※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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技術、技能、システム
ぱーとさーてぃーん


 ―――意識はすっと芽生える。

 

 VR特有の睡眠から起床状態へのステータスの移行だ。リアルと違ってVRでの睡眠は、睡眠という状態に変化するという少々ややこしい状態になっている。人間は眠っている間でも脳が情報の整理を行っていたりし、それで肉体を休めていたりする。VRにおける睡眠は科学的な睡眠状態の再現であり、起床とはステータスの解除である。その為、リアルであるようなけだるさとかが再現されないのだ。こればかりはリアルと違う事に感謝したい―――寝起きが楽なのはさっさと行動に移せるから好きだ。

 

 それはそれとして、暖かく、柔らかいベッドの感触は実にこのまま、惰眠を貪る事を誘惑してくる。

 

 だが眠気が完全に霧散してしまっている以上、素早く起きた方が身のためだ。腹にだけかかる様にかけていたベッドシーツを剥がしながら上半身を持ち上げ、そして近くの壁にかかっている大時計を確認する。音もなく時刻を刻むアンティークはベッド共々、課金で入手した家具だ。いや、家具そのものが大半、課金で賄えるというのが事実だ。高級品を超える超高級品クラス―――つまりランクB~Aまでだったら公式の課金項目で家具の入手が出来る。これらの家具は高級品らしく、それぞれ特殊な効果が付与されている。

 

 たとえばこのベッドは《最適温度調整》が付与されているベッドで、もっとも快適な温度で寝る事が出来る。その為、夏の暑さだろうが、冬の寒さだろうがベッドの上にいる間は悩まされずに済む。そして大時計の方は《消音》効果が付与されており、多数の歯車を露出した超アンティーク調の大時計でありながら、音を一切発する事無く動き続けている。

 

 無論、これを超えるマスタークラスの作品とも言えるものが存在する。どんな生産でもあり、A-やAランクまでは中級で簡単に辿り着くことが出来る。だがここからはAの壁というものがあり、Aを超えてA+へと到達する事で漸く上級に最初の一歩を踏み出す事が出来る。そしてそのA+の領域に入った品はマスターピースとも呼ばれる超高級品として認識され、超高値で取引される―――いわゆる貴族とかが持っているレベルの品になるからだ。

 

 そして今の所、本当に十指で数えられる程度のプレイヤーしかこのマスタークラスには踏み込んでいない。NPCであればまぁ、そこそこ存在するし有名人とかいるのだが、それがそういうNPCに頼むにはコネクションが必要な上に数千万に届く金が必要になってくる。……普通のプレイヤーでは到底手の届かない額だ。

 

 交易プレイヤーでも相当上位にいなきゃ手が出ない品物だろうが……自分のアトリエ、家を確保する上ではリアルマネーで用意した方が遥かに便利である為、迷う事無く購入する事にした。アトリエの設備も課金で購入できる事が判明した為、合計20万ほどの出費となったが、それでも今住んでいるアトリエ兼自宅はその初期投資によって一気に恵まれた環境になった。

 

「時刻は七時―――予定通りの起床だな」

 

 喉から溢れる声は自分の物ではない―――天上の音色だと間違えそうな程美しい声だ。肩にかかる髪も長く艶やかな金色となっており、根本的にそれが別人のものであるというのが容易に解る。無論、それを己は理解している。そもそも実験の為にやっているのだから。

 

「ディーヴァ」

 

「はい」

 

 名前を呼ぶのと同時に返答が返ってくるのは自(・)分(・)の(・)口(・)か(・)ら(・)だ。それを聞いてしっかり人格が分けられている、というのを理解し、頭の中に記録しておく。体から落ちたベッドシーツは下腹部を覆う様に落ちて、そのまま上半身を持ち上げただけの状態で胸を触り、口の中に指を入れて味覚と触覚を確かめ、それからベッドサイドテーブルへと向かう。そこには予め用意しておいた紙とペンが置いてある。

 

「……感度に異常はなし、思考を切り離したまま一定時間の維持に成功……精神汚染の発生はなく、経過は実に順調……五感すべてに問題なし、と」

 

 自分の状態をチェックし、軽くベッドの上で体の隅々までを鏡を使ってチェックする。どこか異常がないか、変な現象が発生していないのか。それを確認し、問題なく憑依融合実験が成功した事に、息を吐いた。前の実験は精神保護の事を忘れてやってしまったので、ディーヴァとの間にある自我境界線が崩壊しそうになった―――或いはアレが本来、悪魔共が融合する為にやっている事なのかもしれない。それで完全に混ぜ合わせ、戻れなくする。無論、そんな事になったら困るので、危険だと理解した瞬間、解除し、安全に安全を重ねて今回は挑戦した。

 

 ―――そして成功した。

 

 自分の肉体をベースとして一時的に融合しているので、両手と目があり、この体をディーヴァの意志で動かす事が出来る―――つまりは戦闘における切り札として活用できるほか、悪魔が物質界に干渉する為に一体何を行っているのか、それを理解する為の一端でもあった。メモを取り、それを確認し満足したところで腕を持ち上げ、胸を掴んだ。

 

 そのまま、体から引き剥がす様にディーヴァのエーテル体と自分の肉体を分離させ、元の霊体と人間の状態へと戻す。肉体がディーヴァのものから自分のアバターの物へと変形して行く。それは激痛の塊だ。当然ながら骨格、顔、肉体構造、筋繊維の質、その全てが変化するのが融合という行いだ。肉体を改造し、そのものを組み替える行いが痛くない訳がない。だがその痛みも何度目かの経験だ。歯を食いしばっていれば、引き剥がして、そして変体が完了する―――無論、最初から服は着ていないので双方共に裸だ。風邪を引く前になんか着るか、そう思いながら霊体故にあっさりとドレスを纏った隻腕の歌姫に命令を出す。

 

「朝食を作っておいてくれ」

 

「了解です、マスター」

 

 感慨もクソもなく、実験を終えたのでさっさと次の仕事を与えて動かす。

 

 

◆

 

 

 アトリエの入手から二カ月がゲーム内で経過した。

 

 リアルでは一か月が漸く経過したという程度になる。

 

 提督の好意で手に入れたアトリエはお世辞にも最新鋭と呼ぶ事は出来なかった―――だが自分で資金を出し、改築と課金による物品の追加を行う事でアトリエは店舗、そして生活空間に実験室を保有する拠点へと変化した。その為に稼いだお金を一気に消費する必要はあったが、それでもそれに見合うだけの結果ではあったと思う。そも、金なんて天下の回りものなのだ、消費する事に意義があって、溜めこむ事は害悪でしかない為、これで良かった。

 

 ともあれ、そうやって得た拠点は中央通りの一角にある少しだけ古ぼけた外観を持つアトリエだ。改築を行った事で二階までが存在し、二階部分が生活空間となっている。一階が店舗、その奥にアトリエが存在し基本的に隠したい研究資料などは全部二階に鍵付きで保管してある。

 

 そんな生活を始めてから大体二カ月だ―――いい加減、此方の世界にも慣れてきたので、今までは出来なかった事に漸く手を伸ばす事が出来始めた。ディーヴァとの融合実験はその一端だった。使いやすい奴隷がいない以上、自分の体を使って実験するのは当然だった。それ以外にもホムンクルスの作成等、倫理ギリギリのラインを攻める様な実験に漸く、手を出す事が出来る様になった。そんな充実した二カ月だった。アトリエでの活動だけではない。アトリエの横に店舗を併設している為、作ったポーションや錬金アイテムも即座に販売が出来るようになった。

 

 とはいえ、最初は全く売れなかったのも事実だ。

 

 店舗にはそれぞれ知名度というステータスが存在し、これを上昇して行く事によって店舗にNPCキャラクターが足を運んで来てくれる。つまりこれを上昇させないとまともに店舗として機能しないのだ。この知名度は親しいNPCと関わりを持って噂を広めて貰ったり、噂屋を使って意図的に自分の存在をアピールする他、店舗に寄せられるフリークエストを解決する事で店舗の知名度を上昇させて行く事が出来る。一部フリークエストにはSPを取得できる場合もあるのだ、完全な骨折りという訳ではない。

 

 そんな訳で一か月間はクエストの処理と店の知名度を上げる為に奔走し、次の一か月からは漸く落ち着いた拠点で適度にアイテムを販売しつつ、自由に錬金術の深淵に挑むという豪勢な時間を過ごせるようになった。

 

 漸く自分がやりたかった環境の構築に成功した、という気分だった。それでも現状、錬金術・上級の壁は突破できずにいた。根本的に必要とされるのは才能ではなく、物事の流れや性質を理解する知識や知恵、そしてそれを繊細に触れて、干渉できる技術だと理解している。《自然学》や《仙術》を自然と属性の関係性をもっと深く理解する為に取得しつつ、

 

 好き勝手な日常を過ごしている。

 

「―――どうでしょうか?」

 

「あぁ、今日も美味くできてる」

 

 二階のリビング、テーブルの上には朝食が広がっている。段重ねのはちみつパンケーキ、ジャグの中に入ったミルク、カットされたフルーツサラダ、新鮮なソーセージ、そしてコーンポタージュスープ。朝からそこそこ豪勢にも思えるこれは全部デ(・)ィ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)が(・)一(・)人(・)で(・)作(・)っ(・)た(・)ものだ。その隻腕で器用に朝食を作る他、他にも家事をこなす姿は見ていて驚きのものだ。ディーヴァはその姿を見ればどこかの国の姫にでも見えそうなものだが、その本質はどこか、もっと泥臭い物の様に思える。そうでなければここまで家庭的な面を見せたりする事もないだろう。

 

 ……生きている間は既婚だったのだろうか?

 

 まぁ、死んでいる今となっては俺の玩具だ。気にする事じゃない。

 

「朝食は一日の活動の為のエネルギーを蓄える為に、昼食や夕食以上に重要な食事です。特にマスターみたいにひたすら集中するタイプの人間は甘いものを摂取して、カロリーを溜めこまないと昼食まで持ちません。しっかりと全部食べてくださいね」

 

「微妙に量が多いんだけどなぁ」

 

「一日のエネルギー補給の為にもしっかりと食べてくださいね」

 

 普段は人形のクセして、こういう時ばかりは押しが強い―――まぁ、美味しいから文句はないのだが。ただあまりにも美味しすぎるとリアルでの食事の量が減って行く。まぁ、これも現代のVR化社会が持ち始めた問題だ。料理の味をデータ化して再現できるVR世界では美味しい料理がリアルでよりも遥かに簡単に手に入る。その為、一部人間はVRで舌を肥えすぎて、リアルでの食事を受け付けなくなってしまった、なんてケースもある。

 

 逆にそれを利用したVRダイエットなんてものもある。

 

 だが基本的に美味しくてもリ(・)ア(・)ル(・)の(・)満(・)腹(・)中(・)枢(・)を(・)埋(・)め(・)る(・)訳(・)で(・)は(・)な(・)い(・)のがVRでの食事だ。

 

 しっかりと此方で食べた後で、リアルでも食事する事を覚えていないと普通に餓死する。

 

 それを逆に利用したVRダイエットと言うものが世の中にはあるそうだが、自分には関係のない話だ。しっかりと此方で朝食を取り、飲み込んで一日に必要なエネルギーを補給する―――PCに排泄概念はないが、スタミナ概念は存在し、空腹による餓死も存在している。故にしっかり食べておかなきゃ好きな実験や研究も行えないのは道理だった。故にパンケーキに手を付けながら、毎日こんなのを食っていたら現実でのメシがまともに食えなくなってしまうなぁ、と心の中で愚痴りつつ、朝食を食べ進めた。

 

 ちゃんと全部残さずに食べ終わったのを確認するとディーヴァが解放してくれる為、この時だけはやや主従逆転していないか? と思わなくもない―――刷り込みや忠誠心がなにか、おかしな方向へと突き進んでいる様に感じなくもない。とはいえ、多方面で活躍しているディーヴァが便利なのは間違いないので、矯正するような事はなく、そのままにしている。

 

 そうやって朝食を終えたら一階へと降りる。

 

 店舗とアトリエを繋げる間の廊下に階段が存在し、そこから二階の居住空間へと上がる事が出来、アトリエと店舗へと簡単に移動できるようにここは設計されている。アトリエへと向かう前に、先に店舗の方へと向かう。カウンターの後ろから出て店内を見回す。

 

 基本的に木製で揃えられた店内の内装は清潔感のある、明るい空間を目指して作られている。当然ながら暗く陰湿なイメージはこの店舗スペースにはない―――当然だ、そういうイメージは客商売を行う上で一番重要な部分の一つなのだから。ここでしっかり金を稼ぐ予定である以上、無駄に遊びは入れない。とはいえ、薬品の中には日光を浴びる事で劣化する物もある為、スペースの一部には常に影がかかる様になっている。

 

 概ね、店舗のデザインに関しては満足している。売り子をやるのは自分じゃないし、自分とは違うイメージの明るく清潔な店舗で一切問題ない。その代わりにアトリエでは何時ものスタイルを貫くのだから。

 

 とりあえず、入口の扉の鍵を外しながら立てかけてあるサインを【準備中】に変えてから棚に出してある品の一つ一つに、品質チェックを行う。無駄にリアルなEX:Worldでは当(・)然(・)の(・)様(・)に(・)食(・)べ(・)物(・)や(・)薬(・)品(・)は(・)劣(・)化(・)す(・)る(・)為、保存方法等には気を付けなくてはいけない。インベントリの中にいれているから大丈夫―――なんて油断していると、品物がダメになっている場合がある。店舗内に飾っているアイテムも当然ながら劣化する為、一つ一つ確認し、まだ使える事を見なくてはならない。こういう地味な所で知名度は落ちるのだから。

 

 そんな事を考えながらチェックしていると、店の入り口がちりんちりん、と音を立てながら開く。

 

「おはようございます店長!」

 

「おはようございますマスターさん。今日もよろしくおねがいします」

 

「えぇ、今日も頼みましたよ」

 

 気配を感じた所で軽くフードを被りつつ、扉を開けて入ってきた二つの姿へと視線を向ける。一人は快活な少女の姿だ。八重歯がチャームポイントで、返事の良い元気な茶髪の少女、クリスだ。そしてもう一人は大人しい雰囲気のある青年であるアラン。二人は近所に住むNPCであり、そして自分の代わりに雇ったアルバイトでもあった。

 

 自分に接客業なんて到底無理である。

 

 だったら元気の良い可愛い子を雇って、後は品出しや整理が出来そうな落ち着いた雰囲気の者を雇って、役割分担させつつ店を任せた方が遥かに効率が良い―――二人が働いている時間を自分が作業に当てればそれだけ、研究と生産に時間を割く事が出来るのだから。

 

「それでは制服に着替えて品のチェックを終わらせたら何時も通り営業を開始してください。私は何時も通りアトリエの方で作業を進めているので、何かあったらそっちへ」

 

「了解しました」

 

「おーっす! 任せてくださーい! 私接客と勘定しかしませんけどねー!」

 

「お前は調べたり考えたりするの苦手だからなぁ……」

 

「はーっはっはっはっは!」

 

 なんだかんだで、お互いの短所を補いあっているコンビだった。更衣室へと制服を取りに行く姿を見送りつつ、何時も通り、自分の領域へ―――アトリエへと下がって行く。

 

 こうやってアトリエに入ると、非常に落ち着く。

 

 基本的に炎等を使う事が多いので、木製ではあるがこのアトリエだけは非常に耐火性の強い素材と建築を施されており、炎が漏れた程度では延焼しない様に出来ている。また窓等が存在するが、シャッターも搭載されており、即座に光を遮断する事が出来るようにもなっている。課金する事によって脇目もふらず手に入れた高級錬金釜や遠心分離機、蒸留機、数多くのフラスコや専用の冷蔵庫まで設置してあるアトリエは自分が夢見た理想の作業環境だった。このゲームを始め、錬金術師として活動を始め、ずっとこういう環境が欲しかったのが今、叶っていた。

 

 ワークデスクには大量に購入してきた学術書も置いてある。ただ錬金術を続けるだけではAの壁を超える事は出来ないという事は理解出来た。その為、最近は実験などをして腕前を上げる事よりも、学術書等を漁って知識を増やす事の方を重要視している。

 

 未だに錬金術の分野でAの壁を越えたプレイヤーの名前は聞かない。

 

 その理由はとてもシンプルで、錬(・)金(・)術(・)に(・)は(・)膨(・)大(・)な(・)知(・)識(・)が(・)必(・)要(・)だからだ。

 

 エーテルに関連する知識、素材に関する知識、世界に関する知識、と、それだけを持ち上げるだけで《自然学》、《エーテル学》、《鉱石学》、《植物学》、《薬学》等のスキルが出てくる。これをスキルとして取得するだけではなく実際に自分で理解しないといけない、という点が錬金術には必要であり、それを一定以上のレベルで修めると、

 

 【錬金術師:中級】にス(・)キ(・)ル(・)を(・)組(・)み(・)込(・)め(・)る(・)のだ。

 

 つまり今までの様にスキルとスキルを統合させて新しいスキルを生みだすのではない。称号に対してスキルを材料の様に組み込む事で、新しいプレーンを目指すのだ。事実、自分が取得した《薬学》は先月の内に既に称号に組み込み、その他にも《生物学》と《鉱物学》を【錬金術師:中級】に組み込んでいる。既に組み込んだスキルは返却不可能であり、元に戻る事はないが、これが上級への道であると信じて、今は《自然学》スキルを伸ばす為に勉強を続けている。それ以外にも他に錬金術の手伝いになりそうなスキルの探索や勉強を行っており、大変充実した日常を過ごしている。

 

「ふぅ、さて今日はどれに手を出そうかな……そろそろSPにも余裕がなくなってきたし、じっくりとスキトレしておかないとSPが無駄になるからな」

 

 フリークエスト等を達成する事によって、現在のSPは合計で465まである。その内、諸々のランク上げや取得によって消費されているのは450―――つまり限界までスキルトレーニングを行ってからランクを上げても、15回分しか残されていないのだ。そろそろ、慎重にSPを消費しないとSP切れでスキルのランク上げが出来なくなる、なんて事態も見えてきた。

 

 とはいえ、フリークエストで稼げるSPも一回当たり3~5でそう多くはないのだ。流石にそっちに任せてスキルランク上げを行うのは苦痛極まる。

 

 やはりスキルトレーニングで必要値を最低まで下げてからランクを上げるのが一番だろう。それに知識や技術がない状態でスキルのランクを上げたとしても、きちんと身に付かない。それでは覚える意味がないのだ。アトリエに配置してあるフラスコの中身を確認し、ダメになっている物とそうでないものの判別をつけ、そして追加で購入する必要のあるものを確認する。今の所、材料を仕入れたばかりで余裕はある。

 

「と……《付与術》もいつの間にか組み込めるようになってたか。惜しいけどこれも投資と考えて、と」

 

 《付与術》を称号に組み込んだ。これでまたスキル画面がスッキリした。そして同時に【錬金術師】のスキルの効果が高まって行くのも感じる。スキルを減らすという事はス(・)キ(・)ル(・)の(・)恩(・)恵(・)が(・)な(・)く(・)な(・)る(・)という事でもある。それは自分がアイテムを作成する時、更に難易度が上がるという行為である。だがそれを乗り越えてこその上級……という事なのだろうか? まぁ、実際到達した人の話を聞けた訳でもないから、憶測ばかりだ。

 

 まだ上級到達しているプレイヤーがいないのだ、こうなれば一番乗りで上級に到達するのも一興だ。

 

 ネットゲーマーなんて所詮は承認欲求の塊だ。

 

 そして他人よりも自分が上であるという事を占めるのが人間としての快楽の本能なのだ。そこを自分は偽るつもりはない。少なくともこのEX:Worldでは。R18という約束された制限の撤廃があるのだから、自由にやらずにしてどうしろというのか。

 

 まぁ、もう既に自分の趣味全開でよろしくやっているのだが。

 

「さて……他に組み込めそうなものは何だ? あらゆる分野に手を伸ばし、それを理解しながら統合し、抽出するのが錬金術だ。となるとやはり、他の分野も軽く抓むべきか?」

 

 錬金術に手を出すと一部裁縫、鍛冶等に手を出す部分がある。それだけではなく執筆なども行う部分がある。考えれば考える程、錬金術という学問はかなり広範囲にその存在が渡っている。おそらく全部学ぶというのは不可能だ。となるとそれぞれの技術の根本となっている学問を学ぶべきなのだろうか?

 

 困った―――学問や《XX学》の様なスキルは腐る程存在するのだ。Aの壁を越えてA+の作品を生みだす為の答えを錬金術ギルドは知ってるだろうが、それを教えて越えた所で技術と知識が身に付かないのを理解しているから、それを教えるような事はしないだろう。その代わりにギルドは技術を伸ばす為の師匠とも呼べる人間に対する仲介を行ってくれる。まぁ、これはギルドに対してある程度貢献し、そして人格を信頼され、一定期間以上錬金術としての活動を行っているという実績を持つものに限るのだが。

 

 ……まぁ、自分の研究内容を考えると流石にそれには手を出せない。

 

 やはり独学で到達するしかない。ホムンクルス―――人造人間の作成もどこか、禁忌の一端に触れるとの話を聞いた気がする。作ろうとしてアレだが、

 

 好き勝手できる肉が欲しいなら奴隷を洗脳でもした方が早い気がする。

 

 だが奴隷売買が合法なのは帝(・)国(・)領(・)の(・)み(・)だ。現在の法律だと奴隷の持ち込みは禁止されておらず、保有も禁止されていないが、他の国やここ、ルーゼンだと奴隷売買が禁止されてる。まぁ、アメリカでも見た奴だなぁ、と思う。ただ奴隷を手に入れるのに帝国まで向かう事を考えた場合、やはりその時間を錬金術の勉強に当てた方が遥かに有意義だと思える。

 

「駄肉ならディーヴァがいるしな……」

 

『!?』

 

 今の所、ディーヴァを好き勝手やっているが、彼女に対し起こりうる反抗等の類は一(・)切(・)発(・)生(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。それはナイトも同じだ。この二体の英霊はまるで奴隷か、狂信者の様に付き従ってくれる。この原因の一端はまず間違いなく自分にある。この二人と契約を交わした事だ。だがそれだけではなく、ディーヴァの方は軽く頭の方を最初に弄っている。今もそれをそれとなく確認しているが、それが正常な状態としてちゃんと固定されている。これもまた悪魔の技術だ。とはいえ……それだけでここまで疑いもなく従うというのは恐ろしさを感じる。

 

 やっぱり、システム的なものなのだろうか?

 

 ……奥が深い。

 

 しかしスキルトレーニングを考えたらSPも時間も足りないなぁ、と嘆く。これは間違いなく休みが明けてもこの世界にハマり続けるパターンだ、とも。もはや笑うしかなかった。本格的にこのゲームの虜となってしまった事に。まぁ、今まで自分がTRPGで設定やロールでのみやっていた事が漸く出来る様な環境が出来たのだ、そりゃあやらない訳がないよな、という話だ。

 

「さて、良い感じに気を抜けたし……そろそろ読み進めるか」

 

 現在、《自然学》のランクはA、あと少しでSに届く所だ。これがSになれば称号に組み込む事が出来る様になる筈だ。Mランクにまで上げなくても良いのは、僅かなやさしさだ。とはいえ、学術書をしっかりと読み進めて理解すればそれでMランクに辿り着けられる学問系スキルは、他のスキルよりはトレーニングが非常に楽だった。

 

 ―――ちなみに学問系スキルでMになったからと言って、本当に極めたと思ってはならない。あくまでも学問を語る上では恥ずかしくないレベルに到達した、と言える証なのだ。そこから更に進む事が出来るし、上位系のスキルだって普通に存在する為、リアルで知識を披露しよう、なんて考えてはならない―――普通に恥ずかしい目に合うだけだからだ。

 

 さて、落ち着いて自然学を学ぶとしよう。エーテルは少なからず自然の影響を受ける。そして自然はエーテルの影響を大きく受けて変質する。つまり物質に対してエーテルは干渉能力を引き起こすのだ。そしてそれを操る錬金術との結びつきは強い……と、思いたい。少なくとも読んでいてそう思う。これを学ぶ事は錬金術を磨く上では重要な事だ―――そう思いながら学術書を片手に頁をめくっていると、アトリエへと続く扉にこんこん、と音が鳴る。

 

「なんですか」

 

『えーと、マスターさんの知り合いとおっしゃられる方が会いに来たそうで……』

 

「名前は」

 

『アイザックだそうです』

 

「通してください」

 

 はぁ、と溜息を吐きながら待っていると、アトリエの扉が開き、その向こう側から見慣れた赤毛の弓兵が出現してきた……いや、弓兵というよりは狩人に近いだろうか。草色のハンティングマントを装着し、腰に矢筒を装備しているアイザックの姿は立派な狩猟者だった。ゲーム歴は自分よりも長いのだから、当然と言えば当然か。アイザックだけをアトリエに通し、適当な椅子に座らせる。ほーん、とかふーん、とか言いながら興味深そうにアトリエ内部を見渡してから、此方へと視線を戻してくる。

 

「お前も大分出世したよなぁ」

 

「まぁ、家具とか器具とかは大半が課金だけどな。つかお前は割とこっち来てるだろ」

 

「いや、俺って基本宿を拠点に活動してるからさ、こういうホーム持ちのプレイヤーが羨ましくってさ、なんか後からお前が来たはずなのに俺、立場抜かれてね? って感じでさ」

 

「分野が違うから一概に比べられるものだと思わないけどなー」

 

 アイザックは完全に猟師プレイ。弓で戦いながらガンガン敵から素材を剥ぎ取って行くスタイルである為、アイテム狙いのプレイヤーにとっては非常に欲しい味方である。レアアイテムは一部の特殊なスキルがないと入手できなかったりするのだが、生物関連だと狩人系統の解体スキルやその発展スキルがないと入手出来ず、しかも本当に獲物を解体したりする必要性もトレーニングで出てくるので、取得者は大分喜ばれるのだ。こいつもそういう構成である他に、弓矢を使った戦闘を行う。その場合は毒液とか容赦なく塗って使うので、そういう意味でもこいつはお得意様だったりする。

 

 まぁ、やはり毒の類は直接塗って、体内に流し込んだ方が効果が高い。そういう意味ではこいつが一番上手く作った毒を使ってくれてる。

 

 いや、だって―――俺、戦闘しないし。

 

 作った所で使わないのだ。という訳で、繋がりがあって使う奴の方が良く使えてる。大体自分よりも強い従者がいる癖にポーション投げて戦うような事があればそりゃあもう非常事態、追い込まれている状況ばかりだ。

 

「ま、それで何の用だよ。態々こっちに逢いに来たって事は用事があるんだろ? 今ちょっと劇薬を渡すから飲みながら話してみろ」

 

「ストレートな殺害発言。痺れるわ。物理的に」

 

 まるで中身のない会話を楽しみつつそれでさ、とアイザックが切り込んでくる。

 

「お前、勿論大型アプデの話を知ってるよな?」

 

「ん? あぁ、そりゃあな」

 

 大型アップデート―――EX:World全プレイヤー待望の時である。

 

 世界に新たなる進展が訪れると公式でトレーラー紹介されている他、レベル150まではプレイヤーのレベルが拡張されるようになる。その他にも多くの細かい追加が存在し、このEX:Worldに対して刺激が増えると言われている。その為、多くのプレイヤーが待望しているのだ。何せ、世界初のR18ジャンルのVRMMOだ。規制の存在しないこの世界では何をしようが自由だ。その自由を極限まで拡張し続けるゲームのアップデートは当然歓迎される。

 

「確か一週間後の話だろ?」

 

「あぁ。大方の予測は帝国vs共和国の状況に変化が出るんじゃないか? って所だけど……一番注目するべきなのはレベルキャップが150まで解放されるところだ。つまり漸くSPもAPも増やせるって事だ。何をしようがまずは最初にレベルが来る。そして能力が来る」

 

「要件を言え」

 

「万魔殿(パンデモニウム)行こうぜ」

 

「万魔殿万魔殿……あー……あそこかぁー……」

 

 万魔殿はギ(・)ル(・)ド(・)ラ(・)ン(・)帝(・)国(・)の(・)帝(・)都(・)に(・)存(・)在(・)す(・)る(・)ダ(・)ン(・)ジ(・)ョ(・)ン(・)の名前だ。万魔殿とも、悪(・)魔(・)の(・)扉(・)とも呼ばれている。その理由は実にシンプルである。それは悪魔の世界へと繋がっており、そこをダンジョンとして探索が出来る様になっているのだ。他のダンジョンの様な仕掛けや罠がある訳ではなく、此方の世界でダンジョンとして固定化されている為、文字通り、悪魔を狩る為のダンジョンとなっており、修練中の僧兵とかが修行の為に良く訪れるダンジョンとなっている。なにせ、基本的にこのダンジョンで必要とされるのは精神の強さ―――精神耐性であり、そして同時に聖敵でもあるのだから、修行の為には非常に優秀な場だ。

 

 かつては帝都を襲った大襲撃の発生源だが、それを破壊する事無く研究・鍛錬の為に当時の皇帝が残し、封印と管理を行っているらしい。

 

 ちなみに国に管理されているダンジョンなので入場料が発生する。そして数少ない最高難易度が存在するダンジョンでもある。

 

 纏めると悪魔としては低級ではあるが―――プレイヤーとしては現状戦える最高レベルの雑魚エネミーと戦える上に、罠の心配をする必要のないダンジョンとなっている。その代わり、念入りに精神耐性を用意しておかないと発狂死するとも。

 

「嫌に決まってんだろ。お前一人で死ね」

 

「予想通りの辛辣な言葉だな」

 

 いいか、と前置きをし、目の前の無能馬鹿に対して指を向ける。

 

「どうせ高難易度ダンジョンでさっさと150レベを目指そうって魂胆なんだろう」

 

「おう」

 

「だが別に俺はそこまで焦るつもりはない。ここに引きこもって戦争とかどうでもいいから、大人しく違法研究を続けたい」

 

「違法研究」

 

「まぁ、でも人体実験とか解剖もしたかったから、帝国で奴隷を買ってくるのも悪くはないんだよな」

 

「人体実験」

 

「ただ時間の事を考えるとここで作業続けている方が習熟早そうだしな。利益になると言えばなるけど効率悪いし」

 

「そう言えばお前、効率が良いからって理由で前の卓で人間牧場作ってたな……」

 

「だって効率がいいし……」

 

「効率いいで出来るんだったら誰だってやってんだよ。やっぱお前頭おかしいわ。いや、だからこそ友達やってて楽しいんだけどな」

 

 そこまで言ったところで、まぁ、待て、とアイザックが言った。

 

「お前が帝国に行きたくなるようにここから鉄腕交渉人アイザックの実力をお見せしようか」

 

「お、鉄腕(物理)かな」

 

「違うわ! いいな! 見てろよ! 見てろよお前―――」

 

 そう言いながらインベントリを開き、そこからアイテムを操作する様にアイザックが取り出す。既にセットされているアイテム等と違ってインベントリのアイテムは出現するまで数秒というデメリットがある為、ちょっとノロっとしている。が、重量制限内であれば大きさに関係なく運べるその存在は、相変わらず便利だよな、と思う。

 

 そうやってアイザックが取り出したのは一冊の本であり、

 

「……スキルブック?」

 

「おう。これを読むと、最初の奴限定でスキル《機構学》が手に入る……この意味、解るよな?」

 

「ぐっ」

 

 多くの学問スキルは最初からスキルリストに存在している訳ではなく、誰かかから教わるか、或いは自分から学び始める事によって習得可能となる―――そして機構学のメッカは帝国だ。帝国ではマキナと呼ばれる騎乗用ロボ、そしてドライバーと呼ばれるパイロットが存在する。そのマシンの維持、整備、改造などの為にこの大陸で一番機械に詳しいのが帝国だ。

 

 逆に武術や魔法技術に関しては共和国が遥かに優れている。

 

 ともあれ、機構学のスキルブックなんてもの、まずここら辺で見る事はない。これを読めばそれだけで最低ランクで《機構学》を取得する事が出来る。そしてその一部の知識はまず間違いなく錬金術に使える、或いは組み込めると考えていたものだ。だからどこかで習得しよう、と軽く市場を回ってそちら方面の本を探していたのだが、今まで成果がなかった。

 

「クックックック、何度お前相手にGMしてきたと思ってんだ! お前の考えは手に取る様に解るぞ! 最短ルートで習得とトレーニングに関して考えだし、なおかつSP不足について考えているな! これを受けずに後々帝国に行くのよりも、ここで受けて習得し、帝国に行ってレベリングした方が後の効率が上がるとも思っているな!」

 

「そうだよ畜生!! 流石解ってやがるな!」

 

「PLを釣るには餌が一番なんだよぉ!」

 

 畜生、畜生―――そう呟きながらも俺はこの話に乗るしかなかった。餌が美味しすぎたのと、元々帝国に行ってやりたい事が多すぎて、この際、友人を利用して色々と出来るのであれば、アップデートのタイミングを含めて悪くはないのではないか、という思惑があったからに他ならない。とはいえ、素直にここまでやられると少しムカつく。

 

「覚悟してろよ……絶対に復讐してやるからな……! 戦闘中俺に背中を向けて戦えると思うなよ!」

 

「何をするんだよ」

 

「TSポーションを投げつける」

 

「まさかの戦闘転用」

 

 そんなノリで、アイザックと一緒に活動するメンバー達と共に帝国へ、アップデートを視野に入れたレベリングの為に向かう事となった。短い平穏だったな、と胸の中で呟きながら旅立ちの準備をするハメになる。

 

 ……まぁ、偶にはそんなのも悪くはない。




 Name:マスター
 Level:100
 Status:
 AP:485/485
 筋力:70 魔力:119 敏捷:150 体力:150
 Title:【錬金術師:中級】【Evil】【ソウルマンサー】【プロフェッサー】【畜生メガネ】
 Skills:
 SP:450/465
 《禁呪魂冥士:B》 《超魔力:C》 《審美眼:B》《エーテル干渉:A》 
 《キネシス:S》《ポーションピッチャー:D》 《軍略:C》 《性魔術:B》
 《魔眼:M》 《深淵:C》 《外法:C》 《自然学:A》 《仙術:C》
 《改竄:D》 《邪眼:C》 《カリスマ:C》 《幻想の色彩:M》


 時間経過によってそこそこ変化。一番の変化はマンチヤロウに色々と手段を増やす時間を与えてしまった事、かな……。
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