「邪魔するよー。旦那は居るかい?」
「いらっしゃいませ。すぐに呼んできますね」
おお、割と普通の対応だ
「ここは受付が居るんだな」
「丁稚が居ない方が変なんだけどねー」
ああ、そういわれてみればそうだな
「さっきの仕立て屋は何で丁稚が居なかったんだ?」
「教えるのが下手で押し付けるのが好きだから」
あー……そういうのはどうにもならんね
「萃香が認めるほど腕がいいのにもったいないことだねぇ」
「あたしが服仕立てることなんてないから別にいいけどねー」
「そうか?萃香の着物姿とか絶対可愛いじゃん」
普段着でもハレ着でも絶対似合うよな
「いらっしゃいませ。そちらのお嬢さんのハレ着ですか?落ち着いた色でも騒がしい色でもよくお似合いになると保証しますよ?」
落ち着いた色の着物ならきっと艶めかしい色香を発するんだろうな……
騒がしい色なら子供らしい無邪気というか無防備な色香を……
いかんいかん、ジャージでおっ立てたらまずい
落ち着け俺
「だから今日はこっちで三紋袴を仕立ててもらいに来たんだよ」
あ、話が進んでる
「承りました。では採寸致しますのでこちらへ」
「待ってる間に紋書いときたいんだけど、どこに書けばいいかな?」
今回は出て行かないのな
前のところは店主が気に入らなかったってことか?
「すぐに用意させます。おーい!」
「はい!ただいま!」
「紋の紙と筆をお持ちしろ」
「はい!」
おー、なんか時代劇みたいなやりとりだな
「さ、こちらへ」
「よろしくお願いします」
「お任せください」
接客態度ってやっぱ大事だな
過度にへいこらされると鬱陶しいけど、雑な対応されるより丁寧な対応される方が気分いいよな
「貴方は凄いですね」
「はい?」
何の話だ?
「いえね、あのお嬢さんは鬼の大将でしょう?スペルカードルールが普及して以来、ちょくちょく人里で見かけるようになったんですがね、あんなに険のない穏やかな雰囲気の彼女は今まで見たことがないんですよ」
前は雰囲気が刺々してたってことか
「なるほど。彼女は種族柄争い事を好みますが、精神性としては実に優しいいい子ですよ。雰囲気に険があったというのなら、何某か気に障ることでもあったのでしょう」
男を知って丸くなったという可能性もなくはないけど
いや、厳密に言えばまだ男を知らないのか
「ははは、さすがは色男ということですか。さ、終わりましたよ」
「色男、ですかねぇ?」
「鬼の大将の心を掴んでおいて何を仰る」
うーん、萃香の好意は俺が純粋に掴んだものではないからなぁ
好意そのものは俺が掴んだと言えなくもないかもしれんが、お膳立てのレベルがアレだったしなぁ
「ま、過程はどうあれ彼女は私の大切な人ですな」
「ははは、鬼の大将にそう言えるとは素晴らしい」
「色男かどうかはともかくいい男でしょ?」
盗み聞きはよくないぞ
「里の者が皆こうであればいいのですがね」
それだと恐れられなくなった妖怪が消滅するんじゃね?
「恨みつらみと恐れは別物だというのに、未だに怨恨に取りつかれた者の多いことです」
あー……その辺は各々の感情の問題でしょう
他人が何を言ってもどうにもならんと思うわ
「あんたが悩むようなことじゃないでしょ。ほい、お代」
「はは、ま、そうなんですがね。はい、確かに。お渡しは如何致しましょう?」
受け取り場所の指定もできるのか
「五紋袴が稗田家での受け取りになってるし、こっちも一緒でいいんじゃない?」
「その方が面倒がなくていいかもね。そうしてもらえますか?」
この仕立て屋にとっては面倒かもしれんけど
「承りました。では、またお越しください」
「ありがとうございました」
十人十色とはいうけど、ほんとに考え方は人それぞれだねぇ
「次は普段着だね。これは三着ともまとめて注文するよ」
おー、また三軒回るのかと思ってたけど違うのね
「楽なのはいいことだね。さっさと終わらせよう」
さっきの仕立て屋みたいな人ばっかりじゃないよっていうお話