それから更に一週間が経過した。
レベルは140になった。APとSPも大幅に上がり、トレーニングもかなり進んだ。
《カリスマ》、《軍略》、《キネシス》、《仙術》が連鎖反応を起こし、それが【錬金術師】と【プロフェッサー】と更に玉突き事故気味に連鎖した結果、変異の様な結果で新たなスキル、《結界術》を習得する事が出来た。これは面白いスキルであり、自分の魔力で満たした空間、領域に対してルールを設定する事が出来るというスキルだった。つまり自分の魔力が満たしているという範囲に限定されはするのだが、それでもその領域の中では自分という存在そのものがルールである。
これによって戦闘中、事前に仲間に魔力によるコーティング等を施しておけば、攻撃魔法を放った時に誤射が無くなったり、魔法に対するフレンドリーファイアの条件付けや、自分が展開する空間に踏み込んできた対象の能力を下げたり、とそういう細かい便利なルールを作成する事が出来るようになった。まだレベルが低い内は再設定可能ではあるのだが、これがC以上のランクになった場合、ルールは固定され、変更できなくなるとの事だった。
その為、習得した《結界術》はランクを一旦Dで止めており、様々なルールや法則を試している。無論、ランクを上げた方が強度が高くなり、更に強くなる。とはいえ、簡単に決定する事も出来ない為、慎重に選んでいるのが現状だった。
それに合わせ学問系のスキルが全て【錬金術師】に統合、【プロフェッサー】からでも参照可能という状態になっており、問題児の《ポーションピッチャー》もなんとかランクがSに上がった。Mまで上がればおそらくは【錬金術師】に統合が可能になる。《邪眼》もSの状態でコスト下限が見えてきて、いよいよステータス画面が寂しくなってきた。前はあんなにスキルがいっぱいあったのに、今では少なくなってしまった。
まぁ、そこはいいのだ。
こんな風に順調に思えるが、
―――今、ここで活動する上で大きな問題に直面していた。
ステータス画面を表示していたホロウィンドウを消去しながら、宿屋の1階部分、テーブルなどが置いてあるロビーのラウンジで、一つのテーブルを3人で囲む様に座っていた。話しながら摘まめるものとしてジュースとサンドイッチが並んでいるが、それに手を付ける事無く、腕を組んだりして軽く唸っていた。
問題は非常に解りやすかった。
「―――レベル、上がらねぇな……」
「ですね……」
「うむ……」
それが問題だった。もう既に
だが上がったレベルは1だけだった。
翌日から、レベルは上がらなくなった。
極限まで細かい数値を省いているこのゲームでは、獲得経験値を確認する事が出来ず、要求数や次のレベルまでどれぐらい経験値が必要か、というのは解らないのだ。だから経験値が渋くなった所で、それを理解できるのはレベルが上がらなくなってきた場合だ。とはいえ、いきなり経験値効率がここまで酷くなるというのは聞いた事がない。
「……経験値効率は悪くないと思うんだけどなぁ」
「或いは要求数があり得ない数になったとか、でしょうか?」
唸りながらダンジョンにも行かず、相談していた。これからどう活動すべきか、なのかを。正直な話、レベリングの為に帝国へと来ているのだから、レベリングが行えないのであればここに長居する意味はないのだ。だからこうやって、これからの判断をする為に話し合っていた。
帝国を去るか、否かを。
「拙の憶測だが……おそらくは
「慣れ、ですか?」
ゴエモンの言葉を聞き返せば、ゴエモンが静かに頷きながら両手を袖の中に収める。
「これは拙の経験談ではあるが、ひたすら同じ人間と斬り合いを続けていても、やがて出来上がるのはその者に対する経験だけであり、根本的に経験を積めている訳ではない。故に剣の修行の為、拙は同じ道場の仲間だけではなく、時折他の道場へと向かったり、野良試合で殺し合いを演じる事もあった」
「お爺ちゃん、リアル日本は法治国家よ」
「おっと、すまん。最近、遠慮なく斬り殺しているからどうも心が若返ってしょうがなくてな」
「それ、理由になってませんから。……しかし、慣れですか……慣れる」
うーん、と呟きながら腕を組み、天井を見上げながら考える―――まぁ、ありえなくもないと思う。物理法則に魔法法則、世界法則をシステムではなく、世界観としてちゃんと設定し、研究と利用を行えるゲームなのだから、同じ相手ばかり狩っていると経験値を入手できなくする……ありえなくない考えだった。
そういえば今までの自分の経験値稼ぎは、常に新しい事への挑戦だった。
新しい生産への挑戦。
新しいレシピへの挑戦。
新しいスキルへの挑戦。
常に何かしら、新しい事へと挑戦する事で、常にフレッシュな経験を積み重ね、レベルを上げて来た。アトリエに籠って作業をしている間も、物を作り、研究するというのは常に未知で溢れている行いだった。だから経験値が減衰しなかったのだろうか? だけど、それはもう……なんというか、
システムが付与された異世界に近い。
課金要素とかなかったらそのままワールドシミュレーターとだって言い張れるだろうと思う。なんというか、考えが確かだったら、悪意すら感じる程のリアリティだった。ゴエモンの言った事はそれを踏まえると、かなり現実的だ。
だけどその場合、と、言葉を置き、視線を下ろしながら軽く手を伸ばし、喉をジュースで潤してから話を進める。
「だけどその場合……私たちは更なる深層へと進むか、或いは狩場を変える必要があります」
「となると結局、最初の議論に移るって訳だ。帝国を去るか、残るか」
難しい話だった。だけどこの場合は簡単に仕分ける方法がある。小型チョークボードを取り出し、チョークを簡易錬成し、それでチョークボードに線を引いて中央で半分にスペースを分けた。
「それでは判断しやすくする為に、それぞれのメリットとデメリットを纏めましょうか。ではまず、帝国に残ってレベリングする場合のメリットですね」
「まずは拠点とダンジョンが近い」
「補給が楽ではあるな」
「それにダンジョン外の環境の安全性が保証されているのが心強い」
「同業者と喧嘩する心配がない」
「即座に換金できる強みがあるな」
「街中だから即座に情報を取得できるのは強みだ」
そうやって口に出した事をチョークボードに書き込んで行き、メリット側が終わったら今度はデメリット側に書き込んで行く。此方もゴエモンもアイザックも、一切容赦なくデメリットを口にしてゆくので、それを片っ端から書き込む。
「深層に更に踏み込む事のリスク」
「全滅の危険性だな」
「そもそもこれで解決するかどうかが不明だ」
「戦の匂いを空気に感じる、始まってからでは逃げ出せないだろうな」
「情報がない未知の領域だから対処法が不明」
「帰りに時間がかかるから時間全てを狩りに回せる訳ではないな」
そうやって口にしたことを書き込んで纏めて、メリットとデメリットを比べて行く中で、やはり注目するのは戦争の事に関してだった。帝国と共和国での戦争の話である。今ではそれもかなり盛り上がっており、宣戦布告までは秒読み段階であるという話が上がっている。そして戦争が始まれば、本格的に移動する事は出来ないだろうし、帝国に居る以上は帝国側の冒険者や協力者として見られるだろう。
そのつもりが無くても。
「個人的に言わせてもらうのならば、ですが」
「うむ」
「……一旦、レベリングを放棄して帝国も共和国も出た方がいいです。或いは首都圏を離れ、主戦場から外れそうな田舎にでも移った方が。私はアトリエがあるのでルーゼンへと帰還ですが」
「その心は」
「戦争に巻き込まれてはたまったものじゃない」
「そうなんだよなぁー……」
ゴエモンも、アイザックも、自分も、全く戦争に参加するつもりはなかった。傭兵として参加するにしても結局はどちらかの陣営に参加しなきゃいけないし、それで人を殺すのは正直、めんどくさかった。キルスコアを稼ぐシューティングゲーム出身の連中であれば話は別なのだろうが、そこまで戦闘行為そのものに興味のない人間としてはあまり、関わりたくない話だった。それに、それ以上に問題なのが、
「ルーゼンの行方が解らない事ですね」
「まぁ、あんな小規模の都市が大陸を二分する戦いで中立なんてやってられる訳ないだろうからな。恐らく共和国と帝国、両側から圧力かかってるだろうな、俺達の側につけ、って」
「成程。それでルーゼンが共和国側についてマスターが帝国側に付いたとして、敵の所有アトリエという事で財産没収の危機もあるのか」
「そういう事です。一国一城の主、とは聞こえが良いですが、その場所に縛られるという事でもあります。まぁ、個人的にそこまで後悔はないのですが」
それでもルーゼンは大陸から見て、中央南、海路で共和国と帝国を繋ぐ立地にある。ここを掴めば共和国へと水軍を送り補給が非常に楽になるだろう。そしてそれを求めて、帝国と共和国が暴れるのも見ている。そうなるとルーゼンは必然的にどちらかに手を組むしかない。
その事を考えると、
「割と真面目に私は帰りたいですね……ここまで頑張ってレベリングしてましたが、そろそろ雰囲気がヤバいですし」
「ふむ、潮時かもしれんな」
「うっし、ゴエモンも賛成ならとりあえず帝都万魔殿レベリングは完了って事にして、ルーゼンに戻るか……何時にする?」
アイザックの言葉にそうさな、とゴエモンが声を零した。
「なるべく早い方が良いだろう。出来るなら今日中に」
「そこまで酷いんですか?」
ゴエモンがその言葉に頷く。
「戦の機運が風に乗ってくるのを感じる……。秒読みというのも拙としてはあながち間違いではないと思っている」
「となると今日中に帝都を脱出するか……乗り物はどうするか?」
「多少金を多めにだして、足の速い手段で行きましょう」
「それが良いだろうな」
「では私は20万程出しますね」
「んじゃ俺も20万出すか」
「3人で60万も出せばここらで有名なマキナか、或いは飛行する獣にでも乗って帰れそうだな」
あー、それも悪くないなぁ、とちょっと胸を膨らませる。個人的にこの世界のマキナと呼ばれるロボットは興味あるし、それとは別に飛行による移動手段がどんなものかにも興味がある。とはいえ、移動手段で一番早いとなるのはやはり、飛行となるだろう。
「人数分の高速飛竜をチャーター? この場合チャーターで表現はいいんでしょうか? まぁ、チャーターして、それで騎乗して帰るって感じが最速でしょうか」
この世界、純粋な龍と呼ばれる強い種族と、それから生み出された混血だったり亜種だったり劣化種族の竜というのが存在していたりする。そしてこの竜の中でも飛竜に関しては騎乗用等でそれなりに民間向けに存在していたりする。とはいえ、やはり維持費とかがクッソ高く、個人で所有できるのはレベルが100を超える冒険者とかに限るだろう。
だがこれを利用して、騎乗用に飼育してタクシーの様なサービスをやっている所もある。またこれが馬車と比べればアホみたいに高いのだが、基本的に飛竜種は賢く、自衛能力も高く、馬車の数倍の速度で飛行し、移動する事が出来るのだ。
そりゃあ乗り物として運用するなら高くもなる。
個人用にも一匹、欲しい所である。
まぁ、20万も出せばかなり良い飛竜に乗れるだろうと判断する。出費が痛いが、それ以上に悪魔のドロップや、成れの果ての装備品を売って金にしているのだから、これでもまだ収益は黒字で終わってくれている。まぁ、アトリエを再稼働させればそこら辺の心配はいらなくなるから問題はない。それよりも今は、戦争からなるべく逃れる事だ。
基本的に所持品はインベントリに突っ込んである為、態々部屋に戻って荷造りをする必要はない。行動を決定した所でジュースとサンドイッチをお腹の中に放り込んで作戦会議を終了させた。
行動開始と決まれば即座に動き出すのがプレイヤーという種族、特に関わりたくもないイベントが目前にまで迫っているのなら行動は早い。
宿屋を出た所で向かう先は飛竜のレンタルを行っている、テイマーギルドだった。現地人よりも寧ろプレイヤーに人気のあるギルドであり、ギルドの発展は近年の物であり、その発展に活躍したのはプレイヤーが多いという話もある。何せ、レベルキャップを無視して戦う事の出来るモンスターを使役する事が出来る上に、育成ゲームは昔から色々と人気がある。
育てて懐かせて戦わせる、シンプルだし自分が戦うよりも楽でいい。
そういう発想でモンスターテイマーを目指すPCはそれなりに多いらしい。
ただそうやったテイマーギルドの発達のおかげで、飛竜などの育成、使役が可能となった事もある。飛竜ばかりではなく、騎乗用の戦馬の貸し出し、使役獣の販売、鑑定、餌の販売、テイマー用の支援なども豊富にやっている所もあり、個人用に騎乗モンスターが欲しい場合、商会ではなくテイマーギルドに駆け込んだ方が良いと認識されている。
そんな訳でテイマーギルドへと向かい、そこで金を出して一番早い飛竜をルーゼンまでの移動に使いたい事を申し出る。
そこで特に問題が発生する訳でもなく、普通にレンタルに成功した。
「こいつが
そう言ってアイザックは帝都の外、テイマーギルドが保有する敷地内で、借り受けた飛竜を正面から見ていた。モスグリーンの鱗に琥珀色の瞳を持つ飛竜はその大きさは5メートル程あり、大きく口を開ければそのまま人間を呑み込んでしまうのではないかという迫力があった。これでも竜というジャンルとしては亜竜、つまり雑種であり、雑魚扱いされるのだから凄いと思う。
そんな扱いを知っているのか知らないのかは別だが、飛竜は両腕が翼になっているタイプの竜であり、両の翼を畳みながら前身を倒し、くつろいでいた。自分が借りたワインレッド色の鱗の飛竜を正面から眺めていると、隣の飛竜と同じように体を倒し休んでいた飛竜が顔を持ち上げ、此方へと視線を向けて来た。蛇と同じような瞳をしており、サファイアの様な瞳が此方を見ていた。
「この子たちは賢いですから、嫌な事や契約違反に関する行いをすると即座に空中で振り落としたりしますので、そこら辺はご注意ください」
「あぁ、はい。了解です」
飛竜の管理人がどうやって手綱を握るのか等を教えてくれる。その間に顔を持ち上げた飛竜が、此方へと顔を近づけると、舌を伸ばして顔を舐めて来た。べっとりとした涎の感触と共に、眼鏡が大きくずれたので、眼鏡を外すと、もう1回顔を舐められた。それを見ていた管理人が小さく笑った。
「どうやら其方の方は気に入られたみたいですね」
「不本意ながら」
涎を分解してなかった事にしようとしても、懐かれたのか顔をまた舐められた。一体俺が何をしたってんだ、と心の中で憤るが、そういえばテイミング関連のスキルを初期の方に取得したな、というのを思い出す。その影響だろうか? それとも英霊を従えているが故の気質だろうか? どちらにせよ、舐められ続けるのは嫌なので、さっさと背中の鞍に騎乗する。
そこでゴエモンへと視線を向けた。
「……」
「……」
「あの……その……凄い、ですね?」
「……」
ゴエモンの前に居る深海色の飛竜は、迷う事無くゴエモンに向かって頭を下げて、自分が下である事を証明する様に見せていた。というか平伏していた。殺さないで、僕悪い飛竜じゃないよ! 的なオーラを感じる。それを見ているゴエモンが珍しく困ったような、困惑している様な、そんなオーラを纏っている。でも解る。ゴエモン、千人斬りぐらいは達成してそうな気配はある。本能的に強者を判断してしまったのだろう。
そんなゴエモンを背に乗せて飛ぶ飛竜のサニティは最後まで持つのだろうか。
それはともあれ、飛竜の背に騎乗する。乗馬経験もないので少し戸惑うかと思ったが、身体能力は既にリアルを遥かに超えるものがあるのだから、軽く跳躍して飛竜の背に乗ることぐらい、問題はなかった。問題はそこからで、手綱を握り、そして飛竜をちゃんと操作できるのか、という所だった。
「えーと、ここからどうすればいいんでしょうか?」
「もう一度言いますが、その子たちは非常に賢いので、口で言えば素直に従ってくれますよ。だから落ちない様にちゃんと手綱を握っているだけで大丈夫です。落ちたとしても落ちる前に拾い上げるだけの速さも持っていますし」
「成程、ありがとうございます」
「おっとと、おほー、竜に乗れるとか流石ファンタジーだわー。やっぱ楽しいわ」
「スペースドラゴン剣豪……!」
「ぎゃぅ……」
一人だけライトセイバー二刀流を構えており、なんか違う世界観に入っていた奴は無視するとして、アイザックと自分もちょっとよろめいているが、それでもちゃんと飛竜の背に騎乗する事に成功していた。これは飛行での移動手段を本格的に確保する場合、《騎乗》スキルを獲得したほうが良いな、と判断する。
移動のメイン手段が馬、もしくは飛竜である事を考えると……やはり、必要になるだろうと思う。SPと相談だな、と心で決めつつ、飛竜へと向かって話かける。
「それではルーゼンへとお願いできますか?」
「ぎゅるる」
首を傾げ、此方へと視線を向けながら頷き、二本の後ろ脚で立ち上がり、大きく翼を広げた。尻尾を使って下半身を支え、両足と合わせて三本の足で体を支えるような状態だった。そうやって一気に翼を広げた状態で軽く羽ばたき、尻尾で体を前に押し出す様に助走を付けて、走り出しながら5歩目で一気に大地を蹴り、体を空へと向かって蹴り飛ばした。そのまま翼を大きく羽ばたかせ、体を空へと押し上げながら、飛竜から魔力が放たれた。周囲のエーテルの風属性が僅かに強まり、それが浮力となってワイバーンの体を持ち上げる様に包み、現実であれば不可能な重量と巨体を空に持ち上げるという事を可能にしたのだ。
「ほう……」
思わず目にした跳躍による滑空ではなく飛行という行いに、感嘆の声が漏れた。そういえばどうやって竜の様な巨大で重い生物が空を飛ぶかと思ったが、やはり魔力等を使っているのか、と少し驚きながら納得した。成程、確かにこうでもなければ巨体が浮かび上がる事もないだろうと思える。
だがこの理論、独自のルールを魔力によって生み出しているのに近い様に感じる。
もしかしたら《結界術》で似た事が出来るかもしれない……?
だが単独で飛行手段を獲得する必要があるのか? と言われたら少々考える。ぶっちゃけ、飛行は他の存在に任せ、それに騎乗する事が出来れば、それでいいのだ。だから俺自身が飛べるようになる必要はない。だけどこの理論は面白いと思う。
後で研究し、実験しようと決める。
跳ぶことは出来なくてもホバーする程度だったら出来るかもしれない。そうすれば水の上を歩く事だって出来るだろう。
そんな事を考えている内に、勢いよく飛び上がった飛竜は、遮る物のない空へと飛び上がっていた。遮蔽物が存在せず、動きを止める外敵も存在しない。勢いよく飛翔した飛竜はそのまま高度を確保すると風を纏い、翼を大きく広げ、滑空する様に街道の上の空を滑り始めた。大きく広げた翼が風を切る音を響かせながら、凄まじい勢いで帝都の姿を後ろへと流して行く。スピードによって凄まじい風が発生しているのは解るものの、それは飛竜を避ける様に避けて行く。おそらくはまた、魔法で風が当たらない様に受け流しているのだろう。
翼を広げた飛竜はそのまま風に乗って滑空する様に空を移動して行く。その間は魔力が大幅にカットされ、ほとんど高度を下げずに遠くへと向かって素早く移動できるようだった。そしてその高度が下がって来た所で再び風を纏って空へと飛翔して上がり、十分に高度を稼いでから再び滑空する。基本的に飛竜の移動は、というより飛行生物の移動はこれが基本なのかもしれない。
そう思いながら横へと視線を向ける。
「ハッハー! ヒャッホー! なにこれたのしぃぃぃぃ―――!」
手綱を投げ出したアイザックが両手を広げながらドラゴンライドを楽しんでいた。子供の様にはしゃぐ姿に、飛竜の方も目が優しくなっていた。飛竜、賢いという話だし、何を想っているのかは気になるが、その視線が完全にやんちゃな息子を見る母親の目だった。
そして反対側、気になるゴエモン組を見た。
飛竜の背の上で仁王立ちしていた。ゴエモンが。
「……うむ、良い速度だ」
「ぐ、る、ぐるる……!」
飛竜がめっちゃ気を使ってる。めっちゃ困ってる。いや、やってみたい気持ちはわかるが、流石に危ないだろう、アレ。どう考えてもバランスがぎりぎりだし、ゴエモンの速度発言の影響か、速度を落とさない様に飛竜が気を使っている。滅茶苦茶接待しているじゃねぇか、と叫びたい気持ちの中、
「あっ」
「ぎゃっ」
ゴエモンが後ろに飛んで行った。
物凄い間抜けな表情と共に後ろに吹き飛んだゴエモンの姿を全ての存在が一瞬、思考停止しながら目撃し、そして急いで地上へと落下する前に飛竜がそれを回収する様に飛んだ。
だが真の問題は、それで楽しさを学習してしまったゴエモンが時たまダイブをする様になった事だった。
「お疲れ様です。いえ、本当に。明日もお願いしますね」
1日飛竜の上に乗っているだけでルーゼンまでの道程を半分進む事が出来た。馬車での移動となると一週間もかかったのに、流石空での移動は次元が違った。まるで違う速度、地上に縛られない制限の無視、障害物もなく、速度は段違い。だからこそ空路の価値は高かった。本格的に自分用に飛竜が欲しいと思える時間だった。ただ、ゴエモンを乗せていた飛竜は滅茶苦茶お疲れだった様子なので、自前で持ち込んだ肉を焼いて、それをゴエモンの乗っていた飛竜に上げて餌付けしていた。
「ぎゃう」
「ぎゅー……」
「ぎゃっぎゃ」
それに他の飛竜も群がり、飛竜たちの間で飛竜トークみたいなのが繰り広げられていた。見た目は厳つく、そして爬虫類染みているのだが―――なんというか、実に愛嬌のある連中に思えた。餌は基本的に勝手に狩猟して食べるから此方で気を使う必要ないらしいが、焼けば求めて来るその姿は実に可愛らしく、ついつい餌付けしてしまうものだった。肉を焼いて投げると、それに向かって首を伸ばして掴もうと軽く争う姿とか結構可愛らしいと思う。
ともあれ、ルーゼンまであと1日という距離にまで接近した。
途中で休みを無くせばもうちょっと移動が速いのだろうが、ログアウト等をしてリアルの事を始末したりしなきゃいけないので、ずっと飛竜の不安定な背中の上に乗っている、という訳にも行かなかった。だから何度か休みを挟みつつ移動してきた。
長距離移動をすると知らず知らず体力を消費するものだと言われているし、一応それを警戒して街道脇のスペースに今はテントを広げていた。
焚火を中心に、それぞれの個人用テントを簡単に設置し、警戒はナイトとディーヴァに任せておけば、自分たちは十分に安心して休める。焚火の周りにキャンプ用のチェアを置いてあり、焚火の直ぐ横には簡易調理セットが設置しており、アイザックが料理をしていた。
ちなみにスキルとかではなく、リアル技能だった。
「じゃんじゃじゃーん、アイザックの野営メシー。本日はいきなり帝国を出るという事になったので、少し飯に奮発して、牛肉を用意したぜー。これをこうして、こうして、こうじゃ!」
片面を焼いてから今度はそこに被せて蒸し焼きに、ローストビーフが完成したら一緒に蒸していた野菜を焚火を使って焚いていたご飯の上へと乗せて、ローストビーフ丼が完成する。ソースの方は露天市場とかに行けば、プレイヤーが再現味噌や醤油を販売しているので、それをかければ問題なし。
口の中に幸せな味が広がって行く。
「相変わらずこういう飯が上手ですねぇ」
「まぁ、寮暮らしだと飯の腕前上げなきゃならんからなー。それにほら、レンジャーって野外活動多いだろう? だから最近レシピに凝ってるんだよなぁー。ネットで見ても結構よさげなレシピ多いし」
「スキルなしというのがまた力の入りようが見えるな」
「リアルでも食べたいからなぁ、これ」
夜空の星々、月、そして焚火だけが光源となっている、完全に静寂によって包まれる夜の中、ぱちぱちと音を鳴らす焚火の音が黙れば聞こえてくる。アイザックに振るわれた飯を片手に、スプーンで米をかき込みながら肉を食い千切る。味はやや違うが、醤油の味もするのも悪くはない。肉と米という王道の組み合わせに、腹の中が満たされるのを理解する。アクセントについてくる蒸し野菜も口の中を洗うのには丁度良い感じだった。
うーん、この出来る男感。料理の出来る男はかっこいいよなぁ、とは思わなくもない。
「ふむ、確かアイザックは大学生であった、とか」
「俺とそこの眼鏡もな」
「まぁ、二人そろって寮暮らしですよ。今では珍しくもありませんが。一応弁明しておきますけど、私も軽い料理ならできますよ。一人暮らしですから。ただそっちのが美味しいというだけで」
「お前、そういう所はほんとずぼらだよな」
「コンビニ飯万歳」
いや、だって自分で作るより、出来たものを食べる方が遥かに楽だし。自分で作る時間があったら、それを別の事に向けたくならないだろうか? いや、まぁ、料理が楽しい人間には料理したいのだろう。自分はそこまで情熱を持てなかった。と、そこで色々と思い出してきた。
「夏休みも終わりが見えてきましたね」
「あー……そういや今は夏休みだから遊べてたんだな。すっかりこっちでの生活が馴染んじゃって忘れてたわ。大学始まったらイン時間制限されるの辛いなぁー……」
「もういっそのこと休学届出せばよいのでは。1年ぐらい」
「俺にダブれというのか」
まぁでも、1年ぐらい社会進出に遅れたって、問題はほとんどない。今の時代、VR世界での作業が多いから人格ではなく数値的な能力を見るし、他人と関わらない様にすれば、とことん誰とも会わずに電子的なやり取りだけで完結できる。だから1年ぐらい休んだ所で、お金の心配以外はする必要はない。
まぁ、別段お金に余裕がある訳ではないのだが。だから自分にはその選択肢は取れない。
大学が始まったら講義の時間をスケジューリングして、1日の終わりに4,5時間ぐらいログインするぐらいだろうか? それでも全体的に見ると3倍によって12、15時間は遊ぶ時間を確保できるのだが。まぁ、確かにそれだけの時間があるのなら十分と言えば十分だろう。仕事を捨てて、ゲームに生きる廃人には絶対に勝てないだろうが。そもそも、そこまで私生活は捨ててるつもりはない。
それでもこの世界に居る時間は限られている。その分、たくさん楽しもうと決めている。まぁ、大学が始まってもここに来れなくなる訳じゃないのだから、そこは問題はない。
「だけど、そう考えると一日中VRしていられるゴエモンの事が羨ましいですね」
「ふ、拙は栄養補充から下の世話まで全部介護されているぞ」
「そっちは別に欠片も嬉しくないですね……」
「考えてみりゃあ90超えたお爺ちゃんだもんな、リアルだと」
「拙も、ここでは自由だがリアルに戻った時の動けなさには絶望しかけるな。だからこそ此方に居る時間をついつい増やしてしまうのだが」
まぁ、誰だって自由に生きていられる、社会のしがらみが存在しない、新しい人生に―――そう、今までの人生の経験を引っ張ってこれるのだから、この強くてニューゲーム状態の世界で、生きて行きたいだろう。とはいえ、それが現実ではないのだから、ゲームはゲームとして付き合って行かなければならない。
「とりあえず、戻った所でしばらくレベリングはお預けですね」
「まぁ、戦争中にダンジョンへ行く予定なんざ出来ないからなぁ」
「残念ながらな……しばらくは自己鍛錬のみになるだろう……マスターは忙しくなりそうだがな」
「まぁ、私の場合戦っていない時の方が本番ですからねぇ」
新技術の実験、理論を纏める事。錬金術ギルドで上級になった事を報告して得られる特権の確認。今の所、WIKIを確認して他に錬金術師で上級に至ったという報告はないから、恐らく俺がまだトップに居る。ギルドで報告すればその情報が拡散するのは……正直どうでもいいが、それがアトリエの評判となって客が増えたらなぁ、とは思わなくもない。
でも名声って増えれば増える程、それに伴うしがらみも増えるから困るのだ。第一アトリエがないと本格的な活動が出来ないのだから、一か所に留まる必要もあるし。もし場所や土地を選ばずに、自由に錬金術が行えるようになったら、それこそ手段も居場所も捨てて放浪しながら遊ぶのも悪くはないだろう。
悪名を高めるのも面白そうだ。
とはいえ、後の話だ。
もっとだ、もっと強くなってから―――少なくとも国家に追われても捕まらなくなるような、そういうレベルになってからじゃないと悪事は成す気になれない。今はまだ、潜伏期間だ。この間になるべく力を付ける必要がある。悪名も名声も、全てはその後で手に入れる事にする。
「ま、今回の帝都遠征は最後の最後でケチが付きましたが、個人的にはついて行って後悔がありませんでした」
「そう言われると誘った張本人としては安心するよ」
「うむ、拙としても非常に貴重な経験を積めた。まさか異界の英雄と手合わせが出来るとはな。出来る事なら完全な時に相手をしたかったものだ……」
「あー……今、英霊使役スキルがAで、スキル下限まであと5分の1って所ですからねー。これが次の段階に進めれば更に記憶を取り戻す筈です」
「ほう、それは良い事を聞いた。……拙が相手をしようか?」
「お爺ちゃん、自分が楽しみたいだけだろ」
「うむ!」
物凄い元気な返事だった。隠す気すらなかった。とはいえ、英霊使役のスキルはその性質上、英霊をその本来の分野で運用し続けないとまるでトレーニングにならないのだ。ディーヴァを一日中歌わせただけでは駄目だ。
まぁ、だからナイトが一番楽である。戦わせるだけでいいのだから。とはいえ、ナイトを戦わせているだけだと自分のスキルが全く育たないので、ナイトと同格の相手がいるのは非常に助かる事だった。まぁ、ゴエモンがそれでいいのならいいのだ。
そんなこんなで、この先どうするのか等と話し合いながら夜が過ぎて行く。
夜のキャンプを終わらせて次の日の朝には再び滑空してルーゼンへと向かって行く。見慣れたルーゼンの姿は安心感を抱く他、漸く帰って来たのだと実感を与えてくれる。だが違和感に感じるのはルーゼンを空から見た景色であり、
その港が、封鎖されていた。
海路の交易で賑わうルーゼンから港を奪うという事はつまり、完全にその力を奪う事である。ルーゼンから最大の資源を奪う行いである。普通に考えて、ありえない事だった。故にその事実に驚かされながら飛竜をルーゼンの前で止め、近づいて行く。
ルーゼン内へと入ろうとしたところで、門番に止められながら、投げかけられた言葉はこうだった。
「―――お前らはどっち派だ?」
「それでは現在の情報を整理します」
ルーゼンに戻ってきたところで、さっそく自宅、つまりはアトリエへと戻って来た。そこで2階のダイニングルームで、テーブルを帝国の時の様に3人で囲んでいた。やはり落ち着くなら自分の場所が一番だな、と思いながら視線をディーヴァへと向ける。帰って来ながらディーヴァには軽く情報収集を任せたのだが、ちゃんと引っ張ってこれたのを既に確認している。
「はい、マスター。現在この都市は大きく分けて三つの派閥に別れています。その発端は迫りつつある帝国と共和国の戦争に由来し、商人たちがどちらが勝つのか、という賭けを始めた事からだったようです。それが白熱した結果、都市を運営する上層部が戦争が始まる前に勝ち馬に乗る為に帝国か共和国、どっちに乗るかで争った結果、それが派閥化という形で都市を割る事になりました」
「第三勢力はどちらでもいい、ですか」
「はい、マスター。勝った方の派閥に従うと言っている日和見主義者たちです」
「辛辣な言葉ですねディーヴァ」
「私は……いえ、差し出がましいことですので」
「喋れ」
その言葉にディーヴァは頷きながら口を開いた。
「後から勝った方に迎合すれば良い、と最終的に考える連中でもあります。ですがそれは未来が見えていない考えでもあります。こういうのは基本的に早ければ早い程味方としてカウントされ、最後の最後で従うのは敗者の行いです。共和国にしろ、帝国にしろ、後から参戦したり日和見するような連中を歓迎する事はないでしょう」
「成程、貴重な意見をどうも」
「いえ……」
ディーヴァは必要以上の事を口にしてしまった、みたいな表情をしていた。まぁ、実際こうやって主張してくるのはかなり珍しい事だった。普段どんな事をされても文句すら言わないのに。少し、面白い反応だった。とはいえ、それは今は横に置いておく。ともあれ、今は拠点となっている街が面倒な状態になっているのが問題だ。
「どうする?」
「どうするって……」
そりゃあ決まっている。
「放置一択ですね」
「そうなるか」
「まぁ、関わるだけ面倒だしな」
こういう主張等の運動に関して一番関わっているのはトップであり、派閥の主だ。そして市民レベルは単純にただの労力であり、兵力でもあるのだ。つまり市民の中にそれらの主張を行っていない奴がいたとしても、それで問題が発生する訳ではないのだ。まぁ、帝国につくにしろ、共和国につくにしろ、
「ここが戦火に飲まれるのは確定ですね。今のうちに新しい拠点を見繕う準備をした方が良いかもしれません」
「拙の経験上、こういう場所は補給の中継点として優秀だからな。飛行でたったこれだけの時間で帝都へと迫れるのだから、ここを前線基地に改造して乗り込むのも悪くはないだろう……まぁ、絶対に見逃さないだろうな」
「徴兵とかありそうだよなー」
「面倒ですねー」
本当にやばくなったら、その時はその時で逃げれば良い。持てるだけの財産を持って。アトリエだって金さえ出せば再び開く事が出来るのだから、そこまで一か所に固執する必要はない。だから個人的には気楽に研究を続けるだけだ。
「ま、丁度良い所に感情の高まりを観測できますからね。感情エーテルの実験には困らないでしょう」
「もー、またナチュラルに人体実験しようとするー」
「戦時だから人が一人二人消えた所で困らないんですよねぇ」
「まぁ、程ほどにしておけよ」
「私もまだ顔が売れて欲しい訳じゃありませんからね」
まぁ、そういう訳で、特にイベントには関わらないという方向で方針は決定した。基本的にはそのまま、そして帝国か共和国か、どっちに乗るかを決めたら警戒しよう……ということだろう。まぁ、それまでは夜逃げの準備と、何時も通り研究を続ければよい。ふぅ、と一息ついた所でさて、と声を零す。座っていた椅子から立ち上がりつつ、1階のアトリエの方へと向かう。
「じゃ、私はアトリエに引きこもるので。ゴエモンもナイトとの手合わせがしたければいつでも遊びに来てください。一応家には裏庭もあるので、荒らさないようでしたらそっちで運動してもいいですし」
「もう作業開始するのかよ……」
「私、情熱的ですから」
ニヤリ、と笑みを浮かべながら眼鏡を持ち上げれば、アイザックとゴエモンが笑い声を零す。アイザックとは既に長い付き合いだが、ゴエモンとも付き合いが長くなりそうだなぁ、と思いつつ階段を降りて、最近は使っていなかったアトリエへと向かう。
「やっぱりここが一番落ち着くんだよなぁー」
人がいないからRPを解きつつ、自分のアトリエに入る。アトリエは清潔そのものに保たれている。まぁ、流石に2週間程度で埃を被るという事はなかったらしい。一応窓を開けて換気しつつ、作業机の方へと移動し、椅子に座りながらペンとノートを取り出した。
「とりあえず―――作業の前に出来る事、発見した事、解っている事を纏めようか」
「おーい、俺達帰るからー」
「お疲れ様でーす」
アトリエの外から聞こえてくる声に返事をしながら、ノートに書きこんで行く。
錬金術に関して
・様々な学問を内包した高度な総合的学問
・全ての物質はエーテルによって構成されると認識している
・エーテルに干渉する事で物質に変化を促す
・エーテルは物質化する事で特性を保有する
・物質はエーテルの比率とバランスによって構成されている
「ま、とりあえず基本はここだ」
錬金術という学問はこのエーテルの原理を解明する事で、より深く、広く出来る事を増やして行く。その為にも多くの事を学ばないとならないのだ。
「鉱石や植物は同じ、エーテルによって構成されている。なのに同じ植物や同じ鉱石でその性質が違うのはエーテルの比率が違うのと……エーテルが物質化する際に、何らかの影響を受けて変異しているからだ」
エーテルに関して
・空間はエーテルで満ちている
・エーテルは流体、固体、気体が存在する
・安定した空間は4属性が均等に存在している
・バランスが崩れる事が災害に発展する
・4属性以外にも多くの属性が存在する
・エーテルには感情の属性が存在する
・エーテルは特定状況で変異を発生させる
「えーと……他には……」
エーテルに関して 追記
・人工的にのみ生み出せる【虚無】属性が存在する
「そうだな……虚無と無属性じゃ名前が被っちまうな。じゃ、新しく発見したほうは無属性じゃなくて―――」
エーテルに関して 追記2
・純属性エーテルという無色のエーテルが存在する
・虚無属性と純属性は真逆の性質を保有した属性である
「さて、虚無属性と純属性エーテルの違いは……」
虚無属性は
つまりエーテルの否定を行うエーテルだと表現してもいい。
調律され、安定されている空間は全ての属性比率が同じ割合で存在する事で安定している―――少なくとも空間を構成する基本4属性はそうだ。これが全て0になった状態になる事で、虚無属性が作成される条件が達成される。つまり自然的には存在できない状態である。
どんな状況であれ、エーテルから属性が消える事はあり得ない。どれかに偏る事はあっても、エーテルが存在しないのであれば物質も存在できないからだ。
つまり虚無属性が存在している空間とはつまり、何も存在しない空間であるからして、そんな空間は存在できないので、存在そのものが否定されてしまう。なので虚無属性は生み出そうとしない限りは生み出せない。そしてコントロールも非常に難しい。とはいえ、これは無の肯定を行う属性である。
コントロールする事が出来るのであれば、行える事は格段に広まる様な気がする。
「次は……純属性だな」
つまり純粋なエーテル。まだ何にも染まっていない状態。キャンバスの上に白い絵の具を乗せている状態だ。ここからどんな色にも、形にも変化する事が出来る。その上で
気体、流体の時限定ではあるが。
虚無属性が全てを0にした時に生み出されるのであれば、純属性はもっと簡単だ。存在しているエーテルから属性を抜けばいい。
この時、環境のエーテルだけじゃなくてもいいのだ。自分の体、保存しているエーテル、道具、どこからでもいい。環境を破壊しない様にエーテルから属性を抜けばいい。
例えば全ての属性が均一に存在している空間であれば、均一に5%ずつ搾取し、属性を抜くとか。或いは一つの属性に絞って1%だけ抜いて純属性に変換しても悪くはない。この純属性は融和の性質を持っている為、属性のバランスを崩す様に引き抜いた場合、
ちなみに普通に環境の属性を変動させるよりもこの処理は面倒であり、普通に一つの属性の力を高める事で、その力を増して比率を増やさせる……という方が遥かに労力が少ない。何せ、それが自然的な法則であり、純属性を使って操作するのは余計なひと手間なのだから。
「解りやすい表現をするなら……水の溜まったプールって感じか」
プールの中央に障害物を入れて広げ、真ん中にスペースを作って、解放した状態を虚無属性。プールに溜まっている水から不純物を抜いて純水にした状態が純属性。
虚無属性の扱い辛さはかなりのレベルであり、純属性の扱いやすさはかなりのレベルだ。そういう意味でも二つの属性は正反対の性質を持っていた。まぁ、肯定と否定の違いでもある。そして現状、自分の技術で虚無属性を物品という形に落とし込む事、つまりは固体状態へと変化させるのは
純属性はまた、虚無属性同様扱い辛さがあるが―――それを固形化する事は難しくはない。必要なのは気体から流体に、そしてそれを固体へと変える技術と、また一緒に全ての属性へと染まる事を拒否するだけのエーテル操作の技量だ。自画自賛になるようだが、ここら辺の技術に関しては自信がある。
「じゃ、純属性を物質化させる事を試す前に……エーテルの物質化に関して纏めようか」
エーテルの物質化/簡易錬成に関して
・エーテルは通常気体状態にある
・流体(液体)と固体に変化する事が出来る
・工程を再現する事で直接道具を生成する事が出来る
・エーテルから直接錬成された物質は非常に脆い
これは簡易錬成の事だ。悪魔に触れ、エーテルとエーテルが融合し、結合し、それが物質として形を持って行く感触、変異して行く感覚で覚えた事だった。エーテルは物質化する力を
何故悪魔は生物の力を借りなければ物質化できない?
それは生物側に物質としての特性を持っているからだと憶測される。
―――簡易錬成における手順はこうだ。
1. 空間の土属性エーテルと大気中の塵を錬成する
2. 土属性エーテルに《それは物質である》という特性が付与される
3. 火属性エーテルを利用し、製鉄プロセスを再現する
4. 《これは鋼の製鉄である》という特性が生み出される
5. 物質化し、製鐵された事で金属が生み出される
6. その形状を変化させる事で剣が完成する
自分が剣を簡易錬成する為に行うプロセスは大体こんなものである。つまりこの世に存在する物質には《固体である》、或いは《物質である》という特性が存在している。それをコンジャンクションする事によって、エーテルに物質化させる方向性を与えるのだ。
空間のエーテル率が高まった場合に災害が発生するのは、このプロセスが環境に対して作動するからだと思われる。
つまり自然的に空間環境に対してエーテルのコンジャンクションが発生している。空間は存在するものであり、そこには地面や空が存在する。その性質を得る事で、燃える空気や燃える大地が発生し、それが災害という風に認識される。
「……と、思うんだよな。流石にこればかりは実験できないしな」
まぁ、それはともあれ、気体状態のエーテルはそれそのものが物質化する性質を保有するが、それを実行するには方向性を獲得しなくてはならない。そして精神エーテル体である悪魔は同じように性質はあるが、方向性を獲得していない。だから人間等の物質的存在が必要となる。そして融合する事によってはじめて、物質化する事が出来る。
だが融合する時、エーテルの侵食によって人間の強い感情が発生してしまう。それがエーテルの汚染、或いは変異を引き起こしている。万魔殿の2層で見かけた成れの果ては
それでも解るのは街で見かけた、色欲の悪魔。そしてあの紳士風の悪魔は成功作だ。
綺麗に変異を抑え込みながら、理性と知性を持ったまま融合する事に成功している。だが紳士風の悪魔が死亡した事を思い出し、再び融合して登場した事を考えると、
「エーテル体は固体から気体状態へと帰還する事が出来る……って事でもあるよな」
この場合、エーテル精神体、エーテル霊体も気体と同じ扱い、性質なのだろうか? だとしたら既にある程度はディーヴァで物質と霊体、気体の性質に関しては実験してある。干渉が可能であり、そして同時に剥離を通して元の形へと戻す事も出来るという事だ。
……いや、それは完全に根本的な部分が混ざっていない場合に限る。
自分でさえ精神、自我の混濁があったのだ。事前に対策等をしていない場合、そのまま完全に混ざってしまうだろう。流石にそこから二つに分ける手段は自分には解らない。いや、或いは混ざった部分、その片方を消す事が出来ればまだ解らないかもしれない……。
「どちらにしろ、試さない限りは解らないか……いや、待て、そうか。虚無属性のエーテルがダメだとしても、あっちなら……」
思いつける事があった。思いついた事をノートに記載しながら、その世界では戦争等が繰り広げられそうなことを完全に頭の中から追い出し、研究に集中する事にする。何時もの通り、ナイトとディーヴァを助手をさせる為に現界し、スズメの涙程度のスキルトレーニングになる事を祈りながら、
自分の趣味、研究と実験に没頭する事にした。
Name:マスター
Level:140
Status:
AP:680/680
筋力:170 魔力:181 敏捷:170 体力:170
Title:【錬金術師:上級】【Evil】【ソウルマンサー】【プロフェッサー】【畜生メガネ】
Skills:
SP:565/625
《禁呪魂冥士:A》 《超魔力:S》 《審美眼:S》 《エーテル干渉:S》
《ポーションピッチャー:S》 《性魔術:B》 《結界術:D》
《改竄:S》 《魔眼:M》 《邪眼:S》 《幻想の色彩:M》
ちょっくら計算どこかで間違えているかもしれない。執筆中に2回ぐらいワードクラッシュして合計1万文字ぐらいトンだので……w
野生の黒幕、潜伏と成長期間中。