※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーととぅえんてぃしっくす

 勧誘に来たとリーダー格は告げて、そのまま一旦帰った。トリノと名乗ったリーダー格の男はまた後日勧誘に来るので頭の中に自分の事を残して欲しい、とパンフレットと名刺だけ残して取り巻きを連れて帰ってしまった。

 

 どこか慣れたような動きでもあった。たぶん、というかリアルでは間違いなく社会人だな、と思いながらアトリエに戻った所で名刺とパンフレットを確認した。というかパンフレットってなんだよ……と心の中ではツッコミを入れていたが、

 

 割と、所属組織自体はまともだったらしい。

 

 【バルバッド開拓団】。それが自分を勧誘しに来たクランの名前だった。その名前通り、クランの目的はこのEX:Worldというゲームの世界、その世界観を開拓する事にあるらしい。もはや頭がおかしいとさえ表現できるEX:Worldにおける世界観の作り込み、設定の用意、そして高度に発達したAI。そして一切の制限が存在しない世界観。ここまでやっておいて、普通にプレイするだけではあまりにも勿体ない。

 

 どこまでも、とことんこのEX:Worldという世界を開拓してみないか?

 

 それがバルバッド開拓団というクランの目的、活動内容らしい。折角自由な世界、自由な設定が存在するのなら、それをどこまでも追求しようじゃないか。もっとこの世界観を楽しもうじゃないか、という集団らしい。

 

 だから様々な分野に特化したプレイヤーを勧誘し、それぞれの分野で新しい発見を行いつつ、遺跡探索などを行い、図書館だけでは知る事の出来ないこの世界の過去の事等を調べたりし、旅をする集団らしい。一応本拠地は共和国に存在するものの、国に所属するような事はせずに、中立を保っているらしい。

 

 その代わりに発見物の一部を報告する義務は存在するが、パトロンも存在する。完全に自由という訳ではなく、最低限の首輪はかかっている様だった。まぁ、ロストテクノロジーを掘り出した場合の事を考えれば当然の処置だ。

 

 だが、パトロンが存在するという事は成果を出す必要があり、そして同時に金(・)策(・)す(・)る(・)必(・)要(・)が(・)な(・)い(・)という事実でもある。

 

 それは単純に羨ましい話でもある。設備、素材、依頼料等を考えると常にお金の問題は消えない。それを負担してくれるパトロンの存在はやはり、かなり羨ましい話でもある。何せ、今でもなるべく最新の設備を揃えようとしているが、金銭的な問題でそれは難しい。パトロンが存在すればその問題は解決するのだ。

 

 今でもかなりカツカツにやってるからなぁ……。

 

 作りたいものを作る合間に、端材で金策。それが今の自分のスタイルだ。これで足りているか? と言われたらちょっと、反論し辛い。実際、慢性的な金銭不足である事は認めなくてはならない。深海でちょっと素材採取してきても、それを売り払った金は簡単に底を尽きる。今でもかなり金策に困っているのは事実だ。

 

 今あるものを完成させたら今度はホムンクルスを作る事を目指して見たり、違法技術をちょっと実験してみたかったり、闇ブローカーから非合法レシピを購入してみたかったり。

 

 金は、どれだけあっても足りない。稼げども、稼げども湯水のごとく消え去って行く。金策して、それを使い切って、また金策するのがMMOの基本とはいえ、パトロンから支援して貰ってある程度金銭的負担を軽減して貰えるのは滅茶苦茶羨ましい話だ。

 

 ぶっちゃけ、自分もパトロンの存在を考えなかったと言えば嘘だ。だが最終的に悪魔との繋がりや、スキルの事、そして自分のやりたい事を考えるとどうしても金の使い方を管理する人間がいるのが邪魔になってくる。まぁ、表記上はスキルはセーフになった。称号がやや怪しいが、それだけで看破できるわけでもない。ただどうしても深淵の知識を求めようとすると、倫理観が邪魔になってくる。

 

 そしてパトロンは何のために金を使うのか、それを聞いてくるような事をしてくる。というか管理しなくてはならない。

 

 それを考えると実に邪魔だ。やっぱり自分で金策して、好きに金を使える状態が一番楽だと思える。少なくとも足のつかなさでは自分で素材を調達するのもベストになってくる。今の自分の戦力はナイト、ディーヴァ、マーダーの三人に雑霊を使い魔代わりに使役する事が出来る。これを使えばある程度アトリエに引きこもったまま色んな作業をする事も出来るだろう。

 

 とはいえ、

 

「やっぱり金があるのは羨ましいなぁ……」

 

 パンフレットと名刺を燃やして灰にする。勧誘には興味がなかった。今のクランに所属しているのだって、ある程度は勧誘避けにする為だ。一応クランの方に話を通され、それで勧誘の許可は貰っているのだろう……とは思っている。

 

 まぁ、事実を確認するのは面倒だからいい。だけどまさか勧誘が来るとは思わなかった。いや、動画投稿で軽く知名度が上がってきた結果か。まぁ、必要経費として考えればそれはそれでいいのかもしれない。

 

 まぁ、数回ほど勧誘を断れば諦めるだろうとは思う。しつこく食い下がる様だったらソレ相応の対応を見せればいいし。まぁ、構われるのも、やっかみを買うのも一つの楽しみと言えばそうだ。現状はこれでいい。少しぐらいスポットライトが当たらないと、VRMMOを遊んでいる意味がない。

 

「どうするかなー……」

 

 焦って何かをする必要はどこにもない。休日はまだまだたっぷりと2か月分残っている。そして焦った所で結果が悪くなるだけなのだから、余裕とコンディションの良さを持って錬成には挑みたい。またぞろ数日、ぐだぐだとした休みを取っているのも悪くはない。

 

 とはいえ、ちょっとしたやる気に満ちてきている時でもあった。

 

 面倒だけど―――同時に、スカウトという事実には胸が躍る。

 

 つまり勧(・)誘(・)す(・)る(・)だ(・)け(・)の(・)価(・)値(・)が(・)俺(・)に(・)は(・)あ(・)る(・)と相手は思ったのだ。しかも共和国に拠点のあるクランからの申し出だ。国を出て誘うだけの価値があると思われるのは正直、嬉しい話でもある。

 

 つまりは、行いが評価されているという事でもある。

 

「まぁ、プレイヤーで一番錬金術を修めているから当然と言えば当然だけど」

 

 常にこの分野におけるトップは維持しつつ独走したいよなぁ、と思う。とはいえ上級からは上達するのにかなりの時間を必要とするらしい。その事を考えていると、簡単に上級から更に上の領域へと抜けるのは難しいだろうと思える。必要になるのは経験と、知識だ。そしてたぶんそれだけじゃなく……一種の独自性も必要だろう。

 

 少なくとも錬金術という分野におけるトップ三人を見れば、それぞれ錬金術を基本として、独自の方向性に突っ込んでいる。つまり錬金術だけでは駄目なのだと思わされる。つまり独自に真理を追究する為の手段と能力が必要になってくる。

 

 現状、自分の構築を見る。

 

 まずベースは錬金術だ。そこに魂を操る事に特化したネクロマンサーとしての技能が備わっている。そして最後に虚属性をコントロールする事に長けている。虚、つまりは存在しないものへの干渉が出来る。それによって魂への干渉能力が上昇しているとも思える。

 

 何せ、虚の操作とは無の肯定になるからだ。

 

 つまり魂という概念的な存在に対する肯定でもある。これを更に突き詰めれば、もっと、何か面白そうな事が出来そうな気がする……とはいえ、そこは研究が必要だろう。少なくとも虚無の物質化、構築、維持が出来るだけでもかなり特異だと思っている。

 

 魂と虚無。錬金術にこれを混ぜるだけなのは―――簡単だ。元々虚無の利用は錬金術から派生した能力なのだから。それを混ぜて構築するだけなら難しくない。それに生きた武具というものも世の中には存在するのだ。魂をぶち込めばそれぐらいは出来るだろう。

 

 そしてそれでは既存の錬金術でしかない。

 

 もっと、その先へと至る必要がある。

 

 そう、例えば《超越》。そう呼べるものが必要だ。超越の理。常識を超越する方法。超越する為の力。その知識が必要だ。だがそれを十全に運用し、理解し、活用するには自分自身の研鑽が必要だ。

 

「……そろそろ、やってみるか?」

 

 生(・)物(・)実(・)験(・)を。

 

 丁度良い息抜きになるのではないか、と思っている。今までやろうやろう、とは思っていたが後回しにしていた部類でもある。いい加減、そろそろ手を付けておく必要もあるし、個人的な興味もある。気分転換にも丁度いいだろう。

 

「モルモット、調達するか」

 

 いい加減後回しにせず手を出す事にした―――まずは実験の為の素体を確保する必要がある。

 

 その事を考え、出かける準備を始めた。

 

 

♦

 

 

「すいません、実験用のモルモットが欲しいんですけど」

 

「おや? もうそんな事までしますか。それでは小型、中型、中・人型、大型とありますがどうしますか」

 

 錬金術師のギルドへと向かい、いつもの受付を相手に普通にモルモットの購入を行う。まだ、人体実験には早い。とはいえ、生物実験はどの学問でも新しい結果を求めるのであれば必須だ。そう言う訳で、錬金術師のギルドではモルモットを販売している。

 

 文字通り、実験に使える動物だ。受付でリストを出して貰い、それを確認する。

 

 小型はマウス、中・人型にはテイミングで捕獲されたコボルトが、そして大型もモンスターが用意されている。

 

 テイマーのギルドとある程度連携し、テイマーが捕獲してきたモンスターを此方でモルモットとして扱っているのだ。一応、テイマーのギルドでもモンスターは扱っているが、あちらは質をベースにしている。此方では使い潰せるモルモットを優先している。そういう違いからパイの食い合いにならないのだ。

 

 まぁ、正直どうでもいい。重要なのはモルモットの購入が出来る事だ。値段は……小型がそれなりにリーズナブルだ。此方ならある程度数を揃えて購入する事も出来そうだ。ただし、去勢済みなので手元で繁殖させるような事は出来ない。流石にそう上手くはやらせてくれない。

 

 とはいえ、態々自分で実験台を調達する必要がないのは楽だ。

 

「しかしこうやって実験動物を販売してくれるというのは結構意外でしたね」

 

「そうですか? 新しい境地の探求の為にはどう足掻いても実験が必要です。その効能を確かめるのは時に鑑定するだけでは足りない場合もあります。常に犠牲によって技術というものは進歩しますから当然の事かと思いますが」

 

 受付の言う事は正論だった。ただし、現代社会でそれを口にすると人権だかなんだかがかなり煩い。

 

「あぁ、あと購入の前に一つ先に忠告しておきます。双方の合意なしで行われる人体実験は当然ながら非合法の行いですので、注意してください。ただし、事前に実験内容をギルドに提出し、ゴーサインがもらえれば実験は許可されます」

 

「ふむ……」

 

「あと、人(・)体(・)を(・)錬(・)成(・)し(・)て(・)実(・)験(・)に(・)利(・)用(・)す(・)る(・)の(・)は(・)違(・)法(・)で(・)は(・)な(・)い(・)ので、留意を」

 

「生物を人体に改造しての利用は?」

 

「法律に抵触しませんね。基本的に人権のある人間を使う事が法律で禁止されています」

 

「思ってたより緩い……」

 

「技術の進歩に犠牲はつきものです」

 

 予想してたよりも錬金術ギルドとは結構アレだったな、と思いつつも、とりあえずはモルモットを発注する。購入してすぐに連れて来る訳ではなく、確認の為にも翌日運び込んでくる形になる。意外と異種族の人権ってのは死んでるんだな、と感じさせるものだった。とはいえ、やりたい事がやれるのは素直に嬉しい話だ。

 

 なにせ、動物を相手に実験するのであれば、ギルドからのチェックが入らないからだ。ぶっちゃけ、とてもだが報告出来ない内容である為、最終的にはどこかで人体を調達する必要がある。まぁ、その時はその時で考えよう。少なくとも今はまだその段階には到達していない。

 

「では」

 

「はい、明日アトリエに送りますね」

 

 発注を終わらせた所でギルドを出た。明日になればモルモットがやってくる。色々と出来る事が増えそうだなぁ、と思いつつ今では規模が小さくなった内紛の様子を確認しつつ、路地裏へと回って行く。

 

 やはりまだ、大通りを歩くのは危ない。早い所戦争が終わってくれればここも治安が回復するんだがなぁ、と思う。

 

「まぁ、その内終わるでしょう」

 

 眼鏡を押し上げながらさくさくとアトリエへと戻る為の道を進んで行く。と、その前に一度図書館に顔を出しておくべきだろうか? 参考用の資料を今ならどれをみればいいか、解る気がする。そうしよう。だから歩く。

 

 まだ、何も悪い事はしていない。

 

 まだ、何もしていない。

 

 だからまだ、何も起きない。

 

 誰も、何をしようとしているのか気にしない。

 

 

♦

 

 

 翌日、再び勧誘が来た。アポイントメントを取得されたので当然と言えば当然だ。とはいえ、丁重にお断りした。それで揉めるような事は特になかった。相手側も元々絶対に勧誘しなくてはならないという意気込みで勧誘しに来たわけではなく、即戦力として加入したかったという意味でのスカウトだった。

 

 まぁ、ぶっちゃけ、上級の錬金術師を味方にするならプレイヤーである必要はない。

 

 そう、NPCを雇えばいいんだ。だからそこまでプレイヤーを集める事は必須ではない。まぁ、目的がプレイヤーで楽しむ事としている以上、能力のあるプレイヤーが欲しかったのだろうが。

 

 まぁ、断った以上、それに煩わされる様な事はないだろう。店番にも勧誘のアポイントメントは取らない様に、と言い伝えておいた。勧誘される事は認められているという事でもあるので嬉しいのだが、一々対応していたら大事な時間を消費してしまう。

 

 そう、今から生物実験を開始するのだ。

 

 勧誘に来た連中を追い返した所で、アトリエには実験用のラットが既に届いていた。アトリエ内部にケージを運び込んであり、何時でも実験が出来る様に準備は整えていた。ラットを眠らせる為の麻酔は―――魔術でどうとでもなるので、必要ない。

 

 だからケージの中で暴れているラットを眠らせてから掴んで取り出し、それを作業机の上に置いた。

 

 完全に神経が麻痺しているラットは動けず、時折ぴくぴくと痙攣しながら成すがままになっている。その状態、ラットと共に用意した素材の数々を取り出す。

 

 基本的な鉱石セット、木材、そしてモンスターの素材だ。

 

「ま、まずは無難にキメラ技術から試すか」

 

 図書館から借りて来た本にはキメラに関する情報が記載されていた。

 

 そう、キメラだ。

 

 技術としてちゃんと存在するのだ。

 

 テイマーからは邪道と蔑まれる技術であり、錬金術師からは美しくないと言われ、そして教会からは命を冒涜する技術であると言われているがこれ、ぎ(・)り(・)ぎ(・)り(・)合(・)法(・)な技術なのだ。異なる生物を掛け合わせ、融合させる事で互いの特徴を持った生物を生み出すのがキメラ技術になってくる。難易度の高い技術を必要とする割にはぶっ飛んだ生物を作る事は難しく、素材となる生物が生存していないと大きく効果が落ちる為、色んな方面から不人気とされている技術だった。

 

 だ(・)が(・)存(・)在(・)す(・)る(・)。それが最大のポイントだった。

 

 本を見て、確認する限りキメラ技術における融合は接合部位を気化エーテルにするか、流体エーテル化させる事で混ぜる事の出来る状態にし、そこから接合させる事で融合させるというのがスタンダードらしい。

 

 このキメラ技術では余りにもかけ離れた生物の部位を増やしたりする事は難しく、余りにもかけ離れた生物の部位や特性を生やそうとすると、拒否反応で即死するらしい。

 

 面白い事に、このキメラ技術は自分の見た、悪魔のエーテル融合と非常に似た性質をしている。物質的な融合から変異。それは悪魔が人間と融合する時に行う事である。それがキメラ技術、という名を受けるのは対象が人類じゃないからだろうか?

 

 どちらにしろ、実に興味深い話だった。

 

 キメラと悪魔、何が違うのか? やはり悪魔融合の場合、悪魔と言う素材そのものが生存しており、それが融合する際に意識と同化するという点にあるのだろうか? それとも動物だから許され、人間だから許されないという話なのだろうか?

 

 実に興味深い話だ。

 

 という訳で実験を行う。

 

 用意したラットにまずは最も簡単なキメラ技術を試す為に、部位を増やしてみる。最も簡単なのは尻尾をもう一つ増やす事だ。だから別のラットから尻尾を調達し、接合部位を殺さないように半分溶かし、接合しつつ神経や筋肉を繋げて行く。ある程度、身体構造や医学の知識が無いと面倒な技術だと思いながらラットに尻尾を生やした。

 

 見事に成功。

 

 ラットは二本の尻尾を揺らしている。

 

 次の実験を行う。今度は角を生やしてみる。これは本来のネズミには存在しないパーツだ。事前に用意した骨を削って角にしたら、それを錬金術でラットに接合してしまう。頭蓋骨と一体化させるような形で表皮を突き抜けて伸びる角がラットから生える。

 

 此方も成功。角の生えたラットが出来た。

 

「まぁ、このレベルだとプチ整形レベルか」

 

 呟きながら新しくラットを用意する。此方も尻尾を二本にする。だが今回は神経との接続は行わず、物理的に接合させただけの状態でキメラを行った。当然ながら尻尾が神経に接続されていない為、それが動くような事無く、物理的に繋がっているだけだった。しかしそれで拒否反応が現れる様な事はなかった。

 

 これもセーフらしい。

 

 となると生物としての規格が合わない場合に拒否反応が出るのだろうか? もうちょっと大胆にキメラ化をやる事にする。

 

 次はラットに鉄鉱石を融合させる。

 

 無機物との融合は錬金術を使う。何せ、やる事が物質的な融合に性質的な融合をプラスするという事だからだ。

 

 故にまずは鉄鉱石を物理的に熱で熔かし、それからそれを流体エーテルへと性質を保存したまま分解する。ここまでは何時もの錬金術のプロセスなので難しくはない。

 

 この次にラットの肉体に対してこの流体エーテルを注入する事なのだが、普通に注入してしまうとラットの肉体を構成するエーテルの方が総量で上回っている為、そして同時に意(・)思(・)に(・)よ(・)る(・)抵(・)抗(・)力(・)に(・)よ(・)っ(・)て(・)拒(・)否(・)さ(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)のだ。故にラットの意志力を落とす様にその意識を一度、気絶させて遮断する。

 

 それからラットの体に鉄鉱石の流体エーテルを注入する。物質ではあるものの、同時に非物質の性質もあるので、注射などを使わなくても肉体に染み込ませる事は難しくはない。だがそのままやると上書きされてしまう為、注入するエーテルその物を保護して体内に注入しつつ、上書きされない様に少しずつエーテルを解放しながら混ぜて行き、性質をAからAB、それからAABへ、最終的にCという形へとズラして行く。そうやって鉄鉱石の性質と鉄鉱石そのものを注入されたラットは、エーテルに記録された情報に従って変質を始める。

 

 その肉体が鉱石に置換され始めるのだ。体がごつく、金属質な毛を見せ始め、そして爪は鋭い金属製のものに変わる。そして完成されるのは……メタルラット、とでも呼ぶべき金属製のラットだった。

 

「ふーむ、面白い。やはりエーテルは物質の形や性質を決める情報を保有するキャリアー……リアルで言うDNAと同じ存在なんだな」

 

 情報はエーテルに刻まれている。それは確かなのだ。つまりはエーテルへの理解がこの世界法則の解明へと繋がる。そしてエーテルの支配力が強さを決めるのだろうか? 最終的にエーテルの支配力が強さを分けるのであれば、勝負は陣取り合戦の様なものだろうか……どちらがより多くのエーテルを確保し、そして支配できるかの戦いに。いや、それはまだ考えなくてもいい。

 

 重要なのはこのエーテルの情報と性質を理解する事だ。

 

 どこまでの範囲で影響を受けるのか、どういう風に影響を受けるのか。毎回同じような影響を受けるのか。それらを検証しなければならない。

 

 このメタルラットを今作成したが、同じプロセスで同じものが生まれるのか、何度も試してそれを調べる必要がある。もしこれで毎回同じ生物を生み出す事が出来るのであれば、それはつまりエーテルには安定性があるという事になる。融合、注入、流入した場合、安(・)定(・)性(・)を(・)取(・)ろ(・)う(・)と(・)す(・)る(・)動(・)き(・)だ。

 

 二匹目を作成し―――全く同じメタルラットが作れた。つまり偶然ではなく、同じ手順、同じ方法で作成すればこの形に変異する様になっている。

 

 三匹目は少しだけ保護を薄めて行う。つまり金属や鉱石としての性質を薄くするのだ。この時もメタルラット、ただし金属質が下がったものが出来る。

 

 ラットに鉄鉱石をエーテル化して注入した場合、自然と安定した形になろうとしている。つまりエーテルはニュートラルな状態では安定性を取ろうとする性質を保有しているという事でもある。

 

 だが考えればエーテルが安定性を自然と取ろうとしなければ、空気中の異なるエーテル属性が反発しあって爆発だらけの世界になっているよなぁ、と納得する。

 

 じゃあ、別の疑問が出て来る。

 

 何故調合や錬金術で組み合わせに失敗した場合、エーテルの反発が発生するのだろうか? 生物と無機物、ラットと鉄鉱石というかけ離れた性質を持つ存在をかけ合わせたら普通にメタルラットという金属質なキメラが完成された。

 

 この違いは何か。或いはエーテルとエーテルが融和する上で何かがそれを阻害する役割を持っているのか? それとも、

 

「……物質という形を保った状態だから反発するのか?」

 

 錬金術の基本は流体化させる事だ。

 

 物質を一回分解し、そこで結合して再構築する部分に肝がある。そうする事によって物質としての影響を受けずに、そのエーテルに刻まれた情報を参照して、クリエイトが行えるのだ。ある程度物質的な存在としても残すケースもあるが、融合させたりする場合は片方の存在をエーテルとして分解して利用している。

 

 一番最初にポーションに手を出すのは恐らくこの為だ。

 

 自分の手で磨り潰し、そして液状にする事で液状である状態が一番情報が参照しやすく、効能特性を引き出しやすい状態であるのを理解させる為なのだろう。

 

 机の上に並べられた三匹のメタルラットを眺めながら、指で机をトントントン、と叩く。

 

「虚属性、純属性……安定性……そして感情エーテル……エーテルは染まりやすい。だが同時にお互いに干渉し、侵食しながら支え合う……」

 

 トントントン、と叩きながら呟き、解っている事を呟く。エーテルはDNAの様なものだ。性質、特性、?、そして働きを記録しているエネルギーにして情報媒体だ。その両方の性質をエーテルは保有している。そしてエーテルは万能だ。純属性エーテルはどのような属性に染まる事も出来、この性質と特性の組み合わせによってエーテルはその姿を物質化させて形を変える。

 

 アルス・マグナと呼べる領域は恐らくエーテルから文字通りなんでも生み出すのだろう。つまりエーテルという物質による法則の完全解明に至っているのだろう。羨ましい話だ。

 

 話は戻し、エーテルの融和と安定性の話だ。エーテルが融和し、安定する性質を持つのであれば、感情エーテルの侵食変異の性質は、恐ろしく不安定だと表現できる。つまり感情がエーテルの性質を不安定化させるのだろうか?

 

「うーん……答えは出ないな」

 

 実験を重ねないと駄目だ。

 

 だからとりあえず、内臓や殻の内部にも侵食しているかどうかを確かめるために生み出したメタルラットを全て解剖する。その内臓をチェックし、体内の変化までを確認する。結果、金属化は体内にまで影響しており、心臓が鋼鉄と化していた。全てのラットがそうだ。同じような変化を受けている。

 

「……」

 

 ラットを更に数匹用意し、それらを鉄鉱石と融合させる。少しずつ融合の比率を変動させたグループを作る。融合率100%、90%、80%、と分けて行く。そしてエーテルの融合率による変異の変化を観察する。

 

 驚く事に、重要な器官程優先して変異率が高められ、そして融合率が下がるにつれて他の部位から変異が下げられている。

 

 中でも最優先されるのは脳、神経、心臓だった。

 

 ならここで脳、神経、心臓の変異を抑え込んで周辺の変異を優先させた場合はどうなる?

 

 実験を行った。

 

「ジュ、じ、じゅ―――……」

 

 結論、死ぬ。

 

 ゆっくりとショック症状が出ない様に丁寧に施術したが、どうやら肉体的に耐えられないらしい。常に心臓が動く様に意識していたのに、それでも死亡してしまった。つまり変異が発生する上で、最重要なのは脳、心臓、そして神経であるという事になる。

 

 或いは変異する際に発生する肉体の変化、それを管理しているのが脳味噌。正常に稼働させるのが神経。そしてそれらを支えるのが心臓なのかもしれない。つまりこれらのどれかが変異に失敗した場合、キメラ化も融合も正常に稼働しないという事になる。

 

 変異に対して肉体がついてこないという事になる。

 

「マーダー、茶」

 

『はい、少々お待ちを』

 

 少し休憩する事にする。マーダーに茶を入れさせながら解剖したメタルラットをエーテルへと分解して、それをリソースとして還元する。命のなくなった物質をエーテル化させるのは、もうそこまで難しい事じゃない。物質としての接合性を解けば勝手にエーテル化する事が出来るのだから。

 

 茶を飲めるように机の上を片付けてからマーダーが茶を運んで来るのを待ち、それを受け取って両足を上に机の上に乗せながらくつろいで飲む。

 

「うーむ……不思議だ。つまり肉体的変異で一番重要なのは身体的な武器や性質が変化する事じゃなくて、それを耐えうるだけの内臓を得る事にあるのか……」

 

 軽い生物構造なら高校の頃学んでいるし、そこそこは目端が効く。とはいえ、専門的な分野は無理だが。それでも見た目からして姿が変わっているから変異しているのは解る。正直な話、キメラ技術は生物学に入るだろう。

 

 融合学とでも呼べる部類の学問を知る上では便利だが、ややジャンル違いだなぁ、と思う。

 

「だけどこれで無機物と生物を掛け合わせた場合の結果は見れた。次は生物同士でやってみるか……」

 

 マーダーのスカートの下に隠れる尻尾を伸ばさせて、片手でそれに触れて撫でながら毛並みを堪能しつつ、茶を飲んで考える。

 

 生物+生物の融合は少し難しい。

 

 最大の問題は精(・)神(・)汚(・)染(・)が存在するからだ。これが意外と高等技能であり、精神保護や精神ガードに関する能力は結構難しいのだ。かくいう自分は精神保護の魔術、というか手段を保有している。その理由はネクロマンシーから来る霊の憑依に対して魂を保護する方法が必要であり、その術がスキルに内蔵されていたという事にある。

 

 そこから憑依融合用に自己改造してある部分もある。精神と魂の両方を保護する手段は、精神汚染攻撃を受ける可能性が高いネクロマンサーとしては当然の技術なのだ。なにせ、怨霊とかそこら辺非常に干渉力が高かったりするからだ。だから精神防御の術は必要だった。

 

 一回、それなしでディーヴァと融合した結果、精神汚染によってロストする所だった。この場合、相手と己の自我の境界線を失い、どっちがどっちかという意識を失って、そして最終的には両方共消えるのだ。

 

 怖い。超怖い。しかもこれでアカウントロストの危険性があるらしい。流石EX:World、妙な所で殺意が異様に高い。精神汚染等の精神崩壊につながる死亡はロストに繋がる事もあるので、ある意味最重要スキルだとも言えるのだ。とはいえ、スキルとしては取得できず、副産物として学んだのを自分で発展させないと駄目なため、かなりシビアだ。

 

 ……まぁ、自分は習得しているから他人はどうでもいいや。

 

「とりあえずまずは使い潰すつもりで遊ぶか。えーと、一番メジャーなのは、っと」

 

 マーダーを解放しつつ空になったカップの洗浄を命じつつケージから新しいラットを二匹引きずり出す。とりあえずこの二匹をキメララットを作ろう。

 

「えっと……メジャーなのは殺したのを片方パーツとしてばらして組み込むタイプか。それで満足できない多頭型キメラを作る場合はショック死しない様に気を使いつつ繋げて接合させる必要あるのか……もうほとんど医療の分野じゃん」

 

 まぁ、使う技術は錬金術だが。

 

 一時的に神経を麻痺させて痛みを感じない様にし、そしてその間にラットを右半分と左半分で分ける。二つとも、丸々頭が残る様に。切り離した部分は流体エーテル化させ、頭のあるパーツは中央で接合させ、断面から流体化させた肉を注入して質量を増させる。錬金術の独自利用によって大幅なショートカットを行っているが、これが魔術や医学的なやり方であればもっと大変だったなぁ、と思いつつ完全に接合させ、完成。

 

「じゅじゅ」

 

「じゅぇ」

 

「うーん、声がステレオ」

 

 二つの頭から問題なく声が聞こえるし、お互いに頭突きして喧嘩している。脳味噌も別々に稼働している様だった。どうやらちゃんと生物として成立しているらしい。成程、ちゃんと繋げてやれば生物としては生きられるのか、と確認する。

 

 では続けて、性質の異なる生物と融合させる。

 

 海から取って来たばかりの新しい生け簀の中の魚。それとラットを掛け合わせてキメラを作る。魚を生かしたままラットに組み込み、そしてその性質を色濃く継承させる。

 

 結論。

 

 発狂死。

 

 全身から鱗やヒレを生やしたラットは精神保護をされていたにも関わらず、目覚めると同時に苦しむ様に呻き、わめき散らしながら発狂したまま死亡した。つまりは発狂死だ。やっている事はほとんど二頭ラットと変わっていないのに、此方のキメラはあっさりと失敗してしまった。

 

「アイデンティティの喪失……かな?」

 

 パっと思いつくのがそれだった。生物としての我は我。そのアイデンティティの喪失による発狂。まぁ、だが知性のないラット程度の精神力でこんな改造を施せばある意味当然といえば当然の結末でもあった。

 

 融合、改造には自己定義と精神力が必要とされる。

 

 これが解っただけでも良い。実験すればするほど本の内容や、なんで失敗するのか、という理由や理屈が解ってくる。やっぱり、書物の知識だけではなく実際に手を出して実験しない限りはダメだなぁ、と判断しながら次のステップへと移る。

 

 息抜き程度にやっているので、そこまでディープに追及するつもりは今はない。とはいえ、実験動物があるうちにやりたい事はある。

 

 自分の戦闘力をカバーする技術、魂魄憑依融合術だ。

 

 ディーヴァを自分に憑依融合させる事で、ディーヴァに全盛期に近い実力を発揮させたり、それを観察する事は度々してきた。だがこれによって発生するリスクや、デメリットなどがまだ良く解らないし、何より何故憑依融合した結果肉体が変態するのかも解っていないのだ。

 

 それを調べなくては安全に使えない。

 

 そも、ラットの実験を観察すれば融合というのは双方向の要素を取り込んで一つの姿へと統合する行いだ。

 

 なのになぜ、英霊を憑依させ、融合した場合は互いの特徴を合わせた様な姿ではなく、一方的に英霊の姿に変態するのだろうか?

 

 不思議だ。まぁ、疑問は実験を繰り返して行けばいずれ、理解に至るだろう。

 

 実験だ、実験を繰り返すのだ。

 

 故に生物と生物の融合の次は本格的に独自能力による実験を行う。つまり自分が習得する《アビスロード》のスキル技能を利用し、霊とラットの融合を行うという事だ。融合、というにはその前段階として憑依するのだが、やる事は大体一緒だ。エーテル体とも言える霊の存在は、物質の構成的にはほとんど悪魔と一緒だ。

 

 悪魔は感情エーテル体。霊は精神エーテル体だ。どちらも方向性が違うだけで、剥き出しの精神が半実体を持つエーテル体として存在しているという点においては共通している。だから霊をラットと融合させる事は、悪魔と生物の融合……名付けるならそのまま、悪魔融合と同じプロセス、現象を辿る筈だ。

 

 実験を開始する。

 

 まずは霊を用意するが―――これはネクロマンサーなので調達は簡単だ。普通の街では中々霊の確保は難しい。というか大抵教会がちゃんと処理し、成仏させるので霊の類が出没する事はなく、戦場や墳墓にでも行かなければ調達する事は出来ない。これがネクロマンサーが初期で他の職業に出遅れる理由でもある。

 

 まぁ、ネクロマンサーは使い捨て出来る戦力を再利用できるという点では他の職業では真似の出来ない運用が出来るから不遇という訳じゃないのだ。単純にお金が必要になるし、スキルトレーニングも難しい。ただ自分の様に、ハマれば恐ろしく強いというタイプのテクニカルなクラスだ。

 

 だけどその初期、材料を確保するのに苦労する。骨とか、霊とか。

 

 だけど今、丁度いいことにルーゼンは内乱中……まぁ、出来レースなのだが市内である程度の暴動が発生している。そしてそれには少ない数ではあるが、死傷者が出ている。他にも共和国や帝国の密偵も入り込んでいたりして、それが気づかれる事無く処理されていたりもする。

 

 まぁ、そのおかげで普段は調達の難しい雑霊の類が調達しやすいのだ。少なくとも死者が発生すれば霊が生まれてくる。それを確保すればいいのだから。

 

 という訳で幾つか確保した霊を使う。動物霊ならもうちょっと楽なんだけどなぁ、と思いつつも人間の霊じゃなきゃ実験する意味がない。

 

 という訳で精神保護したラットの中に霊をぶち込んで融合させる。霊の存在がラットの中にしみこんで行き、エーテルが重なり合って結合し、融合が始まる。結合したエーテルによって情報汚染が始まり、しかし安定性を求めようとするエーテルは最も、安定した形へとラットを変異させようとする。

 

 めきめきと音を立てながらラットはその肉体を変貌させ、そして肉体を一回り大きくしながら、二本足で立ち、そしてしっかりと立つ為の骨格を有した人型の形へと変態して行く。最終的に小型のラットマンと呼べる姿にまで成長した元ラットが此方を見ると、変異によって脳を発達させたのか、此方が絶対に適わない相手だと悟って命乞いをする様に頭を下げて媚び始めた。

 

「ほほぉ、面白い。人霊と融合すると知性まで伸びるのか、お前」

 

「ちゅぅ、ちゅちゅぅ、ちゅぅ!」

 

 ぺこぺこ命を乞うラットマンの姿を見て、タキシード服辺りを着せたら似合いそうだなぁ、と思いながらかけていた精神保護の術を解除する。《界眼》で見る限りは非常にエーテルが安定していた。精神保護が無くても大丈夫だろうか? そう思いながら解除するが、

 

「ちゅぅ、ちゅぅ……」

 

 何の問題もなく、リトルラットマンは命を乞うていた。人霊の影響は完全になくなっていた。あの霊にも一応、意識と呼べるものは存在していた筈だ。だが融合が終わった時、それはリトルラットマンの中には残っていなかった。それが融合した様な様子も見えない。俺がディーヴァと融合した場合は、途中で解除すればその瞬間から精神汚染が始まる筈だ。

 

 となると精神が溶けたのか?

 

 霊の?

 

 融合のプロセスは俺とディーヴァがやった物に近い、というかほぼ一緒だ。なのになぜ知性部分が消えた? 精神はプロテクトしていたからそれが消える筈ないのだ。自分から消え去らない限りは。

 

「……やはり精神力が関わってくるのか?」

 

 そう思いながらぺこぺこ頭を下げるリトルラットマンの頭を小突く。ひぃ、とそれで転がり、腹を見せて無害アピールをするリトルラットマンの知性は、大幅に上昇している。言葉は喋れないが、それでも強さや言語を理解するだけの脳味噌に発達している。ラットでの実験の結果、変異は脳、神経、心臓を最重要箇所として最初に変異するのが見えた。という事はこのリトルラットマンも、それらの部位から変異した事になる。そして材料として人間の霊を使った結果、それに合わせた変異を行った。

 

 つまり脳が人間並みに発達したのか……?

 

「……ふむ、それぐらいの知性があるのならトワの遊び相手ぐらいにはなるだろう。俺ばかり相手していられないしな。お前は特別に生かしてやろう」

 

「ちゅー! ちゅー! ちゅちゅー!」

 

 ありがとうございます、ありがとうございます、と叫んでいるのが言語が解らなくても伝わってくる。意外と愛嬌のある奴だなこいつ、そう思いながらリトルラットマンを掴み上げ、それをトワへと向かって放り投げる。

 

 それを背の上でキャッチしたトワは、リトルラットマンを背に乗せてアトリエを飛び回る。まぁ、暴れないようには躾けてあるから大丈夫だろう、とはしゃぐ子鯨を見ながら思う。これで作業中に邪魔される可能性が減った。

 

「後でステッキとタキシードでも用意して芸でも仕込んでやるか……」

 

 時間は腐るほどあるし。そう思いながら次のラットを取り出して、次の霊を用意した。今度は精神保護なしでの融合作業だ。《界眼》を使用してエーテルの変化を観察しながらラットと霊の融合を眺める。

 

 ラットと霊のエーテルが融合し、結合していく中で、悲鳴の様な声をラットと霊が双方に零したので、音を遮断してそれを抑え込みながら無視して融合を続ける。それに対して拒否反応を示す様にエーテルが変色を始めた。

 

 普通の属性から、どす黒い思念を帯びた、マイナス方向の負のエーテル属性。つまりは感情エーテルへと一瞬で変質した。そしてそれは結(・)合(・)し(・)た(・)後(・)で(・)発(・)生(・)し(・)た(・)のだ。そして発生した途端から食らいつく様にラットと霊体を結合させ、汚染する様に広がり、

 

 操作する俺がその手を止めても、感情エーテルその物が求める様にラットと霊体を呑み込んで融合した。変異し、異形の姿へとラットと霊体を変態させる。

 

 そして完成されたのは腕が背中から四本生え、足が五本、単眼で触手を何本も腹から生やすラットであり、狂気じみた気配を発しながら声を発し、暴れようとする。

 

 だが動き出す前にその魂を握り潰して即死させる。

 

「……」

 

 即座に動きを停止した異形のラットが魂を握りつぶされ、狂気が消え去った瞬間、その体から感情エーテルが綺麗に消え去った。

 

「ふむ」

 

 呟きながら念力で異形のラットに直接触れないように持ち上げ、その死体を観察した。完全に異形に変異したラットはその肉体が異形の状態で安定している。それはエーテルの基本的な性質で、安定しようとする行いから来るものだ。だが融合している間はそうではなかった。凄まじいまでの恐怖と狂気がラットを支配し、エーテルが一瞬で歪んで、不安定な状態で変異していた。

 

 つまり感情、狂気というファクターがエーテルを恐ろしく不安定にさせる。

 

 それによって起こされる変異は、法則性を無視してその形を作り変える。安定性を乱し、本来はあり得ない形に歪ませる。プロセスは全く同じなのに、精神を保護しなければこんな風に、あっさりと感情エーテルによって歪んでしまう。

 

「見た感じ、調和に使われている純属性エーテルが一瞬でマイナス方面に汚染されたって感じだったな……」

 

 全てのエーテルには何物にも染まっていない、純属性エーテルが調和の役割を果たすべく、混ざって存在している。それは《界眼》を通して確認した事だ。だが狂気や感情が発した場合、他の属性よりもこれが一番強く干渉され、そして触れている部分から純属性が全て感情エーテルへと汚染された。

 

 調和、安定を象徴する役割のエーテルが入れ替わるのだ。これが気持ち悪いまでの変異の正体だろう。

 

「うーん、是はつまり……」

 

 感情エーテルが不安定さを生む。それは感情エーテルが純属性エーテルを感情エーテルで完全に上書きし、安定の性質、役割を保有し、それを維持する筈のエーテルを排除しているからだ。その影響でエーテルから安定という概念が排除される。つまり形(・)を(・)保(・)と(・)う(・)と(・)い(・)う(・)意(・)思(・)が(・)エ(・)ー(・)テ(・)ル(・)か(・)ら(・)消(・)え(・)る(・)という意味でもある。

 

「……」

 

 異形のラットを分解して、エーテルへと還元しながら霧散させ、考える。

 

「こ(・)れ(・)は(・)悪(・)用(・)し(・)放(・)題(・)だな……」

 

 この実験で生物の変異で、純属性エーテルが一定の形に保つ事を安定させているという事実が理解できた。何にも染まっていないエーテルが空間に放置され、他の属性に染まらず余白の様に存在しているのはエ(・)ー(・)テ(・)ル(・)の(・)役(・)割(・)と(・)し(・)て(・)染(・)ま(・)ら(・)な(・)い(・)様(・)に(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)じゃないかと思う。

 

 エーテルの安定=均等にエーテルが存在している状態。

 

 この安定の維持=純属性エーテルによる調整と調和。

 

 純属性=なんでも染まるけど一定以上染まらない様に維持する性質を持つ。

 

 感情エーテル=純属性の調和を無視して汚染する。

 

「んー……」

 

 ノートに書き込みながら考える。これは悪用できるな、と。少なくとも即席錬金というジャンルにおいて、純属性エーテルの調和という性質、そして環境で一定以上の純属性エーテルが存在する場合は他の属性に変化する性質。一定以下である場合は染まらずに調和する性質。

 

 つまりは変化に対する容認と否定という要素を持っている事になる。

 

 即席錬金術は錬金術を行う際に、周囲の環境にある属性や物質を利用し、プロセスを再現する事によって疑似的に物質を創造する手段だ。これが創造における本来のプロセスを辿らなければならないのは、そうする事で変化を容認されるからだ。

 

 つまりこ(・)の(・)プ(・)ロ(・)セ(・)ス(・)を(・)容(・)認(・)し(・)て(・)い(・)る(・)の(・)が(・)純(・)属(・)性(・)エ(・)ー(・)テ(・)ル(・)で(・)は(・)な(・)い(・)か(・)と(・)い(・)う(・)考(・)え(・)だ。

 

 ラットの変異の差を見た感じ、純属性エーテルの有無が肉体的な変態、その変異の差だと思っている。感情エーテルによる変異はあくまでも表現でしかない。

 

「意図的に純属性を排除すれば大規模な変異が可能になるんじゃないかこれ?」

 

 或いは魔術。魔術を使用する際に発生するエーテルの利用、高まり。それに介入する形で純属性エーテルを潰せば、一気に魔法、魔術の制御を狂わせる事が出来るのでは? 相手のエーテルに干渉するという能力前提の話になるだろうが、それでも考える限り、安定という要素をエーテルから排除するのは様々な領域でストッパーを外す行いになる。少なくともエーテルが絡む話ではそうだ。

 

 そして恐らく、それが通常となっている環境が帝都の地下ダンジョンなのだろう。

 

 あの万魔殿で感じられた狂気、混沌とした属性の混ざり具合。アレは恐らく、純属性エーテルがほとんど存在しない事から発生する混沌だったのだろうと今更判明する。成程、確かにだとしたらあんな環境になりうるのだろう。安定しない、調和しない、融和しない。それはつまり何でもありだという事でもある。

 

 制御できなければ明後日の方向にぶっ飛ぶだろう。相当レベルの高いエーテルへの干渉能力を要求されるだろう。

 

「ちょっと試してみるか」

 

 木材を掴む。鉄鉱石から金属という性質を小指の先程抽出し、それを木材に融合させる。これを増幅させ、木材に馴染ませれば金属質の木材が完成されるだろう―――通常であれば。完全な金属になる事はない。純属性エーテルが調和するからだ。

 

 だけどその純属性エーテルを虚属性エーテルで消滅させる。木材を構成するエーテルが不安定になるが、同時に金属の性質を金属質程度で留めるというストッパーが外れた事でもある。金属という性質で木材全体を侵食し、そして上書きする。

 

 そうする事によって木材が、木材の形をした金属へと変化した。変異を止める様に後は属性をエーテルから虚属性エーテルで消滅させ、そして純属性エーテルでストップをかければいい。木材の形をした金属という形で安定し、ストップがかかる事でそれ以上の変異が止められる。

 

 これによって、本来ではありえない金属の木材が完成された。

 

 片手で掴んだそれを持ち上げ、軽く見回し、満足感を感じる。

 

「また一つ、この天才的な頭脳でこの世界の真理に近づいてしまった……」

 

「マスター、発言が痛い子の様ですけど」

 

「少しは達成感に酔わせろお前」

 

 ついにツッコミまで入れる自主性を獲得したディーヴァのケツに金属製の木材を叩き込んでケツバットをしつつ、現界解除する。軽く休むというか遊び半分で始めた生物実験だったが、予想外に収穫が多かった。

 

 やっぱり、遠慮なくモルモットで実験できるのは違うなぁ、と思う。

 

 自分の体なら躊躇するような実験でもモルモットが居れば遠慮なく実行し、そして観察する事が出来る。だけどラットではいささか不満が残るのも事実だ。リトルラットマンの誕生を見届けたのは実に悪くはない。だがそれはそれとして、それを人間規模の精神力と肉体で行った場合の結果を知りたかったのも事実だ。

 

 知性や精神力が変異に関わってくるのは既に自分で行った実験で理解しているのだ。だからこれに個人差はあるのか? 精神のなんという部分を参照しているのか、それらを調べたいという想いもある。とはいえ、今のままだとラットでの実験が限界だろう。流石に人間を調達する方法が今はない。

 

「いや、人体を錬成すればいいのか?」

 

 人体を作るだけなら死体を参考に同じ物質構成しつつ形を整えればそれで何とかなる。だからそこまで難しい話じゃない。問題はそこに精神が宿らないという事だ。ネクロマンシーで霊を憑依させられる事も考慮していいが、憑依というのは後から装着させたものである以上、剥(・)が(・)れ(・)や(・)す(・)い(・)という点もある。

 

 まぁ、ネクロマンサーからすれば当然だが。自分に憑依させた霊が剥がせないとか失笑物である。だから憑依という行いは剥がれるようにできている。だから憑依させた人体を実験に使ったとして、それが実験中に憑依が剥がれてしまったら意味がない。

 

「うーん、難しい。やっぱり人体を使いたい所だけど調達難しいし、まだ国家権力を相手に立ち回るのは不可能だろうから、もっと下地を作らなきゃダメだな」

 

 まぁ、丁度いい息抜きだった。悩めることは増えたが、それでも成果は出た。このワクワク感が常に自分をこの世界に魅了させるのだ。はぁ、やっぱりEX:Worldやっていてよかった。満足感を感じつつラットの入ったケージを適当に邪魔にならない場所へと運んで行く。

 

 丁度良い息抜きになったのだ。

 

 そろそろ、本命に手を出そう。

 

 

♦

 

 

 一回ログアウトして、リアルで色々とボディケアを行った。本気で錬成を行うならゲーム内だけではなく、リアルでもある程度体のケアをしておくのが楽しくゲームを遊ぶ為のコツだと思っている。だからまずはリアルで体と心を満たす。リアルで運動し、風呂に入り、睡眠をとって、少しお金を出して美味しい物を食べる。これでリアルでの体を満足させた。

 

 それが終わったら再びログインする。

 

 いよいよ《空の鍵》を作る時が来た。少々後回しにしたりしたが、それでもそろそろ手を出さなくてはならない時だった。何時までも後回しにしていてはずっとここから離れる事も出来ない。だから万全のコンディションを整えた上で、レシピを確認し、《空の鍵》という錬金アイテムを確認する。

 

 《空の鍵》は使用する扉とワンセットで完成される錬成品だ。文字通り鍵であるそれを使用する事で、最初に使用された扉が記録される。そして二回目に利用すると、二回目の場所が記録される。この鍵を使って片方の扉を開ければ、必ずもう片方の扉へと繋がるという錬成品だった。

 

 恐ろしい程に便利だ。複数作成すれば、アトリエから多くの場所を巡る事も出来る様になるという画期的なアイテムでもある。

 

 だが高ランクの錬成品だけあって材料も、そして作成難易度そのものも高いのだ。そしてレシピ内でも派生や調整等も見られる。エーテル値を微妙に調節する事でその効果を絶妙に変更させる事が出来るのだ。

 

 スタンダードなエーテル値67は一番基本的で双方向の扉を記録するタイプ。鍵を複数用意する事前提にはなるが、一つのアトリエから多くの場所へとアクセスできる利便性が一番高い鍵になる。

 

 数値高めのエーテル値92は最初の扉へと繋がるのは変わらないものの、二個目の扉を永続的には記録せず、一つ目から二つ目の扉へと移動した場合、二つ目の扉の記録を忘れるという風になっている。また、二つ目の扉以外を通った場合は上書きしてしまう。その為、いろんな場所へと継続的に向かう事は向いてなくてもどこからでもアトリエに戻れるという利便性がこれにはある。

 

 最後、数値が低いエーテル値8の場合は二個目の扉を記録せず、鍵が常に一個目の扉へと繋がる様になる。その代わりに、ガラスや水面などを扉代わりに利用する事が可能になる。行ったり来たりする事を考えるとこれが一番面倒なのは間違いがない。だけど帰還の事を考えると水面等を利用できるという事から、これが一番離脱しやすい鍵でもあるだろう。

 

 ぶっちゃけ、たくさん作るならスタンダード、数を限定する事を考えるなら高いのを一個、低いのを一個という形がベストだろう。だが今回はメテオライトインゴットの都合で、《空の鍵》一つ分しか確保できていない。流石に二個作るのは無理があるのだ。だからどれか一つだけ作るとなると、

 

 ……やはり、エーテル値高めなのがいいだろう。

 

 大体調査を行う時は一か所に留まるからアトリエと行き来さえ出来れば十分だと思うし、他の場所に用事があるのならトワに乗って移動すればいいだろう。その事を考えたらいつでもアトリエに戻れて、そして現場へと帰れる鍵が欲しい。

 

 となるとエーテル値の高いものがベストだ。

 

 幸い、自分で作成した物の品質は高い。これならエーテル値を高くする事も可能だろう。これが完成すれば遠出しても、常に自分のアトリエへと戻って作業を行う事が出来る他、建造物型のダンジョンであれば、ダンジョン内部からアトリエに戻って休む事が出来るだろう。

 

 それを考えると是非とも完成させたいアイテムだった。というか完成させる。フィールドワークがこれからはスタンダードになるのだ、だとしたら長距離移動を可能にする道具が必要だ。金がないのならそれを自分で作って用意しなければならない。だからこれを作る。

 

 作成方法は複雑ではない。

 

 1.霊木で鍵の型を作る。

 2.熔かしたメテオライトインゴットを型に流し込む

 3.《夢幻の羽》を熔けて型の中に入っているメテオライトの中に完全に埋める

 4.固め、軽く削り等をして成型する

 5.完成された鍵に《シスカの瞳》の内部エネルギーを注入する

 

 ……という風になっている。簡略化されたレシピではあるもの、細かい部分をチェックしても大筋はこれで問題ない様に感じる。鍵の型はレシピに詳細に何ミリまでか、というものが書いてあるし、極力方向性を歪めない為の干渉遮断、属性汚染の制御方法なども書かれている。

 

 作業中に同時に並列で術式による増幅と意識的に汚染をする事で相乗変化効果を狙う必要もある。

 

 大筋を見れば簡単に見えるだろうが、最終的には様々なエーテルを操作する技術が必要になってくる。だがそれだけではなく、属性やその関係に関連する知識も必要とされる。かなり難易度が高い。

 

 とはいえ、作るのだ、今から。

 

 こんな楽しい事、今更止められるものか。




 成長なし故に省略。

 久しぶりに書くけどやっぱりプロットも投げ捨ててノリと勢いと趣味と性癖100%だけで書く話は本当に楽で楽しいわ。最近は特に脳味噌使っていただけにほんと癒される。

 嫌いじゃないけどやっぱり、筆の軽やかさはまるで違う。

 とか言いつつ次回はついに鍵の完成。いよいよソロ遠征の準備も整いつつあるな?
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