pixivに投稿した作品の転載です。内容は『比叡』が艦娘になる前から交際していた恋人とのひさびさのデートです。

艦娘の設定に以下の注意点があります。

・艦娘は普通の女性が艤装を身に付けた姿。
・深海棲艦の攻撃への耐性以外は普通の女性そのもの。なので身体が成長したり病気や怪我をしたり、子供を生むこともできる。
・鎮守府外との交流も自由。

艦娘×オリキャラなので、苦手な方はご注意ください。あと一部変態プレイじみた描写があります。

今作オリジナルの比叡の本名が出てきたり、金剛型は血縁的な意味での姉妹ではなかったり、艦娘の喫煙描写やケッコンシステムの独自設定がありますので、予めご了承願います。




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比叡恋路

「比叡恋路」

 

 

 

……ザザーーーーーーン……

 

――春の夜の港に立つ、ある愛し合う若い男女――

 

 

「××さん……わたし……になります」

 

「……? 〇〇ちゃん、なんでそんな……」

 

――二人に訪れた、離れ離れになるという試練――

 

 

「でも……あなたとは、別れられません……」

 

「……僕も同じだ」

 

「遠くに行っても、わたしのこと……忘れないですよね?」

 

「もちろんだ……! 〇〇ちゃんのこと……ずっと、待ってるから……」

 

「××さん……!!」

 

 

……ぎゅっ!

 

 

「信じてるよ、〇〇ちゃんとの未来……」

 

「わたし、頑張りますから……見捨てないで、くださいね?」

 

……

 

――細い身体を抱きしめあい、震えながら唇を近づけた――

 

……ちゅっ……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「むにゃむにゃ…… は……さん、もっと……」

 

……ちゅん、ちゅん……

 

「……ひえぇ!? ……夢、だったのですね……」

 

 窓から射し込む眩しい春の朝日と元気に鳴く雀の鳴き声が、わたしを現(うつつ)の世界へと連れ戻したのでした。

 

 

「うう……恥ずかしい……」

 

 甘い色恋沙汰の夢から現実へと戻されたわたしは、思わずベッドの上で一人赤面しました。

 

 

「はあ、やっぱり……忘れられないのですね、どんなときも……」

 

 ただその夢は、決して下劣な妄想などではありません。わたしがこの身で体験した、昔――といっても遠い過去のことではありません――の記憶だったのです。

 

 

サーーーーーーーー……

 

「ふう……」

 

 目をすっきり覚ますために浴びた少し熱めのシャワー。雨のような水滴が白い肌に降り注ぎ、平均よりも少し背の高い華奢な身体を伝います。

 

 

「気合、入れなおさなきゃ……」

 

 次第に覚めていく意識とともに『今日これからのこと』を思い、気を引き締めたのでした。

 

 

 わたしは『川崎早苗<かわさきさなえ>』と言います。都会のごく普通の家庭に生まれ、特に目立つこともなく高校、そして専門学校を卒業して社会に出た、平々凡々な25歳の女性でした。

 

最初は都心のとある金融機関で働いていました。別に優秀だったわけでもなく、むしろ要領が悪くて仕事を満足に覚えられずにミスをしては怒られる――どこにでもいるようなありふれたOLだったと思います。

 

 

 今は転職して神奈川の港町・横須賀で働いています。気付けばここで働き始めて3年になり、最初の職場よりも長くなりました。忙しい仕事ですが待遇はよく、同僚との関係も良好で充実した生活を送っているものです。

 

ただその『仕事』というのがかなり特殊なものでした。わたしはこの横須賀の『鎮守府』というところで――『川崎早苗』という本名ではなく『比叡<ひえい>』という名前で――海の平和を守る『艦娘(かんむす)』として働いているのです。

 

 

 『深海棲艦(しんかいせいかん)』と呼ばれる化け物が世界中の海の底から現れ、船を次々と沈めて陸地を攻撃する――話だけ聞けばSF作品や特撮映画などのフィクションの世界かと思われるかもしれませんが、ここ5、6年ほどわたしの生きる『人間社会』で起こっている紛れもない『現実』なのです。

彼らが現れた当初は世界中の軍隊がなすすべなく負け続け、核兵器すらも効果なくいよいよ人類の命運も尽きたか――当時専門学校生だったわたしは、連日の絶望的な報道を今でも鮮明に覚えています。

 

 

 そこに現れた救世主が『艦娘』でした。敵を倒すには敵の兵器でという発想で開発された、『艤装』と呼ばれる秘密兵器。

屈強な男性でさえ扱えなかったそれを、ある小さな女の子が身に付けて海に出て初めて深海棲艦を倒した――『本人』から聞いた『始まり』の話はそんな感じだったと思います。

 

 

それから深海棲艦に対抗するために『艤装』は量産され、志願・召集両方でそれを身に付けられる女性が集められました。

そしてわたしもその中の一人というわけです。3年前に召集され仕事を辞めて鎮守府にやってきて、艦娘『比叡』になったのでした。

 

わたしが身に付ける『高速戦艦』の艤装は強大な火力と高い防御力に加え、海上を器用に駆けまわれる速力があるので起用法の幅が広く、あらゆる作戦に抜擢されて北はアルフォンシーノ方面から南はサーモン海域まで、日々各地を転戦しているのです。

 

 

「いけない、いけない……急いで仕度しないと……!」

 

 そんな忙しい毎日を送っているのですが、今日は久々にお休みをいただくことができました。

そして『ある約束』のために、朝から出かけることになっているのです。その時間が迫っていたこともあり、慌てて準備を始めたのでした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ひええ……大丈夫かな……」

 

タタタ……

 

 太陽が顔を出しきり、穏やかな春の日差しが降り注ぎ始めたころ。なんとか仕度を終えて艦娘の宿舎『艦娘寮』を出たわたしでしたが、予定の時間より少し遅れていて、やや急ぎ足で目的地へ向かおうとしていたのでした。

 

 

タタ……

 

「あら、比叡さん! おはようございます♪」

 

正門が見えてきたときのこと、聞いた人の心を自然と弾ませるような明るい声の挨拶に、わたしは足を止め声の主の方を向きました。

そこにいたのは細身の身体に紺青色のスーツとスカートと丸帽子という服装で、わたしと同じくらいの背丈で腰のあたりまで伸ばした金髪の女の子でした。

 

 

「あ、愛宕<あたご>ちゃん! おはようございます!」

 

 『愛宕』ちゃんはわたしと同じくこの鎮守府に所属する艦娘です。年齢は19歳で、去年艦娘になった『後輩』なのです。

夜間挺身攻撃、いわゆる『夜戦』を得意としていて、新型装備である『探照灯』を身に付けている姿から、夜戦から帰ってきたばかりなのでしょう。

 

陽気な性格で鎮守府のムードを明るくしていて、辛い戦場でも笑顔を絶やさない姿はわたしだけでなく多くの艦娘の励みになっています。

 

 

「まあ♪ お洒落な服装ですね♪」

「どうです、似合いますか?」

「ええ♪ 『姉妹』の皆さまに……ですか?」

「はい! いろいろ応援してもらって……」

 

 『姉妹』というのはこの鎮守府に所属する艦娘の中で、特に親しくさせていただいている『3人の艦娘』のことです。姉妹とは言いますが血縁的な意味ではなく、年齢も出身も全く違っているのですが、まるで本当の姉妹のように仲良くしていることからそう呼ばれているのです。

 

 

「今日のこのファッション……『金剛<こんごう>』お姉さまに選んでいただいたもので……」

 

 

『Oh! 比叡、very goodなclothesを持ってマスネー! コレとコレとコレで……Yes! Congratulations!!! Burning love間違いなしデース!』

 

 

 『金剛』お姉さまはわたしの3つ年上の方です。英語交じりの口調からわかるように英国の出身で、本国では海軍の士官だったそうです。

軍人だったこともあって戦闘に関してはシビアな考えを持っておられますが、普段は愛宕ちゃんにも負けないくらい陽気で面倒見がよく、公私ともにとてもお世話になっているものです。

 

今日のわたしの服装――ピンクのカーディガンに白のワイシャツ、紺のジーンズ――は金剛お姉さまに選んでいただきました。カジュアルながらもお洒落な組み合わせで、お姉さまのセンスの良さを感じられるものです。

 

 

「このペンダントは……『榛名<はるな>』からもらったんです」

 

 

『比叡お姉さま、あかり……いえ、榛名のペンダント、ぜひ付けていってください』

 

 

 『榛名』――『あかり』と言っているのは彼女の本名が『首藤あかり』だからです――はわたしより10歳年下の女の子で、北の大地のとある田舎から一人でやってきました。

礼儀正しく大人しい性格で、まだ子どもということもあって最初の頃はとても不安そうにしていたことが思い出されますが、今ではすっかり鎮守府に慣れてわたしたちによくなついてくれています。

 

榛名がくれたペンダントは金の鎖に琥珀(こはく)を飾ったもので、故郷の特産品で作られた彼女のとっておきの宝物なのです。

 

 

「そしてこのバッグ、『霧島<きりしま>』から譲ってもらいました」

 

 

『これを身に付けていれば、比叡お姉さまの美しさが引き立つこと間違いなしですわ?』

 

 

 『霧島』はわたしより2つ下で、西日本のある有名な家系の出身だといいます。眼鏡をかけた風貌の通りとても頭が切れ、艦隊には欠かせない存在です。

もらったバッグはクロコダイルの革を使った高級品で、親御さんからいただいた大事な品だそうです。

 

 

『まあ、文句を言うやつがいたりしたら……ただじゃおかない……はっ、つい地が……』

 

 

 もっとも……怒らせると非常に怖い性格で、陰では口に出すのもはばかられるようなあだ名をつけられているらしいですが……

 

 

「仲のいい子がいるって本当に楽しいですよね♪ 大学に行った『私のお友達』も今頃元気にしてるかな……なんて、うふ♪」

「ふふ……あ、すみません……そろそろ行かないと……」

 

 彼女との会話を楽しみたくもありましたが、もっと『大事なこと』が控えていることもあって、名残惜しくもこの場を去ろうとします。

 

 

「あらごめんなさい、呼び止めたりして悪かったわ?」

「いえいえ大丈夫です……では……」

 

タッ……

 

 

「……私にもいつか、『良い人』が現れるかしら……比叡さんみたいに」

 

 

「……? 何か言いました?」

「気になさらないで、独り言です♪ ほらほら、電車に遅れますよ?」

 彼女がふと呟いた言葉が気になったものの、ここでは深く考えないようにして先を急いだのでした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「次は××~××~」

 

プシュー……ガラッ……

 

「い……急がないと……!」

 

 太陽が南の方角へと昇りはじめ、日差しが強くなってきたころ。休日の満員電車に揺られながら、ようやく目的地の駅に到着しました。

予定の時間より少し遅れていることもあって、列車を飛び出し強引に混雑をかき分け進もうとします。

 

 

タッ、タッ……

 

どんっ!

 

「おいこらぁ! どこみて歩いてんだっ! ツラ見せろ!」

「ひええぇ! す、すみませんっ!!」

 

 急ぐあまり怖そうな男の人にぶつかってしまいましたが、一言謝って先を目指します。そんな小さいことに構っていられないくらい、わたしは焦燥に駆られていたのです。

 

 

「はあ、はあ……」

 

……ドクッ、ドクン!

 

 駅の構内を駆け足で進むうちに、小さく膨らんだ胸の奥の心臓の鼓動が、次第に力強くなってくるのを感じました。

それが単なる激しい運動の産物でないことはわかっています――この5年間、何度も味わってきた感覚でしたから……

 

 

タッ……!

 

「はあ、はあ……着いた……」

 

 改札を出た先の駅前の広場は、『黒山の人だかり』という形容詞がぴったりなくらい大勢の人で賑わっていました。人々の雑踏と話し声、駅前の通りを走る自動車のエンジン音が響き渡っています。

ただでさえ都会の中心であるうえに、広場の中央にある『ワンちゃんの銅像』が待ち合わせ場所の定番だからでしょう。

 

 

「どこ……ですか……」

 

 ……かく言うわたしも同じです。『ある人』とここで『待ち合わせ』をしていたのですから。

その『相手』を見つけようと辺りをキョロキョロと見渡しますが、なにせ人がたくさんいるのでなかなか探し出せないでいました。

 

 

「……早苗ちゃん!!」

 

 

 その時でした。わたしの右斜め前方の銅像の正面あたりから、『わたしの本名』を呼ぶ声がしたのです。その声を聞くや条件反射のように、声が発せられた方に視線を向けました。

大人の男性の色気を含んだ低い声――その主がわたしの『待ち人』であるという確証があったからです。

 

 

「……!」

 

 わたしの目に映った『声の主』は、灰色のジャケットと紺のチェックのワイシャツに黒のスラックスというカジュアルなスーツ姿の男性でした。

知性を感じさせる端正な顔立ち、そしてわたしの顔をじっと見つめる優しい視線――紛れもなく『約束の相手』そのものだったのです。

 

 

「……速人<はやと>さん!!!」

 

 

タッ、タッ、タッ……!!

 

 

ぽふっ……

 

ぎゅうっ……

 

人ごみをかき分けて一直線に向かい、その厚い胸板めがけて飛び込んだわたしを、彼は力強く……抱きしめたのです。

 

 

「すみません、待ちましたか?」

「ううん、僕も、今ついたばかりさ……」

「ふふ……優しいあなたらしいですね。そんな嘘つかなくていいのに……」

「ははは……早苗ちゃん、君には敵わんな……」

 

 華奢な身体をぎゅっとされながら感じる彼の力強い鼓動、胸に顔をうずめながらの甘い会話……人混みの中であることを忘れ、至福の時を二人過ごしていたのでした。

 

 

 彼――『高谷速人<たかやはやと>』さんはわたしより4つ年上で、艦娘になる前の職場の上司だった方です。

仕事をバリバリこなす一方滅多に怒らない温厚な性格で、ドジばっかりしていたわたしの面倒をよく見てくださったものでした。ミスをしても頭ごなしに叱ったりせず仕事を終わらせるまで付き合ってくれる、わたしにとって理想の上司だったのです。

 

 

「また会えて……うれしいです」

「僕もだよ。早苗ちゃんが元気そうでなによりだ」

「一月振りですね。楽しみにしていましたよ、速人さんと一緒にいられるの……」

「今日は思う存分、楽しもう……!」

 

 わたしと速人さんが『待ち合わせ』をした理由が『元上司と部下』としてではないことは、先ほどの様子からも明白かと思います。

今更言うまでもないかとは思いますが――お互い好き合う『恋人同士』として、今ここで同じ時を過ごしているのです。

 

 

 たとえ異形の存在と戦う女戦士だろうと、艦娘は普通の女性そのものです。恋愛もすれば結婚して子どもを持つ方さえいます。

そして中にはわたしのように、艦娘になる前の人生で出会った『恋人』がいる場合もあるのです。『鎮守府』での共同生活という特殊な環境に身を置くとはいえ、外部との関係が切れるということはありません。

 

 

 速人さんに優しく接していただくうちに、わたしは彼に『上司と部下』以上の感情を持つようになりました。平たく言えば『恋心』を抱いたのです。思いが募った末のわたしの告白を速人さんは笑顔で受け入れてくださって、わたしたちは『男女の関係』になりました。

そして違う環境で生きることになってなかなか会えなくなった今でも――最初の頃は会えなくなって不安定な関係になることもありましたが――その関係は変わっていません。

 

 

「では……行きましょう? 今日一日、よろしくお願いしますね?」

「ああ! 行こう、早苗ちゃん……」

 

がしっ……

 

 大きさの違う手を繋ぎながらゆっくりと歩きだすわたしと速人さん。彼のはにかんだような笑顔を見ると、つられて嬉しくなるものです。

 

 

「似合ってるよ、今日の服……」

「速人さんも、すごくおしゃれ……」

こうして艦娘『比叡』の心待ち――『恋人とのデート』が幕を開けたのでした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「速人さん、この服、似合ってますか?」

「うん、かわいいね早苗ちゃん。どれ、買ってあげるよ……」

 

「早苗ちゃん、このネクタイどうだろう? お洒落だし仕事にも使えそうかな……」

「はい! とってもお似合いです! ここはわたしが……」

 

――若者の街でショッピングに興じ――

 

 

「むにゃむにゃ……」

「早苗ちゃん……」

「……はっ! 寝てません、寝てませんってば!」

「しーーー……! 静かに……」

 

「ひえーーーーーー!」

「はは……驚きすぎだって」

 

――騒がしくも映画を楽しみ――

 

 

「わあ……! きれいな夕日……」

「綺麗だね……街中オレンジだ……」

 

「あ、見てください! 艦娘が海に出てますよ!」

「え、どこどこ?」

 

――電波塔で夕日に酔いしれ――

 

 

「速人さん……」

「早苗ちゃん……」

 

……ちゅっ。

――口づけあったのでした――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ありがとうございます……楽しいデートになりました!」

「お礼を言うのは僕の方さ、素敵な時間をありがとう……早苗ちゃん」

「……乾杯しましょうか」

「うん……乾杯」

 

カチャッ……

 

くいっ……

 

くい……

 

 太陽がすっかり落ちて、上弦の月が仄かに光りはじめたころ。わたしたちは繁華街の一角にある行きつけのバーで、素敵な一日への感謝の祝杯をあげていました。二人揃って注文した小さなカクテルグラスに入った辛口のカクテルが、舌に大人の味を感じさせてくれます。

小奇麗な内装にボトルを照らす淡いオレンジ色の照明、ほんのりと漂う煙草(たばこ)の匂い、そしてBGMのジャズピアノの音色が、落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していたのでした。

 

 

「楽しい一日でした」

「ふふ……僕もだよ」

 

ゆったりと時間が流れる空間の中で、今日のデートを振り返ります。速人さんの穏やかな笑顔が、充実した一日を物語っていました。

 

 

「……次はこの服、着てきますね」

「ネクタイにワイシャツも買ってもらっちゃったけど、僕も次はこれだ……なんてね」

「ふふ……」

 

最初に訪れたお店でのショッピングでは、お互いに気に入ったものをプレゼントしあい、また会える時に着飾ろうと約束したのです。

思えば上司と部下だったころからも、二人でお金を出し合ってということをしばしばやってきたものでした。

決して速人さんがお金にうるさいというわけではありません。わたし自身『男性が女性に一方的にお金を払うもの』という――お金で女性を繋ぎとめるような――どこか前時代的な『暗黙のルール』が嫌なのもありますし、この方が互いに楽しみあうという一体感を得られると思っているのです。

 

 

「どうしても……映画では眠ってしまうんですよね」

「そういうお茶目な早苗ちゃん、かわいいけどね……特に寝息なんて……」

「もう……」

 

 話はそのあとに観た映画のことに及びました。ちょうどお昼を食べた後で眠気があったとはいえ、恥ずかしいことをしたなあと思いますし、それを速人さんがいじってくるのでなおさら赤面してしまうものです。

普段はすごく優しいのにこういうときだけちょっと意地悪なことをする速人さんに、頬を膨らませてしまうのでした。

 

 

「でも迫力あったね、昔のものとは思えないくらいだよ」

「ほんとに……噛みつかれるかと思いましたよ……」

 

 私たちが観たのは一昔前の『怪獣を題材にした映画』です。CGを駆使した美しい映像とハードなストーリーから、今でもたびたび上映されている人気の作品なのです。

 

 

「今だったら、わたしたちが出動する……なんてことになるかもしれませんね」

「かもしれないな。防衛隊の攻撃が通じないなんてなったら……まさか本当にそうなるなんて思ってもいなかったけど」

「深海棲艦には使っちゃいましたよね……『アレ』」

「……現実の人間は怖いものだよ……」

 

 映画のフィクションと現実社会を照らし合わせて、しばし感傷に浸っていたのでした。

 

 

「あの夕日……また見たいです!」

「そうだね、また来よう」

 

 最後に訪れた都会で一番高い電波塔の展望台。水平線まで広がる建物がオレンジに染まる光景はなんとも幻想的で、デートの雰囲気を一層引き立てるものでした。

 

「南国の珊瑚礁の夕日も……すごい綺麗でした」

「へえ、どんな感じ?」

「夕日のオレンジが海に照らされて、水面の青と混じりあって……一度見せたいですね、うっとりしますよ」

「その時は二人きりで……さっきみたいにキスして」

「もう、照れますね……」

 

いつか速人さんと過ごす明るい未来……それを想像すると自然とほっこりしてしまいました。

 

 

くいっ……

 

「煙草、いいかい?」

「では、わたしも……」

 

しゅぼ……

 

しゅぼっ……

 

「ふう……」

 

今日の思い出で盛り上がってからはゆっくりお酒を飲みつつ、一息つこうと二人して煙草に手を伸ばしたのでした。

ポケットから青い煙草のパッケージとライターを取り出し、口にくわえながら手慣れた手つきで火をつける速人さん。わたしもバッグの中から速人さんのと同じ銘柄の緑のパッケージとライターを取り出し、同じ仕草で火をつけます。

 

ゆらゆらとした煙とともに薄荷(はっか)の爽やかな香りが鼻腔(びこう)を突いて、頭の中をすっきりとさせてくれるのでした。

 

「すぅ……」

「……うふ……」

 

 左手の人差し指で軽く煙草を叩いて灰皿に煙草の先の燃え滓を落としながら、速人さんが紫煙を燻(くゆ)らせて、半目開きでゆっくりと煙草を味わっているさまを、うっとりとしながら眺めていました。

 

 

 わたしが煙草を吸い始めたのは速人さんと付き合い始めたころのこと。彼が吸っているのを真似して……というのがきっかけだったと思います。

今のように穏やかに煙草をのんでいる姿がなんともかっこよくて、彼と煙草の時間を共有したいなんて思ったのでした。

最初は慣れずによく煙にむせていたものですが、吸い始めて長く経った今では少しツンとする煙の味と身体が温まってくる感覚を楽しんでいるものです。

 

 

「鎮守府では吸ってるの?」

「最近はあまり吸わないですね……小さい子もいますし、マナーもありますから……」

「歩き煙草みたいなことする人もいるからなあ……」

「うちにもいますね……『駆逐艦は……んだよ』なんて吐きながら子どもの前でも……」

「それはひどいね……ちゃんと楽しめばいいものを……」

 お洒落なカクテルとビターな煙、そして静かに紡がれる会話――ゆったりと流れる『大人の時間』を二人して堪能しながら、夜は深まっていきました。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「そろそろ出ようか」

「そうですね……」

 

 BGMとして流されていたアルバムの曲がちょうど一周したころ。お酒を味わい、今日の思い出を語らいあったわたしたちはお店を後にして、家路に就こうとしていました。

外はすっかり暗くなっていて、少し冷たい春の夜風がわたしの短い髪を軽く揺らしています。

 

 

「この後は……」

「……はい……!」

 

 家路とは言いましたが、今日帰る先は艦娘寮ではありません。デートの日には外泊許可を取っており、決まって『泊まる所』があるのです。

 

 

「きれいにしてあるから……」

「ふふ、毎回おなじみですね? 『速人さんのお部屋』、汚れていたことなんてなかったでしょう?」

「まあね、こう言うのはもうお約束か……?」

 

 わたしたちが向かおうとしているのは『速人さんの自宅』――つまり恋人の家で『夜を共にしよう』というわけです。

 

 

――恋人同士というからには、当然『夜の大人の楽しみ』をしあう関係でもあります。どちらも品行方正とはいえ『体を重ねるのは結ばれてから』というお堅い考えはしていません。

付き合い始めてからというもの、速人さんとは何度も『抱き合って』きました。最初の頃はお互い勝手をつかめなかったものですが、今ではお互いの悦ぶところを知り尽くしているほどです。

 

 

「……たくさん、愛してくださいね?」

 

たっ、たっ……

 火照った身体を寄り添わせて、夜道の静寂の中を歩く二人……力強く脈打つ自分の鼓動をひとつひとつ感じながら、『大人の時間を過ごす場所』へと歩みを進めました。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

ゴシゴシ……

 

「♪ふーんふ、ふーんふー、ふんふふーふふんふふー……」

 

 浅く湯気の立つタイル張りの空間、どこか懐かしいシャボンの香り――鼻歌で『世界初の艦娘を歌った曲』を奏でながら、華奢で色白な身体を輝かせようと丁寧に洗っていました。

 

 

ガラガラガラ……

 

 

むにゅっ……

 

 

「ひ、ひえっ!?」

 

 身体中にシャボンの泡が行き届き、洗い流そうと腰を上げたときでした。浴室の引き戸が開く音がするや、わたしの小振りな胸が大きな掌に包まれたのです。

女性としての悦楽を感じる場所を、背後から泡の滑りとともに優しく揉みしだかれる――その快楽に思わず高い声をあげてしまったのでした。

 

 

「ふふ……びっくりしたかい?」

「もう速人さん……驚いたじゃないですか」

 

 もちろんこんなことをする人は一人しかいません。わたしの背後にいたのは何も着ていない、筋肉質の身体をあらわにした速人さんでした。

 

 

むにゅっ……!

 

「ひ……! んっ……!」

「早苗ちゃんのお気に入りだもんねここ……」

「ん……うふ……わかってくれているのですね……」

「早苗ちゃんのことならなんでも……こうされるのが好きだってのも……」

 

むにゅ……くりっ!

 

「ひえっ! おちち……!」

 

 胸を掴みながら指先で肌を優しく撫でた後に、乳首を小刻みにいじる――肌をなぞる感覚が心地よくて、速人さんの言うとおり気持ちよくてたまりません。

指だけでなく身体についた泡のぬるっとした感触も加わって、快楽の波をさらに増幅させるのでした。

 

 

「ふう……次はわたしが……」

 

もふもふっ……

 

 速人さんに気持ちよくさせていただいた後は、わたしが彼を気持ちよくさせる番です。シャボンの原液を手でこすって泡立ててホイップクリームのような白い泡のかたまりを作り、先ほど胸を揉まれたときとは逆の、お互いに正面を向き合って立つ体勢を取りました。

 

速人さんの整った顔立ちと筋肉の浮き出た浅黒い身体を間近に見られて、抱き合いたいという思いがさらに募ってくるのです。

 

 

「おっきくしてあげますよ……」

 

むにっ、むにゅっ、ふわっ……

 

 泡だらけの手を速人さんの股間に持っていき、そこに泡のかたまりを塗り付けて泡だらけにしました。さらに泡の中に手を入れて、泡にまみれた速人さんのおちん×んを触りはじめたのです。

 

 

「ううっ……! 泡っ、気持ちいいよ……!」

「気持ちよさそうな声あげて……どんどん大きくなってきてますよ? 速人さんのおちん×ん……」

「早苗ちゃん、上手すぎて……」

 

ぷにっ……

 

「う……キン×マ……!」

「ここ弄られるの好きですものね? ぷりっとしていておいしそうですよ?」

 

大好きな恋人のおちん×んを立派な姿にして、わたしを極上の快楽に溺れさせてくれるものにしようと、速人さんとの逢瀬で身に付けてきた気持ちよくするための『性の技』で刺激を重ねます。

 

 

ぬるっ、ぬう……

 

「ふふ……う……くすぐったいよ早苗ちゃん……」

「速人さんだって……あちこちまさぐって……あん……」

 

 それから泡まみれの身体を密着させあって、まるで洗いっこするかのようにお互いの身体を擦りあいました。肌に伝わる速人さんのたくましい筋肉の感触と身体の温かさ、それはなんとも甘美な味です。

初心(うぶ)な『子ども』には到底できない濃厚な前戯に心も体もとろけさせ、あたかも闇夜に灯るキャンドルの灯りのように、『大人の男女』の愛の炎を静かに、そして美しく燃やしていたのでした。

 

 

「気持ちいいよ……すごい……」

「そのようですね……それを見たら……ふふ……」

 

 速人さんがわたしの愛撫に満足してくださっていることは、先程とは違う姿になった彼のおちん×んが物語っていました。泡にまみれた陰毛の密集から伸びているそれは長さ15センチを超え、完全に大きくなった状態になっていたのです。

ところどころに細かい泡を纏いながら雄々しく上を向いていて、黒ずんだ皮の下に青く太い血管が走っているのが見えます。

 

『経験』のある艦娘たちは冗談半分でおちん×んのことを『主砲』なんて呼んだりするものですが、彼のそれはわたしが普段装備している戦艦の主砲にも負けないような、圧倒的な存在感を放っていました。

 

 

すりすり……ぬるっ……

 

「もう、いやらしくて元気なおちん×んですね……おま×こすりすり入りたがりして……」

「ふふ、わかるだろう? 早苗ちゃんのとろとろおま×こ欲しがってるって……」

 

 背を向けあいながら身体を密着させるわたしと速人さん。身体を洗った泡がまだ残っていて、肌が触れ合いぬるぬると滑る感覚が気持ちよくてたまりません。

そこに臨戦態勢の彼のおちん×んの先端が、わたしのおま×この入り口をこじ開けようとしているみたいになぞってくるのです。それに対抗するかのように、わたしも華奢な身体に似合わず安産型のお尻を小刻みに振って挑発したりします。

 

 

「ここでそのまま入れちゃいますか? ……今日は中でも大丈夫な日ですよ?」

「いいのかい? よおし、それならお言葉に甘えて……」

 

 

くちゅ……ずぶっ、ずぶぶ!

 

 

「んっ! おちん×ん……太い……!」

 

 後ろから狙いを定めて一気に入ってきた速人さんのおちん×んは、何度も受け入れてきたわたしのおま×この中に根元まで挿入されたのでした。

ガッチガチに固くなっている指二本分ほどの太さのおちん×んが、中の粘膜を擦りながらおま×こを広げていく感覚は、何度味わっても気持ちのいいものです。そのうえ『余計なもの』を被っていないので熱と脈動がじかに伝わり、背徳感と合わさってさらなる快楽を呼んでいました。

 

 

ずぶ、ずぶっ、ずっ……!

 

「ふふ……やっぱり最高だよ、早苗ちゃんのおま×こ……すぐ出しちゃいたいくらいだ」

「もう、こういうときだけはせっかちなんですから……んっ……!」

「早苗ちゃんも気持ちよさそうだね……僕のおちん×ん……」

「だって、形も大きさもピッタリなんですもん……離したくありませんよ……!」

 

 おちん×んがおま×この中を上下するたびに伝わる、痺れるような強い快感。幾度肌を重ねようとも、弱まるようなことはありません。速人さんがすぐ出したいと言っているように、わたしだってそのまま身を預けたい……なんて思うくらいですから。

 

 

ずりゅっ、ずりゅっ……

 

むにゅっ……

 

「ひえ……そこは……んっ、胸も一緒に……!」

「奥ぐりぐりされるの大好きだもんね、早苗ちゃん……」

「んん……弱いところばっかり……」

「そういう早苗ちゃんだって……おふっ……そんないやらしい顔で、腰振ったりして……」

 

 先ほどのように優しく胸を弄りながら、おま×この一番奥――わたしにとって最も気持ちよくなれるところ――を突いてくる速人さん。わたしもお返しとばかりに細い腰をうまく使い、おちん×んをねじるようにして刺激を与えます。

 

泡でぬめる身体を絡め、互いの悦びを探りあう……普段は会えない恋人との情事を、磨き上げた技を見せあいながら楽しむのでした。

 

 

「うう……! 出るっ! 早苗ちゃん、一回出させて……」

「ふふ……いっぱい出してくださいね? わたしとおま×こするために、溜めてるんでしょうから……」

 

 いつもはそそっかしいわたしですが、恋となったらお手のもの。経験の浅い女の子みたいに射精に驚くなんてことはなく、淫らな言葉で興奮を誘おうとします。

生の粘膜の触れ合いだからこそ味わえる『秘密の味』を堪能したい――仕上げとばかりにぐっと腰を動かし、速人さんにたくさん出させようと促すのでした。

 

「くっ……!」

 

 

……どくっ! どくん、どぷっ……!

 

 

「くう……! 気持ちいい……!」

「あん! あんっ!! はあ、はあ……あったかい……」

 

 速人さんが腰をぐっと突き出すとともにおちん×んがぴくっと震え、ドロッとした精子が勢いよくわたしのおま×この中に吐き出されていくのが感じられました。

中の粘膜に精子が強く当たり、じわじわと快感の大波を呼んでいます。わたしは目をうっすらと閉じ口を半開きにしながら、断続的に襲う快楽を堪能していたのでした。

 

 

……とくん……とく……

 

 

「うう……はあ、はあ……」

「ふふ……まだ出してますね……」

 

 大量に吐き出された後の微量の射精と名残惜しそうにぴくぴくと脈動するおちん×ん。そして快楽に支配されて漏らす荒い吐息。

それらを感じるたびに、この愛する人を心ゆくまで満足させた、頭の中をわたしでいっぱいにさせたという、ある種の達成感のようなものが湧いてきて、この上ない幸福を感じさせてくれるのです。

 

 

「すごい……久しぶりの早苗ちゃん……」

 

すりすり……

 

「もう、まだ擦ってきて……いやらしいんですからあ……」

 

 射精が終わった後も立ちながら身体を重ね、泡と汗で濡れた肌を絡めあったまま。わたしも速人さんも絶頂を迎えた後の気だるさに浸っていました。

 

 

ぼた、ぼたっ……!

 

 激しくまぐわったおま×こからは速人さんが吐き出した精子が垂れ、床に跳ねて重たそうな音を立てています。情事を締めくくる淫らなリズムをしばし聞き入っていたのでした。

 

 

「続きは……ベッドで……」

「ええ……まだこんなに元気なら……ふふふ……」

 

しゅこ、しゅこ……

 

射精したばかりだというのに大きくなったままの速人さんのおちん×ん。わたしの愛液でぬめる膨らみを、男の人が自分でするように手で軽くしごきます。

 

 

「うう……おちん×んしこしこしたりして……エッチな子だなあ早苗ちゃんは」

「そういうわりには好きがってますけどね……ふふ……」

 

嬉しがる速人さんを見ておのずと笑顔になるわたし。自分では見えませんが、『エッチな子』という表現通りに淫靡な笑みを浮かべているのかもしれません。『また会えた』という喜びが、積極的な行為へとわたしを加速させているのでしょう。

 

 

「戦艦の『夜戦』はタフですからね、最後まで付き合ってくださいよ?」

「艦娘『比叡』ときたか……よおし、負けないからな……?」

 恋人と過ごす『大人の夜』。普段なかなか味わえない貴重な時間は、もうしばらく続いてくれそうです。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はむっ、ん……んふっ……」

「ふう……ん、ちゅぷ……」

 

――閨(ねや)を彩る小さな光、ほんのりビターな唾液を分け合い――

 

 

じゅぷっ、じゅぷぷ……ちゅぷっ。

 

 

「うう……! 早苗ちゃんのお口……! すごい……」

「ちゅぷ……ぷは、精子の味……たまりません……!」

 

 

ぺろ……

 

 

「ひえっ! そこは……」

「ここのふくらみ、大好きだもんね……?」

 

――互いの秘部を慈しみ――

 

 

「わたしが上に……んっ!」

 

 

ずぶぶ、ずぶっ!

 

 

「くう……早苗ちゃん、激しい……!」

 

 

ぐっ、ぎゅっ……!

 

 

「はあ、はあ、もっと……感じさせて、ください……!」

 

――ベッドを軋(きし)ませ鼓動を高鳴らせ――

 

 

「くう……また出る……!」

 

 

……どくん! どくんっ!

 

 

「ああっ! ……はあ、はあ……熱い……」

 

――迸(ほとばし)る熱い命のかたまりに痺れて――

 

 

「はあ、はあ……早苗ちゃん……好きだ……!」

「はあ……ふふ……わかってますよ……わたしだって、はあ、はあ……大好きですから……!」

――揺らぐことのない愛を誓い合いました――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「とても……楽しみました……ふふ……」

「僕もさ……早苗ちゃん抱くの、やっぱり最高だ……」

 

 日付が変わって30分が経とうとしていたころ。セミダブルのベッドに枕を二つ並べ、同じ掛け布団に裸の身体を包みながら、事後の語らいを楽しんでいました。

布団の中で感じる速人さんの体温と汗のにおい――愛し合ったことを確かめられる感覚は、いつ味わっても素敵なものです。

 

 

「シックスナインなんてひさびさでしたね……おちん×ん美味しくて……」

「二ついっぺんはたまらないな……早苗ちゃんのフ×ラ、本当に上手いからさ……」

「速人さんを喜ばせたくて、覚えたんですから……キスだって、腰使いだって」

「それは僕も同じか? 早苗ちゃんの弱いところ、みんなわかってるからね……」

 

 お互いを知り尽くしているからこそできる濃厚な性の遊戯の数々を振り返り、二人の絆の深さを感慨深く思うのでした。

 

 

……しゅぼっ。

 

「……ふう」

 

 速人さんが枕元に置いてあった煙草に火をつけました。少し間をおいてから大きく煙を吐き出すと、二人の周りにふわりと大人の香りが漂います。

今までの淫らな雰囲気はフェードアウトして、闇夜に適う落ち着いた空気がわたしたちを包んだのでした。

 

 

「仕事のほうはどうだい、早苗ちゃん」

「とても楽しくやってます。速人さんはいかがですか?」

「うん……」

 

 二人だけの世界で、その日常を語り合います。ただ、わたしが楽しい鎮守府生活を話す一方で、速人さんは幾分明るさを落とした表情になっていました。

 

 

「……防衛隊に燃料を売る企業への融資をやってるんだけど……上がなかなかOKしてくれなくてね……」

「そうなんですか……」

「うまくやって早苗ちゃん達を少しでも楽にしてあげたいけど、『艦娘が負けたら無駄金になる』なんて言われてさ……理解のない人たちだよ」

 

物憂げな表情で煙を燻らせる速人さん。単に仕事で壁に当たっているだけではなく、恋人を助けられていないのを歯がゆく思っているのでしょうか……

 

 

「僕がもうちょっと強く言えたら……なんて思ったりもするんだよね……」

「そ、そんなことないです!」

「早苗ちゃん……」

「何度も言ってるじゃないですか……優しいところが速人さんの良いところなんですし……わたしの好きなところなんですから……」

 

 大好きな恋人の辛い姿なんて見たくない――そう感じての励ましでしたが、『優しいところが好き』という言葉は、付き合って5年間ずっと思ってきた紛れのない真実です。

他人思いでよく気遣ってくれる……ただ威張っているだけの見せかけなどではない、『本当の強さ』を感じられるから、わたしは速人さんのことを尊敬していますし心から愛しているのです。

 

 

「むしろわたしがもっと頑張れば……ちゃんと深海棲艦を倒していれば……! すんなりいく話なのでしょう? 申し訳ないです……!」

 

一方的に攻められていた時と比べればましになったとはいえ、まだまだ世界の大部分の海が深海棲艦に制圧されたままです。そしてわたし自身も出撃の機会は多いとはいえ、目覚ましい戦果を挙げられているわけではなかったりします。

速人さんの悲しむ姿なんて見たくないと放った言葉でもありますが、自分のふがいなさを責めたくなる思いも間違いなくあったのでした。

 

 

「……そんな自分を責めないでくれ」

「でも……」

「大丈夫だよ、早苗ちゃんが一生懸命やってるの、ちゃんとわかってるから……すごく頑張り屋だって……」

 

 逆にわたしを悲しませたくないと思ったのでしょう――かけてくれた気遣いの言葉は、どこまでもわたしのことを大事にしてくれることを物語っていました。

 

 

「それに……僕だって何度も言ってるだろう? ……そこが早苗ちゃんの好きなところだって。ぼくには羨ましいんだ、何にでも積極的なのが……」

「速人さん……ふふ、そうでしたね」

「そのままの早苗ちゃんが好きなんだから、僕は……」

 

 

実際のところ頑張り屋とか積極的だなんていわれても単にそそっかしいだけ……自分を誇るのは恥ずかしいのでそう感じたりもします。

ですが好きに思ってくれているところをわざわざ否定するのは意地悪にも思いますし、それこそ彼の恋心を踏みにじることではないかと思うのです。

 

 

「……お似合いですよね、わたしたち」

「だろう? お互いにあこがれるものを持っているんだから……」

「……照れますね……」

 

 一方的な好意じゃない、お互い惹かれあうところがあるからこそ、わたしと速人さんは離れ離れになってもうまくやっていけるのでしょう。

 

 

「まあ、離れ離れになった最初は……ずっとそばに置いておきたい、なんて思うこともあったけどね」

「それはわたしもでしたね……些細なことで喧嘩しましたし」

「早苗ちゃんの本気のビンタ、痛かったよ? ははは……」

「ついカッとなっちゃいましたね……まあ、今では笑い話ですけど……」

 

 

昔の出来事を思い出し、つい二人で苦笑いしてしまいました。もっとも今でこそ笑い話ですが、当時は本気で喧嘩していて二人の仲は終わるかもしれないという状況もありました。

 

 

「結局はそのままがいいってなったけどね。無理やり引き止めたりしたら早苗ちゃんのためにならないから……艦娘の仕事を楽しんでいて、戦果をあげようと努力しているのに……」

「もしそこで無理やりだったら、好きな速人さんじゃないって幻滅してたでしょうね……でもよかったです。優しい速人さんのままでいてくださって……」

「張り切ってる早苗ちゃん、すごい魅力的だから……そこが好きなんだし、わざわざそれを消すなんてね……」

 

 それを乗り切れたのは、お互いを理解できるようになったことだと思います。束縛したりするのではなく、好きな相手のままでいてくれることが一番だと気づけたから、こうして今も仲良くいられるのです。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「いまさら聞くことじゃないですけど……わたしのこと、待っててくれますよね?」

「ああ。戦争が終わるまで待ってるって……もう決まり文句になっちゃったな?」

 

 速人さんとわたしはただの恋人で終わるつもりはありません――しっかり『将来』のことも考えています。

 

 

「指輪、用意してあるんだからさ。早苗ちゃんに似合うの……」

 

 『将来』――すなわち『結婚』することです。平和な世の中になって艦娘を退役したら一緒に暮らし、命果てるまでともに歩むことを誓い合っています。

 

 

「不器用なわたしだったら、長くかかっちゃうかもしれませんよ?」

「なあに、遅くなろうと気にしないよ。早さにこだわることもないだろう?」

「ふふ……速人さんらしいです」

 

 優しいまなざしでわたしの目を見つめながら語るその言葉には一切の偽りも感じられません。すべてを受け入れてくれる、わたしの好きな速人さんの姿そのものだったのでした。

 

 

「指輪といえば……最近大本営から話があったんですけど、戦果を重ね鎮守府に貢献した艦娘に贈られるんですって」

「へえ、勲章みたいなものかい?」

「そうですね……ああ、司令から直接渡されることになっていますから、まるで結婚みたいだって言われてるんですよ。いつの間にか『ケッコンカッコカリ』なんて名前付いちゃって……」

「『カッコカリ』か……面白いことするな」

「うちの司令はしないって仰ってましたけどね。『わざわざシンボルにしなくても頑張ってくれたことは忘れないから』ということですし、『指輪は各々好きな人に貰いなさい』なんて」

「相変わらずいい人だよ初野<はつの>さん……思い出すな、『比叡くんを頼みます』なんて言われたの」

 

 彼の言う『初野さん』とは、わたしの所属する鎮守府の司令の名前です。わたしが艦娘になったばかりの頃に、速人さんと付き合っていることを知った司令が彼のもとを訪ねたことがありました。

わたしたち艦娘のことを第一に思ってくださる司令らしい行動ですが、わたしの幸せを願ってくださったことに、速人さんが感銘を受けていたことが思い出されます。

 

 

「『とくに比叡くんには高谷さんがいるから』なんてオチも……ふふ」

「ははは……ならもっともっと、仲良くしないとな……」

 

 周囲からも関係が続くことを願われているなら、いっそう仲を深め合おうと誓い合ったのでした。

 

 

……しゅぼっ。

 

「ふう……」

 

「……懐かしいな……」

「?」

 

 薄荷の香りの煙草に火をつけ一息ついていたところに、速人さんが何かを思い出すような感じで話し始めました。

 

 

「僕たちが初めて抱き合った時……」

「……ああ、あの時もわたし、こうして吸ってましたね。確かまだ煙草始めたばかりでものすごくむせて……」

「そうそう、すごい涙目になってて……あと火を着けるのもぎこちなかったなあ」

「立てなくなるくらいやって、お互いバテバテだったり……」

 

 思い出したのはわたしたちの『初めて』。もう5年も前のことになりますが、今でも鮮明に覚えています。

 

 

「乗る電車間違えて『駅伝の山』に行っちゃったり……そそっかしさ丸出しでしたね」

「『ネズミのテーマパーク』で大はしゃぎしてたり、早苗ちゃんすごくかわいかったなあ……今もだけど」

 

昔を思い出し二人して微笑みます。デートもセックスも、今みたいにお互いを知り尽くしているわけではなく勢いに任せてという感じでしたが、ぶっつけ本番という今とは一味違う楽しさがあったものです。

 

 

「あの時みたいに、やってみません……?」

「ふふ……乗った。その胸見てたら、また元気になったからね……」

 

 『初めて』の時みたいに激しくというわたしの誘いを、何のためらいもなく受け入れる速人さん。そのやる気に満ちた視線は、煙草を吸うために上半身を起こしてあらわになった、わたしの控えめな胸に向けられています。

 

 

「本当おちちが好きな人ですね……うふ……」

「ああ、たっぷりしゃぶらせてもらうよ?」

 

 

もぞもぞ……

 

 

ぎしっ、ぎし、ぎし……!

 

 

 愛の深さを奏でているかのように、真夜中の寝室に響く軋むベッドの音。昔を再現するかのような激しい情事で、デートを締めくくったのでした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……『比叡』、ただいま戻りました!」

 

 また朝が来て日が高く昇ってきたころ。朝日の眩しい光に包まれる中、わたしが立つのは鎮守府の正門でした。

甲高く張り上げた声は、改めて気合を入れるため――愛する恋人とのデートを満喫した『川崎早苗』は艦娘『比叡』に戻り、再び戦いの毎日へと身を投じることになるのです。

 

「Oh! 比叡、welcome back!」

「おかえりなさいませ、比叡お姉さま」

「ふふ、無事お帰りになりましたね?」

 

 わたしを笑顔で出迎えてくれたのは、巫女服のような制服を着た3人の艦娘――『金剛』お姉さまと『榛名』と『霧島』だったのです。

普段から仲のいい『姉妹』に囲まれると気を張った表情を崩し、みんなにつられて笑顔になりました。

 

 

「高谷サーン! 比叡をいつもありがとうございマース!」

「いえいえ金剛さん。早苗ちゃんと仲良くしてくださって、こちらこそありがたく思っています」

 

 わたしの横には速人さんの姿――デートの終わりにはこうして鎮守府まで送ってくださるのが恒例なのです。もちろん姉妹全員、速人さんのことは知っています。

そして金剛お姉さまが彼の前に立ち、わたしと仲良くしてくださることに感謝の言葉を伝えていました。

 

 

「比叡お姉さまを大事にしてくださってありがとうございます。榛名、御礼申し上げます」

「うん、ありがとう。榛名ちゃん」

 

丁寧に御礼の言葉を伝える榛名に笑顔を見せる速人さん。一回り小さい榛名の背丈に合わせて屈み、優しく微笑むのを見ていると、まるで年の離れたお兄さんのようです。

 

 

「今回もありがとうございます……くれぐれも、比叡お姉さまを大事にするようお願いいたします。 ……もし泣かせるようなことがありましたら、ただではおきませんからね……」

「は、はは……」

 

 ……わたしを心配してのことなのでしょうが、すごい表情でにらむ霧島に、速人さんもたじたじでした。

 

 

「……ありがとうございました」

「こちらこそありがとう、楽しかったよ」

 

わたしたちはここでしばしのお別れとなります。最後に素敵な一日を過ごさせてくれたことへのお礼を伝えあい、笑顔で去ろうとしていたのでした。

速人さんの表情は穏やかな笑顔に包まれていました。わたしとのデートに満足してくださったことは、わざわざ聞くまでもなかったと思います。

 

 

「また休みが取れたら、お願いしますね?」

「ああ、じゃあ最後に……」

 

 

……ちゅっ。

 

「うふ……」

 

「Oh! アツアツcoupleデース!」

「そんな大胆な姿……榛名には刺激が強すぎます……!」

「わ、わたくしには処理しきれません……!」

 

 わたしと速人さんが別れ際にした熱い口づけ。煙草の苦さがほんのり含まれる、わたしのお気に入りの味です。

そしてわたしたちがのろける姿を見て盛り上げたり恥ずかしがったりと、三者三様の反応を見せる姉妹たちでした。

 

 

 速人さんは去っていきましたが、お互いさよならは言いませんでした。二人にとって、また会えることは決まっていることですから……

 

 

「さあ、さっそくですが演習デース! Very hardに鍛えますからネー!」

「……はい! 金剛お姉さま! 比叡、気合入れて、いきます!」

「榛名もお供します。お姉さま方に負けないよう、頑張ります!」

「わたくしも張り切っていきますね!」

 

 

 再び戻った艦娘としての日常。愛する速人さんに会えなくなって寂しいという思いはありますが、待ってくれる優しい恋人のために日々頑張ろうと心に誓っています。

 

――艦娘『比叡』、恋も! 戦いも! 負けません!

 

 

(終わり)

 




最後まで読んでいただきありがとうございました。

ハーメルンでの投稿はひさびさでしたが、読者の皆さまに気に入っていただける作品になっていればと思います。

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