」
「そうだな」
話題の転換に伶実も乗り、指差す先へ目線を移す。
食堂へ歩みを進めて二人は中に入る。
席もそれほど混雑して折らず、直ぐに食事もできそうだった。
トレイの先/茹でたジャガイモ/湯気だつソーセージ/ザワークラフト/ライ麦パン/野菜のスープ――伶実の面持ちが僅かに歪む。
(またかよ)
さすがの彼もソーセージとジャガイモ料理が続くのは飽きて始めていた。
伶実は、料理を乗せたトレイを机まで運ぶ/度々目線を送られるのを感じていた。
ロスマンと彼は向かい合って座った。
「ソーセージとジャガイモ以外の食事はないのか?」
「今日のヴルストも、種類が違うでしょ?」
首をかしげた彼女は、伶実が何を不満に思っているのか、理解できないようだ。
(ヴルスト?ウィンナーはウィンナーだろうに)
今日は白い/昨日は骨付き/一昨日は赤い――どれも彼にとってはソーセージ。
此ばっかりは伶実が我慢するしかない。彼が口出し出来ることではないからだ。
大きなため息と共に彼は食事を始めるのだった。
昼食後=移動――外の運動場。
ロスマンの隣を歩む伶実の瞳に、三人のウィッチが談笑しているのが映る。
ガランド中尉/ボニン少尉/最後の一人は、格納庫でユニットを回していたウィッチ=腰にテディベア。
伶実がテディベアのウィッチと目が合う。
彼女は慌てたようにどこかへ走り去る/顔が僅かに紅潮していた。
「人の事、熊かなにかと勘違いしてないか?」
さすがの伶実も気分を害したのか、拗ねたように口を尖らせていた。
「あら、隙あればかじらないの?」
何も知らずに、かじられかけている当人が、揶揄するような口調で目を細めて睨む。
「狼に近づいた方が悪いのさ」
肩を竦めて、揶揄と非難交じりの視線を躱す。
雑談混じりに二人が歩んでいけば、直ぐにガランド達の元に辿り着いた。到着の報告を受けた、ガランド中尉が口を開く。
「それでは訓練を始める」
軍隊式の訓練が始まった。
特務伍長とはいえ、もとは民間人だ。どれだけ動けるか把握する必要があった。
運動場の周回/腕立てと腹筋/ユニットの操作――何よりも銃の訓練だ。
ストライカーユニットに乗りながら、目標に弾を当てる。一番初歩的な訓練だった。
一応伶実が扶桑で射撃大会で優勝していたのは、ガランド達も話に聞いていた。だからといって、最初から使えるとは思っていない。撃ち方を教えなければいけない、とすら考えていたのだ。
たから伶実が、渡されたMG34をしっかりと構えたのには、彼女達も内心で驚いていた。それを表に出さずに、ボニン少尉が彼に指示を出す。
「セミオートであの的に当ててみせろ」
「了解」
示された小皿のような的を、伶実が狙って撃った/まるで思い出すかのようにしっかり構えていた。
弾はしっかりと的を砕く。
伶実の鼻に硝煙の臭いが漂う。
黙り混むガランド達をよそに、彼は大きく鼻で息を吸う/炎の幻影が瞳にチラチラ映る。
幻覚/家族が燃える。幻影/その先の遥かな過去へ。幻/前世の知り合いすら炎の中。
昔/過去/前世――記憶に身を委ねそうになる伶実。
「レミ伍長!」
彼の耳に、ボニン少尉の鋭い声が突き刺さる。
声がした方向へ、伶実が顔を向ける。
興味深く見つめるガランド中尉/怒り顔のボニン少尉/ロスマン軍曹は気遣わしげな表情――皆、彼を注視している。
「ぼんやりしているんじゃない。訓練の最中だぞ」
過去へ向けていた意識を現在に戻して、伶実が軽く頭を下げ謝罪した。
「申し訳ありません。少尉」
気を引き閉め直し、次の訓練に向かおうとした。その時、
「ネウロイ接近中。総員直ちに緊急出撃」
警報/出撃命令。
伶実の軍での初出撃が始まるのだった。
ブレイブウィッチーズ楽しすぎます。
ロスマン先生が動いている/話している。これだけでも嬉しい。
軍内ではやっぱり結構厳しめなんだな。