※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーといれぶん

「マスター、今戻りました」

 

「ん? あぁ、ディーヴァか」

 

 売るものを量産する為に作業を進めていると、ディーヴァがアトリエに戻ってきた。その片手には箱が握られている。それをディーヴァから受け取り、箱の中身を確認する。そこに収められているのは大きな布の塊、そして二つの指輪だった。今は鑑定ではなく審美眼となっているスキルを使い、それで確認する―――間違いなく、それは自分はディーヴァに購入する事を求めたアイテムだった。しかし予算的に考えると指輪が二個購入できるとは思えないのだが、

 

「予想よりも安かったのか?」

 

「いえ、軽く交渉してきました。魅了すれば軽く言いなりになるので違和感を持たれない程度に魅了して値下げさせました」

 

「成程な」

 

 そんな事が出来たのか、と胸中で呟く。いや、魅了で軽く相手を惑わす事が出来るなら魅せ札として常に連れまわしているのも悪くはないのかもしれない、と思う。これで使える手札はナイトと揃って二人目だ。今まではナイトに色々と小間使いの真似事をさせていたが、これから使える手が増えるのだから、それをディーヴァに任せるのも悪くはないかもしれない。少なくとも見目麗しい美女を足蹴で使い倒すのは非常に気分が良い。リアルでは絶対に味わえない経験だな、と口に出さず胸中で呟く。

 

「と、そうだった。少し顔を此方に寄せろ」

 

「はい」

 

 指輪と布を一旦インベントリの中へと押し込みながら、近づいてくるディーヴァの顔を片手を添えて抑えた。こうやって顔をアップにすれば益々魅力的な女性であるというのが解るが、眼と肩の傷口から青白い燐光を放っているのが駄目だな、と思う。だから顔を寄せた所でディーヴァがいない間に片手間で作ったものをその顔に装着した。それは髪の下に通す様に装着されると、色を失うかのように消え去り、残されたのは覆い被さるように隠す片目の部分だけであり、バンド部分が消え去った事でまるで片目から美しい白い花を生やしている様に見える。

 

 無論、装着させたのは眼帯だ。

 

「悪くないな。腕の方は光を抑えられるか?」

 

「いえ……」

 

「となるとバンド部分の端材で今度余裕がある時に隠すものを作っておくか……ナイト、霊体化しておけ。これからはお前を常に護衛として傍に置く。その代わりにディーヴァが代わりに小間使いとして働け。やる事は完成したものをギルドへと運んでいくだけだ。話はナイトから聞いて引き継げ……いいな?」

 

『拝承しました』

 

「解りました」

 

 迷う事無くナイトとディーヴァがそれに答えた。その姿を見て、満足感を感じる。やはり上から見下しながら仕事を言いつけるのは最高だな、と。このゲームを始めてからガンガン人間性が歪んできているような気もするが、どうせゲームなのだからと、そこらへん、抑え込むつもりは一切ない。完璧に鬼畜メガネロールをこなしていこう。その前に興味と趣味が先行するが。その前に、

 

「ディーヴァ」

 

「はい、なんで―――きゃっ!」

 

 可愛らしい声が出るもんだな、と思いながら呼びつけたディーヴァの胸を片手で鷲掴みにした。そうやって解るのは完全にディーヴァがロボット的な反応をしている訳ではなく、ちゃんとした人間的な感覚に頼る反応が出来る、という事だった。今までは完全に鎧の塊でしかないナイトしかいなかっただけに、新鮮な反応だった。

 

「感触は柔らかいな。成程、ちゃんと肉体の方も魔力とエーテルベースだが構築されているのか」

 

「んっ、あ、あの、マス、んっ、たぁ」

 

「あぁ、ちょっと待っててくださいね。出来るうちに実験しておきたいので」

 

 しかし感触が柔らかいなぁ、と思う。女の胸ってこんなものなのだろうか? リアルでそこまでの経験はないので良く解らない。彼女を作った事はあっても結局、キス止まりでそれ以上発展する事もなかった。とはいえ、この柔らかい感触は新鮮で悪くはない。握れば指の形に喰い込んで形を変えるのを見るのはそこそこ楽しい。とはいえ、これで現界した英霊でもちゃんと肉を持っているのが解った。次は、と胸を解放し、残った腕を取る。

 

 そしてそのまま、持ち上げた指の先を軽く、噛んで切った。

 

「っ、はぁ」

 

「おっと、そのまま動くな」

 

 切った指先の血を軽く舐めて、飲み込んでみる―――普通に血の味がする。そのまま指を舐めるが、此方もやはり人間っぽさが非常に強い。これで本当に死人なのか? スキルを使って一時的に受肉させているのだが、ここまでリアルに肉体を構成させているのか、と驚いた。しかしそうなると気になってくるのは体としての構成だ―――一体、どこまで精密に肉体は再現されているんだろうか?

 

「確か霊体に対して魔力とエーテルを使う事によって疑似的な肉体を構成する事で受肉化、現界させるのが英霊召喚のプロセスだったな。となると肉体を維持しているのは俺の魔力とエーテルか……これならたぶん……」

 

 口からディーヴァの指を解放し、ふたたび手を伸ばす。胸へと向かって手を伸ばし、そしてそれで胸を掴み、《禁呪魂冥士》と《エーテル干渉》を同時に使う。魔眼の効果で詳細にものに宿るエーテルや魔力を見極められるこの眼はしっかりとその肉体の構成を看破し、そしてスキルを通してその干渉を可能にする。それ故に肉体的な重み、重厚さを感じながら、それを溶け込ませるように更に力を込めれば、

 

 指(・)先(・)が(・)服(・)と(・)肌(・)を(・)貫(・)通(・)し(・)た(・)。

 

 血は流れない。だが皮膚の下に流れる血液の感触や肉の感触、形成されている血管を感じられる。おぉ、これは面白いな、と小さく喘ぎ声を漏らすディーヴァの事を無視しながらそのまま指先から手を胸にいれ、そのまま腕まで突き刺す。ずぶり、と体の中に潜って行く腕を動かし、まさぐる様にディーヴァの体内を確かめて行く。やはり肉体がエーテルと魔力で構築されている上に、それが自分のエーテルならば、ほとんど自分の体の一部の様なものだ。こうやって自分であれば透過し、中身に触れたり、かき混ぜたり、合わせたりする事も出来るか、と興味を抱く。

 

「本当に面白いな、これ」

 

 胸骨、背骨、と骨格まで体内に完全に形成され、ゲーム内でここまで詳細に再現するか、とも幽霊の実体化にここまでリアルに肉体を生成する意味は? とも考える。そのまま今度は内臓に触れて行く。ちゃんと消化器官が存在する様だ。これなら自分の様に普通に食事も出来るのかもしれない。それにどうやら子宮と膣もちゃんとあるらしい……という事は女としての機能も働くのか? 興味はあるが、そこまで優先する事でもないので、腕を上へと動かし、体内をまさぐられる感触に腰砕けになっているディーヴァを掴んで引き寄せ、後ろから抱く様に腕を動かす。

 

 ―――そしてそのまま、心臓を掴んだ。だがその心臓もおそらくは飾りなのだろう。既に死んでいる以上、心臓は動いていなかった。つまりあくまでも人間の肉体を再現しているだけであって、それだけなのだ。心臓は飾りで、最も重要なのは、

 

「これが魂か」

 

 完全に腰砕けになっているディーヴァを膝の上に座らせるように自分も椅子に座りながら、右手で心臓の内側に格納された魂に触れる。成程、これが英霊としての本体か、とも。これが聖遺物の中に残っていて、そしてそれをベースに今、肉体を魔力とエーテルで構築している。つまりこの女の体は外装の様なもの……なのだろうか?

 

「ここら辺は研究しないと解らないな。とはいえ、流石に手持ちの貴重な英霊を消費するのもアレだな。どこからか使い捨てできそうな研究用の人間霊を調達しておきたいな」

 

 そう思いながら魂を掴んだ。

 

 そしてそれをそのまま引きずり出した。手の中には青白く輝く揺らめく炎が存在する。これがディーヴァの魂にして残された全てなのだろう。それを体から一気に引き抜かれた体の方は―――軽く、絶頂を迎えて痙攣していた。体の内側をまさぐられるのってそんなに凄い経験なのか? と思いながらも掌に浮かべた魂を見て、肉体へと視線を向けた。

 

「ふむ……抜いたところで普通に体は動かし続けられるようだな」

 

 じゃあ、と考える。いっその事、一番安全な場所にいる自分の体の中で保存していた方が、安全なのではないだろうか? ……いや、流石に短絡的すぎる考えか、と判断する。まだ完全にこれ周りの仕様を理解した訳ではない。それにクランマスターも英霊関連に関しては色々と実験している筈だ。今度顔を合わせるような事があったら軽く質問しておこう、という事にし、魂を胸の中へと叩き返す。その動きにビクン、とディーヴァの体が跳ね上がった。

 

「さて、金策作業に戻るか」

 

 休憩時間は終わりにしてひたすらポーション作成マラソンの時間だなぁ、と思いながら、近くの作業台の上にのせられた瓶詰されたポーション類を見る。

 

「さて、それじゃあ早速―――」

 

 ディーヴァに販売に出て貰おうかな、と思って、床に荒い息を吐きながら転がるディーヴァの姿を見た。

 

「Oh……うん、まぁ、そうだよな。すまん、ナイト」

 

『いえ、主の為であればなんとでも』

 

「本当に忠誠心厚いなぁ、お前は」

 

 驚く程に。果たしてその忠誠心はどこから来るのだろうか? システム的な都合から? それとも純粋に俺を意志の一つとして主と敬っている? 或いは腹の中に何かを抱えているだけか? どちらにしろ、どう転んでも面白いものだと思う。最初は誘われただけだからそこまで乗り気だったわけではない。だが今、自分は実際にハマっている。観念しよう。面白いと思っているし、これなしでの生活はちょっと考えられない、という状態だ。まぁ、仕方がない。本当に面白いのだから。

 

 それにリアルでは決して出来ない事がここでは自由に行える。そう、それこそ犯罪も。そしてこの世界だからこそ行える事もある。

 

 自分はそれに魅せられている。

 

「自分が作った薬で人の命を転がしていると思うと、結構ゾクゾク来るな」

 

 そう、命だ。PCは自由に生き返る事が出来る。何度殺されても、その度に蘇る。だがNPCは違う。この世界の住人はそうやって自由に蘇る事が出来ない。彼らは死ねば、それで終了だ。強い念があればそれで幽霊となったりもするが、それでも、命が蘇る事はない―――外法にでも手を出さない限りは。だから本当に彼らの命を握る事だって出来る。PCの様にまぁ、死んでも蘇るし、何てノリは出来ない。

 

「……ま、その為にも下積みするしかないな」

 

 金、コネクション、居場所。それが自分に一番必要とされるものだ。隠者の指輪を箱の中から取り出し、それを二つとも指に通す。後は布をどうやって加工するかを考えるべきだろうが―――まぁ、これは本職に任せた方がいいだろうな、と判断する。

 

「とりあえずもう少し金策して、ついでに借金を返す事にするか」

 

 ポーションは馬鹿の様に売れるから今は金稼ぎに困らないなぁ、と息の下で笑いながらポーションの作成に取り掛かる。やれることが増える。使える手が増える。それだけでも非常に楽しくなってくる。あぁ、リアルもこれぐらい自由で刺激的だったらいいのに。そう思いながら手慣れた作業へと戻って行く。

 

 

◆

 

 

 まだこの世界に来てからそんなに経過していないのに、まるで数か月来ていないような気さえもする。とはいえ、実際に籠りっぱなしだったりするので自分が普段使う場所以外に出るのは割と久しぶりな感覚だったりする。まだ一度しか訪れていないレックの服屋の中へと、躊躇する事なく進んで行く。客の入りを告げるドアベルがチリンチリン、と音を立てて店内に響く。その音に気が付き、奥の方からエプロン姿の男が現れた。

 

「あぁら、マスターちゃんじゃない。服装も良い感じに汚れが付いてきているわね。ちゃんと使っていてくれて嬉しいわぁ」

 

「お久しぶりですレック。実は仕事を頼みに来たんですが良いでしょうか? 後借金も一括で払いに来ました。今後も定期的に仕事を頼むことになりそうですし」

 

「あら、どうやら順調な滑り出しを得ているようね。そんなに早く払わなくても別に構わないんだけどねぇ……」

 

「いえ、物価が解ってきた今、どれだけサービスしてくれたのか解ってしまいますからね。正直早めに払わないと私の方が申し訳ないです」

 

 遠慮する必要はないのに、と言われながらも借金の返済を完了する。今来ている服装はレックの用意してくれたものだが、正直、物凄い感謝している。非常に動きやすいし、道具も持ち歩きやすい上に、自分のイメージに似合う、ピッタリの服装だが、これが3万というのは正直安すぎると言いたいレベルの値段であった。桁が一つ少ないんじゃないか? と思わなくもない。そこらへん、本当に趣味で営業しているのだと解るが、それはそれとして、大きなお金が入ってきているのだから、しっかりと恩を受けた所には返しておきたい。

 

 そう思いながらそれでですね、といいながらインベントリから暗闇の衣の入った箱を取り出した。

 

「実はちょっとダークなロールをし始めたので正体をある程度隠す必要が出てきたんです。その為にこのアイテムを購入したのですが……専科が錬金術である以上、能力付与や素材、錬金道具の作成には少々自信があっても、完成された品に関してはどうも苦手でして」

 

「成程ね、それで私を頼ってきた、という事ね。任せなさい、楽しいロールプレイの為に必要なら私も張り切って頑張っちゃうわ。さて、拝見させて貰っても大丈夫かしら?」

 

 頷きながら暗闇の衣の入った箱を渡した。それを受け取ったレックは箱を開け、あらまぁ、と少しだけ驚いたような表情を浮かべた。おそらく衣の効果を確認して驚いているのだろう。まぁ、こんな効果、後ろ暗い連中しか使わないだろうなぁ、というのは正しい考えだ。

 

「あらあら、珍しい物を持ってきたわね。非合法系のスキルに手でも出したのかしら?」

 

「外法系を少々」

 

「いかにも死霊術……って感じの箔が付きそうね。そうね、これならあまり時間もかからないわ。今から作業を始めるからマントとフードを少し良いかしら?」

 

「えぇ、是非ともお願いします。貴方の腕前に関しては信用していますので」

 

「嬉しい事を言ってくれるわねぇー。それじゃあ少しだけ待っていなさい? 今から作業に入るわ」

 

 肩のアタッチメントパーツを外し、服装の一部となっていたフードとマントを外してそれを衣共々レックへと渡す。少しだけ待っててねー、といいながら店の奥へと引っ込んで行くレックを見送り、適当に店内を見渡しながら時間を潰す事にする。店内に飾ってある服装は前とは違っている。前見えていたのはもっとデザイン重視のものが多かった気がするが、今、店内を飾っているのは生地が厚めのものが多く感じる。

 

「そう言えばマスターちゃん、口調を変えたかしら?」

 

「えぇ、悪、或いは闇の錬金術師……みたいな方向性でやるつもりなので。折角鬼畜メガネみたいな姿をしていますし、こういう口調の方がロール的にも似合うでしょう。まぁ、ですがしばらくは金策でしょうね。圧倒的に種銭が不足しているおかげで自分のアトリエが持てませんし。新しい手持ちも増えたので、徐々に周囲の印象を変えて本格的に活動を始めたい所です」

 

「あら、結構考え方が本格的ね。アイザックちゃんはそこらへん知っているのかしら?」

 

「いえ、どうせなら驚かせようと黙ってます。貴方のおかげで無事に道を踏み外しました……何て終わってから報告すると最高に笑えませんか?」

 

「そうね、楽しそうな悪戯ね、それは」

 

 苦笑しながら鼻歌が奥の方から聞こえてくる。根本的に自分の仕事が好きな職人タイプの人物の様に思える……こういう人間は、金銭よりも自分が満足する仕事の方を優先する部分がある為、やりがいのある仕事を与えている内は良いパートナーとなるのを知っている。逆に大量生産とかの仕事には向かず、向き不向きが非常に強い。

 

『……悪くないセンスね』

 

 ディーヴァが霊体化したまま、興味深げに店内に飾られている服装をチェックしている。今着ているようなドレスではなく、普段着に使えそうな服装をチェックしている。どうなのだろうか? ディーヴァもそこらへん、着替えられるのだろうか? 少し、気になる。それはともかく、

 

「レック、前来た時よりも店内のセレクション内容が少々戦闘向きになっているような気がするのですが」

 

「あぁ、そうねぇー……これから大襲撃で防衛戦予定でしょ? となるとやっぱり防具とかの需要も上がるのよねぇ。なるべく機能性を維持しながら防御力を求めるお客様が増えるから、それに合わせて何時もよりも防御性に意識を置いた物を並べているのよ。おかげで在庫が少し軽くなったわね」

 

「私も戦時需要に乗ってポーション販売で荒稼ぎさせて貰っていますからね、この調子でずっと販売が続けられたら実に嬉しいんですけどねぇー……」

 

「あら、貴方は寧ろ戦いが終わってからが本番じゃないかしら? 相手は人間じゃなくてもやる事は疑似的な戦争よ? 終わった後に起きるのはなにかしら?」

 

 レックの発言に一瞬だけ考え、そしてあぁ、と思いつく。アメリカ人はここら辺考えるの早いなぁ、と思いつつ答えを口にする。

 

「消費された日用品の再生産と市場価格の安定でしたね……」

 

 戦時需要による価格のインフレは即座に収まる訳ではない。何故なら戦(・)闘(・)中(・)は(・)消(・)費(・)が(・)生(・)産(・)を(・)上(・)回(・)る(・)からだ。何時、何処の時代だって生み出す事よりも消費し、破壊する方が遥かに簡単なのだ。それが故に、戦争が終わったら消費された日用品、或いは日常的に使われる道具の類が再び大量生産されるのだ。そしてそこから資金を投入した市場の価格安定を行い、それで本来の市場に復帰するのだ。

 

 故に日常的に使用されるポーションの類は需要が戦時の後でも続くのだろう。何故なら戦争で生み出されるのは数多くの負傷者なのだから。となると戦いが終わった後を見越して生産する必要もあるな、と思う。

 

 ―――まぁ、でも、世の中やり過ぎるとこわーいお兄さんに睨まれるし、程々に、だな。

 

「ふむ、となるとアトリエの購入もそう遠くはない未来になりそうですね」

 

「あら、それは楽しみね。アトリエを購入すればアトリエの外に個人商店を開く許可を貰えれば開けるわよ。そこでは適正価格で販売する必要はないわ。無論、定期的な調査は入るし、市場を破壊するような商売を行うなら注意は入るわよ? それでも私みたいに自由に、自分で決めた値段で商売が出来るというのは素敵な事よ」

 

「つまりその気になればボったくりも出来る、と」

 

「えぇ、まぁ、そうなんでしょうけど……なんか容赦なくなったわね?」

 

「そういうキャラですので」

 

 ふっふっふ、と片眼鏡の位置を調整しながら低く笑う。実はこの外道ロール、かなり楽しんでいる。俺にもこんな側面があったんだな、という新発見へと通じている。まぁ、それでもなんというか―――いや、考えるのは止めておこう。リアルとゲームは別ものだ。今更リアルがどーたらこーたらとか、そう考えるのは悪趣味だ。この世界をそのまま楽しめばよいだろう。それだけだ。

 

「で、ディーヴァ、興味のあるものは見つけたか?」

 

『あ、いや、いえ、その……何でもないですマスター』

 

 この下手に出るややおどおどっとした感じ、悪くないなぁ、と思ってしまう。こういうキャラは新鮮、というかまず普通は見ないタイプだ。しかも完全に自分に言いなりだと考えると更に気分が良くなってくる。やっぱ絆だか友情だか吐いている暇があったら契約で縛って軽く刷り込みと洗脳した方が効率的だな、と思う。ともあれ、ディーヴァが眺めているセクションは日常生活で着るような服装だった。ラフ&カジュアルとでも言うべきだろうか? ドレス姿とはまるで別の方向性だ。とはいえ、興味はある。

 

「買った所で着れるのか?」

 

『現界した時に体の一部として取り込めばそのまま分解されて霊魂の記録に情報が残ります。そうなると自由に着替えられるのですが……とはいえ、我々に装備品による強化は意味がありません……ですから……見た目を楽しむ以上に意味はありませんから……』

 

『マスター。我々英霊は装備を更新できない代わりに、生前の装備を使用出来るのです。我が身も、そして歌姫も劣化により装備を上手く現界できませんが、現在作成できるどんな装備よりも強力なものを手にしていたのは事実です』

 

「成程。じゃあ問題ないな。適当に欲しいのを見繕っておけ。ナイト、お前も欲しいものがあるなら遠慮なく口にしろ。俺の下で働く分には欲しいものはくれてやる」

 

『いえ、主に使える誉だけで我が身は満たされます』

 

 欲のない奴だ、と思いながら先ほどからディーヴァが眺めていた服の幾つかを近くに会った買い物かごの中に叩き込んで行く。ディーヴァがやや困ったような嬉しそうな申し訳なさそうな表情を浮かべているが、自分がこうやって欲しいものを与えるのは、一にちゃんと施しを与える主であるという認識を与える為、二に俺自身が見たいという欲望を満たす為である。

 

 そりゃあ美女が、幽霊とはいえ好き勝手出来るのが手に入ったのだから、少しぐらいいいだろう。欲望のまま行動しても。

 

 そもそも、欲望のままにしか行動していないのだが。

 

『あ、えと、その、ありがとうございますマスター』

 

「気にするな」

 

 そう言ったところでどうせ気にするだろうけど。これで少しは気合いを入れて頑張ってくれると嬉しい。まだディーヴァの戦力確認がまだだし、どこかでチェックしておきたいと思いつつも、そんな時間もないな、と思う。そもそもこの状況で怪我でもしそうな事をするのは却下だ。やはりぶっつけ本番での確認か? いや、自分で雑魚を召喚してそれを相手にさせればいいか、と判断する。帰りに触媒でも購入しておこう。

 

「はーい、出来たわよー」

 

「ん? 早かったな」

 

「一から作るのとは違って改造するのだったらスキルの補正もあってサクサクと終わるわよ。ささ、早速装着して頂戴」

 

 奥から出てきたレックがマントを返してくれる。それを肩に装着し、整える。重量に特に変化は感じないのだが、レックの方へと視線を向けると、フードを被る様に笑顔でジェスチャーしてくる。言われるがままにフードを被った所で、体が軽い影の様なオーラを纏っていた。ゲームで良く見るような目立つオーラではなく、静かで薄く、霞むような影だった。

 

「これは……」

 

「んふふ、常に発動しっぱなしってのも不便でしょう? だからフードを被っている間は認識阻害の能力が発動する様にしたのよ。こういうアイテムは条件やデメリットを付与する事で更に効力を助長させる事が出来るのよ? だからフード装着時、という限定を付与する事によって本来よりも力を引き出す事に成功したわ。私から見るとフードの下の顔は見えなくなってるの。そのままマントで全身を覆えば、完全に影で覆われて判別不可能になると思うわよ」

 

「ほうほう、成程」

 

 言われた通りマント部分で体を隠せば、完全に影が体を覆った。姿を隠して活動するにはこれらがあれば十分すぎるだろう。指輪の方も二つ同時に装着しているし、これなら安心して人前にも立てるというものだ。

 

「やはりダーティーなロールに姿を隠す道具などは必要でしたからね、防衛戦にも参加する予定でしたが、姿を隠す方法に困っていたので実に助かりました」

 

「あらあら、そう言われると助かるわ。此方も結構楽しい仕事をさせて貰ったわ、ランクの高い素材は良いスキルトレーニングにもなるしね。それでそっちの籠の中身を購入かしら?」

 

「えぇ、今はある程度の金銭的余裕もあるので―――」

 

 ディーヴァの着替え共々、纏めて支払いを行う事にする。まだまだゲームを始めたばかりの初期段階で、自分の顔を知っているプレイヤーやNPCもかなり少ない。ナイトも結構換金の為に外へと送り出しているが、それにしたって誰とどうつながり、どういう関係にあるのか知られている訳ではない。初期の動きの為に仕方のない話とは言え、隠者や悪役ロールするには少しだけ姿を晒しすぎたなぁ、と思いつつも、小道具の方は揃ったのだ―――ここからは自分の姿を覚えられるように晒すのは控えて、ナイトやディーヴァを自分の代わりに動かす事にする。

 

 ともあれ、これで必要最低限の準備は完了だ。他にもちょっとした実験用の道具を買い揃えたら、クラン本部へと戻って生産作業に戻ろう。まだまだ金策の時間は残っている。

 

 

◆

 

 

 必要な小道具を用意し終わったら後はクランの集まりまでひたすら生産で中級回復薬を量産し、それをディーヴァに運ばせてギルドの方で売りさばく。ただやっぱり、誰が売ろうとしてもギルドで販売している内は値段が均一となってしまう。やはり、多少色目等を使って割高に売るには個人のアトリエを手に入れ、そして商店を自分で開く必要があるのだろう。それまでは適正価格で販売し続ける他ない。しかしこの適正価格も、そこまで悪くはないので文句はない。

 

 ―――そんな風に、将来を見据えて適度に休息を挟みながら金策、準備をすればあっという間に時間が過ぎ去って行く。

 

「―――ハイ、という訳でちゅうもぉ―――く!」

 

 クラン・ニヴルヘイムの地下本部には会議用の一室が存在する。そこにいるのは合計で10人程度の個性的な面子のみだった。それがニヴルヘイムに所属するネクロマンサー達全員だった。かなりマイナーな職業の上、初期投資がネックとなっている以上、これだけ集まったのは寧ろ凄い方なのかもしれないが。誰も彼も個性的な姿をしており、このクランが非常にアクの強い連中の集まりであるというのが解る。

 

 その中で、ホワイトボードをクランマスターが殴った。

 

「えー、公式からも情報が入った様に、スタンピードの開幕だぁ! 公式でイベント扱いされるって事は確定だし、斥候からの情報によると地平を埋める程の数が波の様に襲い掛かってくるって話だ! つまり超! 防衛戦って事だ! しかも運営の方で色んなデータ集計してランキング表示するらしいんで割と真面目に売名したりするチャンスだったりする」

 

「プロゲーマーは本気だしそうな内容だよなぁ」

 

「後は動画勢とかな。スタンピードはちょくちょくあるらしいけど、ここまで大規模となるともはや完全に戦争ランクになってくるし、この大陸、PCが入ってから未体験の事件なんじゃないっすかね、これ」

 

 とりあえず、会議室の椅子に座りながら、声を挟む。

 

「とりあえず提督、スタンピード周りの基本的な情報を擦り合わせておきましょう。私とか結構初心者なので、戦闘回りのシステムやイベントは全く解らないので」

 

「そういやぁ畜生氏って初心者だったよな。何時もアトリエにいるから古参かと偶に思っちゃう」

 

 まぁ、錬金術楽しいからそれは仕方がない、と心の中で言い訳していると、ホワイトボード前のクランマスターがおう、と言葉を置きながらマーカーを取り出してホワイトボードに色々と書き始める。これ、オーバーテクノロジーじゃないか? と思ったが、どうやら課金アイテムらしい。一回、課金アイテムのリストを軽く確認しようかなぁ、と思いながらホワイトボードとクランマスターの話に耳を傾ける。

 

「いいか、スタンピードってのはつまり大規模襲撃って事だ。モンスターとかが軍団単位で群れてそれが一直線に防衛拠点へと向かって襲い掛かってくる現象やイベントの事を言うんだ……まぁ、今回の場合ここだな。防壁を抜かれて街が陥ちたら俺達の敗北ってのがとてもシンプルなルールだ。ちなみに街が無事とか、そんな救済はない。突破されたら普通に滅ぶ」

 

 予想外、とまではいわないが相当シビアに調整されていた。悪魔と人の関係性やあっさりと死亡する所、R18のVRゲームだと思えば当然とも言える調整なのかもしれないが、

 

「基本ユーザーに対してフレンドリーじゃないですねぇ」

 

「まぁ、ユーザーに厳しいってよりは世界そのものが厳しいって感じだな。ま、悩むほどじゃねぇ。足を引っ張ったら滅ぶって解ってるのは多くのプレイヤーもそうだし、活躍すればするだけ報酬が運営から配られるってのも判明しているんだ。お互い、足を引っ張らない様に協力して戦うさ―――足引っ張ってると全滅するってのは誰もが知っている事だしな。少なくともボーナスが欲しいからPC勢は本気だ」

 

 このゲーム、EX:Worldのデスペナルティは実にシンプルなもので、リアル時間で24時間のログイン禁止、という内容となっている。つまり三倍の時間で流れる此方の世界における三日間は干渉できないという制約になってしまう。その為、イベント中に死亡すればイベントに復帰する事は出来ないだろうし、だからゾンビアタックなんて手段も取れない。なるべく死なずに戦い続けなくてはならない。

 

「ま、そんな訳でスタンピードのルールはシンプル。街を守れ。仲間を守れ。敵を殺せ。指揮官を落せ、だ。基本的にスタンピード中はそれらを率いる指揮官か統率個体がいるからな、それをぶち殺せばスタンピードの勢いは大きく削がれる。それで即座に終了する訳じゃないが、殺せば終わりが明確に見える。逆に言えば殺さない限りは全く終わりが見えねぇ」

 

 ふむふむ、成程、と頷く。

 

「物量戦ですか……ネクロマンサーが活躍できそうですねぇ」

 

「だろ? 英霊達は死んでるから疲れるって概念がない。ゾンビは材料があれば即座に生み出せる。スケルトンだって量産可能だから休みの為に交代でばら撒ける。だからここは一気に活躍して名を売るチャンスなんだよー。少なくとも精霊使いやネクロマンサーみたいに自由に使い捨てられる戦力を生み出せる連中は重宝されるんだよ。だからここらで一発、派手に暴れれば俺達の名は売れるんだよぉ!」

 

「というか提督ー。名を売ってどうするんだよ」

 

「かっこいいだろ?」

 

「せやな」

 

「それな」

 

 まぁ、ネトゲで本気を出す理由なんてそんなもんだよなぁ、とは思わなくもない。それにこれから戦場が広がるという事は、実験に使えそうなゴーストの材料を集められるという事なのではないだろうか? ……それはそれでちょっと興味ある。困った、予想以上にテンションが上がってきた。やれる事の自由度が高いと、どこから手を付けて良いのかわからなくなってきて困る。まぁ、自分も金は欲しい。だから適度に頑張らせて貰おう。

 

「という訳で基本的にはスタンピード迎撃の方針だけど文句のあるやつはいないよな!」

 

「ハイ! 議長! 俺のゾン子ちゃんが傷つくと思うとハートブレイクしそうなんですけど!」

 

「ブレイクしているのはお前の脳味噌だから問題ない!」

 

「提督ー! 日の下だとウチの吸血組がやる気出さないんだけど!」

 

「じゃあやる気ださせような。次!」

 

「彼女とのデートがあるんすけど」

 

「死ね。次! ないな! 良し! そんじゃあ配置の話をするぞー!」

 

 デッデーン、といいながらクランマスターがホワイトボードに一枚の紙を叩き付けた―――ルーゼン周辺の地図だった。街の前の道路からその先を描いてあり、陣地や割り当てに関してが書き込まれている。

 

「これは防衛戦に参加するクランに配布された地図な。どこを割り当てられたり、どこで動けばいいか、って奴だ。まぁ、参加表明してるんで一足先にどこに行けばいいとか話し合っておいたわ。つーわけで、俺達の陣地は使い捨てが出来る兵士が補充できるからという理由で結構中央よりだ。割と重要な所にねじ込んで貰ってるから注意しろよ」

 

「後12時間で始まるって時に何言ってんだこいつ」

 

「GvGでの対戦の時も大体そんなぐだぐだなタイミングでやってるだろ! まぁ、だけど俺達は数が少ないからな。 ふぁいなる幼女騎士団 さんの所に混ぜて貰った」

 

「なにその名前」

 

「あぁ、構成員全員が重課金アイテムを使って理想の幼女の姿を追求し続けているという狂気の集団か……」

 

「えぇ……」

 

 VR世界の中では性別を変えたり、自由自在にアバターを変える事が出来る。とはいえ、それは人生で今まで使ってきた肉体とは大きく違うものである為、凄まじい違和感や、体調不良をリアルで引き起こす事さえある。その為、基本的に身体や性別の大きな変更は18歳以下では禁止にされ、それ以上は自己で健康管理ができるから、という理由で制限されていない。無論、このEX:WorldはR18のゲームである為、そういう追及が出来る。出来るのだが……課金までしてやるものなのだろうか……。

 

「幼女とアンデッドの謎のコラボレーション」

 

「しかも畜生眼鏡にお神輿まであるぞ」

 

「もう何がなんだか解らねぇなこれ」

 

「ちなみに更に加えるなら 全人類もふもふ化計画 さんも一緒に配置されている」

 

「うーん、イロモノの詰め合わせかな?」

 

「絶対解って配置してるなぁ、これ……録画の準備しなくちゃ……!」

 

 まぁ、個人的には教会や、看破能力の高そうな騎士のいる所と被る様に配置されなかっただけ、嬉しいものなのだが。これはある程度安心して戦えそうだなぁ、と思える。まぁ、それでも慢心しない様に気を付けなくてはならない。パンパン、とクランマスターが両手を叩いて視線を集めた。

 

「話を戻すぞー。とりあえず俺達のやる事は簡単だ。目の前から来るロボを破壊しまくるだけだ。んで指揮官へのアタックチャンスが見えたら少数精鋭でぶち込んで完全に粉砕する。幸い、俺達はそうやって出し抜くには丁度良い戦力が揃っているのが事実だ……違うか?」

 

 此方へと視線を向けられ、そうですね、と眼鏡を軽く持ち上げながら答える。

 

「私も英霊が一人増やせた結果、手札や切り札を増やせた感じはあります。やりましょう」

 

「良し! っつー訳だ! あまり難しい事は考えるなよ? 迷惑を掛けない様に暴れ続けりゃあいい、それだけの話だ。あと幼女騎士団さんはセフレと肉便器募集中だってよ」

 

「はい! 解散!!」

 

 最後の発言を聞かなかった事にしてお疲れー、といいながら会議を切り上げて現場へと向かう準備を始める。いやぁ、カオスな予感しかしねぇなぁ、と思いながら会議室を後にする。どちらにしろ、広い舞台で自分の実力を確かめる良い機会でもある。少しは頑張りますか、と思いながらこれから共同戦線の相手の名前を思い出し、心が深い絶望感に囚われる。

 

 もう少し名前とか発言とかどうにかならなかったのだろうか。

 

 

◆

 

 

 もう思い出したくもない会議を終わらせたところで、一足先に準備は終わらせてある為、フードを被り、素顔を隠した状態で先に陣地となるルーゼンの街、その前の空間へと進んだ。このタイミングになると街中は完全に忙しくなっており、これから始まるであろう激戦に備えて準備が進められていた。ルーゼン前の陣地も、踏み込んでみれば少しだけ、体が軽くなるような感触と共に力が上がった様に感じられた。足元へと向けて視線を向ければ、大地の下に魔方陣が埋め込まれ、味方を強化する様に魔法が半永久稼働する様に組まれていた。これは中々興味深いものだった。これも何らかのスキルを使ったものだろうか? どのカテゴリーの魔法なのだろうか?

 

「……ふむ、予想外に勉強になりそうだな、これは」

 

 人が多いという事はそれだけ様々なスタイルや構成を見る事が出来るという事でもある。普通のMMOであればスキルの調整や能力値の影響、倍率でこれが一番強い! というのが存在する。だがVRMMOでは個人の能力、才覚が影響する部分が強い為、これが最強といえるスキルや能力はない。存在するのは個人の強さだけだ。だから自分に一番適したスタイル、というものを多くのプレイヤーは初期のテンプレから発展させる。その成果をこういう大規模な戦場では見る事が出来る。

 

 これはこれで楽しそうだ。引きこもりを選ばずに良かったかもしれない。フードを被って軽い認識の阻害を行ったまま、そのまま陣地、ニヴルヘイムに与えられた配置へと向かった。

 

 そこで見たのはもふもふと幼女だった。そう、どっからどう見てももふもふと言える姿をしたもふもふと幼女が戯れていた。なんか、もう、見た目が幼稚園だった。え、俺、あそこに混ざって戦うの? 本当に? あの幼稚園に混ざるの? そんな気持ちが胸中を満たしていた。

 

「あれ、畜生氏どうしたんで?」

 

 そう言いながらお神輿に乗ったゾンフェチがやってきた。お神輿をゾンビに運ばせながらゾンビを侍らせるその姿はまさに変態だった。そして一切躊躇する事無く、そのまま幼稚園へと突貫する姿はまさに勇者だった。無言のまま、ゾンフェチに対して敬礼を送る。それ以外に自分が出来そうなことが思い浮かばなかったからだ。

 

『マスター、見た目はふざけていますが、どれも才能限界(レベル上限)に到達しています』

 

 ナイトの言葉にまぁ、PCであれば当然そうだよなぁ、中央近くに派遣されているなら確かにそれぐらいはやるよなぁ、とどこか、諦めを抱きながら納得せざるを得なかった。はぁ、と息を吐きながら合流しない訳にもいかないので、幼稚園とお神輿が融合した新しすぎる魔窟に合流する。どうも、と低い声で呟きながらフードの下で眼鏡を軽く押し上げる様に場所を調整すると、もふもふと戯れていた黒髪の幼女が動きを止めて、此方へと視線を向け、

 

「……やべぇ、なんか闇を背負った感じがタイプだ。レイプしていい?」

 

「帰っていいですか」

 

「待つもふ。貴様ももふと化すもふ」

 

「帰るわ」

 

 カオスには勝てなかったよぉ……という心境で背を向けて歩き出そうとした瞬間、背後からまぁまぁ、と足を止める様に体にしがみついてくる感触を感じる―――と思ったらゾンビが背後からしがみついて動きを止めていた。頼むから放してくれ、こんな場所にいられる訳ないだろ! と、心の中で叫ぶ。口に出した瞬間キャラが崩れるので絶対にしないが、はぁ、と溜息を吐きながら振り返る。

 

「お前熟女専門かよ……」

 

「この頭がおかしいのと共闘しなきゃいけないんですか私達? 詰んでませんか? というか本当に大丈夫ですか? ふと正気に戻った時に心が痛みませんか? 自分は何をしているんだろう……って気持ちになりませんか?」

 

「憐れむような声で言うのは止めるもふ。顔が見えない分迫力があって心が痛いもふ」

 

「畜生氏のマジレス真剣が突き刺さるッ!!」

 

 ゾンフェチは楽しそうだなぁ、とお神輿に担がれている姿を見て軽い現実逃避をしていると、精神へのダイレクトアタックを食らって倒れたもふもふと幼女を踏みつける様に別の幼女が現れた。板金鎧の蒼髪の此方もやはり幼女なんだよなぁ、と思い。その間も彼女は足の下でぐりぐりと黒髪の幼女を踏みつけていた。

 

「本当に私達のクランマスターが失礼しました。ただ理解して欲しいんです―――私達はノータッチを考えた末に、自分がロリになればイエスタッチになるのではないか……? という事実に到達してしまっただけです」

 

「いえ、理解しようとは欠片も思っていないんでいい訳はいいですから」

 

「ですが幼女になった所で私達は思ったんです……ノータッチに苦悶する存在がいて漸くロリータになれるのではないか、と」

 

「だから説明とか求めてませんから。語らなくてもいいですから。共闘相手としか求めていませんから。だからお願いしますからそれ以上喋るのは止めましょう。主に私の精神的な安寧の為に」

 

「それにしても知性を感じるインテリ系の方ですね……」

 

「ナイト! 出て来てくださいナイト! ナイトー!」

 

 見た目は幼女のクセに視線が完全に獲物を狙っているようなものばかりなので、恐ろしさしか感じない。イロモノなら笑えるイロモノでいてくれよ、と思いながらナイトを現界させて盾の様に間に挟み込む。やだこいつら、知的な会話が一切通じない。こういう話を聞かないタイプは相手をするだけ無駄なので非常に苦手だ。向けられてくる野獣の視線をナイトの鎧姿でカットしつつ、護身に入る。野獣の眼光はそれでも此方を見つけようと必死に探ってくるが、ナイトでカットし続ける。

 

 さっきまでは楽しめそうかと思ったが、そんな事はない、早く帰りたくなってきた。

 

 そんな事を考えていると、残りのニヴルヘイムの面子が集まってくる。向かってくるのが見えたら素早くスキルを駆使して視線を此方から外し、認識し辛い様に逃れる。まさかこんなところでこんなスキルが輝くだなんて、思いたくもなかった。輝かせるつもりもなかった。

 

「おーっす、元気にやってるかー? 結構集まってるなー。準備の方はどうよ」

 

「あ、これはニヴルヘイムのクラマスさんどうもこんばんちわ。今夜あたりどう?」

 

「俺、ロリじゃ勃たないから。んな事よりも陣地の準備出来てるん?」

 

「うわぁ、つれない。終わってますー。超終わってますー。こっちも人員の配置は終わって開戦を待つのみですー」

 

「もーふもっふもっふもっふ」

 

 イエーイ、といいながら三人がハイタッチを決めるのを見た。頭の痛くなる光景だった。知能指数が下がりそうなことに痛みを覚えつつ、そっち、戦闘中は近づくのを控えておこう、と心に決めた瞬間だった。やれやれ、と息を呟きながらこの戦場、全体を見ながら、WIKIを開き、情報を確認する事にした。

 

 ルーゼンはその位置の都合上、海と隣接している為に街が半円状に広がっており、それ故に防衛は全方位を警戒しなくて良い分、程々に楽らしい―――とはいえ、それは逆に逃げ場がないとも表現できる。今回の敵は飛行するも真っ直ぐ行軍してくるらしく、WIKIにはスクリーンショットされた映像が貼り付けられており、地平を埋め尽くすほどのロボットが這い出す姿が見える。正直、相手をしたくない物量だった。とはいえ、これに抵抗しないとこの拠点が消えてなくなる―――それを許す訳にはいかない。

 

 確認された戦力には傭兵として雇われたレベル200のNPC,他にもギルドラン帝国とラステン共和国からルーゼンに駐留している兵士が参戦する模様であり、その中にはちょくちょくレベルが150を超える者が確認される。やはりレベル100というレベルはあくまでも戦力のラインとしては最低限のラインなのだな、と認識させられる。本番はレベル100を超えてからなのだろう。とはいえ、この人数で対抗できるのか? とは少し悩ましい事実だった。

 

 だがここで中立を保っているルーゼンがギルドラン帝国、そしてラステン共和国に協力を仰いだら中立性を脅かす原因にもなりかねないから、大きな声で助けを求める事も出来ないんだよなぁ、と認識させられる。そこらへんの政治は面倒だし、自分は関わるつもりも興味もない。ただ早めに戦争が始まってくれれば、それで再び物価のインフレが始まり、両国で荒稼ぎが出来そうな気配がする。

 

 欲しいものがあるのを考えると金はあるだけあっても困らない。稼げる時に稼げるだけ稼いでおかないと損するばかりだ。この戦いが終わった所で、その後どう動くかを考えておくべきなのだろう。それに、

 

 自(・)分(・)一(・)人(・)が(・)戦(・)局(・)を(・)左(・)右(・)す(・)る(・)な(・)ん(・)て(・)英(・)雄(・)病(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 そもそも戦争規模なのだから、全員で戦わないとどうにかならないのだ―――。一人で戦ってそれで何とかなるなら、今頃世界は平和になっている。

 

 自分はあくまでも自分の目的を達成させる事だけに意識を向ければいいのだ。それだけの話だ。必要以上に求めず、全体を見通し、そして目的を達成する為に何を必要とし、何をするべきかを考える。

 

 今回の場合―――消(・)耗(・)し(・)な(・)が(・)ら(・)勝(・)利(・)す(・)る(・)のが一番好ましい展開だ。

 

 消耗すればするほど物資が消費されて行く。そうすれば戦いが終わった後でその需要が一時的なインフレを起こすのだ。それを供給しようと動けばしばらくはそれにイナゴするだけで荒稼ぎが出来る。とはいえ、ここら辺はバランスが難しい。第一、どこまで手を抜けばいい、なんて事も解らない。

 

「とりあえず序盤は様子見、か……」

 

 誰にも聞こえない様に小さく呟きながら溜息を吐く。まぁ、でも祭なのだ。多少乗っかる様な馬鹿じゃなきゃ楽しめもしないだろう。そう、これはゲームなのだ。あくまでもゲーム―――楽しめないのなら、遊んでいる意味がない。

 

「早く戦いが終わればいいんですけどねぇ……研究と開発を行っている時の方が遥かに有意義なんですが」

 

「畜生氏って結構アブノーマルってか面白いスタイルだよね。ちょくちょくいるけど徹底した研究者スタイルのプレイヤー。まぁ、ネクロマンサーなんてやる連中はどこも研究肌な連中ばかりなんだけど」

 

「基本的に加工作業ばかりだからな!」

 

 ゾンビの防腐処理。スケルトンの骨の強度補強。ゴーストの霊体維持。なんだかんだで、アンデッド系統の存在は維持コストが重いから副業か、何らかの生産技術がないと維持したり改造したりするのが大変だよなぁ、とはニヴルヘイムに入り浸る事で学習したものだった。なんだかんだ英霊だってMP最大値を割合で提供しているのだから、ある意味金銭よりも重い代償を払っている気がする。

 

「それじゃあ開始時間まで一旦ログアウトしてきますね」

 

「あぁ、今の内にお風呂とか食事とか終わらせておくべきかー」

 

「リアルに戻ると一気に現実が押し寄せてくるから盛り下がるんだよなぁ」

 

「止めろ馬鹿」

 

 戦いの最中でリアルの為にログアウトなんかしたくはないし、先にリアルの用事を終わらせてから、開始前にログインし直そうと決め、一旦ログアウトする事を伝えてから、戦争に気持ちよく集中できるためのリアルでの用事に始末を付けてくる。

 

 

◆

 

 

 用事を終わらせて再びログインする頃には時刻は昼前、11時頃を示していた。空は明るく、アンデッドは動きづらそうな時間帯だなぁ、なんて事を思わせる。そんな感想を抱きながら周囲へと視線を向ければ、凄まじいまでの数の人々がルーゼン前に陣地を構築しており、これから始まるであろう大戦争へと向けた戦闘準備に勤しんでいた―――いや、それももう終わっているのだろう、きっと。今はただ、戦闘開始に向けてただ待機しているだけなのだろう。

 

「おーい、来たか眼鏡」

 

「お待たせしました」

 

「おう。じゃあ準備だけはしておけよー。特にあーだこーだは言わないから、活躍できるって思うならそういう風に動け」

 

「いいんですか?」

 

「いや、ウチ軍隊じゃねぇし。活動が大学のサークルみたいな緩さだし」

 

「思っていても言わなかった事を……!」

 

「はっはっは、それじゃあ死なない様に適度に頑張れよ。俺は派手にぶっ放すからな!」

 

 笑いながらクランマスターが去って行く。結構いい性格しているよなぁ、と思いながらやれやれ、と呟きフードを被る。とりあえずは観察から始めるか、とカードを一枚抜き放ち、それを指の上で回転させながら地平線の向こう側へと視線を向けた。まだ明るい空は青く澄み渡ってはいるが―――その果てに、徐々にだが黒点が見え始める。成程、映像や知識で知るのと実際見るのではかなり違うな、という感想を抱く。

 

 ……ま、本当にヤバくなったら逃げるか。

 

 クランは一時的に間借りしているだけだし、そこまで執着する理由もないから本当に必要なら逃げてしまえばいいや、と胸中で呟きながらゆっくりと、地平線を覆い尽くし始める鋼の姿を遠めに見る。その姿の目視と共に防衛戦に参加する戦士達の戦意が向上し始める。また同時に、恐怖が人々の中で浮かび上がり始めるのも見える。その姿を見て、ふむ、と呟く。掌の上でカードを浮かべ、それを握りつぶして消し去る。

 

「ディーヴァ」

 

「はい、マスター」

 

 言葉に応えて霊体化が解除され、ディーヴァが出現する。カスタムには存在しない隻腕という姿に驚きが向けられ、戦場には不釣り合いなドレス姿もまたディーヴァに注目を集めた。それらの視線を無視しながら、リクエストをする。

 

「何か一曲、鼓舞する様な物を」

 

「了解しましたマスター―――それでは、歌わせていただきます」

 

 ディーヴァはそう言うと残された腕を軽く振るった。それに従って光が一瞬だけ形を作り、それがスタンド付きのマイクになった。或いはそれが生前に保有していた道具の一つなのだろう。それを手にしたディーヴァは手慣れた様子でマイクとスタンドを引き寄せ、身体に密着させるように構えてから短く息を吸い込み、

 

「LA―――」

 

 歌を響かせた。楽器もなく、マイクと声、それだけで音を発した。だがそれを無視できない、天上の音色として届く範囲に響き渡った。それは―――それは言葉として表現するには難しすぎた。一音目は優しく、心に染み込むような音で、そこから心臓を掴む様に音量が上がり、そしてそれは背中を押し、背筋を伸ばすような勇ましさを胸の内に与える。聞いている者、誰もがその胸の内に勇気を思い出すような、そんな優しさから力強さへと変わって行く歌声だった。その美しさを語るのであれば、楽器は不要だと言える。否、楽器なんてものは彼女の歌声と比べれば雑音でしかないだろう。

 

 それほどまでに魂を魅了するような、歌声だった。

 

 もはや犯罪的とも言えた。

 

 だがその歌声は響いた。それを聞いた者は誰もがその一瞬、恐怖を忘れた。立ち向かう力強さを得た―――そしてそれだけではなく、限りない強化を歌声を通して得ていた。事前にディーヴァから歌声にはバフ効果が存在すると聞いていたが、凄まじいぐらいに体の底から力が湧き上がってくる。劣化し、本来の力が大きく失われていても、それでもすさまじいまでの歌の力をディーヴァが見せていた。

 

「さて、ある意味予想外だったが―――これなら良い感じに奮戦してくれるだろう」

 

 歌の終わりと共に咆哮が陣地から響いた。大地を揺るがすほどの歓声と共に何百を超える補助魔法が一瞬で世界を満たし、多重に参加者たちに魔法による強化と援護を行い始める。それで戦意と士気が限界突破してしまったのか、凄まじい程の高揚が防衛隊を満たしていた。これはちょっとテンション上がり過ぎじゃないか? と思いながらも、

 

「ディーヴァ、支援を続行」

 

「はい、マスター」

 

 新たな歌が大地に響き始めた。その途端黙って聞き入るお前ら面白いな、と思いながらも戦争の準備が全体的に始まる。凄まじい魔力の奔流によって大魔法の準備が完了するのが見えた。誰かが極限まで力を溜めこむのが見えた。魔方陣を改造してバフ効果を引き上げるのが見えた。使役するモンスターを一時的に次の段階へと進化させる姿が見えた。英霊を召喚し、空中に船を浮かべあげる姿が見えた。

 

 戦争だ。これ以上ない戦争の準備だ。

 

 ―――戦争が始まる。

 

 歌声が響く中―――侵略者が一定のラインを超えた。

 

 直後、爆裂と破砕が世界を覆った。大魔法が一斉に乱射され、それによって地平線を薙ぎ払いながら大火災を生みだし、終わりのない長距離砲撃が外す事なく敵の数を滅ぼす為にフル稼働を始める。相手からの攻撃、その流れ弾が此方に届かない様に、カードを投げて正面にエーテル減算の障壁を多重に作り、その背後で戦場を俯瞰する。インベントリから椅子を取り出し、そこに座りながらさて、どうしたものか、とWIKIと外部の動画サイトにアクセス、それを複数ホロウィンドウで展開しながらここから戦況を眺める。

 

 おぞましい、と表現できる数が地平線を覆い、それがゆっくりと埋め尽くしながら進軍している。PCだけではなくNPCも作戦に参加しており、凄まじい勢いで敵を消し飛ばして行くが、正面に見えるのはどれもレベルの低いカスの様な雑魚ばかりだ。

 

「弱いのを正面に置いて、消耗させに来ていますね……と」

 

 WIKIの情報共有場に打ち込む。まぁ、相手はロボットなのだから、そういう手段で来るよなぁ、とは思う。

 

「指揮官を……いや、ボスを見つけ次第殺さない限りは負けるな、これ」

 

 冷静に状況を見て、それを理解した。それを素早く情報共有場へと打ち込み、危機感を煽らせるが……まぁ、一人でどうしろ、ってものだ。となりで支援の為に歌い続けるディーヴァを置きながら、さて、と呟きながら足を組んで座る。椅子はインベントリの中にしまってある為、問題はない。

 

 重量の無駄遣いかもしれないが、座って考えると落ち着けるのだ。

 

「まぁ―――」

 

 焦る必要はない。自分以外に頑張っている人間が多いのだから。主人公ごっこはそう言うのに任せ、

 

「―――美味しい所だけを貰う準備をさせて貰おうか」




 Name:マスター
 Level:100
 Status:
 AP:485/485
 筋力:70 魔力:119 敏捷:150 体力:150
 Title:【錬金術師:中級】【Evil】【ネクロマンサー】【探究者】【畜生メガネ】
 Skills:
 SP:318/385
 《禁呪魂冥士:F》 《超魔力:E》 《審美眼:C》《エーテル干渉:C》 《語学:S》 
 《キネシス:B》《ポーションピッチャー:F》 《軍略:》 《薬学:A》
 《付与術:A》 《魔眼:M》 《深淵:E》 《外法:E》 
 《ミスディレクション:D》 《邪眼:E》 《カリスマ:D》 《幻想の色彩:M》


 主人公、性欲よりも探究心が勝る。
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