十二月二十四日。
世間でいうクリスマスイヴである。
恋人のいる者はこの夜愛を深めるために励み、子供はサンタクロースからのプレゼントに胸を躍らせながら眠りにつくだろう。リア充爆発しろ。
さて、このIS学園でも当然クリスマスイヴはやってくる。
皆それぞれ親しい友人と集まって飲んだり食ったりして騒いでいる。
「……暇だな」
しかしクロウ・ミキストリは部屋で一人、することもなく暇を持て余していた。
それはもう一人の男子生徒である織斑 一夏も同じくである。
クロウはともかく、イケメンの一夏なら女子生徒に引っ張りだこのはずだ。
それにクロウも一部からは人気がある。
では何故部屋に一人でいるのか。
「……千冬め、覚えておけ」
そう、IS学園教師、織斑 千冬の命令だった。
彼らがパーティーに参加すると、彼ら二人を巡って女子生徒たちは必ず争う。
そうすると学園の備品が破壊される恐れがあるので、今日と明日は部屋で過ごさなければならなくなったのだ。
「……寝るか」
本来ならお気に入りの女性と過ごそうと思っていたのだが、それもできないのなら起きていても仕方がない。
クロウは明日は何とかして脱出しようと考えながら、目を瞑ったのだった。
◆
「……む」
コンコンコンと扉をノックされた音で目を覚ます。
チラリと時計を見ると、今は午前二時だった。
自室まで届いていた生徒たちのはしゃぐ声も静かになっている。
こんな時間に誰が来たのだろうか?
そんな疑問を浮かべながらクロウは扉を開けた。
「メ、メリークリスマス!」
「ですわ!」
扉を開けたと同時に目に入るのは、可愛らしいサンタクロース二人だった。
「……どうした?シャルロット、セシリア」
サンタクロースに扮していたのは、クロウのお気に入り女性のシャルロット・デュノアとセシリア・オルコットだった。
二人とも肩から胸元を露出させたサンタ服を着用している。
そのサンタ服はスカートも一緒になっていて、丈もかなり短いので染み一つない二人の太ももを魅せつけてくる。
シャルロットの専用機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの待機状態である十字型ネックレスが、胸の谷間に挟まっている。
後ろで金髪を一つに束ねている布も、サンタに合わせてか赤色だ。
セシリアも同じサンタ服で、シャルロットより少し深い谷間を魅せつけてくる。
蒼いヘアバンドも、今は赤色だ。
そして二人とも赤色の二―ハイソックスを履いていて、絶対領域を作りだしている。
シャルロットは少し恥ずかしげに、セシリアは満面の笑みでクロウにクリスマスを祝った。
「―――似合っているぞ、二人とも」
何故こんな時間に来たのかと問いかけたかったが、まずクロウは二人を褒めた。
流石は美女美少女ばかりを侍らせている男だ。女心を理解している。
「そ、そうかな?えへへ、ありがとう」
「ふふ、少し恥ずかしいですわね」
クロウの褒め言葉に、シャルロットはにへらとだらしない笑みを作り、セシリアは頬を少し赤らめながらも嬉しそうに微笑んだ。
「まあ部屋に入れ」
クロウはそう言って二人を部屋の中へと誘った。
廊下に暖房はついておらず、あんな薄着では寒かっただろう。
そう考えた結果の行動だった。
いや、けしてやましい思いを持っていたわけではない。けして。
「で、どうしたんだ?その恰好は」
クロウがそう尋ねると、二人は話し始めた。
「せっかくのクリスマスイヴですのに、クロウさんと過ごせないのが納得できなかったんですの」
「だから僕たちは皆が寝静まったこの時間に、クロウに逢いにきたんだ」
ちなみにこのクロウの部屋に行くことで、鈴やラウラと激しくもめたのは秘密である。
皆クロウの部屋に行きたかったのだが、大勢で行き過ぎると超人・織斑 千冬に見つかってしまう可能性があったので断念せざるを得なかった。
「あとね、プレゼントもあるんだ」
ごそごそとしてシャルロットが取り出したのは、小さな箱だった。
シャルロットが開けてほしそうにもじもじと見ていたので、箱を開けてみる。
「ほう……指輪か」
中に入っていたのは一つの指輪だった。
勿論結婚指輪のような大層なものではなく、カップルが買うような二つで一つの指輪だった。
「僕のとお揃いなんだ。その……嫌だったかな?」
人差し指にはめた銀の指輪を見せるシャルロット。
その顔は不安そうで、うっすらと目に涙が溜まってさえいた。
「いや、嬉しいぞ」
クロウは指輪を取り出し、人差し指にはめる。
大きな指をしているクロウだが、指輪は入らないなんてことなくすっぽりと入った。
クロウのことなら何でも知っていそうなシャルロットは、指の大きさもしっかりと把握していた。
「ありがとう、シャルロット」
「……えへへ」
頭を優しく撫でると、幸せそうに笑った。
幸せを与えるサンタクロースだが、今は幸せを受け取っていた。
「そうだな、お返しもしないといけないな」
クロウはそう言って立ち上がると、ベッドの方へ向かって行った。
どうしたのかとシャルロットが首を傾げていると、クロウは何か大きなものを抱えながら戻ってきた。
「どうしたの?それ」
「私からお前へのプレゼントだ。受け取ってほしい」
大きな箱を地面に置き、それをプレゼントだと言う。
それを受けてシャルロットは嬉しそうに破顔した。
「これ僕の!?ね、ねえ、開けてもいい!?」
「勿論だ」
シャルロットはクロウの許可を得てわーいと箱を開封しはじめる。
そして箱を開けた時に出てきたのは、大きな大きな熊のぬいぐるみだった。
「わー!熊だぁ!」
ぬいぐるみにギュッと抱き着いて喜びを表すシャルロット。
外面は無表情だが、心の中では喜んでもらえるか意外と心配していたクロウは、彼女の喜びように安堵する。
乙女趣味の強いシャルロットにぬいぐるみを上げたのは正解だったようだ。
「ありがと、クロウ」
シャルロットの心からの笑顔に、クロウは少し胸を高鳴らせる。
無論、顔に出すことはないが。
クロウとシャルロットは暖かい雰囲気に包まれる。
しかしここにはそれに納得できない者もいた。
「んんっ!クロウさん?わたくしもプレゼントを持ってきましたの」
わざとらしく咳をして注意を引き、少し引きつった笑顔を浮かべるセシリア。
そんな笑顔でも絵になっている。
良い雰囲気を破壊されたシャルロットは、少し不満そうだ。
「(むぅ……もう少しあの雰囲気のままでもいいじゃないか)」
「(わたくしが空気とかありえませんわ!)」
目だけで会話する二人。
二人の仲がいいからこそできる芸当である。
「クロウさん、わたくしのプレゼントも受け取ってください」
そう言ってセシリアは紙に包まれたものをクロウに差し出す。
セシリアに了承を得て、クロウはその包みをはがした。
「これは……財布だな」
出てきたのは、黒い革の財布だった。
「ええ、クロウさんは財布を持ち合わせていらっしゃらないので……」
「そうか、これはありがたいな。大切に使わせてもらおう」
「はいっ」
セシリアはにっこりと笑う。
彼女の笑顔は、この瞬間世界の誰よりも美しいといえるものだった。
「ではお返しだな」
そう言うとクロウは机の引き出しを開けて、何かを取り出す。
彼が歩いてくるのを、セシリアはワクワクしながら大人しく待っていた。
まるで忠犬である。
そんなセシリアに、クロウはクリスマスプレゼントを渡した。
「これは……チケットですの?」
クロウのクリスマスプレゼントは、オーケストラの鑑賞券だった。
「うむ、その日に一緒に行けたらと思ってな」
簡単に言えば、デートのお誘いである。
プレゼントでこれはどうかと思うが、セシリアからすれば嬉しいプレゼントに変わりなかった。
なにせ自分と同じ位魅力的な女性が常に侍っているクロウと、二人きりでデートできるのだ。
まさに天にも昇るほど幸せだった。
「ありがとうございます!わたくし、目いっぱいおしゃれしますわ!」
セシリアがおしゃれすると、とてつもなく可愛らしくなるに違いない。
彼女自身のセンスもいいし、もし酷い場合は彼女のメイドであるチェルシーが止めてくれるだろう。
「え~、セシリアいいな~。ねえクロウ、僕も二人きりでデートがしたいな?」
「ちょっとシャルロットさん!?」
クロウの目の前でギャアギャアと騒ぎ立てるサンタクロース2人。
賑やかなクリスマスも悪くないと思いながら、彼女たちを優しく見つめるクロウであった。
◆
なお、クリスマスプレゼントをもらったことを直接聞いた鈴とラウラ。
更識家の情報網を使ったのか、それを知った楯無と簪。
幸せそうにしていたシャルロットとセシリアからじんも…して聞き出した千冬と、それを千冬に聞いた真耶。
何故か知っていた束が、次々にクロウの部屋にサンタのコスプレをしてやってきたのは余談である。
もう一つ余談だが、セシリアとシャルロットそれぞれのデートは、実にうまくいった。
シャルロットとのデートの際、指輪が左手薬指にはめられていたりした。
じんぐるべー……じんぐるべー……。
……くそがっ!イチャついてんの見せつけんじゃねえよ!!