※この作品はR-18です。

今も未来も君は変わらず   作:添牙いろは

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2話の続き、という位置づけにはなります。
立花家に残された四葉と瀧父の話です。



残されたままの私たち

 さすがに四人は狭いなぁ、ってのはみんな分かっていたことだから、あの二人が出ていったことで、ようやく正常な広さになったようだ。

 布団も瀧君のものを使わせてもらっているので、たまに泊まりにきた時は、むしろ本来の持ち主が、居間に布団を敷いている。いや、私がそうしろと言ったわけではないのだけど、すっかりここは私の部屋みたいになっちゃってるから。

 こうなってくると――本当に、どうして私がここで暮らしているのか判らない。

 強いて言うのなら……この家は、四人で暮らすには狭いとしても、独りで暮らすには広すぎるから、なのかもね。

 とはいえ、事実上私が世話になっている立場である。

 だから、炊事当番――などと交代制にするつもりはない。

 賑やかだった頃には霞んでいたことも、二人で暮せば見えてくるものもある。

 あの人は……案外洋食の方が好きなのよね。

 だから、今日はポークソテーにしてみた。

 下味は付けているので、あの人が帰ってきてから焼けばいい。

 しばらくして……今日は九時を回る前に帰ってきてくれた。

 最近、少しずつだけど帰宅が早くなっている。

 ちょっとだけ、嬉しい。

 脱いだジャケットを受け取って、ハンガーに通して掛ける。

 フライパンに火は入れてるけど、少しくらいならコンロを離れても大丈夫でしょ。

 一足先に席に着いた彼に、食前酒代わりの生ビールを一杯。

 私は未成年だから飲めない。

 そうこうしているうちにメインディッシュも焼き上がった。

 少し遅くなったけど……二人だけの静かな晩餐。

 特に話すこともなく、落ち着いた時間が過ぎていく。

 一日の終わりはこれでいい。

 騒がしいのは、昼間、学校でやってきたから。

 ここで――私のポケットがブルブルと震え出す。

 中からスマホを取り出してみると――お姉ちゃんからだった。

「今度の日曜日、一緒に買い物に行こう……って」

 来週に控えた、私の、誕生日プレゼントを。

「……そうか」

 相変わらず、無関心。

 こればっかりは、私もちょっと寂しい。

 だからかな、少しだけ口数も増えてしまう。

「お姉ちゃんたちが出ていってから……随分経つねー……」

 ここに来たとき、私まだ小学生だったんだけどね。

 お姉ちゃんに続いて瀧君もついに社会人になっちゃったし、私もいつの間にやら高校生だ。

 だけど、これに対する彼の返答は素っ気ない。

「キミは……まだ出ていかないのか?」

 そんな冷たい言い草に、私も少し冷たく返す。

「出ていって、欲しいの?」

 肯定されても悲しいのだけど――幸い、ちゃんと困ってくれた。

「そうは、言っていない」

 これが彼なりの精一杯の優しさ……なんでしょうね。

 彼も彼で――気にはしているみたいし。

「だが……私と暮らしていても、楽しくもないだろう」

「楽しいとか、楽しくないとか……そういうんじゃないんだよ、家庭ってのは」

 壊れてしまうものもあるけれど、

 確かなものが、ここにある。

 そういうものを、求めてしまう。

 だから……私はここにいる。

 ご馳走様、と彼が席を立ったので、私は二人分の食器洗い。

 いつもの彼なら、この後すぐにお風呂に入るところなのだけど――今日に限って、彼は食卓に戻ってきた。

「これを……キミは使えるか?」

 水を止めて振り向くと、テーブルの上にはシックな濃紺の箱が置かれていた。手を拭いてからそれを開けてみると――中身は地味なネックレス。地味だけに、色んな服に合わせられそう。数十年前のデザイン、ってところに目を瞑れば。

「ありがと。でも、誕生日にはまだ早いよ?」

 そういうのは、ちゃんと当日に欲しかったのだけど。

「深い意味はない。処分に困っていただけだ」

 でしょうね。きっと、渡すべき人に渡せず、埃を被っていたのでしょうから。

「なら、誕生日には深い意味のある贈り物、期待していいの?」

「……娘相手に深いも浅いも意味はない」

 ごく自然に実の娘みたいに接してくれるところは嬉しい。

 だけど――

「私、娘どころか、血も繋がらない他人だよ」

 それも、正式に結婚できる年頃の。

「赤の他人と、いい歳した娘が同棲しているのか。一人暮らしの男に家で」

 彼にも世間体、ってのがあるものね。

 だけど、私はあえて知らん振り。

「そだよ。……ダメ?」

 今ある違和感は、数年も経てば薄まって消える。

 私は、そう信じている。

 けど。

「構わん……が、変な期待は持たないことだ」

 そう言って、彼は再び席を立ってしまった。お風呂で疲れを取った後は、晩酌でもしながら寝てしまうんでしょうね。

 変な期待は持つな……か。ま、それもそれで、あの人らしい気はする。

 でも、私にはそれで充分。

 一人暮らしは寂しいもんね。

 だから……私がここにいてあげるよ。

 気が変わるまで、ずっと、ね。

 

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