そういう訳でアトリエ籠り二日目―――純化の練習、そして《付与術》の練習である。
まずは純化、これは説明はとても簡単だ。つまりは不純物を取り除く、というプロセスだ。調合をする際に混ざってしまう材料内の余分な成分や要素、それを取り除く事によって純粋に必要な成分だけを残して行き、それが最終的に品質の、クオリティの向上へと繋がるという。それを純化、と錬金術では呼んでいる。
この純化だが、
たとえばある者は《水魔法》を使う。水を通して干渉し、液体化された素材の中から不純物を分けさせて、それで純粋に抽出しただけのエキスを素材として利用する。それ以外にも《炎魔法》なら不純物だけを限定的に燃やす、なんて方法も存在していたり、錬金術師によってその手段は変わってくるらしい。
水薬である以上、一番相性がいいのは水と炎である為、錬金術師達の魔法徒は其方がメインになる―――そうなるとネクロマンサーを兼任する自分はそれ以外の手段を用意しなくてはならないのだろう。メインは《闇魔法》と《光魔法》だ。その発展で《虚魔法》を取得する事も出来るが、それは今はまだ、取得できない魔法だ。だからこの純化の作業、自分には少々辛いものがある。
とはいえ、《魔力操作》でも行えるらしい為、その方法で何百回も繰り返す事にする。《魔力強化》で《魔力操作》を強めつつ、《計量》と《識別》で不純物を見て、《鑑定》で状態を確認し、《薬学》に基づく知識で判断し、作業する。
練習台は再び最下級回復薬。様々なスキルを使いながら《魔力操作》で干渉する。専用のスキルがあれば魔力の、エーテルの流れが見えるらしい。だがまだ《夜目》しか持っていない今、感覚的に干渉する事しか出来ない。
《魔力操作》で自分の支配下に置いた魔力を調合中の素材の中に流し込む。エーテル値を調整して行く傍で、自分が支配する魔力を使って網を作り、それで素材の中に混じる不純物だけを掬って行き、それを魔力で絡め取ったら握りつぶして気化させる。つまりは素材そのものから押し出して消し去る。そうやって必要のない成分を消し去って行く。
―――とはいえ、この加減が異様に厳しい。
使う魔力が少なすぎると不純物が多く残ってしまい、神経を使う割に全く品質に変化が発生しないのだ。逆に使う魔力を増やしてみると、今度は不必要に刺激してしまったり、必要な部分まで気化させてしまったりで、一回、失敗して爆発させてしまったのを咄嗟にナイトに守って貰ったりもした。つまりおおざっぱなさじ加減ではない、集中力と経験が必要となってくる領域にこの技術からは踏み込んでくる。まだ早い、まだ駆け出し錬金術師である自分には早い領域だった。早すぎると表現しても良い―――だけど発動したら後はシステムが勝手にやる、なんて味気のない行動ではない。
自分の手、自分の集中力で触れて、そして操作するそういう活動だった。
それがもう、たまらなく楽しかった。
戦闘はセンスと経験と技術と狂気の問題だ。自分にそこまでの戦闘センスはないと思う。咄嗟に考える事は出来るし、喋る事も出来る―――だが致命的に体を反応させて動かす事は出来ないと、自分の事を良く知っていた。だから戦闘は嫌だ。自分がその領域ではどう足掻いても上を目指す事は出来ないと解っているから。
だけどこれは、錬金術はまるで違う。
経験、技術、そして集中力の問題だ、これは。才能なんて言葉はこの作業に入り込む事はない。必要なのは修練と修練と修練だ。コツをつかむ事、それが前進の為に必要な唯一のことだ。それを素早くつかむことが出来る人間がいるとすれば、おそらくそれが才能と呼べるものなのだろうとは自分は思う。
だがそんなものがなくても試行錯誤とレシピで、どうにかなるのがこれだ。明確に何かを生み出し、その結果が自分の中に存在し、そして完成されたそれを誰かに見せる事でちゃんとした評価を得られる―――これほど遣り甲斐のある事も他にはないだろうと思う。しかも最終的にはそれは名誉等という不確かなものではなく、金という形で還元されるのだ。
成功し、学習し、先へと進み、そして更に自分の技術を磨く―――それがなんともまぁ、楽しい。
その果てに誰かに認められるのならそれはそれで嬉しい。
だからこの錬金術という活動が、自分は好きだ。純化作業も段々とやってくるうちに楽しくなってくるし、凄まじく集中する影響からか、体力の消耗を激しく感じる。錬金術をしていて疲れた、なんて事を感じるのは初めてだった。だが同時にその疲労感が集中しているという事の証でもある為、止めるにやめられず、《付与術》の方にも手を出してしまう。
こちらは今までやった錬金術と比べてかなりシンプルだった。触媒となる素材を使い、付与術でその性質を抜き取り、そしてそれを任意の道具へと移す。そうする事によって装備品や道具に対してその性質を付与し、効果を追加することが出来る。たとえば金属等を材料に使えば頑強な性質を抜き取り、それを衣服に移す事によって軽く、しなやかで、普通の衣服なのに強度だけはその金属並、なんて事が行えてしまう。
ただ前提として装備や道具毎に性質を受け入れる事の出来る許容量とも言えるものが存在し、それを超えるキャパシティは付与出来ず、上書きという形になってしまう。それは悲しい事ではあるが、同時にまた意欲を刺激させる事でもあった。完成品ではなく、素材の時点で《付与術》で性質を与えた場合、完成品の品質や薬効が大きく変動してくるのだ。その実験の為に《魔力操作》による純化、エーテル値操作、そして《付与術》によるエンチャントも行ってみる。
その結果、非常に面白いものが出来上がった。
最下級回復薬 ランク:F エーテル値:25 製作者:マスター
一番安く、そして手頃に作成できる回復薬。
塗り薬、飲み薬としても使える為。非常に需要が高い。
・この薬はほんのわずかだけMPを回復する。
・高められた品質によって薬効が高まっている。
・この薬には解毒効果が存在する。
面白いような変化を見せた。素材に対して《付与術》を使用してから作成すると、完成品の領域を消費する事無く、完成品が持つ性質として組み込まれるらしい。それを見てすべての素材に同じようにやれば? と考えて試した結果、
爆発した。
今度は範囲広がったな、とか爆発要素どこにあった? とか色々あるが結局、無理をし過ぎるとこういう結果になる、という事が判明しただけ、まだよかったほうなのだと判断する事にした。しかし、そうやって実験を繰り返す間も時に楽しい物で、スキルの修練の事を忘れて熱中する自分の姿があった。
―――錬金日和な二日目も完全に休む事もなくずっと錬金術に没頭して終わった。
レベルも28まで上がり、主要スキルがDまで上がり、《鑑定》に関してはCまで上げた。まだまだ下位クラスのスキルである事も含め、丸一日集中して修練すればコストを-2する所まではいける事が判明した。このペースで毎日やればCクラスのコストも何とか2、或いは3ぐらいまでは落とせそうだと考え、金策と修練を求めてアトリエを借りる為、今日も錬金術師のギルドへと向かう事にする。今日も丸一日アトリエで時間を過ごすぞ、と意気込んでいると、
「―――あ、本日はギルドのアトリエは利用不可能です」
等という厳しい現実が立ちはだかった。魂が抜ける勢いで呆然とすると、そう告げて来た何時もの受付担当の青年は苦笑する。
「定期的に設備検査や大掃除でアトリエを閉じないといけないんですよ。だから個人でのアトリエ所有をオススメしているんです。助手を雇ったりしておけば設備の検査や管理も日常的に行えますから休むことなく毎日使えますよ」
つまり、ギルドの設備にあまり依存しすぎるな、という発言でもあった。考えれば当たり前だ。無償の施設なのだから、あまり利用されすぎて、そこから成長せずにいられるのも困るという話なのだろう、ギルドとしては。ギルドの目的は発展でもあるのだ―――成長しようとせずに縮こまっている奴は困る、という事でもあるのだろう。しかし困った。まだ個人のアトリエを所有できる程の金はない。
ここ二日の活動で失敗しながらも繰り返した結果、2万ゴールド稼ぐ事に成功している。ただこれではアトリエの獲得には程遠い。
確認して見ると一番安い、狭いアトリエで大体1入居費10万、月々5000ゴールドの家賃だ。それとは別に水道とかの費用も掛かる。自分が認められる最低限のラインが入居費40万レベルだろう。だが出来るなら一番良い所を利用したいし、そうなると入居費は70万に届く―――かなり恐ろしいレベルの金額になってくるが、自由に、そして恵まれた環境で錬金術や研究を行うならそのレベルは欲しいだろう。つまりそれまでは我慢してこの無料アトリエを利用するしかない。
……これは割と困った事だった。だが同時に開いた丸一日は違う事にトレーニングすることが出来るという事でもあった。或いは完全な休日にして休んでしまうのもいいかもしれない。そんな事を考えながら悩んでいると、受付が言葉を続けた。
「……あぁ、そうだ。マスターさんは修練と金策でウチの設備を利用しているんですよね?」
「えぇ、まぁ」
「だったら良い場所を知ってますよ。ちょっと設備の質と制限はありますけど」
そう言って告げられた場所は、
「―――闘技場ですよ」
「闘技場、ですか」
はい、と頷き返された。
「もっとも縁遠い場所の様に思えますけどあそこでは毎日数百を超える数の試合が行われておりますから此方の方から大量に回復薬を購入してくれる最大の客の一つであると同時に、コスト削減を目指してバイト代を出して回復薬の調合をしてくれる人を募集しているんですよ? 調合したものを持ち帰る事は出来ませんが、材料も設備も全部彼方持ち、報酬は数によって変動するから安定しませんし。それでもいい経験になるとは思いますよ?」
「なるほど……」
闘技場、闘技場か、と呟く。実はまだ訪れていない施設の一つなんだよなぁ、とも呟く。レベリングや鍛えるのにまた使えそうな場所であるのは解っているが、明確にそのルールを把握していない以上、どこかで一回は向かった方がいいというのは解る―――まぁ、丁度良い話だ。今日はギルドのアトリエが使えない事だし、闘技場の見学と、施設が使えるなら使わせて貰う事にする。
「ありがとうございます。闘技場の方を見てこようかと思います」
「いえいえ、マスターさんはここ最近で登録された錬金術師の中では最大の注目株ですから。まだ始めて数日で純化やエーテル値操作にも手を出してちゃんと成果を出せているのはここ十数年で貴方ぐらいですから」
「下心アリだと解ると途端に安心するのはなんでしょうかねぇ」
「軍師や策士タイプはそういうのが多いですからねー……。しかしもう最下級の錬金術師と言わせる事は出来ませんね……純化まで不完全ながら行えるなら十分に下級を名乗っても良いと思いますよ。それ以上は流石に成果の提出などが求められますが」
「いえ、十分すぎます。情報の方もありがとうございました」
「いえいえ、それではよい一日を」
ステータスを確認しながら離れれば称号の【錬金術師:最下級】が【錬金術師:下級】へと変化していた。その効果が特に変化する事はなく、完成されたアイテムの品質はほんの少しだけ上昇させるものと出ている。まぁ、チートや意味不明な理論で品質が向上しても困るから、これぐらいの慎ましい効果の方が安心できる。
ステータスウィンドウを消し去りながら錬金術師のギルドを出る。
『それで闘技場の方へと?』
出た所で霊体状態のナイトが話しかけてくる。その言葉にあぁ、と頷きながら答える。
「気づけばアトリエに引きこもってばかりだからな……だったら手が空いている時ぐらいは、な」
『そうでしたか』
納得するような、そっけないような、そんな言葉だがどこかナイトの声には闘技場を心待ちにするような、そんな感情を感じられた―――やはりナイトは騎士というよりは戦士に近い物を感じる。ルールを守って戦うというよりは自身の誇りが許す範囲であるのならば手段を選ばずに殺しにかかる、というタイプの凶暴性だ―――まぁ、おかげで反発される事もないし、実に扱いやすくて助かっているのだが。
忠臣に対してやや失礼な事を考えているかもしれないな、なんて事を思い思考を一旦止めて、ルーゼン中央街へ―――闘技場区画へと向かう事にした。一々人に説明を聞いたりするのも面倒なので、歩きながらWIKIを開き、そこにある闘技場の解説ページへとアクセスする。
闘技場は
地上に近い程コストとリスクが軽く、そして地下へと向かって進めば進むほどハイリスク、ハイリターンになってくる。それこそ地下4階以降は戦闘中の殺害の許可までされている他、賭けルールでは相手が女だった場合、倒したその場で犯すなんて事さえも許されている。
その無秩序っぷりが実にダークファンタジーである事を思い出させてくれる。
とはいえ、浅い階層の試合に参加するのであれば実戦形式、本気の同レベル帯の相手と対戦が出来る為対人訓練が行える他、ギャンブルやファイトマネーが出る為、人気はプレイヤー・NPC問わず常に存在している。それこそ休む時なんかなく、常に営業しているらしい。
―――ここら辺が常に回復薬が不足している理由なんだろう。
だがレベリングや狩り、採取以外で人間同士が戦っているのだからそりゃあ回復薬の需要も常にあるんだろうなぁ、と納得させられる。また同時に戦の気運が高まっているとの話だった。本当に帝国と共和国で戦争が始まるのであれば、それはつまり戦に必要となる消耗品の需要が爆発的に上昇するという事でもあった―――錬金術師だけではなく、鍛冶師や多くの商人達にとっては商売の大きなチャンスだよなぁ、と思った。
錬金術師のギルドからそう遠くはない中央区、そこへと接近すればローマのコロセウムを思わせるような巨大な施設が見えてくる―――だがそれはあくまでも地上の部分で、儀式や式典の為に利用するエリアらしく、その本体は地下にアリの巣状に広がっている。
地上部分に見える入口に入れば、仄かに薄暗い、しかし熱気に包まれた闘技場のロビーへと入れる。外から見たのよりも広く感じるのはおそらく魔法が作用しているのだろうと考える。ともあれ、右へ、そして左へと視線を向け、地下へと向かって続く階段が存在するのを見つける。闘技場での対戦を求めるならそれでもいいのだが、と考え、足を止める。
「……ナイト」
『はい、マスター。なんでしょうか』
「戦いたい?」
『正直な話、興味がないと言えばウソとなります』
「そうか」
そこで足を止めて考えてみる―――そう、一回全力でナイトを戦わせてその限界を計ってみるのも悪くはないだろうなぁ、という考えだ。現状自分のレベルが28で、そしてナイトのレベルをアイザックは80前後と表現した。つまり今の自分は完全に寄生している様な形で、そしてそのおこぼれに自分があずかっている訳だが正直、どのラインまでが平気なのか、というのが自分では良く解っていない。そこらへん見ただけで判断するだけの知識と経験、そしてナイトの限界を見ていない為、あまり詳しく判断できないのだ。
―――俺じゃなくてナイトのレベルに合わせて対戦相手を見つければどうにかなるか……?
まぁ、どうせアトリエが使えないならそういう事の把握に使ってもいいんじゃないか、と考える。それにストレスを感じているかどうかを自分に判断する事は出来ないが、ある程度やらせたい事をやらせるのも信頼関係の構築に良いとは思う―――うん、悪くはないんじゃないか、と判断する。そう考えて階段を下りずに、ロビーにあるヘルプデスクへと近づく。受付には可愛い女性が―――なんてことはなく、簡素なスリーブレスの服装に身を包んだおっさんが座っていた。
「ん? どうしたメガネ。お前のようなひょろいのが来る所じゃねぇぞここは」
口が悪いと思いつつ、それも歓迎の仕方だろうと思う。
「流石無駄に年を喰った姿をしている人はいう事が違いますねぇ……えぇ、まぁ、ウチの従僕に試合をさせてやりたいんですけど私よりも遥かに強いんで、そこらへんのお話を」
「随分喋れるじゃねぇか。まぁ、出してみろ。見て判断する」
そう言われるので静かにナイトを呼び出す。霊体に魔力が染み込む事によって仮初めの肉体を―――鋼を形成し、それが肉の代わりに現世へと干渉する為の媒体となり、錆び、半分朽ちているナイトの姿を晒す事になる。暗い配色の鎧騎士の姿を見て、受付をしていた中年の目が驚くように見開かれる。
「……完全にお前の力量を超えるもんを使役してるな、どうやったんだ? 30にもなってねぇだろうお前」
その発言から察するに、この中年、ある程度のレベルであれば把握できるらしく、俺がまだまだ雑魚と呼べる実力しかないのを察したらしい。なので素直に答える事にした。なにせ、何か特別な事をしたわけでもない。
「忠誠を誓えと言った」
『故に誓う事にしました』
「参考にならねぇなぁこいつら……! 仕方がねぇ……だけど面白そうな試合が見れそうだ。ちょっと待ってろ」
そう言うと受付の中年はしばらく目を瞑るとブツブツと呟き始める。おそらくは念話の類いだろうか? そういう感じの魔法が存在するとどっかで見るか聞いた事がある気がする。まぁ、ファンタジー世界だしそういう魔法もあるだろうと考えて、そのまま少し待っていると、中年が視線を此方へと向けて来た。
「うっし、地下3階の第二闘技場でならご希望の戦いが出来るぜ。お前からはそういう殴る才能ってのは一切感じねぇけどそっちの鎧はかなり期待させてくれそうだしな、ウチは金を落として盛り上げてくれるならどんなサイコパスも大歓迎だ。細かいルールは下の方でやってくれるから行け」
「ありがとうございます」
良いって事よ、と言葉を背中に受けながらマントを翻して地下へと向かう階段を下りて行く。更に暗くなって行くが、壁に飾られたランプが一層アンダーグラウンドな雰囲気を後押ししており、なにか、悪事を働いている様な、そんな気持ちにさせられる。だがそんな雰囲気とは裏腹に、地下へと進めば進むほど、人の声が増えて行く―――歓声が増えて行く。目にしなくても、湧き上がる人の感情と熱気と狂気が階段を下りて行く自分の体に押し付けられるように感じられるのだ。
そのまま地下2階へ、
そして地下3階へ。
地下4階からは正真正銘ルール無用、闘技場内で殺す手段を選ぶ必要はないという真の戦いの場、その一歩手前、その地下3階の領域へとやってくる。ルールが存在する戦いと、そしてルールの存在しない戦い、その領域ギリギリのフロアだ。降りてきた時点でどこからか人の声と悲鳴が聞こえる。
今もどこかで誰かが戦い、そして誰かが負けている。
「ナイト」
『なんでしょうかマスター』
「戦う以上は敗北を認めないからな」
『無論、マスターに敗北は似合いません故、勝利のみを捧げる所存です』
解っているならこれ以上言う必要もない。地下3階へとやってきた所で人々や挑戦者たちが歩き回っているのを目撃し、近くに壁に案内板がかかっているのを見つける。確か第二闘技場だったか、と言葉を思い出しながら進んで行く。背後から聞こえてくる金属の擦れる音にここ数日で完全に慣れてしまったなぁ、とも、無いと逆に物足りない感じもするんだよなぁ、とも思いつつ第二闘技場へと続く地下広間に出た。聞こえてくる歓声に今、試合を行っているんだなぁ、と思っていると、こちらへと近寄ってくる姿が見える。
「あら、貴方がネクロマンサーの人ね」
そう言って此方へと寄って来たのはバニースーツ姿の女だった。短いウェーブのかかった金髪にウサミミ、扇情的なバニースーツ、そして網タイツと基本をしっかりと押さえたバニー姿であった。彼女はナイトを連れた此方を見ると近寄ってくるので、此方からも歩み寄る。此方を見て、そしてナイトを見て、ふむふむ、と声を零す。
「なるほどね……貴方が何故使役出来ているか本当に不思議なレベルで実力差が存在するわね。だけどそれを聞くのも野暮ね」
説明する事でもないので、聞いてこない所は点数を高くつけておく事にする。
「それでは改めましてようこそルーゼン闘技場へ。ここは血と肉を流し、抉る第3層、殺し以外のルールがほぼなんでも通ってしまう階層よ。そこには一体までなら召喚獣や使役獣の類いを戦闘前に、そして戦闘中に出しておくことを許可してあるわ。第二闘技場の特徴はそれだけじゃなくてレベル上限は100まで、って所ね」
「成程、この階層じゃないとナイトを運用することが出来ないのか」
「正解よ。正確に言えば2層目でもできるけどあちらはルール的に事前召喚が禁止されているの。それが解禁されるのはここ、第3層よ。ネクロマンサーさんの能力を見るとおそらく事前召喚が出来ないと反応すら出来ずに倒されちゃうわねー」
「だろうな」
そこは素直に認めるしかない。自分の敏捷はずっと1だ。そしてこれからも振り分ける予定はない。SPに余りや余裕が出てきたら思考加速系統のスキルでも習得し、体は追いつかなくても知覚だけは出来る様にしようと考えている。少なくともそうすれば何も訳も解らずに殺される、なんて事態は回避できるだろう。まぁ、あくまでも余裕があった場合だ―――現在、そういう類のSP的余裕はないと思っている。
「あら、素直に認めちゃうのね。でもいいわ、その方が長生きが出来るし。荒っぽいのは歓迎だけど長生きしないから悲しいしね。それじゃあ選手登録する為に貴方の名前を教えて貰えるかしら」
「マスターだ」
「はい、了解したわ。試合の形としてはマスターさんが出場、って形になるから気を付けてね?」
「つまり俺が攻撃されるって可能性もあるのか」
「寧ろ積極的に狙ってくるわね」
『望むところです。マスターには傷一つすら負わせません』
素敵な意気込みね、とバニーは微笑み、ホロウィンドウを操作する様に虚空に指を動かし、そして此方へと視線を戻した。
「それじゃあ掛け金として5万ゴールド貰おうかしら? 勝利した場合は返却と試合の盛り上がりに合わせてファイトマネーを支給するわ」
彼女のその言葉に動きを完全に停止した―――そうだ、参加費、というよりは担保が必要だったのだ。それをすっかり忘れていた。そりゃあ無料で参加できる程都合の良い施設なわけがないよな、と思ったところでナイトへと視線を向け、
「―――絶対勝てよ、いいな……?」
『任せてください。マスターを前に敗北はありません』
インベントリから5万ゴールドの入った布袋を渋々ながらバニーへと受け渡すと、そのまま彼女が控室へと案内してくれる。第二闘技場の控室へと近づけば近づく程熱狂具合は上がって行く。戦いを見世物にする―――まぁ、アニメやゲームを見ているのであれば、それが何故盛り上がるのかなんて説明する必要もないだろう。人間の本能にある闘争心をそれが刺激する。それだけの話なのだから。
だから徐々に自分も高揚しつつあるのを感じながら薄暗い通路を抜け、控室に入る。そこには己以外にも数人、男も女の姿もあった。ナイトと共に入って来た此方に対して視線を向けてから、観察する様な視線を向けて来る。それを遮る様にナイトがゆっくりと移動し、その間に控室の適当な壁際まで移動して、寄りかかる様に時間を潰す事とする。ナイトも黙って構えているとかなり威圧感がある―――少なくとも話しかけようとする気は薄れるレベルで威圧感が強い。それが此方へと向けられる事がないのは幸福だろう。
いや、本当に最初にあの岬でナイトをスカウト出来たのは幸運だった。
「―――マースさん先へどうぞ」
「おう」
名前を呼ばれて大剣を担いだ剣士が闘技場の奥へと消えて行くのが見える。その後、闘技場の方から歓声が聞こえてくる。もうすぐそこまで闘技場の、試合が近づいていた。不思議と、これから殺し合い一歩手前の事を他の人間と行うというのに、そこに恐怖はなかった。絶対に勝てる、と慢心している訳ではないし、今でも怖いのは嫌だとも、痛いのも嫌だと思っている。だがそれはそれとして、妙に落ち着いていた―――悪くない。悪くはない状態だった。高揚はするが、熱狂はしない、そういう状態だった。
或いは、
契約してるナイトの影響かもしれない。
そんな事を考えていると、何時の間にか控室からは人が減っていた。気づけば十数分時間が経過していたらしい。その間に一人、また一人と呼ばれて進んで行き、
「―――マスターさん、先へどうぞ! あとすみませんが従僕の方は一旦戻して、入ってから召喚し直してください」
名前を呼ばれた。ガードしてくれていたナイトを一旦霊体に戻して壁から背を離し、片眼鏡を軽く弄ってから歩き出す。控室を出た通路は真っ直ぐ伸びており、その先には明るい光で溢れた円形の空間が見える。おそらくそこが闘技の場、なのだろう。歩みを止める事無く、自然体のまま先へと進んで行き、闘技場への入口を守護する兵士の横を抜ける。
「大穴でお前に賭けたんだ、負けるなよ?」
呆れた。こんな奴が守ってるのか、なんて考える反面、どこか気が抜けてしまった。まぁ、それぐらいが動きやすいから良いだろうと思いつつ、
通路を抜けた。
古代ローマを思わせる円形の闘技場、足場は砂と土、固められたそれは強く感触を足の裏に返し、あまり身が沈まない―――蹴りやすい大地だと思う。少なくとも自分が抱けた感想はそれまでだった。果たして錬金術師として更に道を踏み出していれば性質やら属性やら魔力の偏りやらをもっとよく理解できたのだろうか。まぁ、それはどうでも良かった。
それよりも重要なのは自分と同じように反対側の通路から出現する人の姿だった。身の丈を超える巨大な戦斧、それを片手で握り、肩に担ぐ上半身だけ鎧に身を包んだ男だった。ヘルムはなし、グリーブとガントレットは装着している。最低限の防具、と言った様子だった。短い緑髪を持っている男の表情には獰猛な笑みがあった―――場の空気に支配されていない、理性的な狂気がその目に浮かんだ。
成程、これがグラディエイターとも呼べるキチガイか、とその姿を見て理解した。
『―――さあ、次の試合はなんと本日闘技場初挑戦というニュービーの登場である!』
相手の観察が終わる前に闘技場内に声が鳴り響いた。軽く周りを見渡し、上へと視線を向ければ壇上の様な場所が、実況席が見つけられた。そこでは銀髪のバニーがマイクを片手に、もう片手で拳を作っていた。
『しかし、しかーっし! なんとこのニュービー! ただの闘技場ニュービーなだけではなく、この世界そのものに対してニュービーだったぁー! なんとこっそり盗み見たレベルは30もない! 舐めてるのか闘技場を? さっさとアトリエへと帰れ! ……冷やかしか! そう思ってしまった貴方! 心配する必要はありません。なぜならこの闘技場は自殺者を招く場所ではない事を誰よりもバトルジャンキーな貴方達が知っているからです!』
その声に熱狂する様に闘技場の大地をぐるりと囲む観客席から声が上がってくる。バニーがいい感じに状況を、戦闘の前の空気を暖めてくれている。
―――成程、つまりはここで出せ、って事だな。
解りやすい合図だ。反対側に立つ戦斧の戦士も出せよ、と言葉を吐かず、口だけを動かして言ってくる。挑発したな、ならば宜しい、と答える。
「我と共に
魔力を霊体へと注ぎ込む。それに反応する様にがしゃん、と鋼が大地を踏みしめる音が響いた。鋼が大地を踏むのと同時に威圧感が闘技場内を満たし始める。錆び、欠け、そして砕けそうな鎧の姿が左の爪腕から僅かに炎のような蒼白い揺らぎを生み出しながら右手にボロボロの槍を抜き、そして握っていた。
『マスターが従僕、ナイト……ここに』
ノリが解ってるじゃねぇか! と心の中で賞賛しておく。こういうのはその場の空気とノリが大事だ。実際に反対側にいる対戦相手も笑みを浮かべて肩に乗せていた戦斧をおろし、大地を軽く揺らしながら戦闘態勢に入るのが見えた。やはり、ナイトは別格か、と、納得する。
『―――そう、彼はネクロマンサー! しかも使役するのはおそらくは未だ覚醒に至っていない英霊だ! 見た目はぼろぼろ、しかし戦いを見続けて肥えてきたキチガイのみなさんなら解るでしょう、あの鋼に込められた年月を、決戦を、歴史を! 間違いなくあのリビングアーマーは激戦を戦い抜けて来た戦士であると! そんなマスター選手、そしてその従僕に相対するのは―――斧の戦士、ロック!』
名前を呼ばれた事に反応し、対戦相手、ロックが片手を上げて観客席へと軽いアピールを送る。
『既に本日は五戦、そして全勝中! 波に乗ってるぞロック! 巨大な戦斧は岩のみならず鋼さえ破壊し、ミスリルの大剣さえも砕いたぞ! 無骨、しかしそれはそれ以上研ぐ必要がない為! 闘技場の新たなチャレンジャーにロックは先達として現実の厳しさを教えることが出来るか! さ、トトカルチョを締め切ります! 試合開始一分前!』
響き渡るアナウンスに合わせ、一歩後ろへと下がり、ナイトが一歩前へと出た。それに合わせる様にナイトの覇気が高まって行く気配を感じる。
『感謝します、マスター。これはただのわがままなのでしたが……』
「気にするな。従僕のメンタルケアを行うのは主として当然の事だからな。何より俺もお前の全力が見てみたい」
『ならその期待に応えます。どうかご照覧ください』
ギチ、ギチギチ、と力を込める様に前傾姿勢へと身をやや崩すナイトの動きに追従する様に、小さなホロウィンドウが出現した。たった一枚のホロウィンドウだった。そこに表示されているのはP、つまりはパッシブという事を表す文字で、スキルだった。そしてそこに表示されたのは、
―――《聖■■》。
隠され、忘れられているナイトの存在を表すスキルだった。同時にナイトが気力を高めるのに合わせ、ナイトが保有するスキルが出現し始める。続くように幾つかのスキルがウィンドウと共に出現する。反対側を盗み見ればロックの視線から、相手には見えていないというのが解る―――つまり自分にだけナイトの情報が開示されている。
《■■存在》・《幻想■■》・《■■道》・《金属鎧習熟:M》と、連続でホロウィンドウが重なる様にスキルの発動を告げるそれは見た事のない現象であると同時に、今までの戦闘、今までの生活では見る事が出来ない理由に思い至った。
それこそアクティブだけじゃない。パッシブさえ発動する余地がないレベルで相手が雑魚過ぎた。そのせいでナイトのスキルが発動すらしなかったのだ。
ナイトの記憶を探すつもりならもっと、もっと強い敵と戦った方がいいのかもしれない。そう思考した直後、
『―――試合を開始します!』
試合開始のコール、それを耳にした瞬間、
回避した直後の体に膝蹴りが叩き込まれ、ロックの姿が蹴り飛ばされた。
砲弾を放つような轟音と共に吹き飛ばされたロックの姿を追撃する様に振るわれる槍に合わせて《■■技》と、また壊れているのか忘れているが故に不完全なのか、スキルの表示を見せながら閃光の乗った槍を一直線に突き出した。真っ直ぐ暴風の様にうねりながら回転する閃光が大地を抉りながら爆裂するが、それが届く前にロックが飛び出してきた。戦斧を回転させながら飛び上がった姿はナイトの頭上を越えていた。急速に大地に引かれる様に加速したロックが戦斧を回転させた状態から叩き落とす。
戦斧という超重量の武器を振り回しているのに目にもとまらぬという異常な速度、それによって巻き上げられた砂埃で視界が遮られる―――しかし、ナイトは落ちていない。それを証明する様に見えるスキルがあった。
―――《■■殺し》だった。
鈍い音が聞こえた。肉を強く叩くような音が砂埃の中で二度、三度、そして四度。
砂埃が消える中で、見えてくるのは爪腕で掴んだロックをまるで鞭のように大地へと何度も叩き付け、そして六度目の後に壁へと向かって叩き付ける様に投げ捨てるナイトの姿だった。その姿はぼろぼろだが、ある種の威厳、或いは風格のような物さえあった。動かない敵から視線を外し、爪腕で二回程槍を叩き、
『我が勝利、マスターの為に』
レベルアップを告げるホロウィンドウの出現と同時に、爆発する様な歓声が一気に闘技場を満たした。救護班がロックを医務室へと運ぶために走って入ってくる中、ナイトを霊体化させて出る為に出口へと向かう。司会のバニーの言葉を受け流しながら、
「で、どうだった?」
『良い戦士でした。まだまだ荒削りで未熟ではありますが、光るものを感じます。まだまだ強くなるでしょう、彼は。また強くなった時に相対するのが実に楽しみです―――ありがとうございますマスター。己という存在がやはり戦士の類いであると感じられました』
「気にするな、俺にも色々と収穫があったしな。しかし、ふむ……お前の記憶に関してはもっと戦ってスキルを引き出してみれば何か解るかもな」
また闘技場にナイトを連れてくればいいな、と決める。ダンジョンでレベリングするよりもナイトをここで戦わせた方が取得経験値が高いし、一気に自分のパワーレベリングにもなる。なにせ、今の一戦で自分のレベルは28から39まで上がった―――つまりたった一度の戦いでレベルが11も上がったのだ。これはボロい。しかも第二闘技場の出口へと到着するとそこには案内してくれたバニーの姿がいて、担保の返却と共にファイトマネーとして1万ゴールドが支払われた。
もう一度言う。これはボロい。
ただ、マッチングを調整しているのは闘技場側だ―――ボロ儲けしようと考えたらたぶんメタ張れる相手とマッチングして確実に此方を負けさせに来るから、あまり派手に利用しない方が身のためだな、と考える。ともあれ、今回の試合を見ていて、経験して良く解った。
―――敏捷ないと死ぬなこれ!
ナイトとロックの試合のレベルが高すぎた。そして同時に早すぎた。まるで何が起こっているのかが解らなかった。辛うじて解っていたのはナイトがスキルをガンガン発動させていた事、ロックがナイトの速度に追いついていた事、そして攻撃があった、という事だけだった。それ以上の事はあまりに早さに把握することが出来なかった。
畜生妖精が敏捷も大事だと言っていた事の意味を死ぬ前に理解できただけ幸運だった―――敏捷にある程度割り振ろう。そう決意した瞬間でもあった。
……一番大事な魔力ステータスが後回しになっている気がする。
ともあれ、ステータスの操作を終える。スキルの方―――SPが大量に増え、そして《死霊術》の必要コストが一気に3も削減されていた。ナイトを全力で暴れさせるだけでこうなるのか、とやや戦々恐々としながらも、新しく出現したスキル、固有スキルの名前を確認する。固有スキルであるが故に最初からスキルランクは最大の状態、Mとなっていた。使い込めば勝手に進化したりするらしいが、その説明文を読み、欲しかった能力なだけに少しだけ喜びを感じる。
そんな風に闘技場の利用は悪くないな、と考えて闘技場を出ると、
「―――失礼」
話しかけてくる男の声があった。その声に引かれて視線を持ち上げれば、視界に映るのは黒いカソック姿の男だった。短く切られた茶髪の男は頭を下げ、
「マスターさん先ほどの試合、拝見させて頂きました」
そこで一呼吸の間を開け、
「―――貴方の従僕、鎧戦士に関して少々宜しいでしょうか?」
―――カソックの男に連れられ闘技場から出て、向かった先はルーゼンの一角にある教会だった。教会が存在し、宗教もまた存在する。だがこうやって訪れる事になるのは初めてだった。男は神父だったらしく、教会まで案内すると応接間に通してくれ、そこで紅茶を振る舞ってくれた。それを片手に、そう言えば料理も錬金術に通る部分があるから、挑戦してみるのも悪くはないかもしれない、なんて事を考えた。
紅茶を飲んで軽く一息を入れた所で、神父が頭を軽く下げた。
「いきなりのお誘い失礼しました。私アルテナ聖教の神父でゴーリックと申します。実は聞きたい事があってこのようなお誘いをさせて頂きましたが……マスターさんは見た所異邦人のようですので、先にアルテナ聖教等の宗教に関してお教えしましょうか?」
「お願いします」
では、と言葉を置いてゴーリックは説明し始めた。
「この世界は幾つかの神によって創造されたと言われています」
創生神話―――良くある話だ。
「その世界の創造に携わった神々の一柱がアルテナ様です。戦を象徴する戦女神であり、神々が異世界からの悪意に触れて汚染されてしまった時、先陣を切って戦いました。アルテナ様だけではなく、現在この大陸で敬われている神々はかつてこの世界を守る為に戦った神々達となっております。我々が彼の神たちに祈りを捧げるのはこの大地を守り抜いて来た事への感謝があるからです」
「ふむふむ……成程。やや即物的な質問になりますが、信仰に対する見返りは存在するんですか?」
あります、とゴーリックが答えた。
「神への信仰を捧げる事で我々は対応した神から加護を受け、敬虔な信者である事を証明する事で神の力の一端、或いはその神器を下賜して貰う事もあります。とはいえそこまで来ますともはや信徒の中でも上位の者となってきますが……」
なるほど、と返答する。とはいえ、自分はそこまで宗教に入れ込めないかなぁ、というのが素直な感想だった。サイバーグノーシス主義が目立ち始めている仮想世界、電脳世界の時代。神という概念はかなり弱体化している、というより本気で信じている人間は年々減り始め、サイバーグノーシス主義の方が今は主流となって来ている。まぁ、その気持ちは解らなくもないが、自分も信仰するのは不可能だと思う。
「と、それで私はアルテナ聖教を信仰している武装神父です」
「武装神父?」
「えぇ、アルテナ聖教は戦女神を主神とする宗教ですから。己の剣、拳で闇と戦い、そして人々に安全な道を神意と共に切り開く事を信条としています。兵士や自警団の力が足りない場合は我々武装神父や武装牧師を派遣し、辺境の村の守りなんて事もするんですよ?」
「そりゃあ、また凄いですね」
そう言うとゴーリックが苦笑する。そしてさて、と言葉を置いた。
「実はですね。貴方が従えるリビングアーマーですが、それに見覚えがあると言ったら驚きますか?」
「もしかしてアルテナ聖教の鎧ですか?」
「確かめたい事があるので契約までの経緯を説明していただいてもいいでしょうか?」
ゴーリックの問いにどうしようか一瞬だけ考え、特に迷う事もないな、と判断する。そもそも隠す理由がない。困るのはナイトを解放しろと言われる場合だけであって―――その場合はログアウトして逃げればいいのだ、一切何も問題はないのだ。なので答える事にした。魚鱗島の石碑に魂の残りカスとして漂っていたナイトに魔力を与え、形にしたのだと。それを伝えると成程、そうでしたか、と言葉をゴーリックは置いた。
「……あぁ、そうでした。初めに言いますと同意の上で契約を行っているのであれば昔はどこの所属であろうと、文句を言われる事はないので心配しないでください。契約解除を迫るとかそういう事は別にありませんし、ネクロマンサーはそれで立派な職業ですから」
良かった、と安心した所でゴーリックが言葉を続ける。
「話を続けますが私が貴方を呼び止めたのはその鎧に見覚えがあるからなんです」
ナイトが魔力を求めている。それに応え魔力を供給すると、応接室にその鋼の姿が出現する。
『本当ですか』
「えぇ。かなり古いですがアルテナ聖教の鎧です。何より試合中に見せた技、アレは《聖剣技》、騎士の中の騎士、それも聖騎士と呼ばれるような強者にしか使えない奥義の様なスキルだったはずです」
『《聖剣技》……いえ、槍を使っていましたし《聖槍技》とでも呼びましょうか。欠けている記憶をわずかにですが刺激する物を感じます』
「記憶、ですか……」
ゴーリックにそのまま、ナイトの状況と、そして記憶の欠陥に関しても話す。それを受けたゴーリックは成程、と納得する様に頷いた。
「魂の損傷に合わせて本来の姿を忘却してしまったのでしょう……ですが惜しいですね。実は私、趣味で歴史の研究と編纂を行っていまして。今はもう残っていないかつて起こった大戦等の記録を探したり、口伝を纏めているんです。見た感じ、其方の従僕の方が過去の記録を保有しているのではないかと思ったのですけど……」
『―――聞かせて貰っていいでしょうか。その果てに我が記憶を取り戻す事もあるかもしれない』
宜しいでしょうかマスター、という言葉にナイトは此方へと視線を向け、そして苦笑しながら問題はないと告げた。ゴーリックも自分の作業を他人と共有できるのが嬉しいのか笑みを浮かべ、是非是非、と言葉を向けて来る。これはどうあがいても夜までかかるなぁ、なんて事を思い、これで今日一日を済ませてしまおうと思った。
Name:マスター
Level:39
Status:
AP:185/185
筋力:50 魔力:9 敏捷:30 体力:100
Skills:
SP:82/145
《死霊術:D》 《テイミング:D》 《魔力強化:D》 《鑑定:C》
《計量:D》 《魔力操作:D》 《闇魔法:E》 《語学:E》 《光魔法:E》 《識別:D》
《投擲:D》 《夜目:E》 《号令:E》 《薬学:D》 《付与術:E》 《魔眼:M》