※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーととぅうぇんてぃつー

―――《星海深脈》探索から8日目。

 

『始まってるかー?』

 

『回ってます回ってますだからゴエモン、しきりに格好つける必要ありませんし邪魔ですし煩いです。無音だけど』

 

『拙もイケメンとして映りたい』

 

『自重しろよお爺ちゃん』

 

 深海、《珊瑚荒野》東、観測所から少し急いで40分ほど進んだエリアには珊瑚が他のエリアよりも少なく、小さくなっている場所となっている。その理由は、そこへと到達し、見てみれば一瞬で理解できる。今、30メートル程距離の開いた空間の先には、巨大な存在が見える。それは足だけでも人間の体の太さを超えるだけの大きさを誇り、のしかかられればそれだけで即死出来るだろうと理解できる、そんな巨大な姿をした亀(・)だった。

 

 そう、この深海の環境に亀が存在しているのだ。

 

 まるで岩山の様な甲羅を背中にしているが、その甲羅が僅かに黄金の輝きを内側の亀裂の中から見せているのは、それが星の光である事を証明していた。そしてそれは亀裂の奥を覗き込めば更に強く光っているのが見える。溜め込む様に、発する様に。その亀の甲羅一つが鉱脈だったのだ。この深海の中で圧縮され、磨かれ、そして生み出された。亀は此方が観察している事を一切気にせず、地(・)底(・)に(・)噛(・)み(・)つ(・)い(・)て(・)大(・)地(・)を(・)食(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。それがここ数日で発覚した、亀の―――《星鉱亀》の主食だった。

 

 甲羅を伝い、体の中を透かして見れば、呑み込まれた星属性が拳ほどのサイズまで圧縮されている。《星鉱亀》のサイズはもはや40、50メートルは超える巨体であり、どれだけの年月を経たのかは、その姿では想像すらできない。だがそれでも、感じられる殺して、取り出しても途切れなさそうな安定した星属性の塊は、体内にある拳ほどのサイズの物だけだった。

 

 近づいても、興味がないのか、反応する様子はなかった。

 

 背中によじ登って甲羅を軽く叩いても、反応する事はなかった。

 

 だがこの亀は、殺気を向けた瞬間、水中であるのを忘れるような軽やかさで跳躍し、体を金色に光らせながら威嚇して来るのだ。だがそれ以上何もしなければ、攻撃してくるような事はない。この深海の生物は、地上と比べて実に独特なのだ。

 

 なるべく動こうとしないのだ、この領域に居る生物は。

 

 言葉を変えてみれば極(・)限(・)ま(・)で(・)エ(・)ネ(・)ル(・)ギ(・)ー(・)を(・)温(・)存(・)し(・)て(・)い(・)る(・)とも言える。この深海は属性によって環境が変異しており、まともな食糧となる植物や生物が存在せず、適応した生物は僅かなエネルギーか、或いは土などを食って生きている。その為、極限までエネルギーを使用しない様に、なるべく無反応になっている。そうしなければ恐らくは、食事をしなければならないからだ。

 

 食事が必要な回数を減らすという事は、それだけエネルギー補充せずに生きていられるという事でもある。その為、極限まで動かず、殺意の存在しない、静かなデスフィールドが出来上がったのだと思っている。極限まで何もせず、耐え続けて来た生物。その結果出来上がった荒野は、どこまでも堅牢で、そして命が沈み続ける場所だった。

 

 そこで見つけたこの亀は、丁(・)度(・)良(・)い(・)チ(・)ャ(・)レ(・)ン(・)ジ(・)先(・)だった。

 

 大きくて攻撃が当てやすく、達成感がありそうで、そして欲しい物を持っている。

 

 なら狩らなきゃ嘘だ。

 

 慎重であることが大事なのはそうだが―――そもそも、探索に来ているのだ、偶然自殺しに来た水竜以外にも成果が欲しい。そして折角ならそれで戦争に参加している連中を煽ろうぜ! という素敵な意見が飛び出て来たので、三馬鹿決議で決定する事にした。この圧倒的アウェーな水中、海底の中で、

 

 あの馬鹿でかい亀を狩ろう、と。

 

 お前を換金してやる。

 

 俺らの経験値にしてやる。

 

 お前という存在をまず最初のトロフィーにしてやる、と。

 

 《星鉱亀》が存在する荒野のエリアに存在する《星鉱亀》は、決(・)し(・)て(・)一(・)匹(・)で(・)は(・)な(・)い(・)のだ。荒野を歩き、そして見渡せばこの巨大なサイズの生物が、10、11と見える。更に進めばもっと居るのかもしれない。だがちょっかいを軽くかけて逃亡した感じ、お互いの生死に興味を持つ様子はなく、1匹だけ釣りだして殺せそうというのを数日かけて、調べ出した。

 

 毎日少しずつ、少しずつ時間を消費して調べ出し、手に入れた情報だった。

 

―――この深海の底で、一つの成果を出す時が来た。

 

 最高に、馬鹿をしながら。非論理的で、効率なんてまるで関係なく、そして無駄に煽るだけの行いだ。馬鹿々々しいし、真面目に考えたらやらない方がいいのだろう、当然ながら。誰が制限、秘匿エリアを生放送しながら自分よりも遥かに強い雑魚エネミーに挑むというのだ。

 

 だけど、それぐらい馬鹿の方がゲームとしては面白いのだからしょうがない。

 

『うーし、殺るぞー』

 

『準備はいいですかー?』

 

『何時でも行けるぞ』

 

『何時でも』

 

『お任せください』

 

 距離をある程度開けて、亀の全体を、そして他の仲間やナイトとディーヴァを完全に投入した状態で準備に入った。此方から向けられる戦意と殺気に反応し、少し前まではまるで反応を示さなかった亀が鉱脈を更に光らせ、星の光を侵食する様に体に纏わせながら、重(・)力(・)障(・)壁(・)をその身にまとった。それでその体重をコントロールしているのか、恐ろしく重く、鈍重であるはずの肉体は海底を蹴って上昇し、此方が形成しそうであった包囲網から逃れる様に、全体を睨めるように動いた。それを目撃する他の亀がめんどくさそうに歩き去り始める。

 

 それを追う事もなく、皆が動き始める。その皆の動きを常に視界の中に収めつつ、情報と環境の整理を行う。

 

 新しく習得―――統合、変異を起こす事で発現した新しいスキル《界眼》はもっと世界を見たい、もっとこの眼で多くの真理を見つめたい。そのモチベーションを、願いを反映する様に生み出されたスキルだった。

 

 その能力はシンプルに視る事。

 

 エーテルの流れを。情報の流れを。物事の性質を。それを視るだけのスキル。

 

 この上なく、自分にとって最も欲しかったスキルだった。

 

『喉元に力が集まってきています。おそらくはブレスですね』

 

『遮断します』

 

 亀がノータイムで着地から黄金のブレスを吐き出した。それは進路上の空間を歪め、圧縮しながらひき潰す星属性の重力ブレスだった。触れれば強度に関係なく鋼を引き千切る必殺のブレスに正面から飛び込むのはナイトの姿だった。そのややさび付いた槍に勢いを乗せ、ブレスと触れる瞬間にだけ光を乗せて叩きつけた―――水という質量、その中にある海属性との接触を最低限に、最短の時間に抑え込むような神業。ブレスの接触の瞬間だけに合わせて力を出す事で、衝撃でブレスを切り裂き、それを分断する水の流れを生み出した。

 

 そしてその動きに一瞬が生み出されれば、アイザックが最速の攻撃を放った。水中の抵抗を受ける事のない霊矢は戦闘開始前から弦を引き、チャージし続けていたアイザックのチャージ時間に合わせ、ほぼ砲撃とも爆撃とも表現できる速度で亀に衝突した。

 

 だが肉体に触れる事はなかった。

 

 触れたのはその体に纏われた、重力による障壁だった。金色に輝くそれが一瞬だけ強く輝き、衝撃と破壊を呑み込む様に捻じ曲げ、喰らい、そして相殺し合って光が弱まる。

 

 その瞬間、亀の足が吹き飛んだ。

 

 障壁が消えるそのタイミングに合わせてディーヴァが引き金を引いていた―――出現する銃は全長4メートルで、その半ばから地面へと打ち込む様に固定する為の杭が突き出たような長大なライフル、地上であれば片腕というハンデを背負っている為に振るえないそれが、皮肉ながら水中ではさほどの重量が発生しなくなる影響で片腕で構える事の出来る代物だった。その化け物銃によって前足が片方吹き飛び、亀がそれに反応して素早く体を甲羅の中に戻そうとし、

 

 口を閉ざして素早く引き戻そうとする、無防備な瞬間の首にゴエモンが食らいついた。

 

 一閃。

 

 決められた連携、動き、そして調べ上げた相手の形、特性から想定される動き。そして《界眼》によって読み取った情報から予測できる相手の対応。その全てによって構築された、相手を詰みへと導く為の連携は、ゴエモンに対して体を守る為に無防備になる、その一瞬を差し出した。

 

 普通の熟練者であれば、その一瞬を突く事は出来るだろう。

 

 この海底で、水中という環境を想定するなら、熟練者でも無理だろう。

 

 だがこの男、普通ではない。

 

 水中であろうなかろうと、その刃の冴に一切の陰りはない。首が引っ込もうとするその瞬間には、一時的な魔力の大量投入によって水圧が極限まで軽減され、薄くなった水中の中で地上と同様の速度で動き、

 

 刀の一閃でその首を完全に切り飛ばした。

 

 亀の巨体がゆっくりと地底に倒れ、音と水流を生み出しながらずどん、と音を響かせた。凄まじい重量がそうやって、完全に死亡した事を知らせる中、自分たちは今、この海底における一つの大きなチャレンジに成功したのだ。その達成感が胸を包むのと同時に、《界眼》が水の中を素早く泳いでくる流れを掴んだ。

 

『血の匂いに惹かれて水竜が大量に向かって来てます! ナイト! ゴエモン! ディーヴァ! ここからが本番です! アイザックも解体を早くお願いします!』

 

 とはいえ、達成を喜んでいる時間もない。楽しさに笑みを浮かべながら、濃厚な血の匂いに群がってくる鮫の様な水竜を相手に時間を稼ぐ為の指揮と迎撃準備を仲間へと指示し―――この《星海深脈》での一つの結果を生み出した。

 

 

♦

 

 

「えー、それではみなさーん、もったかー? よしよーし、そんじゃ!」

 

「かんぱーい!」

 

 3人でジョッキになみなみと注がれたビールをぶつけ合わせ、それが軽くはね散る事を気にする事もなく笑いながらそれを口元へと運んで、口を付ける。久しぶりに飲む酒だった。普段は余り飲まない物だったが、こういう時ぐらいは別だ。流石に今回は大、という言葉を付けても良いレベルでの成果だった。そうなってくると少しぐらい酒を飲んでハメを外したくなってくる。

 

 何せ、それぐらいに高揚する出来事で、楽しかった事だったのだから。

 

 だから地上、ペルソナの宿で、一角を借りつつ、気分が良いので不景気そうな冒険者連中全員に此方から酒を無料で振る舞いつつ、料理をテーブルの上に並べられるだけ並べ、その上で豪快に酒を飲んで宴会に親しんでいた。ここ最近は内戦と、帝国・共和国間で勃発した影響でかなりの不景気だったらしいが、この大量注文のおかげで助かったとペルソナには言われているし、何も問題のない宴会だった。

 

「うははははひゃひゃっひゃ! 見たかよ動画の再生数! 生放送と動画の再生数で軽いお小遣いになるぜ!」

 

「素材の方もかなり良い値段で売れたな」

 

「いやぁ、もう笑いが止まりませんねぇ」

 

 あの亀の肉を目的に襲いかかって来た水竜の群れを全て殺す事は出来なかったが、それでもあの無駄に硬い甲羅を遮蔽物にすれば、相手の動きを制限できる為、それを利用して軽く水竜を狩る事が出来た。そのおかげで臨時収入となり、亀と水竜を合わせてかなりの値段になったのだ。

 

 水竜が1匹500万から600万で、それが合計6匹。

 

 肝心の亀は甲羅が大きすぎるので、その一部をゴエモンに切断して貰って運んでもらい、それでも大きな甲羅で値段は800万、口の中に在った星属性の牙は1本120万なのが合計8本、体内には精錬された星属性の鉱石が存在し、

 

「―――いやぁ、まさか精錬メテオライトが1個で1(・)5(・)0(・)0(・)万(・)も(・)す(・)る(・)な(・)ん(・)て(・)思いもしませんでしたねぇ」

 

「ぼろい! ……っては言えないのが辛いな。ぶっちゃけ、一人でも欠ければ倒せない相手だし」

 

 完全に相手の動きの先読みを、そして同時に性質を読み取る事でプロファイリングなどを可能とする、鑑定や確認、エーテルの読みを可能とする《界眼》で完全に相手の思考と対応を読み取る。

 

 水中という環境に関係なく攻撃を行え、また減衰せず重力障壁を突破できるだけの破壊力のある一撃を放つ事が出来る、アイザックは時間経過で威力、射程、破壊力が上昇するロマンスキルを取得していた。これがないと亀の動きを衝撃で停止させる事も出来ない。

 

 そしてその後で生み出された隙を確実にとって切り込めるだけの技量が存在するゴエモンが居ないと、トドメに入れない。ナイトは防御、ディーヴァは崩しに運用する為、首を一撃で確実に落とせる手合いが必要だった。

 

 全員が役割を完全に完遂する事によってようやく成立する、パ(・)タ(・)ー(・)ン(・)ハ(・)メ(・)だった。

 

「あの亀が経験年数の割に戦闘経験が少なく、思考が簡単で助かりました。恐らく深海そのものに害敵となる様な存在がないのか、それとも闘争という行動自体が非常に希少なのでしょう。あの水竜も常に深海に居ない事を考えると、恐らく普段はもっと日の当たる場所に居るんでしょうね」

 

「迷う事無く体当たりとかされたらそれだけで即死してたからな、俺ら」

 

 あの亀はまず最初に逃げる、という性質をしている。それを利用して囲い込む様に接近すると、それを嫌がって飛び出すのだ。それを逆に利用して、相手のブレス攻撃を誘った、というのが今回の作戦だった。懸念はあの甲羅だけではなく、皮膚そのものが鋼の様な強度をしている事だが、そこら辺は技量のあるゴエモンには関係がないので問題はなかった。

 

 これが連携による狩猟というものだった。

 

 大変気分が良い。

 

 この3人が揃って初めて出せる戦果だったのだから。もはや三羽烏として固定されている感じがあったが、

 

 お前ら戦争? 苦しんでる? そう……俺たちは未知を冒険してるけどな!!

 

 と、いう感じで非常に煽れて楽しい事もある。まぁ、ヘイト軽減用にこうやって大きく散財する必要もあるが、それはそれ。やっていて楽しいのだ。優越感の一つでもなければやってはいけない。別に、有名になりたい訳じゃないのだ。ただそれはそれとして、なんか認められたい。承認欲求というよりは……自己顕示欲。まぁ、人並みにある。

 

 自分一人だけだったらそんな事を考えないが、パーティーとして活動し、何かを達成すると、それを見せつけたい気持ちがある。一人で満足する悦に浸れる研究とは違い、こういう成果は煽ってナンボだ。それに焚きつけられた連中が更に動き出して活性化するものだ。

 

 それでもうちょい、錬金術にハマる人が増えたらいいなぁ、とは思う。

 

 目立ってるのはゴエモンばかりだが。

 

 酒が入ると普段はちょっと感じない高揚感を感じる。偶にはこういうのも悪くはない。頭が固い事ばっかり言っていてもだめだし。とはいえ、そろそろ話を切り出そうとする。片手でビールの入ったジョッキを握り、ペルソナに追加で料理を注文しつつ、

 

「それで……この中から個人的に何かを買い取りたいって人いますか? 私個人は水竜が一匹、素材として活用したいので欲しいですね」

 

「あ、俺も色々と材料になるから欲しいな。矢の材料とかにも使うから1匹は欲しい」

 

「拙はそのような職には就いていないからな……金さえ貰えれば良いな」

 

「では4匹をそのまま売却し、売り上げを均等に分配、そこから水竜1匹500万支払って購入って形でいいですか?」

 

 ちなみに1匹500~600万とは基本的な値段であり、需要次第では上がったり下がったりする。それでも4匹で最低2000万は硬いだろう。それを均等分配すれば一人当たり最低600~700万は入る。そこから250万を購入しなかった二人へと支払って素材を引き取る……という形に分配ルールだ。

 

 身内だからもってけ、という話はダメだ。

 

 ここら辺は身内パーティーであっても、しっかりと分配ルールを決めておかなければならない。これで同じクラン所属であればまた話は別なのだろうが、そういう繋がりでもなく、個人的な友人関係なのだ。親しき中にも礼儀ありという言葉がある。それに従い、最低限のマナーは守らなきゃいけない。という訳で、水竜の行方に関しては決着がついた。

 

「問題は亀の素材の方ですね」

 

「ぶっちゃけ、クッソ高くて個人購入が出来るって訳じゃないんだよなぁ」

 

「拙、隕鉄欲しいで御座る。……ござる」

 

「えぇい! 私だって欲しいですよ!」

 

 だけど1500万だ。拳サイズで1500万もかかる。しかもこれ、《空の鍵》を作るのに必要な素材の一つなのだ。だからここで出来たら入手しておきたい。何せ、1回で錬成が成功するとは限らないのだから。失敗を考えてある程度ストックしておきたいのが事実だし、アイザックも、ゴエモンも、素材として欲しいだろう。二人共、腕の良い鍛冶屋へと持ち込めばそれを特別な武器に加工する事も出来るからだ。

 

「しっかしドロップに関しては全体ドロじゃないってのが極限まで不親切だよな」

 

「逆に言えばリアルだから、でしょうけど……それで、メテオライトを引き取れる人、いますかここに?」

 

「現時点で個人資産600万しかねぇわ」

 

「拙は200万程度だな」

 

「私も材料揃えるのに赤字叩き出して今は100万程度ですねぇ」

 

「お前、素材を売らずに研究用に全部確保しようとするからな……」

 

 アイザックはそこら辺、矢尻の作成ぐらいにしか素材を使わないので、割とお金が余る。ゴエモンは趣味で珍しい刀剣類を見つけると直ぐに購入してしまうらしい。その為散財が激しいとの事。そうなると安定して貯金できているのはアイザックだけだ。しかしこうなると、

 

「売る以外に選択肢がありませんね」

 

「残念だがそうなるな」

 

「ま、これでもまだ1個目だ。また亀を狩ればいいんだよ。均等分配で一人500万だろ? 牙が合計960万を分配して320万、甲羅は―――」

 

「あ、私買います」

 

「……あぁ、メテオライトと牙売った金額で足りるのか……つーか、我慢すればあと少しでメテオライト届くんだからさぁ」

 

「いや、解ってはいるんですけど、研究材料欲しいじゃないですか……」

 

 切り取った甲羅だったサイズは10メートルを超えているし。それをちまちま削って研究したいのだ。どうやって圧縮されたり、何故あそこまで鍛えられる事が可能なのか、とか。調べたい事はたくさんあるのだから、滅茶苦茶欲しいのだ。第一、メテオライト程ではないが、あの甲羅にも濃い星と海の属性が蓄積されているのだ。だからエーテル操作技術を使えば、地上でも海と星の属性エーテルを確保する事が出来るのだ。

 

 と言うか正規手段だとこれしかない。

 

 だから星と海属性をストックする為にも、欲しかったのだ。とはいえ、メテオライトがあれば小規模ながら星属性を生産する道具が生み出そうなのだ。だからそこまで我慢するというのも一つの選択肢だ。実に悩ましい……。

 

「とりあえず、牙が欲しい人はいますか?」

 

「本命に向けてパス」

 

「拙もだな」

 

「甲羅は?」

 

「パス」

 

「同じく」

 

「じゃあ遠慮なく甲羅は私が買い取りますね」

 

 そうやってパーティー内で取得したものに関してを相談し、売却し、そして分配して行く。ゲームの仕様として全員が同時にドロップを受け取れるわけではなく、素材の奪い合いがある程度発生する為、こうやって理性的に話し合って、取得したものをどうやって分け合うのか、というのを相談しなくてはならない。やや面倒な事ではあるが、それでも冒険する以上は必要な事でもあった。

 

 それにこれから、《星海深脈》で自分が行ける範囲を探索した後は、別の禁足地へと向かおうと考えている。

 

 帝国か、或いは共和国か。まだどちらに行くかは決めてはいない物の、それでも禁足地を回り、ギルドを回り、自分の錬金術師としての位階を上昇させようと思っている。少なくとも、この錬金術師の上級という位階は、上へと上がる為の層の中では最も厚いものの一つであり、超級に至るにはかなり難しいという話をNPCから聞いている。

 

 少なくとも、NPC基準だと数世代経て、才能が花開いて到達するような領域らしい。

 

 こうなってくると明確に何か、条件があるのだろう。それを探す為にも各地のギルド、禁足地を回らなくてはならない。そしてその為には今のうちに、パーティー活動での経験を重ねなければならない。そしてその為にも今はなるべく、研究と深海の攻略を行わないとならない。

 

 知れば知るほど世界が広がり、同時に謎も深まる。特にあの先輩錬金術師、テオフラトゥスがしていた事とか、自分にはまるで解らなかった。

 

「戦争……どうなってるんですかねぇ」

 

 結局の所、それが問題だった。戦争。帝国と共和国の間での戦争だ。これに進展がない限り、自由にこの大陸を歩き回る事が出来ない。とはいえ、まだ戦争が開始してから5日しか経過していない。それで戦争が終わるとも思えない。

 

 ぶっちゃけ、月単位で戦争は続くだろうなぁ、と思っている。戦争が続く間はポーションとかの需要が上がるのが良いが、徴兵とかが原因で治安が下がり、また旅費もかさむ様になる。その結果、自由に移動できなくなるのが非常に辛い。

 

「もう既に10回衝突しているらしいぞ」

 

「多ッ!」

 

 アイザックの発言に思わず反応してしまう。10回という事はつまり、開戦してからの5日間、大体1日2回衝突しているという事だ。正直、そこまで憎しみを溜め込んでいるとは思っていなかったのだが。そこまで帝国と共和国の関係は悪かったのだろうか?

 

「いや、帝国側についたPCと共和国側に付いたPCが戦争状態に発展した瞬間、お互いにテロをかまし合って一気に炎上した」

 

「うわぁ……えぇー……いや、うん、まぁ、プレイヤーの感覚ならそうもなりますか……」

 

 軽く引きながら、世界観も社会もクソもねぇな、という感じで口の中に持ち込みの素材―――水竜の刺身を食べる。口の中で溶ける様に消えて行き、何もつけていないのに程よい塩味のするそれをしっかりと頭の中に記録しつつ、まぁ、確かに、プレイヤーならこうか、と納得する。

 

 つまりは、まぁ、イ(・)ベ(・)ン(・)ト(・)として見ると、暴れるチャンスなのだ。連中にとってはイベントは活躍すべき所。どれだけ暴れてもシステム的に報酬が出るから、イベント開始直後からスタートダッシュを決めて殴り飛ばしたほうが良い。実際、ルーゼンの都市防衛戦ではプレイヤーが最前線で大きく暴れる事が出来た。その上で活躍したプレイヤーには運営から報酬が出たのだ。

 

 だがそれが今となっては罠になっている、と思う。

 

 なにせ、今回は運営から報酬が出る、とかアナウンスはないのだ。暴れた所で何かプライズが出る訳ではない―――いや、それで勝利すれば国からなにか、報酬が出るかもしれないだろう。ただ、普通のシステマチックなゲームだと判断して突撃すると、まるで人が生きている様に設定されているこの世界を、ゲームそのままだと思って遊んでいると絶対に失敗する。

 

 いや、前提としてゲームなのは事実なのだが。それを忘れてはならない、これはゲームなのだと。ここが異世界だとか、そんな幻想は抱いてはならない。だがワールドシミュレーターに近いこの世界の中で、元来のゲーム的なゲームの様に動き回れば、自分から首を絞める事になるだろうと思っている。

 

「プレイヤー討伐令とかでなきゃいいんですけど」

 

「流石にトップの暗殺未遂とかなければ大丈夫であろう。拙の知り合いも軍に入って階級を得ていたしな」

 

 その言葉にゴエモンに視線を向ければ、サムズアップが返ってくる。

 

「元将校の友人だ」

 

「色んな意味でガチ勢」

 

 そっか、お爺ちゃんにも現役時代の友人というものがいるんだな、と理解する。だが待て、それって現代のドクトリンを理解している本当の意味でのガチ勢じゃないだろうか? 士官学校出ているタイプの。良くあるロールプレイの為に勉強したとかじゃない、純粋な将校。

 

「……」

 

「……」

 

 アイザックと数秒、無言を維持してから忘れる事にした。帝国か共和国か、どちらの軍に入ったのかは、聞くことはやめた。とはいえ、このゴエモンの様なリアルガチ勢かリアル修羅勢、探してみれば意外と存在しているのかもしれない。そんな事を考えつつ、分配などの話を終わらせ、持ち込んだ素材等で料理して貰ったり、店のメニューを注文したり、時を過ごしながら話題を転がして行く。

 

 軽く店内を振り返れば、仕事の無い冒険者たちが酒を飲み、つまみを食って騒いでいる。ここしばらく、戦争が勃発した影響で冒険者の仕事は大きく減っており、その代わりにプロフェッショナルの傭兵の仕事が増えている。治安維持のための兵士たちも歩き回っており、その影響で街中全体がピリピリしている。この前、衝突があった事の影響もあり、通りを歩いているだけで睨まれ、場合によってはボディチェックを受けさせられる。異邦人だったり店を構えていたらまだ身分の証明があるのでマシなのだが、

 

 特に社会の底辺と認識される冒険者への目はきつい。

 

 だからこうやって、大量に酒と飯を誰かの金で食えるのは良いガス抜きになる。店内はそれで盛り上がっている。無論、払った此方に対しても良い印象を残してくれるだろうという思惑もある。だが純粋に、こうやって楽しく騒いでいる姿は見ていて楽しい。

 

 ただ、何時までもここで騒いでいるという訳にも行かない。

 

「……明日から毎日、亀を1匹ずつ討伐しません? そしてメテオライトは売却せずに1個ずつパーティーの共有財産として保存、3個入手した時点でそれぞれに分配という形で」

 

「まぁ、お互い欲しいし、そうやって共有して保管しておくのがいいか。今回のは売却?」

 

「あれだけ派手に煽ったのだ、1個売って市場に流したほうがやっかみは少ないだろう」

 

 生放送やめれば? という話だが、人生で一回はやりたい事だったから反省の概念は誰の中にも無い。それはそれとして、

 

「つかさ、《珊瑚荒野》を探索するのはいいけどさ……最終的な着地点はどうする?」

 

 アイザックの言葉はつまり、何時まであそこに籠っているか、という話になる。万魔殿で長期間、戦い続けると環境に慣れて取得経験値が減るという話は既に知っているのだ。そしてそれがスキル方面でも影響すると。そこを考えるとずっとあそこに引きこもっていられる訳じゃない。何より、あんな危険な場所でずっと居たい訳でもないのだから。

 

「とりあえず、目標作らないか? あそこでの活動に関して」

 

「目標金額でも設定するか?」

 

「或いは次のエリアへの入り口とかを見つけてみますか? 恐らく今の実力では《珊瑚荒野》だけで限界でしょうが」

 

「つか1日1匹しか亀と戦えない辺り、今でも割とぎりぎりを超えた範囲だと思う」

 

 まぁ、1戦1戦の消耗が割と馬鹿にならないのは事実だ。亀を1匹殺すのに数日かけて調査し、反応や習性、食性を調べて確実に殺せるパターンを想定、構築し、その上で個人の技量と技術に頼り切った連携によって殺しているのだ。しかも亀の場所まで片道で40分も必要とする。大きく安全マージンを取った探索が1時間で、限界活動が3時間。行き帰りを考えれば合計80分、つまりは1時間と20分必要とする。そうなると残された探索時間は1時間40分だ。

 

 この間に倒せる亀を選び、準備し、倒し、解体し、そして素材を獲得しながら血の匂いに群がる他のエネミーから逃亡するのだ。

 

 これでもかなり辛いのだ。

 

 ぶっちゃけ、サクッと殺せないならサクッと殺される環境だ。

 

「あまり、馴染むレベルで居続けるべきじゃないと思います」

 

「どっかで切り上げるべき、か。どれぐらいがいいと思う?」

 

 アイザックの言葉にゴエモンが指を二本立てた。

 

「二週間? その心は」

 

「戦争初期の混乱から落ち着きが出て、帝国と共和国の本格的な衝突が終わった頃、威力偵察を終わらせて双方の反応が見える頃であろう」

 

「にゃーるほど」

 

 2週間後となれば大体戦争開始から3週間程度になるだろう。確かに開戦からそれだけの時間が経てば、戦争は衰えなくても、全体的な流れが見えて来るだろう。まぁ、それでも終わるまでは数か月単位で時間がかかると思うが。戦争状態にも安定期等が存在する。常にお互いを攻撃し続ける訳ではないのだ。3週間もすれば全体的な流れも見えて来る……その時、どうすればいいか考えればいいだろう。

 

 とりあえず、

 

「本日の成果に」

 

「この友情に」

 

「楽しき日常に」

 

「―――乾杯」

 

 声を揃えてビールの入ったジョッキをぶつけ合わせた。

 

 

♦

 

 

 翌日、亀を更に狩った。

 

 2日連続の成果に沸き立つも、星鉱亀の生態とも言えるものが見えて来た。やはり、殺意と言えるものが非常に低い。深海という環境で、干渉してくる存在が少ないのが最大の理由なのかもしれない。何よりも狩猟している間に、周辺の亀が興味を示してこない、というのが不気味だった。明確な殺意が向けられない限りは反応すらしない深海の謎は、亀を狩れば益々謎が深まるばかりだった。

 

 

 だがそんな環境の中で、狩猟出来たのは事実だった。パーティーの共有財産に追加しつつ、またまた一つ、大きな事を達成する事が出来た。このペースを守ろう、と3人でパーティー財産に亀から採取したメテオライトを保管しつつ、その日の狩りは終わる。まだまだ動けるが、疲れと万全を期すことを考えれば、これぐらいの日帰り調査が一番安全なのは、レベルが150に到達した所で変わりはしなかった。

 

 故にそこに気を使って活動すれば、3日連続で亀を狩る事が出来た。

 

 つまり3人分のメテオライトの確保に成功する。そしてそこで亀の討伐を止めることを決定した。

 

 そこには幾つかの理由がある。最初の理由は、亀を相手にすると他のエリアを探索するだけの余裕がなくなるから、という事にある。亀を相手にする限りは一つの範囲しか移動できず、他の所の探索を進めないという事にある。解体、そして周囲を警戒しながら移動する事に余りにも時間がかかりすぎて、それだけでその日の探索を終わらせる事になってしまう。その為、必要数を揃えたらやめたいというのが一つ目の理由。

 

 2つ目は生息数だった。見た以上に存在するのか、見た数しか存在しないのか。観測所から遠くに移動できない以上、目の範囲に居る亀で全部なのかが解らない。そしてこの世界、モンスターはエーテルによる変異で生まれるか、生殖によって増える種で別れている。この亀に関しては進化と繁殖を繰り返したタイプなのは、生殖器を見れば解る。自然発生するタイプであれば、生殖器の類を保有しないからだ。つまり、繁殖して増える以上、殺し尽くしたらそれ以上増えなくなる。それは困るし、環境破壊を行うとギルドからも睨まれる。その為、最低限の数で抑えたいというのもある。

 

 最後は需要と供給だった。現状、亀の素材を、星属性を含ませる素材を市場に一度に大量に流すと相場が崩れる。大量供給によって一時的に懐は潤うだろう、だけどこの戦時中に組織としてではなく、個人でそんな事を行えば、間違いなく商人に睨まれる。そうすると、最終的に地獄を見るのは此方だというのは解りやすい。

 

 個人で強い奴がいる?

 

 連携して指名手配して飯を食わせず休ませなければいいのだ。

 

 個人がどれだけ強く、一人で街を破壊出来る実力があっても、数の暴力には勝てないのだ。社会的な意味で。

 

 そういう意味で亀狩りは美味しいのだが、非常に美味しいのだが、ここで打ち止めだった。というか止めざるを得ない。それは仕方のない事だった。そういう訳で素材も金も最低レベルで取得した所で、別のエリアを探索する。

 

 亀が存在する東、蟹の居た北、更に深淵へと進む南―――となると西が残る。

 

 新たな冒険を求めて、西へと進む。

 

 此方は他の場所とは違い、普段は非常に邪魔くさい珊瑚が少ないエリアだった。逆に言えばもっと闇が深く、普段は闇に隠れている魚や生物たちが自由にしている環境だった。闇の中、その中でも光を生み出す灯が照らす中で、数メートル級の魚が悠々と泳いでいるのが見える。

 

 その形はどこか、シーラカンスに近かった。

 

 体が岩の様な甲殻を被っていなければ。

 

 他の方角へと移動したときは一切目撃しなかったこのシーラカンスモドキだが、闘争心はなくても、それなりに知性か興味心があるのか、此方が深海を歩いて移動しているのを目撃すると、ゆっくりと近づき、そして周囲を泳いでいた。その姿は最初は不気味に見え、ゴエモンが刀を片手に警戒をしつつも、殺気を身にしまいながら迎撃状態を維持していた。

 

 だがシーラカンスモドキはどうやら、本当に害意はなく、この深海の過酷な環境としては珍しい、普通の生物だったらしく、周辺を軽く通り抜ける様に泳ぐだけだった。珍しく危険でも何でもないそんな生物に驚かされるが、サンプル取得用に1匹、捕獲して観測所へと運ぶこととなった。

 

 クーちゃん12世に続く、観測所のペットの追加だった。

 

 今度は食べられないから2世になる事はないから、名前は鬼嫁となった。なんでも、顔がゴエモンのリアルワイフに似ているかららしい。

 

 なお水槽が狭かったのが原因か、鬼嫁は次の日には死んでいた。ゴエモンが泣きながら鬼嫁と叫んでいた光景は久々に爆笑させて貰った。しかもこの後リアルでその事がバレてリアル鬼嫁から鉄拳制裁を食らうという事実に更に爆笑し、二人そろって呼吸困難に陥るという馬鹿々々しいイベントが待ち受けていた。

 

 そんな事で鬼嫁MKⅡとクーちゃん13世を新たに観測所へと運び込みつつ、西側エリアの探索が進んだ。

 

 とはいえ、西側エリアがその端へと到着するのは数日で済んだ。

 

―――西側のエリアには壁があったのだ。

 

 正確に言えばこの深海へと通じる絶壁だった。どうやらこの《星海深脈》をぐるりと囲む壁の様な岸壁、絶壁、西側エリアはそこに極端に近かった……というよりは観測所がどちらかと言うと西端に近かった、という事だった。どうやらこの西側エリアは基本的に《星海深脈》の端の方であり、中心部は東南の方に存在している様だった。シーラカンスモドキが蟹や亀の様な大規模な変異、進化をせずに岩の様な外見を―――つまりは土属性の影響を受けたような姿をしていたのは、比較的外に近い環境に存在する生物だったから、なのだろう。

 

 そうやって西側エリアの調査が始まる。

 

 

♦

 

 

『うーん、魔力の使用量が減らせてこっちは楽ですねぇ』

 

『そうなのか?』

 

『えぇ。どうやら純粋な水圧だけではなく、重力によってある程度引き寄せられる様に圧縮されていたようですね。その影響で普通の深海以上に水圧が強かったみたいです。まぁ、普通の深海なんて突撃した事ないんですけどね』

 

『してたら驚く』

 

 リアルで深海に行く機会なんてねぇーよ! と笑いながら西側エリアを探索する。相変わらず直ぐ近くにシーラカンスモドキが泳いでいる。調べた所、名前が深岩魚、と深海の中では比較的、珍しくないモンスターであったらしい。図書館の生物図鑑を調べれば、あっさりとその姿を見つける事が出来た。逆に言えば水晶蟹や珊瑚は図鑑に載っていないので、間違いなくこの《星海深脈》特有の生物なのだが。

 

 正面には壁の様に地層が広がっている。一応、壁伝いに上へと向かって移動する事は可能だ。だがこの場所の正確な位置が判明しない以上、いきなり海のど真ん中に出ても困るし、この上がサメの巣だった場合地獄を見るだけなので、ここから浮かんで探索するなんてことはしていない。だからやっているのは壁沿いに移動しつつ、何か他に生物や取得できそうなものがないかどうかを調べる事だった。

 

 新しく習得したスキル、《界眼》は鑑定、鑑識、観察系統のスキルだ。

 

 これは今までの視る系統のスキル全てを内包する上に、視たものの性質や状態を理解させてくれる優秀なスキルだった。その能力のおかげで素材を見た時、錬金術として利用できる性質を理解する事が出来る。

 

 例えば珊瑚に含まれる性質は《金属質》《集光》と《軟体》等。

 

 含まれる性質はつまり、それを錬金術でどんなものとして、どんな素材として使えるかを見る事に使える他、エーテルの操作によってできる範囲が広がるという事でもある。手持ちの素材を使えば簡易錬成の精度を上げる事が出来る他、見える範囲が広がったおかげで、星属性等を抽出し、前以上に利用しやすくなった。

 

 その反面、150レベルで取得する固有スキルは全て、Fランク、つまりは最低状態からスタートだった。

 

 SPを消費する場所は見当たらず、コスト下限も見えず、不明な状態になっている。

 

 おそらくは条件を満たした時にスキルランクが上がるのだろう、と予想されている。現在判明している最高ランクのスキルも似たような仕様らしい。上級と呼べる領域に踏み込んでから一気にスキル関連の伸びが悪くなるのはやはり、ネトゲらしかった。

 

『うーん、しかしものの見事に何もないですねぇ』

 

『外れの方だからな……やはり中央に戻るべきではないか?』

 

 壁に軽く触れながら調べつつ、《界眼》を使って地層を見て、そして調べる。そこに何か、普通とは違う組成がないのかを。だが見える範囲では延々と、普通の地層が続いているのしか見えない。西側エリアは全体的に外れではないか? というのがこの数日での判断だったが、

 

『―――いや、ここはなんかあるぜ』

 

 それをアイザックが否定していた。地層に手で触れながら、調べる様に叩いては横へと移動し、調べて行く。その動きには慣れたものが見えた。

 

『なぁ、眼鏡。何も違和感を感じないんだよな?』

 

『えぇ、まぁ』

 

『となると、お前の前に来た奴がきっと偽装したんだろうな』

 

 アイザックの言葉に首を傾げていると、アイザックがマトックを取り出した。何をするかと思えばそれを振り上げ、そして地層に向かって一気に振り下ろした。水中の抵抗を受けながらも鍛えられた筋力がその威力を増幅させる―――この深海の領域では、それでも無意味だ。そう思いながらアイザックの行動を見ていたら、

 

 その切先が壁に食い込んだのを見た。

 

『ビンゴ! 柔(・)ら(・)か(・)い(・)ぞここ』

 

『ん? んん??』

 

 アイザックがマトックを突き刺した所をもう一度《界眼》で確認するが、そこには普通に構成された地層の姿しか見えなく、土とそのエーテルによって埋め尽くされている様にしか見えない。だが星の属性も見える……構成はこの地底と全く同じで、マトック程度突き刺さるどころか折れる筈なのだ。

 

 筈なのに……アイザックのそれは、真っ直ぐ突き刺さっていた。

 

『良く解ったな』

 

 ゴエモンが刀を取り出して、アイザックに協力し始める。壁の採掘に更にナイトを投入し、筋力ゴリラ三人に壁を崩させて行く。この硬い地底と比べ、恐ろしいほどにザクザクと破壊されて行く壁にアイザックがはは、と笑い声を念話に零す。

 

『恐らくこれをやった奴は眼鏡と同じ技術者なんだろうな。同じ系統の能力で見たら全く違和感を抱かないだろうな。だけどレンジャーからすりゃあその新旧ぐらいは見分けがつくもんさ!』

 

『ふむ、つまり地層が比較的新しいから違和感を抱いた、と』

 

『周りが数千年レベルでの古さの中、一気に数か月レベルでの地層を見つけたらそりゃあ違和感を抱くだろ?』

 

 確かに、その通りだ。そこは盲点だったなぁ、と軽く頭を掻きながら反省する。自分一人でここを探索していれば、おそらくは一生気付く事の出来なかった事だろう。やはり、それぞれの分野に精通した存在が居ると話がまるで違うなぁ、と感心する。

 

 それはともあれ、アイザック、ゴエモン、ナイトがガンガンと偽装を剥がして行き、

 

 やがて、その奥に通じる道を発見する。完全に暗闇で満ちている洞窟を発見した所でお互いにハイタッチを決めて、やるじゃん、とアイザックの背中を叩きつつ、ナイト、アイザック、自分、ゴエモンという隊列を組んで闇の中に進んだ。ここまで人為的に隠されて場所があるのだ、

 

 何もない、というのは絶対にありえない。先頭と殿に奇襲対応が出来る味方を配置しつつ、洞窟内を進んで行く。水圧が進んで行けば行くほど段々と低くなっていくことに、この先、どこかの空間に繋がるというのを感じながら更に進んで行く。

 

 水圧が減った事で使用する魔力も減り、洞窟は奥に進んで行き、段々と上へと向かる道に変わり、

 

―――光が、見えた。

 

 水圧の軽減具合はもはや《海神の宝珠》なしでいても平気なレベルにまで軽減されていた。つまりほとんど地上に居るのと同じようなレベルまで下がっていた。光が見えて来た事実に少しだけ警戒しつつ進み、

 

 やがて水面を割って出た。

 

「―――」

 

 そして、言葉を失った。

 

 そこは全てが蒼に包まれた空間だった。水面が、光が、壁が、人さえも蒼く照らされる空間だった。僅かに青色に染まった洞窟の壁からはまるで敷き詰められたように天然の宝石が見えて、その中に浮かんでいる蒼海が洞窟内部を照らしていた。それが天然光代わりに洞窟内に光を与えていた。優しい海の色が全体を包み、そしてそこに僅かに混じる星の属性が、拡散させずに光の濃度と密度を保っていた。

 

 また、宝石のような植物が育っているのも見えた。《界眼》で解析してみれば、それはクリスタルフラワーの亜種であり、錬成物だった。宝石花、それも蒼海のアクアマリンを材料としたもの。海属性を吸収し、それを酸素に変換するという鉱物と植物を融合させた存在。それがこの洞窟内部に酸素を生み出しており、普通に呼吸と声を出す事が出来た。

 

 つまり、ここは誰かの意思によって維持されている空間だった。だがそれが理解していても、目の前の光景に言葉を失っていた。

 

 美しい景色だった。

 

 壁一面のアクアマリンが静かに輝きながら洞窟内部を照らして、どこまで見ても蒼海の色が続いている。この洞窟そのものが宝石のようにさえ、感じられた。誰もがその景色に言葉を失い、そして呆然と眺め、

 

「……すげぇ。こんな場所があったんだな」

 

「うむ。これなら何故入り口が隠されていたかも解るな」

 

「えぇ、独占する為でしょうね」

 

 アクアマリン一つでもそれなりに高価だが、蒼海のアクアマリン、それも天然物となると数倍の値段が付くだろう。それがここで、壁一面、床一面、天井一面とどこまでも続いているのだ。これを両手いっぱい採掘して持ち出すだけで、しばらくは生活に困る事もなく遊び尽くせるだろう。少なくともそれだけの価値があった。

 

 頭を軽く横に振ってから水面を出て、端から洞窟の中へと上がり、辺り一面のアクアマリンを鑑定する。だがやはり、そこに出て来る結果は天然物だった。この洞窟内のアクアマリンはどうやら、本当に天然に出来たものだったらしい。

 

「……とはいえ、洞窟自体は天然じゃないみたいですね」

 

「歩きやすい様にしたような形跡があるな……とはいえ、気になる事もある」

 

 ゴエモンの言葉に洞窟の壁に触れ、その強度を確かめながら、奥へと続いて行く道を確認する。洞窟の壁には一(・)切(・)の(・)傷(・)が(・)存(・)在(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)のだ。まるで開く様に横に退けて、道を生み出したような、そんな形状をしている洞窟だった。つまりこの洞窟は採掘によって生み出されたのではないのだ。その事を考え、腕を組み、首を捻り、そして天井を見上げてから視線を下ろした。

 

「……つまり洞窟を作る必要があったが、それはこのアクアマリン以上に重要な事の為に?」

 

「もっと金になるものが奥にあるとか?」

 

「行こう」

 

 お爺ちゃんのスマイルが見えた。結構こう見えて貪欲だよなぁ、と思いながら笑い声を零し、全員で海から体を引き挙げ、とりあえず探索する事にした。

 

 その洞窟は凄まじい程に穏やかな空間だった。先ほどの深海は静かだったが、ここは穏やかだった。また先ほどの海とは違った配合率で海と星が混じっている結果だろうか? ここはなんと言うか……眠くなる。そういう魔性があった。それ故に少しだけ意識を覚醒させながら歩いて行けば、

 

 ボロい程にアクアマリンが拾えた。

 

 採掘なんてしなくても、壁からアクアマリンが剥がれ、それを手にする事が出来た。何かをしたわけでもなく、普通にそこら辺に落ちているのだ。それも天然でかなりの高品質。原石がごろごろ落ちている状態には、流石に笑い声しか零れない。しかも歩けば歩くほど解るのだ、

 

 ここには生物の気配が一切存在しない。

 

 文字通り、ゼロだった。

 

 生物以外のエネミーが存在して来るのか? と警戒しながら進んでも、まるで環境が変動しない。というよりこの深海の中の空間としては珍しく、非常に安定した場所だった。意図的に作成された洞窟、酸素を生み出す為の植物。ここはあの観測所の様に、整理された安全な場所だった。まるで襲われる心配もない、そんな環境。ここで一晩休んだとしても大丈夫だろう。

 

 とはいえ、休む必要もない程度の消耗しか今はない。

 

 そもそもここは観測所に比較的に近いエリアで、本格的に探索すべきエリアの反対側とも言える場所にある。だからここで休んでいても意味がないのだ、ぶっちゃけ、観測所の方が休む場所にはいいのだから。

 

 敵もいなければ道も歩きやすい。

 

 そういう事で止まる理由もなく奥へ、奥へとこの洞窟を進んで行く。歩きながらお互いに考え着くのはこの先に、何が待っているのか、だ。

 

 やはりここまで凄まじいまでの海属性と宝石で溢れかえっているのだ―――極大のアクアマリンが眠っているのではないか? と予想する。だがそれを歩きながらアイザックがいやいや、と否定する。

 

「寧ろこりゃカモフラージュだろ。アクアマリンで満足させておいて、奥の方に隠し部屋を用意して、そこに本当の財宝とかを隠してあるんだよ。良くあるだろ、ゲームとかで。隠しダンジョンの隠し部屋に最強武器が眠ってるの」

 

「拙は金があるといいなぁ。一度でいいから最高級娼婦を買いたい」

 

「お爺ちゃんそればかりですね」

 

「拙だって、若返ったのなら楽しみたい」

 

 まぁ、それが許されるのがVRという世界だ。そんな風に軽口を交わしながらも警戒心を下げる事なく進んで行くと、段々とだが下へ、下がって行くのが解っていた。それにつれて空気はもっと静かに、そして清(・)廉(・)な気配を感じる様になってくる。空気が更に綺麗になる様な感覚だった。

 

 その気配に喋るのを止めて、奥へと進めば―――段々と、洞窟が開けてくるのが見える。

 

 アクアマリンの回廊を抜けた先の景色が広がった。今までの洞窟、その回廊よりも遥かに、広く、そして高かった。どこまでも天井が高く存在し、そしてその先を水が満たしていた。そこからは潮の匂いがした。この広がりにある空間も、どこかで深海と通じている、そんな空間だった。

 

 見た目だけで言えば一種の地底湖に近かった。

 

 だけどその広さが次元違いだった。

 

 数キロという広さをその広間はしていた。天井が続いているのはあくまでもそれまでの広さであり、地底湖―――いや、洞窟海はその下で更に広がっていた。

 

 空間の天上一杯に広がる宝石は夜空の星々の様で、回廊同様、全ての空間を揺蕩う蒼色に染めていた。揺れるアクアマリンの色が世界を照らす中で、透き通る水面の下が見えた。

 

 そこに見えるのは白だ。

 

 白―――大きく、太く、そして大量に存在する白の色。

 

 それは骨だった。大量の骨が存在しているそこは一瞬、不吉な場所へと踏み込んでしまったのでは、と勘違いしそうになる。だがそこに穢れの気配は存在しない。洞窟に入った時からそうだった。ここにはそういう怨念と言えるもの、負の感情とも言えるものが存在せず、穏やかで、そして安らげる空間だった。

 

 もはや何度目かになる、言葉の喪失。

 

 静かで、骨が大量に眠るそこは、まるで荒らされた形跡が存在していなかった。ある意味、聖域、そんな言葉が脳内に浮かび上がり、そして納得できた。ここには魂が眠っているとも感じ取れた。安らかに、静かに、少しずつ、少しずつ眠りながら溶けて次の循環へと消えて行く様に―――その為の場所だった、ここは。

 

 誰にも見つからない、触れられない、巨大な存在の、

 

「―――鯨の墓場、ですね、ここは」

 

「すげぇ……」

 

「……」

 

 感嘆の声を零す中、ゴエモンは両手を合わせて短く祈っていた。その姿を見てからもう一度、視線を墓場へと向けた。

 

 恐らくそこは、誰にも邪魔されず、静かに眠り続ける為の場所なのだろう―――ここまでなぜ道を繋いだかは知らないが、それでも入り口が隠されていたのは、ここを下手に荒らされない為なのだろう。それを理解し、軽く頭を掻き、スクリーンショットを取るだけに留め、景色を胸に刻んだ。

 

「……帰りましょうか」

 

「おう、そうだな」

 

「ここはこのままにしておくのが良いだろうな。拙の様な者たちが邪魔する場所ではない」

 

 その言葉に大いに同意しつつ、数秒ほど、この景色を独占する様に心の中に刻んでから出ていくために背を向けた。

 

 その時、ネクロマンサーとしての直感に引っかかるものがあった。

 

 安らかに鯨達の魂が眠っている中で、少し騒がしくしている気配が感じられる。

 

 流石に自分も、一応は良識のある人間だ。そして美しいものが何であるのかも知っている。流石にこのまま、この美しい景色を、静かな場所を乱す原因をそのままにしておく事は、したくはなかった。

 

 珍しく善行の一つでもするか、と、去ろうとするアイザックとゴエモンを止める事にした。





 Name:マスター
 Level:150
 Status:
 AP:730/730
 筋力:170 魔力:186 敏捷:180 体力:210
 Title:【錬金術師:上級】【Evil】【ソウルマンサー】【プロフェッサー】【畜生メガネ】
 Skills:
 SP:578/668
 《禁呪魂冥士:S》 《エーテル干渉:S》 《ポーションピッチャー:S》
 《性魔術:B》 《結界術:A》 《界眼:F》

 美しい物を見よう。他人では見る事の出来ない美しいものを。それが冒険の醍醐味と特権である。

 なお、取得物というかある程度の検疫とでもいうチェックが外に出る前にはある。乱獲による環境破壊とかを行うとやべーので、当たり前なのではある。環境の再生などもゲームではなく法則基準なので、絶滅させれば当然ながらもう生まれてこない生物も多い。

 なので冒険者になって最初に学ぶのは殺し尽くしていい奴と、適度に残さなくてはならないモンスター。

 なおリアル話、リョコウバト辺り「数が少ない? じゃあ殺し尽くそうぜ!」ってやったのが人類。
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