《カリスマ》や《軍略》は共に戦い、指揮し、支持する事で効果を発揮するスキルだ。正確に言えば《カリスマ》が同一戦闘領域にて共闘する場合の周囲への高揚バフの発生、《軍略》が集団を目標とする陣術の発動を可能とするスキルである。陣術というのは雑に範囲を指定して発生させる平面に対して発動する術であり、魔法陣とかそういう感じの一種である。この範囲が割と雑で、相手と味方が乱戦状態の時は、陣の効果が相手にも及んでしまうのだ。
その為、コツは事前に仲間が通る場所を予測する事。速力上昇の速攻の陣等を仲間が通る場所等に発動させる事で、動きを先読みしつつ踏み込みの速度を一瞬だけサポートする、或いは後衛から動かない場所に魔力上昇の陣等を張って固定砲台としての能力を高める。そんな風な運用が求められるスキルである。まぁ、だがこれも段々とランクを上げてくると慣れてくるもので、全ての魔法のように範囲に入った対象のターゲットを選ぶなんてシステマチックな事は相変わらず許してくれないが、それでも絞ったり、変形させたり、雑だった範囲を感覚的に弄って変えるような事が出来始める。
とはいえ、仲間と動きの相談や、仲間がどうやって動くか、という事自体を事前に予習しておかないとまるで意味の無いスキルでもある。
このゲームは割と鬼畜で攻撃魔法は普通にフレンドリーファイアするし、範囲回復魔法の範囲内に敵がいれば敵も回復してしまう。良くあるゲームでの敵味方識別なんて物は存在しないのだ。
そう言う意味で専属魔法使いというのは地味に面倒なジョブだと言える。何せ、常に仲間の動きや行動を把握し、その上で誤射しない様に気を使わなければならないのだから。だからこそ起点指定や時空間指定などの高等技術が非常に重宝されるのだが。
個人的な話をさせて貰うのであれば、空間指定がエーテル干渉という技術を磨いている都合上、とても良く馴染む。そしてそれと組み合わせて使う事で、三次元的にその効果を捻じ曲げる事が出来る。もうこうなると独自のスキルに近くなってくる。システム上は共通のスキルではあるが、こんな風に別のスキルと組み合わせたり、応用する事で独自の方向性を見出せるのは魅力だ。
ともあれ、本日中に限界までスキルトレーニングを行う予定であり、レベルを150まで上げる事がクエスト開始の前提である以上、モチベーションはかつてないレベルで高かった。その為、気合を入れ、何時もの数倍は集中力を発揮する事が出来た。
スキルによる陣効果を生み出しながら、自身の錬金術の真理を使ってそれを歪め、三次元的に投影する。範囲を狭く絞り、踏み込んで戦うゴエモンの動きに合わせる様に、その体の動きの前に陣を設置し、踏み込んだ時に発動する様に行う。だがただ先読みをするのではなく、此方からも積極的に指示を飛ばす。とはいえ、こう動け、ああ動けとか、そういう事は口にしない。
何より技量に自信のある奴はそういう細かい指示を嫌うのは知っている。
その為、おおざっぱに動きを誘導する様に指示を繰り出す。
「ゴエモン、左からお願いします。アイザックはその間右側の接近を阻害してくださいね」
「心得た」
「おう、任せな」
此方もスキルのトレーニングがあるから指示を出しているのだと事前に教えてあるから、そこに悪感情は生まれないし、スムーズに事が運ぶ。理想的なレベリングだとも言える。それに《仙術》を組み合わせて、特定の属性の力を強める様に働きを動かせば、属性を選んで戦うのなら効率が更に上昇させられる。
空間そのものに干渉し、自身に有利な環境を作り出しながら戦う。バッファーとして、そしてデバッファーとしてもっとも重要な事のように思えた。そうやって悪魔から学んだ事を自分の経験として飲み込みながら何時も通りゴエモン、そしてアイザックと組んで日が暮れるまでレベリングを行い続けた。
初日は120から125までしか伸びなく、今回もレベルは合計で3しか上がらなかった。つまりレベルは128となった。魔力を全て吐き出す様に、頭をフル回転で動かし続けた結果《超魔力》の下限に成功し、《軍略》、《カリスマ》、《仙術》も大幅にスキルトレーニングが進んだ。次の日も同じようなやり方で戦闘を行えば、戦術系統のスキルと、《仙術》に関しては下限まで出来るか? と考えるレベルにはなってきた。逆に《ポーションピッチャー》に関しては開眼した触れずに道具を使うという技術の使用上、全く使用せずに腐っていた。
正直、どうにかするべきだと思った。
入手したAPで筋力を150に、そして体力を160にした。現在の状況を考えると体力は環境に合わせてちょくちょく上げつつ、筋力を170ぐらいまでは上げる事を考慮し、それが終わったら戦闘速度に反応できるように敏捷を安定してあげつつ、最大のリソースである魔力を伸ばすべきだと判断した。一応は《超魔力》で魔力数値、MPにボーナスが入っているが、判定方法が現在MPのX%を増やすという方程式らしいので、根本的に魔力を成長させる必要があった。
そうやって本日の狩りを終わらせたところで再び夜がやってくる。
「じゃ、今日は椅子になって貰おうか」
「はい、マスター」
「ただし空気椅子な」
「はい」
机の前でディーヴァに空気椅子をさせて、その膝の上に座るのだが、まるで疲れる様子も、しんどそうにする様子も見せない。レベルは確かめた所、130程度しか存在していない。だが間違いなく、その数値よりも高い能力値を保有している様に思えるのは、勘違いじゃないと思っている。根本的に魂の質、とでもいうべきものが違うから、1レベル辺りの成長率が違うのだと思っている。
まぁ、それはともかく、《邪眼》のトレーニングをしつつも、本日の発見まとめを行う。
「まずは無属性に関して」
無属性に関する纏め
・エーテルには無属性が存在する
・中立であり、中庸の染まっていない状態である
・属性を脱色させる事で生み出す事が出来る
・この無属性エーテルは感情に染める事が出来る
・属性の中継ぎや融和に使える
つまりは火属性と水属性の間に挟み込む事で反発を生み出さず、馴染ませるように二つの効果をスムーズに発動させる事が出来る。それとはまた別に、自然には存在しない属性をこれを使えば生み出す事が出来る。星、時、空、幻等の属性は扱いには困るし、普通はそのままでは扱う事は出来ない。だが無属性エーテルを利用する事で、普通は触れられないこれらのエーテルを人工的に生み出す事が出来る。
これらの上位属性は魔法等を扱う上でもかなりの難易度を誇るが、その分、高位のアイテムの製作においては絶対にどこかで扱わなければならないものでもある。
つまり、ついに上位属性に明確に手が出す方法が解った、という事でもある。
今までは特別な資質が無ければ知覚さえもできないというのが事実だった。だがここにきて無属性エーテルの発覚がその事実を変える。つまりニュートラルな状態のエーテルを用意する事で、普通はそのままでは扱えない特殊属性、或いは上位属性エーテルを生成して取り扱う事が出来る、という事になる。
無論、先天性、或いは専門の取り扱いと比べれば能力としては劣るだろうが、それでも扱えるという事は選択肢を広めるという意味でもある。それだけでもかなり違ってくるのだ。これは一つの大きな発見である。
何よりも感情エーテルという存在が最も見つけて面白いと思う。
何せ
「悪魔は感情から生み出されたという事になる。そして感情は知的生物からでないと生まれない。つまりシステムや設定的部分を無視して思考した場合、
そこは追加されたクエストの方で追及できるのだと思う。だが一番面白いのは、
「この感情エーテルをどうやって利用するか、だ」
エーテルであり、感情という属性である以上、それを物質化させる事が出来る。そのプロセスに関しても、自分を実験台にする事で大体の感覚を掴めた。だから後はそれを上手く自分の技術として、道具作成に転用して行く事だ。
「うん―――ルーゼンに戻った時が楽しみだな」
アトリエに戻ったら実験だ。人体実験に関しては自分である程度満足したので、本格的なのは戦争が始まってから調達する事にする。それまではアトリエに潜って、この新発見と新技術の研鑽にひたすら集中したいと思う。
最初は帝都のダンジョンでレベリングなんてめんどくささの極みと思っていたが、こうなってしまっては来て良かった、としか言葉が見つからなくなる。実際、ここに来なければこんな発見も経験もなかった。アトリエで練習し続けるのも大事ではあるが、それとは別にフィールドワークも大事であるという事なのだろう。
これからはもうちょっと外出する回数を増やそう。そう心に誓いながら一日を終了させた。
翌日、何の面白みもなくレベリング。相変わらず効率の悪さを感じるようなレベルの上がる速度ではあったが、別段効率が悪いのではない。ただ単純に必要経験値がアホみたいに上がっているだけである。それ故に前日と同様、一日頑張った所で上がったレベルは全部で3、レベル131に上がった。二日連続で集中して運用した事もあり、《軍略》《カリスマ》《仙術》は下限目前、《邪眼》は下限に成功してAに出来た。その上でこのスキルが融合した人型エネミーに対しても効果を発揮するのが判明し、更に相手の足止め手段が増えた。空いた時間に機構学関連の本を読む事で《機構学》スキルもあっさりと下限に成功してSに上昇させた。此方の方はもうM化は目前、本を読み漁る事でランクを上げる所は見えていた。
逆に言えば成果はそれぐらいの一日だった。地味に装備品などを剥ぎ取ってそれで資産を獲得しているのだが、ネトゲのお約束らしく、一定以上のレベルで安定して戦闘を行うなら、お金に関しては高い買い物をしない限りは困らないレベルで収入になる様になってきた。そういう訳でこの日の成果を一言で説明するのであれば地味という表現に尽きた。
だが大体レベリングとはそういうもので、レベルが上がれば上がるほど成長し辛くなってくるのがゲームだ。そして成長し辛くなっているとはいえ、更に下の層へと移動するという考えは今の所、持ち合わせていなかった。今のレベルで不安があるのも事実だが、まだまだレベルが上がるペースが速いと呼べる、認識できるペースだったからだ。
だからしばらくは1日1レベルにペースが落ちるまでは2層をメインの狩場と設定していた。個人的には今の状況でも割と手ごたえを感じるし、時間はまだまだ余っている。ゲーム内でも、リアルでも。
焦って無駄にトップに立とうするから失敗するのだから、欲望を持ちながらも野心は抑え込み、自分に見合ったペースで進むが一番だ。
そう言う訳で夜中、ランクの上がった《邪眼》をディーヴァを実験台にしつつ使用し、《機構学》の本を読み漁る。その日の夜のうちに《機構学》を一気にMランクまで上げ、称号に追加してから一日を終えた。
そして翌日になる。この日は数日前に決めた休日日だった。1日、レベリングではなく好きな事に費やそうと決めた日でもある。とはいえ、そもそも今日という日は事前にやろうと決めていた事がある。
ログインし直してからあれこれと朝の準備を終わらせてから宿屋のロビーに向かえば、既にゴエモンの姿がある。片手を上げて挨拶しながら近づけば、此方へと軽い頷きが返ってくる。
「とりあえず今日はゴエモンと手合わせするつもりで時間を空けていますが、場所の方は大丈夫ですか? ダンジョンの中でやりたくありませんし」
「そこは大丈夫だ。場所を見つけてある」
「んじゃそこで手合わせをしますか……まぁ、私がそう言うのもおかしい話ですが」
実際、戦うのはナイトの方だし。だがそれをゴエモンが気にする様な事はなく、楽しみにする様に、覇気を既に纏っているのが解る。見た目は若いのに、その中身は90歳を超える剣豪の物だ、改めて考えると全盛期で戦っている英霊と、ほとんど状態が変わらないよなぁ、とゴエモンの事を見ていて思う。何せ、90年分の研鑽を全盛期の状態で動かせるのだ。
つまり今が一番強い状態ではないか。
ある意味、リアルチートと表現できる……訳ではないか、と考えを変える。
少なくとも努力と研鑽、それをチートなんて言葉で表現するのは失礼だと思う。
という訳で―――本日はゴエモンvsナイトを行う日だった。話題に挙げた日以降もちょくちょく話に出していたのだが、ナイト自身は武人であるゴエモンの技量に感服しており、一人の戦士として手合わせしてみたいという希望を持っていた。そしてゴエモン自身もこの世界における英霊と呼ばれるレベルの存在に対して、己の剣術が果たしてどこまで通じるのか、それを追求してみたいという気持ちがあるらしく、見事にマッチングしている事もあってこうやって、設定した休みの日に手合わせする事にしていた。
《禁呪魂冥士》のスキルを成長させるいい機会であるのも事実だが―――それ以上に、ナイトが何か、自分から主張するような事は割と珍しかった。基本的に支配下に置いた英霊達はイエスマン状態であり、何をしてもそれを肯定してくれる木偶人形の様な存在になっている。だからこそ便利なのだが。とはいえ、それでも個人的な主張というものは存在している。
ナイトは武人気質とでも呼べるものがある。善悪に興味はなく、卑怯とかいう概念はどうでもいい。だがそれとは別に、鍛えられ、そして磨き上げられた技量やお互いの力を示し合う戦いの場に対してのある種の執着心を見せる。
ディーヴァは割とそのまま、歌うのが好きらしい。少なくとも戦闘の時でなくても、許可さえ出せば一日中ずっと静かに歌っているレベルで歌うのが好きらしい。そしてディーヴァに関して凄いのは歌っている物は全部即興、聞いている相手を一切苛立たせない、それでいて毎回歌っている曲が違うという事にある。
まぁ、そういう訳で英霊達の自己主張というものは面白い。ストレスをまるで感じるようなそぶりを見せないが、それでも思い出すのは何やら、ナイトが帝国の過去と縁を持っている様な、そんな話だった。英霊使役系統のスキルレベルが上がり、英霊としての力が戻って行けば必然的に記憶を取り戻す為、積極的に探しに行くような事はしない。だけどその代わり……という訳じゃないが、求めるなら個人での楽しみぐらい許可を出す。
それに個人的にも、英霊と現代剣豪、どっちが強いかは気になる。
まぁ? 当然? 勝つのは? 俺の? ナイトで決まっているんだが? まぁ、見てみるだけの価値はあると思う。
そんな風に軽い言葉と気持ちのジャブを顔面に叩き込みながら軽く挨拶を終わらせると、宿の奥の方からおいーっす、と片手を上げながらアイザックが出て来た。
「お前ら朝早いなぁ……つかマスターとか俺よりも寝る時間遅いのにどうやって良質な睡眠取ってるんだよ」
「あぁ、圧縮睡眠をとる為にアロマポットを錬成して持ってきているので、少ない時間でも倍の睡眠の質を確保できるんで」
「なにそれ、聞いてない」
「地味に欲しいな」
「はーい、料金は此方からになりまーす」
「商魂逞しい」
帝国に持ち込んできた錬金アイテムには限りがあるのだから、当然タダで渡すわけがない。出張料金という事で普段アトリエで販売している値段に割り増しで提供してみると、アイザックが首を捻りつつむむむ、と声を唸らせている。
「買った」
「毎度アリ。追加でお求めの場合はルーゼンの〈マスター錬金術店〉まで」
「ダイレクトマーケティング……!」
安定している、そして貴重な収入源なのだから宣伝できるところではしっかり宣伝しておきたい。それはともかく、何時もの三人が揃った所でゴエモンに案内される様に帝都内を歩き始める。自分は本屋とアトリエ、マーケット等しか回らなかったが、ゴエモンは娼館探しでどうやら、それなりに帝都内を歩き回っていたらしい。進みに迷いがない。
「それで、今日はどこでやりあうんだ?」
「うむ、訓練場がある。金さえ出せば使わせてくれる、な。国営の道場みたいなものだな。金を出せば施設、機材を借りれるだけではなくインストラクターも雇え、初歩的な鍛錬に関する指導を行って貰えるそうだ……まぁ、このレベルになってまでは必要かどうか、怪しいがな」
「まぁ、プレイヤーはある程度育ってくるとスキルによって動きが最適化されるからね、システム補正様様だよ」
「ちなみに魔術、魔法、生産に関してはそこら辺、補正がほぼ皆無なんですけどね」
だからこそ修羅の道であり、面白いのだが。そんな事を考えながらゴエモンについて行けば、やがて奥の方は開いている様に見える施設へと到着した。その形状を表現するならスタジアム、の様な形状だと思う。入り口で入場料を支払って反対側へと抜ければロビーに入るが、更衣室やシャワー室、プール、他にもウェイトリフティング等のボディビルディングが出来る部屋へと通じる通路や階段が見えた。
「肉体づくり……意味があるんですか、この世界?」
「一応体を鍛えれば基礎ステは伸びるらしいぞ、この世界。ただ俺達はレベルアップしたほうが百倍楽だけどな」
「それは初耳でした」
「まぁ、間違いなくプレイヤー向けのシステムじゃねぇからな。プレイヤーの方はレベルとスキルを上げて殴るってのがセオリーで想定だし。寧ろこれってアレ、長寿種族とか向けのシステムじゃねぇかなぁ、って思う」
まぁ、確かに龍や吸血鬼の様な代表的な長寿種族が長い年月を上げてトレーニングすれば、レベルの限界を超えた肉体的トレーニングが行えそうではある。だがそれを聞いて、疑問が氷解した。ナイトやディーヴァに感じるレベル以上の強さ、能力とはつまりそういう所から来ているのではないのだろうか? プレイヤーたちはまだこのゲームを開始してからさほどの時間を経験してはいない。だがこの世界をベースとした存在はそうではないのだ―――鍛錬に相応しいだけの一生までもこの世界をシミュレートしていたのなら、そういう風に鍛えられていてもおかしくはない。
まぁ、自分には関係の無い事だ。
それはそれとして、奥の方へと真っ直ぐ進めば、天井の存在しない、晴れた空が見える、土の大地が広がる訓練場内に到着する。端の方には木人が、その側では指導する教官の様な存在と、駆け出しだと解る恰好の少年や青年が見える。中央を囲む様にトラッキング用のコースが存在し、スペースはそれなりに広く開いている。
出た所でナイトを現界させ、魔力を注ぎ込んで存在強度を上げておく。鋼の塊が槍を手に取り、左腕を異形爪に変貌させたところでそれでは、とゴエモンへと視線を向ける。
「ルールはどうします?」
「一本通したほうが勝者で良かろう。鎧甲冑も、拙も真っ二つになった所で蘇生が効く」
「じゃ、そういう事で。ナイトー? 何時も通り勝利してくださいね?」
『我が勝利、マスターへと捧げましょう』
槍で軽くナイトが自身の胸を叩き、ゴエモンと共に少し離れた位置へ、他の誰かを巻き込まない様に移動する。それを見送りつつ、視線をアイザックへと向け、即座にアイコンタクトを完了させる。
静かにカードをバインダーから引き抜き、即席錬成を行う。
地のエーテルから属性を引き抜きつつ足元の土を材料として錬成を行い、テーブルを作り出しながらインベントリからアイザックが椅子を引き抜き、テーブルの後ろへとそれを設置したので、二人で同じタイミングで横に並ぶ様にそこへと座り、アイザックがメガホンを取り出した。
「さぁさ、見てらっしゃいよってらっしゃい! 世にも珍しい武人と英霊の戦いだぞー! なんと齢90、戦争経験者の大剣豪がかつて存在した英霊との相対を行うぞー!」
お金を積める箱を取り出し、そこに勝利の場合2倍配当、と紙に書いて箱にはっつける。
「実況は俺、アイザック! そして解説は!」
「はい、英霊の主であるマスターでお送りします」
「貴様らぁ……!」
ゴエモンがナイトと距離を見合った所で動きを停止させ、此方へと視線を向けるが、アイザックと共に並んでサムズアップを向けてガン無視する。
「さぁ、片や90年の鍛錬を積み上げて、この世界で若い肉体を手に入れた大剣豪! その積み重ねて来た年月は偽りではない! しかも戦い慣れているという恐ろしい事実もあったもんだ! 人生を剣に捧げ、そして戦い抜いて来たその結晶を今! ここに見せる時! 対する相手は何千年も前に死去したこの世界の英霊! 積み重ねて来た戦いが違う! 概念が違う! お前が挑むのは神話だぁー! さぁ、ゴエモンは勝てるのか!? 解説のマスター氏!」
「そうですねぇ……根本的なスペックだけを見るなら難しいと言いたくなるでしょうが、ゴエモン氏に関してはチャンスがあります」
「ほほう、それは?」
「ナイトは英霊ではありますが、長い時間眠り続けていた影響で、どうやら技能のほとんどを失っている他、本来の戦い方や姿まで忘却している様です。その事を考えると今のナイトとゴエモンは条件は互角でしょう。いえ、経験を万全に思い出せる分、まだゴエモンの方が有利かもしれません」
ですが、と言葉を付け加える。
「この世界、そしてシステムにより精通しているのは住人であったナイトの方です。そう考えるとまたナイトにも有利な面が見えてきます……いやぁ、最終的には私の下僕が勝つでしょうけどね? それでもまぁ、いい勝負はするんじゃないですかねぇ!」
「根本的に身内というか下僕贔屓だなこいつ……まぁ、それはそれとして、一口1000ゴールドからだよー! 中々お目にかかれない高レベルなマッチング! 見るだけじゃ勿体ないぞー!」
「鎧に二口!」
「俺は異邦人に五口投げ込むぞ!!」
煽ると見世物に群がる様に訓練していた連中がゴールドを箱の中に投げ込んで行く。それをディーヴァに任せて横で記録を付けさせる。それを見ていたゴエモンが当然、此方にも分け前があるんだよな、的な視線を向けて来るのでサムズアップを適当に送っておく。良し、これで戦闘準備は完了だ。そう思っていると、掛け金を入れている箱の前に立つ姿が出た。
軍服に軍帽、腰に二刀のサーブルを装着した金髪の軍人だった。
「諸君ら―――」
その姿を見て、おっとぉ、もしかして賭け事は禁止だった? と内心、冷や汗を掻き始めるが、軍人が懐から財布を抜き、そしてそこから大量のゴールドを箱の中に投入してきた。
「―――真の投資という物を見せてしんぜよう。五十口だ。私は異邦の剣豪に賭けさせて貰おう」
「流石本職の軍人は勢いが違うなぁ!」
「ツッコミどころは多々ありますが、ありがとうございまーす! 勝利の際には二倍になって返って来ますので、これで勝てたら10万ですねぇ……いやぁ、勝てたらしばらくは夕飯に豪華な一品を追加できそうですねぇ」
「負けたら悲惨だけどな! ま、それはそれとしてそろそろ切り上げるぞー! 滑り込みいないかー? 始まるぞー? 始まっちゃうぞー? はい、切ったー! 受付終了! リストも作成してあるから騙せないぞー? じゃあ下がって下がってー! こっそりバフとかもすんなよー!」
「それじゃあ念を押しますが、勝ってくださいよ、ナイト」
ナイトから頷きが返ってくる。状況は圧倒的に酷くなったが、それを気にする様な事はないらしい。興味がないのか、感じないのか、見えていないのか。気になる所ではあるが、今はvsゴエモンに集中して貰おう。えーと、この場合は風の属性を利用する事で、風に音を運んでもらおう、と拡声魔法を再現する。
ナイトとゴエモンが10メートルほどの距離を開けて互いに武器を構えた。この段階に入ると、もう余計な情報は入り込んでこないらしく、集中力が高まって行くのを感じられる。ゴエモンは今日は刀を片手に握っており、それを引き抜いた状態で両手で柄を掴み、それを剣道でそうする様に、正眼の構えでナイトを見ていた。
それに対してナイトは左半身、つまりは爪腕で迎え撃つように半身を前にしながら右腕で掴む槍を後ろへ下げていた。迎撃の動きを作る為の体勢だった。油断なく、慢心なく、ナイトがゴエモンをその鋼で見つめる様に、ゴエモンにも一切の油断は見えなかった。
「さぁ、そろそろ始まりますが―――解説のマスター氏、戦闘はどう進むと思いますか?」
「そうですねぇ……速度に関してはゴエモンの方が勝っている様に思えます。ですのでゴエモンが先の先を奪い、そこでどれだけアドバンテージを取れるかで流れが変わると思います。と、このままだと私の知覚を超えそうなので敏捷バフしないといけませんね……」
「あ、俺もよろしく」
「はいはい」
反応速度を高めるには神経系を鋭敏化させればいいのだろうか? とりあえずそういう方向性で感覚を強め―――あぁ、嗅覚が無駄に強くなって汗の匂いとかが辛い。ちょっとここは風で匂いを流しつつ対処するとしよう。ここら辺の細かい調整に関してはまだ経験不足だな、と思いながら敏捷、視認に対するバフを集中的に上げる事でこれから起こる戦いに反応できるようにする。
そうやって見物側も十分に準備を重ねた所で、ショーになり始めたナイトとゴエモンの戦いの準備、それを始める為の全てが終わった。そこに合図なんてものは発生しない。戦闘可能な状態で前に出た時点で、立ち合いは既に始まっている―――というのが理論らしい。真に蛮族である、と研究職としては感想が出てこない。
それ故に最初の動きを知覚するのも無理だった。
理解したのは
だがそれにナイトは切り伏せられていなかった。
僅かな鋼が切り落とされ、宙を舞い、そしてそれが構成する魔力へと戻って行く。
だがそれはほんの僅かであり―――とてもだがナイトに通した、と呼べるような威力ではなかった。ナイトの背後には半透明な翼が出現し、《力翼》のスキルが自動反応していた。その先に繋がっているのは【聖戦士】と出現されるスキルだった。ナイトの武芸に関連するスキルはどうやら、称号に完全に格納されているらしく、
ナイトが力翼によって体を加速させ、動かし、回避するのと同時に称号に普段は統合、格納されているスキルが動きに反応して自動発動、反応している。それはまるで鍛え上げられた技巧、歴史、それが動きに反応して蘇る様に、スキルそのものが血肉となってその身に通っている様に、発動させているのではなく、動きに反応させていた。
そして動きはそこで終わらない。
翼を広げて瞬間的に回避したナイトがその鋼とは思えない身軽さで体を跳躍させるように一気に持ち上げ、そのまま頭上を越える様にゴエモンの上から槍を振り下ろした。存在そのものが上に来るという状況に刀での対応は難しく、音もなく、摺り足で素早く下がりながら、振り下ろした動きに合わせて体をズラし、最小限の動きで回避しながら槍に沿わせるように刀を進ませて行き、刃で槍を抑え込みながらその手を切り落とす様に一気に振り抜いた。
が、それよりも早くナイトが槍を手放しながら身を投げ、ゴエモンの後ろに着地しながら蹴りを繰り出していた。その鋼の体躯で繰り出す蹴りがどれだけ殺人的なのかは説明する必要もなく想像出来る。
「うむ、久しく血が滾るなこれは」
それを刀の一振りで切り流したゴエモンに関してはもはや言葉もない。実況と解説を入れるつもりだったが、見ているだけでぎりぎりだった。そこに言葉を差し込む余裕なんて一切なかった。
ただ黙って、次元の違う技量のぶつかり合いを眺め続けるしかなかった。
振り返る様に切り払ったゴエモンに対応する様にナイトの手の中には
それによって発生した空気の壁の合間を切り裂く様に横から斬撃を差し込み、切り裂きながら剣と刀が接触した。
甲高い金属音を発生させながら火花が散り、正面からナイトとゴエモンが睨み合った。
「解説放棄しまーす」
「実況も放棄でーす」
「余計な言葉は無粋だな」
んだんだ、と同意する声を聴きながら連続で繰り返される金属と剣戟音を耳にする。目にも映らない素早い速度でナイトが剣を振るい、優美な軌跡を描くゴエモンの芸術的とも表現できる刀、その動きに反応していた。それはまるで一種の錆び落としの様に感じられた。連続で衝突している内にナイトのスキルが出現しては消え、再び称号の中へと戻って行くのは確認作業の様でもあった。
故にこそ、そこで一手、ゴエモンが先を取っていた。
幻想でも何でもない、リアルに鍛え上げられた剣術と経験によって、幻想の神話を相手に一手、爺が上回っていた。
『……!』
「くく、覚えている経験の差、だな、こりゃ……!」
連続で剣を振るい、その重量と体躯を利用して圧迫する様に、押し込む様にナイトが動きを加速させる。その剣に纏う光が発生する
そう思っている間にナイトとゴエモンの戦いはゴエモンの刃がナイトの片腕を何時の間にか切り落とした所で終了した。
……ほとんど理解できなかった……。
細かい動作とか、その動きや繋ぎがまるで見えなかった。これが武人や近接戦闘勢トップクラスの領域の技巧、技量というものなのだろうか。正直、表現する言葉にもコメントにも困る。ただ自分に解るのは、
拍手と共にそれを称える事だけだった。
「素晴らしい試合でした。細かい部分も、どう動いたのかも、理解できない部分は多々ありました。それでも間違いなく素晴らしいものを見せて貰ったと、そう理解しました」
ゴエモンがガッツポーズを掲げて物凄く嬉しそうにしている。まぁ、あれだけ派手にぶつかり合って勝利しているのだから、嬉しいのだろう。それに比べて、ナイトは露骨に落ち込んでいる様な、悔しそうな気配を漂わせている。というか此方を見るのを恐れてさえいる様な気がする。面白いのでしばらくそのままにしておこう。それはそれとして、周囲からは大量の拍手がナイトとゴエモンを包み込んでいた。いやぁ、確かに高いレベルの戦いだった。
少なくとも俺はその細かい部分を理解できなかったし、つまりはそういう戦いだったのだろうというのは察しがつく。
「と……に……ろー……うっし、計算終わったぞー! ゴエモンに賭けた奴は払い戻すから受け取りにこーい! 微妙に黒字になってるのが救いだなこれ」
ヒャッハー、と叫びながら観客たちが掛け金の支払いを受け取りに来ている。一番多く賭けたのが軍人さんだけだったので、大きな払い戻しはそこまでなかった。とはいえ、少しだけ儲けが出たらしく、今夜はこれで焼肉だな、とアイザックとアイコンタクトを決めていた。
と、掛け金の返却で先ほどの軍人がやってきた。金を受け取りつつ、
「良い物を見せて貰った。その力を振るう場を求めているのであれば、是非とも帝国軍に来てくれ。これがあれば即座に私に話を通してくれるだろう。ではな」
そう言って軍人は紙を一枚テーブルの上に置き、訓練所から去っていった。置かれた紙の内容を確認すれば、
「ローエングラム大佐、ですか。結構な大物でしたね」
「うーん、これはスカウトの気配。ちなみに受ける気は?」
「欠片もないです」
戦う場はダンジョンにでも行けばいい。名誉や名声なんてものには興味がない。興味があるのなら既にネットで自分が上級に到達したことを流して宣伝しまくっているからだ。そうしないのは上級
金は働けばいい。名誉は興味なし。力は勝手に育つ。だから今のままでいい。
「まぁ、私は興味がないんで、ゴエモンに渡しますね」
「いや、拙も既に国に仕えた身。二国は抱かんよ」
「流石お爺ちゃんは言う事が違う」
アイザックも仕官に関しては興味がなさそうだった。立身出世のテンプレコースではあるのだが、そんな事よりも自由に動ける今の立場の方が楽しいし、出来る事も多い。まぁ、自分の性質上、国に仕える様になった方が面倒が多くなるのは目に見えている。そこは最後の手段にしよう、と決める。ともあれ、アイザックもゴエモンも受け取る気がなさそうなので、さっさと紹介状をインベントリの中へと放り込んで、テーブルなどの錬成した品を元に戻し、処分を待っている腕のないナイトへと向かった。
その腕を一瞬で繋げて直しつつ、ナイトへと視線を向ける。
「本当なら敗北の責を取らせて海水に漬ける所ですが―――」
「金属相手に塩水漬けとか鬼かよあいつ」
「……ですが、良き戦いを見せて貰いました。何より貴方が力を取り戻す事は私の力へも繋がります。此度は幾つか失われた技能を取り戻した様ですし、その成長を持って許すとしましょう。次からは負けない様に、良いですね?」
『はっ、そのご温情有難くマスター!』
「完全にブラック会社の上司と部下」
「そこら辺のエーテルを体に混ぜるぞ」
「ひぇっ」
咄嗟にアイザックの言葉に対して放った言葉だったが、アレ、これ、もしかして敵に対して出来るのではないか? とは思わなくもなかった。直接相手を攻撃するよりも、属性エーテルを相手の体内に注ぎ込んで、人体を内部から属性汚染によって破壊する。もしかして普通に魔法を使って攻撃したりするよりも強力な攻撃方法になるかもしれない。
明日、ダンジョンに潜った時にチェックしよう。そう思いながらステータス画面を確認する。今の勢いに押されてか、《禁呪魂冥士》がコスト下限されていた。迷わずスキルランクをAに上げてしまう。それからナイトとディーヴァのステータスを確認すれば、二人のレベルが10上昇し、ナイトが150、ディーヴァが140レベルにまで上昇した。S、そしてMランクで更にレベルが上がるのであれば、最終的に此方のレベルキャップを超えるだけのレベルに到達するだろう。
いや、ワンランク上の英霊使役スキルを習得に成功すれば、更にレベルも上がるだろうに。それを確認しつつさて、と声を漏らす。
「休みにしますか? それともまた数回戦いますか? 私の場合、スキルトレーニング混じりになるので戦わせるのに反対はしませんが」
「いや、今日は休息日だ。まだ行ってない娼館もある。帝国の読者が拙の風俗レビューを待っている」
「ヒュー! 流石ゴエモンだぞ! 俺も付き合うよ!」
「あー、そうでしたか。じゃあ私は宿に戻りますね」
「お前本当にチンコついてるのか!?」
ついて行かないと暗に言うと、アイザックがショックを浮かべたような表情で声を出す。既に訓練所はvsゴエモンの前の状況に戻っていた。というかVR空間でセックスしていて虚しくないのだろうか、この連中は。リアルでヤっている訳じゃないのに。なんというか、
「必要性を感じないというか」
「嘘だろお前……何のための《性魔術》だよ!!」
「いや、ポーション替わりですしアレ」
「ポーション替わり」
「ほら、ポーションって飲み過ぎると中毒するじゃないですか。飲み過ぎるとお腹タプタプになりますし。だけど錬金作業に魔力って結構使いますし。それに《性魔術》込みでセックスしてからだと魔力回復出来る上に余剰魔力発生させられるのでポーションと比べて金銭効率いいですし……」
「こやつ、本当に人類か?」
「失礼なー。二人の様に私は特に前に出て命を懸けている訳でもないので、別にそこまで昂らないですし、セックスに必要性も感じないんですよ。ぶっちゃけ、研究したり新たな法則を見つけたり、成果を出した時の方が楽しいですし」
「やはり人ではなかったか」
寧ろお前らが猿過ぎるんだと思う。別に性欲を否定する訳じゃないし、性行為そのものを否定する訳じゃないが、それでも毎日盛る様な必要性は感じない。だってそれだけの時間があるのなら、研究とかに時間を回したほうが効率的じゃないだろうか? という訳で、風俗に行く予定はなし、戦いが終わったので風俗街へと向かって行くゴエモンとアイザックを見送った。
だがそれはそれとして、これからどうしようか、と考える。
今は学問系のスキルは一つも残っていないので、部屋に帰って本を読んでいても若干、時間を無駄にしているのに近いのだ。となると、訓練所にまで来ているのだし、ここで一つ、戦闘訓練を行った方が効率がいいのではないだろうか?
……流石にナイトやディーヴァを戦わせるような事は難しい。なのでナイトもディーヴァも現界を解除した所でイデア・エーテリアスからカードを引き抜き、人の少ない隅の方へと移動する。
先ほど、即席で錬金術でテーブルを作成する事に成功した。
それと同じ要領で大気中のチリを集め、それを土属性のエーテルと、火属性のエーテルで、鍛冶の真似事を行う。つまり錬鉄の現象を錬金術によって疑似的に再現する事で、空間に剣を生み出す事が出来るのだ。
そうやって空間に剣を錬成した所で正面の大地へと《キネシス》で操作しながら振り下ろし、突き刺した。そこで剣はぽっきりと折れて、元の地属性エーテルの塊へと戻って霧散した。
「即席錬成、出来る事が増えましたが―――少し扱い辛いですね」
新しく判明した錬金術の使い方、それはエーテルの物質化と融和、融合だった。空間からエーテルを引き抜いて、それを物質に変換する。そのやり方は悪魔が見せてくれた。流体、気体状態であっても固体へと変形する事が出来るという性質を兼ね備えていると《流体学》で学んだからだ。
だがそれを物質に変換できた所で、変換した先の物体に対する理解や構造の把握を行っていないと、
錬金術は何というか―――総合的な技術、学問、それを学び、取入れ、別方向の法則からアプローチする技術の様に感じる。
再び即席錬成で剣を5本程生み出しつつ、それを操りながら放ってみて、そう考える。
薬学。機構学。流体学。服飾。細工。これはそれぞれの学問であり、技術であり、そして職業でもあると表現できる。錬金術はこれらに対して正規のルートとは違う道筋をたどりながら学び、そしてそれを実践する学問であると感じられる。
少なくとも、初級や中級であれば、無才でも可能なように感じる。
だけど上級に行くには才覚が必要に感じられる。
まぁ、才能と言っても言葉として表現するなら
NPCの才能補正が0%だとしたら、プレイヤーの才能補正はシステム的に補助されているために+50%、という所だろう。たぶん。なんというか、完全にシステム任せにする事で何でも出来る! ……という感じはしないのだ、このゲームは。
ある程度までならシステムに任せて強くなることはできる。
だがそれより先に行くなら相応の努力と才能を必要とする。
リソースを注げば返ってくるのがネットゲームだ。だからそういう意味ではあっているし、その先に進むには相応の投資が必要なのもいい。いいのだが、
なーんか、違和感を感じる。何故だろうか? なぜか、どこか見えていないそんな気がする。ゲームの根本的な部分での問題というか……まぁ、思いつかないという事は情報不足なのだろうから、そこまで深く考える事でもないのだろうと、そう判断しておく。それよりも今試した簡易錬成の仕様に関する事だ。
エーテルを物質化させることによって簡易的な物質創造を行えるのがこの簡易錬成だ。本格的な錬金術ではない為、作成された道具には特別な能力は付与されず、その空間や使用した材料の特性をそのまま継承している。そして出来る事も変異はなしで、変化と変形だけである。
だが火と土属性を合わせて製鉄する、みたいなことはできる。
つまり創造物に対する知識、知恵、プロセスへの理解や経験があればあるほど、もっと深く簡易錬成による範囲が広がるという事になる。
「でもどこからでも引っこ抜けて、それで物量で対応できるとなるとこれが一番楽なんですよね……」
錬成して浮かべている剣を軽く叩きながらそんな声を零す。ゴエモンとナイトの戦いを見て改めて思った。個人の窮まった武芸、接近戦に持ち込まれた時点で自分は自動敗北するな、と。根本的にそういう状況に突入する気はないが、それでもどう対応するか? と考えると、根本的な解決はそもそも近づけない、という所にある。
卓でも近づけて面倒な奴は地形かオブジェクトで移動を阻害し、前に出てこれない様にしてからハメ殺すのが基本だった。
強い個に対する対応策は接近させない様にしながら圧倒的物量で捻り潰す事だ。そうなると、やっぱり剣を大量作成し、それを雨の様に叩きつけながら圧倒的物量で常に攻め続けるのがベストだろう。何せこれ、変化の時間を除けば詠唱とかのプロセスが一切必要とされない攻撃手段なのだから、便利だ。
それに属性被爆による殺害手段を練習してみれば……まぁ、なんとか戦闘した場合の対処手段にもなるか、と判断する。
生み出した剣をエーテルに戻しながら眼鏡を押しあげて、それで軽く声を零す。
「……《精錬》と《鉱石学》スキル習得ですね、これは」
とりあえず、1日の残りはスキルの習得、そして本を購入して読み漁る事にした。
「うっし、英気を養ったし、再びレベリングに戻るぞー。各自成長と変化報告ー。ちなみに俺は変化はなし」
「拙はスキルが大体上位系統へと進化しただけだな。戦闘方法に変化はない。やる事にも変化はない」
「私は《鉱石学》と《製鉄》を取得しました。ただこれは本を読んでいれば大体どうにでもなるので、心配する必要がありません。戦闘方法もまだスキルに変化がないのでそのままです。とはいえ、《ポーションピッチャー》をそろそろどうにかしたいので、ポーション投擲多めにする予定ですが」
「金がかかるスキルだなぁー」
まぁ、初期の頃は錬金術でここまで自由に物事が行えるとは思いもしなかったのだからしょうがない。初期想定ではポーションを投げて爆破したり溶かしたり、それでデバフをすることがメインだったのに、エーテルという世界を構成する要素そのものに干渉する手段や、それで環境操作を行えることを知ってしまったのだからどうしようもないのだ。悪いが、もはやポーションを投げて戦う事なんて滅多にしないと思う。新しく始めた剣錬成射出の方が遥かに便利でコストパフォーマンスも優秀だからだ。
「ま、そんな訳で今日もレベリングを始めましょう。やれることが増えた影響で、今の私は割とやる気で満ちています。殺してSPに変えてしまいましょう」
「発言がサイコパスのそれだけど、異論なーし! 安全に、必要以上の冒険をせずにやってこーか」
「おー」
ゴエモンと声を揃えてアイザックに返答する。流石GM、話を纏めたりするのが得意だよなぁ、と思いながら何時も通り、帝都の万魔殿ダンジョンへと潜って行く。
もはや感じ慣れた狂気の波動にハローと挨拶をしながら無効化し、2層へとちゃっちゃと移動してしまう。本日もレベリングする為の狩場は引き続き2層の予定である。強くなろうとなかろうと、レベリングの効率が変わらない間は、他の場所へと移動する必要はない。
ひたすらに同じ相手を狩り続ける。
個人的な目標は《カリスマ》《軍略》《仙術》を下限にする事、そして《ポーションピッチャー》を下限し、Aにする事。ついでにそろそろ《改竄》のスキルランクも上げたかった。そういう期待などを込めて特別に殺意と殺意と殺意を込めて悪魔を殺しに行く。
なにせ、レベリングなんてルーティーンワークなのだから、同じことを繰り返せばよい。
明確にボス部屋なんてまだ確認さえされていない領域、事故死する時は死ぬのだから心配してもしょうがない。
何時も通り、レベリングをする。
新しく開眼した簡易錬成による剣射出を行う事がなぜか《ポーションピッチャー》への経験点が入る事が発覚してからはもう少し戦闘が派手になるが、流れとしては何時も通り、完全に役割分担をしての戦闘行動になってくる。それぞれ育てたいスキルや、使っているスキルがあるのだから当然そういう形になるが、
この日も問題なくレベリングは進行した。
ゴエモンとアイザックも先日の戦いを見て更にレベル上げに対して情熱を出してきたのか、今回は何時も以上に悪魔を引き寄せて範囲狩りをする様になった。範囲攻撃手段を保有している他、足止め手段も豊富に保有しているパーティーだからこそ許される範囲狩りではあるが、
このレベリング行動そのものがこの世界の人間からすれば逸脱した行いなので、彼らがこのレベリングを見て、果たしてどう思うかは少しだけ……気になる話でもあった。そういう事を考えながらもしっかりと戦闘行動を行い、
最終的にこの日のレベルは4上がった。
レベルが135になる。
現在のレベルキャップが150、つまりレベルキャップまで残り15レベルという段階にまで到着した事になった。1日最低で3レベルアップを維持できるのであれば、5日、6日で150に到達し、レベリングを終了する事が出来るようになる。
これでAPがトータル660、SPがトータル603となる。残されたレベルが15なので、レベルアップによって取得できるAPはあと75、SPは後45になってくる。APに関しては諦めるとして、SPに関しては今まで通りガバ勘定で割り振りを進めていると、上位スキルを1個か2個ランク上げするだけで尽きる程度の数値だ。現在の残存SPと合わせて考えても、それでも決して多い数字ではない。
今まで以上にスキルトレーニングが大事になってくる。
それはそれとして、レベリング中にスキルトレーニングの目標を達成したのでスキルのランク上げを行った。いくつかのスキルをSとAに上げて、本日の目標を達成する事に成功する。そして同時に次の目標に、レベルが150になるまでに一番使わない戦闘系統のスキルをMランクにまで上昇させ、これ以降戦闘に関して頭を悩ませない、という事を決める。
夜中、《鉱石学》の図鑑を片っ端から読んで頭の中に叩き込みながら、記憶して行き、同時に《製鉄》の勉強も行う。帝国、それも帝都は科学と製鉄についてはこの大陸一であるだけあって、鉱物や鋼鉄に関する本、情報、勉強場所には困らなく、あっさりと勉強する事が出来た事もあり、簡単にランク上げが行えた。それぞれ2ランク上昇させながら、勉強して知識を蓄えるだけで簡単にトレーニングの出来る学問系スキルのありがたさを覚えた。
何時も通り《邪眼》の実験をディーヴァで行いつつ、1日が終了する。
少しずつ、少しずつ帝国でのレベリング、トレーニング、そういう物の終わりが見えてきていた。これが終わったらルーゼンに戻るか……或いは一人だけ帝国に残り、帝国の鉱石などを集める為に鉱山に向かうのも悪くはない。
先の事を計画しつつまた時が過ぎて行く。
Name:マスター
Level:135
Status:
AP:660/660
筋力:170 魔力:176 敏捷:155 体力:170
Title:【錬金術師:上級】【Evil】【ソウルマンサー】【プロフェッサー】【畜生メガネ】
Skills:
SP:549/603
《禁呪魂冥士:A》 《超魔力:A》 《審美眼:S》《エーテル干渉:S》
《キネシス:M》《ポーションピッチャー:A》 《軍略:S》 《性魔術:B》
《鉱石学:A》 《製鉄:B》 《仙術:S》 《改竄:A》
《魔眼:M》 《邪眼:A》 《カリスマ:S》 《幻想の色彩:M》
スキルは鍛える事でランクが上がって行き、新たな使い方を覚える。だがこれはシステム的なアシストによる結果ではなく、トレーニングの反復的な利用によって脳と肉体が直接学習しているのである。特にVRという環境は肉体を介さない、直接脳と神経による動きの為、肉体による動きの差異が発生しない、即座のレスポンスとして発動する為あっさりと動きを肉体が再現できる。
とはいえ、VRでの肉体と、現実での肉体はまるで違うので、VRで現実と同じ環境、重量、設定で動いても全く同じように動ける訳ではない。