女の子がこんなに積極的だとは思っていなかったから……正直面食らったのは否めない。
だとしても、せめて一般的な常識内なら――いや、そもそも何をもって一般的と呼ぶべきか。
今の俺には何も判らない。
だが、俺の身に覚えがないのなら、彼女が購入したものなのだろう。
過去の三葉さんか、
今の三葉さんか。
それが、すべての始まりだった。
***
週の半分以上、俺は三葉さんの家に入り浸っている。とはいえ、ここが三葉さんの家であることには違いない。
だから、無断で私物に手を付けるのは憚られるのだが……それでも、物干しを軒下に吊るしたままにしていては濡れてしまう。何より、掛かっているのは彼女の服だけでもないし。
ということで、ひとりで家主の帰りを待っていた俺は、このにわか雨に際して、洗濯物を取り込み始めたのだった。
そして、その後は無意識に。
いつもの癖で。
俺は衣類を取り外し、畳み始めていた。
だが、慣れない女物の下着に直面した時……はたと手が止まる。
が、自分の分だけ綺麗に仕舞い、彼女の分は残したまま――というのも心証が良くない。
いまさら下着がどうの、というほど浅い関係でもないことだし、俺は彼女の分までそれっぽく畳んでみることにした。
彼女の収納は概ね把握している。
下着類は……脱衣所の引き出しだったか。
女子の下着を長々と握りしめているのも変態的だし、早々に片付けてしまおう。
で、これについては滞りなく済んだ。
上から二番目の引き出しに、同じようなものが詰まっていたので、同じように入れただけ。
しかし――
一番下の扉が、指一本分ほど開いている。
足の指で押し込んでみるも、収まる気配がない。
何かが引っかかっているようだ。
このままにしておくのも気持ちが悪い。
中身を整理して、並べ直すくらいなら問題ないだろう。
そう、思っていたのだが……
中から現れたものを目の当たりにして……俺は驚愕する。
普段はあまり使わない洗剤や、予備の買い置き――このあたりは、いい。
だが、問題はその奥にあった。
閉まらなかった原因は、このスーパーの袋に詰め込まれた“ナニか”で間違いない。
その結び目からはみ出した棒状のモノが引っかかっていたようだ。
しかし……その造形は明らかに異様である。
触れることさえ躊躇してしまうほどに。
それはいわゆる……男性器型の『バイブ』と呼ばれるものである。
正直、ショックではある。
これはまさか、俺では満足できない、ということなのだろうか。
見なかったことにしようかとも思ったが……このままにしていてはどちらにせよ入らない。
袋の中も整然と詰め直すしかないのだが……出てくる出てくる、次から次へと如何わしいものが。
太いものから細いもの、
小さかったり数珠状だったり。
こんなものと一緒に収納されては、ただの猫耳バンドも厭らしいモノに見えてしまう。
だが……
三葉さんが、こんなものを買うはずがない。
となれば……俺と入れ替わった際に何て買い物してくれやがる……三葉のヤツ……っ!
それも、よりにもよって三葉さんの家に隠すなんて!
興味本位か、イタズラか。
何を思ってこんなものを持ち込んだのかは知らないが、これがバレたら三葉さんにドン引きされるのは俺なんだぞ……!?
その日は、三葉さんの帰宅後もできるだけ平常心で過ごし……次に入れ替わった際にはすぐさまヤツの日記に書き殴ってやった。バカみたいな買い物するんじゃねぇ! 一番下の引き出しに隠してたヤツは全部処分しろ、と。
しかし――
これに対する返信に、俺は自分の目を疑った。
三葉曰く、アレはすべて三葉さんの私物だと。
それだけなら馬鹿な戯言を、と一蹴してやるところなのだが――
続く苦情の数々が果てしない。
それによると、どうやら三葉さんは俺にベタ惚れのようで……
思いっきり惚気けたいのだが俺本人には言えず、入れ替わった三葉に全力で甘えている……らしい。
それは単に想いをぶつけるだけでなく、いわゆる性行為という形にまで及び――
暴露される具体的な変態行為。
中には、バレれば法に触れそうなことまで混じっている。
こんなことを、高木あたりが言っていれば、変な動画の見すぎだ、と呆れ返っていたことだろう。
だが……
何度読み返しても、矛盾が見つからない。
確かに、入れ替わった翌日は必ず裸で寝ているし。
そして何より、妄想を書き綴っているにしては迫真すぎる。
俺の知らないところで、アイツら、そんなことしてたのか……?
相手も三葉だけに、浮気でもないのだろうけど……このくらいなら俺だって……いや、いきなりこんな酷いことをしろと言われたら戸惑うだろうな……。
何より一番マズイのは……何で生で
だが、高校生三葉からの書き置きによって、否応なく真実味も増してくる。
『私はね、一生幸せにするから、って瀧君からの方からムリヤリ犯して欲しいの!』
コレ書いてるの、高校生の三葉だよな……?
てことは、中学生の俺と暮らしながら、そんなこと考えてたのか……?
よく無事だったな、俺。
そして。
おそらく、それは大学生になっても変わっていないのだろう。
だとしても……さすがに
でも、この真実を確かめるためには……
…………。
せめて、
***
高校生の三葉としても……やはり、最初は嫌がっていたらしい。
当たり前だ。自分と自分でまぐわうなんて、頭がおかしくなってしまう。
しかし……いい加減慣れてきた、とのこと。
その上、性癖は完全に一致する。
攻めか受けか、の違いはあるにせよ。
最近は、もはや他人事感覚で、俺の身体を操って大学生の三葉さんを犯す――そこまで開き直れるようになったそうだ。
ゆえに、三葉さんの本性を暴くのは簡単。
寝起きの彼女の前で、それとなく三葉のフリをすればいい、と。
それで、勝手に暴走を始めるそうだ。
さて、今日の俺は……自分の身体らしい。
隣で安らかな寝息を立てている三葉さんは、普通のパジャマ姿。
昨日の三葉さんは深夜シフトだったから、帰ってくるなりお茶漬けだけ食べて寝てしまったんだよな。
だが、入れ替わっていた翌日なら、どんなに帰りが遅くとも、裸のまま隣で寝ている。
疲れていようが、三葉の入った俺を求めているということなのだろう。
それが、悔しい。
これからは、彼女に頼らずとも、俺が三葉さんを満足させたい。
だから、今日は一日、三葉のフリをしていよう。
三葉に負けないくらい、三葉さんを喜ばせてあげたい。
いわゆる、その――安全日は、知っている。
彼女は自分の周期をみて、着けたがらないから。
とはいえ、それでも
三葉とはそこまでしてたんだよな。
そう思うと……
俺にだって意地がある。
三葉さんの彼氏である、という意地が。
本当に彼女がそれを望んでいるのなら、俺だって、してみたい。
だから――
実行に移すのなら、今日しかない。
平日だけに、お互い学校もある。
時間がなければ、そこまで濃厚なプレイは強要されないだろう。
さり気なく一応日記帳を確認してみるも、そこには昨日の自分のメモが残っているだけ。
やはり、入れ替わりは起こっていない。
しかし。
今の俺は、高校三年・宮水三葉だ。
ピピピピ……ピピピピ……
アラームが鳴り始めている。三葉さんが起きる時間になったようだ。
さて……ここから三葉を演じる必要があるわけだが――
これが、意外と慣れている。幾度となく入れ替わりをこなしてきたわけだしな。
「おはよう。朝ご飯は昨日の残りがあるんだって?」
朝の挨拶の中に、何気なく三葉らしさを盛り込んでみた。
すると――
「んー……今日は、昔の私……みたいだね?」
入れ替わりに対して、何の疑問も持っていない。
本当に、三葉のいうとおり……なのか?
ただ、いつもはしばらく布団でモゴモゴしている三葉さんなのに……今日は随分動きが機敏だな。
「昔の私……なんだよね……?」
ベッドから下りると、早速着替えるために脱衣所に向かう――と思ったが、何故かここで脱ぎ始める三葉さん。
「瀧君じゃ……ないんだよねぇ……?」
な……何だこの感じ……
ヤバイ――と本能が警鐘を慣らしている。
こんな三葉さんの笑顔、見たことがない。
普段の快活さとは対象的な、舌舐めずるような目つき。
これが……本当の三葉さん……!?
着替えるにしても、どうしてこんなところでパンツまで……?
これじゃあ、こんな朝っぱらから――
「大好きっ!!!」
「ぎゃあぁっ!?」
素っ裸で飛びかかってくるなんて!?
それも、床に押し付けて……お、おい! どうしたんだよ!? 気でも狂ったみたいだぞ!?
「好き! 好きだよ瀧君! 大好きっ! 大好きっ!! あぁんもーーー好きすぎてもう好きとしか言えないっ! ううん、愛してる! 愛してるよ瀧君! 大好きで愛してるよ瀧君~~~~~!!」
こ……これは……嬉しさを通り越して何かヤバイぞ!? そんなに好き好き言ってくれるなんて光栄だけど……本当にシラフなのか? 泥酔しているようにしか見えないぞ!?
だけど……うん。唇から酒の匂いはしない。
シラフだ。
シラフで……こんなことを……!?
「昨日の晩は、お夜食用意してくれてありがとねっ! それも、遅い時間だからって、カロリーまで考えてくれて……嬉しさついでに、ホントは食後そのまま瀧君まで食べちゃいたかったんだよっ!?」
そ、そーだったのか……。疲れてるだろうから、って遠慮していたんだけど、もしかして、不要な気遣いだったか……?
「だから、代わりに……ね? ね? 今、
ハァハァと息を荒らげながら俺の股間を捲っていく。
だが……
「ちょっと! そんな時間なんて……!」
こんな時でも、三葉の演技は忘れない。
朝飯どーすんだよ!? と我に返そうとするが――
「ご飯は外でも食べられるけど、ちんちんは瀧君がいないと
彼女の迫力に気圧されして、俺はすっかり
そこに三葉さんはさも当然のように腰を下ろし――
「んふぅ……❤ 今日も元気だ、ちんちんが美味しい♪」
まるで便器に跨るようにガニ股で、
膝に両手を当てて、体操のごとく。
それでも、健全性はまるでない。
自分の快感だけをひたすら求めて、
どこまでも端なく――
「はっ、あ、あぁんっ、あぁっ……朝のちんちん……硬くて大好きーーーっ!」
あぁ……それで明け方にくっついてくることが多かったんだな……。
寝呆けてるだけかな、といつもそのまま寝ていたのだけど。
何もしない俺に飽きて、三葉さんもそのまま寝てしまっていたけど。
アレは意外と本気の誘惑だったんだなぁ……。
何だか、知らなかった三葉さんが次々と見えてくる。
そして……こんなところまで……!
「あっ……はぁっ、あぁっ、やぁぁぁぁぁぁ❤」
肩を落として顎を開き、お腹をピクピクと痙攣させている。
普段の三葉さんは、
こんなにダラリと仰け反ることはなかったのに。
これが、本当の三葉さん……
三葉さんの……イキ顔……
何だか……凄いものを見ちゃったな……。
とても本能的で……こっちまでドキドキしてくる。
とはいえ、時間も時間だ。
三葉さんも喜んでくれたし、俺は食事の準備のために身体を起こそうとする。
だが――
ガシリ、と肩を再び押し付けられてしまった!
「待って。まだ、瀧君
え……? 普段の三葉さんなら、自分が
「セックスはぁ、精液で子宮を充たしてくれないと終われないわよねぇ……?」
そ、そうだったのか……
いつもあんなに嬉しそうに見えていたのに、本当はずっと欲求不満を抱えていたのか……?
ってイヤイヤ!
毎回
「ほら、シャワー浴びてきなよ! 昨日は食べてすぐ寝たんでしょ!?」
それで、三葉さんの腰がピタリと止まった。
「うぅ……精液、欲しいよ……瀧君の、精子……」
お腹に手を当てて、本当に悲しそうにしょんぼりしている。
とてもとても、寂しそうに。
俺の子供を、受胎したがっている。
そんな顔をされると……これまで
「よ……夜は犯してあげるから……ね?」
三葉の手記を元に、彼女が言いそうな表現にしてみたが……
「ん。どうやって
もはや、ただヤるだけでは満たされないらしい。
こんな彼女なら、大人の玩具を溜め込んでいても……今なら頷ける。
三葉……俺が悪かった。まさか、三葉さんがこんなに激しいとは思ってなかったんだよ。
だから……どうすれば、彼女が収まるのか……そこまで含めて教えてくれ……。
結局、昨日の夕飯の残りは朝の食卓に並ぶことはなく、三葉さんのシャワー中にそのまま弁当箱へと詰め込まれた。
そして、しばらくは各々健全な高校生活を過ごすことになる――かと思ったが、どうやら学校が離れても俺を放してはくれないらしい。
「それじゃ……今日もいっぱい楽しもうね❤」
三葉さんが捲るスカートの中は、股のところがこんもりしている。
そして、俺のこんもりしたところにも、似たようなものが巻かれている。
「私がこーしたら――」
三葉さんがスマホを操作すると、俺の股間が疼き出す……!
「ほら、瀧君も……❤」
こ……このアプリ……だったよな……?
中央のわかり易すぎる丸ボタンをタップすると……俺の身には何も起こらない。
異変が起きているのは、三葉さんの身体の方。
「あ、あぁ……ん、いい……♪」
ガクガクと膝を震わせながら俺に身を寄せ……しっかりと抱きついてくる。
こんなものを互いの股間に潜ませたまま……通学しているのか!?
スマホで遠隔操作できるローターなんてものを!
「それじゃ、駅までは一緒に行こうね♪」
三葉さんは嬉しそうに俺の腕を取る。
学校の方向は違うので、ホームで別れてしまうのだけど……それまでは片時も俺を離してはくれなさそうだ。
萎えている時は良いものの、
丁度亀頭の下辺りに縛り付けられたソレは、俺の身体を休ませてくれない。
ヴヴ、ヴヴ……と震えられては、緩やかなままではいられずに……
しかし、俺だけが
これは、三葉さんが欲しがっている合図なのだから。
授業中どころか 司たちと飯を食っている最中でさえ、俺たちは互いに電波を飛ばし合っていた。
それどころか、学校からバイト先に向かっている最中は――
『た……瀧君……気持ち……いい……?』
「は……はい……でも……っ!」
他の人たちからは、普通に電話しながら歩いているように見えていることだろう。
しかし、実際は、俺たちは密かに愛撫を続けていて、熱い吐息を交わし合っている。
だが、俺が
『一人で
でもぉ……とイタズラっぽく言葉を続けた後、少しだけ――ぴちゃぴちゃぴちゃ、と液体を掻き回す音が届いてきた。
『……私はこのまま
彼女がどこから掛けてきているのかは判らない。
後ろからは雑踏のざわめきも聞こえてくるようだし。
だが、ハァハァという息遣いはそれを掻き消すほどに大きく、
いずれは軋むような嬌声も混じりだし――
『あっ、
そして再び、ざわざわとした環境音だけになった。
『はぁ……あぁ……それじゃ、お互いお仕事頑張ろうね』
「あ、は……はい……」
三葉さんは一応、できるところまでできたのだろう。
しかし、取り残されてしまった俺は……!
もう通話はとっくに切っているというのに……しばらくは、収まってくれそうにない。
三葉さんの喘ぎ声が脳裏にこびりついて……く……どうすればいいんだ、俺は……!
そしてその後も、バイト中の合間を縫って、スイッチを入れ合っていたが――帰る頃になって、俺の股間は大人しくなった。
なんだか、彼女らしくない。
帰り道こそ、絶好のチャンスだろうに。
二人の終わる時間が近い時は、三葉さんのバイト先まで迎えに行くことにしている。彼女の方が、家に近いから。
そしてそのまま同じ電車で帰るのだが――
「ね……瀧君……今日は歩いて帰ろうよ……❤」
自宅までは駅三つほどだし、一年前まではこのあたりに住んでいたので土地勘もある。迷うことはないだろう。
ただ、どうしてそんなことを言い出したのかまでは――不覚にも考えが及んでいなかった。
「瀧くぅん……クチュクチュしてぇ……瀧君のお指でクチュクチュしてぇ……」
荒い息を耳元に吹きかけつつ、隙あらばついばんでくる。
そして、前を持ち上げたスカートの中に……もう例のローターは仕込まれていない。
それと一緒に下着もない。
どこで脱いできたのかは判らないが――夜道で、下の毛を見せながら歩いている。
それだけでは当然済まず、俺の方にまで手を出してくるのだから――これはヤバイ。
俺の理性がヤバイ。
朝からずっと三葉さんの股間だけを震わせながら、俺自身を慰める機会がなかったのだから……すっかり燻ってしまっている。
これ以上誘惑されたら……本当に流されかねない。
人通りがないからといって油断して……!
「瀧君のお指でクリトリス弄りながら……おまんこをちんちんでパコパコして欲しいのぉ……今すぐ……今すぐちんちん……瀧君のちんちん……❤」
おそらく、ひとたび引きずり出されたら一気に飲み込まれてしまうだろう。
というより、俺だってこのままじゃ家に帰るまで平常心を保てそうにない。
だったら……せめて……!
「
犯してあげる――何と傍若無人な言い回しだろうか。
しかし、三葉さんの笑顔は曇らない。
それどころか――
「うんっ、お願いっ!」
本当に嬉しそうに――これから屋外で犯されそうになっているのに、犯そうとしている男の手にしっかりと引かれている。
いくら家まで我慢できないからといって、誰の目があるかも判らないのに。
彼女は本当にそんなことを望んでいるのか……?
ただ、一ついえるのは――
嘘でも望まれてしまったら、本当に歯止めが効かなくなるだろう、ということだけだ。
去年まで住んでいたマンションは、建て替えだか何だかで追い出されている。
だが、未だ解体すら済んでおらず、取り囲んでいるブロック塀の向こう側は、今でも当時と変わらない。
工事も遅々として進んでいないようで、正面口の低い門が留められているだけ。乗り越えれば簡単に侵入できる。
雑草の生い茂る敷地内に這入った時、三葉さんは妙なことを言い出した。
「折角だから、かくれんぼでもしよっか」
全裸になって三〇秒数えてね、と言われても……いや、これもプレイの一環なのか。ならば、脱ぐしかないのだろう。
とはいえ、こんなところを覗きに来る人もそういない。安心はできないが不安もなく、俺は秒を数えつつも、躊躇なく自分の服を脱いでいった。
何より、俺も早く三葉さんが欲しい。
中途半端に遊ばれ続け……こちらもそろそろ限界だ。
数え終えたところで、急いで階段へと向かっていく。
すると……
最初の一段目に彼女のカーディガンが落ちていた。
それを拾い上げると、少し上ったところにスカートが、
更に上にトップスが。
それらを拾いながら俺は黙々と上がっていくと、ブラジャーまで。
そして、三階――俺たちが住んでいた部屋に扉はない。
ポッカリとくり抜かれた入り口に、どこかで脱いでいたパンツが落とされていた。
が……これはあまりに露骨すぎる。
その先で待っているとは思えない。
これは、きっとその上で……
「!」
そのまま四階への階段を見上げると、踊り場から覗き込んでいた三葉さんと目が合った。
やっぱり、俺があの部屋に入ったところで、後ろから襲いかかるつもりだったのだろう。
俺は、三葉さんを追いかける。
五階建てのマンションだけに、逃げ道は長くはない。
だが――
「わっ!?」
俺も続いて追っていくと――上から聞こえた驚きの声の理由はすぐにわかった。
「おぉっ……すっかり……片付けられてるな……」
ここは元々管理人の物置としても使われていたらしい。給水タンクだけでなく大小様々な物置でゴチャゴチャしていたものだが……それらがすべてなくなると、こんなに広々とするんだな。
いや、それどころかフェンスもなく、手すりも階段までしかないのだから、まさに開けたコンクリートの舞台だ。
そこで俺は――
「ひゃぁんっ❤」
後ろから三葉さんを抱きしめていた!
「だ……だめだよぉ……ここ……目立つ……」
きっと、後ろから彼女の胸を揉んでいるのも丸見えだろう。
とはいえ、夜も暗いし……こんなところで、こんなことをしているなんて誰も思わないはず……!
「目立つから……何?」
意地悪く耳元で囁いてみるも……彼女に戸惑う様子は見られない。
さも、最初からそれを望んでいたように。
「だ……誰かに見られちゃうよ……?」
「なら、見てもらおうか。俺たちが、愛し合っているところを」
本当に嫌なら、少なからず抵抗するはずだ。
しかし彼女は――
「だめ……だめ……こんなの……恥ずかしい……❤」
そう言いながらも、自ら足を開き、
だから……とことん甘えさせてもらおう。
「でも……俺、今すぐ三葉さんを抱きたい」
ここは良くないという危機感はある。
それでも……俺だってもう待てない。
腰から彼女の茂みを
「あっ、あぁん……そこ……もっと……っ」
抵抗するどころか、喜々として受け入れている。
「ここがいいんだな。じゃあ……
硬くなった先端で割れ目の中を探ると、そこはすぐに見つかった。
が、本当にこんなところで……いいのだろうか……?
こんな、隠れるどころか見せびらかすような場所で。
でも、下の道路からは見えないだろうし、
何より、俺も三葉さんも……求め合っている……!
最早幾ばくも待てないほどに!
「あっ……あぁぁぁ……❤」
彼女の下腹部はすっかり弛緩していて、それでいてぬるぬるに滴っていた。
だから、
しかし、一度
まさに、捕食されてしまったようだ。
いや、これは――
普段ベッドで抱き合っているより、もっと燃えている気がする。
こんな危険な状況を……彼女は楽しんでいる……?
「エッチな三葉さんの顔……凄く可愛いから……みんなに……見てもらおう……っ!」
俺は彼女の手を握り、腕を後ろに下げさせた。
これで本当に、後ろから犯されている彼女の裸は丸見えとなってしまったことだろう。
そんな恥辱に耐えながら、三葉さんは――
「やぁんっ、ダメだよぉ……それは……瀧君だけにぃ❤❤❤」
それでも、
ことごとく、言葉と身体が一致しない。
声を抑える気もないようで、夕闇に向かって快楽の限りを漏らしている。
「あっ、はぁぁぁ……いいっ、いいのぉ……瀧君のちんちん……もっと……もっと……!」
これが……本当の意味での、裸の三葉さん……なんだな。
何を包み隠すことなく、裸の心でぶつかってくれている。
「大好きっ! 瀧君大好きっ! 瀧君のためなら何でもしちゃうから……もっと私のこと愛してぇっ!!」
だから、俺も恥ずかしがらずに……照れくさかったことでも言えてしまう。
「俺も、三葉さんのこと大好きです! 愛してますっ!」
いつものような、恥じらいながらのセックスも嫌いじゃないけど、こうやって俺を求めてくれるのなら……いくらでも注ぎ込んであげたくなる。
「三葉さん……生だけど……
彼女が求めているであろうことを確認すると、彼女はそれを即座に否定した。
本当に、心から嬉しそうに。
「ダメだよぉ! そんなことしたら……赤ちゃん
俺の腰に合わせて、自分でも前後させているのがこちらにも伝わってきてる。
口先だけで嫌がりながら……どこまでも俺を欲しがっているようだ。
それなら……俺も、どこまでも求めよう。
「もう……
ドッ、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……
「ら、らめぇぇぇぇぇ❤❤❤」
直に感じる三葉さんに包まれながら……
最後の最後まで、貫き通す……
それが、こんなに気持ちいいことだったなんて。
三葉のヤツ、自分だけ毎回こんなことしてたのかよ……!
ただ――
こんなことを続けていたら、絶対……
それから慌てて結婚……なんて格好悪すぎる。
だったら、もう腹を括った方がいいかもしれない。
彼女の可愛さからは、もう逃れることなどできそうもないから。
「もう……絶対見られちゃったよ! 私が、瀧君に愛されてるところ♪」
抱擁を解き、振り向いた彼女は怒った素振りを見せている。
が、怒ることなど到底できずに、その笑顔は蕩けさせたまま。
お腹に手を当てて……本当に幸せそうに。
ならば、この幸せをずっと味わわせてあげたい。
三葉の手を借りることなく……俺の手で。
「大丈夫だよ。ちゃんと責任取るから」
「責任って何よ?」
何をしてくれるのか、と期待に胸を膨らませながら、三葉さんは俺にまとわりついてくる。
が、それは、この場でできることではない。
「結婚しよう」
「ふぇ!?」
これまではどことなく官能に酔っていたようなところもあったが、今はっきりと素に戻ったようだ。
「俺……三葉さんに俺の子を産んで欲しいから……結婚しよう」
勢い任せのプロポーズに、三葉さんからの返事は――
「ど、ど、どうしてこんなところで言うのよ……っ!」
今度は本当に、少しだけ怒っているようだ。
だがやはり……怒ることなどできはしない。
「だって……俺たちが愛し合ってるってこと、みんなに見て欲しいから」
これは勿論、行為という意味ではなく、世間的な関係を……ということだが。
しかし、三葉さんが燃え上がるのは……仕方ないか。お互い、裸なのだし。
「もうっ、バカぁ……そんなこと言われたら……また欲しくなっちゃうよ……❤」
こちらに寄りかかってくるから、今度は上になりたいということなのだろう。
硬いコンクリートの床に寝そべって、俺は彼女の肢体を見上げた。
泣きそうなほどに顔を綻ばせ、
胸にはこれからの二人の未来を湛え、
そして、そのお腹には、いずれ、より大きく――
「うん、いくらでもあげるよ。三葉さんの
しっかりと根本まで飲み込んだところで、三葉さんは大きく両腕を広げた。
自分の姿を、世界中に見せつけるように。
「ありがとう! 私……瀧君のことが大好きで……すっごく幸せ!!」
周りには背の高い建物がないこともない。
事務所が入っているのか、こんな時間でも未だチラチラと光っている。
そんな地上の星々に向けて――
俺たちは、裸のまま愛し合い続けるのだった。
***
あー……そういえば、三葉さんってどこまでも貪欲で激しいんだったか。
そう考えると、こんな場所で告げたのはマズかったかもしれない。
燃えるに燃えた三葉さんは俺を放すことなく、もう四回戦目に突入しようとしている。
明日も学校があるし、そろそろ帰った方がいいのだが……
「ところで……今更なんだけど」
上になっていた三葉さんの顔が、俺の鼻先へと下りてくる。
「この屋上、ホント綺麗に片付けられてるよね」
片付けられた、というより、破棄された、といった塩梅だが。
「こんなに広々とした屋上は初めて見るよ」
むしろ、隠れる場所があった方が、この場合は安全ではあるのだが。
そう思うと、どうしてわざわざココで……という気もしてくる。
が、彼女が言いたいのはそこではないらしい。
「初めても何も、昔の私と入れ替わってたの、ここ数か月だよね」
……あ。
燃えるあまり……失念してしまっていた……!
……が、どうやらそれは俺だけではなかったようで。
「ま、私も途中から今日は昔の自分だっての忘れてたんだけど……」
改めて思い返せば、ここを
が、むしろそれが彼女を安心させる。
「あー良かった! プロポーズまで自演の一環だったらどうしようかと思ったよ!」
今まで隠していた恥ずかしい自分をすべて見せてしまった三葉さん。
だけど、それを目の当たりにした上で……俺は二人の関係を一つ前へと進めてしまった。
それなら、彼女にとって恥ずべきことでもないのだろう。
ゆえに、もう隠すこともなく。
「それじゃあ、今度からいつでも大好き、って言うからね! 愛してるよ……瀧君❤」
深く口付けを交わすと、彼女の
これは、俺に動いてくれ、ということなのだろうな。
さすがに、そろそろここを発つ必要はあるのだけれど……
家に着いても、今夜は朝まで眠れないかもしれない……。
***
瀧君の身体で目覚めた私は、日課の交換ノートに目を通す。
それによると……わっ、うわぁ……ついに、ヤっちゃったんだ……本性を剥き出しにした私と……。
やっぱり、タガが外れるとヤバイわねぇ、あの女。入れ替わるのは二日ぶりだけど、その間ずっと咥えっぱなしとか。昨夜に至っては、カフェで時間を潰してたらそこにまで押し掛けて……あーあ。あのお店、夜になると人が少なくなるのに。それに、隠れるために柱の裏の席に座っちゃったんでしょうね。一旦見つかったらその場で食われるに決まってるでしょ。行きづらくなるなぁ。どうしよう。
ともあれ、中身入りの瀧君とこんなに激しく愛し合ってるのなら、もう仮初めの瀧君はお役御免ね。これからは普通に過ごさせてもらおう。何より、今日はお互い学校もある平日だし。あまりのんびりもしてられない。
今日の食事当番はあっちのようなので……そろそろ起きてもらわないと。
「起きて起きてー、大学生ー、朝ごはん当番でしょー?」
むにゅむにゅゆってたけど、案外すぐに起きてくれた。
「あ、瀧君……おはようのチューしてよぉ……❤」
ぅ……ハードなプレイに慣れすぎてたか、こういう甘々のを期待されると逆に照れるわね。だから、両頬をペチンペチンと叩いてやった。
「そういうのは、本物としてね。今日の私は、三葉だから」
これで目を覚ましてくれるかと思ったら、相変わらずの寝ぼけ眼。
「あー……今日は昔の私なんだねー……おはよー……」
そう言ってこちらに手を伸ばすと……え?
顔を引き寄せられて、強引に唇を奪われちゃった! 私……私だって言ってるのに! 舌まで
抵抗しても仕方ないから黙ってされるがままになってたけど……少しして、一頻り満足した様子。
だけど、こっちは大迷惑!
「えーと……私、三葉なんだけど。そういうのは瀧君とやってくれる?」
こちらからの文句に対して、女子大生は平然と……とんでもないことを言い出した!
「瀧君ともやる。でも、私としてもいいじゃない?」
良くないよ!
近頃は慣れてきたとはいえ……やっぱり私も、瀧君に抱いてもらう側がいいし!
「やっぱり、言葉責めは昔の自分の方が思い切りがいいというか……ね、抱きながら私のこと辱めてよ!」
そう言って、再び私に濃厚な口づけ。
これは……一度は満足させないと収まらない……!?
うぅ……朝の時間がない時に、この女はホントにもう……!
……ちょっとだけだからね?
「夢の続きを、欲しがっているのか?」
別に、狙ってキザなつもりでこんなセリフ吐いた訳じゃない。
こんなの、ただの事実だし。
「や、やぁん……そんな夢なんて見てないもぅん……❤」
ほら、やっぱり。
絶対見てた。
夢の中でも瀧君とセックスしてた。
間違いない。
私も、そういう夢、よく見るもの。
目が覚めた時のガッカリ感はないわよね。
でも、こっちの私には瀧君がいる。
心まで充たしてくれる瀧くんが。
そんな彼が傍にいて……突き放されたら可愛そうよね。
だから……ハァ、私が抱くしかないのねー……。
って……結局、何も変わってなくない? コレ。