……悪魔連中の思惑に関しては考えていてもしょうがない。
こういう時、相手の思惑が一切解らないのにヒントが無い時、どうすればいいのか? そんなもの簡単である。忘れない様にしながら放置すりゃあいい。忘れた頃にイベントフラグが進行するのだ、その時になったらあーだこーだすればいいのだ。読めないものは読めない。だから留意しておくだけでいいのだ。深く考えたところで予想外の方向からとんでくるのだ、こういうのは。だから忘れずに手札を増やしておく程度に留めておけば、それで十分だ。連中はシステム側の存在だし。
運営が設定を増やせばそれだけ相手を意味するのが馬鹿らしくなってくる。
だからもっと実務的な事を考える方が良い。
つまりこれからどうするか、英霊をどうするかという事だ。
悪魔との不意のエンカウントには驚かされたが、ここでマーケット巡りを諦めるという選択肢はない。無論、このまま続行するに決まっている。だが英霊召喚に関しては流石に即座に召喚する、という事はしたくない。今の所英霊一人当たりの非現界維持コストは15%だ。つまりナイトとディーヴァを合わせて召喚していない状態だと30%MP最大値を削減されている。これに更に新しく追加するとなると常時MP最大が45%削れる事になる。
それに加え、召喚状態になるとコストが倍加する。つまり1体辺り30%の維持コストに発展する。3体同時運用でMPが90%も圧迫されるのだ。
流石に話にならない。やはり英霊を追加する為に、ワンランク上の使役スキルを習得する必要がある。今の所《禁呪魂冥士》はBランクだ。つまりA、S、そしてMへと至る事で次のランクへと上げる事が出来る。普段からかなり荒く使っているが、それでも戦闘での運用はそこまで行っていないのは、純粋に自分がダンジョンへと潜っていない事に原因がある。
となるとスキルトレーニングの為にも、ナイトとディーヴァに戦闘を任せる必要が出て来る。だがそうなるとアイザックとゴエモンが邪魔になってくる。いや、正確には違う。ディーヴァとナイトを出す事になると、あの2体で戦闘が完結してしまうのだ。なので他に誰かを挟み込む余地がなくなると言っても良い。だから……この帝国で使役関連のトレーニングを行う場合、
「俺一人で万魔殿に潜る必要があるな」
もしかしてそれを誘っているのか? なんてことを一瞬だけ、考えた。それに一人で万魔殿に潜れば、再びあの紳士風の悪魔に会えそうな気がする。状況に焦って素早い対応を行ってしまったが、
良く考えれば悪魔という存在を理解する為の良い機会じゃないだろうか? そもそも連中を研究したい、出来たら確保したいとさえ考えて今回は帝都にやってきているのだから。とはいえ、不安が残るのは確かだ。前よりは間違いなく強くなっているのは事実だ。だけどそれだけだ。果たしてそれで完全なる未知に踏み込むだけの準備があるかどうかは……完全には判別がつかない。
ただそうやって考えて、ごまごましている間は永遠に前に進めないのも事実だ。
マーケットの中で、歩き続けながら面白そうなものを探し、素材を買い集めながら考える。アトリエの設備拡張用の費用を少し使っているなぁ、今、と。もっとアトリエを豪華にしたいというのも事実で、それにはお金が必要だ。あまり散財してちゃ駄目だ。散財した分は補充しなくてはならない。
「……」
やってみるか? やってしまうのか? どうなのだろうか。挑戦してみてもいいのだろうか? でも自分からダンジョンに向かうとか、間違いなくキャラじゃない。腕を組んで足を止め、そのまま数秒間唸る様に考え続ける。そして結論を出す。
「今日はやめておこう」
それが結論だった。石橋を叩いて爆破してから船で川を渡る。それが自分のスタイルだ。余計な危険は冒さない。危険はそれが安全であると自分が確信出来てから行う。そしてその確信までは今は足りない。今日は再びダンジョン外で出来る《邪眼》のトレーニングと、それに合わせてマーケットで《審美眼》を育てるのに時間を使う事にする。最終的に悪魔連中とどうこうなるって解ってるなら、わくわく感に飲まれて焦る必要はない。
何時も通り、ペースを守ってやればいいのだ。
錬金術で道具を貯め、本で知識を蓄え、そして英霊の暴力で殴り殺す。これを万全に行える状態になればいい。ともあれ、今はアイザックやゴエモンと一緒にレベリングする事だけに集中すればいい。今よりも上の悪魔を相手にする場合、必然的にナイトかディーヴァが求められるだろうから、そこで使役すればいい。
イレギュラーを相手にしたとしても焦る必要はないのだ、と自分に言い聞かせる。そうなったら話は簡単だ―――先ほどまでのトラブルを頭の外へと追い出して、再び散財に回る。減った金の分は戦時需要で稼げばいいのだ。その為の生産職なのだし。
今はとりあえず、出来る事から重ねて行けばいい。
しっかし、SSRガチャ確定チケットを配布してくれる悪魔の存在には混乱する。なんでこんなもんを渡してくるのだろうか……?
結局、そのまま一日をゆっくり利用した。《邪眼》をディーヴァに使ってトレーニングしつつ、購入してきた《機構学》の本を数冊ほど読んでいれば、その知識を獲得した事でスキルコストが下限されていた。《審美眼》も完全ではないが、スキルコストが大きく下がっていたのを利用して、《機構学》共々スキルランクを上昇させた。《機構学》に関してはそれで一気にAまで上げる事が可能だった。やっぱり学問のMというのはどうも、基礎や基本を押さえ、恥ずかしくなく話し、理解できるレベルを求めているらしい。学問系スキルは中々そう考えるとレベリングが楽だ。
あくまでも、読んで理解する事が出来る脳味噌の持ち主であれば。
勉強しても理解出来ないような馬鹿には難しいだろう。
またSPを消費したなぁ、と寂しさを感じながらも成長は成長、どんどん知識や能力、技術や技能が自分の目指す頂点へと向かって最適化されて行くのを感じる。《機構学》は感覚的に後2、3冊程読めばMまで上げられそうな気がしていた。《邪眼》も後数日、ディーヴァを命令で虐待すれば良さそうな気がしていた。
まぁ、そんな訳で実りのある休日だった。レシピも大量に購入して、アトリエに戻った後での錬金作業がこれは楽しみだな、というウキウキ感を胸に灯しつつ、帝都到着から四日目の話になる。
リアルでの検査を終わらせたゴエモンとアイザックも合流し、本日も万魔殿でのレベリングを行う事になった。万魔殿前に到着した所で、中に入る前に軽いブリーフィングを行う。
何せ、今の自分たちのレベルは120だ。
つまりは今まで通り、最下級の悪魔を狩っていても効率が悪い。一日中最下級悪魔を相手にしても恐らく昨日の半分以下しかレベルが上がらないだろう。となると更に下の層へと進む必要が出て来る。
「っつーわけで、下層へと移動しようかと思うんだけど。ゴエモンと糞眼鏡はそこら辺どう思う?」
「拙に異論はない。レベリングしに来ているのに態々効率の悪い相手を選んでもしょうがない。レベルに対する適性を選んで狩るのが良いだろう」
「私も異論はないですね。とはいえ、そろそろ英霊使役スキルの方もトレーニングさせたいので、ディーヴァかナイトの方を戦闘に出させて貰えると嬉しいですが」
そう言えば、二人の視線が此方へと向けられ、加入させる味方の能力がどういう方向性かを聞かれるので、普通に答える。
「ナイトは私の盾で近接型の戦士です。使う武器は槍一本。ただ翼を生み出して短時間なら浮遊したりする事も出来るようです。ディーヴァは打って変わり歌によるバフと支援、そして銃による射撃を得意とします」
「じゃあ置物として使えるディーヴァちゃんの方がいいんじゃないかな?」
「拙は英霊と呼ばれる戦士の技量が気になるな……」
ゴエモンの言葉にあぁ、そうか、と呟く。別に敵と戦わせるだけが全てじゃないな、と。じゃあ、とゴエモンに言葉を向ける。
「暇な日か空いた時にナイトと戦ってみますか? 使役霊を運用させる事自体がトレーニングに直結しますので」
「む、これはありがたい申し出。是非とも受けたい所ではあるが―――」
「んじゃあ3日に1回、休みの日を作ろうぜ、こっちにいる間は。それを休みの日にして自由行動って事で」
願ってもない提案だった。その時間の間に好きな事が出来るのなら悪くはない。第一、戦い続きだと流石に飽きるのだ。いや、戦争の気配がする今、最優先でレベリングする意味は解るのだが。それはさておき、そういう事で本日のダンジョンアタックに関するブリーフィングが話し合われる。
本日はディーヴァを増やした合計4人で戦闘を行う事にする。ディーヴァは直接的なダメージを発生させる事を禁止とさせ、歌によるバフにのみとして集中して貰う。そうすれば自分も精神保護、環境安定、そしてデバフと指示に集中できる。ゴエモンは今まで通り一撃必殺し、アイザックは行動阻害に集中する。
これが作戦内容となった。
そんな訳でブリーフィングを終わらせたらこの2日でもはや慣れて来た感じさえある万魔殿へと突入した。一応先にディーヴァを召喚しておき、何時も通りの発狂対策を行いながら万魔殿を進む。
もはや最下級悪魔に関してはルーティーンワーク程度の間隔であっさりと処理できるようになっていた。やはりMMOにおけるレベルとハメパターン形成による敵の殺害は大正義だと思いつつ、神殿風の内部を進んで行けば、
やがて、下へと通じる階段を発見する。
「さて……ここからが本番だな」
「この先の情報に関してはあるのか?」
「少しだけは一部プレイヤーが探検した。つってもレベルを確認することは出来なかったらしいけど、恐ろしいぐらいに強さは感じた、って話だったな。それなりに雑魚のレベルが上がるらしい」
「ふむ、警戒を強めるべきか」
「ですね」
頷きながら神殿の地下へと通じる階段を下りた。
左右をランタンによって照らされる階段はかなり長く、下の方が闇に覆われている様になって見えなくなっており、それなりの距離を潜る必要がある様に見えた。これは少々勇気を必要とする。そう思いながら神殿同様、大理石の様な造りをしている階段を下りて行く。
最初は煌びやかな白い大理石の様な姿をしていた地形も、
段々と、その模様の中に血色の線が混じり始め、白い中に狂気を感じ始める。
階段を完全に降り切った所で景色は小さくだが、変質していた。基本的に神殿であるのに違いはない、まるで血管の様な血色の文様が床や壁、天井に存在し、生理的な嫌悪感を感じさせていた。それに合わせ窓の外の景色も変わっており、赤色の水が完全にその向こう側に満たされていた―――赤い、赤い海の中に沈んでいたのだ。
もっともっと、狂気に浸っている感じが強く、精神汚染を、発狂を誘ってくる狂気の波動が上よりも強く感じられる。
「とはいえ、この程度ならまだまだ余裕ですね」
「マジか?」
「こう見えて専門家……とは言えませんが、魂を扱うジョブですよ? 魂を保護する方法、精神を保護する方法なんて既に実験済みです。完全遮断をしていますから、汚染などに関しては安心してください。寧ろ恐ろしいのは悪魔が此方の肉体を狙って融合してくる方です。誘惑されない様に気を付けてくださいね?」
「任せよ。相手が美女ではない限り拙は落ちぬ」
「不安しかない……」
まぁ、悪魔がアレ、問答無用で肉体融合を行えているとは思えない。霊体であるディーヴァとの憑依融合はお互いの同意があって初めて可能だったからだ。となると、何か、事前に条件みたいなものがある……と思っている。だから問答無用で乗っ取られるなんて事はないと思いたい。それはともかく、エーテル干渉から保護する為に出現しているディーヴァに、念入りに遮断を付与する。問答無用の融合だけは絶対に回避しておきたい。たぶん、ないと思うが保険は大事だ。
ともあれ、
「これで探索準備は完了しましたね」
「うむ」
「そんじゃ……ちょいとグラフィックが気に入らないけど、レベリング再開しますか」
「では、少々陰気が混んでいる様なので心を奮い立たせる音でも」
悪魔を探し始め、歩き出そうとしたところで小さく、口ずさむ様にディーヴァの口から音が漏れ出す。軽い口笛による独唱だった。激しくもなく、音も高くなく、どちらかというと静かな音だった。なのにディーヴァのその音は、不思議と擦り抜ける様に耳に入り込み、そして心に入り込みながら勇気づける様に力を与えてくれた。精神保護はしっかりと行っている筈なのに、不思議だ。或いはそれが音楽というものの魅力かもしれない。そう思いながらディーヴァの歌によって見た目や空間の変容から来るストレスを吹き飛ばされていた。
「軍楽隊の存在を思い出すな……」
「お爺ちゃん何気ない発言がクッソ重いんだけど」
「む、そうか? いや、あの頃も歌を聞いては心を振るい立たせ、軍刀を片手に切り込んだというのを思い出してな―――故に拙は歌を聞くとどうしても闘争本能が昂ってしょうがない」
「朝のラジオ体操でヒャッハーし始めそうですね」
「朝のラジオ体操! 貴様の命で体操だぁ―――! って感じか」
「現実でまともに体が動かなくなって良かった。と今ではなぁ」
「マジかよこの爺さん……」
頭おかしい事は解っていただろお前。言外に視線でそう伝えると、ディーヴァが足を止め、正面へと向かって残された隻眼を向けた。それと同時にゴエモンもライトセイバーを抜いて構えており、何時でも戦闘できるように準備を完了させておいた。やはり経験のある人間は反応がダンチだと思いながら、それが敵の接近による警戒であると理解して、此方も戦闘に備えてカードを4枚抜いて、それを構えた。
「さーて、2層の悪魔はどんなもんかなー……?」
アイザックの軽口を聞きながら視線を正面へと向けた。気味の悪いデザインの神殿の中で
それを理解しながら正面、闇の中から現れた姿を見た。
それは鎧を纏っていた。背中からは翼を生やしており、人の顔は目玉が4つに増え、頭には角が6本生えている。右腕が剣と同化しており、左手は盾を持っている。片足は龍の様な足をしている、完全な異形の姿をした人間だった。
「……人、か?」
「いえ、元人……いや、元冒険者って所ですかね、装備を見た感じは」
装備品に統一性が無い感じからして、軍人や兵士ではないのは解る。解るのだが―――なんて気持ち悪いエーテルをしているのだろうか。色をぐちゃぐちゃに混ぜ込んだ、子供がキャンパスに描いたへたくそな絵を見ている様な気分だった。正直、環境よりも何よりもこの姿、エーテルを見ている方が気持ちが悪い。しかもぐちゃぐちゃに融合して、染み込んで、完全に合一化している。もはや引き剥がすもクソもない段階だ。完全に一つの新しい生物になっている。昔は見るだけの余裕がなかった。観察するだけの余裕がなかった。
だがこれが悪魔による合一、融合か―――実に興味深い。
「……元に戻ると思う?」
「私が見た感じ不可能な段階ですね。精神もエーテルも個別を認識する物がありません。赤と青が混ざって紫になる……そういう状態です、アレは」
「お、そっか。じゃあ後味の悪さを感じずに殺せるな」
「じゃ、ゴエモンお願いします。恐らくこの中で一番技量があって正確に実力を測れるのは貴方でしょうから」
「うむ、任されよ」
言葉と共にゴエモンが前へと進み出た。白濁した視線を向けていた成れの果てはゴエモンを感知したかのように一瞬で前へと飛び出した―――自分が出せる速度よりも早い。そう思っている間に盾を前に突き出す様に構え、
「先の先―――」
盾が押し出されるよりも早く刃が滑った。光の刃が滑る様に盾を切り払いながら、それを引き戻すモーションでそのまま首を断った。いや、理解できたのが首を断つという部分だけだ。その間にどうやって刃を動かしたのがやはり、見ていて理解できない。まさに達人芸と呼べるだけの技がそこにあった。
「おぉ、流石お爺ちゃん」
「まぁ、テン上げすれば拙でもこれぐらいは多少はね?」
「わざと言葉を若作りしなくていいんで」
そう言われたゴエモンがしょぼーん、とした表情を浮かべるのを無視し、成れの果てが血だまりを作ってそこに残るのを見た。前、ルーゼンの路地裏で目撃した時と一緒だ。悪魔と融合した人間は殺してもその死体が残る。それが動き出さない様に、ゴエモンが心臓があるべき場所に刃を突き刺し、穴を空けて確殺を確認した。その姿を確認してから声をかける。
「で、ゴエモン的にはどうでした?」
「拙から見れば技量としてはまだまだと言いたい所だが―――学び、修練し、そして積み重ねたものを感じる動きであった。それ以上把握する前に斬り殺してしまったが。だがあれは見様見真似ではなく、ちゃんと鍛錬を受けたものの動きであったな」
「悪魔がそんな事をするとは思えませんし、ほぼ確実に宿主? の技術ですね」
「寄生虫かよこいつら……融合した相手の技術が使えるのかよ」
「寄生虫ならまだマシでしょうね。文字通り融合、新しい存在になる訳ですから、こいつらは。寄生虫以上の怪物ですよ。接触即死アカロス融合攻撃とかしてきそうですよねー」
「食らったら運営に訴えるわ……でも融合ってちょっとどんなもんか興味ある」
憑依融合は滅茶苦茶痛かったから止めておけ、というのは止めておく。それはともかく、アイザックと共に死体へと近づき、膝を折ってその死体の検分を開始する。アイザックの方はアイテム取得率等の向上スキルを持っているのだから、それを活用してもらわないと困るのだが、
「そっちはどうですか?」
「うーん……一般的に言える素材は無理かな。ただ鎧と盾は多少修理すればそのまま使えそうだ。でも正直、インゴットにして売った方が金になると思うぜ。欲しい奴いないだろ?」
「だな」
「私も鍛冶はしていませんからね、インゴットに興味はありません」
「じゃあ今は鎧と盾を剥いでインベにしまっとこう。後は使えそうなアクセとかが無いかってとことだな……んで、そっちはどうだ?」
んー、と声を漏らしながら検死を行う。鎧と盾が剥がれた所で、その姿を更に良く観察する事が出来る。調べれば調べる程醜く、そして異形だ。同時に触れてはならぬ、そんな禁忌的な感覚が前よりも強い。とはいえ、
「流石数分だけじゃちょっと時間が足りませんね……少し時間を貰ってもいいですか?」
「俺は構わないけど、爺ちゃんは?」
「拙も構わぬ。そもそもネットを確認する限り、悪魔を研究している連中など聞いた事もない。もし何か成果を出せるのなら、独占情報にもなるだろう」
お爺ちゃん意外とずるいよね。そう思いながら時間を貰ったのでディーヴァを含めた3人に護衛して貰うように、検死を続ける。死因は間違いなく首を断ったゴエモンの一撃だった。これによって即死しているのは人間の構造にその存在が引っ張られているから、だろう。つまり悪魔は融合した後では融合した生物の特性、性質、生命活動、技術に存在を縛られる事になる。だが融合した後で殺されても、どういう事か蘇る事が出来るらしい。
ただ妙なのはやはり、この角や翼に関する事だ。
融合行為とはつまり情報の提供一体化である。そしてエーテルとは属性の塊であり、それはつまり情報の塊でもある。流体、気体状態であってもエーテルがその情報と同じ役割を果たしているのは魔法や錬金術に手を染める者であれば誰だって解る。なぜなら空間をエーテルがバランスよく占める事で安定が生まれるのだから。そしてそれらの一つを空間に偏らせる事で、その影響が大幅に活性化し、唐突に空間が燃え上がったり凍ったりするのだ。だからエーテルとは情報の塊であると言える。
錬金術とはその中にある要素を抽出し、都合よく利用して繋げたりする事で変化を生み出すのだ。そうやって一つからまた別の形へと効能などを生み出したり、移したりするのだが、
「これは、一体どこから情報が来てるんだ……?」
角を掴み、折ろうとするが折れない。なのでイデア・エーテリアスからカードを抜き、それに魔力を注いでカッター代わりに使って角を切断する。その断面を確認してから触れて、骨の延長である、普通の角であるのを把握し、捨てる。構成物質が此方は人間の骨だからだ。
「これはまだ人の範疇だ。だが異形腕の鱗も、翼も明らかに人にはない情報だ。つまり外部からその情報を受け入れない限りはそれが出現する筈はない。となると必然的に情報のキャリアーは悪魔側になる……だが精神体の段階で悪魔がそんな要素を見せる事はなかった。それとも隠していたのか?」
いや、或いは、
「
精神の身を持つ怪物。精神に由来するエーテルの存在。あのどす黒いエーテルが原罪という存在だとして、精神そのものが本体として活動する生物だと考えると―――精神的なイメージ等が融合に対するノイズとして働くのだろうか?
だが待て、なんでこの死体は
紳士服の悪魔と、犯された女の悪魔はどちらもまともな人間に近い姿をしていた。少なくとも明確な異形ではなかった。
「……駄目ですね、情報もサンプルも足りません」
「もっと斬るか」
「って事はレベリング再開で良さげだな?」
はい、と答えながら頷く。
「じゃんじゃん殺しましょう。個人的に出血死で死ねるのか、苦痛で死ねるのか、精神的に殺す事は可能なのか? 気になる事がたくさんあるのでいっぱい殺したい所です。ゴエモン、そこら辺は期待していますよ」
「こいつ、現代ではまともに社会に適応できてるのか?」
「日常生活じゃふつーなんだよ、こいつ。見て聞いて解るサイコパスなのにさ」
「失礼な。そこらへんの雑霊と融合させますよ貴方達」
「ひぇっ」
言葉をした途端、アイザックとゴエモンが全力で距離を開けた。その逃げる姿を見て少しだけショックを受けて、これからは自分の発言を少しは顧みるか、と思いながら笑い声をアメリカン風に浮かべながら肩をすくめて両手を持ち上げ、
「Ha、Ha、Ha、Ha、嫌ですねぇ。そんな事が相手の同意なしで出来る訳ないじゃないですかぁ―――今はまだ」
「お前のそこが怖いんだよ!」
「絶対に敵に回したくはないな……」
「二人して酷いですねぇ。まぁ、それはともあれ、強くなるためにレッツ虐殺という事で」
まぁ、何にせよ、レベリングする為にこの場所に来ているのだから何もせずに帰るという選択肢は存在しない。そしてゲーマーはレベリング作業がある間は最大効率で動く事を本能レベルで行える。
新しい階層、新しいエネミー、新しい発見―――更なる狂気。
しかし最もクレイジーなのはそれを作業的に始末し続けるプレイヤーなんじゃないかなぁ、と思いながら万魔殿2層でのレベリングが開始される。
「ふぅ―――さて、本日の成果を復習して記録しておきますか」
ノートを取り出し、そこに本日の思い出せる限りの記録を付ける。
それから予定通り狩りが行われた。万魔殿の2層で狩りを行い、そこで感じたのは今までのダンジョンとは違ったプレッシャーを常に感じ、その影響で必要以上に体力の消耗を強いられているという事だった。どうやら体力に関してはダンジョンの長期探索ではなく、より異界チックなダンジョンの深度を上げるだけでもだいぶ奪われる量が増えるようだった。根本的な体力の底上げが少しだけ、必要の様に思えた。APの消費プランがある程度修正される必要があった。とはいえ、体力と筋力を他と比べて少なめに配分するという方針に関しては変更はなしだった。
この日、行えたレベリングは125レベルまでだった。
先日の1層でのレベリングペースを行えばもう少しレベルを上げられたのでは? と自分でも思ったが、レベル123から必要経験値が一気に爆上がりしたのだ。今までの必要経験値と比べれば数十倍というレベルでレベルアップまでに必要な経験値が増えた結果、今までの様に1日10レベルぐらいの上昇が出来なくなったのだ。
とはいえ、このレベルアップのしづらさこそがネットゲームである、というのも事実なのだが。
大体のネトゲはレベルが上がってくると急に経験値の必要数が爆上がりしてくるのだ。ゲームコンテンツとしての延命か、時間稼ぎか、或いはレベルはそんな簡単に上がるもんじゃないって教える為だろうか? どちらにしろ、この日はレベルが頑張っても5しか上がらなかった。
とはいえ、成果はあった。無論、スキル方面での話である。
ちょくちょく使っていた《キネシス》が漸く下限に成功、Mランクへと上げられる様になっていた。これによってかなり自在に念力などを使えるようになった。しかもこれ、なんか《仙術》とリンクしているらしく、《仙術》の方もMまで上げれば、新しい道が見えてきそう感じがあった。
その他には全体的なコスト削減に成功、そして《深淵》《外法》に大量の経験値が入ったおかげでBランクへとコスト下限状態で上げる事が出来たという事だろうか。正直な話、スキルトレーニングをする中でもありえない程の経験値効率の良さだった。間違いなく
或いはそれを見越して、悪魔がプレゼントしてくれたのかもしれない。
どちらにしろ、悪魔と融合した生物を解体し、調べる事がどうやらスキルトレーニングとして最も最適であるらしく、翌日以降もスキルのレベルを上げる為にも融合悪魔の死体を弄る事は確定していた。
成果と言えば大体こんなもんだった。目立った大きな成果はなく、コツコツと積み上げて行く感じが強くなって行く―――ネトゲにもある、レベルが上がってくると急に成長が渋くなってくるラインだ。アレは大体レベルが上がってきて、火力のインフレにストップをかける為に運営が仕掛ける罠だと個人的には判断している。
昨日の成果と比べれば間違いなく少なく感じるだろうが、これがネットゲームというものだ。
寧ろ最初と同じころのペースでレベリングを許していたらゲームバランスが崩壊するから妥当とも言える。とはいえ、レベリングによって上がるスピードが下がってくるなら、本格的にスキルの方のトレーニングも効率的にやる必要が出て来る。悪魔を見て、禁忌に触れ、研究や見識を深めれば深める程思う。
やっぱり、木偶が必要だ、と。
どこをどう足掻いてもロジックに欠けが見える。それを調べる為には実際、自分の手で実験と研究をする必要がある。ホムンクルスを生み出せるのであればまだ楽な話だが、ホムンクルスの創造は噂でさえまだ話を聞かない。そうなるとどこかから適当に人を調達して実験するしかない。
「……やはりおかしい。ディーヴァ」
「なんでしょうかマスター?」
何時も通り逆立ちさせていたディーヴァを呼び寄せる。椅子を軽く引いてディーヴァの方へと向けながら、呼び寄せたディーヴァの片腕を掴んで引き寄せ、そして手をそのままディーヴァの体の中へと突き刺した。だがそれが血飛沫を作る様な事はない。当たり前だがディーヴァは此方の魔力をベースに肉体を構築しているのだから、既にこの状態で此方の一部であると認識できる状態にある。
だからこうやって、体にダメージを与えずに手を中に沈めること位は余裕で出来る。
そしてディーヴァの胸辺りから沈めた手をそのまま、体の中を泳ぐように横へとずらして行く。それに合わせディーヴァに背中を向けさせ、そして突き刺した左腕とディーヴァの左腕を合わせる様に、体内から重ねた。そこにフィット感と同一化する感覚を感じ、自分とディーヴァの左腕が融合状態に入ったのを見た。丁度肘辺りまでは完全に融合している。そしてその影響でディーヴァの体が密着しているが、そっちには興味がなく、
腕を見ていた。
「異形化しない―――何故だ? それとも異なるエーテルと融合した場合に発生する拒絶の現象なのか、アレは? 魔力は体内に取り込んで生成されたリソース用の生成エーテルだ。だから馴染むのか? だが肉体を魔力で作っているとはいえ、魂はディーヴァのものだ。それは俺からすれば完全に異物でもある筈……完全な融合状態じゃないと悪魔の時の様な事にはならないのか?」
融合状態を解除しながらそのまま、ディーヴァを這いつくばらせ、その背中の上に両足を乗せて考える。
「やはり情報が足りない……いや、サンプルだな。実際に経過を観察しないとどうにもならんな」
悪魔との融合のプロセス。それが普通の融合とは何が違うのか。何故あんな変異が発生するのか、それを観察しなくてはならない。
観察―――そうか、
その言葉に光明を得る。
「早速明日のレベリング、最初にやらせて貰うのを提案しよう。ダメなら一人でやればいいし」
これなら確実に行ける。そう確信しながら明日への期待を込めて、何時も通りのスキルトレーニングを行いながら次の日に備える。
そして帝都数日目。段々と何日此方に滞在しているのかを考えるのが面倒になってきた。本日も万魔殿でレベリングを行う予定であるが―――その前に、何時も通りブリーフィングを行う。というのも戦術の確認や、スキルの成長確認を行っているのだ。ここでお互いのスキルを確認する事で、安全に戦う方法や手段、そしてどうやって戦闘するのかを切り替えるからだ。レベリングに来ているのだから、同じ戦い方をしていてもつまらないし、スキルを育てられ、尚且つ効率の良い方法を探さなくてはならないのだ。そういう訳でブリーフィングは大事な事だった。
生存率を上げる意味もあるのだから。
最初に行うのは昨日の予習だ。
「確認するけど2層に出現するエネミーは最下級悪魔の1層よりもレベルが高くなっている版と、後は悪魔融合してしまったボウケンジャー達の成れの果てだな?」
「うむ。融合後の存在に関しては物理攻撃が通る上に、生存に関しては融合先の生物に依存する為、生存性という観点から見れば間違いなく弱体化していると言える。拙のライトセイバーだけではなく、普通の矢や鋼が通る様になったのは戦闘をする上で楽になる事だったな」
「だけど悪魔との混成編成が目撃される様になったので、属性攻撃と物理攻撃で切り分けて戦う必要があるのが少々面倒ですけどね」
「霊体に関しては全部眼鏡に押し付けるわ。お前、アレをほぼ即死させられるだろ?」
アイザックの言葉に頷く。悪魔の存在は大体エーテルによって構成されている。その性質が未だに理解できないのが辛いのだが、エーテルへの干渉によってその存在を分解する事が出来るのは確かだ。おかげでゴースト等の霊体系統と、エレメンタルなどのエーテル体系統に関しては即死的能力を発揮する事が出来るようになった。
「拙とアイザックで物理を担当、マスターで悪魔の相手をするのがバランスが良かろう」
「俺が足止め、爺ちゃんが即死、眼鏡が即死って感じか」
「GMも即死させようぜ」
「先手必殺大正義」
「ついに俺にも変なあだ名が増える」
「私を畜生に落とした元凶が何か言ってらっしゃる」
まぁ、それはともあれ、と言葉を置き、
「1層でちょっと実験したい事があるので、時間を取りませんからやってみていいですか? 悪魔を使って試したい事があるので」
「問題はない」
「んじゃ、サクッと試したい事を試したらレベリングに移ろうか」
戦闘周りの話を軽くしてから何時も通り門番に料金を支払い、そのまま中へと進んで行く。見慣れた狂気の波動にハロー、と挨拶を返しながらしっかりと何時も通りの対策を行う。一回か二回やれば、ここら辺のプロセスはルーティーンになるので、簡単に終わる。最初の頃と比べて魔法を使うのも遥かに早く、最適化出来ている。やはり実践するのが一番の鍛錬になると思いながら、少し奥へと向かって進んで行けば、
直ぐに悪魔の一団を見つける事が出来た。
その数は全部で3体程。どれも黒い気持ちの悪いエーテルをしている様に見える。早速見つけた悪魔3体の内、必要なのは1体だけなので、サクッと始末して貰う為に指示をゴエモンとアイザックへと出す。アイザックが影縫いで影を突き刺すだけではなくそのまま影を凍結させて動きを封じ込め、ゴエモンがそのまま悪魔を2体、一撃で両断して戦闘を終了させる。
そうやって残されたのは悪魔が1体だけだった。その姿を確認してから、カードを4枚抜き出し、その周囲を囲む様に投擲、浮かべた。簡易的な陣によって悪魔の動きを完全にそれで抑え込み、抵抗が出来ないようにする。それを見てゴエモンとアイザックが一歩下がった。
「これでいいのか?」
「えぇ、これで―――」
上着を脱ぎ、上半身裸になり、脱いだものをインベントリの中に叩き込んで、
「―――準備完了です」
「何故脱ぐッ!」
でっでーん、と両手を広げながらサウンドエフェクトを生み出して演出すると、ゴエモンから拍手が返ってくる。地味に魔法の応用でこんな演出も出来るもんだから面白いよなぁ、と、そう思いつつカードを一枚取り出し、自分にかかっている魔法を調節しながら悪魔の方へと近づくと、アイザックからおい、という言葉が来る。だからいや、それがですね、と言葉を置く。
「いや、割と真面目な話、私【錬金術師:中級】から上級へと至る事に関してはちょっと壁を感じていまして、このまま漠然と知識を蓄えつつ実践するとして、上級に成れるかどうかって不安がありまして」
いや、正確には違う。
「
「思う」
「解る」
だよね、と頷く。この感覚はプレイヤーなら解るだろう。誰だってそうだ。特に現代社会で生きる人間ならそう思うだろう。
金が欲しい、認められたい、注目されたい。他にもそんな多くの欲望がある。プレイヤーというのは、そういう名声を得られる立場にある。ゲームである場合、才能に関係なく平等なのだ。なぜなら手段は隠されていて、それを発掘する閃きと運が必要であって、そこに個人の立場や才能に関する関係は全くないのだから。MMOというゲームはつぎ込んだリソースに対するリターンが返ってくるゲームだ。
一時期天井知らずのソーシャルゲームが流行っていたが、アレは国に取り締まられて今では企業ですら手を出さない。何せ、そんなものよりもVRで出せる恩恵の方が遥かに上だからだ。
だから人々は現代社会では才能にのみによって得られる特別を得たくて、VRの世界に没入する。そこでもう一人の自分となって、特別な自分となる為に。
俺もここしばらくで、すっかりとその魔性の魅力に憑りつかれてしまった。
だからそんな自分も思うのだ。
きっと中級から上級に上がる正しいやり方はこのまま様々な学問を修め、理解し、そして錬金術に必要な知識を得て強くなって行く事なのだろう、と。だけどそれは正道だ。普通なのである。時間がかかりそうである。誰もが出来る事なのだ。
英霊の保有だって
ここで一つ、
―――なら、こう、手っ取り早く他人が絶対に真似しないような狂気、踏み込んだ方が早くないか?
「まぁ、そういう訳で美味しそうな腕がここにありますよー?」
悪魔に無造作に近づき、そのまま
霧の様な体が溶け込む様に皮膚に染み込む。
「あいつやりやがった……!」
「歓迎すべきサイコパス」
『マスター!!』
『お気は確かですか!?』
「無論正気じゃないですとも! 正気のままこんなことが出来るものですか! フハハハハー!」
口で笑い、後ろから何かを言われながらも、好奇心で心を満たしながら自分の腕に走る変化を見ていた。既にディーヴァと融合した時の変化に関しては忘れずに脳に刻んである。だからその変化を理解している。原理を理解している。ディーヴァという強い霊体に対して肉体変形、或いは変化しているのだ。最適な形へ。そういう事で自分よりも遥かに強いディーヴァの肉体に変貌するのだ、融合した場合は。
だから見る。悪魔の存在を構成するどす黒いエーテルが皮膚の中に入り込んで同化して行くのを。その変化を眺める。エーテルが腕を構成するエーテルと融合して行く。肉体として構築している、その内側にあるエーテルと融合し、ドス黒い色が固形化した物質と融合している。そこは良い―――そこはディーヴァの時と一緒だからだ。問題はここから先だ。
何故人間があのように変質する?
何故存在しないパーツを生み出す? その理由は? 原理は? バグか? 法則か? エーテルの原因か? 悪魔の原因か? なんなのだ? 何が理由なのだ?
その法則を、原理を俺に見せろ。
そんな期待を込めながら見ているが―――エーテルが融合する様に馴染むだけで、見た目に変化はない。その事実に首を傾げながら悪魔を見るが、その質量は減っている。何故? あの時見た女は融合し始めたらすぐに肉体的な変化を見せ始めていた。ディーヴァの時もそうだ。なのになぜ変化が現れない? そう思いながら悪魔のどす黒いエーテルが此方のエーテルに食われつつある事さえ感じていた―――それがMPの回復という形で発揮されているのも。
おかしい。
何故だ?
何が起こっているのだ?
一体何が悪いんだ?
俺がプレイヤーだからシステム的に保護されているのか……?
苛立ちと怒りを感じ始めた瞬間―――腕に鱗が生えた。
「―――ほう」
感嘆の声を漏らすが、鱗が一つ生えただけで変化は終わってしまった。だが今感じた事、その変化、それを理解して、精神保護の魔法を解除して、狂気を受け入れる。それと同時に感じたのは
「ご苦労様でした―――貴方に関してはもう十分に理解させて貰いました」
悪魔の中に突っ込んでいた腕でそのままエーテル体を掴み、その姿を千切って殺した。そしてそのまま、髪の毛をオールバックに流す様に掻き上げながら、最高の気分を味わっていた。思わず笑みが浮かび、そして笑い声が抑え込めなかった。
「くっくっくっく、ははは、は、は、は―――はっはっはっはっはっは―――! 最高だ! 素晴らしい! なんておぞましいんだ! なんて素敵すぎるんだ! ふはははははは―――あ、ごめんなさい、ちょっとRPしてるだけなんでガチで殺しに行こうかなぁ、って感じの表情止めてください。ほんと、真面目に正気なんで」
「ほんとぉー?」
「ほんとほんと。なのでゴエモンはウキウキしながらの反復横跳び止めて」
「えー」
マジやめてくれ、ここで死んで色々と失いたくないから。そう言いながらなんとか二人を抑え込み、最後まで高笑いをやって、一通りRPを楽しんでから服を再び着る。何時も通りの恰好、テンションに戻った所で、様々な着信が自分のシステムウィンドウに届いていた。それを確認しつつ軽く額の汗を拭い、二人を見た。
「あ、実験終わったんでレベリングに戻りましょうか」
「そのまま! レベリング! 行ける訳! ないだろ!!」
「ですよねー」
まぁ、見られているんだし、パーティーメンバーだし、同じプレイヤーなのだから隠す理由は特にない。何時の間にか背後に回り込んでいるナイトとディーヴァの事を無視し、とりあえず、ろくろを回すような手の動きをしつつ、
「【錬金術師:上級】を獲得しました」
「おぉー」
「めでたいな。確かPCで生産関連に関する上級認定を受けている者はまだいなかったはずだったな?」
スキルや称号、技能やレベルとの兼ね合いでリアル技術者であっても、最初から高いランクを取得出来ている訳ではなく、いくらかのステップやシステム的認知を行わなければならない。それを自分は今回、盛大に踏み抜いて進んだのだ。ショートカットというよりは、必要なすべてを圧縮させてリスクを取って爆発させたという感じだった。
で、と言葉を付け加える。
「そのおかげでしょうか。一つの真理を理解するに至ったという感じですね」
「真理?」
「世界構造に関する話です」
良いですか、と言葉を置く。それなりに専門的な話をするから、自分以外の人間は恐らく理解しづらいだろう。とはいえ、自分もこれを誰かに教えたい気分だったのだ。つまりオタクのうんちくタイムだ。
「つまり悪魔のエーテル組成に関する認識そのものの獲得ですね。最初は原罪と呼ばれる存在に汚染されたエーテルによって連中が構築されていると思いました―――だが違います。彼らを構成するエーテルは何でもない、普通のエーテルでした。ただし
そしてつまり、肉体に起きた変異はとてもシンプルだ。
「恐怖、怒り、憎悪、悲しみ、苦しみ、快楽、飢餓―――それらの強い感情とエーテルが反応を起こして肉体のエーテルとの結合時、変異を引き起こしていたんです。えぇ、属性に染まったエーテルその物は別の属性に変える事は出来ません。弱めるか強めるかだけです。ですがこの感情をベースとしたエーテルは不思議にも他のエーテルを食らう性質を持っていました」
つまりそれが変異の原因であり、理由だ。
悪魔の融合はあくまでもおまけでしかない。
融合する際に発生する強い感情、それがあの変異を生み出していたのだ。自分が融合テストを行った時に何も起きなかったのは、融合という行いに対して無機質に、モルモットを見る様な観察する目で見ていて、そこに一切の悪感情を抱かなかったからだ。それに理解したのはそれだけではない。
「エーテルは基本属性と上位属性ではない。その認識そのものが間違っていた。もっと広く、そして様々な形でこの元素は存在している。だけど最も理解すべきなのは存在しないと思われている無属性のエーテルが存在するという事実だ。あの食い合う特性を一回経験して感覚は掴んだ。これが正しいのなら―――自分の意志で無属性を生み出す事が出来る。そうすれば環境等に影響されずに魔術などを自在にコントロールする事や、空間や距離という制限を無視する事だってできる……!」
「長い、三行」
「俺は。真理を。見たぞ」
「おめでとー」
「ありあとー」
「で、どういう事が出来るようになったのだ?」
悪魔の真似事が出来るようになった、と言っても解らないだろうから、解りやすく実演する事にする。これが錬金術の上級と呼ばれる領域に踏み込んだ錬金術師の実力だ、とベルトのポーションホルダーから回復ポーションを取り出し、
そしてその代わりに、自分を含めた仲間三人にポーションの回復効果が発生した。その現象に驚きの表情を二人が浮かべるのが見える。
「―――と、こんな風に一人用の道具を範囲に広げる事をしたり、その場で簡易的な錬金術を行って道具の作成が出来たりします。ポーションぐらいでしたら触れる事無くそのまま投げずに効果を複数発揮程度には」
「おめでとう! 君は今からヒーラーに就職した!」
「まずはヒーラーを始末してからじゃないと前衛は落ちぬよなぁ」
「君ら話を分かっていないからってネタで適当に話を濁すの止めない?」
サムズアップで応えられた。いや、まぁ、そこまで来るともはや清々しいと言えるのだが。とはいえ、これはこれで説明できたので割と満足している。無属性エーテル。エーテルという存在の性質そのもの、エーテルという物質の形。悪魔と部分的な融合を行い、侵食させる事でその感覚直接理解できた。
そのおかげで、《深淵》と《外法》スキルがコスト下限になっていた。試しにSPを消費してランクを上げてみればAになってもまた、コスト下限状態だった。それはSにしても同じことで、一気にMランクまで上げる事が出来た。そしてそれは《流体学》も同じだった。
《深淵》と《外法》スキルは二つ揃って称号の【Evil】に反応していたため、それをそのまま組み込み、スキルとしては禁忌系統は完全卒業できたらしい。となるともはや、邪悪、悪、禁忌を成す為の下地が完成された状態なのだろう、と個人的には思っている。何せ、このゲームはスキルではなく、技術や知識としてそれを活用できるようになってからが本番であるように感じるのだ。
少なくとも、技術や知識として活用できない限りは一定の以上のレベルには到達できない様に設計されている気がする。
《流体学》はそのまま【錬金術師】に組み込ませれば、スキル欄がかなりすっきりしてきた。このままだと《ポーションピッチャー》がやや腐ってきている、という感じだろうか? 意識してレベルを上げて、どこへと繋げるか、上げられるかを考えておかなくてはならないのかもしれない。後地味に《エーテル干渉》も下限されていた。此方はSまでは下限されていないので、もうしばらく意識しなく―――ても、日常的に使い続けているから強く意識する必要はないだろう。
スキル周りに関してはこんな感じだった。流石に英霊関連に関しては経験値0だった。
「っと、そうでした。あと、なんか特殊クエストも発生しました。前提条件が二つとも150レベルからなので、そこまでレベルを上げないといけませんけどタイトルが《黄金錬成に挑む愚者》と《魔神の影》ですから、間違いなくどっちも今のスタイリッシュ自殺でアンロックされたものだと思います」
「専用イベントいいーなー」
「拙もそう言うイベントが欲しい。ここは将軍の一人でも斬り殺すのに挑戦してみるか……?」
「おいやめろ馬鹿。気持ちはわからなくもないけど」
専用イベント! 専用依頼! 専用クエスト! あぁ、何て甘美な響きなのだろうか……自分が特別だと感じられ、他のプレイヤーに対して絶対的に優位を感じられるキーワードでもある。その報酬も自分だけが独占できるという素晴らしい物でもある。誰だって羨ましいに決まっている。ともあれ、これで自分のとりあえずの実験は完了した。この先はアトリエへと戻ってからで十分だ。
「とりあえず本日もレベリングは頑張らせて貰いますよ。特に今日中に《カリスマ》と《軍略》はガンガン使って行く予定なので」
「それ、暗に俺達をこき使うって言ってない?」
「こき使って行く方針なので―――」
「言い直しやがった……!」
「ふふ、威勢が良いではないか。うむ、これぐらいのテンションではないと斬るのも楽しくないからな。良し、今日は軽く千人斬りぐらい達成してみようか」
お爺ちゃんが言うと本当に出来そうなのが怖い。そう言ってアイザックと頷き合いながらレベリングの為、もはや欠片も恐れる物はない、万魔殿の中へと進んで行き、次の層へと降りて行く。
と、進む前に、
「おっと、そうでした」
「ん? どうした?」
「いえ、肌がささくれ立っていたのでちょっと直しただけです」
「乙女かよお前!」
鱗が存在した所を軽く撫で、エーテルを脱色させる事で鱗を分解し、本来の普通の人の手の肌へと戻しながら、一瞬で悪魔による影響を無くした。それで普通の手に戻ったのを確認してから深淵へと挑む様に先へと進む。
深智の淵に、漸く立ったような気分だった。
Name:マスター
Level:125
Status:
AP:610/610
筋力:145 魔力:176 敏捷:150 体力:150
Title:【錬金術師:上級】【Evil】【ソウルマンサー】【プロフェッサー】【畜生メガネ】
Skills:
SP:534/560
《禁呪魂冥士:B》 《超魔力:B》 《審美眼:S》《エーテル干渉:S》
《キネシス:M》《ポーションピッチャー:B》 《軍略:A》 《性魔術:B》
《魔眼:M》 《仙術:A》 《機構学:A》
《改竄:A》 《邪眼:B》 《カリスマ:A》 《幻想の色彩:M》
眼鏡は更なる錬金術の運用方法に目覚めた! 悪魔とか人体実験とか放り出して更に錬成と作成に没頭して戦争イベ? 知るか俺は忙しいんだよ! とか言いそうね……。