※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーとふぃふてぃーん

「コンタクト3……2……」

 

 1を口にする事無くカウントダウンを終わらせた。曲がり角から全身が黒く染められた、立体の影の様な存在が出て来る。そこにカウント通り動いたアイザックが水色の矢を放った。それは水属性で形成された矢であり、影に寸分の狂いもなく命中し、それに対して何時も通り錬金術の応用で水属性に対して干渉を行い、流体から固体へと存在を変化させる事で、水を氷へと変質させる。それによって固体を保有していなかった立体の影が―――つまりは悪魔に形が生み出され、固定化された。それによってその動きは行動前に封じられ、一瞬で動きが停止する。そしてそれに合わせ、ゴエモンがライトセイバーを振るった。光の居合斬撃が放たれ、一瞬で悪魔が両断された。

 

 悪魔が両断され、姿が維持できずに消滅し始める。その時に生み出される固有のエーテルの揺らぎ、それを《エーテル干渉》の染みついた動作を使って、霧散しきらない様に結晶化させる。即席錬金みたいな技術になる。それによって綺麗に黒紫に透き通った結晶がその場に残された。それが床に落ちるのと同時に姿が消失し、此方のインベントリに特殊ドロップとして登録された。

 

「と、これで12個目ですね」

 

「うむ、どうやらまたレベルが上がったようだ」

 

「お、こっちもだ。な、ここを選んで良かっただろう?」

 

 アイザックの自信のある声にえぇ、まぁ、と答える。普通に認めるのは癪に触るからだ。とはいえ、実際にこのメンツによる攻略は問題がないし、この場所を上手く攻略できているという感じはする。

 

 なにせ、このエリア、普通であれば糞仕様極まるのだから。

 

 まず出現する悪魔達は最下級と下級ばかりであるが、最低で100レベルだ。しかも物理攻撃が通じない。最低限で属性攻撃を用意しないと攻撃する事が出来ない。なのにこの空間のエーテルの属性比率が滅茶苦茶でぐちゃぐちゃ、眺めていると吐きそうになるぐらい気持ち悪いのだ。それをまず調律できるアイテムか人材がないと、まともに属性攻撃を出す事が出来ない。

 

 だがそれとは別に常に狂気を発症させようとする赤い光も問題だ。俺やゴエモン、アイザックはそれなりに頭がおかしいので狂気に対する耐性はあるつもりだが、それでも長時間滞在していると狂わされる。その為、根本的な精神保護の必要もある。つまりレベル、環境、そして属性に対する手札が必要であり、それらを全て揃えた上で初めて攻略できる場所でもあった。

 

 その上で悪魔は普通にドロップアイテムを生み出さない。実体のないエーテル精神体とでも呼ぶべき構造をしている悪魔達は普通に殺すとそのまま霧散する。だが霧散している時に錬金術やエーテル操作術、凍結魔法等を使う事によって意思の無くなった悪魔の残滓、悪魔を構成するエーテルを結晶化させる事が出来る。これが結構高く売れる事もあり、また様々な作成や触媒の為に利用できるもので、それなりに需要が存在するのだ。

 

 なので自分がいて初めて安定して狩りが出来る。

 

 アイザックが居てそのドロップ成功率を上昇させ、安全に先制を撃てる。

 

 そしてゴエモンが居て綺麗に即死させられるのだ。

 

 ゴエモンの役割がアレ、トドメを刺しているだけの様に思えるが、悪魔連中を綺麗に一撃で両断するのは自分にもアイザックにも火力的には不可能な話だった。ここでディーヴァやナイトを使っては自分のトレーニングにもならないし、一人火力枠が必要なのも事実だった。

 

 それにゴエモンの攻撃は無駄に音を立てないのが素晴らしかった。つまり敵を殺してからその音で無駄に他の敵を警戒させ、トレインさせる事もない。アイザック、ゴエモン共に能力は癖が少なく、指示が出しやすいという所もかなり点数が高い。どういう風に動かし、どういう風に結果を出せるのかが想像しやすいのだ。おかげで悪魔を見つけ、行動不能にし、それをゴエモンで即死させる。このパターンが簡単に構築できる。

 

 素晴らしいまでのレベリング効率だった。

 

 まだ悪魔を狩り始めてから32匹しか殺せていない。だがレベルは既に3上がっていた。凄まじいまでの効率の良さだ。相手が同じレベル帯であるというのもあるが、悪魔自体一撃でゴエモンが即死させているから、レベルアップまでの時間がかからないというのが悪くない。最初はコツを掴むのと実験するのに何度か失敗しているが、ここ6回は一回もミスをせずにドロップの生成に成功している。

 

 報酬配分は既に決めている物で、権利は三人全員平等に取得して、レアドロップは個人資産から時価分支払って購入というスタイルになっている。なのでドロップを発生させればさせるほど、資産が増えて行く。集中してポーションを売っている時と比べれば確かに売り上げは低いだろうが、それでもこういう普段と違う環境は創作意欲が掻き立てられる。

 

「うーん、この調子ならもっと数を増やしても大丈夫そうですね。トレインさせて一気に狩りますか」

 

「む、大丈夫なのか?」

 

「えぇ、任せてください。属性がそこら辺に溢れていますので利用が出来ます。実体が無い分、固めたりするのが難しくないのが楽ですね。問題は寧ろアイザックの方ですが―――」

 

「俺? 問題ないぜ。足止め用の技は何個もあるし。足を数秒止めればゴエモンがワンパンしてくれるだろ?」

 

「うむ」

 

 ゴエモンがアイザックの言葉に頷く。なので今度は対複数を目的として悪魔を探し始める。しかしこのダンジョンは色々と特殊だ、と探索しながら思う。

 

 本来のダンジョンは入る時に深度を設定するらしい。だがそれがこの万魔殿には存在しない。なぜならダンジョン内に次の層へと移動する為の階段が普通に存在するからだ。視線を横へと向ければ、そこには普通に下へと向かう為の階段があるのが見える。まるで誘っているかのように。これを降りて行けば、普通に一つ下の層へ、更なる深淵へと向かって進む事が出来るらしい。

 

 脱出できる場所は1層にしか存在しない。

 

 これ、下に潜るのは確実に罠だろ、というのが伝わってくる。

 

 とはいえ今の悪魔でレベリングが辛くなってきたら、必然的に質を上げる為に下へと向かう必要はでてくるのだろうな、というのは理解出来ていた。

 

「それはそれとして、お前魔法とか使うの早くなったよな」

 

「私ですか? まぁ、スキルを使わないのにも慣れてきましたからね」

 

 その表情には? とアイザックが言葉を放ってくる。そしてゴエモンも首を傾げ、

 

「魔法とは魔法系スキルから発動するのではないのか?」

 

「えぇ、まぁ、基本は、ですね」

 

 基本的にはそうだ、と説明する。このゲームにおける魔法発動のプロセスを歩きつつ解説する。大理石の床に足音が軽く響きながら、声を出して教えるのは基本的な魔法の使い方だ。つまり魔法系のアクティブスキルをSPを消費して取得する事でアンロックされて行き、それを利用するタイプだ。これが最も基本的で、簡単な魔法の使い方だ。だけどそれだけが魔法の使い方ではないのは、自分が良く知っている。

 

 なぜなら、

 

「私は錬金術を通してこのゲームにある法則の解明等を行っています。多くの学術書を読んで知識を蓄えています。その結果、このゲームはゲームである癖に、まるでリアルの様な法則性を持って様々な現象を引き起こしている事が判明します。例えばエーテル一つだって基本の属性に上位属性、希少属性も存在すれば自然には生まれない属性が存在し、それらの流体、固体、気体での状態なんてものもあります。純粋にゲームとして楽しむならそこまで深く考える必要はないです。ですが―――」

 

「そこにある謎を解く事もまた一興である、と」

 

 ゴエモンの言葉にえぇ、と言葉を付け加えながら頷く。

 

「このゲーム、魔法はロジックで動いているんです。我々が使う電子製品がサーキットを通してその役割を果たす様に、エーテルと魔力という生成された燃料を掛け合わせる事で科学的な反応を発生させ、最終的に魔法という結果を生み出します。つまりス(・)キ(・)ル(・)で(・)覚(・)え(・)る(・)魔(・)法(・)は(・)テ(・)ン(・)プ(・)レ(・)ー(・)ト(・)なんですよ」

 

 最も基本的で簡単で、システムが全ての思考やプロセスを代替してくれるテンプレート。それが魔法系スキルで習得できる魔法だ。

 

 だがこれには発展性がある。魔法には魔法のロジックがある。法則がある。化学反応は存在する。だからそれを理解する事で魔法を自分の好みにカスタムする事が出来るし、スキルを使わなくてもそれを再現する事が出来る。

 

「私は錬金術を学ぶ者として環境と物質のエーテル操作に対する高い技術を保有していると自負しています。ですのでそのメカニズムを解き明かし、そして理解して行く事が鍛錬であり、そしてそうやって技術を修める事でより深く、広く出来る事が増えて行きます……たとえばですね」

 

 足を止め、誰もいない方向へと向きながら、光属性のエーテルを掴む。そして同時に魔術言語を口から発しながら、エーテルを変換し、魔力によって方向性を与える。するとエーテルはその動きに素直に反応してくれる。

 

「光の刃(ルモ・エクイ)」

 

 指をパッチン、と弾けば正面へと向かって光の斬撃が発生した。それを見たゴエモンはほう、と声を漏らした。

 

「それは拙がやった事と同じ事だな?」

 

「えぇ、ですが原理が違います。おそらく見た感じ、ゴエモンの放つ光の斬撃は光属性に染められた魔力をそのまま刃として固形化したのを、一部パージして放っているんでしょう」

 

 ですが、と言葉を付け加える。

 

「私のこれは光属性のエーテルを空間から搾取、それを魔術言語によって形と方向性を与え、同じ現象として再現しています……まぁ、細かい効果は違うでしょうが」

 

 腕を組んでそれを見ていたアイザックが成程、と頷く。

 

「つまり原理や理論がこのゲームにはシステムとして存在しているから、それを理解する事で保有していないスキルや魔法も、理論などの筋を通せば扱う事が出来るって訳だな?」

 

「正解です。私がエーテルへの干渉に特化しているのと、人一倍引きこもって勉強しているからというのもありますが……このゲーム、本当に極限までこういう技術的な部分はリアルに寄せようとしている努力と狂気を感じます。恐らく最終的にはスキルは全て称号に格納、スキルで出来た事を独自の理解と理論で意識する事無く使用する事が出来る様になります」

 

 スキルをスキルとして意識して使おうとする、スキルを発動させる、というプロセスが発生する為、コンマ数秒の時間が絶対に発生するのだ。だがこれをスキルと意識せずに技術と認識して利用する事で、スキルを呼び出すプログラム、システムとしての動きをキャンセルさせ、自分の反射神経と反応速度に合わせた速度に発動できるのだ。

 

「拙も最初はスキルを利用していたが、普通に自分の剣を振るった方が早かったしな」

 

「まぁ、既に鍛えられた武芸者ならそんなものでしょう。私も最初は一つの魔法の再現から発動に時間をかけていましたが、理論を理解し、反復練習を繰り返す間に―――」

 

 横へと手を向ける。そこから水の矢を一瞬で生成し、放つ。

 

「こんな風に、スキルを発動させるよりも早く放てるようになりました。まぁ、この事に関してもまだまだ研究中の部分は多いんですけどね。自分の保有するスキルから大きく離れた分野は? まだ習得していないスキルは? とかまだまだ検証が足りないんですが」

 

「いや、十分すぎる程に検証してるよお前は……良くもまぁ、そうも考え付くものだな」

 

「抜け穴を探すのは得意ですからね」

 

 それにこうやって一つ一つ、開拓していくような感覚は実に楽しい。普通の卓とかだとGMに怒られるものだが、この世界は、EX:Worldではそんな事を言ってくるようなGMは存在しない。寧ろもっと調べてみろよ、と背中を押されている感じがする。そうでなければここまで整った図書館や参考書、技術書が出回っていない気がするのだ。

 

 まぁ、それはともかく、

 

「レベリングを進めてしまいましょう? 今日中に110レベルを目指したい所ですしね。あ、そろそろポーション投げも育てたいですし、爆弾投入しますか、爆弾」

 

「懐かしき火薬の匂い……うむ、やはり戦いは近づかずに葬るに限る」

 

「お爺ちゃんそれでいいの……? いや、まぁ、楽なんだけどね。そうだ、弓に爆弾巻いて爆発矢やろうぜ、爆発矢」

 

 爆音で悪魔がたぶんわらわらと湧いてくるのだろうが、ゲームなのだ、偶にはテンションに任せて暴れたい時だってある。それにこの戦力で今まで戦ってきた悪魔を相手に敗北するような事はないと確信できた。もし処理を超える悪魔が出現したとして、その時はナイトとディーヴァという保険があるのだ。

 

 抜かりはない。

 

 三人でレベリングの為に悪魔を殺し尽くす事に集中した。

 

 

♦

 

 

 初日のレベリング終了。

 

 レベルが合計で12上がり、112へとレベルが上がった。APは合計545、SPはボーナスが追加されて511になった。これによってスキルのランク上げにも余裕が出て来た為、様々なスキルを上昇させた。戦闘ではないとトレーニングが難しい《カリスマ》や《軍略》、《改竄》は多少トレーニングがガバっていても優先してランクを上げておき、《ポーションピッチャー》も乱戦の時に爆弾テロをかまして大きくトレーニングを稼げたので一気にガバ勘定でBまでランク上げ。《審美眼》もコスト下限となったのでAランクへとランクを上げて、少しずつだが《キネシス》のMも見えて来た。

 

 やっぱり戦闘関連のスキルは、パーティー組んでトレーニングをやってしまうのが圧倒的に早い、というか楽だ。

 

 自分のスキルを軽くアイザックへと見せて評価してもらったが、生産関連のスキルに関してはかなり高いレベルにあると言われている反面、《軍略》や《カリスマ》などの戦闘スキルに関しては既に次の段階へと進んでいるプレイヤーが戦闘タイプでは多いらしく、置いて行かれているという評価だった。

 

 別に戦闘タイプのビルドではないが……そう言われると少々悔しい。

 

 なので帝都レベリング祭り、その間に戦闘関連のスキルをMを目指し、戦闘における新たな方向性と可能性の発掘、更なる上位化を目指すという個人的な目標を設定する事にした。流石にトッププレイヤーを目指すわけではないのだが、それでも平均以下と言われると少しショックな部分はある。せめて、平均的なラインだけでも目指しておきたいのだ。

 

 まぁ、最終的にはプレイヤーはカンストという壁にぶち当たって横並びになるのだろうが。

 

 残されたAPは10点筋力へ、残りを全部魔力に回す。これで魔力が166となり、漸く敏捷と体力の150を超えて一番高いステータスとなった。漸くか! と叫びたくなる数字だった。とはいえ、筋力は多めに持てるように研究職の平均以上を目指して150まで上げる予定だし、体力はこのままでいいとして、魔力>敏捷>体力=筋力ぐらいのレベルでステータスを最終的には伸ばす予定だった。

 

 魔力と敏捷に関してはどこまでも成長させても足りなそう、というのが個人的な見解だった。体力の消耗もダンジョンの長期攻略等に影響してきそうな気がするが、そこは錬金術師だ。栄養ドリンクを作成して体力を回復すればいいのだから、体力のステータスは平均以下でも問題ないと判断している。

 

 自分が目指すステータスとしての形、それが段々と見えてくる充実したレベリングだった。

 

 そしてそうやって一日のレベリングを完了させれば時刻は帝都の夜となる。

 

 即ち自由時間だ。

 

 朝から昼、そして夕方、陽が沈み始めるとレベリングは完了する。ほぼ1日悪魔を相手にして来たという形で。そのドロップで懐も大分潤ってきたのだから、そろそろこれを派手に散財できる場所が欲しかった。ゴエモンとアイザックは仲良く娼館に向かったが、自分はそういう所には興味がなかった。

 

 この帝都へ来たもう一つの目的を果たす為に、予めマーキングしておいた場所へと向かう。

 

 数多くの商会が存在する中で、一際大きな商館の中へと入って行く。その入り口には良く鍛えられていると解る警備兵がおり、中には人の賑わいが夜の中であろうと存在していた。周りを見渡しながら、商館の受付口を見つける。その向こう側にいる受付の女は、此方を見て笑みを浮かべた。

 

「ようこそドレイク商会へ。奴隷の方をお求めでしょうか?」

 

 そこは奴隷商館だった。

 

 そう、奴隷の購入に来たのだ。

 

 なんと言ったって人体実験だ。これが無いとマジでこれ以上エーテルの物質化に関する研究が進められない。恐らく本を読めば書いてあるのかもしれないが、何よりも実験する事が一番それを感じ、理解できる筈なのだ。というか人体実験がしたい。個人的な趣味で。だって人体実験だぜ? 普通は出来ないぜ?

 

 ならやるしかねぇ。

 

 人体実験やるしかないよ!

 

 どんどん社会のルール破ろうぜ! ただしゲーム内でな!

 

リアルでやっちゃ駄目なのだ、リアルじゃ。だからこそ卓やゲーム内で自由にやるのだ。ここでならどれだけ暴れても合法なのだから。ゲーム内の現地ルール? そんなもん知った事じゃない。こっちはリアルマネー払って遊んでるんだ、黙ってろの言葉しか出ない。

 

 まぁ、それはそれとして、商会内を軽く見渡し、奴隷が売りに出されている姿を見る。なんというか―――自分が良く知る様なファンタジーの奴隷市場とはまるで違う。凄い清潔だし、売買されている奴隷も普通の服装をしていて悲壮な空気もなく、普通という感じがしている。なのでとりあえずは、

 

「奴隷を見繕おうと思っているのですが、実は初の利用ですので、説明をお願いします」

 

「成程、では少々時間がかかりますが説明しますね?」

 

 えぇ、お願いしますと言葉を返すと、説明がやってくる。

 

「ではお客様はどうやら異邦人らしいので、解りやすく奴隷制度に関して説明します。帝国で保有している奴隷制度は国家より人権が保護されており、守られています」

 

「えっ」

 

「逆に言えば国民に対する一種のサポートです、奴隷制度は。固有資産を失った存在が働き口を紹介され、そして返済までほぼ生活を労働に圧迫される事になりますが、それでも国民としての権利、所有の権利、そして根本的な人権が認められています。また自身の金額に匹敵するだけのお金を集める事が出来れば、そのまま自身を買い戻す事が法律で守られています」

 

「……」

 

「異邦人向けに説明させて貰いますと、コロナートゥスという制度に一番近いと認識されておりますが、聞き覚えは?」

 

「あー、ありますね……」

 

 コロナートゥス、或いはコロナトゥス。古代ローマにおける農奴、小作人制度の事だ。奴隷の一種ではあるが、ローマ市民権を獲得している他、普通の奴隷とは違った様々な権利をそのまま保有できている。良く知られているファンタジーな奴隷制度とはまた別になってくる。

 

「農奴ですか……」

 

「そうですね、農奴としても人気ですね。それ以外にもそれぞれの分野の教育を受けている者、ここで再就職へと向けて訓練を受けている者もいますね。帝国は合理の国なのです。皇帝陛下は無(・)駄(・)な(・)国(・)民(・)は(・)一(・)人(・)も(・)い(・)な(・)い(・)とおっしゃいました。ですので奴隷は一つの事業であり、生活を崩した者を受け止める受け皿でもあります」

 

 共産主義が混じってる感じもするが、まぁ、確かにこうやって身持ちを崩しても働ける場所があるなら、ある程度の生活は保障されているとも言えるのだろうか……? さすがに国策に関する知識は専門外だ。

 

「それで、どうしますかお客様? 奴隷をお求めになりますか?」

 

「いえ、もうちょっと個人で自由に使えるのが欲しかったんですが……諦めるとします」

 

「それが賢い選択ですかと。余り大声では言えませんが、偶に来る異邦人の方々も所々勘違いしてなさっていたり……雇用対策なんですけどね、一応は」

 

「お疲れ様です。失礼しました」

 

「いえいえ、それでは」

 

 がっかりという気持ちを自分の両方に乗せた状態で商館を出た。これなら馬鹿二人と一緒に娼館の方に突撃すりゃあ良かった、と軽く後悔している。小作制度を導入しているとか、そんなの知る訳ねぇだろ。

 

「いや、悪いのは完全に調べなかった自分ですから文句を言うのは筋違いですね」

 

 とはいえ割とがっかりした。溜息を吐きながら商館を出てから適当に夜道を歩き始める。奴隷という安定供給のある木偶の入手先がこれで封じられてしまった。となると別(・)の(・)場(・)所(・)か(・)ら(・)実(・)験(・)体(・)を(・)確(・)保(・)し(・)な(・)く(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)だろう。

 

 となるとどこだ?

 

「戦場か、もしくは近くの村から……或いはスラムから人を攫えばいいか」

 

 別に奴隷に執着する必要はないのだ。最終的に実験に使える人間を確保できるのであれば、どこでもいいという事を改めて思い出す。となると既に法を犯すようなスキルを保有しているんだ、今更人を拉致った所で問題はない。

 

「ん? あぁ、そうか……別に俺自身が手を汚す必要はなかったな」

 

 路地裏の壁に背中を預けながら外部サイトへとアクセスする。つまりは何時も通り、WIKIだ。そこから帝国、帝都関連を探り、そして探している情報を検索してピックアップする。WIKIには書いてなかった。故にサーチエンジンで雑に検索すれば、個人用のブログサイトでヒットする。やっぱりあった。

 

 闇(・)ギ(・)ル(・)ド(・)の存在だ。

 

 寧ろこんな大都市でないだろ、って方が怪しい。

 

 WIKIの方はしっかり消されているらしいが、ブログの方は普通に記載されていた。ここら辺、高度情報化社会の弊害だよなぁ、と思わなくもない。ともあれ、帝都にも闇ギルドが存在する事が確認できた。

 

 つまりは犯罪を請け負うギルドだ。盗賊ギルドとも言われる。

 

 つまりは社会の必(・)要(・)悪(・)だ。ぶっちゃけ、こういうのって根っこでは国のトップと繋がっているのだ。経済を回す以上、社会を維持する上では絶対に悪が発生する。殺人、レイプ、マネーロンダリング。人間の欲望が尽きない内は無限にこういう犯罪は発生し続ける。そしてそれを効率よく監視するにはそれを統括する部署を用意し、そしてそれを裏からコントロールすればいいのだ。

 

 現代日本では不可能なやり方だ。

 

 だがまだ人口が少ないこの世界規模、時代設定であればあり得る。

 

 と、まぁ―――だいぶ、希望的観測が入るが。

 

 それでも闇ギルドが存在するのが解っただけ、収穫だった。時間を確認すれば、流石にもうそろそろPCを眠らせないとならない時間だ。じゃないと睡眠ペナルティが入ってしまう。ともあれ、今夜はここまでだ。明日はまた朝から晩までレベリング再開になるだろうが、

 

 それが終わったら闇ギルドの捜索だ。

 

 

♦

 

 

 レベリング二日目。

 

「こ、ん、な、感じ、かなっ!」

 

 放たれた矢が増殖された闇に突き刺さっていた。人工的に生み出された光源は6体いた悪魔の影を集め、一つの大きな塊にしていた。そこに突き刺さった矢は縫い留める様に影に繋がる悪魔の動きを停止させ、その上で矢が燃え上がった。矢から火の線が伸び、それが最下級の悪魔達の体に繋がった。そのまま悪魔達が身動きが出来ないまま炎上し始める。その様子をゴエモンと並んでみていた。

 

「異なる二つの技を合体させたのか?」

 

「おう! 炎属性の矢を放つ技と、影縫いって相手の影を射抜く事で動きを止める技があんだけど、それを合体させてみたんだけど予想外にえげつない事になってる……」

 

「控えめに行って拷問ですかね」

 

 悪魔達が言葉にならぬ言葉を吐き出しながら苦しそうにもがいている。魔力そのものは高くないらしく、おかげで拷問の様にアイザックの火矢が悪魔達をジワリジワリと焼き殺していた。殺傷するに至るだけの瞬間火力が無いのだが、影縫いによって動きを封じられた悪魔達は苦しみにのたうつ事も出来ず、完全に体を停止させたまま苦しみの声を放っていた。

 

 やっぱり拷問じゃねぇか。

 

「この技を拷問アローと命名しよう」

 

「異存無し」

 

「あるわボケ。良し、見てろよ、見てろよ、もっと拷問に相応しい矢を見せてやるからな……!」

 

「なんで苦しめる事に拘りを持ち始めてるんですかね」

 

 とか言っている間にアイザックが再び矢を放った。苦しんでいる悪魔にそれが深く突き刺さると、そのまま、内側から氷の刃が体を貫通する様に生えて来ながら、電流がその内部に発生し始めていた。痙攣しながら悪魔の姿が霧散して消えて行く姿を無言のまま、敬礼しながら見送った。

 

「昨日、言われて色々と試し始めたんだけど、コツを掴むとクッソ面白いなこれ」

 

「真に恐ろしいのは無邪気さか……悪魔よ、慈悲だ介錯してやろう」

 

 ゴエモンがサクサクと悪魔を両断して始末する。相変わらずその動(・)作(・)は(・)見(・)え(・)る(・)の(・)に(・)一(・)切(・)理(・)解(・)で(・)き(・)な(・)い(・)という不可解過ぎる太刀筋が凄かった。恐らく現実に存在する達人というカテゴリーなんだろうなぁ、と思いながら霧散する悪魔達をドロップアイテムへと変換し、回収する。

 

 レベルが上がってきたことで、対悪魔に対する戦闘に余裕が出て来たのだ。

 

 最初はもう少しレベルの高い悪魔がいる場所へと行くことも検討されたが、その前に技術の発展や研究をする事を目的として、悪魔を実験台にして遊んでいたのが事実だった。自分は無論、悪魔を狩りながら《流体学》に関する研究を行っていた。ゴエモンはゴエモンでどうやったら一番かっこよく斬れるのか、というのを追及していて凄く楽しそうにしていた。何せ、一々こっちへと向けてポーズなんかを決めて来るのだから。物凄く楽しそうにしている。

 

 そして一番勉強になっているのはたぶん、アイザックだろう。

 

 スキルとかの考えを根本から見直して、色々と試している様子だった。今までやっていたことを変化させたり、分割させたり、融合させたり、そうやって何かを生み出そうとする試行錯誤が見えていた。そんな試行錯誤をしている中でも一切敵を外さないというスナイパーっぷりには驚かされるが。

 

「うーん、遊べば遊ぶ程奥が深いなぁ」

 

「その内拙もイケメンだから、という理論だけで敵に勝てないだろうか」

 

「お爺さんはそろそろ痴呆でも始まりましたか?」

 

 ツッコミを入れると寂しそうな表情を浮かべるが、歳を考えろとしか言えない。いや、人が斬りたくてVRゲーに来たとかいうデンジャラスな爺さんに年齢云々はどうでもいいのかもしれないが。それはそれとして、二日目のレベリングは大分順調に進んでいる。

 

 初日は話し合った連携を試して行く感じだった。

 

 二日目、本日は色々と新技術やスキルを経験しながらそれぞれ、スキルのトレーニングを意識しながら戦っている。昨日よりも悪魔との戦闘が楽になっている為、普段は使わないようなスキルを使いつつ戦闘するだけの余裕が出て来たのだ。そしてそうやってスキルを使って戦っていれば、段々とだがお互いのスキル構成というものが見えて来る。

 

 まずはゴエモン。所謂フルアタ構成である。習得スキルは全てが自分の身体能力、そして剣の切れ味を上昇させる事にのみ集中している。その上で技(・)系(・)の(・)ス(・)キ(・)ル(・)は(・)一(・)つ(・)も(・)取(・)得(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)という面白いビルドをしていた。なんでもリアルで剣術を収めているだけあって、システム的な技は逆に使い辛いから完全に切っているらしい。そういう訳でゴエモンは自分の技量と切れ味のみで戦っている超肉弾派スペース侍だった。

 

 それに比べるとアイザックは金策とサポートをやや考えた構成になっている。斥候や偵察が行えるようなスキルに、狩猟や採取に関するスキルを少し用意し、最終的に弓に集中する様にスキルを揃えているレンジャータイプのスキル構成をしていた。所謂パーティーに一人は絶対欲しいタイプだった。どこに行っても絶対に腐らないタイプのビルドでもあるから、どんな状況でも安定して遊ぶ事が出来る。つまりゲームを遊ぶ上では正解とも言えるビルドだった。

 

 ゴエモンは固有スキルに切れ味の強化を貰っている。

 

 そしてアイザックは固有スキルに射程強化と攻撃範囲強化を貰っていた。

 

 二人共、成長の方向性が見えていた。ゴエモンの場合、本当にぶった切って殺す事しか考えておらず、システムなんかではなく最終的に信じているのは自分の技量が全てである、というのを感じられる。ライトセイバーを利用しているのは純物理が通じない相手への対策なのだろう。そしてアイザックはこの先の固有スキルに、デメリットか副作用のある威力強化が来るのをひたすら祈っているらしい。

 

 目指すのはペルシアのアーラシュの様な大砲や、インドのブラフマーストラ。

 

 銃こそが最強であるという理論に真っ向から喧嘩を売る、弓での超絶砲撃で山ぐらいは吹き飛ばせるようになる事が目標らしい。

 

 なんというか、最終的な着地点が見えている感じにビルドを構築していた。

 

「二人共結構考えてキャラ育ててるんですねぇ」

 

「マスターもそこは良く考えているのでは?」

 

「いえいえ、私なんかちょっと浮気している部分ありますからね。ネクロマンサー、アルケミスト、そしてバフデバッファーにマンチ野郎と、4種類ぐらいジョブを被らせている状態ですからね」

 

「出禁にされたくなくば吟遊とマンチはやめような」

 

 アイザックの合いの手に軽く笑いを零しながら、自分も割とスキルを雑に広くとってしまったなぁ、と思う。

 

「拙は剣にしか興味がない故、それしか取らぬがマスターはそうではなかろう? であるならそれで良いと思うが。そもそもここは遊び場なのだ、最大効率で突き進んでも最終的に飽きるだけであろう」

 

「良い事を言った。長くたくさん遊べて楽しめた奴が最終的な勝者なんだ、自分からコンテンツの寿命を縮める様な事はしなくていいんだよ。俺だって表面的には実用性アリアリなレンジャーだけど、その裏側では超ロマン砲を作成中だし」

 

 あぁ、いや、と声は零す。

 

「そもそも後悔なんてしていませんし、満足もしていますよ。私自身楽しんでいますし」

 

 喋りながら高速の陣を張り、アイザックとゴエモンの速力を強化し、エーテルの結合を弱める陣を《エーテル干渉》と《軍略》の合わせ技として放つ。バフとデバフを同時に行いながら戦闘を開始し、見えていた悪魔を皆殺しにしながら話を続ける。

 

「ただこうやって手を広めてしまうと、研究したい事、実験したい事、練習したい事が広がってしまって困るんですよね……。戦力強化の最大点は英霊の補充によるものですから、聖遺物は探さなくてはなりませんし、錬金術は学術書を漁らなくてはいけません。英霊の使役関連は英霊を戦わせて、そして後方指揮はパーティーに参加して役割を果たさないと駄目です。それに《邪眼》のスキルも中々トレーニングできる方法を見つけられなくても困っていたんですよね」

 

「俺はダンジョン潜れば一気に全てのスキルを大体トレーニング出来るように構成しているから、基本的にダンジョンアタックだけで足りるけど……大変そうだな」

 

 まぁ、それでも楽しいのだが。効率を考えると、一つの環境で纏めてトレーニングとレベリングが出来るようになるのが理想的だ。アイザックとかゴエモンはそういうタイプだ。戦闘していればレベルもスキルも上がる。そして多くのトッププレイヤーもそういうタイプのビルドをしている。自分は、こう、趣味に走り過ぎているきらいがある。まぁ、RP優先だったりするとこうなってしまうのもしょうがない。

 

 最終的に大成するとでも思っておけばいい。

 

「というか《邪眼》スキルってなんだよ」

 

「あぁ、視線を合わせた相手を軽く操れるスキルですよ。魅了系統の。モンスター相手にやるには少々時間が足りないので、奴隷を購入して実験台にしようかと思っていたんですけど、どうやら奴隷に人権が存在していた様で……」

 

「サラっとひでぇ事言いやがるぞこの糞眼鏡」

 

「それは、拙らに精神耐性を施した上で連打すれば良いのでは?」

 

 ゴエモンの言葉に黙り、俯き、見上げ、ナイトとディーヴァを見て、それからゴエモンを見た。

 

「その発想はなかった……というかナイトとディーヴァ相手に実験すればいいじゃないですかこれ……」

 

「お前ほんと時々抜けてるよな」

 

「まぁ、タスクが多い時に頭から考えが抜け出すのは時折ある事だ。紙にでも纏めて見つめ直すのも良かろう」

 

「……そうします」

 

 今夜は闇ギルドを探そうかと思ったが、一旦それを延期して出来る事、出来ない事、必要なものを整理する為の時間を作ろうと思った。そんな事を考えつつも、しっかりと悪魔の殲滅を行って行く。

 

 繰り返し戦闘を行っていく度に段々とだが悪魔との戦闘にも慣れて行く。

 

 連中はエーテルの塊の様な存在だ。それも不可思議に淀んだ、自分ではまだ理解のつかない法則を取り込んだ存在だ。だが最下級の悪魔は何というか―――その構成がどこか甘い。それに理性と呼べるものが非常に薄い。自我も存在しない様にさえ思える。その為、簡単にハメ殺せるという特徴があった。殺す数を増やせば、レベルは上がるが、レベルが上がれば段々と経験値の効率が当然ながら悪くなってくる。

 

 レベルが116に達する頃には、段々と悪魔を倒す事に対する経験値効率の低下を感じられた。一つ上のランクの悪魔を狩る方が経験的には良いのだろうという判断が下せた。とはいえ、そのまま突撃するのは危ない。

 

 安全マージンを取る為にもレベルには余裕を持っておきたい。そういう考えからたっぷり余裕を持てるレベル120を超えるまでは絶対に次の層へと進むという事はしない事をパーティーで決定していた。ここで経験値効率の誘惑に負けるのは馬鹿のやる事なのだから。

 

 それにこの悪魔という連中、根本部分からしてまるで他のエネミーとは違う。

 

 こいつらを相手に敗北した場合のペナルティは普通の死亡ペナルティよりも遥かに重いという報告さえも来ている。SSR枠とも言える英霊を二体も保有している自分からすれば、そのペナルティでナイトとディーヴァを失うかもしれない、という可能性は極限まで排除したかったし、アイザックも自信の無いうちはまだ挑戦したくないというのもあり、

 

 予想外にゴエモンも理性的だった。

 

「ん? 拙が戦闘狂だったら戦争を生き残れなかっただろう?」

 

「おっしゃる通りで」

 

 こんな会話があった。当然ながら戦争を経験して生き残っているという事はそれなりに生きる為の行動をとったという事なのだから、当たり前だが安全マージンに対する理解があった。

 

 そういう事で二日目、次の層への移動は無し。ひたすら戦闘技能の習熟とレベリングを行う日となる事が確定した。悪魔という純エーテル存在に対する軽度の実験を行う事で《流体学》に対する理解が深まる時間でもあった。全体的に戦闘関連のスキルを発展させながら、充実したレベリングの日となった。

 

 引き上げる時にはレベルはきっちり120のラインに乗せる事が出来た。

 

 APは合計値585、SPは合計値545へ。ちょくちょくレベルボーナスやらが入るので、純粋なレベルイコールSPの計算が崩れるのが悩みどころだが、ここら辺、SPは多く貰えれば貰える程いいや、と一部計算を放り投げている部分がある。まぁ、SPはある程度レベリング以外でも手に入る事が発覚しているのだからそれはそれでいいのだが。

 

 予定通り筋力を一気に120まで引き上げ、魔力を176まで上昇させる。SPもこの際かなり奮発して使用する。《カリスマ》と《軍略》を一気にAまで上昇させ、《改竄》《仙術》もAまで上げる。《超魔力》もBまで上がり、《流体学》もこれでCだ。段々とだがスキルが育って来て、そろそろ《キネシス》のコスト下限も見えて来る。こうなって来るとスキルも次世代への統合などが見えて来る。

 

 ただアイザックに言わせると、今はまだ楽でも、次の世代からスキルは一気にコスト下限が辛くなるとの事だった。そしてスキルに関してはそこからが本番でもあるとの事であり、コストがガンガン下がる間はチュートリアル扱いでもあるとの話だった。そしてコストが中々下がらない為、SPをガバ勘定で消費しているとその次の段階に到達するのが圧倒的に遅れる為、気を付けた方がいいとの事でもあった。

 

 その発言に頭を悩ませながらも、習得したいスキルやトレーニングしたいスキルはまだまだたくさんあった。時間もSPも圧倒的に足りない。そう思いながら二日目のレベリングは終了した。

 

 

♦

 

 

 そして帝都二日目の夜がやって来た。早速スキップしながら風俗チャレンジへと飛び出した馬鹿二人を放置して、宿屋の自室、机の上に紙を広げながら、そこにペンを使って自分のしたい事、やりたい事、出来る事をリストしていた。

 

「ふむ……今日のレベリングで発覚したのは悪魔に対するエーテル干渉での攻撃は《エーテル干渉》《仙術》《流体学》《外法》《深淵》のスキトレ対象になった、って事実だな……」

 

 今日万魔殿で試していた事は、エーテル干渉でエーテルによって構成された存在である悪魔の肉体? みたいなものに対して干渉する事だった。本体が汚染されたエーテルの様なものなのだから、錬金術の応用、即ち分解作用によって悪魔を殺す事が出来るのでは? と判断したのだ。だからこれを悪魔に試した所、見事に悪魔をそれぞれの属性のエーテルへと分解する事に成功したのだ。

 

 《仙術》は属性という存在に触れ、そのエネルギーを運用する術だ。これはいい。《エーテル干渉》はメインウェポンでもあり、技術だ。これを習得したおかげでエーテルに対する細かい干渉が行えるようになった。エーテルその物に触れる事が出来るようになったのだ。これも良い。《流体学》はエーテルの流動、性質、その存在そのものを理解する為の学問だ。生きたエーテルとでも表現すべき悪魔に対する干渉はその理解と実験であるとも取れる。

 

 これもいい。

 

 だが何故《外法》と《深淵》のスキルトレーニングが進んだのだろうか?

 

 この二つの起源は悪魔を視認し、そして人間との融合行為を見た結果習得したスキルだった。つまり倫理的に行ってはならない、その禁忌に触れる行為を平然と行い、力とするスキルだった。これに関しては中々スキルを育てる方法が見つからず、とりあえずはSPを注いでCまで上げたのが事実だ。

 

 元々人体実験の類をしたかったのは、錬金術の分野に対する理解や悪魔の理解を深める事、そして同時にこの禁忌系統スキルを育てる為だった。

 

 それが何故悪魔という存在を分解した結果育ったのだろうか?

 

「……いや、或いは悪(・)魔(・)を(・)調(・)べ(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)という事か?」

 

 悪魔という存在に対する深い理解を得てはいけない。それが正解なのかもしれない。悪魔を構築するエーテルを観察し、その機能を理解しようとしながら本日はレベリングを行っていた。その結果、悪魔を分解するという手段を思いついたのだ。まだ物質的な肉体を保有する存在には無理だが、霊体などのエーテルがむき出しになっている存在であれば、問題なくエーテル解体とでも表現すべきこの技術を駆使する事が出来ると思っている。だがそれは同時に悪魔という存在の構造を理解する行いでもある。

 

 即ち、それ自体が禁忌に触れるという行いなのではないか……?

 

「……あ、ディーヴァ」

 

「はい、マスター」

 

「そのままでお願いします」

 

「はい、マスター」

 

 《邪眼》のトレーニングついでにディーヴァを裸にさせて、片手で逆立ちさせて姿勢を維持させているのだがこれ、自分が契約の主だから言う事を聞いているのか、それとも《邪眼》が通っているのか、判断が凄くし辛い。とはいえ、一切疑問を抱く事無く従ってくれているのだから通じているのだと思いたい。

 

 元々最初から木偶人形のようにいう事を聞くけど。

 

「ふむ……となるとやはり調べるしかないのか? これが確かなら態々人を調達する必要も……いや、それとは別に実験台は必要だな。となると調査と実験と調達を考えなきゃ駄目だな」

 

 どうにかして従順な木偶を調達したい所だった。出来れば優秀な素質を持っているとなお良いのだが、この際文句は言えない。それにそろそろ、英霊戦力の補充も行いたい。個人的に偵察暗殺タイプの完全に隠密が出来る奴か、或いは一人で戦場を消し飛ばすような超大火力タイプが欲しいかもしれない。今の所ナイトの前衛防御、ディーヴァの後衛補助という形になっているのだから、圧倒的な火力か、確実に敵を仕留める事の出来る存在が欲しい。いや、現状ナイトも火力としては悪くないのだ。ただナイトは火力専門ではないのだ。どちらかというと防衛の方を得意としているらしい。少なくとも、メインとなる火力のスキルをまだ思い出せていない。

 

 そうなると確殺できる手持ちが欲しい。まぁ、聖遺物の調達なんてハードな話、相当な金を積み上げない限りは難しいのだが。

 

「まぁ、とりあえずの目標を設定しておくか。糞面倒な《邪眼》を何とかSかMにまで引き上げつつ、戦闘でのみスキトレの出来る奴を上げて、引きこもってスキラゲ出来る環境を作る事だな」

 

 そう言えば帝国でしか入手の出来ない素材などもあるという事をすっかり忘れていた。帝国にも冒険者が存在するし、露天市場やマーケットが存在している。そこはここもルーゼンも一緒らしい。時間が空いたら身に行くのも良いのかもしれない。

 

 考えた事を紙に記しながらチェックして行く。ゴエモンに言われた事だが、こうやってチェックして行くと整理しやすいのは事実だった。とりあえず、明日は明日でスキルのトレーニングを行う。とりあえず伸ばせるまで伸ばし、悪魔を相手に観察分解を続けようという事にする。急いで何もかもをやる必要はないのだから。

 

 そう思って全裸を命じたまま、ディーヴァに逆立ちを続けさせた。

 

 これで本当に《邪眼》を鍛えられるのだろうか?

 

 

♦

 

 

 翌日朝、コスト下限になっている《邪眼》を見て、今夜もディーヴァを虐待しようと決めた。虐待というかどっちかというと調教に近い気もするが。まぁ、そこはどうだっていい。スキルのトレーニング方法が見つかったのならそれでいいのだ。そういう訳で朝、何時もの様にログインし直してから集合場所の宿のロビーに集まれば、

 

「すまん、医者が来た。定期検査で5時間ほど……こっちでの半日以上は居れん」

 

「そう言えばお爺ちゃんだったな」

 

「リアルの事情なら仕方がないです。お大事に」

 

「うむ、さっさと検査を終わらせたら戻ってくるが、それも今日は無理だろう。すまんが今日は適当になんか、こう、いい感じにしててくれ」

 

「凄い雑だけど解ったわ」

 

「じゃ、今日は自由行動ですね。素材や触媒漁りに丁度マーケットを覗きたかったんですよ」

 

「俺も新しい装備の事を考えるかー……」

 

 そう言う訳で、丸一日空いてしまった。とはいえ、やる事は多いので、そこは問題が無かった。とりあえず帝都にあるフリーマーケットへと向かう事にした。ルーゼンにもある様な店を持たないプレイヤーや、行商人、露天商が広いスペースにマットを引いて、実演販売などを行っているエリアだ。フリーマーケットエリアに到着した所で自由に回りたいので一旦アイザックとはお別れしつつ《審美眼》スキルを鍛える為にもそこら中に存在する見た事の無いアイテムを片っ端から確認し、スキル経験値を稼いでゆく。

 

 まぁ、たくさん物を見る事で鍛える事が出来るのだから、こういう場所に来るのが一番レベリングしやすいタイプのスキルだった。

 

 そういう訳で帝国特産のアイテムを確認して行く。

 

 ルーゼンは共和国と帝国に挟まれているという立地の関係、双方の品が半々で入ってくる他、海沿いという事もあってそれなりに海のものが入ってくる。だがこの帝国はかなり内陸に存在している事もあり、並べられているのは海路で運ぼうとすると腐りやすい木材や苗の類、他にも重量がかさばるためにあまり運ばれてこない、帝国付近の鉱山から算出される鉱石の類だった。

 

 その影響を受けて、宝石の類もルーゼンよりは安く並べられていた。

 

「宝石かぁー……帝国で購入したレシピには宝石を使う物が結構あるんだよなぁ」

 

 どうやら宝石の色はエーテルの属性に影響されて発現するものらしい。ルビーは火のエーテルの影響を受けて生成されるらしく、更に火のエーテルの影響を強く受ける事で、宝石の中に炎そのものが発生しているものが出来るらしい。これを炎のルビーなどと呼ぶらしいが、素材として、アクセサリーや属性の強化に使うアイテムとして優秀らしい。やはり場所が変われば文化も変わる。

 

 この宝石と鉱石を錬金術で熔かして融合させる事で、炎のエーテル結晶や、炎属性の鉱石などを作成したり、そういう物がこの帝国では利用されている。更にそこから精錬して金属加工する事で、マキナに使われる鋼材になったりするらしい。根本的に機械を運用する帝国らしく、最も製鉄などに関する技術が進んでおり、生産に関するレシピや技術も、それらを中心にしたものが多い。

 

 ルーゼンにあるレシピは動植物などを使用したものがメインだった為、珍しく感じる。

 

 とりあえず、インベントリには筋力を成長させた事で余裕が出来て来た。その為、持てる重量も増えたので、鉱石や宝石をある程度購入しておく。これはルーゼンに戻った時にゆっくりと使わせて貰おう、と考えておく。

 

 武器に関しては今の所、自作したイデアが一番優秀で乗り換えるつもりはないし、防具も今の服で満足しているから変える予定はない。となるとやはり、聖遺物や触媒、アクセサリーや素材を見る事がメインとなってくる。

 

 《審美眼》を発動させながら人が大量に存在しているマーケット内を歩いて進んで行く。そうやってどこか、悪魔に関する書物がないかを探す。間違いなく悪魔を知り、調べる事こそが禁忌の道を進んで行くための近道だと思うのだ。とはいえ、軽く調べている感じ、自分の様な明確な背教者は存在しないようで、書物も禁書に指定されているのか、見つからない。

 

 残念に思いながらも、まだまだマーケット内は魅力的なアイテムや未知の素材で溢れている。どれを購入しようかな、と歩きながら考えていれば、

 

「―――おやおや、これは実に久しい姿だ」

 

 聞き覚えのある、しかし聞きたくもない声に、背筋に悪寒が走るのを感じ、振り返った。

 

 そこに居たのは紳士服姿の男だった。シルクハットを装着した男の表情は影になっており、絶妙に見えない具合になっているのだが―――本当にそこに表情が存在するのか、顔が存在するのかは怪しかった。その体内に構成されるエーテルは万魔殿で目撃する最下級の悪魔なんかよりも遥かにどす黒い汚染されたような色合いをしており、これが原罪に犯されたエーテルであると、目撃して理解を得る事が出来た。

 

「おやおやぁ、日の下に出てきて大丈夫なんですか? 折角安らかに眠れるように手配した筈なんですけどね」

 

「ふっふっふ、ふ、ふ……いきなりの事で焦るかと思ったが取り繕う事が出来るか。いや、そうでなければ見込みもないか。いや、すまない。あの時はただの雛だと思って甘く見ていたよ。おかげで這い上がってくるのに苦労したものさ」

 

「私としてはそのまま眠っていても良かったと思うんですけどね」

 

「それも悪くはないだろう。だが必死に頑張る勤勉な生徒を家の窓から目撃してしまってね。どうしても会いたくなってしまったのさ」

 

「そういう口説き文句は女性の方からされたいものでしたがねぇ」

 

 肩を揺らし、おどけながらも即座にナイトで殺せるように待機させつつ、離れた場所でディーヴァを配置させていた。狙撃銃を手に、何時でも狙撃して射殺できるように待機させてある。まさか白昼堂々と悪魔が出現して来るなんて思いもしなかった―――しかもあの夜、騙して不意打ちで殺した筈の悪魔が。ディーヴァの出現する聖遺物を取得するきっかけとなったイベントだ。

 

 下手人をぶち殺したからイベントフラグは叩き折ったものだと思っていたが、こいつら、死(・)の(・)概(・)念(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)が(・)存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)のか―――?

 

「なに、そのように怯える必要はない。言っただろう? 歓(・)迎(・)す(・)る(・)とな。アレは純粋に私が見下した事が原因だ。その事を怒りに思う事はない。寧ろ素晴らしく思う。手段を択ばずに奪い取ろうとする気概、素敵だ。実に欲望に率直で、美しい。益々仲間になって欲しい所だ」

 

「すみません、宗教勧誘は断っているんですよ。食生活を制限されるのは辛いですから」

 

 おどけながらも、何時でも殺せるように待機しておく。場所がフリーマーケットの中というのが悪い。目撃者が大量に存在するからだ。とはいえ、混雑の中で此方の会話が紛れて人々には聞こえていない、というのは救いだろうか。しかし暴れればそれも一瞬で消えるだろう。というかこいつ、万魔殿は封じられている筈なのにどうやって出て来た?

 

 というかイベントフラグはどこだったんだ?

 

 もしかして悪魔との接触後に万魔殿に潜る事か?

 

 まぁ、どちらにせよ、どうにかこいつを始末する事を考えなくてはならない。俺が禁忌の道を行く事を知るNPCを、情報を拡散させるかもしれない存在を自由に生かしておくことはできない。

 

 殺してもまた万魔殿の中で甦るというだけなら―――手段を変えるだけだ。

 

 存在がエーテルで構成されているというのなら、それを結晶化させて元の姿に戻せない様に封印してから始末すればいいだけの話だ。悪役が潜伏して成長している間にネタバラしをされるなんてたまったもんじゃない。

 

 此方の考えを理解しているのかどうかは解らない。だが紳士服の悪魔は、ニヤリ、と笑みを浮かべた。

 

「なに、そう焦る必要はないだろう? 今日は前回に引き続きプレゼントを持ってきただけさ」

 

「ほう、嬉しい話ですがそこまで親しい間柄になった覚えはありませんね」

 

「残念ながら私もまだそこまで仲良くなった覚えはない。だが個人的に気に入っている相手に支援をするのは間違っているかな?」

 

「さて……ファンからプレゼントを貰うというのはアイドルには偶にある事らしいですが、それをありがたく感じるかどうかは個人の感覚次第ですね」

 

「ふむ、成程」

 

 紳士服の悪魔はその言葉に頷き、懐に手を伸ばした。その動きに対応する様に静かに片手をバインダーに伸ばし―――悪魔が懐からハンカチに包まれた砕けた刃の破片を取り出すのを見えた。それをそっと、足元に置き、後ろへと一歩下がった。

 

「これからの君の活躍に期待している―――深淵に至るか、或いは外法による混沌を産むか」

 

 トリガーはどちらかというと《深淵》と《外法》の方だったらしい。後ろへと下がり、好きな事を言うだけ言って消えた悪魔の姿を眺め、完全に消え去った所で地面の上に置いて残した刃の破片を拾いあげた。

 

 《審美眼》を使えばそれが、霊的エネルギーを溜め込んでいる召喚用の触媒である事が一瞬で看破できた。つまりはディーヴァに引き続き、何らかの英霊を召喚する為の遺物を用意してくれたというのが解る。

 

「……生きているだけで利益になるから支援するのか?」

 

 それとも―――別に思惑があるのか?

 

 或いは禁忌系スキルをトレーニングし、習得して行く事で悪(・)魔(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)有(・)利(・)な(・)状(・)況(・)が(・)構(・)築(・)さ(・)れ(・)る(・)のか?

 

「……どちらにしろ直ぐに判断する事は出来ないな」

 

 触媒を使うかどうかという事も。とりあえずは入手した砕けた刃をインベントリの中へと放り込み、ディーヴァの待機解除を命じるが、霊体のまま警戒状態のナイトはそのままにしておく。まだ悪魔に監視されている可能性があるからだ。

 

「糞、面倒なイベントトリガー踏んじまったな」

 

 そう言いながらも、笑みを浮かべる事を止められないのはやはり、どうしようもなく新しいイベントとそこから来る面倒に、ゲーム特有の理不尽さと物語の構築―――そこから来る楽しみを待ち望んでいたからかもしれない。





 Name:マスター
 Level:120
 Status:
 AP:585/585
 筋力:120 魔力:176 敏捷:150 体力:150
 Title:【錬金術師:中級】【Evil】【ソウルマンサー】【プロフェッサー】【畜生メガネ】
 Skills:
 SP:510/545
 《禁呪魂冥士:B》 《超魔力:B》 《審美眼:A》《エーテル干渉:A》 
 《キネシス:S》《ポーションピッチャー:B》 《軍略:A》 《性魔術:B》
 《魔眼:M》 《深淵:C》 《外法:C》 《仙術:A》 《機構学:C》 《流体学:C》
 《改竄:A》 《邪眼:B》 《カリスマ:A》 《幻想の色彩:M》


 その欲望、素晴らしい! と殺されてから喜ぶ悪魔たん。連中に勝利や敗北の概念はない。面白ければ、楽しければそれでいいのだ。ハメ殺されたらそれはそれでショックだけど、その後殺してでも欲しかったのね! 素晴らしい! と言える理想の遊び相手。なお精神性は保証しません!!
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