「死ぬわ」
《シスカの瞳》の
5セット中3回失敗した。これだけで数百万吹っ飛んだ事を考えると頭が痛い。しかも作成完了した所で、これで最終的な錬成が成功するかどうかまだ不明という事実もあるのだ。しかし3回も失敗するとは思わなかった。二回目とラスト以外は全て失敗したのだ。やはり、流石上級と言われる領域だ、普通に失敗する所がある。
だがこれで《シスカの瞳》は作成できた。
掌に乗るサイズのその宝石は摘まみ、持ち上げて動かす度に違う色、形をする。触れている感触、それが変形している事はまず、ない。だが見る角度や方向からは常にその色や中身が変動しているのが見える。確かにこれは美術的な価値としては中々高そうな物がある。まぁ、確認してみれば滅茶苦茶高い値段が設定されているし、かなり高価な品だ。インベントリに二つとも放り込んで、一旦、錬成タイムを終了させる。
「ふぅー……ちょっと気晴らしに出かけるか」
流石に合計500時間引きこもりは疲れた。もう既に2週間近くアトリエに引きこもっている。リアルでもかなりの時間が経過しているだろうし、錬金術の為に人生をかなり消費しているなぁ、と自覚させられた。まぁ、楽しいから別に良いのだが。ただ、リアル時間を大量に消費するのはちょっと辛い。まぁ、
自分にそう言い聞かせながら体を伸ばし、アトリエの窓から入り込んでくる新鮮な朝日を浴びる。
これで作成物の第1段階は終わりだ。次は《夢幻の羽》の作成だが……その前に、シャワーを浴びてメンタルリセットしに行こう。
シャワーを浴びて軽く休んでから向かった先は、錬金術ギルドだった。
そう言えば毎回ここに来るときは、なんか用事を持った時ばかりだった。買い物だったり、品卸だったり、或いは報告やら確認とかで。今一良く、ゆっくりと観察した時がなかったなぁ、というのを思い出して足を運んだのだ。
たまには特に意味もない時間も悪くはないだろう、という事で。ギルドに向かった。
相変わらず広いギルド内部は人でごった返している。ギルドのロビーに入った所で、ロビーにあるクッション付きのベンチに座り、端から全体の流れを見る。基本的にロビーにあるのは受付、売店、そして掲示板だ。これがこのギルドロビーにある基本的な施設だ。レンタルアトリエとかは奥の方へと進めばある。そして基本的にどれもプレイヤーや錬金術師たちによって利用されている。
特に掲示板とか、常に一定数人が存在する。自分はほとんど利用してはいないのだが、掲示板にはギルドからではなく、個人からの受注等が張り付けられている。基本的にポーションを作成してそれをギルドに卸せば安定した収入になるので、掲示板の方はあんまり、手を出した事はないなぁ、と思い出す。ちょっと興味が湧き、掲示板の方を確認する。
現在は戦争が発生している為、全体的に戦闘に関連するアイテムの需要が上がっている。だが大量買い取りの対象は爆弾などの直接的な破壊を生み出す物ではなく、中毒性の低いポーション、或いは野営環境を整える為の防衛系統の道具だった。これを見ていると、僅かにだが需要というのが見えて来る。
戦うのではなく、耐える事をどちらの国も選んでいるという事に。
やはり、そろそろ講和に持ち込む所だろうか?
既に戦争が始まってから4週間程経過しているのだ。ずっと争っている訳ではないが、被害の規模とその影響と、この先を眺めた結果……いい加減、戦うのを止めて欲しいと思っている。果たして、同じことを考えているのだろうか?
「ほう、外の世界の素材が報酬ですか……」
まだ実装されておらず、プレイヤーが行く事の出来ない《外》の大陸。そこには王国や聖国等と呼ばれる国家が存在するらしく、此方の大陸では入手できない素材等がある。そちらの方から渡って来た人達が持ち込んだ品を報酬に、此方でしか手に入らない物を求められていたりする。後はギルドに対する特別貢献チェック等もあるらしく、求められている物を納品すればギルドの定期チェックの間隔を伸ばす事が出来るらしい。長期遠征の場合はこれをある程度こなして余裕を作った方がいいのかもしれない。しかし、修理用の建材が結構求められているのもそうか、と納得する。
大工等だけではなく、錬成物を使った方が遥かに早く建築等を進められるのだから、当然か、とも。逆に言えば自分の研鑽と自分の需要、趣味だけを考えてこういう事には全く目を向けてこなかったよなぁ、と思う。
「と、成程。店舗持ちの場合は名声も稼げる訳ですか」
となると暇なときはちょくちょくここで依頼を引っ掛けて解決するのも悪くはないかもしれない。いや、まぁ、ぶっちゃけ、深海に潜って素材を持って来て売るのが金策としては一番楽なのだろう。クーちゃん38世1匹でお腹いっぱいになりつつ十数万は稼げるし。だけど逆に言うとこういう素材や乱獲は規制されやすいし、需要が直ぐに変動する。
やっぱり、個人経営の店舗で安定した収入を継続的に入る状態が、一番まともに安心できる金策要素だよなぁ、と思う。やっぱり、そろそろ開店再開したほうがいいのではないだろうか?
近い内、と言うか共和国に行く間も経営状態にしておこう。何せ、《鍵》を作成すれば常に店の状態を確認できるのだから、問題がなくなる。つくづく錬金術という学問は、想定の常に上を抜けて行くものだと思う。まぁ、それはそれとして、中級向けをメインとして依頼が多く感じられる。まぁ、初級、最下級等に関しては雑に大量生産されているし、その等級で作れるものを態々依頼する程でもないよなぁ、と納得する。
というか前々から思っていたのだが、薬草の採取依頼っておかしくないか?
そんなのが基本だったら普通に枯渇するし、常識的に考えて普通栽培するだろ? 寧ろ何故栽培しないんだ? それを思いつかないような馬鹿な人間しかいない文明だったら中世レベルまで発達してないだろう。いや、お約束なのは解るが。それでもここまでしっかりと世界観構築している所を見ると、他所に対して言いたくなった。
それだけ。
ちょっと、気分が良い。
さて、と声を零して掲示板から視線を外した所で、今度は売店へと向かう。
此方にはかなり世話になった。何せ、薬草や瓶の類はギルドの売店で購入したのがほとんどだ。今でさえ薬を詰める為の瓶は売店で購入している。言ってしまえばお得意様になってしまうだろう、関係は。まぁ、大体はディーヴァかナイトをお使いに走らせて購入しているから、直接顔を合わせている訳ではない。
そして売店の主は、何時も通りの男だった。
「よぅ、最近出世してるみたいじゃねぇか。最初は遠心分離機とか濾過機とかに頭を悩ませてた頃が懐かしいぜ」
「これが異邦人としての特権ですよ」
「いや、そん中でもお前は早い方だよ。驚きの、な。まぁ、所謂
「私がここに居る理由の大半が錬金術ですから。少なくともテオフラトゥス先輩に追いつくまでは辞める気はありませんね」
その言葉にほぉ、と声を零された。
「あいつに会ったのか。どうだ、滅茶苦茶だろう」
「まるで実力が測れませんでしたね……」
「そうだろう、ありゃあ見た目以上に長く生きてるからな。しかも道具も使わず素材さえ揃えば一瞬で錬成しちまう。なんでも時間さえも材料に組み込めばプロセスを短縮できるんだとよ」
「本当に次元が違いますね……」
それがつまり、アルス・マグナという究極の錬金術に至った者の力なのだろう。理論も理屈さえも自分にはまるで理解できない。とはいえ、憧れる物があるのは確かだ。自分もいつかはあんな領域へ至りたいと思っている。少なくとも、それが自分の最終的な目標になっている……今のところは。まだまだ、そのゴールは見えないが。それはそれとして、
「そう言えばアルス・マグナは全部で3人ほどでしたっけ?」
「おう、創天のテオフラトゥス、異世のクロウリー、極物のサンジェルマン。この3人だな」
「どこかで聞いた事のある名前……しかし、この3人が別格なんですか」
「おう。テオフラトゥスは物質の創造と変質に長けている。この3人の中で一番滅茶苦茶に道具を作り、ルール違反とか法則無視とかをやってるやつだ。クロウリーは空間や時間に関する事柄が得意で異界をその場でパパッと生み出しちまえる。そしてサンジェルマンは極限まで質を高める事、限界を超えた品質の限界を超えた、神話クラスの品質を生み出せる」
「どれも人間じゃない」
「俺もそう思う」
法則無視、世界創造、神話再現。どれもとてもだが理解できない領域の話だが、同時に憧れる。自分もどれぐらい時間を重ねればそれぐらいの領域へと到達できるのだろうか……分かっているのはそれはまだまだ、先の話だという事だ。少なくとも、今の自分は超級へと上がる為の足掛かりを見つけなくてはダメだ。どうすれば、何をすれば超級へと至れるのか、という事だ。
「ま、お前も上の連中を目指すってならちょっと散財していけ。丁度良い所に最新のレシピを入荷してあるんだ。お前も気に入るぜ」
「ちょっと見せてください」
「ほらよ」
本を1冊、此方へと渡してくる。それを受け取り、軽く頁を捲ってぱらぱら、と中身を確認して行く。そこに表示されているのは上級錬金術師向けのレシピであり、同時並行して作業を複数進める必要がある為、今までは使用する頻度が少なかった遠心分離機などの道具を、作業と同時に利用するようなレシピの数々だった。今まで使用する機会が少なかったが成程、と納得する。確かに一度に進める作業が多いと、一部を機械に任せておけば同時進行できるよな、と。
「あ、これを参考にすれば強化案に―――」
「ハイ、そこまで。続きは300万払ってからな」
今使っている武器のイデア・エーテリアス、その強化に使えそうなレシピが載っていた。だがその内容を確認する前に本を取られ、そして閉められた。この続きを知りたいのなら購入しろ、という事なのだろう。
上手い商売しやがる。
「キャッシュで支払いましょう」
「金払いの良い客は好きだぜ」
ヒャッハー、と心の中で叫んでおくことに留めつつ新しいレシピを受け取る。偶にはギルドでゆっくりしてみるもんだなぁ、と思いつつ、これを読むことを楽しみに、そろそろアトリエへと帰るか。そう思った所で、
「お、いたいた。眼鏡だ」
聞いた覚えのない声に振り返れば、知らない男の姿がそこに居た。自分を眼鏡、何て呼ぶからアイザックかと思ったら違った。なんか最近、知らない相手から呼び止められる事が多いなぁ、とペルソナの所でエンカウントした勇者マンの事を思い出す。そういえばあんなエンカウントもあったなぁ、と。振り返りつつ営業用の微笑を浮かべ、
「はいはい、眼鏡がチャーミングなマスターですが……なにか、御用でしょうか。あ、と。そうそう、ちなみに勇者パーティーに参加しろという要請に関しては現在お断り中なのでご注意ください」
「何を言ってるんだ……いや、そんなことはいいんだよ」
それよりも、と男は言ってくる。
「お前動画でなんか面白そうな所に行ってたじゃねぇか。独占してるのズルいから俺も連れてけよ」
ディーヴァが霊体状態のまま、無言で銃を引き抜いていたのを止める。動画公開して知名度を上げればいずれはこういう風に来る奴も増えるんだろうなぁ、とは思っていた。しかし本当に来るとは思いもしなかった。視線を売店の方へと向ければ、店員がにやにや笑っているのが見えた。まぁ、仕方がない、と考える。
「いいですよ、連れて
笑みを浮かべ、サムズアップを浮かべた。
「忘れられない思い出にしましょう」
馬鹿を深海に沈めるのはいい息抜きになった。
勝手に炎上、拡散するだろうし。これ以上馬鹿が近寄ってくる心配はないだろう。それでもまだ馬鹿が出てくるようなら、深海生物の餌が増えるだけだ。説明も対策もなしに深海に放り込まれたらデッドエンドしかないのだ。
まぁ、馬鹿の事はもはやどういう姿をしていたのかさえ思い出せないので記憶から出会った事すら完全に消し去りつつ、新しいレシピを購入した他、軽くルーゼン内を散歩してからアトリエに帰って来た。
ルーゼン内部の騒動も、今では大分落ち着いて来た。どうやら自分が引きこもって地獄を見ている間に戦争が下火になる事を察知し、それに合わせて内戦を縮小し始めていたらしい。流石クレイジーサイコ茶番、行動が早い。サイコ町長はほんとサイコの鑑だと思いつつ、アトリエに戻った所で直ぐに作業は戻らず、2階のベッドルームへと向かい、そのままベッドの上に転がった。
「いい加減、スキルの方をどうにかするか」
後回しにしていたスキル関連のチェックと把握、構築をどうするかを真面目に考える事にする。まずはじめ、自分が取得しているスキルは昔と比べれば大幅に減っている。そのほとんどがスキルに統合されたり、或いは称号に吸収されて格納されたからだ。だから現在、取得しているスキルは7個しかない。これぐらい少ないと割とスキルトレーニングしやすいのはそうなのだが、それでもスキルは明確に力となるものだ。スキルを下地に技術を磨くのだから、ある程度スキルを習得しておいた方が良い。
とりあえず、最近は新しいスキルを全くチェックしていなかった。そういう訳で休みついでに、新しく習得できる下級スキルをチェックする事にした。それをリストとして纏める事にする。
《タフネス》《体術》《ボディコントロール》《軽業》《経験継承》《シャーマン》《ドルイド》《健脚》《頑強》《集中》《銃術》《細工》《採掘》《伐採》《狩猟》《釣り》《料理》《裁縫》《解体》《執筆》《融合》《機械知識》《交渉》《芸術》《悪魔学》《神学》《調教師》
他にもまだまだスキルはあったのだが、大体有用そうなのはこれぐらいだろうか……?
ここから更にピックするとして欲しいのは基本的な体力を増強する《タフネス》、憑依や融合能力者用の憑依元の経験を自分に憑依時反映できる《経験継承》、風邪になりにくくなったり少し丈夫になる《頑強》、物質の結合等に関する知識や技術を補う《融合》……こんなところだろうか?
幸い、全部取得するだけのSPはある。
迷わず取得する。このうち、《タフネス》はMまでがコスト下限、《頑強》はCまで、《融合》もAで《経験継承》がDまで下限されていたので、追加でコストを使用してスキルランクを上げておく。やっぱり、錬金術で混ぜたりくっ付けたりばらばらにしたりを長時間繰り返している影響か、その経験が《融合》と《タフネス》に還元されていたようだった。
ついでに前々から取得しようと決めていた《アビスロード》を取得する。取得するのに必要なSPが5点であるのを見て、これがかなり重いスキルであるというのを理解させられる。だが習得した途端、ナイトとディーヴァの維持コストが減った。その数値は大きく減り、霊体状態でMP上限の5%、そして現界状態で10%消費する事になった。つまり常に10%圧迫、全力戦闘で20%圧迫という事だ。
それに合わせ、ナイトとディーヴァが更に力を取り戻し、姿が変化して行く。
ナイトの場合、その体から完全に錆が消えた。鎧は本来の輝きを取り戻し、鈍かった色がかつての栄光を取り戻すような、白銀の輝きを持ち始めるのが見えた。欠けていた鎧の部分はどこにも見えず、軽く使い込まれたところ以外は、新品同然に見える。美しい鎧姿だと表現できる、完全な鎧姿だった。
ディーヴァの場合は、そのドレスが新品の物へと変わった。かつて着飾った時の美しさが戻り、どこか傷の入っていた肌も傷の無い状態へと戻って行き、もっと人間らしい、生気を帯びたような気配が強くなってきていた。なんと言うべきだろうか……生きている。死んでいるのだが、もっと生きている様に感じられる。そういう風に更に回復していた。
これによってどうやら、ディーヴァは完全に記憶を取り戻したらしい。ナイトに関してはまだ、という所だった。だが二人共、大きく今回の件でレベルが上昇したおかげで、かなり心強い戦力となった。その上でMPに余裕が出来て、ついに新しい英霊を戦力として迎え入れるだけの準備も出来た。
ベッドの上で転がりながら、ベッドの前に整列するナイトとディーヴァを見た。
「うーむ、こうやって俺が誰か、他人を従えていると思うと不思議な気持ちだ」
「そうですか?」
ベッドから降りて近づき、ディーヴァに施した花の眼帯をズラし、その下の目を確認する。そこにはやはり、眼が存在せず、炎の様な揺らぎがあった。それを隠す為にも眼帯を被らせる。
「生前失ったものか?」
「死ぬ前に、ですね。最終決戦の結果です」
「うーん、男の心をくすぐるキーワード」
だけど生前失ったものなら戻らないのも納得だ。それが正しい状態なのだろうから。だがその代わりに、とディーヴァが小型の銃を取り出しながら笑みを浮かべた。
「色々と武装を引き出せるようになりました。対生物特攻のアポトーシス弾とか、重力銃とか、イレイザーガンとか」
「お前はほんと男心のくすぐり方が解ってるのな」
素敵すぎるキーワードの数々に、英霊使いやっていて良かった、と思う。やっぱSFのかっこいい名前の武器には男の子として憧れるものがある。聞いてくれよ、アポトーシス弾ってなんだよ。凄い一撃必殺感あるじゃん。イレイザーガンってなんだよ。消し飛ばすのかよ、かっこいいじゃん。
街中でぶっ放せ! と言いたいのをぐっとこらえて、我慢する。とりあえず、ディーヴァの方は成長は悪くない感じだった。成長というよりは再取得という方が正しいような気がするが。それにもっと喋り方もはきはきしている辺りが楽しい。そしてそれはそれとして、今度はナイトへと視線を向ける。
「ナイトの方はどうだ?」
『いえ、変形できる武装が増えたのと、後は多少思い出した事があるだけでしょうか』
「お、過去を思い出せたのか」
『全てではありませんが』
どんな事だ、と聞くとナイトが鋼を軽く頷かせた。
『この世界を見守る神の正体はゲームマスターと呼ばれる存在です』
「うん」
『我が身はその創造物、文明破壊の為に1期目に作られた存在でした』
「へぇー……」
これで漸く、ナイトの出どころが解った。人類虐殺してたサイドの存在だったらしい。だけど確かにそうじゃなければ《虐殺機関》や《英傑殺し》なんてスキルを持っていたりもしないだろう。そりゃあ殺し慣れているよなぁ、と納得していると、
『ですがその事実が気に入らず一柱斬り殺して逃亡しました』
「墓場まで……いや、もう墓場突入した後じゃねぇか。死んでも言うなよ。絶対に誰にも言うなよ! フリじゃねぇからな!」
『はっ、我が身に代えても』
うん、神の中身がゲームマスターなのは
ゴエモンが盛大に喜びそうな話だった。
しかし、こういう存在を放置していていいのだろうか、運営は?
いや、運営の事だし
よし、忘れよう。
なお、ナイトとディーヴァの強化されたステータスはこのような感じだった。
Name:ナイト
Level:210
Title:【聖戦士】【破壊者】【不壊の忠騎】【主神殺し】【語られぬ英雄】【粛清者】
Name:ディーヴァ
Level:210
Title:【歌姫】【語られぬ英雄】【銃神】【楽園の破壊者】【決戦存在】
レベル馬鹿じゃねぇの? だけどこれでもまだフルスペックではないらしい。生前の英雄クラスってちょっとインフレ怖くない? というかこのレベルが暴れる戦場があった訳で、それで死亡しているのだろう? 怖くない? インフレの上限高くない? まぁ、味方だからいいのだから、これと張り合えるレベルのエネミーとか絶対エンカウントしたくはない。
「えーと……スキルマニュアルマニュアル……」
スキルには基本的にマニュアルが付属している。こういう事をすればトレーニングになるよ、とかこういう事が出来るよ! とか、そういう説明が付属している。それで《アビスロード》の内容を確認する。使役している英霊の基礎スペックを大幅に強化し、その本来の能力に近づける他に、魂に関する事であれば、英霊限定で色々と出来るようだった。しかしスキルの説明文は
例えば真っ当なルートを辿った場合、どうやら取得できる同系統のスキルは《ソウルマスター》等らしい。既に取得者が存在する此方のスキルの場合、英霊のステータスの一部が常に主の方へと還元される他、一時的にリソースや供給を強化する事によって英霊の方を強化する事が出来、双方向の努力と献身が相乗効果でお互いの強さを引き出して行く、という超王道的な能力だ。かなり隙の無いスキルだと思う。普通、お荷物になりがちなマスターが英霊の存在によって強化されるし。
だが《アビスロード》の様な融合能力は欠片も存在しない。これこそが冒涜の力らしい。まぁ、悪魔のプロセスを辿っている事を考えれば当然だ。此方はまるで正反対。《融合》して一時的に力を増す。他の
マニュアルにはそこに一つ、《ペイントレード》のやり方をスキルのチュートリアルとして表示していた。双方に何でもいいから返答、或いは頷きで同意させる。その上で相手に触れる事で傷を交換する事が可能となる。
これ、直接殺したほうが早いのではないか? とは思わなくもない。
だが逆に言えば傷や状態を交換するような契約行為を不平等な条件で一方的に行えるという事でもある。
例えば即死毒を飲み込んで強制契約による《ペイントレード》を行ったら……なんて悪用方法を考えたら、凄く面白そうだ。これは考え方次第で、凄く悪用の幅が広がると思う。そしてこれでもまだまだサンプルなのだ。出来る事はこれよりも多い筈なのだ。出来る事が更に増えると楽しくなってくるなぁ、と思いつつ、
さて、そろそろやるか、と決める。
インベントリから悪魔に渡された金属片を手に取った。
それは英霊召喚用の触媒だった。間違いなく中に籠っている念、魂は大英雄クラスに届くだろう。ナイトやディーヴァに匹敵する筈だ。だけどこれを今まで使用しなかったのはMPリソースに余裕がなかったのが一つ、
そしてもう一つは、悪魔の思惑が解らなかったから手を出しづらかったのがもう一つだ。
悪魔から強奪した触媒で召喚したディーヴァの称号を見てみよう。【楽園の破壊者】なんてものがある。そしてディーヴァ自身、ディストピア社会を破壊する事に成功した英霊であるらしい。
ベッドの上をゴロゴロと転がる。
「うーんー……」
『お悩みですか』
「悪魔の口車に乗るか否か、という所で。純粋な善意を肯定するほど愚かな事もない。特にゲームというものはそういうもんだ」
アレが純粋な善意で手を貸すとは思えない。寧ろ俺だったら
「お前らはどう思うー?」
ナイトとディーヴァへと視線を向ければ、ナイトとディーヴァが顔を見合わせた。
『こういう交渉は
「私なら受け取らせた時点で勝利ですね。相手がそれを使おうと使わまいと、どっちでもいい様に準備しておくか、或いはどっちに流れても良い様にしていますね。だからあの場で投げ返す様に顔面に一発叩き込むべきでした。もしくは会話せずに即殺」
「即殺」
『そうですね、ああいう手合いはそもそも会話した時点で負けの様なものですから。出会い次第殺すのが一番です』
殺意が高い従者たちの言葉だった。でも自分も大体同意見だった。ああいうのは会話した時点で負けだよなぁ、と。卓だったら普通にそのままぶち殺しに行けるのだが、これがここまでリアルな世界だと、話は変わってくる。空気や雰囲気、突発的な事態に対応しきれず、考え方が後手に回ってしまうのだ。
「ぐでぇー……」
まぁ、一言で言えば
寧ろいきなり対応できる奴の方が怖い。なんでお前異常経験あるんだ。
「んー……」
「マスター?」
「いや、ぐだぐだしてるだけ」
ベッドの上でごろごろと転がる。課金品のベッドは転がっても余裕のある広さがある。室内ではマントを装着する必要もないから上着諸共外し、くつろぎやすい恰好でベッドの上を転がっている。ふかふかで、このまま目を閉じれば眠れてしまいそうな柔らかさを感じる。あぁ、だが、そう言えば上級になった大工プレイヤーがいたとかどっかで聞いたはずだ。共作でベッドとか作れないのだろうか。木組み部分を大工が、ベッド部分を此方で。
共同制作、出来たら楽しそうだなぁー……。
あー、でも楽しそうだこの発想は。
今度、WIKIの募集フォームに共同制作をしないかどうか、ちょっとプレイヤー募集してみよう。それぞれの分野を合わせて何か一つ作るのだ。きっと楽しいに違いない。今だって他の職業に一部分頼っている所があるのだし、悪くはない筈だ。
まぁ、それはさておき、
「そろそろやるか」
召喚。
起き上がり、ベッドから降りる。流石にベッドルームで召喚するような事はない。一番広いのは1階のアトリエだ。自分の作業部屋だからあそこは一番広く作ってもらったのだ。だから召喚を行うなら、アトリエになる。あそこが一番防犯的にも強く作ってあるし。そういう訳でベッドから降りた所で階段を使って1階へと移動し、そのままアトリエの方へと移動する。
「霊体安定、増幅、現界維持、そして俺の血液を通して絶対に抗えない様に魂に細工をちょちょい、っと」
指先を噛んで、その傷から垂れた血液を材料に魔法陣を操作の要領で描き、一瞬で霊体を拘束、支配する為の陣を描く。つまりディーヴァの時と同じようなものだ。ただし今回は前よりも知識、技術が増えているので自分が学んだことをベースに、意図的に相手の意識の空白を生み出して、それで契約させてしまう、というやり方だ。
同意?
そんなもの契約した後ですればいいのだ。
契約した! その事実さえ残れば問題はない。
「えーと、触媒をこうして、中にある魂を活性化させるように抽出して……良し、これで現界できるな。成長を感じるな……と! 」
呪文も必要ない。霊体を、魂をコントロールする事に関してはディーヴァの時よりも遥かに進化している。その為、この程度の準備で仕込みは全て完了できる。やっぱり地道な勉強が力になるんだなぁ、と実感しながら英霊を現界させた。
抽出した魂に自分の血液を直接混ぜ込んで、それを契約に現界させる。自分の魔力リソース、その上限が再び契約によって占領されるのを実感しながらアトリエの一角、広いスペースで英霊の姿が現界して行くのを見た。
まず最初に見えたのは少女の輪郭だった。
そう、少女だ。
ナイトは鎧の塊であり、片腕で此方の姿を乗せる事が出来る程度には大きさがある。
ディーヴァは二十代に入った女、それも妖しい美しさを持った女の姿をしている。
だが今回のそれは、少女とでも呼ぶべきサイズ、輪郭を最初に見せる事になった。そしてその服装も、戦士からは程遠く感じさせるような、ふわりとした輪郭を見せ始める。魔力によって肉体を得た輪郭を色付け、服装を見せる。それは左右非対称、所謂アシンメトリー型の服装であり、服装の左側が右側に対して長くなっている、二重構造フリルの様なドレスだった。腰回りとスカートの外郭の一層目が黒く、その下の層は白くなっており、首元まで覆っている。袖も左右で非対称となっており、左袖が余る様に長くなっている中、右手は綺麗に手を出す様になっている。
そんなファンシーさを感じるようなドレス姿はしかし、肩に羽織られた無骨な黒いロングコートによってファンシーさを台無しにされており、その後ろへと黒髪が伸びて行く。そう、黒い。コートも、髪も、そしてドレスも白と黒のツートーンだ。ただし、その眼の色だけが血の色みたいに赤く爛々と輝いており、
既に契約は完了している。というか一方的にした。現界直後に襲われるかもしれないという可能性を考慮した警戒だったが……この様子を見る限り、大丈夫だったのかもしれない。
それはともあれ、
背が低い―――12? 或いはそれよりも若いかもしれない、少女の様な姿をした狼娘の英霊だった。その姿を見てふむ、と呟く。
「契約現界完了だけど……お前は、えーと……名前は?」
「……リィ……リィレン・ロゥファン・リュウォン」
「おっと、これはまたなんか新しい文明に触れた感。俺がお前を蘇らせた。俺がお前の主だ。俺はマスター、いいな?」
「はい……主……」
受け答えはある。それを見て、ディーヴァが片腕で胸を持ち上げた。
「まるで夢現の様ですね。情けない」
『貴様も同じ醜態をさらしていたぞ歌姫』
「覚えてないんでノーカンよ」
ナイトとディーヴァ、割とお互い相手には気安いんだな……と思いつつ、軽くリィレンという名前の狼娘の顔を覗き込んだ。
「お前、生まれと身分は」
「獣国出身……第五王女です……」
「特技」
「眷属召喚……気配遮断……暗殺……」
「丁度欲しかった枠じゃん。生前、一番やったことで大きな事は?」
その言葉に一瞬、狼娘が動きを停止するが、しかし言葉を続けた。
「
これは拾いものだ。そう思いながら狼娘のステータスを確認する。そこに表示されている称号を確認し、良し、と呟く。
「お前に生物らしい名前は不要だな。死んでるし。俺の所有物だし。そういう訳で今日からお前はマーダー。それが役割だ。解りやすい名前だろ?」
「はい……ありがとうございます主……」
こくり、とまだ意識が半ばホワイトアウトしているのか、マーダーは薄い感覚で返答した。そのリアクションはともあれ、個人的にはステータスとその特技を聞いて満足だった。何せ、レベルに関しては上限解放されたナイトとディーヴァと並んでいるのだから、満足するに決まっている。
Name:マーダー
Level:210
Title:【虐殺姫】【愛されざる者】【絶対悪】【国喰い】【奈落の影狼】
そしてこの称号だ。どこからも闇しか感じない。純度100%の闇だ。だが厨二力のコスモが燃え上がってくるのも感じて来る。心の中でええやん! と評価していた。見た目も中身も真っ黒ならそれはセンスがないんじゃなくてマジモンじゃないか、と。それに個人的にこう、高貴な身分を従属させるというシチュエーションに大変充足感を得ている。
今度から椅子係をディーヴァからこいつに交代させるか、と決める。
「うーむ、暇なときにどんな人生を送ったのか全員から聞き出したい所だ……」
この3人、話をゆっくりと聞けば何か、面白い話が出てきそうだと思う。まぁ、それにはまとまった時間が必要なのだが。いや、寧ろ今だからこそ時間があるのだろうか? 錬金術に関してはここからは急ぐ必要はない。既に分野のトッププレイヤーとして君臨している。後から追いついてくるプレイヤーも存在するだろうが、今は焦る必要もない。それにまだ周辺がきな臭いんだ。
大陸情勢が落ち着くまでゆっくりと戦時の日常を楽しめば良い。
次の作成予定は《夢幻の羽》だ。
此方は実はそこまで作成難易度が高くはない。
なら先に此方の作成だけは終わらせてしまおう、と決める。
「ナイト、ディーヴァ、マーダーを宜しく」
「はい」
『拝承しました』
ナイトとディーヴァがマーダーの両脇を固めてそのままずるずると引っ張って行く。まるで悪い組織に誘拐されるお姫様の様なシーンだが、それを無視して作業を始める事にする。
材料は海鳥の煌羽、夢魔の血、エーテル値3の睡眠薬、そして祝福された聖水になる。
やる事はシンプルだ。
ベースとなる素材は海鳥の煌羽であり、残りの液状の素材に関しては一旦混ぜてから遠心分離機を使って成分別に分離させる必要がある。なので作業机の上にまずは本体となる羽を
昔であれば錬金釜が無ければ全くここら辺の作業が出来なかったのだが、《界眼》は成分や特性を見極める為のスキルだ、今では錬金釜が無くてもこれぐらいの錬金術であれば問題なく出来る。
なので羽を固定した状態で、今度は3種類の液体を混ぜる。
この時、混ぜる時に使う量は均等に注ぎ続ける事が大事である。
夢魔の血は夢を象徴する。
エーテル値3の睡眠薬は効果の反転により不眠を象徴する。
祝福された聖水は利用する事で不浄を浄化する力がある。
つまりこれを均等に混ぜて行く事で不眠と夢の状態を聖水の効力で保護しつつ、しかし不浄部分だけを消して、夢と不眠という矛盾を孕んだ液体を生み出すのだ。二律背反というものは現実では存在し辛いが、こうやって錬金術を利用すればそれを簡単に生み出す事が出来る。
そしてそうやって三つの液体を均等に、同時に注いで生み出された液体を遠心分離器にかける。そうすることによって遠心分離機内部で液体の重い部分、軽い部分が分けられる。このうち、最も軽い部分が生み出される。これがほとんど透明であり、同時に重量を持たない液体であり、特性そのものが液状化した様な物質である。
手で物理的に触れる事が出来ないのは、夢という特性に従って物理的な形状を持っていないからだ。
これをエーテル干渉の応用で遠心分離機から抽出する。つまり、これが液体の上澄みとでも呼ぶべき、一番純粋な部分だ。これ以外の部分に関しては使用しないのだが……それ自体も一つの薬になるので、ギルドで販売する事が出来る。というか、一部魔術の触媒として使えるのだ。
軽いお小遣いになる。
それはともあれ、こうやって入手した夢と不眠の液体。それを羽の根の部分から注入して行き、毛先へと向かってゆっくり、ゆっくりと浸透させるように広げて行く。それが完全に浸透し終わると、今までは青くキラキラと輝いていた羽の色が一気に変質する。紫にキラキラと輝きながら、偶にその姿が霞んで消えそうになる。
夢、不眠、現実、二律背反。その概念と特性を孕んだ羽の完成だ。
つまりこれが《夢幻の羽》という錬成アイテムの完成である。
夢と不眠、寝ていなければ夢を見る事は出来ない。だが不眠によって眠る事が出来ない。ならこの二律背反を成立させるには起きたまま夢を見る必要がある。だから夢に起きたまま侵入する。夢を見ている存在の夢の中へと、起きたまま侵入するのだ。現実に存在する、適性の高い生物の素材を使う事で、現実という要素で、使用者が夢を見ない様にアンカーしている……らしい。
なんとも不思議な錬成アイテムだった。
ちなみにこれはもっと上位のシリーズが存在する。此方は上位の名に相応しい作成難易度を誇っており、夢の改変や操作までを許可するような極悪な物である為、作成には事前にギルドからの許可を貰わなくてはいけないらしい。
ギルドにはこういう凶悪な錬成アイテムを管理する義務があるのだ。流通を支配し、自身のギルド員がその恩恵を受ける事が出来るようにしつつ、社会的に排除されない様に居場所を守っている。自由に錬成できないのクソじゃん! とか言っちゃいけないのだ。素材やレシピが回ってくる上に、初期の頃のスタートダッシュが決められるのは間違いなくギルドの貢献なのだから。
「ともあれ、これで1本目は完成。失敗に備えてもう1本作るか」
そうやってサクサクと《空の鍵》を作る為の材料を作成し、揃えてしまう。
材料が全て揃った所で、直ぐに作成作業に入る事は……しなかった。
まぁ、折角楽しんでやっているのに急ぐ必要もないだろう、という簡単な判断だった。思いつきで《空の鍵》の材料作成を一気に終わらせてしまった……というか《羽》の方はそこまで難しくないのでこれでいいのだが。とはいえ、ぶっ通しで作業して大体、3時間ほどになる。余った素材を販売可能な状態へと加工する時間も含めて、なのだが。お小遣いを軽く合間合間に稼いでおかないと、懐の中身がちょっと危ないのだ。
だからちょくちょく、納品目的で錬成をする必要がある。
廃材だからこそ錬成品に使える、何て場合もある。素材を無駄にする必要はないので、メインの材料作りを終わらせた所で、軽く納品目的の錬成を行い、休憩を差し込む事にする。
少し喉が渇いた。
「お茶でも淹れさせるか……」
ディーヴァが元令嬢だった影響なのか、意外と茶を淹れるのが上手なのが謎だった。まぁ、雑用させるには便利なので、文句はない。じゃ、呼び出して茶を入れさせようか、そう思ったところで茶の匂いがしてきた。
「ん? 淹れてくれたのか、気が利くじゃない……か?」
「失礼します、そろそろ休憩を入れる頃かと思いまして」
そう言ってアトリエに入って来たのは新入りの
「もう意識がはっきりとしてきたのか」
「主のお力のおかげかと。此方、紅茶の方になります。好みはまだ把握していませんので砂糖の方も持って来ました」
「あ、いや、おう。ご苦労」
なんと言うか……慣れてない? そんな事を考えながら終わらせた道具を簡単に片づけて、作業机の上に茶を置いてもらった。なんか、アトリエの入り口からディーヴァが悔しそうな表情で覗き込んでいるのが見える。その頭上に浮かぶトワがディーヴァの真似をしているのが更にシュールだった。仲良いな、お前ら。
そう思いながらカップを手に取り、茶を口へと運んだ。
丁度良い温度にまで調節されたお茶は、本当に同じものを飲んでいるのか? と疑いたくなるぐらいに、味が違って感じられた。
「美味い」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げるマーダーの姿を見て、率直に疑問に思った事を口にする事にした。
「妙に手馴れているな?」
「私は第五王女でしたから。立場が低く、行きつく先は政治利用。ただそれも黒髪の生まれという事で疎まれ、何時でも道具として利用できるように幼き頃より武芸と従者の真似事を嗜んできました。結局、真似事は真似事でそれを振る舞う事はありませんでしたが。死後、こうやって主の為に腕を振るう時があったのです、無駄な事ではなかったのでしょう」
ディーヴァの方を見る。悔しそうにしている。そうか、令嬢属性だから自分の完全な上位互換属性を見て敗北感を感じているのだろう。
「安心しろ、お前元令嬢というイメージ、硝煙の気配が強すぎてほぼ消えてるから」
「えっ!? でも私普段からお淑やかさを歌ってアピールしてますよ!?」
『歌うだけならハミングバードも出来る』
「ぐぅ」
苦し紛れにぐうの音だけを上げてからディーヴァが沈黙した。色々と惜しい奴だった。というか記憶の再生が進んだ影響か、大分愉快な奴になっていた。だけどマーダーがこうやって自主的に茶を淹れた事を考えると、悪くはない結果だと思う。少なくとも頭をアッパラパーにした完全な洗脳状態だと、マーダーはこうやって茶を自分で淹れようとする事はなかった。そういう技能があるという事を此方が探し出さない限り申告する事もなかっただろう。
自主性の有無は重要なファクターだ。
人形や玩具であるのは別にいいのだが。
少なくとも自分で動いて判断できる人形でいて欲しい。忠誠心という不動の要素で心と脳を満たし、支配すればおそらくは大丈夫……だと思いたい。まぁ、ディーヴァとマーダーに関しては悪魔のチョイスから召喚されている存在だから、セーフティを組み込まないと安心できない事実もある。
じゃあ、丁度手も空いたし中身を探るか、と決める。
紅茶を飲み干すと、片手で此方へと来い、とマーダーを招き寄せる。それに従い、マーダーが近寄って来た。椅子に座ったまま、招き寄せたマーダーを覗き見る様に体を前に寄せる。
「ふむ……」
「主?」
「少し黙ってろ」
「はい、解りました」
そう言うと黙って、不動のまま此方の視線を受け入れた。その姿のまま、《界眼》を使ってマーダーを観察する。やはりその姿を見て特徴的だと思うのは頭から生えた耳と、臀部から生えた尻尾だろう。このパーツだけは確実に獣の物だ。手を取って確認すれば普通の人間の手だが、爪がまるで刃の様な鋭さをしている。これで人間を真っ二つにするぐらいは簡単そうに見える。
「獣人か……」
「はい、
「こっちの大陸は共和国行かなきゃほとんど見ないって話なんだよなぁ、獣人」
もう一つ横の大陸―――別の大陸にはどうやら、獣人や虫人と呼ばれる種族がメインの大陸になっているらしい。らしい、というのはアップデート前まではそういう情報が一切なかったのに、アップデート後にはまるで最初から隣の大陸が存在していた、今は危ないから向かえない。そんな事実にNPCの認識が変わっているからだ。
やっぱり、戦争が終わったら次の大陸への道が出来るのだと考えていいのだろう。
「んー、やっぱり肉体は俺の魔力で作っているから仕込まれているという事はないか」
まぁ、何度かディーヴァと憑依融合を繰り返しているのだから、それで異常を感知してないのだから、たぶんディーヴァには仕込みはないと思う。ただこっちは、狙って運ばれてきた感があるからなぁ、
と思いつつ、
耳を傷めない様に掴んだ。
「っ」
「うーん、もふもふ……」
感触は完全に動物のそれだった。片手で髪の下をかき分けてみるが、そこには人間の耳がなかった。どうやら、この子の場合は人間の耳は無しで、頭の上の獣の耳のみらしい。まぁ、でも良く考えたら獣と人間で耳が4個もあったら怖いよな。手に触れる耳のふわふわ、としているが、形が程よくある感触に心が癒される。
これがアニマルセラピーか。
「あの、主」
「なんだ」
「くすぐったいのですが……」
「俺が楽しいから我慢して。というかトワの100倍は価値あるぞこれ」
「はい……」
「きゅぉっ!?」
命令には逆らえないので大人しく耳をにぎにぎされているマーダー。なんかもう、戦力にならなくていいからここだけずっともふらせ―――まて、まだ尻尾が残っていたではないか。そちらの方をもふらせて貰おうと思った所でトワがアトリエの中へと、抗議する様に突入してきた。それをサラっと受け流しつつ、今度は尻尾を触らせて貰う為にマーダーを更に寄せ、膝の上に座らせる。
「その、尻尾は神経が通っているので出来れば穏便にお願いします主」
「大丈夫大丈夫、もふもふするだけだから、もふもふ」
絶対に人前でする事は出来ないぐらいにキャラを崩しながらマーダーの尻尾へと手を伸ばした。
「―――失礼! ここに錬金術師のマスター氏はいないだろうか!」
そんな、聞いた事のない男の声に邪魔をされた。一瞬でもふもふしようと高まっていた気持ちが霧散して行くのを感じ、英霊達を霊体へと戻しながら姿を消して護衛させるようにし、溜息を吐いた。
「はいはい、居ますから少々お待ちください」
少しやる気無くすなぁ、と思いながらアトリエを出て、軽くRPという仮面を被り直しながらキャラを演じ直す。ここしばらくの生活ですっかりオンオフの切り替えが早くなったよなぁ、と思いながらアトリエを出て、そしてカウンターの裏から店内に戻る。
そんな店内の中には、3人ほどの小さな集団が待っていた。男二人に女一人という組み合わせで、先頭に立つ男はそこそこ高級品と解る服装に身を包んでいた。その美男子な姿から一瞬、貴族かなにかか? と見間違えるかもしれないが、《界眼》と《アビスロード》の合わせ技が魂を鑑定して判断させる。
「おやおや、言っておきますけど同郷とはいえ、禁制品は売りませんからね。ギルドに怒られるので」
「いや、あぶねーことには手を染めるつもりはねぇから!」
「レイジ」
「ぐっ……すまん」
「いえ、そこまで硬くする必要はありませんよ」
「いえ、此方から訪ねているのに礼を欠くのは良い事ではないので」
バンダナを首元に巻いている青年が怒られていた。真面目だ。リーダーの様な男はこれ以上なく、真面目な男だった。ここ数日で経験した様な軽薄さや軽さは存在しない、真面目な要件を持って自分に会いに来た、というのが理解できる態度だった。軽く追い返したり深海に沈めたりして追い払ってきたが、どうやら今回はそう簡単に行きそうな話ではないようだ。
ふむ、と呟きながら話の雰囲気を察知し、カウンターの向こう側の三人へと視線を向けて、口を開く。
「それで私のアトリエにどのようなご用件でしょうか」
その言葉に金髪の美男子が頷いた。
「えぇ―――実は貴方をクランに招待するべく、勧誘しに来ました」
その言葉に心の中でえー、と声を零しながら面倒の気配を感じた。
Name:マスター
Level:150
Status:
AP:730/730
筋力:170 魔力:186 敏捷:180 体力:210
Title:【錬金術師:上級】【Evil】【ソウルマンサー】【探究者】【未知を求める者】【畜生メガネ】
Skills:
SP:610/668
《アビスロード:F》 《ポーションピッチャー:S》
《性魔術:B》 《結界術:A》 《界眼:F》 《気配察知:C》
《タフネス:M》 《頑強:C》 《経験継承:D》 《融合:A》
王族従者系黒狼娘暗殺者加入。キャラが絶望的に濃い。そして強くなれば成程記憶やら人間性が修復されて行くので、従者の方もキャラがはっきりして来る。ところピッチャーさん何時になったらステから消えるの?
合作。クラン勧誘。有名税。評価。アンチ。信者。有名になればいい事ばかりではないのだ。歩いていてふとした時に声をかけられる。そんな事もあるのだ(深海に閉じ込めながら