「うわ~、また襲撃~?」
上空から飛来したビームが切っ掛けとなり、侵入した所属不明のISと戦闘が起こっているレース会場。
観客たちは予定にない戦闘に悲鳴を上げ、我先にと逃げはじめる。
そんな中いつものほほんとしている少女は、こんなときでものんびりとしていた。
「え~と、いちおー見た限り侵入者は一人~。……一人で何しに来たんだろ~?」
ほへ~と笑いながら、布仏 本音は状況の分析をする。
世界でも屈指の戦闘力を誇るIS学園第一学年専用機持ちたちに一人で奮闘している敵ISだが、どうにも目的が分からない。
もしかしたら何かの陽動だろうか?
いや、それともここで専用機持ちの誰かを戦闘不能にして、誘拐することが目的だろうか?
「……あ~、やめやめ~。こういう頭を働かせるのは私じゃなくてお姉ちゃんの仕事だよ~」
面倒事は姉に押し付ける要領の良い妹。
逆に姉は真面目すぎる性格なので、巧く避けることができずに不憫な目に合っている。
まあ姉の虚は考えることが別に嫌いではなく、むしろ好きな方なので問題はないのだが……。
「ん~……やっぱりあれの他にも敵が侵入しているよね~」
いくらなんでもあのISが単騎駆けしてきたわけではないだろう。
捨て駒にするには惜しい人材だし、まず理由がない。
とすると、どこかに仲間がいるはずなのだが……。
「まあそれは私の仕事じゃないよね~。見つけても捕まえられないし~」
えへへ~と笑う本音。
確かに彼女はISの整備が担当であり、それで主である簪を支えているのだ。
とは言っても彼女は代々更識家に仕えてきた布仏家の人間。
身代わりになれるくらいの必要最低限の武術訓練を受けているはずなのだが、彼女が本気で戦っているところを誰も見たことがない。
「がんばれ~、クー!」
のんきに応援している彼女の実力は、まだ誰も知らない。
◆
最初に異変に気付いたのはラウラだった。
キャノンボール・ファスト仕様にしていたため広範囲にわたる索敵は行っていなかったのだが、彼女がそれに気づいたのは軍人ゆえの勘なのか……。
とにかく異変に気付いた彼女はすぐに行動した。
「全員!避けろっ!!」
そう言いながらラウラは自身に迫りくるビームを発見する。
今まで訓練されたことが身についていた彼女は、見事ビームを避けることに成功する。
「うわっ!?」
ラウラの言葉に真っ先に反応できたのは、彼女とよく行動を共にするシャルロットだった。
シャルロットは攻撃を見るよりも先にラウラの言葉を信じ、『
そしてシャルロットに迫っていたビームは、そのシールドに受け止められた。
「もうっ!一体何なのよ!?」
鈴は悪態をつきながらもラウラの言葉を信じた。
しかし高速で移動していた彼女は、ラウラのように技術で避けることもできず、シャルロットのように防御パッケージを持っているわけでもない。
だから彼女は衝撃砲を後ろに発射し、その反動でほんの少しだけ加速した。
そんな小さな行為でもビームを避けることに成功した。
「警備は一体何をしているんですの!?」
セシリアは最後の勝負時のためにとっておいたエネルギーを使い、急加速してそれを避ける。
キャノンボール・ファスト用にビットを全て封印し、スラスターとして使っていたからこそできた加速だった。
「はぁぁっ!」
箒は空裂を振るい、エネルギーの斬撃を出してビームを撃墜した。
流石束がつくった武装なだけあって、かなり使い勝手のいい武器となっている。
そして最後のビームは、勿論クロウを狙っていた。
ラウラの忠告に気づいたクロウだが、いつものように武器を掃射して迎撃することはできない。
あれは少しだがタイムラグがあり、今みたいに切羽詰った状況では不利になるのだ。
だからクロウは仕方なく―――――
「ふんっ」
裏拳で迎撃した。
本来なら迎撃した方が大ダメージを受けるはずなのだが、ビームが霧散して、クロウには大したダメージは通っていなかった。
いくらISを装備しているとはいえ、エムが使った武器も対ISのことを考えて作られているのに、拳でビームを消し飛ばすというのは異常である。
「な、なんなんだ一体!?」
唯一攻撃を受けなかった一夏が言う。
いきなり上空から攻撃を受けるという異常事態に、代表候補生たちはすぐにレースを止めて索敵を行う。
そして自分たちの上空に、一機の国籍不明機がいることを知る。
「貴様……あの時の……」
「…………」
ラウラは襲撃者を見て目を細める。
以前自分とセシリアから逃げおおせ、さらに今レースを邪魔した敵。
今回のレースにクロウとの賭けがあったラウラは、氷の如き冷たい目でエムを睨む。
エムは何も言わないが、内心冷や汗ダラダラである。
あの奇襲で全員とは言わないものの、何人かにダメージを与えるつもりだったのだが、全員無傷で自分を睨みつけてくる。
特にあのマッチョ男はなんだ。やけにキラキラした目で見つめてくるぞ。
「うーん……織斑先生に判断を仰ぎたいのですが……」
「こっちは攻撃されているんだし、自衛戦闘で話が通るでしょ。というかやられっぱなしは腹が立つし」
セシリアはいわば上司である千冬の指示に従おうと言うが、鈴は攻撃することを意見する。
彼女たちの性格の差がはっきりと表れたときだった。
「織斑先生と通信が取れないなら、今はラウラに従おうよ」
シャルロットはそう言ってラウラを見る。
彼女はこの中で最もIS戦闘を経験しており、特殊部隊の隊長をしていることからも自分たちを巧く使ってくれることを理解していた。
指名されたラウラは、自分の考えを言う。
「ふむ……教官と通信できないのなら仕方がない。あの襲撃者をボコって捕まえるぞ」
『らじゃー』
「い、いいのか……?」
ラウラの辛辣な指示に、嬉々として応じる専用機持ちたち。
とくに全員負けず嫌いな性格なので、大小あれどいきなり奇襲されたことに関しては憤りを感じていた。
そんな中一夏だけが、明確な敵にも関わらずエムの心配をするのであった。
ちなみにクロウはすでにやる気満々である。
「ではわたくしから!」
「あたしもよ!」
二人して銃口と砲口をエムに向け、ぶっ放す。
スターライトmkIIIの銃口から発射された巨大な蒼いビームがエムを狙う。
それに少し遅れて龍咆の見えない衝撃砲が疾駆する。
「……ふん」
エムはそれらの攻撃を一笑すると、セシリアのビームを身体を反らせて避ける。
続いて襲い来る衝撃砲には、前方にシールド・ビットを展開して防ぐ。
少々衝撃が身体を襲うが、大したダメージもなく防ぐことに成功する。
「あー、やっぱり今の威力じゃあ通用しないわね」
鈴は分かっていたことのように苦笑する。
今の『
なので衝撃砲の威力は格段に落ちて、近距離の相手にしか効果が期待できないのだ。
「ふふ、わたくしの攻撃はまだ終わっていませんわよ?」
全ての攻撃を避けて自分を見下してくるエムに向かって、優雅に、かつ不敵な笑みを見せるセシリア。
それを訝しげに見つめるエムだったが、すぐに理由が判明した。
一度避けたビームが再び自分に向かって襲い掛かってきたのだ。
「なっ……『
エムはその技術に見覚えがあった。
何故ならそれは自身も使える技能だからだ。
しかしセシリアが『
「ちっ!」
だがエムのIS操縦技術は非常に高い。
再び背後から迫ってきていたビームを避けることに成功する。
しかし安心したのも束の間、また屈折して襲い掛かってくる。
「舐めるなっ!」
エムは自身の主要武装である大型ライフルを呼び出す。
『
エムはそれから太いビームを発射し、向かってきていたセシリアのビームと相殺させた。
大きな爆発が起き、煙が辺りを覆って視界が悪くなる。
しかしハイパーセンサーなどの機能が搭載されているISに視界不良など問題にならない。
そう、例えばセンサーが知覚しても身体が動かせないほどの速度で攻撃されない限りは……。
「な、なにっ……!?」
超高速で飛来した剣がエムを襲う。
急な攻撃で避けられなかった彼女のISのシールドエネルギーをごっそりと奪って行った。
エムは混乱する中、自身を攻撃した者を見つけ出す。
クロウ・ミキストリ。
彼が背後の空間を歪ませて発射した武器が、自分に命中したのだろう。
「くそ……っ!」
◆
「ま、まさかあのエムがここまで追い詰められるなんてね……」
突然に戦闘で人々がいなくなった観客席で、ある女性は驚きの感情を抑えることができなかった。
彼女の名前はスコール・ミューゼルと言い、エムと同じく『
実働部隊のリーダー的役割を担っており、『
普段冷静沈着で、常に人の上に立つような女だが、今は珍しく焦りを覚えていた。
「ここまで代表候補生たちが強かったなんてね……」
スコールとしてはエムが専用機持ちたちの面々を圧倒し、『
今回の襲撃に当たって要注意人物をまとめておいたのだが、代表候補生たちはそこには入っていなかった。
入っているのはIS学園最強の生徒、更識 楯無と、前線を退いてなお最強と謳われる織斑 千冬である。
「……これ以上戦闘を続けさせてもエムが堕とされてしまう可能性の方が高いわね」
スコールはそう判断し、通信を使ってエムに撤退命令を下そうとする。
しかしその時、目の前が何かに遮られ、急に真っ暗になる。
「っ!?」
目を覆っている物体からはほんのりと暖かさが感じられ、それが人間の手であることを伝える。
スコールは慌てて手を振り払い、その場所から距離を取る。
「きゃんっ!もう……ちょっと悪戯しただけじゃない」
「……更識 楯無」
スコールの目を覆っていたのは楯無だった。
目をパチクリとさせた後、楽しそうにクスクスと笑う。
ひろげられた扇子には、『悪戯成功』と書かれてあり、スコールを苛立たせる。
「いつの間に私の後ろに立ったのかしら?」
「そんなのついさっきよ?たまたま『
「次からは普通の挨拶で構わないわよ」
冷静にふるまって見せるスコールだが、心の中では大いに慌てていた。
彼女はかなりの実力者で、ISを使用していなくても屈強な軍人を楽に倒せるほどの格闘能力を持っている。
気配察知なんて漫画のようなこともできるのだが、楯無はまったくそれに気づかせることなく間合いに入られたのだ。
もし楯無が殺すつもりだったのなら、スコールはすでにこの世から去っているだろう。
「ところであの襲撃者の子。少しかわいそうじゃないかしら?あんなに代表候補生たちが集まっているところに一人で攻撃させるなんて……」
私でも負けるわよと付け加える楯無。
もうエムは次から次へと飛来してくる攻撃をいなすのに必死である。
傍から見ればイジメ……さらに悪く見ればリンチにしか見えない。
それも専用機持ちたちが一夏と箒を除いて嬉々として攻撃しているものだから、二人が少し止めようかと考え始めてさえいる。
「ふふ、私の計画通りよ」
「何が?」
嘘をついて強がるスコールに、楯無は冷たく返す。
もっとしっかりと調べておけばよかったと思っているのは内緒である。
「で、更識 楯無さんは私を捕まえにきたのかしら?」
「ええ、そうよ。面倒だし、大人しくしてね?」
にっこりと可愛らしい笑みを浮かべる楯無に反して、スコールの顔は強張る。
自分の背後を容易くとる彼女に、戦闘で勝てるとは思えない。
ISを使った戦闘ならまだわからないが、もしここで展開してドンパチを繰り広げれば、楯無から逃げおおせる前に異変に気付いた代表候補生たちがこちらにやってくるだろう。
彼女たちの戦闘を見て、複数人を相手するのは危険だと判断する。
しかし『
「ふふ、私を捕まえられるかしら」
「結構簡単だと思うのだけれど……」
「失礼ね、あなた」
代表候補生たちのことは特に調べていなかったが、要注意人物の楯無のことはしっかりと調べていた。
彼女の弱点も、こちらは把握済みである。
スコールの余裕を見て、楯無は何かあるのかと身構える。
「これ……なんだと思う?」
「そ、それは……!」
スコールの手にある紙切れを見て、楯無は目を見開く。
そんな馬鹿なと思いながらも、確かにそれは本物であった。
「な、何であなたがクロウの写真を……」
そう、それはクロウの姿が写された写真であった。
普段の制服を着た姿や、何故か筋骨隆々の肉体を露出させた写真まである。
楯無はくっと鼻を抑える。
クロウジャンキーの彼女は、下手をしたら鼻血が出てしまう。
「ふふふ、ある場所から拝借したのよ」
ドヤ顔をさらしながらスコールは言う。
彼女が奪ったのはなんと束のパソコンからハッキングして得たものであった。
世界的なテロ組織である『
とは言っても、束が管理しているパソコンにハッキングしていたわけではない。
そんなことをできるのは、この世界に一人もいない。
簡潔に言えば、束が捨てたパソコンから得たものであった。
どうやら束はそのデータを移行することを忘れていたらしく、それをたまたま彼女たちが拾ったというわけだ。
普段の束ならクロウに関することで忘れることなんてありはしないのだが、その時はクロウの部屋に隠してあるカメラから新たなデータが送られてくるときで、それに夢中になって忘れてしまったのであった。
「私を見逃してくれるのなら、これを上げてもいいわ」
「くっ……なんて女……!」
二人は大まじめだが、傍から見ればギャグにしか見えない。
というか楯無は別に写真がなくても生でいくらでも見られるのだが、写真は写真でほしいようだ。
楯無は苦渋の決断を迫られる。
スコールを見逃して写真を得るとすれば、私的には大満足だが、更識家当主やIS学園生徒会長としてのプライドが許さない。
スコールを捕まえて写真を得ないとすると、役目はきっちり果たしたことになるが、貴重なデータが失われてしまう。
楯無は悩んだ。悩んで悩んで、とうとう答えが出た。
「なんだ、あなたをひっ捕らえて写真を奪えばいい話じゃない」
「……え?」
キュピーンと目を光らせてじりじりとスコールににじり寄っていく。
スコールはまさかの返答に頬を引きつらせる。
そしてとうとう壁に背中が付き、これ以上逃げられなくなってしまう。
「うふふ、追い詰めたわ」
「お、落ち着きなさい」
「私は落ち着いているわ。だからこんなにも冷静な判断を下せたのよ」
スコールはなに言ってんだこのジャイアンと怒鳴りたくなったのだが、何とかそれを我慢する。
背後の逃げ道は行き止まりになり、前にはハアハアと荒い息を漏らしている
スコールが出した判断は……。
「はぁっ!」
「な、何を……!?」
手に持っていた写真と、懐に隠していた写真を全て空中にぶちまける。
当然最初の目的から乗り換えていた物が目の前を舞っているので、楯無は写真に目がいく。
その隙にスコールはすぐさまIS、『
「ちょっ……待ちなさい!」
そう言って手を上げて制止する楯無を一切振り返りもせず、彼女は凄まじいスピードを出して大空の彼方へと消えて行った。
楯無はそんなスコールを見送るしかなく―――――いや、追えば彼女の実力なら捕らえることも可能だったのだが、写真をかき集めるのに忙しくてしなかった。
地面に散らばった全ての写真を拾い上げた後、楯無は千冬に連絡を入れる。
「あ、織斑先生。すみません、逃げられてしまいました。……ええ、彼女も中々の使い手でした。次こそは必ず捕まえてみせます。はい、失礼します」
逃がしてしまったのは全てスコールの実力のせいということにした楯無。
それでいいのか、生徒会長。
楯無は報告を終えた後、恍惚とした表情で写真を眺めていた。
◆
「なあ、箒」
「なんだ、一夏」
「……俺らって襲撃された方だよな?被害者だよな?」
「ああ、そうだ」
「傍から見れば、俺たちって加害者じゃないか?しかもかなり性質の悪い……」
「……言うな」
一夏と箒が、どこか遠い目をしながら話し合う。
二人の視線の先には、絶賛ボコられ中のエムの姿があった。
下からはセシリアの『
空中の少し離れたところからはラウラがワイヤーブレードを飛ばす。
双天牙月を持った鈴は近接格闘を挑み、エムを苦戦させる。
苦戦どころか、何とか負けないように必死に防御しているだけである。
バイザーの中では、普段冷徹な目がうるんでいたりする。
「あ、また吹っ飛ばされた」
「や、やりすぎではないか……?」
エムはクロウからの攻撃を受け、否応なしにダメージを受ける。
代表候補生たちの攻めもかなり鬼畜だが、クロウが一番厄介だった。
セシリアやシャルロットと同じように遠距離から武器を飛ばしてきたと思えば、鈴と一緒になって武器を振り下ろしてくる。
鬱陶しいことこの上なかった。
一夏と箒は、だんだんと襲撃者をかわいそうに思う気持ちが強くなっていく。
「……戦闘不能になったらすぐに助けてやるか」
「……そうだな、それがいい」
襲撃された被害者にも関わらず、二人は敵の救出を考えていた。
◆
「うりゃぁぁっ!!」
「くぅぅ……っ!!」
振り下ろされる双天牙月を銃身でなんとか受け止める。
重い衝撃が全身に負荷される。
エムは銃身を押し返し、何とか距離を取る。
リンチとも言える飽和攻撃を受けて、すでにシールドエネルギーは全体の一割ほどしか残っておらず、これ以上の戦闘は本当に危険だった。
「はぁ……はぁ……くそっ!」
エムはこれまで敗北ということをほとんど知らない。
大抵の者なら簡単に倒せるし、前も世界最強と謳われるアメリカ軍の秘密基地を一人で襲撃して無事に帰ってきたほどだ。
なのに、今回敗北の色が濃厚になっている。
彼女はそれが許せなかった。
「(そもそもなんでこいつらこんなに強いんだ!レース用にISを調整しているはずだろう!?)」
そう、第一学年専用機持ちの面々は、レースに合わせて機体を変えてきていた。
主に武装を外し、速度に重点を置いた機体に変えている。
それなのにもかかわらず、エムを圧倒するだけの実力を備えていた。
「ねえ、クロウ。あたしとあんた、どっちがあいつにとどめを刺すか勝負しない?」
「うむ、いいだろう。私が勝ったらねっとりと可愛がってやる」
「ね、ねっとり!?」
漫才をしている目の前の男女をジロリと睨む。
何でこんなふざけた奴らが自分より強いのだ。
国際的なテロ組織の実働部隊で、長い間前線に立ち続けたエム。
そんな彼女が命を張った実戦経験がほとんど皆無といった少女たちに負けるという事実は、どうにも受け入れがたい。
しかし勝てないのも事実。どうにかしてこの危険領域から脱出することを考えていたエムに、スコールから通信が届く。
「なんだ、スコール!私に何の……なに?撤退だと?」
自分の襲撃に紛れて侵入していたスコールは、すでに逃げ出しているとのことで、エムもすぐに逃げろとの命令だった。
体内に監視ナノマシンが注入されていることを忘れて、本気で殺してやりたいと思う。
しかもどうやって逃げろと言うのだろうか。
先ほどまで格闘戦をしていた二人は漫才を繰り広げているが、少し離れたところではあの手ごわいドイツの代表候補生が睨みを利かせているし、下では二人の狙撃手が自分を狙っている。
というか何であのドイツ人は自分を睨みまくってくるのだろうか?
「(クロウとの賭けを……許さん)」
ラウラはまだ根に持っていた。
彼女にとっては大きなイベントだっただけに、エムに向けられる敵意は最も大きい。
「(さて、どうやって逃げるか……)」
エムはとりあえず自分に怒気を向けてくるドイツ人を放っておき、逃げるために頭を働かせる。
一目散に逃げる?
そんなことをしたら、後ろからイギリス人とフランス人に狙撃されるだろう。
下手したらあの男が強力な武器を撃ってくるかもしれない。
敵を全員倒す?
そんなの無理。一番無理。
視界を悪くさせて逃げる?
ISには大して意味がない。
エムはとにかくいろいろ考えた。
そして考えた結果―――――。
「(よし、一般市民を楯にしながら逃げよう)」
わりと外道な作戦を思いついた。
そうと決まれば話は速い。
再び襲い掛かってくる鈴とクロウを何とかいなしつつ、市街地へと移動する。
そして突然ISを解除し、生身になって人ごみの中に突入する。
「なっ!?逃げた!?」
鈴は驚きの表情で人ごみを見る。
あれだけの人数がいる中に、ISで突入するわけにはいかない。
ISを解除して追いかけてもいいが、対人格闘となるとエムにも分があるかもしれないし、そもそもここから先は学生の手に余るものだ。
セシリアやシャルロットもそう考えたのか、展開していたISを解除する。
一夏と箒は不謹慎ではあるが、これ以上エムがいじめられないことに少しホッとした。
ただ納得できない者がいるのも事実で……。
「ふむ……とりあえずあの付近一帯に武器の掃射を……」
「ダメに決まっているでしょ!!」
「いや、構わんぞ嫁。やってしまえ」
「あんたは日本とドイツの国際問題を引き起こさせる気!?」
鈴のツッコミが冴えわたった。
◆
キャノンボール・ファストの日は、一夏の誕生日でもあった。
彼の家には多くの者が誕生日を祝いに行き、盛大な誕生会が開かれた。
クロウも誕生会には行き、お祝いの言葉とプレゼントを渡してきた。
彼が渡したのは革の靴であった。これから先必要となることも多くなるだろうと考えてのことである。
意外とまともで、他の面々……特に箒や虚が驚いていたのは当然のことである。
そしてクロウは早めにお暇し、現在簪を部屋に呼んでいた。
「んっ!あっ!あっ!あっ!あっ!!」
最初は普通の会話を楽しみ、ほんわかとした雰囲気が流れていたのだが、いつの間にかねっとりとした淫気が部屋中に満ちていた。
大きな身体のクロウが簪に覆いかぶさって腰を激しく振っているのは、どうにも犯罪臭がぬぐえない。
ぱんっぱんっと張りのある小ぶりな尻肉が叩かれる音がする。
「んんんんんんんんんっ!!」
ビュクビュクビュクと大量に流し込まれる精液。
簪は細い脚をピンと張らせ、ビクビクと小刻みに痙攣する。
小さな手はキュッと閉じて、歯をグッと食いしばる。
しかし口の端から一筋のよだれが垂れてしまっている。
「はぁ……はぁ……クロウ、激しい……」
激しい動きでずれた眼鏡を直しながら、抗議する簪。
その抗議は本当の嫌悪感はなく、これ以上されたら困るという意味にとれた。
まだ陽は落ちたばかりで、夜は長い。
とりあえずクロウは簪を連れてシャワールームに入ることにしたのだった。
◆
なお、一夏を暗殺しようと拳銃の用意までしていたエムであったが、クロウたちに散々痛めつけられて動けないため、暗殺は延期になったようである。
「くっ……この借りは必ず返すぞ……!」
長くなりそうだったので、また区切りました。
いや~、最近更新が早いですね。
いつまで続くことやら……。