※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーとふぉーてぃーん

 ギルドラン帝国。

 

 この大陸の半分を支配する大国であり、現在共和国と正面から睨み合っている所でもある。

 

 このルーゼンからは馬車に乗って約一週間程度の距離にある。いや、程度という表現はおかしいのかもしれない。徒歩であればその倍以上の時間を必要とするのだから、ここからはかなりの距離があると考えても良い。そんなギルドラン帝国は機械文明をベースに構築されている。とはいえ、良くファンタジーでやる様な悪の帝国という訳ではない。不毛の荒野に帝都が存在する訳でもなく、自給率もかなり高いらしい。それが共和国に戦争を吹っかけているというのだから面白い話である。

 

 だがファンタジーもので、帝国と共和国の戦争ネタは基本だ。ない方が怪しい。なのでそれはそれでいいと思っている。理由に興味なんてない。面白ければそれでいいのだから。

 

 それはそれとしてギルドラン帝国の帝都クルシュワ。

 

 帝国一の都市という事もあって非常に広大であり、都市そのものが要塞としての機能を保有している、という面白い形をしている。形として表現するのなら山が正しい。山に街を張り付け、頂上に帝城を建築した。そこに路面電車が走っていたりするらしい他、対弾隔壁が地上部分を囲っているらしい。

 

 WIKI等で確認できるスクリーンショットを確認する限りは、本当に要塞の様な街だと表現できた。万魔殿の話を聞き、思い出した所で街の形状を確認すると、個人的にはそれがま(・)る(・)で(・)蓋(・)で(・)あ(・)る(・)様に感じるのは不思議な事だった。

 

 最初は面倒だったからアトリエから離れたくないのも事実だった。だが行く事を決めてみれば、色々と興味が沸き上がってくるのも事実だった。最下級、低級とはいえ此方側から悪魔に対して接触するチャンスでもあるのだ、これは。思いっきり道を踏み外し完全な潜んでいる邪悪ロールをし始めてしまったが、それはそれとして、

 

 悪魔。

 

 実に興味深い存在ではないか。

 

 エーテルと物質の融合。存在同士の結合。生物と非生物の融合だ。思い出せば悪魔達のやっている事はエーテルの操作だった。或いはエーテルとの融合。《禁忌》のスキルを取得した所で更にのめり込んだこの錬金術とエーテルを扱う秘術の道。

 

―――もう一度見てみたい。

 

 あの悪魔と人間が融合する姿を。あの時はまだ未熟で見れなかった完全なエーテルの融合構造を記憶、記録したい。いや、出来るなら何度か繰り返して実験すらしたい。最初はめんどくさかった帝都へと向かう事もこうやって考え出せば楽しみが増える。方向性はややズレるが、それでも新しい錬金術の道を自分から見出せるのかもしれない。そう思うと楽しくなってくる。問題は一つ。

 

「悪魔が捕獲できるといいんですが」

 

「こいつ開幕から恐ろしい事を言ってやがる」

 

「出来る事なら実験、研究、解剖、素材用に数体確保したい所ですねぇ……」

 

「何言ってんだこいつ、って言いたい所だけどお前ならなんかやりそうって気がするからスゲーよ。でも法律で禁止されてるから注意な」

 

 そこで止めないからアイザック好き。

 

 そうやって軽くふざけながら翌日、アトリエを一旦閉めて帝都クルシュワへと向かう為に馬車の停留所に来ていた。荷物は全てインベントリにしまい込める為楽なのだが、それ以外の準備を昨日のうちに終わらせておく必要があったため、少々バタバタしてしまった。つまりはアトリエを一旦閉める事、そしてアトリエでアルバイトしている店員に少しの休暇を与える事、

 

 そして最後の錬金術ギルドに一時的にルーゼンを離れる事になるという事の報告だった。そんな必要あるのか? とは思われるが、ギルドへの所属はつまり一員としての、メンバーとしての、組織に属する者としての義務が生まれるという事でもあるのだ。ギルドに所属している以上、その恩恵に預かるのだから、当然ながらそれが掲げているルールを守る必要もある。

 

 ギルドの役割は秩序を保つ事で管理する事もであるのだ。

 

 突然話もなく錬金術師が失踪した結果、供給が滞った場合、それで死ぬのはギルドなのだから、当然ながら調べるし、事前に知らせておけば色々と手を打ってくれる。今利用しているアトリエの仲介や紹介もギルドが行った事なのだから、義理と義務として挨拶をする必要がある。そして手数料を払えばアトリエを離れている間、アトリエの管理などをギルドの方で受けてくれるという事もある。

 

 実際、いくつかの器具は放置して劣化させるのは割と痛い。そういう物の扱いを知っている人間を派遣し、手入れをしてくれるのはありがたい話である。そういう事もあってギルドへの報告、そして親しい人たちに軽く挨拶などを終わらせれば、帝国の帝都、クルシュワへと向かう準備が完了する。

 

 そういう事もあり、全ての準備を終わらせて停留所に来ていた。

 

 何度か村に立ち寄り、停止するが大体一週間という時間をかけて帝都へと向かうのが馬車での移動スケジュールだった。その為、予めある程度日持ちのする食料を買い込んでインベントリに突っ込んである。劣化概念がしっかりと存在する辺りがこのゲームの汚い所だと思う。それはともかく、

 

 今回、帝都へと向かうメンバーは自分とアイザックの二人だけではなく、アイザックが意気投合したというもう一人の前衛型プレイヤーも一緒だった。停留所で待ち合わせという事もあり、一足先にアイザックと共にその最後の一人の到着を待ちつつ、何時もの中身のない馬鹿話をしていた。

 

「所でお前はガチャ引いた? 種族アバターセット」

 

「あぁ、見た目だけは好きな種族に変えられるってアレですか」

 

「そうそう、それそれ。というか今日はキャラ作ってるんだな」

 

「人目が多い場所だと流石にRPに力を入れておきたいですからね。じゃないと遊んでいる意味がありませんから。それはそれとして、私はそっち方面は手を出していませんねぇ。生憎とこの姿を割と気に入っていますからね」

 

「あぁ、なんというかジャストフィットって感じするもんな、お前とその姿。まぁ、聞いてくれよ。俺種族ガチャやったんだよ」

 

「ほうほう」

 

「んで50連でSSR出したんだよ」

 

「ほほう?」

 

「なんと悪魔変身セット」

 

「お、自殺かな」

 

「そういうロールがしたい奴には喉から手が出るほど欲しいものなんだろうけどなぁ、俺にはどう足掻いてもSSR塵だったわ。まぁ、それ以外でも非人族アバターが色々と手に入ったから、今度色々と試して遊んでみよっかな、って思ってるんだけど。お前、欲しいアバターある? 余ったのならあげてもいいぞ?」

 

 いやぁ、と声を零す。

 

「自分を改造するより他人を改造する方が好きなので……」

 

「まさに糞眼鏡」

 

 ゲーム内であるのならば合法だし、リアルに影響はないし。だったらモラルとか全部捨て去って遊んでいる方が遥かに楽しいのだ。何度も思い出すがこれはゲームだ。楽しんだ奴が勝者だ。楽しめない奴が敗北者だ。課金して金を出して遊んでいる以上、楽しまなければ馬鹿なのだ。だから自分の好きなように遊ぶ事にしている。まぁ、それはそれとして、

 

「最後の一人というのはどういう方なんですか」

 

「ん? あぁ、ゴエモンの事か」

 

「フィーリングが伝わってくる名前って便利ですね」

 

「あ、方向性解っちゃう? まぁ、侍系プレイヤーだよ」

 

 そこでアイザックが僅かに言葉を濁す。侍系というかなんというか、と言葉の表現に困っていると、此方へと向かってくる袴姿に羽織に袖を通す、見た目からして100%の侍率を誇る男が此方へと向かって来ていた。それを見たアイザックがあ、と声を零した。

 

「来た来た、ゴエモンだ」

 

「む、拙が最後であったか。遅れてしまって申し訳ない。ちょっと娼館で延長を入れてしまっていたのだ」

 

「凄い、言動にキャラの濃さしか感じないのですが」

 

「だろ? だから気に入ってる」

 

 ツッコミどころしか存在しない会話をしながらゴエモンという侍プレイヤーが合流した。片手で挨拶をしながら、遅れて申し訳ないとゴエモンが再び口にし、そして自己紹介をする。

 

「拙も北の方で傭兵をしていた者でゴエモンと申す者。アイザックとはその時の出会いでな。娼館選びに迷っていた様子なのでこの大地で娼館レビュワーとしての道を切り開いた拙が案内した事から交流が始まったのだ」

 

「ちなみにゴエモン、ガチの従軍経験者、戦時経験者で実年齢91歳のお爺ちゃんだぞ」

 

「やだ凄い」

 

「それほどでもない」

 

 見た目は良くて二十代後半というレベルの若々しさ、そして黒髪をしている。或いはそれが若かったころの姿かもしれないのだが、90歳を超えた老人が刀を片手に傭兵しつつ娼館レビュワーとしてデビューしているという情報がショッキングすぎた。世の中、本当に広いもんだなぁ、と感心するしかなかった。それはそれとして、

 

「えーと、ゴエモンさんはバイオレンスはお平気で? と、私はマスター、錬金と英霊を使役する者です」

 

「ゴエモンで十分。此方もマスターと呼ばせて貰おう。そして答えだが血肉なぞ何十年も前に見慣れておるからな。もはやリアルではスタンドアップしなくなった我が愚息もこの世界であればオールナイトフィーバーできる、このバーチャル空間に喜ぶにしろ、恐れる理由など何もあるまい?」

 

「このご老公アグレッシブすぎません?」

 

「そこが最高に面白い」

 

「同意しますけど」

 

 でも、まぁ、近接前衛のアタッカー、中衛サポート、遠距離アタッカー、とこの三人でバランスはかなり良くなっている。付け加えればナイトを召喚すれば前衛にディフェンダーを出せるし、ディーヴァを召喚すればそこに更に遠距離アタッカー枠を増やせる。逆にナイトとディーヴァによる戦力増強を考えたら、この三人が丁度良い人数でもあると思える。

 

「拙、悪魔をゴートゥーヘルできるダンジョンに割と期待しているのだ」

 

「私はゴエモンの次の発言に割と期待してます。面白さ的な意味で」

 

「お前らの会話を聞いてるだけで一日終わりそうだからさっさと馬車に乗るぞー」

 

 アイザックに促され既に来ていた馬車に乗り込む。料金に関しては距離がそれなりにあるので、少し金を出して、良い奴に乗る事にしていた。一週間という時間を馬車での移動に利用するのだし、他のVRゲーとは違ってペインアブゾーバーが存在しないのだ、質の悪い馬車に乗ったら揺れたりケツが痛くなったりで地獄を見るのが目に見えていた。そういう訳で頼んだ馬車は普通の多人数が乗る様なものではなく、その一つ上のグレード、個人用の馬車になる。

 

 良く小説や漫画で見る様な貴族用の馬車、あれの豪華さを削り取った旅用の奴だと思えば良い。前、ビルの遺跡へと向かうのに使った奴よりは上等なものだ。

 

 椅子にはクッションが使用されているし、馬車にもサスペンションが導入されている。良く聞かされる劣悪な馬車環境というのはない。まぁ、当然ながらいつでも外のWIKIや技術を参考に出来る環境にあるのだ、良く見る技術チートみたいな事は先行プレイヤーが誰よりも早く取り掛かっているのだから、ここら辺の改革などに関しては物好きなプレイヤーが行ったのだろうと思っている。

 

 それはともあれ、馬車に乗り込むとアイザックが此方に約束の《機構学》のスキルブックを投げ渡してくるので、それを受け取り、さっそく背中をクッションの柔らかさに埋もれながら開き、落ち着いてそれを読み始める。

 

 旅路は一週間近く―――リアルでも最低で2~3日かかるのだ。

 

 ログアウトして時間を疑似的に加速させて旅路をカットしたとしても、時間は有り余るのだから、急いで読む必要はない。それでもスキルの習得、そして知識の探求を考えると指の動きを我慢する事が出来なかった。気づけば読み込みながら内容を記憶していっていた。僅かに揺れる馬車が読むのに最適な心地よさもあった、という事もあっただろう。走り出し、ルーゼンを後にしながら北へ、

 

 ギルドラン帝国への旅路が始まった。

 

「マスターは勤勉であるなぁ」

 

「このゲーム、学問系のスキルは熟読した上で理解しないと習得扱いにならないんですよねぇ。おかげで最近は色々と知恵が身についていますよ。夏休みが終わって大学が始まったらどうしましょうかねぇ……」

 

「おぉ、大学生であったか」

 

「ゴエモンは道場主なんだよな」

 

「然り。拙は道場を預かっているが……まぁ、もうこんな歳ではロクに真剣を抜く事も出来なくてな、このまま磨き上げた武を腐らせるか……と思っていたところEX:Worldを孫に教えて貰ったのだ」

 

「あぁ、そういう流れでここに」

 

 うむ、とゴエモンが頷いた。

 

「素晴らしいな、このVRという環境は。現実であればもはや死を待つばかりの老体。惜しい、実に惜しい。人を斬り、技を鍛え上げ、しかし世が平和になってそれを振るう事の出来る場所はもう存在しない―――そう思っていたが、一切の制限もなく、それも全盛期の体で振るう事が出来る場所が用意されているのだ。これほど度し難く、そして喜べる場所もないであろう」

 

 戦士の悲哀、というものだろうか。中身が完全に一般人である自分には一切関係ない、というか理解できない話ではある。とはいえ、とアイザックが言葉を零す。

 

「このゲーム、結構そう言う経歴の人多いんだよな」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。ほら、世界初のR18のVRMMOだろ? 殺しても殺されても文句はなしってんだ。そこに惹かれた元軍人とか、サバゲーしてる連中とか、或いは真正のキチガイとかな? 現代では絶対に自由に戦えないって鬱憤を晴らす場所としても最適としてそっち系のやばい連中が割と遊んでるって話なんだよな」

 

「まぁ、拙の様に現代で行き場を失った武芸者は少なくはない。平和な世の中だからこそ唐突に辻斬りしたくなるのも事実だ」

 

「ちょくちょく理解していましたけどもしかして危険人物じゃありません?」

 

「お前とタメを張るレベルのな」

 

 解せない……。そう呟きながら穏やかに帝都までの道を行く。

 

 

♦

 

 

「ふぅ―――流石に移動だけだと暇だな」

 

 ゲーム内ではなく、現実に存在する自分の寮で時間を潰していた。

 

 現実に対するVRの時間加速は1:3でVR世界では3倍の時間速度が発生している。この理由は現代の管理されたスケジュール、圧縮された時間の中では中々こういう娯楽を遊ぶ時間を作る事が社会人には難しいという話になる。

 

 こういう娯楽に対する課金、投資で一番金をつぎ込むのは社会人だ。だから社会人が気兼ねなく遊べるようにする環境を作るのが大事だ。そして過密スケジュールの中で1:1の時間速で遊べても、僅かにしか遊べず、不満が残る。そういう事で生み出されているのが時間速の3倍化になる。技術的には更なる時間加速も行えるらしいが、人体に悪影響を及ぼさないラインになるとここが限界との話も聞く。ともあれ、この時間速によって社会人は僅かな時間を3倍の濃度で遊べる事になるのだ。

 

 学生層とは違って、社会人は大量に金を持っている。学生ではゲームパスを購入したり、月に1万程度の課金で限界だろう。

 

 だがこれが社会人になると平気で100万とか溶かす頭がおかしい連中が出て来る。そういう自分もアトリエを入手してから家具などの課金に既に数万投入している。資本を持っている側が遊べると理解すれば、時間を節約する為に課金ぐらいなら簡単に手を出すのだから、ターゲットが上の層にあるのは当然だ。

 

 その中でもEX:Worldは特に社会人層を狙ったゲームだ。R18なんて表記が存在しているから当然ながら社会人から大学生にしか遊べないゲームなのだが。

 

 まぁ、話は脇道に逸れてしまったが、やる事がなく、ゲーム内の時間を加速させたければ簡単な話、ログアウトすればいいのだ。

 

 そうすれば3倍の速度で時間を経過させる事が出来るのだ。長時間の移動などは一旦体の方を身内に見張らせるとして、その間にログアウトを交代で繰り返せばいい。適度に娯楽を用意しておけばログインしている間でも飽きる事はないだろう。

 

 そんな事で、ローテーションを他の二人と組みながら今はログアウトしていた。

 

 現代では考える事が出来ない1週間という移動時間、全てをログアウトして過ごすのならそれこそ数日で終わるだろうが、それでも数日という時間だ。ゲーム内で外部サイトへとアクセスする事が出来る為、それである程度暇を潰す事が出来るし、それを通してゲームのトレーニングとは関係のない所で知識を蓄える事も出来るだろう。

 

 だけど、それでも移動に飽きる。

 

 絶対に高速で移動できる飛行手段を入手しようと心に誓わせる程度には馬車旅は平和で、何もない。ディーヴァを使って遊ぼうかと思っても、他の視線がある中で遊ぶのもややバツが悪い。となるとやはり、ログアウトしながら時間を加速させ、適度に暇を潰すのが一番だった。

 

 個人的には運営が何を考えてリアル規模の大陸を生み出したかが気になる所だった。

 

 この移動の不便さはどうにかならないものか、とも。

 

 だがどうやら魔法の中にはテレポートに類するものもあるらしい。少なくとも高位魔法の中にはそれを可能とする技術がプレイヤー以外の存在によって行使されていた。このままキャップを超えた先の技術を掴めば、何とかなるのかもしれない。そんな事を考えながらリアルで体のケアをしていた。

 

 シャワー、水分補給、トイレ、爪切り、スキンケア。そして自分の体のマッサージ。

 

「地味に面倒だけど、長期ダイブする時は必須だからなぁ、これは」

 

 自室の床に両足を伸ばし、屈伸する様に倒れながら体をほぐしつつ、軽い運動をする。長期ダイブを続けていると徐々にだが体力を失って行くのだから、定期的に体のケアを行うのがVR機器の使用の上での常識だった。ネットを調べればVRユーザー向けの簡易体操等も載っている。

 

 軽い運動を終えて、口の中にミネラルウォーターを流し込みながら思う。

 

「VRゲーをする前に比べて健康的になったなぁ、俺」

 

 ゲーム内で精神的な抑圧を全て解き放っているからストレスを感じていないし、リアルでも日常的に運動を繰り返して健康をチェックしているし、今までの生活と比べたらそういう運動と精神面では割とシェイプアップが進んでいると言ってもいいかもしれない。

 

 それとは別方向に、暗黒面が深まっている気がしなくもないが。

 

「“VRという環境に埋没するからこそ我々は誰よりも現実の重みを忘れない様にしなくてはならない”―――エドワード・K・リビングストン、だっけか」

 

 現在のVR環境を生み出した博士の一人が残した言葉だった。人間はVR、電脳空間という世界を手にする事によって新たなステージへと進む事が出来るようになった。加速時間の中で学習を行う事によって今までは制限されていた時の中でしか生きられなかった人類が、更に多くの時間を学習と探求に費やす事が出来る様になったのだ。それによって人類は新たなプレーンへと進みだす。

 

 だが同時に、魂は肉体に宿っているという事を忘れてはならない。

 

 人類は進んでいる。進化している。だが人間を捨てたわけではない。

 

 肉体の重み、それを理解して今まで以上に肉体の重要さを、その重みから解放される場所があるからこそ理解しなくてはならない―――それが彼の言葉だった。

 

「こうやってVRにのめり込んで、実際に連日ダイブ続きとなるとその言葉の重みも解ってくるってもんだ」

 

 だから、まぁ、熱中するのは程ほどに、という話だ。

 

「―――うっし、体操終わり。そろそろ交代時間だしログインすっか」

 

 リアルでの晩御飯の仕込み等もログインする前に全て終わらせておく。どれだけVRの世界で食事をした所で、現実で腹が膨れる訳ではないのだから。より長く、健康的に遊ぶ為にも現実でのあれこれはちゃんと面倒がらずにやっておく。

 

 それが健全なプレイに繋がるというものだ。

 

 遊んでいる内容は健全から程遠いのだが。

 

 

♦

 

 

「どうもお待たせしました」

 

「お、来たか」

 

「これで揃ったな」

 

「ん? おや、揃い踏みとは」

 

 ログインしてみればゴエモンとアイザックの姿が馬車の中にあった。ローテーションの事を考えるとゴエモンは居ない筈なのだが、二人が揃っていた。次三人が揃う時間はもうちょい先の話だった筈なのだ。だからそれで、何らかの事態が発生しているのを知覚する。とりあえずはこういうケースで考えられる事を想定する。

 

「追い剥ぎですか? 殺しま―――あ、いや、待ってください。そうだそうだ。奴隷なんて購入しなくても追い剥ぎとか盗賊の人権の無い連中を捕まえればいいじゃないですか。あー、なんでこんな簡単な事を思いつかなかったんだ。凄いすっきりした」

 

「な? 待ってて良かっただろう。話が早いし」

 

「頼もしい限りだ」

 

「なんでもいいから尾行してる連中をどうにかしてくれないか?」

 

 御者が先頭から声を投げて来る。あぁ、ハイハイ、と声を零しながら窓の外を見る。

 

 道は平坦な街道だ。空はやや曇っており、視界が悪い。街道の横には林の姿が見え、人を隠すのであれば最適な環境であると表現できるだろう。両側が林によって閉ざされ、道は前と後ろにのみ通じている。少し離れた場所には山が見え、そして水属性の気配を感じられるという事は川が近くにあるのだろう。となると山が拠点で川を使って逃亡するのだろうか? この環境で焼き討ちしてもすぐに消火されるな、と認識する。

 

「とりあえず人数解りますか? 数人確保して旅行中の暇潰しに人体実験に使いたいんですけど」

 

「いや、まだ偵察してない。出た所で確実にバレるだろうしな」

 

「拙、斬る事とナンパにのみリソース割いているからな」

 

「じゃあディーヴァ、偵察のほどを宜しくお願いします」

 

『右に5、左に4潜んでいます。これぐらいでしたら出て行かなくても解ります』

 

「有能な部下がいると話が早い」

 

 えーと、と声を零しながら紙を取り出し、馬車を止めないままそこにここの簡易的な絵図を作り出し、ディーヴァが察知したポイントにマーキングさせる。馬車の動きに合わせてつかず離れず、という形についてきているらしい。成程、状況としてはシンプルで悪くない。挟み込まれている状況が少し面倒だが、此方から先制攻撃を仕掛ければ問題はない。

 

 そういう事でネズミの骨を使い、ボーンラットを生成する。それを一気に5匹程生み出した所で、インベントリに手を突っ込み、錬金術で生み出してストックしておいた戦闘用アイテムを取り出す。

 

「でっでーん! ばーくーだーんー」

 

「オチが見えた」

 

「だが合理的ではある」

 

 取り出したアイテムはガラス容器に収められた液体爆弾。その性能はこんな感じになっている。

 

 リキッドボム ランク:D エーテル値:99 製作者:マスター

  液体状態の爆弾であり、濡らしても爆破する事が出来るという優れもの。ただし酸素に触れる事で起爆する為、扱いに対して厳重な注意が必要とされる。

  EX:それは良く燃える

  EX:それは勢いよく爆裂する

  EX:それは凄まじい衝撃を生む

  値段:6千ゴールド

  ・エーテルを吹き飛ばせる

  ・属性をノックアウトする

  ・それは可燃物である

  ・それは劇的に反応する

 

 戦闘用に生み出した液体型爆弾をエーテルや品質操作によって安価ながら高い性能を発揮できるように改良したものだった。何より爆風には集まったエーテルを散らすだけの力があるのが非常に優秀だ。魔法にこれを投げ込めば、これである程度のレベルの低い魔法であれば集まったエーテルごと相殺する事が出来るのだ。それに劇的に反応して吹き飛ぶので着弾したのかどうかも解りやすい。少し距離を開けて爆破させた場合でも直ぐに解る。

 

 持ち出した《リキッドボム》を骨で出来ているボーンラットの体の内側に食い込ませる。全てのラットの体に食い込ませたところで、それを馬車の窓の外へと投げ捨てる。

 

「偉い人は言いました―――テロに対する完全な対策は存在せず、常に後手に回る戦いである、と」

 

「使い捨て特攻戦術を開幕から取るキチガイ相手に対策も糞もないけどな」

 

「うむ、こういう思い切りのいい奴が戦場で真っ先に狙われるのよな。生かしておくと面倒だから」

 

「評価ありがとうございます」

 

 窓の外にネズミを放し飼いにした。それと共にナイトとディーヴァへと即座に現界可能なように召喚待機状態に移行し、相手が即座に迎撃、奇襲に入った場合を警戒する。しかし囲まれているとは、何時の間に察知出来たのだろうか? そんな事に少しだけ不思議に思いつつカミカゼボーンラット達が今、生まれた意味を果たす為に旅立った。

 

 窓を抜け、大地に衝撃を殺しながら着地し、そのまま双方へと散らばった。

 

 そのまま、数秒間何もせずに待機する。

 

 そして林が両側で吹き飛んだ。

 

「たーまやー」

 

「かーぎやー」

 

「さぁ、モルモット仕入れの時間です!」

 

 宣告したが、両側で発生する爆発が木々を吹き飛ばしながら火災を発生させ、空に打ち上げられる動物や人間の破片を見せている。腸とか腕とか足とかバラバラになったパーツが空を舞っているのを見て、無言でディーヴァへと視線を向けた。

 

『即死です』

 

「生き残りは」

 

『いません』

 

「生き残っていそうなのは……」

 

『即死です』

 

「あの、木偶……」

 

「人間を木偶扱いするその精神は尊敬するけど死滅してるぞ」

 

「私の……実験動物……」

 

「全滅、だな」

 

 ディーヴァに申し訳なさそうな表情をされ、アイザックにげらげら笑われつつ肩を叩かれ、ゴエモンがどんまい、みたいな雰囲気を出してる。どうしよう、これ。林が炎上していて炎が広がっているのが見えるし、上から血肉が軽く降り注いでいる。死人はいらないんだよ。欲しいのは生きている人間の木偶なのだ。こんなの貰っても嬉しくない。

 

「何がダメだったんでしょうか……」

 

「お前の頭だろーが」

 

 御者からの罵倒の声に成程、と納得しながら再び馬車が走り出す。

 

 以降、盗賊を皆殺しにする爆殺馬車の噂が出回ったのか、追い剥ぎに遭う事はなかった。

 

 

♦

 

 

 道中で追い剥ぎ、或いは盗賊を爆殺したりするアクシデントを乗り越えながら、一週間という割と穏やかな期間を経て、漸く帝都クルシュワへと到着する事が出来た。事前に入手した情報の通り、帝都クルシュワはまるで要塞と表現すべき都市であり、大量の通行人、そして街道に見える兵士たちの姿が帝都の厳戒態勢を物語っていた。

 

 だがそんな事よりも大事な事があった。

 

 そう、マキナである。

 

 ルーゼンや共和国方面ではほぼ見かける事がないマキナと呼ばれるロボットたち。帝国では個人の武勇ではなくこういう兵器運用の方が重視されている。その為、身体能力や才能限界は低くても、ひたすら技能に魂を燃やして生み出された、レベル100の超エースドライバーなんて存在もあるらしい。二足歩行で立ち、動き、戦闘するロボットが存在しているのだ。生産職として、そして男として目を輝かせない理由がなかった。

 

 窓の外に見えるマキナが街道を警備している姿に、見える様になってからは釘付けだった。

 

「友人の予想外の食いつき……っていいたいが、やっぱロボは浪漫だしなぁ」

 

「うむ……解る……」

 

「ゴエモンって結構言葉がヤングだよな」

 

「結構というかかなりというか」

 

「拙もナウでヤングでパーリィッで居たいのだ」

 

 それは死語。

 

 ともあれ、入り口では軽いが検問が行われていた。まだ戦時ではないが、それでも小競り合いが始まるレベルで睨み合っているのだから当然と言えば当然の対応だった。特に異邦人―――つまりプレイヤーに関してはチェックが厳しい。国を超えたネットワークを簡単に構築しているというのがどうやら、現地人にも理解されているのが原因らしい。まぁ、WIKIやSNSを使った連絡手段はプレイヤーの特権だし、スパイが侵入したらそれで映像付きで情報を流されるのだ、国防側からすればたまったもんじゃないだろう。

 

 とはいえ、特に共和国との結びつきもないので通る事に成功。要塞の様な帝都の中で馬車に下ろして貰い契約は満了、これで1週間に及ぶ旅は終了したのだった。

 

 そうやって降り立ったのは舗装されたレンガの通り道を有する帝都の大通りだった。その脇に立ち、三人で歩き始めた。まず向かう場所は決まっていた。

 

 宿屋だった。これに関してはアイザックが場所を知っているので、少しだけ歩いて宿に入り、3人別々の部屋を借りて解決する事になった。そうやって《金の歯車亭》と呼ばれる場所で部屋を借りた所で、とりあえずの拠点は獲得した。そこで再び時間を確認すれば、

 

「アプデまでまだ少し時間があるな」

 

「大体2時間、という所でしょうか」

 

「となると2時間ぽっきりのコースに行けるな?」

 

「自重しろよ爺さん」

 

 ゴエモンが首をかしげているのにアイザックが呆れの溜息を吐く。馬車の中で話を聞いていたが、どうやらゴエモンは重度の娼館中毒だった。セックスそのものではなく、娼館に飛び込んでレビューを書くのが楽しいらしい。レベルの高すぎる趣味にちょっとついていけないが、90を超える爺さんの趣味なんだから、文句は言えなかった。個人的にはお爺ちゃん、そんなにハッスルしててぽっきり逝かない? とか思いつつあるのだが。

 

 まぁ、それはそれとして、

 

「私もちょっと学術書を探しに本屋に行きたい所ですね」

 

「となるとメンテ終了までは自由行動、終わったら合流でいっか」

 

「じゃあ、拙娼館探してくるんで」

 

「本当に大丈夫ですかあのお爺さん」

 

「腕は確かなんだけどなぁ―――あ、凄い気持ち悪い摺り足で進んでる」

 

 やっぱりプレイヤーってアレなのが多いよなぁ、と思いながら一旦アイザックと別れを告げて、帝都のマップをWIKIから出す。やはりこういう時、自由に利用できる情報網というのは便利である。そうやって帝都全体の地図を確認する。

 

 帝都は上下に移動が激しく、その為路面電車を利用した移動が基本的である。無論、普通に道は繋がっている為歩いて移動する事も出来るが、それは中層までらしい。上層には帝城と貴族街が存在する為、IDが無いと入れないらしい。ちなみに万魔殿は今現在利用している下層の下、地下に存在するとの事。帝都にも帝国図書館が存在し、かなりの蔵書を誇っているらしいが、

 

 ……まぁ、帝国に留まるつもりはない。

 

 ルーゼンには自分のアトリエがあるのだから、あそこが帰る場所だ。ならばここに残る意味はない。そうなると貸し出しオンリーの図書館ではなく、購入して持ち帰る事の出来る本屋に入った方がいいだろう。そしてそういう施設に関してはWIKIに乗っている。プレイヤーの遺したメモや情報を確認すれば、どこでどこの品揃えが良いとか、そういうのを簡単に確かめる事だって出来る。

 

 やはり情報化社会は便利で良い。

 

 そう言う訳で時間も制限されている。

 

 サクサクと移動する。路面電車には興味があるが、それでもそこそこパラメーターは高いのだから、そんな事をしなくても問題はない。地図を確認しつつ歩いて、そのまま目的地の本屋へと入り込んで行く。

 

 しかしゲーム内で勉強用の教材を購入するとか、普通に考えて正気を疑う行いだよな、とは思わなくもない。それはともあれ、本屋の中へ眼鏡の位置を調整しつつ入って行く。本屋は静かなもんで、客の数も少ないが、品揃えはかなり良さそうに見える。

 

とりあえずは技術書のコーナーへと向かい、ルーゼンには存在しないタイプの本を探す。それらに関しては既にリストアップしてある。何を勉強し、何をピックするべきか。事前に何が使えそうなのかを調べ、そしてそれに関する本を集めて行く。

 

「《機構学》に……《エーテル流体学》とかまず手に入らないな。この《航空力学》ってのも面白そうだな、錬金には使わなそうだけど。んー……《生物学》の本か……ん? あっちとは中身がだいぶ違うなぁ。あーでもそうか。技術体系が違うから見方が変わってくるのか。買いだな。んで植物図鑑に……お、レシピ売ってる売ってる」

 

 流石国境を超えると並んでいる本が変わってくるなぁ、と少しだけ気分が浮かれて来る。特に《エーテル流体学》なんてまるで聞いた事もない本だった。早速スタックした本を購入し、それをそのままインベントリへと放り込んで保存する。

 

 今度向かうのは帝国の錬金ギルドだった。

 

 ギルドには国境がなく、所属国家もない。独自のルールと流通によって守られている組織である。その為、帝国や共和国にもルーゼンの様に錬金ギルドが存在している。そういう訳で本を購入した状態で錬金ギルドへと向かい、見つけたら中に入る。

 

 内部構造はどうやら統一されているらしく、余り変化は見えなかった。

 

 ただ中の忙しさは違っていた。

 

 中に入ってから誰かに話しかける訳でもなく、しばらく壁際に移動して全体を眺めていると、忙しそうに大量のポーションの生産と受注、受け取り、そしてスタックが進んでいる。即効性と中毒性の低いものが優先して受付で受け取られており、それが大量に運び込まれている。ポーションの大量生産が今、錬金ギルドでは行わていた―――まぁ、その理由は言葉にしなくても解るだろう。

 

 これはアップデートメンテナンスの後で、本当に戦争するのかもしれない。

 

 そう思わせるだけの忙しさと気迫を感じさせる現場だった。

 

「ま、私には関係ない話ですけどね」

 

 レベル150まで上げてしまえばもう帝国に用はないのだから。メンテナンスが終わったら3人で万魔殿に潜り込み、そのまま150レベルまで一気にレベリングしたい所だった。今はひたすらSPが必要なのだ。ぶっちゃけ、細々とした方法でSPを溜めて行くのには限度がある。レベルを上げてがっつり稼ぎたい。

 

 まぁ、それはアップデートの後の話だ。

 

 忙しそうにしている受付へと移動し、錬金ギルドのメンバーである事を証明する様に称号である【錬金術師:中級】を確認させる。受付をしているのは金髪、欧州系の女性だった。見た事のない此方に最初は少しだけ確認する様に目を動かすが、中級の称号で笑みを浮かべた。

 

「これはこれは異邦人の方で中級ですか。どうやらそれなりに才覚があるようでして。出身の方は―――」

 

「ルーゼンです。帝都でしか手に入らない本に少々興味があって」

 

「あぁ、成程。あそこは色々と手に入りますが、深い部分の専門となると帝国か共和国か、どちらかに行かないと手に入りませんからねー。注文してもいいですけど高いですし。それでご用件はなんでしょうか?」

 

「そうですね……アトリエを1時間ほど利用したくて。出来たら中級用ので」

 

「はいはーい、使用料はこんな感じです」

 

「はい、では」

 

 アトリエの鍵を受け取りつつ支払いを終わらせる。無料のアトリエと比べたら流石に少々値が張るが、中級レベルの腕前があるのであれば、簡単に支払える程度の値段だ。今はアトリエで作ったものを販売したのと、戦時需要による効果でお金には余裕がある為、簡単に支払えた。

 

 そうやってアトリエの利用を許可された所でギルドのアトリエへと向かった。

 

 遠心分離機や濾過機、他にも無料開放されているアトリエでは置いてないような器具が多く、中級用のアトリエには置いてある。それ以外にも中級用のアトリエは作業の秘匿性を考えて鍵付きの個室となっている。

 

 初級とは違い、中級はレシピのアレンジ、研究の開始、その他にも秘匿しておきたい情報等が出て来る。その為、アトリエでの作業内容も他人から見られない様にするのが普通となっている。

 

 その為、アトリエに入った所で扉を閉めて、鍵をかける。これでとりあえずは大丈夫だ。

 

 まぁ、今回に限っては真面目に作業するつもりではないので問題はない。

 

 ぶっちゃけ、静かに本を読みながら実験できる場所が欲しかったのだ。

 

 とりあえずスキルに《機構学》は既に追加されている。これは馬車の中で取得したからだ。そして《エーテル流体学》の本を取得したからか、スキルには《流体学》という名前のスキルが追加されていたので、SPを1点消費して取得する。

 

 で、この学問とはなんだ? 現実に存在する流体力学と同じものなのか?

 

 いや、これが全く違うようだ。そもそも流体力学ではなく、エーテル流体学である。

 

 即ちエーテルの流体状態の観察、把握、そして利用や理解に関する学問であるらしい。即ちエーテルという存在そのものに対する理解を深める学問でもある。帝国がこの技術に関してナンバーワンなのはエーテルという存在に対する神秘性に恐れず、宗教色なしで学問として研究しているからである。

 

 たとえばマキナの燃料、あれはエーテルであるのは知っている。古代のマキナや機械型エネミーはそのまま空間のエーテルを吸収して運用しているが、現代のマキナは運用する上で必要とする燃料は液体エーテルである。つまりエーテルを一旦流体へと変化させる必要があるのだが、これに関するプロセスなども書かれている。

 

 つまり固体、液体、気体。理科の授業で学ぶ水に関する物質の状態のエーテルに関するものだ。

 

 これが非常に興味深い。何せ錬金術は直接エーテルに触れる技術であり、学問でもある。

 

 そもそも万象、その物質は全てエーテルから構成されているのがこの世界におけるルール、法則である。エーテルとは万能の物質であるらしい。そしてそれを研究するという事はエーテルによる変化、変換、その法則を理解する為の学問だとも言える。

 

 錬金術においてエーテルから属性や特性を抽出し、それを変化させる事で薬物等に指向性を与えているのだが―――そういえばアタノールを利用して装備を作成した時、何故あんなバラバラの形が一つの装備品へと完成されたのか、それが良く解らなかった。となるとこの《流体学》を学んで行けば答えが出るのだろうか?

 

 悪魔を思い出す。

 

 エーテルが混ざり合い、一つになり、そして新しい生物が出来上がっていた。

 

「……あれもエーテル流体学を学べば意味が解ってくるのか?」

 

 混ざるだけでは特性が増えるだけだ。なのに悪魔との融合は完全なる変質だった。自分がディーヴァと融合してみた結果は変身だった。つまり本来の形を残しているのだ。それに対して悪魔との融合ではそうじゃない。

 

「この世界は全ての出来事にそれなりの法則が存在している―――そしてそれを理解する事でスキルを使用する以上の強さを発揮する事が出来る」

 

 これがこのゲームにおける面白さだ。リアルを追求しているとは良く言う。スキルはあくまでもガ(・)イ(・)ド(・)ラ(・)イ(・)ン(・)でしかないのだ。このゲーム、トレーニングを繰り返す事でスキルそのものに対する理解、そして技術を体で覚えるのだ。統合し、消費し、新しいスキルを獲得して前のスキルが消えても、その技術は使い方は体に残されているから、スキルを通して使うのではなく、自然と技術として体に残されているのだ。

 

「ま、それはそれとして時間一杯、熟読させて貰うか。ディーヴァ」

 

「はい、マスター?」

 

「うん、這い蹲って」

 

「……? はい」

 

 ディーヴァが命令通り両手足を床に付けて、這い蹲った。なのでその背中に座り、足を組み、購入したばかりの本を広げる。ついでにタイマーをセッティングし、読書に熱中しすぎて、時間を忘れないようにする。このアトリエも1時間しか時間を取っていないし。ログアウトする時はなるべく安全な場所で、宿でしたい。

 

 とはいえ、実験は流石にこういう場所でもないと出来ない為、ログアウト直前まではここで過ごす。

 

「あの、マスター」

 

「なにかな」

 

「私は何を」

 

「そのまま椅子の代わりを果たしてて」

 

「はい」

 

 従僕相手しか居ない時にRPをしていても疲れるだけだし、適度に休息を取りながら片手でカードを浮かべ、それで空気中のエーテルを操作しながら《流体学》の技術書を糧に、勉強と訓練を平行して進める事にする。アップデート後に万魔殿へと行く事を、今では少しだけ楽しみにしていた。

 

 

♦

 

 

 アップデートを含めるメンテナンスはリアルで12時間ほど続いた。

 

 ゲーム内で言えば36時間、1と半日というレベルの長さの間、あの世界から異邦人の姿が消失したのだ。その間の世界の様子が少しだけ、気になる。とはいえ、生きている人間なのだからゲームの事ばかりを考えられる訳でもなく、リアルでも機構学に関してをネットで調べたりして予習したり、ゴミ出しをしたり偶には映画館へと向かって、アップデートの間の時間を潰したりした。

 

 そうやって一晩寝て、起きた頃にはもうそろそろメンテが終わるという時間だった。その終了時刻と共に真っ先にダイブしようとする自分の姿勢は、もはや立派なゲーマーのそれである。その事実を自覚しつつも面白いから止められないのが悪い、そう言い訳しながら

 

 アップデート終了後、ログインする。

 

 そうやってログインし、宿のベッドの上で目覚め、迷う事無く集合場所である1階の宿前へと移動すれば、数分以内にアイザックとゴエモンの姿が揃った。メンテナンス直後にログインして来る姿を見て、三人で互いを見やり、小さく笑い声を零した。他にも増え始める人の気配に、同じようにメンテナンス終了直後にログインして来る人ばかりなのだろう。どいつもこいつも本当にハマってるな、と笑いながらアイザックが万魔殿の入場口まで案内し始める。

 

「今回のアプデで色々と細かい部分が変わったな」

 

「あぁ……必要以上の鍛錬を行った場合、次に引き継がれるそうだな」

 

「個人的にはかなりありがたいアップデートですね」

 

 万魔殿へと向かう為に路面電車へとアイザックの先導の下、乗り込んだ。料金を支払うと路面電車は動き出し、上ではなく下へ、地下へと向かって進み始めた。空きっぱなしの扉の向こう側が僅かな灯によって照らされる姿は、現代日本の地下鉄を思わせる姿をしていた。

 

 そんな事を思いつつ、今回のアップデート内容を思い出す。

 

 なんと言ってもオーバーワーク、オーバートレーニングをした場合、次のランクにコスト低下が引き継がれるという話だった。

 

 たとえばFからEに必要なコストを下げて、そのままFの状態でスキルを使い続け、本来であればEのコストさえ下げる事の出来る鍛錬を行った場合、それがランクアップした時の次のランクのコストに反映されて、最初から下がっている様になるのだとか。

 

 後それだけではなく、技術や知識に関しても既に知っている部分、実践した事のある部分、理解等を行っている部分に関してもスキルコストの低下に対して自動的に反映するらしく、個人的にリアルで育てた技能とかをゲーム内で再び勉強、鍛える必要がなくなったというアップデート。

 

 どうやらVRギアに何らかの新しい技術が発見されたらしく、それで習得済みであるかどうかを判別できるようになったらしい―――VR業界の技術はますます進化して行く。その結果、ゲームが更にリアルになる。

 

 その行き着くところは一体どこなのだろうか。

 

 まぁ、それはともあれ、その影響で自分のスキルにもいくつか影響が出ている。その中でも一番影響を受けているのは《自然学》と《機構学》になるだろう。現実でも同様の知識を仕入れる事が出来るから、現実の暇な時間の合間にネットを探って調べ物をした影響か、コストが下限状態まで下げる事が出来ていた。それも《自然学》に関してはMまで下限されていた。

 

 まぁ、日常的に草花を扱い、鑑定し、利用してきた上に勉強しているのだから、基本的なコースは卒業という所なのだろう。地下へと移動している間に《自然学》をMにする。そしてそれが完了した所でスキルを称号に統合させる。《機構学》もFからCまではコストが下限状態だったので、サクサクCまで上昇させる。

 

 これによって残されたSPは456/465で9点になる。

 

 そろそろ真面目にレベルアップとボーナスが欲しい所だった。

 

 SPさえ入手すればおおざっぱにスキルランクは上げられるのだ、Sまで上げてからM条件を目指しつつ覚えるというのが個人的に時間効率が良く感じられる。ぶっちゃけ、SP不足に関してはこれからは益々カンスト後に考える問題でいいような気がするのだ。

 

 そんな風に軽くアップデート内容を確認しながらも、進み、そして電車が動きを止める。

 

 開きっぱなしの扉から外に出て迎えてくるのは白い空間だった。神殿、そう表現したくなる白く、清潔に保たれた空間であり、端の方には機材や屋台が設置されているが、それ以外にはほとんど何もなく、奥の方には白い石像に挟まれた一つの巨大な門が見える。そしてその前には数人の銃を装備した兵士が見える。どうやら入り口を守っている様だった。

 

 その外にもちらほらとプレイヤーらしき服装に統一感のない姿が見える。

 

 中にはケツでスキップする様に移動している変態もいた。その姿を無視し、同じく降りて来たアイザックとゴエモンを見た。

 

「で、ここが入り口ですか」

 

「おう。ここが万魔殿の入り口。出現するエネミーのレベルは最低で100ラインだから俺達のレベリングには持って来いだ。ただしここは国営のダンジョンだからな。維持と管理費が発生しているから、国の方で入場料を取ってる。後ドロップもちょい特殊で普通だと取得できないんだが……まぁ、これは見れば解るか」

 

「とりあえず悪魔の首を落とせるのか試したいな」

 

「Oh、クレイジーサムラーイ」

 

 小さく笑い声を互いに零しながら歩き、門の方へと向かって行く。アイザックを先頭にして進むのは単純にここら辺の事を解っている様だからだ。そして実際、門の前に立ち、兵士たちと少し喋ると入場料を支払い、

 

 そのまま、門が目の前で開いて行く。余りにもあっさりとした開幕に、しかしこれはゲームなのだから、こんなもんだよな、と思いながら門を抜けて行く。

 

―――そしてその向こう側に広がっていた空(・)は赤かった。

 

 狂気を感じさせる月に狂笑が浮かんでいる。照らしてくる光は心の闇を照らす様で、頭の中をかき乱すかのように世界を揺らす。神殿から世界が繋がっており、広い神殿の姿が更に広く、そして奥に繋がっているのが見える。窓の外側には赤い空と狂った月のみが見えていた。

 

「でもまぁ、これぐらいの狂気なら余裕ですね。はい、精神保護」

 

 属性的にクトゥルフ的な狂気を感じるなぁ、と思いながらバインダーからカードを抜き取り、それを媒体に魔法を発動させる。やり方は既に何度も練習している、魂の保護を行うやり方でいい筈だ。そうやってエーテルを操作し、魂を保護する様に魔力の膜を生み出し、狂気を遮断する。そうすればあっさりと感じる狂気が届かなくなった。

 

 まだ肌にひりつく感触は残るが、

 

「ま、こんなものですかね」

 

「お前連れて来てほんと良かったわ」

 

「懐かしき狂気の香り……昔を思い出すな……」

 

 ゴエモンに関してはスルーで。人生経験が違い過ぎるから話にならない。実力に関しては、まぁ、アイザックが信頼しているという事で信用している。それはともあれ、肌に付くようなこの空気に滲んだ狂気の感触、しっとりとしていて染み込むような不快感がある。

 

「何時からルルイエに忍び込んだんでしょうねぇ」

 

「まぁ、あながち発狂を促してくる空間って意味では間違いはないけどな……ここじゃあ通常の物理攻撃が通じる敵が出ないから、何らかの魔力か魔法か属性攻撃を使えよー」

 

「うむ、事前にそれを聞いていなければ拙も危なかった」

 

 そう言ってゴエモンが刀―――ではなく、柄しか存在しない武装を取り出した。それはギュイィン、と鈍い音を生み出しながら光の剣を柄から生やした。

 

 そう、ライトセイバーである。

 

 老人、侍、90歳、ライトセイバー、袴姿、そして風俗狂い。

 

 かつてない属性過多だった。個性の暴力だった。

 

「ご老公それ」

 

「うむ―――これで拙も宇宙の戦士である」

 

「言わなかった事をあっさりと言いましたねこれ」

 

「このお爺ちゃんかなりお茶目だから」

 

「知ってます」

 

 聞き上手だし話し上手だから話をしていて面白いタイプの人物だよなぁ、とは思っている。まぁ、それはともかく、ダンジョンに侵入した所で他にも準備を進める。自分が察知できる範囲では敵の気配が存在しないが、空間のエーテルが気(・)持(・)ち(・)悪(・)い(・)レ(・)ベ(・)ル(・)で(・)ご(・)ち(・)ゃ(・)ご(・)ち(・)ゃ(・)になっている。これでは魔法を使おうとしてもランダムで威力が増加したり悪くなったり無駄にコストが増えたりする。その為、自分の周りの空間だけを調律する様にエーテルを操作し、扱いやすい環境に整えておく。

 

 そうすると不思議だが、感じられる狂気の波動が減ったような気もする。

 

 不思議な環境だった。

 

 その外にも保険にアイザックとゴエモン自身に簡易的なエーテル干渉そのものを遮断する様に魔法をかける。同じ魔法を何時でも使える様に待機状態にしておきつつ、ナイトとディーヴァを待機させておく。

 

「すみませんが今回はまず様子見で。頼っていては鍛錬になりませんしね」

 

『お気になさらず』

 

『我ら、主に仕える者。主の意思こそ我らの全て』

 

 ナイトとディーヴァからの返答は予想していたものだった。なので当然のものとして受け止めつつ、右手にカードを数枚持つようにしながら、左手でいつでも本を触れている状態にしておく。終わった所で宇宙侍へと進化してしまったゴエモンと、矢を装備していないアイザックを見て、お互いに頷きを返す。

 

「準備完了です」

 

「拙も問題はないぞ」

 

「そんじゃ行こうか。偵察と察知は俺が出来るけど……どうする?」

 

「まぁ、安全策を取って私がボーンラットを先行させます」

 

「ま、それが一番だな」

 

 使い潰せる偵察が居るのが一番楽だ、というゴエモンの言葉に頷きながらネズミの骨を床に軽く投げ落とし、それでボーンラットを生成し、万魔殿の中を先行させる。その姿が奥へと消えて行くのを眺めつつ、

 

 赤い灯によって照らされるこの狂気の神殿を攻略し始めた。

 

「ここ絶対ラスダン系統だよな」

 

「それ」

 

「だがネットゲームではこういうラスダンっぽい場所でレベリングは良くやるものでは?」

 

 それはそうなのだが、お爺ちゃんがそこに理解を示すのは納得がいかない。その言葉にアイザックに全力の同意をされつつ、

 

 久方のレベリングタイムを開始する。




 Name:マスター
 Level:100
 Status:
 AP:485/485
 筋力:70 魔力:119 敏捷:150 体力:150
 Title:【錬金術師:中級】【Evil】【ソウルマンサー】【プロフェッサー】【畜生メガネ】
 Skills:
 SP:456/465
 《禁呪魂冥士:B》 《超魔力:C》 《審美眼:B》《エーテル干渉:A》 
 《キネシス:S》《ポーションピッチャー:D》 《軍略:C》 《性魔術:B》
 《魔眼:M》 《深淵:C》 《外法:C》 《仙術:C》 《機構学:C》 《流体:F》
 《改竄:D》 《邪眼:C》 《カリスマ:C》 《幻想の色彩:M》


 イカレた仲間を紹介するぜ!

 常識人のフリをして間違いなく糞眼鏡になると確信してこのゲームに呼びこんだ大戦犯アイザック!

 畜生! 鬼畜! 糞眼鏡! 次に目指すのは人体実験マスター!

 リアル90歳越え? だがVR世界でなら常に全盛期! 今日も風俗に行ってくるよ婆さん! ゴエモン!

 この三人で悪魔を殺しに行くよ。
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