完全依存系ヒロインエミリアたんの退廃的で幸せな一日 作:カリフォルニア饅頭
絶賛キャラ崩壊中なのでご注意をば。
今回は、どちらかといえば「一日」的な感じです。直接的描写はないので、そういうのを求めておられる方には申し訳ない。
眩しい日差しに、目が覚めた。カーテンを引いていない窓からはさんさんと太陽の光が降り注いでいて、そろそろ起きるべき時間であることをこれ以上ないほど知らせている。覚醒したばかりで朦朧とする意識の中、頭のしたにはいつものように暖かく少し固い感触。――きっと、スバルの腕だ。昨日も、腕枕をしてもらったまま眠ってしまったのだろうか。
辺りに満ちるのは、行為後のすえた匂いと少し汗くさい彼の匂い。四六時中嗅いでいるのに、それでもそのにおいは、嗅いでいるだけでだんだんとわたしの理性を奪ってじんじんと躯を熱くさせる。目を開ければ、いつも通りの逞しい体と愛しい彼の顔が目に入る。いつだってわたしを守ってくれた、そこらの男の人と変わらない筈なのにどんな困難をも跳ね除けそして誰よりも愛おしくもある身体。そして、彼の顔。黒い髪と黒い目は彼といわれれば思い浮かぶ色にまでなっていて、黒の瞳に見つめられるだけで私の思考は彼に溺れることしか考えられなくなってゆく。
寝ぼけた頭のままに、ただ彼の温もりをより感じたいと、もっと彼の匂いに満たされたいと、彼のほうに擦り寄っていく。そのまま、布の一枚も間に挟まずに触れ合う身体と身体。彼の温もりに心まで満たされながら、ふと、いつもよりもその彼の熱が高いよう思う。
「スバル……?」
呼びかけてみるも返事は無い。いつもなら、私より先に起きて私の寝顔をニヤニヤしながら見つめているのに。尤も、それに気恥ずかしさや嬉しさを覚えても、それが嫌だと思わない私はとっくにどうかしているとも思うが……。それはともかく、彼からの返事は無い。不思議に思って彼のおでこに手を当ててみると、少なくともこれまでになかったほどの熱を感じる。ついでに、彼の額には大粒の汗が浮んでいて、さらに顔には良く見れば苦悶の表情が張り付いている。
「た、大変!」
ねぼすけな頭も、一気に覚醒する。スバル以外に誰も居ない家に、エミリアの可愛らしく、そして何処か焦った声が響いた。
「ゴメンな、エミリアたん。風邪引いちまって」
「ううん。良いの、スバル。たーんと看病してあげるんだから」
エミリアの大声に意識を取り戻したスバルと症状を話し合った結果、まあ風邪だろうという結論が出た。そのまま、彼は今日一日ベッドの上で養生することになる。エミリアは、そんな彼に付き添って甲斐甲斐しく看病を続ける。時にスバルの額の上においてある冷やしタオルを代えて、時に微精霊の力を借りて水のマナを使いスバルの体に活力を与え、時に火のマナで部屋全体の温度が下がり過ぎないように細心の注意を払い、時に消化によく栄養も取れる料理を作りとその献身的な看病にはさしものスバルも感涙するほどであった。
――だが、スバルの身体の汗を拭くときだけは、少しだけ様子が変わった。
「それじゃあ、スバルの汗、拭かせてもらうね」
「お、おう。よろしく頼む……てか、よく考えたらこれむっちゃ恥ずかしいな!」
「はいはい、早く脱いで。いつも見てるじゃない」
やだ、エミリアたん男前、とエミリアを茶化すスバルの声。それを受け流しながらもエミリアは彼の服を剥いでいく。途端に現れる、彼の逞しい肢体。いつも目に入れているというのに、ついそれに見惚れてしまって。それに、彼の服を脱がせたときからむわっとした熱気とともにかつて無いほど強い彼の汗のにおいが広がる。いつもより強いスバルの汗のにおいにだんだんと思考が麻痺していく。それでも、役目は果たさねばと真新しいタオルでもって、彼の全身を拭っていく。
「え、エミリアたん? 大丈夫?」
気がつけば、エミリアはスバルに抱きついていた。スバルの呼びかけに正気を取り戻し、慌てて汗を拭く作業に戻る。――それでも、かつて無いほどに強い彼の匂いにくらくらとしながら。
まあ、それはともかく。日付は変わって次の日の朝、看病の甲斐もあり、すっかり回復したスバルからエミリアにとある宣言がなされた。
「ゴメン、エミリアたん。一週間ぐらい、ちょっと休ませてくれねえ?」
「ど、どうしたの、急に?」
「うん、なんというか……今回のことで少し生活を見つめなおす機会が出来たというか。その、エミリアたんとするのは凄く気持ちいいんだけど、たまに休みが欲しいというか。ただエミリアたんと見詰め合って眠るだけの夜もいいかなって思ったんだなこれが」
と、なにやらしどろもどろ。エミリアとしては、梯子を外された気分である。何せ、昨日一日まるっと彼の看病をして、風邪の快癒した今日こそは彼に組み敷かれる幸せを味わえるものだとばかり思っていたのに、蓋を開けてみれば一週間ほどのお預けを食らってしまった。いやもちろん彼と交わるだけが幸せなことではないが、だからといってもらえる筈だったものが急に手に入らなくなったときの喪失感というかあくまでもそういうものなのであって決して彼との淫靡な営みそれ自体が目的なのではないのだそうだ絶対にそうに違いない。だが、どれだけ内心で不満だったとしても、彼の意向は絶対である。どの道自分が従わないという選択肢はないのだ。
「……わかりました。じゃあ、しばらくはお休みね」
「お、おう。よろしくな、エミリアたん。……それじゃあ俺は食材の整理をしてくるから」
どこか不満げな感情が言葉に現れてしまったのか、少し不機嫌な声音になってしまった。それに恐れをなしたのか、スバルは家に備え付けの倉庫の方に行ってしまう。エミリアとしてはまたも、あてが外れた格好だ。何せ、いつものスバルが不機嫌な声音を聞けば、エミリアの期限をなだめようと抱きしめてくれて、そうして自分は彼の暖かさとかき抱かれる幸福を味わえる筈なのに。だというのに、彼はそれをせずに倉庫の整理だなんて何時でもできるようなことで私の前を離れた。一体、彼に何があったのか?
――思考に耽るエミリアは、スバルが去り際に残した呟きに気がつかない。
「このままだと、マジで早死しかねねえからな……危ねえ危ねえ。体調には気をつけねえと」
スバルに禁欲を宣言されてから早二日が過ぎ、エミリアはスバルの覚悟の強さを思い知らされていた。たとえば、これまでこのような関係になってからお風呂はずっと一緒だったが、この一週間だけはということで、別々に入ることになった。これがまた寂しいのだ。確かに身体の疲労を取り去ってくれるお風呂は大変ありがたいものなのだが、一人ではいるお風呂がこれほどまでに静かなものだったとは思いもしなかった。お風呂は、スバルが居ないただお湯に浸かるだけの時間でしかなく、既にエミリアはそれに意味を感じなくなりつつある。手持ち無沙汰のとき世間話や思い出話に付き合ってくれたり、寄りかかればすぐにそのぬくもりを感じられたスバルは今は湯船の中に居ない。たったそれだけで、この時間がここまで色あせるだなんて。なので、この二日間のエミリアは烏の行水ともいえるような速さで湯船から上がっている。
他にも、例を挙げればきりが無い。寝床は同じで、褥を重ねてはいるが彼は決して自分からエミリアに近づこうとはしない。エミリアの方が彼ににじり寄っていってようやく至福の感覚――彼の温もりや匂いを味わえる。一事が万事こんな感じで、スバルはエミリアとの性的接触を出来るだけ避けようとしていることが伺えた。
「……スバルのおたんこなす」
食事を終えて彼が席を外している間に、恨みがましく彼を詰る。なにも、ここまでしなくてもいいではないか。せめて、抱きあったりするぐらいは良いではないか。それに、結局彼が何故このような禁欲に出たのかは解らないままだ。スバルが察知しているかどうかはわからないが、エミリアの内心は不安でいっぱいである。
――もし、本当に1週間経つまで、彼に触れられなかったとしたら?
――1週間でこの禁欲が終わればいいが、もしそれ以上長くなったら?
――スバルがこんなことを言い出したのは、もしかして自分に飽きたからなのでは?
もし、本当にそうだったとしたら――――
「いや……」
こんなに不安な気持ちになるのは、何時ぐらいぶりだろうか。もしかしたら、王選が終わる前以来かもしれない。それほどまでに、エミリアの心は揺れていた。そうして、エミリアがその体内に孕む膨大なマナが精神による制御を失い、周囲に溢れていく。結果、急激に下がっていく室温。エミリア自身の体も少し冷え始めて――
「エミリアたん!」
感じる、慣れ親しんだ温もり。そのぬくもりに抱かれているのだと認識した次の瞬間には、不安定なマナ循環は収まっていて。
「すばる……」
「おーけーおーけーエミリアたん。大丈夫か?」
「うん、へーき。……ありがと、スバル」
――そうだ。私が欲しかったのは、このぬくもりなのだ。彼の背中に手を回し、彼の体の熱を、その少し汗の混じった男の人の匂いを、少しでも強く堪能しようとする。どくんどくんとだんだん強くなる胸の鼓動と、それに反比例するかのようにじわじわと失われていく理性。久々に味わった彼の温もりに、私の躯は急に熱を増しはじめて。このまま彼に組み敷いて欲しいという浅ましい欲望に、思考が占領されていく。もちろん、節制の誓いを立てた彼としては避けたいことに違いない。それでも、隠し切れない彼の欲望をおへその辺りに感じる。――良かった。彼は私に飽きたというわけではなさそうだ。それに、彼だって苦しそうではないか。彼のそれは、いつもよりもより熱く、そして突きつけられている感じから言えば常よりもその硬さが増しているようにも感じる。――ならば、良いではないか。
そういった思いを込めて、スバルの黒い瞳を見つめれば。彼は一瞬だけ私と目を合わせて、その瞳に一瞬だけ淫靡な色が浮んで――でも、頭を振った。
「エミリアたん、もう大丈夫だよな? じゃあ、俺は一端戻るから。後の食器の片付け、お願いしてもいい?」
「……うん、わかりました。それじゃあ、また何かすることがあったら言ってね」
「さんきゅ、エミリアたん。愛してるよ!」
その言葉を残して、スバルは私の元から離れていく。最後に伝えられた愛の言葉に、心が幸せに満たされて。でも、徐々に失われていく彼の温もりに、抱いてもらう前よりも寂しさが募って。さらには、火照った躯をもてあましてしまって。こんな生殺しにされるぐらいなら、いっそ抱いてくれないほうが良かったかもしれない。
――なら、何の問題があろうか。そうだ、スバルだって苦しげにしていたではないか。私の視線に、一瞬だけではあったけど応えようとしたではないか。
「そう、よね。私をこんなにしたのは、あなたなんだから。あなたが悪いんだから」
そうだ。彼がいつも私にしてくれることをすればいい。愛の言葉で、私の女で、彼の理性をどろどろに溶かせばいいのだ。そうすれば、またあの快楽と悦楽の狭間で彼と一緒に溺れることが出来る。それは、どんなにか幸せなものか。数日離れていただけだというのに、エミリアにはそれが遠い過去のようにも思える。
「……ふふっ。待っててね、スバル」
あの幸せな時間にまたひたれるのだと、そのことが何よりも嬉しい。さあ、どうやって彼の思考を麻痺させてしまおうか。エミリアの思考は、そちらの方に移っていった。
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