「ところで、椛がここに居るのは釣り具のメンテナンスしてたから?」
「何かやってくれるって言うからさー」
任せっきりなのか
「伊吹様のお手を煩わせるわけにはまいりませぬ」
いや、趣味のための手間なんだから取り上げちゃだめでしょ
本音は萃香がここに居る時間をできるだけ減らしたいってことじゃないの?
「持ち回りでやってるの?」
「いえ、私が一人で。哨戒範囲をこの周辺に限定していただいたので任務にも支障はありませぬ」
体よく押し付けられただけじゃねーか
「哨戒と言えば、守矢神社への参拝客ってどうしてるんだ?」
「何人たりとも通しはしませぬ。と、言いたいところですが、参道から外れなければこちらから何かすることはありませぬ」
不可侵領域としての参道はあるのか
「なら人間の参拝客もいるのかな?」
「いえ、未だ且て参拝できた人間はおりませぬ」
何故おらぬのじゃ?
「参道から外れなきゃ手は出されないんだよな?」
「参道が麓まで続いておりませぬ故、参道にたどり着いた人間がおりませぬ」
何そのひどいオチ
「参道延ばそうって話はないのかよ」
「みんな空飛んでるから気づいてないってオチなんじゃないのー?」
「其の様ですな。こちらから話をもっていく義理もありませぬ故」
今に至るまで放置されている、と
人里での知名度とか気にしてあれこれ活動してるルイー……じゃなくて巫女さんがちょっとかわいそうだな
「三柱の神とはいえ無断で居を構えた余所者を積極的に助けたくはないってことか?」
「信仰はしているのです。それ以上に利する必要はないでしょう」
天狗には天狗の基準があるってことか
「ねぇ、そういうめんどっちぃ話はもういいでしょ?早く釣りしましょ!」
確かにまた余計な話に流れてたな
「お、そうだな。じゃ、ちゃちゃっと選んで移動しなきゃな」
さてさて、晩飯のおかずに見合う魚となるとやっぱりそれなりに大きいのがいいよな
「萃香のおすすめはどれだ?」
「針がごつく無ければどれでも大丈夫だよー」
……いやいやいや、獲物によって竿も糸も餌も違うよな?
あれ?その辺ってどうでもいいのか?
「主狙いとかじゃないんだし、デカくても50㎝いかないと思うからここにあるやつならどれ使っても折れたり千切れたりはしないよー」
そういうもんなのか?
「ま、30㎝くらいのが釣れたら晩のおかずにはいいんじゃない?」
「昼はたんぱく質がなかったから夜はしっかり摂りたいなぁ」
「あはは、じゃあ頑張って釣らないとだねー。油が用意されてるんだし、唐揚げで美味しい鯉とか狙えばいいかもねー」
鯉ってだいたい50㎝超えてるだろ……
「いやいや、あんまりでかいのは釣り上げるの大変だし、ほどほどのやつを複数上げる方が……」
初心者が欲張るとろくなことにならないってのはまぁわかってるけどさ
「じゃあちょっと上がってヤマメとかイワナがちょろちょろしてるところに行こうか」
そうそう、そういうのがいいと思う
でも、飛んだら〝ちょっと”でも歩いたら凄い大変な距離だよな
「川の代表格だよね。塩焼き食べたい」
「唐揚げも美味しいよー」
いいねいいね
「ところで萃香、ちょっと聞いてもいいかな?」
「何ー?」
小屋に入ってからずっと気になってたんだよね
「これ、竹だよね?削った竹に握り革巻いただけだよね?」
こんなんで30㎝釣りできるの?折れない?
握れるサイズの竹を丸ごととかならわかるけど、これデカい竹を割って削り出してるよね?
「あとこの糸、長さ調節できないじゃん。使いにくくない?」
リール無しで先端から垂らしてるだけってどうよ?
……明治ってまだ糸巻くタイプの釣り竿はなかったのか?
難しい機構じゃないんだからあってもおかしくないと思うんだけど
「あたしの趣味だよ?」
あぁ、そういう……
「左様で。じゃあまぁ、行きますか」
「よーし、あたしはまた清衡おぶるから二人は竿二本と予備の針、一人は自分の竿とそこの魚籠を持ってきてねー」
「行ってらっしゃいませ、伊吹様」
吃驚した!扉のすぐ横に立ってるなよ!
「行ってくるー」
「「「お仕事頑張ってー」」」
「……行ってきます」
食べる目的の川釣りだとやっぱりマス系だと思う
鮎はまだ時期じゃないし