※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーとてん

 響いた声に素早く視線を向けながらカードを抜き、戦闘態勢へと移行する。声の方向、入口の反対側、奥、そこには新たな姿があった。半透明な男の姿はそれが生物ではなく、既に死した霊体であることを証明し、同時に、この場にいるということはこの環境に縛られている存在である事も察せた。半透明であるがゆえに色彩は薄く、本来はどういう色をしていたのかは解らない。だが短髪にハチマキ、現代でいう寒冷地用の軍用コート、同じようなミリタリーパンツを装着した青年の姿だった。無言で構える此方の姿を見て、焦るように両手を突き出して振ってくる。

 

『あぁ! 待って! 待つっす! 自分は決して怪しくない! 怪しくないっすから! ただの死者っすから!』

 

「これ以上なく怪しい自己紹介どうもありがとうございました。成仏するなら天国と地獄、どちらがいいですか?」

 

『うぉ!? 殺意バリバリっすね! だがマジで待つっす! そっちの鎧も無言で隠形するのをヤメテ! いや、自分マジで敵じゃないんで。というか皆さん早くそこから逃げないとヤバイっすよ』

 

 そう言って軍人のような青年はロボットの残骸を指さした。

 

『それ、量(・)産(・)機(・)なんですぐにおなじのが大量に来るっすよ』

 

 青年のその言葉に一瞬だけ、思考が停止した。量産機、これが? このレベルが? 一方的に破壊できたのはあくまで奇襲が成功したからだ―――これが量産といえるレベルの物量で出現したら一瞬で蹂躙される。というか勝つ方法が存在しない。だからまず最初に青年の言葉を疑おうとするが、しかし青年の声には嘘を感じられなかった。機械のような無機質さはないし、むしろ気遣うような人間らしさを感じられる。

 

 青年が嘘をついているようには感じられない。歯を食いしばり、どうするかを考えようとして、

 

『自分、逃げられる場所しってるっすけど、とりあえず逃げないっすかね? 逃げないなら逃げないで別にいいんすけど、二十体ぐらい同時に、二分後には援軍として到着するからそれを相手にする必要があるっすよ』

 

 それを聞いて、腹をくくる―――最悪、死亡してチェックポイントからやり直すだけだ。発言に関する看破技能を取得していなかったのが辛い。ここはSPを消費してでも取得することを決意する。この状況を生き残ることができたのなら。

 

「先導お願いします。どうやら賭ける以外に選択肢が無いようですし」

 

 いいの? という視線がリムルから向けられてくるが、《キネシス》を使ったテレパシーで視線を返す事無く返答する。なるべくなら交渉で弱みを見せたくはないのだが、この状況でそんなことも言っていられないだろう。そもそも折角深度5を攻略したのに、その直後に死ぬとか冗談じゃない―――さっさと脱出したいのだ。少なくとも直感的にこの青年は嘘をついていないように感じられた。今はそれで十分だと思う。

 

『そんじゃアジトへと案内するっす。こっちっすよ』

 

 そう言うと青年は出現した扉のほうへと手招きしてくる。ナイトに割と重傷なタクローを担ぐように指示し、こちらもすばやく移動する為にリムルを運ぶ事にする。青年が消えたところへと視線を向ければ、そこは隠し扉のように展開される壁だった。こんなところがあったのか、とナイトに続いて入ると背後で扉がスライドし、再び壁のように収まる。綺麗に隙間なくハマった姿を見て、この様子だとここ以外にも道中、いくつかの隠し通路があってそれを全部見逃してきたな? と考えさせられる。こういう構造関係も自分は弱いなぁ、と少しだけ嘆く。

 

 構造体内部の空白をエーテルの量で察知できれば楽なのだが、壁が妙な素材でできているのが原因なのか、壁抜けみたいな技術が使えないのだ―――街中では出来たのに。

 

『ふぅー、危なかったっすね。連中、大半の機能は死んでいるクセに根幹の《学習機能》と《自己改造》は死んでいないから破壊すればするほど耐性をつけて手に負えなくなってくるっすよ』

 

 ある程度進んだ所で青年がハチマキを揺らしながら振り返り、笑いながら言ってきた。そのまま前へと進んでゆき、複雑に分岐しながら伸びる通路を迷うことなく歩いて進んで行く。どうやらこの青年はどこへと進めばいいのか解っているらしい。タクローとリムルを下ろし、歩かせながらタクローの腕の治療を続行する。とはいえ、回復魔法が使える訳ではないので中毒症状を起こさないように上級回復薬をかけて使うだけなのだが。

 

「話を聞くと恐ろしいロボだったみたいだな」

 

『まぁ、兄さん達のレベルとスペックだと正直三体ぐらい同時に相手するところでひき肉にされるっすね。アレでも昔よりは弱くなってるんすよ?』

 

「昔、と言うと―――」

 

『自分らが生きてた時代っすね。あ、ここっす』

 

 そう言うと通路の途中で足を止め、霊体の半透明な腕を壁に翳す。それに反応して壁が動き、横へとスライドする。ここも隠し通路のようで、その先には短い通路の姿が見え、先ほどのように中に入ってゆけば、奥に扉が見え、

 

 そしてその扉を抜ければ、広がっていたのは広すぎない部屋だった。

 

 ジュークボックス、冷蔵庫、コーヒーメイカー、コンピューター、ソファ、ベッド、そして見たことのないモデルの描かれたポスター。―――生活感は全くと言っていいほど存在しないが、それでも整えられた個人の部屋だった。どうやらこの幽霊の青年の私室らしい。自由に座ってください、と言ってソファやベッドを示してくる。遠慮なくソファに座る事にする。まだ内心、やや警戒しているのは事実だが、完全に敵ではないと思っている。

 

『いやぁ、本当にギリギリだったっすね。今回は戦闘が比較的に近い場所だからなんとか回収が間に合ったすわ』

 

「その発言からすると自分達以外の人達も回収しようとしていた様子ですが―――」

 

『あぁ、うん。今朝からガンガンこっちに落とされる人が多いんで割と困ってたんすよ。放置できないっすからね、何とか回収して地上に送り返したいんすけど、焼け石に水なのは否定できないっすね』

 

 性質は善良なようだ。持ち歩いている乳鉢で薬草をすり潰して効果が早く出やすいようにエーテルを調整、簡易錬金を行いながらそれをタクローの腕に縫って包帯をその上から巻く。これで腕のほうは多少マシになるだろう。

 

『あ、そうだ、珈琲飲むっすか? 凍結保存してるっすから今でも新鮮なままっすよ。というか自分じゃ淹れられないし珈琲の匂いが嗅ぎたいので誰か代わりに淹れてくれると凄い嬉しいっす』

 

 冷蔵庫を指す姿に溜息を吐いたリムルが珈琲を入れる為に動き出す。その姿を見ながらも、こちらはそれよりも、と青年に声をかける。

 

「色々と話を聞かせてくれると嬉しいんですけどね―――とりあえず自己紹介をお願いします。私がマスター、この筋肉がタクロー、あっちの固定砲台がリムルです」

 

『あ、これは丁寧にどうも。自分はしがない地縛霊のゼタ・カーフェイっす。どうもよろしくお願いするっす』

 

 徐々にだが室内に目の覚める珈琲のにおいが満ちて行く。それが先ほどまでの戦闘による緊張感を解して行く。まだ軽く警戒しているのは事実だが、それでも目の前の地縛霊―――ゼタは敵意を持ち合わせていないのは事実だったらしい。それにナイトがそこまで警戒する必要はない、と伝えてくる。どうやら比較的に安全なエリアらしい。こんなダンジョンに安全な場所があるほうが違和感が強いのだが。それはそれとして、

 

「助けられた、って見ていいのかしら」

 

『まぁ、助けられたかどうかって見るのは個人のプライド次第っすね。自分としちゃ助けたつもりなんで』

 

「いえ、ありがとう。普通に助かったわ。連戦なんて確実に無理だっただろうし」

 

「まぁ、正直に言うと正面から絶対に戦いたくないのが事実ですね。奇襲とかハメとか、そういうので徹底して封殺したいというか……」

 

『あ、言いたい事は解るっす。格上の相手なんて絶対にまともに戦いたくないっすよね。自分もそれは超解るっすわ』

 

 けらけらと笑い声が響く中で、珈琲の用意ができたのか、黒い液体の入ったカップを手渡された。それを両手で掴みながらまずは口にせず、その匂いと暖かさで少しだけ、心の固まりをほぐす。正直、もう二度と挑戦したくないという気持ちを生み出す緊張の連続だった。それに目標の《使役術》のMランク化は終わった。半年はダンジョンに近づかないぞ、と心の中で静かに誓う。

 

『しかし災難だったっすなぁー。稼働期に踏み込んでくるのは』

 

「稼働期?」

 

 此方の確かめるような言葉にそうっす、とゼタがうなずきながら言葉を続けてくる。

 

『稼働期ってのはこの施設が定期的にフルで再稼働する事によって機能を維持しようとするシステムっすよ。見れば解ると思うっすけど、ここ、大昔は生産基地だったんすよ、機械兵の。大量生産してそのまま前線に繰り出す為の場所だったんすけど、大戦が終わってからは最低限の機能だけを残してほぼ沈黙状態に入ってるんすよ。まぁ、それでも自動メンテやリペアで機能をチェックするために一定周期でフル稼働して、どこが破損しているのか、修復が必要なのか、とかそれを自己判断するんすよ』

 

「それが稼働期か」

 

『そうっす。つまりここは現在、昔がそうであったように生産工場としての機能を取り戻してるっす。そりゃあ侵入者がいたら無理やり引っ張りこんで殺すって感じっすよ』

 

「理屈は納得できるけどねぇ……?」

 

 リムルの言葉に頷いた。確かに理屈は解るが、それを経験させられた側としてはたまったもんじゃない。まぁ、結果としてこうやって生き延びることができただけ、まだマシなのだろう。ゼタの話を聞く限り、このダンジョンに挑んで死亡した異邦人やNPCはそこそこ存在しているらしい。まぁ、それを考えたら対策が必要だな、と思いつつも、それは俺の仕事ではないだろう? とも思う。まぁ、下手に目立つとロクな事がないというのは事実だ。特にすでに禁忌を犯している身としては不用意に偉い人の視線とか注目とか、そういうのを受けたくない。

 

「質問、いいですか?」

 

 一応撮影用の録画ボタンを押しておく。証拠提出の場合はこれを用意して置いたほうが早いだろう。ともあれ、

 

『あ、どうぞどうぞ、お構いなく』

 

 ゼタの許可が出たので、遠慮なく質問する事にする。割と真面目に色々と知りたい事がある。ともあれ、ビデオが回っている事を意識して初めから質問させてもらおうか。

 

「では現在ここ、機械化遺跡で発生している事態を解りやすく纏めるのをお願いします」

 

『えーっとっすね、まず一定周期で発生する遺跡の活性化現象で超盛り上がってるっす。不用意に踏み込めば排除機構に排除される上に現在は機械兵が絶賛量産中なので、超危険っすね』

 

「具体的に危険とはどういう事を示していますか?」

 

『まず人類を敵認定しているんで見つけ次第殺すっすねぇ……。あ、あと今は機械化遺跡だったっすか? も保持できるキャパシティってのがあるっすね。一定量を超えるとここからあふれて最寄りの人里を襲い始めますっすね』

 

「ではそこで地獄の様な苦痛と戦っているタクローさん、最寄りの人里の名前をどうぞ」

 

「ルーゼンっすねぇ……」

 

『あ、口調パクらないでくださいっすよー。アイデンティティなんすからー!』

 

「では最後に、ゼタ・カーフェイ地縛霊氏。溢れ出す機械兵の中でも最悪の部類はどういうものでしょうか」

 

 あぁ、そうっすねぇ、とゼタが呟く。

 

『―――生産できそうなので、指揮官個体がレベル200なんで、それが150レベルの戦術兵器個体を運用して打ち込んでくる辺りっすかねぇ……』

 

「どこからどう見ても地獄の回答、ありがとうございました。さ、ほとぼりが収まるまでリアルに逃げますか……」

 

「おい……おい!」

 

 ビデオの録画を切りながらそう吐けば、タクローがツッコミを入れてくる。いや、だって良く考えろ。どうあがいても面倒な事には確定しているではないか、これ。嫌だぞ、自分は。もっとアンダーグラウンドで知る人ぞ知る、というタイプの偏屈錬金ネクロマンサープレイが自分はしたいのだ。人の前に立って光を! みたいな勇者ロールは御免だ。……とはいえ、ルーゼンを見殺しにする事もできない。

 

「ともあれ、ここから脱出する事はできますか? まずそれが確認できないと始まらないので」

 

『あ、出来るっすよ。その為の脱出専用ポーターがあるんで。それを利用すれば出口まで一っ跳びっすよ。ついでにこの部屋がある区画へと入る為に必要なアクセスキーも渡しておくっすね。たぶんというか確実にまた会う必要がありそうな気がするんで』

 

「これは丁寧にどうも」

 

 ゼタが自分、リムル、そしてタクローにそれぞれアクセスキーを分配し、そしてここから脱出する方法を教えてくれる。そのやさしさに感謝しつつも、これからどういう行動をとるべきなのか、それを考え始めると色々と頭が痛くなってくる。何より、自分のスキル構成の問題でなるべく人前に立ったりしたくないのだ。

 

 何度も言うが人の前には立ちたくないのだ。

 

 というか立てないのだ。何時、どこで上位の看破系統のスキルで自分のスキルがバレるか解ったものではないのだから。

 

「……リムルさん、タクローさん。ちょっと相談しましょうか」

 

「なんか考えるのめんどくさくなってきたから全投げしていい?」

 

「キレるわよ」

 

「ういーっす」

 

『あ、なんか食べるっすか? 保存食ならまだ無事だと思うっすけど』

 

「あ、遠慮なく」

 

 そんなもん食ってる場合じゃねぇから。

 

 とりあえずリムル、タクロー、そして自分の三人で円陣を組んで頭を抱えながら第一声に呟く―――これ、どうしよう、と。これは明らかにイベントだ。そしてそのフラグを今、踏んだのだ。おそらくゼタの発言したことはまず間違いなく発生する。そして何の対策もなければルーゼンは間違いなく潰れる……かもしれない。まぁ、自分たちだけが特別だと思ってはいけない。イベントトリガーだって複数存在するかもしれないのだ。自分だけが特別で、自分だけが救える、

 

 そう考えるのはただの英雄症候群だ。

 

「もうちょっとライトに考えましょう。私たちが急いで対処しなくても誰かが代わりにやるかもしれない。誰かが知らせてくれるかもしれない。目立ちたがりはただの英雄ごっこですからね……ある程度の余裕を心に抱いて思考しましょう―――じゃあ話を始めますが英雄になりたい人っていませんか?」

 

「お前発言してることと聞いてること違わね!?」

 

「いやぁ……だってこんな情報持ち帰ったら面倒な事に付き合わされるのは目に見えているじゃないですか」

 

 いいですか、と発言を置く。それを受けたリムルとタクローがおう、と返答してくる。

 

「まず始めに犠牲者を極力減らすルートで考えてみます。つまり出た直後に今の会話を録音したものを掲示板にアップしつつ、ダンジョンの外にいる人たちにそれを教えます。するとあら不思議、顔が売れます。すると話が街に届きます。するとえらい人から詳しい情報をよこせ、と巻き込まれます。そしてそこからさらに連鎖して詳しい情報収集のためにまたここへ来る必要があります」

 

 理解しただろう? と視線を向ける。

 

「正直クソ面倒です。何が面倒ってこれ、規模的に拒否権ないですよね」

 

「正直自由を束縛されたくないんだよなぁ……」

 

「まぁ、傭兵として参加するのは別にいいんだけどねー。ただそれを強制されるってのはちょっと……」

 

 自分も新しいスキルの検証、アトリエの購入を目指して―――いや、もうクランの設備の強化でいいやって半分諦めているが、それを進めつつ新しいレシピや技術の開拓とかやりたいことがあるのだ。ぶっちゃけ、そこまで防衛戦とか興味はない。レベル100でカンストに到達してしまった今、戦闘をする意味とかがないのだ。統合スキルの取得条件も整ってしまったし、そちらの検証もしたい。

 

「ぶっちゃけます―――これ、適当に自分たちが映ってるところだけ編集してネットに流しませんか? あとは知らんぷりで。というか戦時需要で間違いなく回復薬の類いの値段がインフレするんで商売で儲けたいんですけど」

 

「発言の鬼畜っぷりが酷いけど義(・)務(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)んだよなぁ。だから、まぁ、俺もその意見には賛成だ。公開すれば廃プレイヤーがイベントの気配にハイエナするだろうし、勇者ごっこしてる連中も適当に参加してくるだろう、積極的に。おう、リムル。お前のほうはどうだ」

 

「私も公開して逃げるのに一票。そりゃあ顔が売れれば美味しいし、協力すればお金がたくさんもらえそうだけど、自由の束縛やほかのデメリットが辛すぎてやる気でない」

 

『すげぇ、この会話に畜生しか参加してないっす……』

 

 当たり前だろ? とタクローが笑いながらゼタに言う。

 

「―――何時の時代だって自分が一番可愛いんだよ」

 

 

◆

 

 

EX:World総合情報部屋:ルーゼン支部

 

【ゴリラゴリラ】深度5の調査結果出たぞ。長くなったから《こっち》に貼った

 

【匿名】乙乙

 

【匿名】で、実際はどんなもんよ。乙

 

【らん太】信憑性が今一つだけど現実味はある、って感じか。乙

 

【賢者】図書館で歴史書をひっくり返してるけどそれっぽい記述あったからなー

 

【匿名】上の連中はこれ、割とマジにみているっぽいな

 

【匿名】ってことはスタンピードがあるって事か

 

【レゴル】ロボの大軍との決戦? 絵面は興奮するけど絶対に相手にしたくねぇ……

 

【ロウ】それな

 

「―――お、やってるな」

 

 予想外の成果と結果、それが理由で残念ながらタクローとリムルの契約は完了させた。実際、《使役術》のランクがMになってしまった為、アレ以上ダンジョンレイドを行う必要がなかったのだ。それに何よりも、早く地獄の現場から脱出したい、という共通した願いもあった。その為、即座にダンジョンから脱出した所で情報を匿名で公開する。軽く参加していた面子が解らないように編集はしたが、それ以外はほぼノータッチだ。

 

 ゲーマーの業とは実に深いものだ。

 

 か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)、というわずかな可能性を見つけると検証せずにはいられない。そういう生き物が存在するのだ。ゆえに種さえばら撒けば、それが真実であれば勝手に芽吹いて勝手に収穫してくれる。ともあれ、情報公開という最低限の義理は果たした。それ以上は特に、進んでやるつもりはなかった。

 

 さっさと報酬を護衛の二人へと払い終わり、逃げるようにパーティーを解散させたところでルーゼンへと戻ってきた。

 

 安全の事を考えるのであれば、そもそもルーゼンを捨てて逃亡する事を考えればいいのだが、流石にクランとあのアトリエの設備を裏切る事は出来なかった。出た時よりもはるかに物々しさを感じるルーゼンの門を抜けて市街地に戻ったところで、

 

 迷うことなく、クラン本部へと戻ってきた。本部―――或いはクランハウスとでも呼ぶべきその扉を開けた向こう側で、骨の姿を見つけた。

 

「おや、マスターさんではありませんか。その様子だと……」

 

「あ、死骨さん。どうも、えぇ、まぁ、またアトリエ使わせてもらいますね。これから回復薬の需要爆上がりするでしょうから、一番手が出しやすく数が必要とされそうな中級回復薬を今のうち量産して売り込みます。毟れる内に毟りたいですねぇ、お金は。やっぱいいですね、戦争って」

 

「うーん、この畜生っぷりは素晴らしいですねぇ。あ、どうぞどうぞ。金策頑張ってください」

 

 どうやらこっちにも既にルーゼンへの侵攻の話は伝わっているらしい。まぁ、情報を公開してから既に一日が経過している。それが遺跡とルーゼンにある距離だ。だからネットサイトで情報を確かめているならもう小耳にはさんでいるだろう。

 

 耳があるなら。

 

 そんなくだらない考えはともあれ、

 

 クランハウスへと戻ってくる前に確かめたルーゼンの物品は既(・)に(・)軽(・)い(・)高(・)騰(・)が(・)始(・)ま(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。やはり交易都市なだけあって状況に関してはやや敏感らしい。やはりここは自分の利益を考えて、情報公開を一日遅らせれば良かったかもしれない、と若干後悔している。だがそれはそれでリムルとタクローに対する印象が悪くなってしまう。あの二人は中々優秀な上に解(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)人たちである為、できたら仲良くしておきたかった。

 

 そんなことを考えている間にアトリエに到着する。やっぱり作業場はどことなく落ち着く。そう思いながらも中級回復薬量産の為に材料を確認する。インベントリ、そして予めギルドで購入しておいたストック分、とまだまだ在庫には余裕があった。これならかなり纏まった数が作れるな、と前回作成した完成品を確認する。

 

 中級回復薬 ランク:C エーテル値:99 製作者:マスター

  効果が高く、ある程度の即効性を兼ね備えた回復薬。

  多用する事は中毒性を引き起こす可能性がある為注意すべき。

  EX:致命傷でもない限りはこれさえあれば大体傷はどうにかなる。

  値段:一瓶辺り2000ゴールド

  ・徐々に魔力を回復する効果がある

  ・最高品質によって効果がかなり高められている

  ・服用だけではなくかける事でも効能を発揮する

  ・精神安定剤の効果を持つ

  ・さらさらしていて非常に飲みやすい

 

 マルチな効能を与えつつ飲みやすさと品質を求めて作ったのが前回の中級回復薬だ。これが上級回復薬の下地にもなるという理由からクオリティが求められたのだが、戦争用、激戦を予想した場合は効能を求めるよりも別のものを求めたほうがいいだろうな、と思う。

 

「中毒性の低下、効果の即時適応が望ましいか」

 

 激戦とはほぼ長期戦とイコールだ。特に防衛戦だと解ると何が需要として出てくるか解る。ポーションの類はある程度中毒性があり、飲みすぎると中毒症状を起こすというデメリットが存在するのだ。その為、良くあるMMOの様にガブ飲みしながら戦うということはできず、ある程度の休憩を入れて中毒症状を起こさないように服用しないといけない。だがもちろん、激戦の中でそんな配慮をする事ができる訳がない。

 

 だからこそ、エーテル操作による中毒性の低下を引き出すのだ。そうすれば飲める回数が増えるのだ。

 

 ここでなぜ上級を作らないかと言うと、ただ単純に上級回復薬の値段が高すぎるから手が届きづらいというのが一つ、中級回復薬の方でも大抵の傷は治療できるという事実、そして消費個数が一番多いのもまた中級回復薬という事実があるのだ。

 

 つまり生産すればするだけ、売れる。需要の増加で多分値段もインフレしてくれる。

 

 まさに稼ぎ時だ。

 

 基本的な中級回復薬の材料は薬草、ブラッドオレンジ、清水、ハーン花の四つとなるが―――今回はここにアレンジを加える。中毒性低下のためにブラッドオレンジをベルチェリーに変える。これに関しては基本レシピの派生の一つとして記載されているレシピである為、疑う必要はない。ただブラッドオレンジを材料にした時のような魔力の回復効果はなくなるという話ではある。

 

 ―――金策を開始する。

 

 基本的な製法は変わりはしない。だが溶かしてその成分を《エーテル干渉》で触れて行くと。やはり成分がまるっきり違うのが解る。ブラッドオレンジと違ってベルチェリーは文字通り、鈴のようなチェリーであり、鳴らすと鈴の音が鳴る、少し面白いフルーツだ。甘みが強く、喉に付くような粘り気が果汁にある。あと音、という特性を持っているため、錬金術の素材として使えばそれを継承することができる。ただ今回はある程度効果を減らし、中毒性を低下させる量産品の作成を行う為、そこまで執拗にクオリティを求めるわけではない。

 

 基本的な高騰が発生しているのだから、無駄にクオリティを上げて値段を釣り上げるよりも、安いのを数でそろえたほうが遥かに儲けが出るのだから、さっさと作ってしまえばいい。金は素材の調達などを考えると、あればあるほどいいのだから。

 

「それでは開始しますか」

 

 手順に変わりはない。だが《エーテル干渉》のランクは上昇しているため、前作成した時よりももっと繊細に干渉出来るのが何よりも嬉しい。こういう技術が上昇すればするほど、余分に成分を崩さず、作業を進める事ができるのだ。それがやはり、一番楽しい。やはり戦闘とかよりもこうやって錬金術で作業し、儲けを作るほうがはるかに楽しいな、というのを実感する。やっぱり戦うというのはあまり自分には向いていないらしい。引きこもってひたすら錬金術を繰り返しているのが楽しい。

 

 少なくとも、そんなことを考えながら作業ができる程度には慣れてきた。

 

 そして一つ目が完成する。

 

 中級回復薬 ランク:C エーテル値:14 製作者:マスター

  効果が高く、ある程度の即効性を兼ね備えた回復薬。

  多様する事は中毒性を引き起こす可能性がある為注意すべき。

  EX:致命傷でもない限りはこれさえあれば大体傷はどうにかなる。

  値段:一瓶辺り3800ゴールド

  ・非常に中毒し辛い

  ・即効性が高く、使ったそばから効果を発揮する

  ・服用だけではなくかける事でも効能を発揮する

  ・さらさらしていて飲みやすい

  ・美しい色をしている

 

「ま、こんなものでしょう。最高品質を求めないほうが量産しやすいし、それでも3800ゴールド、高騰前が2000だと考えるとほぼ2倍の値段。いやぁ、インフレは怖い怖い。ナイト、瓶詰したのを片っ端からギルドの方に卸してきてくれ。俺は引き続き作業する」

 

『拝承しました』

 

 がしゃん、がしゃん、と音を立てながらナイトが《キネシス》によって瓶へと移された中級回復薬を運んでゆく。アレが全部金になるのだと思うと、やや興奮してくる。入ったお金でどうしようか。やはりここの設備の拡張か? それとも後ろ暗い研究をする為に専用のアトリエを購入するのが一番か? でもやはり、ここの設備を拡張させることが一番楽なんだよなぁ、なんて事を考える。ただ、個人で所有するアトリエ、というのは職人としては一つの夢でもある。

 

 ここら辺は割と悩ましいところだ。

 

 実用性をとるか―――ロマンをとるか。

 

 いや、ロマンをとるか。そもそもロマンの塊のようなクラスをやっているのだから、ここで現実的なラインをとってどうするのだ、と自分を叱咤する。ロマンを選びつつ、そこへと至る方法をリアルにやってからこその己だろうが、と。

 

 まぁ、その場合このクランを離れる必要がありそうだ―――アトリエを手に入れたら使う必要はないし。世話になっている以上、やや心苦しい。まぁ、そこは別に所属を残したままでも問題はないのだが。

 

「まぁ、どちらにしろ金策して貯蓄する必要があるか……」

 

 一等地にアトリエを構えるとして支度金に大体70万から100万必要になってくる。最高級の錬金釜も一つで900万はする上に、ほかにも色々と揃えようとすると、凄まじいほどに金がかかる。だったらなおさら、ここで金策して稼がないとダメだろう。本当ならフェウガ聖銀とかアストラルクロスとか、ああいうのを生産したほうが売れそうなのだが、素材を用意することはおそらく、いまの高騰化状況では無理だろう。素材も余っていないし。

 

 となると、やることは簡単である。

 

 ―――黙って錬金。これに尽きる。

 

 

◆

 

 

「―――ふぅ、これで500個分出荷完了か」

 

 クオリティを落として生産数を増やす。だがそれでも一つの錬金釜で作れる量には上限があるし、中級回復薬自体それなりに作成に時間を食う為、丸一日アトリエで作業した結果、作成できたのは500個程度だった。だが同時にうれしい話でも合った。高騰化がさらに進んでいるのだ。半日が経過した辺りで1個辺りの値段が4500ゴールドまで上がったのだ。

 

 ニュースサイトをチェックしなくても、高騰が状況の事実を伝えてきている。

 

 つまり、防衛戦の発生が現実的なラインになってきている、という事だろう。

 

 

「しかしこれがインフレの上限かもな……インフレのし過ぎで購入できなくなったら崩壊するだけだし。えーと、先に作った200個分が単価3800ゴールドで合計76万ゴールド、残りの300が単価4500ゴールドで135万ゴールドか。合わせて211万ゴールドになるか」

 

 ナイトが今卸しに行った分を回収すれば大体それぐらいになるか。いや、ここに途中で入れた材料費を計算しなきゃいけないから、最終的にはアンダー200万ゴールド程度だろう。だがそれにしてはすさまじく儲けさせてもらった。このペースで生産すれば人間性をかなり酷使させるが、それと引き換えにアトリエと、そして最低限の設備を揃えるぐらいの資金は用意できそうだ。依頼用に十数万用意していたが、それを全て使わなくて済んだ今、懐に余裕はある。このペースで生産と販売を続ければ今月中には色々と揃えられるかもしれないな、と考えていた所で、

 

「すみません、今、よろしいでしょうか?」

 

「ん? あ、はい、どうぞ」

 

 活力剤を喉の中に流し込んでいると、アトリエの扉が開いた。そこから出てきたのは骨姿の異邦人、死骨と、そして見た事のない男の姿だった。見たところ年代は中年程、短く刈り上げられた白髪に煙草を咥え、軍帽を被り、肩からコートを袖に通さずに羽織る、一言でその姿を表現するなら提督、とでも呼びたくなるような男だった。

 

「えーと、何の用でしょうか」

 

「あ、此方クランマスターの墓場の王さんです」

 

「最近はもっぱら海に飛び出してるから提督って呼ばれてるからそれでいいぜ。よろしく」

 

 見た通りの男だった。しかし、彼がこのクランのマスターだったのか。確か海へ新大陸を探しに出かけたとかいう特大のキチガイではなかったか? と記憶をたどりながら思い出していた。まぁ、それはともかく、

 

「どうも、マスターと名乗ってる錬金術師です、提督」

 

 手を出して握手する。それを交わしてから、それで、と口を開く。

 

「どの様な用事なのでしょうか?」

 

「おう、なんでもルーゼン防衛戦が発生するらしいじゃねぇか。ここらで一丁、ネクロマンサーの社会的地位向上と名売りを目的にクラン規模で作戦に参加しようと思ってなぁ……っつーわけで、それを伝えるついでに新人の顔を見に来た、って奴だ。で、どうだ。参加する予定だがお前はどうする? 別に強制はしねぇぜ。ただ参加してくれるとすげぇ助かる」

 

「あー……そうですねー……」

 

 そう言われるとちょっと悩む。まぁ、本音を言えばこのまま金策したいのが事実だ。間違いなくここが稼ぎ時ではあるのだ。だからここにいるのが一番賢いのだが―――これがゲーム、それもMMOというジャンルであるのを忘れてはいけない。

 

 つまり、一人で遊ぶだけなら別にMMOじゃなくて1P用のゲームでも遊んでいろ、って話になる。

 

 それにクラン規模で参加するというのなら、流石にちょっと、興味が出てくる。強制されるのは嫌だが、自由意志だから別に参加しなくても大丈夫だぞ? と言われると興味がわいてくる。まぁ、レベルはこれ以上上がらない。それはアップデート待ちだ。だがその代わりに参戦して目立てば褒賞を狙えるだろうか? それに必要以上目立たなければ大丈夫だろう―――そこらへんは対策すれば十分だろう。たぶん。

 

 まあ―――参加してくれると助かるって言われると嬉しいよな。

 

「えぇ、それでは参加します」

 

「お、いいのか? 見たところあんまり戦うのには乗り気って訳じゃなさそうだが」

 

「いえ、まぁ、確かに乗り気じゃないですし、今のうちに状況を利用して金策をしたいところですけど、良く考えたらイベントって一回こっきりですからね。乗れる内に乗っておかないと後々後悔しそうですから。だったら馬鹿になれる時に馬鹿になりますよ」

 

 そんな言葉を吐いて苦笑すると、良くぞ言った、と笑ってくる。

 

「おう、いい新人じゃねぇか! これで全員参加確定か。さっそく準備を始めねぇとな」

 

 そう言うと楽しそうに走り去って行った。なんだか忙しそうな人物だが、何もかもが楽しそうに見えるんは、少し、羨ましい事だった。彼にみたいに何もかもをノリで楽しめるのであれば、それはすさまじく楽しいのだろう。

 

「あ、王さん! ……走って行っちゃいましたね。それじゃあマスターさん、開戦まではまだ二日ほど猶予がある見立てなので、開戦半日前までは自由にしててください。詳しい話は後で連絡を入れますので」

 

「あ、どうも。それじゃあ色々とこっちでも準備を仕込みますね」

 

 死骨が下がって行くのを見ていると、それと入れ替わるようにナイトが入室してきた。運ばれてきた売り上げを受け取り、それをインベントリの中に放り込む―――その重量で結構インベントリが圧迫されてきたので、そろそろ銀行の利用を考えたほうがいいなこれ、と考えながらも、率直にナイトに質問することにした。

 

「ナイト、俺が上位系の看破スキルを向けられた場合、俺のスキル構成が看破されるか?」

 

『状況次第、でしょうか。看破スキルと言っても様々な種類があります。ピンポイントに習得スキルを探るものであっても最上位級のものでもなければ、完全に看破する事はできません。ですが相手の運が良ければ一回で見抜かれるという状況もあり得ます』

 

「なるほど、助かった」

 

 椅子に座りながら思考する。となるとそこまでスキルによる看破を警戒する必要はないのかもしれない? いや、それでも対策をとっておいたほうがいいだろう。とりあえず売り上げの一部をナイトへと渡す。

 

「今使っている中級回復薬の材料を追加でギルドから購入してきてくれ。そのついでに片っ端から有用そうなレシピ本も持ってきてくれ。どういうものかはお前の自己判断に任せる」

 

『任務、拝承しました』

 

 音を立てて去って行くナイトも、何度も錬金術に手伝わせているだけあって、ある程度は自己判断できるレベルで助手として使えるようになってきた―――まぁ、鋼の塊なので精密作業はどう足掻いても無理だから雑用を任せる程度の事しかできない。まぁ、それでも雑用をしてくれる助手がいるだけまだマシだ。

 

「……あ、そう言えばスキルを統合させるの忘れてたな」

 

 《使役術》のMランク化でスキルがすべて揃った。これで《英霊奏者》を取得することが可能となった。これを取得すればナイトの維持コストの低下、性能上昇等で更に活動しやすくなるだろう。今の内にやってしまうか? と考え、たった今、ナイトを送り出したばかりであることを思い出した。別に、急ぐ理由もないのだ。ナイトが帰ってきたらゆっくりとやればいいだろう。そう判断し、スキル習得の事をいったん忘れる。

 

 それよりも今は対策だ。一応隠蔽系統のスキルを看破の対応策として習得し、ランクを上げている。とはいえ、これだけでは不安だ。もう一つ、策を弄したいところである。やはり、ここは錬金術師らしくそれに連なる道具を用意するのが一番だろうな、と思う。

 

「さて、こういう時にこそ、WIKI先生に頼るとしましょうか」

 

 隠蔽系統のアイテムがまず存在しているかどうかをWIKIのアイテムリストで検索する。こういうのはそれらしい職業の所を検索したほうがはるかに見つかりやすい―――というより需要のある所を調べた方がいいのだろう。

 

 そう考えてWIKIの密偵、裏稼業周りのアイテムを調べたら―――やはりあった。

 

 隠者の指輪 ランク:B エーテル値:- 製作者:-

  ステータスに対する隠蔽能力を付与する指輪。

  既に隠蔽能力が存在する場合はそれを強化する。

  度々王族が能力や身分を隠して遊ぶのに使う事で有名。

  値段:一つ辺り30万

 

 暗闇の衣 ランク:B+ エーテル値:- 製作者:-

  全身に影を纏うような姿へと変貌させ、姿と能力を隠蔽する衣。

  暗殺者や密偵御用達の一品。

  値段:一つ辺り100万

 

「だから高いって」

 

 しかもこれ、WIKIに表記していいものなのだろうか? もっと、こう、裏社会的なアイテムだから隠しておくべきとか、そういうのを感じる。作成手順をそこから保有している本とWIKIで組み合わせて検索し、探す。WIKIにも今持っているレシピ本にも作成手順は表記されていなかった。だが材料の方はWIKIに記載されており、それらの材料が少々特殊で、現在の戦時需要では入手するのがやや難しいという事も調べれば直ぐに解った。

 

 交易拠点という事で多くの物品をここで購入、入手する事が出来る。だがそれでも全てがある訳じゃないし、高度な錬金術を目指そうとするとやはり、ここから離れて自分で素材を探し求める必要が出てくるだろう。

 

「襲撃が終わるまではどうにもならないなぁ……」

 

 いや、待て、と考える。裏稼業の御用達という事は需要が存在する事だ―――そして需要には俺がポーションを販売して荒稼ぎしようとするように、それに便乗して満たそうとする奴もいるという事だ。相場よりも高めになるだろうが、それでもおそらくはそちら関係のディーラーに話を付ければおそらくは購入で入手する事も出来るだろう。

 

 となるまずは仲介してくれる人間を情報屋で探して、そこから仲介を頼んで、そして購入だ。こういう場合、大体ボってくるから相場の1.5倍の値段だと考えて、必要な経費は大体150万程度だろうか? いや、更にボられる事を考えて200万ぐらいは用意しておくべきかもしれない。ともあれ、今の戦時需要による高騰に便乗すれば楽に金策する事も出来るだろう。

 

 まさに人の不幸は蜜の味。荒稼ぎせずにはいられない。

 

 この戦時需要に乗っかれば後は200万を一日で稼ぐことは硬いと思う。それで手元にある金は400万を超える。それだけであればこれからに向けて、色々と購入する事も出来るだろう―――完全に個人用アトリエの資金に回せない事が残念だが。それは、まぁ、必要経費として割り切ろう。

 

 楽しいのは嫌いじゃないし。

 

 それはそれとして、作業を進めながらこれからの事を考えていると、此方へと向かってくる金属音が聞こえた。これはナイトだな、と確信しながら振り返れば、布袋に金貨を詰め込んだナイトの姿が戻ってきていた。良くやった、としっかり部下を労いつつ受け取った金貨を早速収納し、ナイトが戻ってきたのであれば錬金術で回復薬を調合しつつ、

 

 スキルの統合進化、やってしまおうと考えた。

 

 目的のスキルである《英霊奏者》の習得に必要なスキルは《死霊術:M》+《テイミング:M》+《闇魔法:M》+《光魔法:M》+《使役術:M》となっている。かなりの数のスキルが必要になっている辺り、スキルとしてかなり上位にあるのが解る。だがこれでもまだ最上位に到達する訳ではないらしいので、非常に驚きである。なにせ、まだPCのレベル限界は100ではあるが、この世界の基準で言えばまだまだ上はある―――つまり、現段階における中級や上級という表現もまるでアテにならない。

 

 そんな事を考えながらスキル欄を見ていると、《英霊奏者》を発見する。

 

 そしてその下に、《深淵》+《外法》が影響する変異スキルの姿があった。

 

 ―――その名も《禁呪魂冥士》。

 

 禁とか呪とか入っている時点でどう考えてもまともじゃねぇ。

 

 だがそれがいい。迷う事無くこっちを取得する。上位に位置する英霊使役系統のスキルを習得した為、ナイトの維持コストが差し引かれるのと同時に、

 

『む―――』

 

 ナイトがスキルの習得と共に輝き出した。作業を中断しながら確認するナイトの姿は錆びついた鎧姿から少しずつ逆再生する様に修復されて行く。錆びは段々と消え去って行き、罅割れは塞がって行く。色あせた鎧は少しずつだが輝きを取り戻して行き、スキルの邪悪さに影響されてか、本来であれば白銀の輝きを持ちそうだった鎧はくすんだ黒い色に少しずつだが蝕まれるように見え、やや灰色近い歴戦と呼べる様な気品の漂う状態まで復帰した。今までの完全に錆びついたおんぼろと比べれば見違えるほどの進歩だった。

 

『これは……』

 

 ナイト自身も驚いているような様子で、自身の姿を確認し、此方へと臣下の礼を取った。

 

『感謝します、マスター。また一段階力を取り戻す事に成功し、記憶を僅かながら思い出しました』

 

「ほう、じゃあ何を思い出したんだ」

 

『逃(・)げ(・)ま(・)し(・)た(・)』

 

 ナイトの言葉にふむ、と呟きながら続きを催促する。

 

『それがどういう理由で、という事は思い出せません。ですが我が身を盾とし、何かに突き立てながら帝都から逃亡し、そしてあの島で朽ち果てました』

 

「ふむ……成程、まるで解らん」

 

『焦る必要はありません。我が身はマスターと共に。変わらぬ忠誠を誓います』

 

「まぁ、お前がそれでいいなら俺はそれで構わないけどな」

 

 此方のスキルランクが上がって行けばナイトの記憶を取り戻せると判明したのだ、そうなるとそこまで焦って記憶を探す必要もないし、ナイトもそれを理解しているのだろう。こいつの忠誠に関してはもはや疑っていない。まるでそれが己の全てであるように振る舞っているし、どこか、そ(・)う(・)い(・)う(・)存(・)在(・)の様にさえ感じる。まぁ、今に関してはナイトはそれだけだ。武器を取り出し、みすぼらしかった槍も壊れていない、という程度までには復活しており、それとは別に盾も取り出していた。どうやら武装が増えたらしい。益々前衛としての活躍が期待できそうだった。

 

 それに、ナイトの能力の復活、スキルの上昇によってナイトの維持コストも大きく変化した。

 

 今まではナイトの契約、現界維持でMP最大値の六割を食われていた。だが現在こうやってナイトの召喚を維持していても、消費する最大MPは三割であり、今までの半分だった。この様子だと非現界時の維持コストは一割五分ぐらいに落ち着くだろう。

 

 こうなってくると英霊をもう一人追加しても問題がない。

 

「と、その前にスキルで出来る事を確認しておくか」

 

 WIKIを確認しても《禁呪魂冥士》なんてスキルはなかった。となると誰も取得していないか、或いはWIKIに乗せる事が出来ないような類いのスキルなのだろう。その効果を確認すれば、成程、と納得できるものがあった。

 

 このスキル、《禁呪魂冥士》は基本的な部分は《英霊奏者》と変わらない。基本的には英霊や、それに類する強大な魂を持つ存在を使役するスキルとなっている。なら《英霊奏者》との違いは? となってくると変異に使った二つのスキルが影響してくる。《深淵》も《外法》も元は悪魔を見た事で習得した、《禁忌》のスキルから派生されたスキルだ。

 

 つまりはその要素が英霊の使役等に追加されたのだ。

 

 簡単に言えば霊(・)の(・)エ(・)ー(・)テ(・)ル(・)の(・)干(・)渉(・)だ。そしてそれは悪魔の真似事とも言える事だった。錬金術で行えるエーテルの干渉に関してはあくまでも素材、つまりは生物ではない者に対しての干渉だ。食材などに関しては既に活動が停止している段階での利用だ。だけど人間や生物へのエーテルの干渉は悪魔を見れば解るように、禁止されている。そもそも干渉できるものでもない。それを可能とするのがこのスキル、《禁呪魂冥士》だった。

 

 属性変動、汚染、融合、分離、制約、束縛。直接的な干渉を霊のエーテル体へと行えるのだ。それこそ操作して自壊する代わりに強化する、なんて外道も行える。悪役ネクロマンサーが良くやる改造行為だ。それがこうやって自分の手の中にあると理解すると、楽しみが増えてくる。これで更にRPが捗るというものだろう。なにより、戦力的にも大きく向上する。

 

 悪くない、実に悪くない。

 

 万が一召喚した英霊が反抗的であった場合、このスキルでなら絆とか信用とか信頼とか、そこら辺を無視して無理矢理使役する事が可能だろう。段々とテンションが上がってきた。

 

「ん? ついでに使役している英霊の軽いステータス確認も行えるみたいだな」

 

『隠すものは何もありません。どうぞ確認を』

 

「嫌がっても確認するけどな―――と、スキルはマスクされていて確認できるのは名前とレベルと称号だけか」

 

 残念ながらステータスが確認できる程度では全ては開示されないらしい。スキルを成長させるか、或いは更に上位のスキルを習得すればどうにかなるか? と思いながらナイトのステータスを確認する。

 

 Name:ナイト

 Level:140

 Title:【聖戦士】【記憶喪失】【不壊の忠誠】【-検閲-】【-検閲-】【-検閲-】

 

 見れない部分の方が多い。だがナイトのレベルが140もあると確認できたのは成果だった。確かスキル習得前は80レベル相当だった筈だが、スキルの成長と記憶を取り戻す事によってレベルが上昇した―――というよりはアンロックされたのだろう。現在のレベルキャップが100である事を考えれば十分すぎるレベルと能力だ。それに、80レベルの時点で格上と戦っても一切負けないだけの実力がそこにはあった。そこに数値という能力の裏付けがあるのであれば、今まで以上に活躍してくれるだろう。

 

 ただこれでもまだ、最上位英霊保有プレイヤーの戦力には届かない。

 

 そう思うとトッププレイヤー連中はほんと凄まじいな、と思う。まぁ、此方は此方で適度に頑張らせて貰おう。

 

 それはそれとして、いよいよ本命に移る事とする。

 

 インベントリからグリップ部分だけとなった銃を取り出す。SSR確定ガチャチケ。そう呼ばれた英霊召喚触媒が自分にはある。これを使えば確定で格の高い英霊を召喚する事が出来る。最大MPには余裕が今、出来た。この状態であれば問題なく英霊が召喚できる。さて、どうやろう、と思ったらスキルが召喚ヘルプを表示させた。

 

「ほうほう、成程―――では早速準備に取り掛かるとするか」

 

 善は急げ、とも言う。思い至ったら即座に行動するのがゲーマーという生き物。何もせずに悩むだけ時間は勿体ない。特に時間が金になる今、この瞬間は。

 

 ヘルプに出現した魔方陣を血文字で床に描き、その中央に召喚触媒である銃のグリップを設置する。そこから数歩離れた所で召喚用の呪文を唱えれば眠っていた霊が目覚め、使役の交渉を行う事が出来る。

 

「ナイト、場合によっては制圧を頼むから準備だけはしておいてくれ」

 

『拝承しました』

 

 ナイトの返答を聞いてからさっさと召喚を終わらせる為に本からカードを一枚抜き放ち、それを触媒の上の方で浮かべて待機させる。そして、

 

「―――汝、闇に囚われ眠れし魂よ、深淵の底で眠り続ける哀れな魂よ、今こそ我が呼びかけに応え長き眠りよりその眼を開き給え―――」

 

 言葉と共に魔方陣に光が灯る。それは注がれる魔力に反応したものであり、エーテルをグリップが吸い込みながら霊体を構築し、魔方陣を通して霊体を魔力によって肉体を生み出して行く。その中に予め設置しておいたカードが混ざる様に溶け込んで行き、万が一の場合の保険に考えた案が成功したという事を理解させる。

 

 光と共に人の形が形成されて行く。まだ半透明であるのは相手が霊である事を証明している。

 

 はっきりと凹凸のあるボディラインは相手が女性である事を示していた。霊特有の半透明の青色故に色彩は良く解らないが、おそらくは白色系の肌と、長いスリットの入ったスレンダータイプのビスチェドレス姿。長い髪をしており片(・)腕(・)と(・)片(・)目(・)が(・)な(・)い(・)女の姿だった。喪失されている左腕はその肩の切り口から完全に喪失され、断面の代わりに青い燐光を放っているのが見える。また片目も同じように、炎の様な燐光を通して隠してある。もう片眼は伏せる様に閉ざされており、ゆっくりと、持ち上げられ、そして開かれた。その視線は真っ直ぐ此方へと向けられ、

 

『―――私を起こしたのは貴方?』

 

「あぁ、お前を起こしたのはこの俺だ。目覚めの気分はどうだ」

 

『……駄目……頭が、ガンガンする。喉の奥が……チリ、チリ……する。まるで、靄がかかったみたいに……何も思い出せない……』

 

「ま、これぐらいは予想の範疇かな」

 

 ステータスを確認できるかどうかをウィンドウの呼び出しで確認するが、召喚した時点で仮契約状態らしく、ステータスは確認できるらしい。こっちのが色々と手っ取り早い為、ステータスウィンドウを確認する。

 

 Name:不明

 Level:130

 Title:【歌姫】【記憶喪失】【ガングレイヴ】【-検閲-】【-検閲-】

 

 レベルはナイトよりも低く、しかし後衛のバフと射撃タイプの性能だろうか? ナイトに続いて記憶喪失を引き当てるとは中々運が悪いとは思いつつも、記憶のない方が忠誠心等を擦り込みやすいと考えられる。事前に霊体の中に保険(カード)を仕込んで、逆らわないように調教する必要もなかったな、と思う。

 

「俺がお前の召喚主であり、忠誠を捧げる相手だ。今からお前にディーヴァという名を与える。この名を己の新たな名として受け入れ、そして俺に仕える証として大事にしろ。お前はこれからディーヴァ、俺の駒であり、俺の歌姫である。いいな? 俺の事はマスターと呼べ」

 

『……解……り、ました、マスター』

 

 名を与える事を通した契約、そして括り。契約対象と括る対象を此方へと変更した事で彼女に対する権限を此方で握る事に成功した。本当ならもう少し抵抗されるものかと思っていたのだが、どうやら記憶喪失である事が想像以上に作業を楽に進めさせてくれた―――いや、或いはそういう風に悪魔側が調整して触媒を持ち込んでくれたのかもしれない。連中は取引や契約に関してはどこか、誠実に対応するらしい。

 

 ―――ま、結局一番怖いのは人間だ、という話だ。

 

 本能じゃなくて理性で悪事を行うんだから、人間の方が怖いに決まっている。

 

 それはそれとして、

 

「ディーヴァ、お前には何が出来るのかを申告しろ」

 

『歌唱と舞による支援、銃撃による戦闘、潜伏と破壊工作、交渉が出来、ます』

 

「戦闘も支援もこなせる、か。ついでに諜報もか。良い買い物だったな」

 

 支払ったのは良心の欠片だったし。外道系統のスキルを習得する為の礎にもなってくれたし、ほんと、悪魔との出会いは益しかなかったな、とほくそ笑む。とはいえ、ここで慢心したら失敗する。外道、外法ロールの道を進むからこそ、慎重に物事を進めなくてはならない。ともあれ、暗躍できる手駒が増えたのは良い事だ。完全な契約が結ばれた事によってディーヴァを縛る事に成功した。

 

 今までのスキルではレベルが上の英霊に対しては叛逆される可能性があった―――自分よりも力量が上の存在に対して、拘束力が薄いからだ。だがこの新しいスキル、《禁呪魂冥士》は自分よりもレベルの高い存在を縛る事が出来、叛逆の芽を詰む事が出来る実に優秀なスキルだ。とはいえ、その中身はマジモノの外道であるので、溺れない様にしないといけないのが問題だ。

 

「じゃあ、早速仕事を頼むか」

 

 魔力をディーヴァに送り込み、その姿を現界させる。半透明な霊体姿とは変わり、色と肉のある魔力によって構成された肉体が出現し始める。ビスチェドレスはそのまま白く、髪は金髪だった。残された瞳はアクアマリンを思わせる蒼海の色をしていた。腕の途切れている部分は霊体の頃と変わらず燐光を散らしており、片目も同じように光を散らしていた。流石にそこは不格好だな、と思った。だが思っていたよりも綺麗な女だった。少なくとも男であれば間違いなく目を奪われるような、そういうタイプの女だ―――そういう女を支配下に置く気分は悪くはない。

 

 とはいえ、そんな事で満足している時間はないのだが。

 

 とりあえずインベントリから金の入った袋を取り出し、それをディーヴァへと投げ渡す。

 

「隠者の指輪、そして暗闇の衣というアイテムを探している。相場によれば前者が30万、後者が100万だ。戦時需要でおそらくどちらも高騰しているが、なるべく買い叩いて来い。予算は200万で、可能なら指輪は二つまで欲しい―――いいな?」

 

「任せてください、必ず、持ち帰ります」

 

 返答したディーヴァは金の入った袋を受け取り、去って行く。その背中を眺めてから、

 

「大丈夫かなぁ、あれ」

 

『未だ、目覚めたばかりで意識がはっきりしないだけなのでしょう。おそらくは仕事を終える頃には意識がある程度覚醒します。そうなれば受け答えももっとはっきりしていくかと。ですが既にマスターへの忠誠は書きこまれています。心配する必要はないかと』

 

「洗脳……と言うよりは擦り込みか。まぁ、上等か」

 

 手段を選ばない楽しさというものもあるし。そんな事を考えながら、資金稼ぎ用の錬金に戻ろうとして、ふと、ディーヴァの顔を思い出す。あの目は目立つよな、と思い、先に眼帯でも作ってやるか、と考える。それぐらいなら手間はかからないし、WIKIにレシピもあった筈だ。それに本を作るのに使った材料が幾つか余っている。それを軽く加工すれば、複雑過ぎなければ作れるだろう。

 

 そんな事を考えながら大規模戦闘に向けて、アレコレと準備を進める。




 Name:マスター
 Level:100
 Status:
 AP:485/485
 筋力:70 魔力:119 敏捷:150 体力:150
 Title:【錬金術師:中級】【Evil】【ネクロマンサー】【探究者】【畜生メガネ】
 Skills:
 SP:306/385
 《禁呪魂冥士:F》 《超魔力:E》 《審美眼:C》《エーテル干渉:C》 《語学:S》 
 《キネシス:B》《ポーションピッチャー:F》 《軍略:E》 《薬学:A》
 《付与術:A》 《魔眼:M》 《深淵:F》 《外法:F》 
 《ミスディレクション:D》 《邪眼:E》 《カリスマ:E》 《幻想の色彩:M》

当面の目標:
・イベントを利用した金策
・スキルの隠蔽
・外法ロールプレイ
・アトリエの購入
・手持ちの戦力を増やす
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