「おかえりなさいませ、伊吹様。揚げるとのことでしたので、頭とワタだけでなく皮と中骨腹骨も取っておきましたぞ」
三枚下ろしじゃなくて腹開きにしたのか
まぁ、フライにしろ天ぷらにしろこっちの方が見栄えがいいか
「おー、椛上手いなー。皮にも骨にも無駄に身がついてたりしないってことは結構やり慣れてるな」
「このくらいのことはすぐにできるようになります」
まぁそうかもしれんが……萃香ってどのくらいのペースで捌かせてたんだ?
週三日とか……さすがにそんなに釣りばっかしてたりはしないよな
「あー……その、椛?」
「は?」
ん?
「え?」
「あ、いえ、伊吹様に名を呼ばれるのは初めてのことでしたので、少し動揺してしまいました」
ああ、そういうことね
嬉しくなると耳としっぽが出ちゃうのか、動揺すると出ちゃうのかどっちだろう?
「そうだっけ?……そうだっけ……」
おいおい、そこで落ち込んでたら先へ進めないぞ
「なあ椛、お前は萃香の雑務を処理することに何か不満とか意見とかあるか?」
「不満や意見、ですか」
おい、そこで怯えるなよ
「ま、ありますな」
そんな悲しみに歪んだ顔で俺を見るな
「伊吹様はもっと私に頼ってくださればよろしいのです。今日のこれも、そこの妖精から聞いていなければ揚げるとは知らずに頭とワタだけ取っておしまいにしてしまうところでしたぞ」
ほほう?
「釣り具の手入れも魚の捌き方も、やっておけと言ってくだされば無駄な時間をかけてしまうこともなく、伊吹様にお手間を取らせることもないのです」
なるほど、押し付けられたとか、怖いから役に立つアピールしとこうと思ったとかじゃないんだな
「だそうだぞ?」
「うん。うん!あのっあのね?あたし、椛がいろいろしてくれてね?凄く、凄く助かってるの」
流すのが悲しみの涙じゃなくなってよかったな
「でもっでもね?あたし、何かお礼が言えなくてさ?嫌われてるんじゃないかって、嫌々やってるんじゃないかって……」
「伊吹様、私は好んで伊吹様のお役に立ちたいと思っています。私が伊吹様を嫌うことなどありえませぬ」
「ありがとう。ありがとうね、椛」
あー、何だっけ?モミスイ?スイモミ?はどうちゃらこうちゃらとかいうあれ
この状況ってあれなんじゃね?
「あの萃香が子供みたいに泣くとはね」
「鬼の目にも涙ね!」
「いや、それは違うでしょ」
「萃香は寂しがり屋さんだったんだね~」
子供を甘やかすお母さんとお母さんに甘える子供みたいだな
外見的には母娘というより姉妹ってかんじだが
このいい雰囲気の中で椛のしっぽをどうこうしたいとか考えてる俺は汚れてるよなぁ……
なんか椛と萃香がいい感じになっていた
あれ?お前らってそんな感じだったの?