※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーととぅうぇんてぃふぉー

「―――おう、インゴット加工終わらせたぜ。やっぱ星鋼(メテオライト)とかを弄るのは楽しいな。こういう仕事ならいつでも歓迎だ」

 

「では此方が料金の程ですので」

 

「おう、また来いよ」

 

 インゴット化されたメテオライトをインベントリの中へと収納し、鍛冶屋を後にする。これで《空の鍵》を作るうえで必要な材料は揃った。インゴットは一つしか存在しない。だからインゴットを消耗するような形での失敗は許されない。それを肝に銘じながら、鍛冶屋からアトリエへの帰路を往く。なんだかんだで新しい錬金術に挑めるのは楽しみなのだ。今の自分は上級、ジョブの中でもここが一番層が厚い場所だと言われている。そこを抜けて超級に、世界そのものの中でも指折りの存在になる事が楽しみだ。やはり上を目指せるというのはいい。それが社会的に認められるのも愉悦を感じる。

 

 俺がそれを見せれば、誰もが俺を追いかけて来る。

 

 俺(・)の(・)後(・)ろ(・)を(・)追(・)い(・)か(・)け(・)る(・)のだ。

 

 これが楽しくない訳がない。

 

 段々と欲深くなって行く自分の性を自覚しながらも、もう少しだけ買い物をするか、と考えてそのままアトリエへと帰るのを止めて、別の場所へと向かう事にする。どうせなら戦争、早く終わってくれないかなぁ……と思いつつ、向かう先は何時も利用するのとはまた別のギルドだった。朝ではあるが、鍛冶屋でそれなりに時間を潰した事もあり、段々と活動的な時間帯に入っており、ギルド周辺には人の姿が増えていた。

 

 ちょくちょく、此方へと視線が向けられるのを感じる。その原因は恐らく自分がアップした動画と、横に浮かんでいる黄昏色の子鯨が原因なのだろう。

 

 しかしそれを感じながらも考える……これだけ注目をあの動画で集められるなら、禁足地での活動を動画にして本格的にアップを始めれば、それなりの収入になるのではないだろうか?

 

 少なくともネットゲーマーという生物は未知の領域や情報、環境というものが大好きだ。それ以上に独占という言葉が嫌いだ。だから動画を通して専用とも言える環境を見せれば、金になるのではないだろうか?

 

 まぁ、それはおいおい考えるとする。それよりも今はテイマーズギルドに入る。帝国を出る時に一度利用したギルドだが、ルーゼンのもかなりの敷地を誇っており、裏にはどうやら飛竜も飼っているようだった。そう言えば交易の都だったな、とルーゼンの内戦する前の様子を思い出す。となると商人やらで需要が高いのかもしれない……移動手段が。

 

 実の所、バイクや車は存在する。軍用トラックとかも、割と希少ではあるが存在する。だがそれは科学技術を大きく発展させた帝国の特色であり、ルーゼンや共和国の様な他国では珍しい移動手段でしかない。騎獣などを躾けた移動手段の方が遥かにメジャーとなっている。まぁ、帝国がおかしいのだ。チートしてるの? というレベルで技術力が高いのだ。これに勝つのは相当難しい。

 

 なら共和国の勝利は難しいのか? と言えば違う。共和国はその性質上、細かい小さな国家や大国が寄り添う事で出来た一つの議会制の国であり、旧国家は今では州の様な扱いであり、その形態を説明すれば現代の国家であれば、アメリカという表現が一番ふさわしいのかもしれない。帝国の様な完全統一された軍隊が存在する訳ではないのだ、共和国は。纏まりで言えば薄い。その代わり、合併と共生によってそれぞれの旧国家群の文化は死ななかった。その影響で、所謂チャイナタウンみたいな、伝統や文化を継承する場所が非常に多い。

 

 つまり旧来の文化、技術継承が国家内でちゃんと行われているのだ。帝国はそこら辺、旧イギリスの文明侵略の様に自分の文化で上書きし、産業革命に近い形で帝国へと色を塗り替えている結果、そういう文化継承が失われている。そして共和国の中にあるそう言う技術や文化の中には、オンリーワンの危険なものも存在している。それが恐ろしく強かったり、統率されている軍隊を突き抜ける部分を持っていたりする……らしい。

 

 少なくともWIKIやニュースサイトやまとめサイトを見ている感じ、共和国の強みはそういう所だった。

 

 現状、帝国と共和国の争いは5:5で落ち着いている。ただし、この均衡を生み出したのは所構わず双方の陣地で暴れてテロをかましているプレイヤーたちの手によって発生している物だと思われる。

 

 個人的に、プレイヤーの干渉が予想以上に辛いので、帝国と共和国では一旦矛を収めるべきじゃないかなぁ、と思っている。個人的な感情とは別に、プレイヤーサイドがこの戦争、少々無秩序に暴れすぎている。とてもだがまともな戦争ではなくなっていると思う。戦(・)争(・)に(・)だ(・)っ(・)て(・)ル(・)ー(・)ル(・)は(・)存(・)在(・)す(・)る(・)のだ。だけどそれをプレイヤーが考慮する必要はないだろう。そしてしないだろう。

 

 それが現地の人間からすれば非常に困った事だ。

 

 ……考えが逸れた。

 

 テイマーズギルドに入った所で人は増える。そして此方へと向けられる視線も増える。EX:Worldを始めた直後は、なるべく目立たない様にしよう、と思っていたのになぁ、と心の中で笑いつつ、今では真逆の方向を進もうとしている自分の指針に少しだけ、楽しさを覚えた。それはそれとして、カウンターの方へと近づき、ギルドの制服姿の受付に話しかける。

 

「失礼、少々探している物があるのですが恐らくここのギルドの管轄ですので聞きたいのですが」

 

「ハイ、ようこそテイマーズギルドへ! 上級アルケミストが何の御用でしょうか? 一応飛竜素材の在庫はありますよ?」

 

「いえ、ちょっとこの子の事なのですが」

 

 そう言ってギルド内を悠々と泳いでいたトワを魔力で生み出した第三の手で掴んで、そのまま引っ張り寄せる。そしてそのまま、逃げられない様に両手で掴んだまま、受付に見せればふむ、と少しだけ思考し、成程、と声を零した。

 

「デプスホエールの幼体……の霊、ですね。それも変異種とは中々珍しいですね……私もこの種の変異種は初めて見ます。この様子だと本来のサイズは28……いえ、33メートルに届きませんか?」

 

「流石ですね……」

 

「いえいえ、此方の専門ですからこれぐらいの目利きは当然です」

 

 やっぱ専門家に話を通すのが一番早いな、と納得する。

 

「実は騎乗用の道具一式を揃えたいのですが……そこらへん、知識がないのでどうとも」

 

「騎獣の事ならテイマーズギルドで正解です。此方では契約職人に頼んでオーダーメイドの装具も作成しています。自分で全部やるよりは多少経費が嵩みますが、それでも仕事の方は満足できるものに仕上げられると確信しています」

 

「そうですか。では依頼の方をお願いします」

 

「了解しました。それではあちらの扉から裏の広場の方へとどうぞ。其方の子の採寸や何が必要なのかを調べますので。えーと、部長―! 此方のお客様からの依頼です! 親方の方をお願いしますー! あと―――」

 

 早速仕事に取り掛かる姿から視線を外し、ギルド内の扉を抜けて、通路を歩いてそのまま、裏の方へと出る。そこは広場になっており、様々なテイミングされた生物が走り回ったり、テイマーによって訓練されていた。牛、熊、猫、犬、馬、狼、狐、飛竜、様々なテイミングされたペット達がまずここで主との連携を行ったり、動作確認を行ってちゃんと指示に従って動けることを確認し、練習している。

 

 普通のテイマーとはこういう感じなのか、と見ながら思う。

 

 自分は完全にテイミングスキルを英霊使役の為のパーツとしか考えていなかったから、こういう光景はちょっと新鮮だった。第一、ナイトもディーヴァも、命令さえ出せば自己判断で最適解を選んでくれるから、こうやって練習する必要もない。優秀な部下を持つと上司は楽だ。まぁ、それはそれとして、

 

 興味深げに、しかし興奮しながら30cmほどのサイズのトワが広場を飛翔し、それぞれの生き物を見て回っている。新しく見るもの全てに興奮しているのがその様子からは窺え、やっぱり子鯨だな、とどこか、苦笑を誘わせる光景だった。そしてひとしきりトワが飛び回った所でそれを呼び戻すと、その頭を軽く撫でた。

 

「さて、そろそろ本来の大きさに戻しますから、大人しくするんですよ」

 

「きゅ」

 

 ネクロマンサーが霊と語り合う時は、言葉を使っているが、実際には言語がどの種族であろうともちゃんと通る様に、直接魂へと伝えたい意味を伝えている様な形になっている。その為、子鯨であろうと、此方の伝えたい言葉や意味はちゃんと伝わっているのだ。だから理解する様に小さくトワが鳴き、巨大化しても大丈夫なように空に更に浮かんでから―――本来の姿を取り戻させた。

 

 30メートルを超える黄昏色の鯨。それがデプスホエールと呼ばれるこの生物の正式名称らしい。デプス、つまりは深淵、ホエール、つまりは鯨。深淵の鯨。安直ではあるが、解りやすいネーミングだった。しかし黄昏色をしているのだから、トワイライトホエールとか、そういう感じのネーミングでいいんじゃないだろうかと思う。まぁ、デプスホエール変異種という響きも中々かっこいいと思う。

 

 トワの全体は黄昏をしている。上半分が黄昏色で、ヒレから下、腹の部分は白くなっており、両側にヒレを四つずつ、合計で八つ備えているのがいかにもファンタジーな鯨らしい。尾びれもかなり大きく、それでビンタされようものなら飛竜でさえミンチに出来そうな大きさがある。しかしその体に武器と呼べるような器官は何一つ備わっていない。それ以外では大体見た目がほぼ鯨のままなのだ。それでいて、これで幼体なのだ。成体のサイズは……墓場の骨で思い出す。

 

 海で泳いでいたアレは、最古参クラスの老体なのだろうか……?

 

「きゅぉ―――ん」

 

「はいはい、いい子ですね」

 

 巨大化したトワの頭を軽く撫でる。大きくなった所で、その中身に変化はない。とはいえ、その体を浮かべる為の疑似海は更に巨大化し、波飛沫が周辺に軽く散っている感じ、ちょっと邪魔になってないかなぁ、とは思う。そんな事を思いながら視線を周囲へと向ければ、全力でSSを撮影する様に角度を確保しようとする人たちの姿が見えた。迷惑になるとか、そんな事はなかった。物凄い興奮しつつ目をキラキラさせ、同時に話しかけるかどうかを悩む、日本人らしい姿が見える。

 

 楽しそうだな、おい。

 

「おーおーおー! 面白れぇもんを連れてるじゃねぇか!」

 

 そんな声に振り返れば、別の扉から複数の男を連れる、少し腹の出た、ゴーグルを被った男の姿が出て来る。おそらくは彼が親方、と呼ばれる職人なのだろう。トワを眺めてから此方へと視線を向け、

 

「成程、騎乗用の装具を作れ、って話か」

 

「えぇ、霊体ですし、サイズも魔力次第で可変なのでそこらへん、少々私には判断が難しくて」

 

「いやいや、ウチ(ギルド)じゃアンデッド系統のペットも扱ってるから心配いらねぇぜ。霊体や可変に関するノウハウもあるしな。両方合わせたのは中々珍しいけどな。んで、武具の類はいるのか?」

 

「いえ、快適に乗れるようにしたいだけなので」

 

「うっし、なら割と簡単だな。よーし! お前らぁ! 採寸すっぞー!」

 

「おぉー!」

 

「じゃ、もう少し大人しくして居てくださいね?」

 

「きゅーん」

 

 広場全体に響くような音を聞きつつ、親方の弟子達が作業に取り掛かる。一斉にトワに群がろうとし、近づき、疑似海に突っ込むとそのまま重力によって引き寄せられ、そのまま空へと向かって射出された。

 

「ヒャッハ―――!」

 

 楽しそうに空を回転しながら飛んで行く親方の弟子たちを、親方と並んで無言で眺めていると、空に飛び上がった飛竜が弟子を回収しに行く。それを眺めていた弟子たちが、今度は俺が採寸する……! 等と言いながら疑似海に突っ込み、そのまま弾丸の如く空へと向かって射出された。

 

「楽しそうな職場ですね」

 

「楽しくなきゃ就職しねぇよ……んな事よりも俺も混ぜろよ……!」

 

 親方も突っ込んで回転しながら空へと射出された。それを飛竜が空中でキャッチせずに、ぺしり、と叩いて叩き落した。そろそろワザと空に射出された連中の回収が面倒になって来たらしい。本当に大丈夫かなぁ、と思っていると、真面目に連中が働きだした。疑似海の中からがダメなら、そのまま空から、という事で飛竜に吊るされた状態で疑似海には触れない様にしつつ、素早く採寸して行く。流石その道のプロフェッショナルか、そこら辺の作業は早く、真面目にやり出せば一瞬で終わらせてしまう。

 

 その後も実際に手で触れたり、背中に乗って硬さや感触を確かめ、軽くトワに動いてもらってどれぐらい揺れるのかを確かめたりしてから、戻ってくる。親方の手にはボードに張り付けられた紙と、そこに走り書きが色々と書き込んであった。かなり詳細に描かれたトワのモデルに、ちょっと驚く。だが本職なのだから、これぐらい出来なきゃダメなのだろう、と納得する。

 

「霊体だから大丈夫かちと心配だったが、兄ちゃん中々良い腕をしているみたいだな。おかげで特に問題なく製作に着手できそうだ。一応こんな風に上にマットを敷いてから、鞍の様に席そのものを設置する感じになるぜ」

 

 親方がスケッチして見せるのは、トワの背中に言葉通りの物を設置する絵だった。マットの上に、こう、天井の無いボックス席の様な物を設置する……御輿の方が言葉のニュアンスとしては近いだろうか? それをトワの背中に設置する案だった。これなら確かにその大きな背中でくつろぐことも出来るだろう。飛竜とは違い、足を伸ばした横になる事も出来る設計だ。広さは馬車よりもある。

 

「霊体適応と伸縮適応をどちらにも含めるからな、値段としちゃあ大体こんなもんだな」

 

「むぐ、三ケタになりますか……」

 

「ま、流石にな。だけどこんなのを連れてるんだ、払えない額じゃないだろう?」

 

 腕を組みながら軽く唸る。いや、払えない額ではないのだ。だけどアトリエの設備拡充、そしてメテオライトのインゴット作成の代金、そういうのを含めて大分手持ちが寂しくなってくるのは事実なのだ。だけどなぁ、と考える。トワはこれから移動する上での要なのだ。帝国にも共和国にも、飛行という地形を無視した手段で、しかもその上で休めるという乗り物なのだ。移動時間を遥かに短縮し、尚且つ色々と利便性に優れている。しかもこの子鯨は霊体だから、休まずノンストップで移動できるのだ。

 

 普通の馬や飛竜の様に、休みを挟む必要がないのだ……。

 

 その為の先行投資と考えたら……まぁ、安いのだろう。とはいえ、

 

「負けられません?」

 

「これで安くしてるんだぜ?」

 

「うーん……仕方がありません、即決しますか」

 

「よーし! じゃあ契約書にサインよろしくな」

 

 取り出した契約書をちゃんと確認してからそこにサインをし、控えを受け取って商談が成立する。高い出費となってしまったなぁ、と軽く頭を掻きながら困った表情を浮かべるが、これもこれからの活動を考えての事だ……大人しく受け入れようと決める。何せ、今ではこの狭い一つの大陸だけだが、アップデート次第では新しい大陸も出て来るのだろう。そうなった場合、飛行手段が無ければ移動もままならないだろう。だからこれは仕方がない……仕方のない事なのだ、と自分に言い聞かせる。

 

「トワ、もういいですよ」

 

「きゅおーん!」

 

 小さくなったトワが再び突撃して来るので、それを回避しつつテイマーズギルドを後にする。能天気にトワが擦り寄ってくるのは、自分に対するプレゼントだと思っているからだろうか? 何とかしてまたお金を稼がないと辛いなぁ、と考え、やはりギルドに薬を卸す必要があると理解する。

 

 共和国に行く前に、軽く金策しておく必要があるかもしれない。

 

 海底探索で得た亀やら蟹を売った金は割とある。だがアトリエの施設を拡張したり、最新のものに取り換える事を考えるとお金が四ケタで飛んで行く。その事を考慮すれば、お金なんてあった所で常に枯渇する。どこかに美味しい儲け話はないものか……そう思いつつ、今度こそアトリエに帰る。

 

 

♦

 

 

 空の鍵の材料は全てルーゼン周辺で入手できる。これは、材料に強い星属性を保有する金属が必要な事に通じ、星属性は空間というものを象徴する属性でもあるからだ。ルーゼン近郊の深海、つまり《星海深脈》の星属性の大きな歪みは、少なからずルーゼン全体に影響を与え、その生態を少しだけ、本当に少しだけ変えているらしい。フレーバー的……というか公式設定の話になるが、プレイヤーのスタート地点が魚鱗島なのは、この空間・重力異常による結果、プレイヤーが存在する異世界と繋がりやすい地域だから、という理由らしい。

 

 まぁ、類似品は幾つか存在するらしい。空間移動のアイテムは誰もが夢を見る道具の一つだから当然と言えば当然なのだろうが。だがこのアイテムに限っては、ルーゼンで素材が全て揃う。

 

 必要な物はこうなる。

 

 メテオライトインゴット。《シスカの瞳》。《夢幻の羽》。霊木。

 

 このうち、メテオライトインゴットと霊木はほとんどそのまま、素材であるし、他の所で加工を頼めるものなので簡単に素材が揃う。というか揃えた。インゴットは素材を自前でインゴット化を依頼した。霊木の方は流石に伐採関連の専門家が必須の採取グループなので、自分で調達しに行かず、ギルドに仲介して貰った業者から購入するという形で入手した。

 

 だが《シスカの瞳》と《夢幻の羽》は錬成物だ。

 

 《シスカの瞳》は宝石に分類される。此方は自然には生成されない物であり、複数の宝石を混ぜる事で生み出す事の出来る宝石だ。豊穣を示すシスカ神に奉納する為の貢ぎ物として認識されており、《フロストサファイア》、《フレアルビー》、《アーストパーズ》、《ブレスエメラルド》、《ナルダイアモンド》と呼ばれる属性宝石の中でも特に上位に入る5種類のそれを錬金術で一つに融合させる事で、覗き込むと四季の色に揺らめく不思議な宝石が生み出される。これが《シスカの瞳》だと云う。

 

 次に《夢幻の羽》は夢の中に侵入する為の道具だ。寝ている対象へと向かって振るう事で、対象の夢の中へと侵入する事が出来るというアイテムであり、これは悪用できる範囲が広く、一般的な販売は禁止されている規制品だった。上級の錬金術師にしか作成できず、またその必要とされる材料の一部をギルド側で管理する為、ルーゼンのギルドではないと購入できないシステムになっている。材料はルーゼン近くの岬を縄張りとする海鳥《ルーゼン・シーバード》の群れのボスが持つ海鳥の煌羽、夢魔の血、エーテル値3の睡眠薬、そして祝福された聖水。睡眠薬以外は全部ルーゼンで手に入るし、夢魔の血は娼館で分けて貰える。睡眠薬の作成は難しくないので、パパっと作成して完了させてしまえる。此方は下準備が楽だ。

 

 面倒なのは《シスカの瞳》の作成だ。前提となる材料は全て錬成品だ。その上で普通の属性宝石を複数混ぜ合わせる様に融合する事で生み出せるハイグレード品なのだ。前回何個もアクアマリンを割って作った《蒼海のアクアマリン》、アレを複数消費して生み出す上位の宝石だと思えば早い。

 

 つまり宝石の中身を抜いて、属性を詰め込む作業が最初だ。

 

 まずは《フロストサファイア》を作る前提として、《氷結のサファイア》を作成する。ネーミング大丈夫? 作った人実は名称に困ってない? とか思いつつアトリエで作業を開始する。

 

 と言っても、《エーテル干渉》がMとなり、深海という環境で常に属性を保つ事で生存をし続けるという地獄の経験を経た今、エーテルを操る指先は繊細な仕事を十分にやってのけるだけの器用さを手に入れていた。

 

 サンキュー、禁足地。いい経験だった。

 

 ファッキュー、禁足地。もっと奥を冒険したかった。

 

 あのカオス重力窒息空間、呼吸用の薬を飲んでいても海の属性が強すぎるから呼吸できるのに窒息するし、重力がおかしいから唐突に横(・)に(・)落(・)ち(・)る(・)し、数秒間に一度変動しそうになる環境を常に一定に保ち続けないといけない、それを操作するエーテルに対する干渉能力が生存を分けるので、属性を込める程度もはや造作もない。

 

 経験が活きた。本当に。

 

 アクアマリンの時にそうしたように、サファイアでも同じことをやれば、《氷結のサファイア》が4個簡単に作成できる。

 

 問題はここからだ。

 

 この4つを融合させるのだ。

 

 物質を一度、半流体状態にまで溶かす―――この時、完全に流体にしてしまうと、中の属性の塊が外側の溶けたエーテルと混ざってしまう為、そうしない様に注意しつつ、中身と中身を、宝石と宝石を結合させ、それを圧縮させるように融合させるのだ。そうして半流体だったものを結合させて、固体へと戻そうとすれば、反発作用で元の形を取り戻そうとする。だが同質の異物が混入している為、それを強く固め、圧縮させ、強固に概念を強化する。性質が増幅されるのだ。

 

 結果、サイズが一回り小さくなる。

 

 その代わり、水色の宝石の中では、雪が降り始める。解けては降る。その無限ループを永遠に繰り返す宝石が、《フロストサファイア》が生み出される。

 

「ふぅ、これで1個目―――スペアに更に10個用意しなくては」

 

 失敗を想定し、多めに《フロストサファイア》を作成する。つまりは10個作成する為に1個につき《氷結のサファイア》4個、合計40個の《氷結のサファイア》を作成し、それを10個の《フロストサファイア》へと変換する。これで保険を兼ねた1セット完了である。

 

 これをそれぞれの宝石の為に繰り返す。

 

 そうする事で《シスカの瞳》を作成する素材が5セット分揃う。

 

 一つ作成するのに必要なのは2個ずつなのだ。これで5個作成できるが、《空の鍵》の作成に必要なのは1個だけだ。何故こんなに必要なのか? と言えば、《シスカの瞳》はA+ランクの作成難易度、そして《空の鍵》は更にそれを超える作成難易度と、ギルドから受け取ったレシピには記載されている。

 

 つまり失敗する可能性があるのだ。

 

 《瞳》を作成する時と、《鍵》を作る時で。なら事前に保険をかけておいた方が良い。実際、今までは成功してきたが、最近、錬成の難易度がぐっと上がって来て失敗率が上がっているのだ。アクアマリンの時とか、かなり宝石を割ったりもした。その事を考えるとやはり、事前にスペア、保険を用意しておきたい。

 

 そういう訳で宝石全てを用意した所で、それをアトリエに保管する。

 

 窓の外を見れば、大分暗くなってきていた。かなり集中力を必要としていた影響で、時間の移り変わりは早く感じられた。

 

「さて、今日の作業はここで切り上げて、外に食べにでも行くか」

 

 長く作業机で座りっぱなしだったので、結構体が凝っている自覚があった。少し前までの自分だったら切り詰めてこのまま作業をしたかもしれないが……流石に、コンディションを落とせばそれだけ、失敗率が上がる様な作業を前に、無理やり詰め込むような事はしたくなかった。

 

 とりあえず、我がアトリエの防犯は凄い。

 

 ギルド式の防犯グッズを更に改造して、乗り込もうとするとTSポーションをぶっかけられた上に媚薬をぶっかけられ、とてもだが目も当てられない事になる様なシステムを導入しているおかげで、ご近所からはアトリエのやべー奴と認識されている。だからちょっと不用心の様に思えるが、作業中のまま、素材や道具を出しておいてもそこまで問題はない。

 

 まぁ、それでも保険はかけるのだ、保険は。

 

「用心用心、と」

 

 ちょちょい、とアトリエ自体を自分の魔力でコーティングする―――そう、虚無属性の魔力でコーティングするのだ。これでまだTS発情トラップを乗り越えるような豪胆さのある奴が近づけば、そのまま、虚無属性との反応で質量相殺を行い、足から順番に体を削れるだろう。《結界術》様様である。実に便利なスキルだった。

 

 我が家の防犯事情は更に進化している。

 

「ま、飯は順当にペルソナの所でいいか」

 

 最近、外食する時はあそこばかりだなぁ、と思いながらアトリエを出た。鍵をかけながらアトリエを出れば、夜の静けさを街灯が照らしているのが見えた。先月と比べるとだいぶ静かになった夜のルーゼンの姿は、少しだけ寂しく感じられた。それは戦争が終われば解決する問題だろう。だからとりあえず、横にトワを浮かべながら道路を歩いて行く。最近ではこの時間を歩く姿は少なくなっている為、外食店の類も少し、下火だ。あの頃の賑わいは何時頃に成ったら戻ってくるのだろうか……。

 

「きゅぉ?」

 

「ん? あぁ、大丈夫ですよ。珍しく感傷的なだけですから。それに戦争が終わればどうとでもなりますからねー」

 

「きゅーん?」

 

「そうですねぇ……少し前までは夜になっても酔っ払いや遊んでいる姿が見れたんですけどね。クレイジーサイコ茶番劇の最中は流石に何時も通りという訳にはいかないのでしょう」

 

『クレイジーサイコ茶番劇。言葉が中々強く感じられます』

 

 うん、中々言霊が強いと思う。でも自分の街を焼いて国の影響を抜けるぜ! というのはクレイジーサイコ茶番劇としか評価のしようがない。まぁ、でもこの世界の大工とかは優秀だし、これぐらいの破壊だったら割と普通に修理するんじゃないだろうか? 今でさえ割と復興作業を進めているし。

 

 まぁ、やっぱり自分の考える事ではないだろう。

 

「と、もう到着しちゃいましたか。考えてると早く着いちゃいますね」

 

 呟きながら扉を抜けて入る。ペルソナの店は相変わらず冒険者たちの溜まり場となっているのか、それなりの数の冒険者が暇そうにしているのが見える。利用回数も増えて常連になって来たので、ここに居る冒険者たちにも顔が売れている。その為、軽く声などがかかってくるのを片手で手を振り、挨拶を返しながら何時ものカウンター席へと移動する。

 

「それなりにがっつりしたものでお願いします」

 

「うむ、任された。先日客人らが持ち込んだ蟹がまだ残っていた。蒸し焼き等良かろう」

 

 サクッと注文すればペルソナが厨房の方に戻る。ついでにハニーミルクも注文しておく。流石に作業している時期は酒を飲みたくはなかった。なのでカウンター席で一人、肩肘を突きながら、もう片手でWIKIを開きつつ晩飯の完成を待つ事にした。ちょっと興味がわいて調べ始めたのは、現在トップ扱いされているプレイヤーや集団に関してだ。

 

 まずトッププレイヤーの基準はレベルが150ある事、個人である程度の資産を保有している事、どこかの組織か大型のグループ、国家に対して武力であれ、技術であれ、影響力を持っている事だ。戦闘プレイヤーなら最上位スキルを保有し、技術職なら上級認定を受けている事。それが今、トップランクに居るという事を示す基準だった。

 

 そして現在、自分以外にも上級認定を受けるプレイヤーが出て来た。錬金術でオンリーはどうやら自分だけらしい。故にWIKIでしっかりと、最初に上級認定を受けたキチガイとして乗せられていた。

 

 他に上級認定を受けているキチガイは鍛冶職人であり、こいつはどうやら精錬や鍛冶技術が大幅に進んでいる帝国を根城にしているプレイヤーらしく、鍛冶の上級認定を受けた事で、帝国軍から大口の仕事が入る様になったらしい。ほー、と呟きながら更に下へとサイトをスクロールし、確認する。

 

 他に上級認定を受けている技術が出ているプレイヤーは大工、細工、服飾、音楽、農業らしい。この先駆者7人を纏めて生産ガチキチ7と勝手にWIKIでは命名されていた。そしてそれを誰も否定しない事に悲しみを覚える。

 

 いや、まぁ、解っている。

 

 め(・)ん(・)ど(・)く(・)さ(・)い(・)のだ、生産システムは。

 

 これが既存のVRゲームであれば決められた手順を繰り返したり、従ったり、材料を集めてスキルを使用すれば完成! という物凄い簡易というか、簡単なシステムなのだ。このEX:Worldのように一つ一つ、手順を自分で行わなければならないVRゲームというのはかなりの異端の方だ。面倒だし、勉強しなくてはならないし、個(・)人(・)の(・)才(・)覚(・)と(・)セ(・)ン(・)ス(・)に(・)依(・)存(・)す(・)る(・)から、根本的にリソースの分だけ報われる、というMMO本来の性質を無視しているのだ。故に生産活動は一種のマゾゲーだと認識されている。だってスキルを保有しているだけでは何もできないのだから。スキルと、技術と、そして知識が揃って初めて成果を生み出す事が出来る。

 

 そして上級に至るには、それだけではなく、システムとそれを行う事に対する深い理解が求められる。元からマゾいシステムなのに、そこに更に勉強を加えなきゃいけないのだ。そりゃ、遊んでいる大半はストレスから解放される為にプレイしているのだから、態々ゲームの中でまで勉強しようだなんて奇特な奴は中々存在しない。

 

 だけど上級に至るというのは、そういう事なのだ。

 

EX:WorldのNPCからすれば、上級はそこまで珍しいものではない。中級、そして上級が一番層が厚いと表現してもいいらしい。何故だ? それは簡単だ。EX:WorldのNPCはこの世界で生きているのだから、勉強と改良、そして努力する事は生きる上で当然の行いなのだから。だからEX:WorldのNPCには上級到達者が多い。

 

 お前ら頭おかしいよぉ! とプレイヤーは上級到達プレイヤーに言うだろう。だけど上級到達した場合の恩恵を知って、真面目に勉強し始めるプレイヤーもそれなりに増えてきている。

 

 何せ、上級認定される事はつまり、ギルドから一定の実力のある職人だと認識される為、社会的な立場を保証されるという事でもあるのだ。組織に所属しなくても、身分を組織によって保障される為、信用を社会的に得る事が出来るのだ。そして社会的な信用は取引などでは非常に重要な事だ。

 

 例えば住居、これは社会的に信用がなければ購入する事が難しい。

 

 自分も中級というランクにあったからこそ、購入がすんなり行った。

 

 上級ともなれば、ある程度お勧めやキープをしてくれたり、対応が親切になる―――当然、そこには思惑等も存在する。だけどそれは同時に期待があるから優遇する、という意味でもあるのだ。

 

 冒険者はそこら辺、縛り等はないから楽なのかもしれないだろう。

 

 だが結局の所、冒険者が商会を設立して……というのは、身分が冒険者、流浪なので保証がなく、難しいのだ。逆にこればどこかのギルドに所属している職人だとかであれば、その身分が保証されているので店舗を持ったり、商会を立ち上げたりするのはぐっと楽になる。

 

 上級とは単なる能力や技術の導ではなく、社会的な信頼や信用にも直結する。

 

 技術を持って、それが保証される事はつまりどれだけ使える存在か、社会に貢献できるのかを示す度合いなのでもある。

 

 何せ、冒険者は死んでも補充できる。冒険者が居なくても治安は軍が維持できる。極論、冒険者の存在は便利なだけであって、社会的には必要ではないのだ。

 

 だけど職人はそうではない。減れば減る程社会的なダメージが増えて行く。生産者がいなくなれば経済が動かなくなる。故に一定以上の技術を持つ生産者は重要なのだ。特権を与える事である程度優遇しつつ、そうする事で組織に紐を付け、ちゃんと貢献する様に、活動する様に監視するのだ。

 

 だから当初、上級認定はキチガイの所業、頭おかしい勉強狂い共と認識されがちだったが、海底探索を終えて帰ってくる今になってくると、その考えは見直されてきていた。今、戦争状態で冒険者等のフリーランスの立場が危うくなっている……というより仕事が減っている中で、一番仕事を貰っているのは戦時需要で一気に仕事が増えた生産者関連だ。

 

 軍人でも兵士でもないボウケンジャー共は今、暇をしている。

 

 一部は傭兵として最前線に出ているが、それでも全てはそうではない。そして自分の現況を見ていれば、戦うだけでは駄目なのだという事も気づかされる。そういう事でサブ、或いは副業として生産職を始めるプレイヤーの数が一気に増えているのがWIKIのデータで見れた。

 

 まぁ、競争と多様性があった方が発展はしやすくなるのだ。個人的に、後進が続くのであれば、それを見下せるのだから問題はないと思う。オンリーワンの地位は長く続かないとしても、その後が自分にはあるのだ。今のうちに、他のプレイヤーが追いつかないうちにたくさん冒険しようと決める。

 

 まぁ、それはそれとして、今の戦況を調べる。

 

 帝国と共和国の戦争は今は―――膠着状態に入っている。

 

 両国の本隊が何度か衝突し、最前線では双方多大な犠牲者が出たらしい。まぁ、原因は見えている。無限に復活して突撃できるプレイヤーが悪い。死んでもその後から蘇って特攻できるのだ。つまり自爆テロを無限にし続けられるのだ、これが驚異ではなくなんだというのだろう。

 

 ただそれが原因で必要以上の被害が双方に出ている。

 

 この状況を見て、個人的にはそろそろ、帝国と共和国で講和の話が出て来るんじゃないか、と思う。ぶっちゃけ、プレイヤーが戦場をかき乱し過ぎなのだ。状況も。俺が国のトップだったらそろそろここら辺で動きにストップをかけ始めないと、落としどころを見失いそうだと思う。戦争はどちらかを滅ぼせば終わるのではなく、双方で落とし所を見つけて交渉して終わるのだ。

 

 どちらかが滅ぶまで戦うのは近代的な価値観の中では少ない。第一、滅ぼしては略奪も税収も消える。

 

 まぁ、そんな事情プレイヤーが知った事ではないだろうが。

 

 どこまでプレイヤーの暴走をコントロールできるか、それが肝だろう。まぁ、到底可能だとは思わないけど。プレイヤーの根底にあるのはゲ(・)ー(・)ム(・)だ(・)か(・)ら(・)という意識だ。その意識が存在し続ける限り、完全なコントロールはまず無理だろうなぁ、としか思えない。

 

「ま、それでもこれ以上混沌とする事はないでしょうし……落ち着くまでどれぐらいでしょうかねぇ」

 

 数週間以内に落ち着いてくれればいいのだが。そう思いながら運ばれてきたハニーミルクに口を付けた所で、

 

「お―――! 見つけたぞ、賢者!」

 

 なんか此方へと向けられる熱い視線と共に嫌な予感しかしない、そんな声が聞こえて来た。片手でミルクを掴んだまま、振り返れば、店の扉が大きく開けられ、そこに立っている姿が見えた。ブラウンのマントで上半身を隠す、焦げ茶色の髪の青年だった。歳はたぶん、ぎりぎり18歳ぐらいだろうか。特に目立ったものを感じる訳ではないが、此方へと熱い視線を向けている事だけは解った。

 

 知らない相手だった。

 

「私に、何か御用でしょうか?」

 

「あぁ、そうなんだ! お前の様な人材をずっと求めていたんだ、賢者マン!」

 

「賢者マン」

 

 知らない青年は歩き寄ると此方の両手を掴んで振ってくるので、第三の手でグラスをそっとカウンターの上へと戻しつつ、手を強く、大きく振っている姿を見た。意味が解らない。

 

「えーと、それで……何の御用でしょうか」

 

「あぁ! 一緒に世界を救おう」

 

「世界を救う」

 

「久しぶりにすげぇキマってるやつを見たぜ……」

 

「あぁ……マスターさんが憐れだな」

 

 助けろよお前ら、と視線をキチガイの背後へと向けるが、ボウケンジャー共は我関せず、と酒を飲むのに戻った。もういい、お前ら仕事頼まないからな、後悔しても遅いからなお前ら、と心の中で呟きつつえーと、と声を零す。

 

「1から説明をお願いします」

 

「む、俺とした事が。思わず心が逸ってしまった……聞いてくれ!」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 とりあえず、意味が解らないので説明を求めれば、男は頷いた。

 

「俺は世界を救わなきゃならない」

 

「はい」

 

「俺は勇者なのだ」

 

「はい」

 

「そして勇者には勇者パーティーが必要である」

 

「はい」

 

「そして俺は昔から勇者、賢者、戦士、盗賊でパーティーを組んでた」

 

「はい」

 

「だから俺と一緒に世界を救おう、賢者マン……俺を導いてくれ……!」

 

「誰ですか、キチガイに酒を飲ませたのは」

 

「素面っすよそいつ」

 

 このキマり具合で平常運転とかやべーなこいつ。久しぶりに凄いインパクトの強い奴とエンカウントしてしまったな……ふふふ、怖い。心の中でそう呟きつつもどうやってこいつの対処をするか、と言葉を選び始める。割と頭がおかしいから少し強めに言葉を叩きつけてもたぶん大丈夫だよな? そう考えている間に、勇者マンがポーションを取り出した。

 

「さあ、賢者マン、これを飲むんだ!」

 

「これは?」

 

「TSポーション」

 

「何故」

 

「俺、ハーレムパーティー派だから」

 

「ディーヴァ」

 

 ぱぁん、と音がすると勇者マンに弾丸が叩き込まれた。血は飛んでいない。電磁スタン弾である、とディーヴァが教えてくれた。それを叩き込まれた勇者マンは即座にその場に倒れた。倒れているその姿めがけてディーヴァがTSポーションを蹴って叩き込んで、顔面にぶちまけさせながら十発程電磁スタン弾を連続で叩き込み、肉体が変異し始めている元勇者マン、現勇者ちゃんを店の外に捨ててから更に二十発程弾丸を叩き込んで始末をつけていた。

 

 濡れた床を分解から再錬成する事で濡れる前の状態に戻し、頭の中からキチガイとのエンカウントの記録を完全削除する。すると、奥からペルソナが出て来た。

 

「出来たぞ客人……どうした、その表情は。まるで春の陽気に誘われて出て来た変態を見たような表情を。いかんぞ、客人よ。連中は叩いても湧いてくるからな、関わるだけ損だ」

 

 大体あってる。そしてそれを心で理解した。

 

 

♦

 

 

 たっぷり食べて。たっぷり寝て。たっぷり糖分補給。カフェインも摂取する。集中力を高める為にも一度ログアウトして、リアルでシャワーも済ませて来た。最高のコンディションを整えた所で《シスカの瞳》の作成に移る。

 

 これは四属性を融合させず、独立し、しかし交じり合った状態を維持しなくてはならない。つまり図として表現するのであれば、

 

火 水

虚

土 風

 

 こういう風に配列しなくてはならない。それでいて隣り合っている状態は即座に火水、と接触している訳ではない。絵具で表現するなら赤と青の間に赤紫、紫、青紫と段階を重ねて移行していく事を行わなくてはならない。これを使用する素材の属性全て、そして均一のバランスで全て同時に操作しなくてはならない。完全に混ざれば失敗だし、どれか一つに偏っても失敗する。マルチタスクと表現できる管理能力、繊細なエーテル干渉能力、そして純属性エーテルを理解し、扱えるだけの知識。この作成に必要とされるのは全て、上級錬金術師が最低限保有するべき技術だ。

 

 つまり、これが作成できる錬金術師を本当の上級錬金術師だと呼べる。

 

「さて……気合を入れたし、やるか。ナイト。もしもに備えておいてくれ」

 

『拝承です』

 

 もしもを想定して、ナイトを傍に置いておきながら、アトリエでの作業を開始する。一応の為、窓は開けてある。

 

 全ての宝石を2個ずつ取り出し、それを火火水水、という風に配置して行く。息を吐き出し、極限にまで集中力を高めながら作業机の上で、錬成を開始する。錬金釜を必要としない錬成である為、姿勢を楽に、集中できるようにする。呼吸を整え、メンタルを整え、そして雑音の全てを脳内から排除し、

 

 作業に入る。

 

 炎+炎で属性を強化しつつ、炎+炎+純+水、という風に少しずつ、少しずつ、1%ずつその属性の比率を変化して行くのを全ての属性、パートを同時に行う。それだけではなく宝石部分そのものを溶かし、混ぜるのではなく、レイヤーを生み出す様に重ね、丸め、成形しながら変形させて行く。

 

 これが凄まじく、1%動かすのに10分程時間をかけながら作って行く。ゆっくり、ゆっくり、砂粒を箸で掴むような感覚で作業を進めて行く。

 

 時間を考えず、効率なんて言葉を頭の中から追い出し、集中力を極限まで尖らせ、

 

―――属性が連鎖反応して混ざった。

 

 即座に固体に戻す様に干渉を先行させながら、ナイトが背後から体に触れない様に衝撃だけを捻じ曲げて、手元の錬成失敗品へと叩き込んだ。それが窓の外へと向かって飛翔し―――そのまま、空間に内包されたすべての属性効果を同時発動させるように空間を食らい、連続で破壊を生み出しながら消滅した。

 

「あぶなっ!?」

 

 広がる衝撃と爆破を魔力で無理やり抑え込んで広がらない様にしつつ、裏庭の一角が凍ったり燃えたりしているのを何とか消し去る。

 

「ふぅー……」

 

 切れた集中力の糸を紡ぎ直しながら、自分の庭の惨状から視線を外し、まだ無事な宝石を再び、作業机の上に乗せた。眼鏡を外し、軽く目頭を揉んでから眼鏡を装着し直し、息を吐いた。

 

「早すぎたか……今度は更に遅くするか」

 

 今の失敗は、早すぎた事で。属性を馴染ませる時間がもっと必要だったのかもしれない。感覚的には油の塗ってある鉄棒にぶら下がっている感覚なのだが、その状態でずっと掴み、そして少しずつ、気が遠くなるような進みで少しずつ、馴染ませる必要があるのかもしれない。上級の錬成物には反応を落ち着かせるために長時間必要とするものがそれなりに多い。

 

 これもまたその一つという事なのだろう。

 

 何よりレシピにここら辺、細かい説明がないのは、意図的に省いてあるのだろう。

 

 上級になったのだ。

 

 自分の知識と経験で、答えを出せ、という事なのだろう。

 

「……次だ」

 

 1回の失敗では止まれない。まだ4セット残っている。つまり3セットは失敗様に消耗しても……駄目だ。《鍵》の方を作成する時に失敗する可能性があるのだ、ここで素材を無駄に使う事は出来ない。やる度に成功させなきゃダメなのだ。今の感触は間違いなく早すぎたから反応が出た感じだった。だったらゆっくりやる。先ほどは1%進めるのに10分かけた。

 

 なら次は1%進めるのに1時間かける。

 

 全工程を完了させるまで、必要な時間は100時間。

 

 その最中に反応を見て、時計の針を進める事が出来るようであれば、する。そうでなければこの100時間の間、ここに座ってひたすら作業を続けるだけだ。あぁ、だけどその場合リアルボディの方をどうにかしなくてはならない。100時間となると現実での大体33時間、丸1日と少しだ。またVR用ボディケアセンターの人を雇って、長期ダイブ用にリアルの面倒を見て貰った方がいいのかもしれない。

 

 或いは……いっそ、長期ダイブ用コンソールそのものを購入したほうがいいのかもしれない。一応、企業用ではあるが、長期間のダイブ、つまりは数日や数週間、軍用等であれば月単位でダイブし続ける体を保護、そして維持する為のダイブコンソールは存在しているのだ。民間のネットカフェにもそういう長期ダイブ用コンソールがあるから、そっちに移って作業するのも悪くはないかもしれない。

 

「とりあえず作業再開する前にリアルの始末だけ付けておくか」

 

 たぶんそうしたほうが集中できる。

 

 なので一旦ログアウトした。

 

 軽く近くのネットカフェの場所を調べ、そこに長期ダイブ用コンソールがあるのかを調べ、利用する事にした。

 

 1日1万円、と普通のダイブ用コンソールと比べればかなり使用料が高い。だが長期用ダイブコンソールは肉体保護用のシステムや、ジェルベッド、肉体洗浄やコンディション維持用の技術が含まれており、普通のコンソールよりも高価になっているのだから、これぐらいは当然なのかもしれない。

 

 無論、マシンパワーも此方の方が上だ。

 

 一般向けではないマシンであるおかげで、VRダイブ後の世界の感覚、描写彩度、全ての出力が個人用のそれとは一線を越えている。再びログインし直した所で、ルーゼンの街が今までよりも更にはっきり、くっきり、もっと肌で強く感じられる様にさえも感じられた。

 

 ともあれ、高い金を払って更に良いVRマシンを利用しているのだ、これでもはや遠慮もない。一時的にブーストをキメている様な状態でもある。

 

 今までよりもより、繊細な作業を行えるだろう。

 

 事前に用意したエーテル値1の睡眠薬―――つまり効果が完全に反転した、不眠薬となったそれをガブ飲みし、そしてエネルギー補給用のアイテムを周辺に設置、集中力が途切れる前兆を感じたらディーヴァに飲ませて貰うとして、

 

 再び、《シスカの瞳》の作成作業に入る。

 

 最初の失敗は忘れていないが……それを引きずるようなことはしない。

 

 再び、同じプロセスをドーピングをキメながら始める。今度は前よりも集中できているし、フォーカスが合っている様にも感じられる……やはり、コンソールを変えて正解だったかもしれない。そう思いながら極限まで速度を殺して作業を進める。

 

 本当に僅かな進歩を1時間の間に生み出し、進める。

 

 その作業を言葉で彩る事は出来ない。

 

 何せ、やっている事は地味だからだ。動きがない。

 

 徐々に、徐々に属性と属性を馴染ませ、繋げ、反作用を抑え込みながら融合を拒否し、その徐々に変化するような繋がりの状態を自然の物として定着させるのだ。

 

 間に壁を何重にも設置する事でお互いの干渉を遮断しながら、それが混ざらない様に、しかし拒否反応を起こさないように少しずつ慣らして解放して行く。

 

 それをやっているだけだ。

 

 ただし、馬鹿みたいな時間の間隔で。

 

 座り、体全体を不動とし、そのままずっと、手元に浮かべる宝石たちに魅入る。一度も瞬きする事無くずっと眺め続ける。外から聞こえる音、風の感触、流れる汗、感じ始める空腹、襲い掛かってくる疲労、

 

 それらを全て、極限まで抑え込んで作業を続行する。

 

 一度も瞬きをせず、数日という時間をただただ流して行くように、カタツムリの行進よりも更にゆっくりと作業を進める。

 

 瞬きをしない目の中に汗が入り込みそうになるのを、そうなる前にディーヴァがハンカチで拭う。気づけば脱水症状でも起こしているのではないか、というレベルで汗を流している。集中力の限界を超えている此方の意識に対して、体が追いついてない。純粋な耐久、体力が追いついていないのかもしれない。

 

 それを理解しつつも、一切妥協する事もなく、作業を続行する。

 

 苦しいのは事実だ。

 

 だがそれ以上に―――楽しい。楽しい作業なのだ。

 

 だから一切作業を止める事無く、

 

 通算、開始3日目。

 

 《シスカの瞳》、その一つ目が完成した。




 Name:マスター
 Level:150
 Status:
 AP:730/730
 筋力:170 魔力:186 敏捷:180 体力:210
 Title:【錬金術師:上級】【Evil】【ソウルマンサー】【探究者】【未知を求める者】【畜生メガネ】
 Skills:
 SP:585/668
 《禁呪魂冥士:M》 《エーテル干渉:M》 《ポーションピッチャー:S》
 《性魔術:B》 《結界術:A》 《界眼:F》 《気配察知:C》


 英霊召喚とスキル決めしようかなぁ、と思ったけど作業を終わらせて、ゆっくりと考えられる時間を確保してから実行するのが眼鏡らしいよなぁ、と思ったので一旦後回しに。しばし、日常生産タイム。

 元々VR系や生産系を読んでいて、細かい生産描写がなーい! というのを嘆いて書き始めたもんだし、やっぱり生産描写は楽しいなぁー。
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