※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーとふぉー

『―――すみませんマスター、本日は大切な時間を取ってしまい』

 

「気にするな、こういう日も悪くないさ」

 

 何よりナイトのおかげで一気にレベルが11も上がったのだから、文句を言える筈もない。しかし今のペースでレベルを上げれば、今月中にはレベルキャップを狙えるかもしれない、と思う。後はそこからスキルを慎重に選んで、鍛えてランクを上げて行けばいいのだ。寧ろその方が管理すべき数値が見えていて楽かもしれない。自作でスキルシミュレーターでも作ってみるかなぁ、なんて事を考えつつも、

 

「残念だったな、記憶に繋がらなくて」

 

『いいえ、どうやら書されていない程の過去の出来事らしいですし。そこまで急を要する事でもありませんから。落胆したと言えば事実ですが、それでも駄目元で、という考えで当たっていますから』

 

 ナイトの言葉に苦笑しつつ、少しだけ残念に思う。ナイトの記憶がよみがえればおそらくは鋼ではなく肉の体が見れたであろう。生前の姿はどんなものなのか、それは非常に気になる所だった。だけど決してゴーリックから聞いた歴史の話は無駄ではなかった。この大陸の歴史を、図書館にもない様な話を分かりやすく説明して貰えたのだから。

 

 たとえば今では帝国と共和国で二分されているこの大陸だが、数十年前まではまだ複数の国家が存在していた。帝国だけではなく王国や他にも別の帝国が存在していたのだが、それらを侵略して吸収し、纏め上げたのが帝国であり、それに対抗する為に団結して一つの国家として樹立したのが共和国だった。

 

 帝国に対する為に共和国が生まれたのだから、当然にらみ合いが始まる―――戦争が始まろうとするのも当然の話だ。ただ今までは帝国が飲み込んだ国々を安定させ、国内の地盤を固める為に戦わなかっただけだ。それが完了すれば帝国は再び大陸の統一の為にその刃を向けてくるだろう―――なんともまぁ、解りやすい状況だ。しかしそうやって帝国に飲み込まれた国々を安定させて帝国に恭順させる為の数十年間、と考えると納得できる。

 

 歴史を追いかけると何故そういう文化になったのか、それが解ってくるから実に面白い。

 

 この世界は何度か滅んで蘇る事を繰り返している―――ナイトが出身なのはそのサイクルの中にある国家の一つであったに違いない。おそらく現在の帝国とは関係のない所だが、アルテナ聖教に関係があるという事は最悪、神話レベルにまでさかのぼるかもしれない。まぁ、それは別にいいのだ。問題はそこまで来るとちょっとやそっとでは情報を調べられない、という点にある。

 

 ―――金と立場が必要になってくるな。

 

 情報を集める為の金。

 

 情報を引き寄せる為の立場。

 

 この二つが欲しい。そう考えて、悪くないな、と思った。このゲームに入って錬金術師になればそれで十分に楽しいからそれでいいとも思っていたが、明確に目標が出来て来るとやはりモチベーションが変わってくる。上だ、上を目指すのだ。金も、名も、立場も、それを手に入れてナイトの過去を取り戻す―――それが自分の、マスターの目標である事にしよう。きっとそうやって明確に困難な目標を持って挑む日常は楽しいに決まっている。

 

 うん、悪くはないんじゃないだろうか―――必死になれる事の一つや二つ、見つけるのもいいだろう。

 

『上機嫌ですねマスター』

 

「そうか? そう思うか?」

 

『鼻歌を歌っている感じ、かなり上機嫌に思えます』

 

「そうかそうか」

 

 まぁ、実際機嫌がいいのは確かだった。

 

「最初は、まぁ、なんとなくな感じだったが―――こうやって真剣になり始めてみると実に楽しいもんだ。熱中し、時を忘れて集中してしまうオタクの気持ちってのも良く解るよ。お前のおかげで今日は大収穫だったしな。一気に11もレベルが上がった上に、そう……そうだ、固有スキルまで生えたんだ。《魔眼》っつーのがな」

 

 なんとも、まぁ、これが凄い便利、というか欲しかったスキルで、意識してスキルを発動させると見える世界が一瞬で変化する。世界全てに対して、均等に様々な色が入り混じる様に、しかし統一された美しさを持ってパレットに飾られる様に見えた。それはエーテルだった。この世のありとあらゆる物質を構成し、そして魔力の前段階となるエーテル、それと属性が混じって安定している状態のそれが目に見えるのだ。本来のそれはもっと上位のスキルが必要であり、ここまで鮮明に、それでいて属性別にハッキリと色分けして見えるような物ではないらしい。

 

 錬金術を執行する上で、干渉する素材のエーテル構成を覗く事が出来るというのは大きなプラスだ、何せそうやって品質や効果を細かく調整することが出来るのだから。それが今一足跳びに出来るように、それも望んでいた以上の形で出来るようになったのだから、そりゃあ嬉しいに決まっている。これで錬金術での作成アイテムの品質向上を狙える―――いいじゃないか。

 

「ふんふーん―――」

 

 軽い鼻歌を零しながら《魔眼》を発動させてエーテルに満たされた世界を見る。こうやって世界を見ていると、本当に細かい所までこのゲームを作成した運営は作っているよな、と思える。いったいどれだけのマシンと、そしてリソースをこの世界の構築に使っているのか、とも思ってしまう。ここだけではないが基本的に電脳世界構築のための根幹技術というのは、出所が不明なのだ。

 

 何時、どこで、誰がこの無限のネットワークを生み出したのか―――それを俺達は知らない。

 

 そう考えると背筋が震えて来る。だが切り離せない。もはやネットワークと隣り合わせの命なのだ、切り離して生きる事は俺達には不可能なのだ。だから忘れて生きる他ない。だから今を楽しみ、未来を見るしかないんだよなぁ、と《魔眼》を作動させ、何時もとは違う景色の世界を眺めながら夜のルーゼンを宿へと向かって歩いていると、

 

『どうされましたか、マスター』

 

 足を止める。視界の端に妙な光景が見えた。視線を其方へと向ければ、それは路地裏の方角だった。其方へと《魔眼》の発動している目を向ければ、僅かにだが空間のエーテルが乱れているのが見えた。おかしい。街中とかではか(・)な(・)り(・)厳(・)重(・)に(・)一(・)定(・)値(・)で(・)落(・)ち(・)着(・)く(・)よ(・)う(・)に(・)調(・)律(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)のだ、エーテルは。

 

 たとえば火属性にエーテルを偏らせてしまった場合、煙(・)草(・)を(・)吸(・)お(・)う(・)と(・)し(・)て(・)大(・)爆(・)発(・)が(・)発(・)生(・)す(・)る(・)なんて事故に繋がるらしい。その為街中は常に安定する様に機械と魔法によって調律されている、と本で読んだ。アイテムも同じ、属性を偏らせすぎると爆発したりする為注意が必要らしい。その知識があるから気づいた。そして見える―――路地裏の奥で何か、エーテルを乱す様な出来事が発生しているのだと。

 

『マスター?』

 

「……ちょっと見てみるか」

 

 興味心が湧いて来た。一体何が街中に不和を生み出しているのか、が。それが気になって路地裏の方へと進んで行く。ナイトがそれに霊体のままついてくる。呆れや仕方がないなぁ、という風には感じないのはどうしてだろうか。ナイトも俺という人間に対してこの数日で慣れて来たのだろうか? だとしたらそれはそれで喜ばしい事だ。そんな事を想いながらも足を止めず、路地裏へと進んで行く。

 

 正直追跡は難しくはない。綺麗にはめ込まれたパズルの中に、一つだけハミ出ているパズルピースが存在する。そんな光景を見ている様なものだからだ。だがその違和感は近づけば近づく程異様な物へと変わって行き、次第にナイトも警戒し始めるのを感知した。

 

 この先に何かがある。そう思って路地裏、その奥へと進んで行き、

 

 その先で見たのは、

 

 ―――犯されている女の姿だった。

 

 女が喘ぎながら路地裏で四つん這いになり、まるで犬の様に犯されていた。衣服は荒々しく破り捨てられるように剥ぎ取られ、その裸体は夜の闇の中に隠されていたが、肉の打つ音はこの距離になって漸く強く聞こえて来た。それだけだったら消音結界でも起動したのかと納得できたのだが、目の前、女が犯されている光景からは目が離せなかった。

 

 ただ単純に、その光景が異(・)様(・)す(・)ぎ(・)る(・)からだった。

 

 女の背後、覆いかぶさるように犯していたのは黒い塊だった。人とも獣とも取れない姿をした闇の塊はしかし明確に人の口の様なものを持ち、笑みを浮かべて女を犯しており、その腰が女に打ち付けられる度に女は悦びで泣き、そして黒(・)と(・)女(・)の(・)エ(・)ー(・)テ(・)ル(・)が(・)溶(・)け(・)合(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。それはまるでパレットの上に並べた絵の具をぐちゃぐちゃ混ぜるような、紅茶の中にミルクを注いでいく様な、そんな光景だった。本能的な気持ち悪さと冒涜的な感触に思わず動きを止め、目を離せず、そして口も閉ざされた。

 

 それが解っていたかのように此方へと目のない視線を黒は向け、最後に腰を女へと叩き付けた。

 

 ―――直後、完全に二つの生物の体がエーテル的に繋がった。

 

 《魔眼》を通して見る世界の中で、完全に体を構成する物質がつながり合った存在はそのままドロドロに溶け合う様に腰の接合部から溶け合い、絡み合い、嬌声を夜の空気に乗せながら変質させて行き、やがて姿を変えて行く。

 

 女と黒は溶け合い、人と異形だった姿は異形な人の姿へと変貌する。

 

 それは全裸の女の姿をしていた。背中に翼を生やし、頭に角を生やし、尻部から尻尾を生やしていた。存在そのものが艶めかしく、空気を甘く、しかし心を寒く震わせる様な、恐れさせるような余りにもおぞましい空気を纏った悪だった。そう、悪。悪の中でも絶対に存在させてはならない邪悪。本能的にこいつは絶対に許容してはならないと訴えかけてくるような悪。それがいた。魔性とも表現するべき美貌と持ち、それで誘惑してくるその悪を表現するのであれば、人々は、そして俺はこう表現するだろう。

 

悪魔、と。

 

 女のカ(・)タ(・)チ(・)を得た悪魔が笑みを浮かべた。目が爛々と金色に輝く。成程、確かに魔性だ。ずっと覗き込みたくなるような瞳だ。美しい。抱きたい。犯したい。そんな欲望が胸の内に浮かび上がってくるため、此方も《魔眼》を発動させ、エーテルの流れを見る。此方へと干渉してくる魔力の流れが見えた。此方の魂とも言えるエーテル体への干渉を《魔力強化》によって強化された《魔力操作》で的確に見切りながら抵抗し、口を開いた、

 

「―――殺せ」

 

『拝承しました』

 

 夜の闇に鋼鉄が出現した。待っていたと言わんばかりに光すら吸収する鈍い輝きの鎧姿は―――ナイトは槍を片手に半透明な蒼い翼を、《力翼》を生み出し、そして闇を照らす様な閃光を薄くぼろぼろの槍に纏わせていた。バチバチとスパークする光を見て、笑みを浮かべていた悪魔の表情が一瞬で変貌した。その口が開き、

 

『憐れな……』

 

 言葉を発する前に槍が口の中に叩き込まれていた。そのまま頭の裏へと通す様に槍が抜かれ、頭を真っ二つに切断し、そのまま切り飛ばした頭の上半分を返しの槍で叩き砕いた。脳髄と骨と血液がまるで水風船を叩き割ったかのように一気に叩きつけられて広がった。モンスターとは違って直ぐにその姿は溶けて消えない。まるでリアルの人間の様な死にざまだった。

 

 頭を失った事で悪魔の体も続いていた変容を止めながら倒れた。《魔眼》で確実に活動停止しているのを確認し、息を吐く。

 

Skill Obtained!

 

「―――イベント発生だ……って到底喜べそうにもないな、こりゃ。納得のR18だわ」

 

 苦笑しながら戦闘の結果習得可能となったスキルを確認し、溜息を吐き、そしてどうするべきかを悩んだ。

 

 

◆

 

 

 ―――モンスターはどのように発生している?

 

 ただただリポップしている訳ではないのだ。モンスターの存在にもちゃんとした理由が、そしてメカニズムが存在する。その理由は遥か古代にまでさかのぼるらしい。神話の時代、そこにはまだモンスターなんてものは存在しなかった。神々は平和に暮らしていた。しかし、そこに異世界への扉が生み出され、異世界へと繋がった。そしてそれより原罪と呼ばれる悪意がこの世界に侵入したのだ。醜いとも表現できるそれに汚染されたいくつかの神々は悪神や魔神へと姿を変貌させ、神々同士での殺し合い、戦争が始まったのだった。

 

 モンスターとはそんな神々の黄昏時に生み出されたものだったらしい。この世界の住人であった人々を、そして神を殺す為に。生み出された動植物や無機物に原罪を注ぎ込み、変質させた存在だとされている。そんな存在の中でも特に凶悪なのが悪魔と呼ばれる連中であり、それが異世界に住まう悪意の住人達の名称であるらしい。

 

 彼らには肉がない。

 

 その全身が高密度の感情とエーテルによって構成されている精神生物みたいなものである。ゴースト、スピリット、そういう類の存在に非常に近い。だが彼らと霊体の決定的な違いとは、彼らは明確に邪悪と呼べる存在である事だ。良い悪魔、なんてものはたったの一体として存在しない。生物として、本能から他の生物を冒涜し、穢し、そして喰らう事しか考えていない。100%欲望の為だけに生きている生物だと断言していいのだ。

 

 連中には肉がなく、精神だけのエーテル体とも言える存在。故に錬金術で素材を混ぜる時の様に、他のエーテル体と融合することが出来る。

 

「―――それが昨夜、君が見た出来事だ」

 

 質素な部屋の中、テーブルを挟んで反対側には軽鉄鎧を装着した西洋風の男が座っていた。年齢はおそらく二十代、真面目そうな男で、アクアマリン色の瞳が特徴的だった。ここはルーゼンの自警団、その詰所である。街中であんな出来事があったのだから当然ながら報告したし、そうなると事情聴取で捕まるのも当然の話だった。まぁ、そのおかげで一食浮いたと考えればいいし、自警団のベッドも悪くなかった。ただ汗を流したいし、一度ログアウトもしたいので早めに宿に帰りたいなぁ、とは思っていた。

 

「連中はエーテルによって構成されている存在であればなんとだって融合する事が出来る。まぁ、それには融合する側が受け入れないといけないんだけどね。ただそうやって条件が満たされると人間でも異邦人でもモンスターでも神でも、融合出来てしまう生物なんだ。そして肉を得た彼らはかなり強い。それこそレベルは一番弱い成り立てでも60はある―――君が殺せたのはまだそれぐらいの強さだったから、だろうね」

 

「成程、勉強になります」

 

「無駄に長く拘束してしまったし、そう言ってくれると助かるよ……他にも何か聞きたい事はある?」

 

 自警団の男がそう聞いてくるので、言葉を返す。

 

「連中が人と交わって融合するのは解りました……ですがその目的は?」

 

「ないよ。連中は欲望のままに、って言ったでしょ? だから本能優先な連中なんだ。七つの大罪って知っているかい? 連中アレがベースというか、モチーフになっているんだ。連中が存在する異世界はその七つの大罪に分かれたプレーンが存在し、象徴するそれぞれのプレーンの欲望のままに此方で行動するらしいんだ。まずは肉を得て、肉を得たら最大限悪意を持ってその欲望を満たそうとする―――全人類共通の敵だよ。神敵でもあるから見つけた時に教会に駈け込めばいつでもエクソシストや聖騎士(パラディン)達が喜んで殺しに行くよ」

 

 相変わらず物騒な世界だなぁ、と思いつつも、共通の敵―――ゲームとしては実に解りやすい討伐対象だなぁ、と思えた。

 

「では次にですけどなんで街中に出没してたんですか? というか可能なんですか?」

 

「普通は無理だね」

 

 自警団の男は普通は、と言葉を置いた―――つまりは可能となる方法が存在するという事だ。その先を催促する様に視線を向ければ、苦笑しながら自警団の男が話を続ける。

 

「普段は結界によって侵入を阻止、遮断しているんだけどね。……これ、内側からだと招く方法が存在するんだ」

 

「成程、そういう事でしたか」

 

「うん……だからなるべく今回の件は―――」

 

「心の内に留めておきます。お勤めご苦労様です」

 

「いやいや、此方こそ拘束してしまってごめんね? 調べたら普通の異邦人だったし。それじゃあ良い冒険を」

 

 笑顔でそう言った自警団の男にいえいえ、と返答しつつ頭を下げ、自警団の詰め所を出る。既に一夜が経過してしまい朝日が完全に昇ってしまった。軽く欠伸を漏らし、それをなんとか噛み殺しながらふぅ、と息を吐き、もう一度ステータス画面を眺める。

 

 レベルは41に上がり、40レベルでのSPボーナスを取得したほかに、あの悪魔と融合してしまった女の姿を見て、習得し、そして獲得してしまったスキルを見た。その名も、

 

《禁忌》

 

「……」

 

 それを隠すために《隠蔽》のスキルも取得、SPはもったいぶらずに温存していたのを一気に叩き込んでランクをAまで上げた。そのおかげか、調査されても《禁忌》スキルをEで習得しているのがバレなかった。いや、まぁ、ネクロマンサーロールプレイ的に考えて禁忌とか外法とか触れているのは寧ろかっこいいからポイントとしてプラスなのだ。何より《魔眼》でマジマジとあの悪魔と女の融合の様子を観察してしまった結果、嫌悪感は感じつつも頭の中では、

 

 ―――あ、これ参考になるなぁ、とか思っちゃったからなぁ……。

 

 称号を見たら【Evil】、つまりは悪という意味の称号まで増えていた。いや、まぁ、畜生なのは確かに否定しないが。まぁ―――問題はないか、と小さく呟く。バレなきゃいいし、悪用しなければいい。それだけの話だ。それはそれとして、しっかりと隠蔽する事は考えなきゃいけないから最優先で《隠蔽》とそれ関連のスキルを上昇させなくてはならない。いや、それだけじゃない。あんな化け物と街中でエンカウントする可能性すら出て来たのだ。力をつける必要もある。

 

 なんというか、一気に色々とやらなくてはいけない事が見えて来たな、というのが自分の感想だった。

 

 まずは強くなる事。死なない為に、SPの確保に必要だ。

 

 次に資金が必要だ。自由な研究、そしてアトリエを確保する為に。

 

 最後に知識が必要だ―――どう隠すか、どう鍛えるか、どうやって稼ぐか。

 

 正直図書館に籠って探るのも良いが、それはそれで時間がもったいない気がする。ただ語学スキルも鍛えてランクを上げておけば難しそうな学術書も読めそうで割と悩む。こういう場合は優先順位を決めて、それに従って実行すれば何とかなると思うが、とりあえず、

 

「メシ食って仮眠取ったら図書館に行くか」

 

『本日は読書ですか?』

 

 霊体のままのナイトがそう話しかけてくるので、答える。半(・)分(・)は(・)、と。本を読みながら進める事の出来る作業なのだから。まぁ、なんというか。

 

「先人の知恵を借りようか」

 

 

◆

 

 

 ―――EX:Worldの公式サイトにはそう多くの情報が記載されてはいない。アップデートの予告、情報、ある程度の内容、そしてプレイヤー向けの交流所が設置してある程度だ。チャットルーム式の交流所はゲーム内からでもアクセス可能であり、プレイヤーネームではなく、匿名やハンドルネームでも気軽に参加、作成できるスタイルとなっている。少し前にさかのぼれば掲示板式が容量が少なく人気ではあったが、今ではアイコンやエモーション付きのチャットルーム式の方が人気が高いのは、電脳世界によって実質的に容量というものから人類が解放された事もあるからだろう。それでも根強く掲示板式は人気が残る―――攻略サイトで一言残して去って行く、にはそのスタイルが一番便利なのだ。とはいえ、この公式サイトで採用されているのはチャットルーム式。

 

 既に作成されているチャットルームを軽く検索する。初心者教導部屋、初心者にマナーを教える部屋、初心者カモる部屋、ちょっと悪魔に喰われてくる部屋―――調べて見ると色々とカオスな部屋まで存在する。その中から自分に合わせた部屋を検索する。

 

 ネクロマンサーの集いだ。

 

 幾つか発見するが、一つだけ人が多めにいる部屋を発見し、ハンドルネームを入力してアクセスする。

 

 

ネクロマンサー交流部屋に【畜生メガネ】さんが入室しました。

 

【ゾンフェチ】おや

 

【死骨】お

 

【ネクロマン】新人さんかな?

 

【畜生メガネ】どうもー、最近エクワ始めた者ですー

 

【死骨】いらっしゃいいらっしゃい!

 

【ゾンフェチ】おお、新人さんでしたか

 

【ドッペル】業の深い我らが業界へようこそw

 

【ネクロマン】歓迎しよう。超歓迎しよう。そして更に歓迎しよう

 

 ホロウィンドウに次々とハンドルネームとメッセージが浮かび上がってくる。基本的に現在部屋にいるのは10人ぐらいらしい。これでも人数としては少ない方らしい―――まぁ、SNSサイトで同時に喋っている人数なんかと比べると確かに少なく感じはするよなぁ、とは思い、図書館内、本を片手に読み進めながら思考入力でネクロマンサー交流部屋での挨拶と入力を続ける。

 

【畜生メガネ】ちょっと困った事があったんで、先人の知恵を借りようと思ったんですけど

【畜生メガネ】そこらへん、ちょっといいですか?

 

【ネクロマン】カマーン、ヘヘイ!

 

【死骨】マイナー職の結束が固いという事を教えてやろうではないか

 

【幽体離脱】という訳で畜生メガネさん? 質問とかどうぞ。というか凄いHNだねそれ

 

【畜生メガネ】文句の方はそう呼び始めた畜生妖精の方へお願いします……w

【畜生メガネ】で、実は最近というかつい数時間前めっちゃ困った事が発生しまして

【畜生メガネ】街中で悪魔とエンカウントしてしまって……えぇ、なんとかぶっ殺したんですけど

 

【死骨】開幕からぶち込んでくるスタイル嫌いじゃないわ

 

【ネクロマン】街中で悪魔ってwww

 

【ドッペル】畜生メガネさんって確か初心者でしたよね? って事はえ、ルーゼン?

【ドッペル】マジで? あそこの街中で悪魔が? 本気で? というか勝てたんですかw

 

【畜生メガネ】石碑ガチャで引いたのが弱体化した英霊だったらしいんでそっちはなんとか

 

【死骨】あー……成程、確かにそれは何とかなりますわな

【死骨】私はリセマラして意地で英霊を引き当てましたけどw

 

【先生】それでいいのかよ……

 

【ゾンフェチ】でもリセマラやらない? やらない……?

 

【先生】やりました(半ギレ

 

【死骨】初手で強い霊を入手しないと後まで響きますからねー、ネクロは

【死骨】というかネクロマンサーの数が極端に少ないのはそこらへんが大半ですし

 

【ゾンフェチ】ゾンビ以外いらないです(全ギレ

 

【ドッペル】ドッペルゲンガー以外はいらないです(全ギレ

 

【畜生メガネ】本題いっすか

 

【死骨】どうぞどうぞ

 

「……うん、まぁ、RPしなきゃネットって大体こんな緩いノリだよなぁ」

 

 しみじみと何時ものネットだ、と思わせるようなやり取りに苦笑しながら読み終えた本を閉じて、別の本を取る。《語学》のトレーニングも並行して進めているから時間の無駄にはならないのがポイントだったりする。

 

【畜生メガネ】割と切実に強くなるべき、後資金稼ぎが必要だと今回の件で理解しました

【畜生メガネ】なので《死霊術》や《テイミング》等の効率的なトレーニング方を知りませんか?

【畜生メガネ】並行して金稼ぎが出来るならそれでアトリエの所有へと一歩近づきますし……

 

【ネクロマン】あ、すっごい懐かしい悩み

 

【死骨】最初は悩みますよなぁー。すっごい悩みますよなー

【死骨】めんどくさいですよなー、戦闘系のトレって

 

【先生】生産系は全部ぶっこみながら続ければいいから楽ですよねー

【先生】まぁ、はい。実は割と楽に練習する方法あります

 

【畜生メガネ】マジすか

 

【ゾンフェチ】マジマジ

【ゾンフェチ】簡単に言うと一度に大量のアンデッドを使役して

【ゾンフェチ】んでお互いに殴り合わせればいいんですよ

【ゾンフェチ】《闇魔法》あるならアンデッド用ヒーリング魔法あるのでそれ使えるし

【ゾンフェチ】ついでに命令出す部分が《テイミング》カウントされるんで

 

【吸血鬼】という訳でこれがネクロ周りのスキルを一気に上げる方法ですな!

【吸血鬼】操って、戦わせて、支援する! 死んでもまた再生すればいい!

【吸血鬼】初期コストを抜きにすればベリーベリーチープ!

 

【ゾンフェチ】吸血鬼貴様ぁ! 俺が言おうとしたことを!

 

【吸血鬼】入力に時間かけてるのが悪いんだよ! 時間かけてるのがなぁ!

 

【ゾンフェチ】貴様ぁ……!

 

【吸血鬼】俺ぇ……!

 

【ドッペル】馬鹿かこいつら

 

【ネクロマン】馬鹿なんだよなぁ、それが……

 

【屍】ん……あれ? 新人さん? うわ、珍しっ

 

 あー、その方法があったかぁ、と納得する。確かに使役出来る限界量までアンデッドを使役すればそれは《死霊術》と《テイミング》、どちらの領分にも重なる。《闇魔法》にはアンデッド用の回復魔法があるし、《光魔法》には支援用の魔法が何個かある。後はそれを何か別の作業を進めながらやれば確かに効率的にスキルを鍛える事ができたなぁ、と納得する事が出来た。やっぱり自分でやり方を考えるより先人の効率化されたやり方を聞くのが一番だった。ただこの方法には問題があった。初期費用が掛かるという点だった。アンデッドを作成するという事はその材料が必要だという事でもある。

 

 スケルトンなら骨。

 

 ゴーストなら魂。

 

 ゾンビなら屍を。

 

 どう考えても無理である。

 

【畜生メガネ】皆さんはそこらへん、どうやって集めました?

 

【ドッペル】田舎の墓を掘った。死ぬかと思った

 

【吸血鬼】都会の墓を掘った。殺された上に出禁喰らった

 

【ネクロマン】骨をドロるモンスター探して集めましたねー……

 

【ゾンフェチ】骨持ってる知り合いの都合して貰いましたねー

【ゾンフェチ】というか上の二人何やってんだよ……

 

【ドッペル】いや、サービス初期でフレいなきゃこんなもんだろ

 

【吸血鬼】俺はただの度胸チャレンジで

 

【ゾンフェチ】馬鹿じゃねぇの……?

 

【死骨】私は墓場の王さんに支援して貰いましたからねー

【死骨】あ、そうだ、畜生メガネさんが良ければ少し手伝いましょうか?

【死骨】クラン本部がルーゼン地下にありますし

【死骨】なにより初心者に支援するのも先達の役割ですし

 

【先生】やだこの骨イケメン……?

 

【ゾンフェチ】所詮は骨だけどな

 

【死骨】お前らは……あ、畜生メガネさんはそれでどうします?

 

【畜生メガネ】超お願いします

 

【吸血鬼】遠慮がねぇ!

 

【屍】だがそこがいい

 

 実際問題、物凄く時間かお金がかかる作業であるのには間違いないし、相手が気にするなと言ってくるのであれば気にしないのが一番―――というか日本人特有の遠慮します遠慮します的なアレに関してはこういう世界観、発揮している方が迷惑に通じると思っている。少し図太い程度が一番関係としては滑らかになるのだ。だから【死骨】に頼むと、オッケー、と元気な返事が返って来た。

 

【死骨】畜生メガネさん今どこにいるー?

 

【畜生メガネ】《語学》トレついでに図書館から繋いでます

 

【死骨】うわ、すっげぇ真面目さん……じゃあ今から迎えに行きますので

 

【畜生メガネ】畜生っぽそうなメガネがあればそれが私です

 

【ドッペル】どうしよう、凄い気になってきた

【ドッペル】畜生っぽいメガネってなんだ。気になるゾ!

 

【屍】やはりルーゼンか……俺も行こう

 

【先生】うわぁ、ノリがいいなぁ

 

【ネクロマン】まぁ、ここにいる何割かがクランの面子ですしねー

 

 本を閉じてそれを元の場所へと戻す為に立ち上がり、本棚の方へと移動して行く。クラン、それはギルドとはまた別のチームの様な繋がりだ。ギルドが商業的なつながりを重視したものであれば、クランはもっと親しい関係を重視した繋がりであると考えればいい。ギルドもクランもどちらも本質的には組織であるという事に変わりはない。ただギルドと比べればもっと緩い関係だとは言えるだろうと思う。

 

 あぁ、一般的なゲームでのギルド、チームに値するのがクランだ。

 

 ネクロマンサーのギルドはなかったが、プレイヤーが作ったネクロマンサーのクランは存在していたらしい。まぁ、正直マイナーなのは自覚があるし、こういうのはマイナー同士で集まって結成する物だから大体読めていた。そんな事を考えながら本の返却を終えて図書館から出る。片眼鏡を軽く持ち上げて、かけ直してからさて、どれだけ待つ必要があるのだろうか、なんて事を考えていると、

 

「―――畜生っぽいメガネいた……!」

 

 あ、これ確実に部屋の人だと理解できた。

 

 声の方へと視線を向ければ、そこにいたのは文字通り骨(・)だった。綺麗な白の骨が貴族の様な綺麗なタキシード姿をしており、シルクハットとケインを片手に立っていた。その見事な骨紳士な姿に、首を傾げ、

 

「……もしかして死骨さんですか?」

 

「おぉ、やはり畜生メガネさんでしたか。いやはや。なんかメガネで畜生っぽいのがいたらソイツだよ! って感じだったので期待してみたら見事にいい感じのアバタービルドしてますね? ネクロマンサーにしては少々服装が明るい感じですけど片目を隠しつつもう片目は片眼鏡を装着したその顔と実にマッチしてます。なんか、こう、鬼畜エリートって感じもしますなぁ! グッドです」

 

 カタカタ音を立てながらサムズアップをダブルで向けられる。

 

「あ。ちなみにこれ課金アバターです。基本的にプレイヤーの種族は人間固定ですがアバターで切り替えて遊べますよ」

 

「マジすか」

 

「ただしガチャ産」

 

「ガチャは殺す」

 

「グッド殺意」

 

 この人とは仲良くなれそうだと判断した。手を出し、握手を交わしながら名乗り、そして自己紹介をする。ネクロマンサー/錬金術師である事を伝えると成程成程、と納得する様に死骨はカタカタ音を鳴らしながら頷いた。

 

「あ、私はデス☆骨というのがキャラクターネームなんですが基本的に誰も呼んでくれないし自分もいつの間にかアンバランスさを感じてそう呼ばないのでハンドルネーム通り。死骨と呼んでください。見ての通り白骨の魅力に囚われてしまった一人の亡者です」

 

「言葉通りに?」

 

「Yes!」

 

 このノリいいなぁ! と思いつつも死骨が案内をし始めてくれる。

 

 

◆

 

 

 向かった場所は図書館からそう遠くはなかった。ルーゼンの端の方へと移動すると、到着するのは墓地だった。やや欠けた墓石が多くあるように感じられるが、死骨はここに到着した所で足を止め、振り返り、

 

「ここが我らのクランの入口でして、ぶっちゃけこれ、偽装用の墓地というか、本物ではありません。まぁ、地下へと行けばアンデッドは文字通り腐るほどあるんですけどね!」

 

「ゾンビとか酷そうですね」

 

「おかげで常に防腐剤が必要ですよ……」

 

 あぁ、なんかゾンビだから半永久的に無敵って訳じゃないんだぁ、という妙なリアリティを見てしまった瞬間だった。そうだよな、金属が疲労するんだし、骨だって疲労を覚えるのだ。それが原因で骨が折れる人間だっているのだ。スケルトンやゾンビだって腐ったり疲労で折れたりするのだからメンテナンスは大変そうだなぁ、と思った。アンデッドも無敵ではないんだよな、とも。そんな事を考えながら死骨に付いて行くと、やがて一つの墓石の前で動きを止め、ステッキで二度ほど台座を叩く。それに反応する様に墓石が台座ごと後ろへと向かって清らかに滑り、その下に隠されていた階段を露見する。

 

「この入口の作成だけに当時有り金を溶かしました」

 

「流石としか言いようがないです。だが気持ちは凄く良く解ります。やっぱネクロマンサーと言ったら墓場ですよね……」

 

「そう、そうなんだよ……そして基地と言ったらやはり地下基地が一番かっこいいんですよ……だから地下墓地型の秘密基地……いい……実にいい……このまま埋葬されそうって感じが更にイイ……!」

 

「完全にロマンに取り憑かれたゲーマーの鑑」

 

 ただこういう仕掛けを作ることが出来るというのはかなり羨ましい話でもある。死骨の後ろについて階段を下りて行けば、照明の代わりに松明が飾られている、地下へと続く階段が存在する。それを下りて行けば段々とその先に広がる世界が見えてくる。

 

 そこに存在するのは広い空洞だった。日本人だったらまず東京ドーム何個分、という感じで表現してしまいそうな広い空間は夜の闇を照らす月明かりの様な淡い光が光源となっており、それが暗くもしかし雰囲気のある空間を生み出していた。そこに存在するのは大量の墓石、そして奥に見える巨大な洋館だった。なんとも、ネクロマンサーの集いらしい場所だった。

 

「ようこそネクロマンサー専用クラン ニヴルヘイム へ」

 

「割と安直なネーミングですね」

 

「これから世話になる所に遠慮なく斬り込んでくるその無遠慮っぷりは実に素敵だねぇ! まぁ、こっちですよこっち。見た目は雰囲気づくりの為にぼろいですけど中は割と普通ですよ。流石にそこまで雰囲気作りの為にやっちゃうと拠点としてまともに機能しませんからね」

 

 ほう、と声を漏らしながらついて行けば、簡単に洋館へと到着する。死骨が触れるまでもなく扉はあっさりと開き、その内側に広がるホールの姿を見せる。そこには既に数人、プレイヤーと思わしき姿の人物たちが見える。神輿の上に座り、それをゾンビに運ばせているキチガイ、テンプレ的な吸血鬼の姿をしているキチガイ、そして女教師だった。

 

「お、確かにこれは畜生っぽい見た目してる」

 

「畜生氏こんー」

 

「ようこそ! そして跪け! 私がゾンフェチさんだよ! よろしくね!」

 

「ツッコミどころ多すぎて何から突っ込めばいいのかが解らない」

 

「まぁ、大なり小なりプレイヤーってそういう生き物だから」

 

「はい、じゃあかいさーん!」

 

「ビール飲もう、ビール」

 

「またかよ……」

 

「あ、お神輿つっかえた……」

 

 ほんとに一目見る為だけに集まったんだなぁ、というのが痛い程良く解る集団と対応だった。お前ら本当にそれでいいのか? 戸思いつつも死骨は楽しそうに笑っているし、これでいいのかもしれない。それじゃあ此方へ、と言われて洋館の中を案内されて行く。そうやって何度か廊下を抜けた先、案内された部屋は、

 

 アトリエだった。

 

 だがそこは自分が普段使っているギルドの無料アトリエなんかとは比べ物にならない程設備の整った場所だった。

 

 様々に薬品が棚に並び、中央にはほとんどなんでも製造できるとの話の錬金釜が。それ以外にも遠心分離機、濾過機、高級ガラス器具、それに錬金炉(アタノール)が、超大型冷蔵庫が、その他にも多くの装置や道具が揃っていた。見ているだけでよだれが垂れてきそうな光景だった、これはヤバイ―――超ヤバイ、最終的に自分が欲しいと思っている設備がここには揃っていた。なんという羨ましさか。

 

「マスターさんは錬金の人でいいんだよね?」

 

「えぇ、そうです。正直喉から手が出るぐらいに欲しい環境なんですがこれ」

 

「うむうむ。まぁ、防腐剤とか補強用のパーツやアイテムとかは大体錬金術で作成しなきゃコストがアホみたいにかかるからね。私達は大体ここで作成しているんですよ……と言っても大体はクランマスターが暇つぶしに作成しているんですけど」

 

 その言い方からするとクランマスターは死骨ではないらしい。それを聞いてみると、カタカタと音を立てながら死骨が笑った。

 

「えぇ、まぁ、墓場の王さんは今―――航海中ですからねー……」

 

「……え?」

 

 

◆

 

 

『―――砲撃用意ィ―――撃てぇ……!』

 

 号令と共に砲塔が連続で爆裂した。鋼の塊を打ち出しながら海上に出現した巨大な異形の怪物にそれを叩きつけて、海面から吹き飛ばす様に弾いた。その姿がまだ生きているのを確認して次の船団に砲撃を連続で指示する。次々と出現する巨大な異形の前に、幽霊船の砲撃の連射は一切止まらない。鋼は魔力によって即座に補充されている為、魔力が尽きない限りは無限に砲撃を続けられる。

 

『畜生、嵐のせいで全く見えねぇ!』

 

「ぼやく暇があったら砲撃するんだよぉ! そして探すんだよ! 次の大陸を!!」

 

『死人使いが荒いなぁ提督! だがそれでこそ俺の提督だ! はーっはっはっはっは―――!』

 

 まるでこれ以上海を進ませる事を阻むように海竜が、そして異形の怪物が出現する。それに対して使役する英霊船団で勝負を挑む。

 

「馬鹿野郎俺はアプデ前に次の大陸見つけるぞお前! 勝負だ運営!」

 

『はーっはっはっはっは! 砲撃! 砲撃! 砲撃ィ!! はっはっはっは―――!』

 

「オラァ! 砲撃ぃ! 砲撃ぃ! 砲撃するんだよおらぁ! 新手だぁ―――はっはっはっは!」

 

 

◆

 

 

「―――という訳でアプデ前に新大陸発見してくるわ、と新大陸を発見した事のある開拓者の英霊と共に海へと旅立ちしました」

 

「馬鹿じゃねーの」

 

 それしか言葉が思い浮かばなかった。悲しそうにそれを肯定する様に死骨は頷いた

 

「なんか、もう、連絡入れる余裕もログアウトする余裕もないらしくて既にリアル5日ぐらいノンストップでログイン航海中ですよあの人」

 

「キチガイも上には上がいるんだなぁ……」

 

「スポットライトを浴びていないだけでたぶんこのゲームでも三指に入るとは思いますな……まぁ、それはともあれ、アンデッドの素材をお貸しする代わりに少しいいでしょうか?」

 

 死骨がアンデッドの素材を貸し出す代わりに、防腐剤などのアイテムを作成して欲しいと頼んでくるが―――これはぶっちゃけ、取引でもなんでもないだろう。戦闘関連だけではなく、錬金術関連のスキルも同時に上げられるというチャンスだった。快諾すると向こうも嬉しそうに笑い、そしてアンデッドの一番簡易的な素材、

 

 つまりは骨を倉庫から出してくる。何の変哲もない、本当に普通の骨だった―――だがこれさえあればいい。これがあればアンデッドは作成できるのから。《死霊術》の初期スキルには《クリエイション:スケルトン》というものがある。人でもモンスターでも、動物でも、骨を触媒として利用する事によって最下級のスケルトンを生成する事が出来る。使わせてくれた骨はどうやらあの森、マッド・モンキーの骨だったらしく、猿型のスケルトンが作成された。

 

 このスキルで作成できる最大数は魔力数まで、つまり自分の魔力値であれば最大9体までを同時に使役することが出来る。

 

 ただ、骨は所詮骨だ。

 

「弱そう」

 

「実際凄まじく弱いです」

 

『肉壁にもならない弱さですね、これは』

 

 霊体のまま囁きかけて来るナイトの言葉に苦笑する。ぶっちゃけた話、今の自分ならレベル差の暴力で拳だけで倒せてしまいそうな程、骨猿は弱そうだった―――いや、実際それぐらいの強さしかないのだろう。だが強さはトレーニングに関係ない。やる事の効率を考え、死骨から防腐剤のレシピを受け取りつつ、流れを作る。とりあえず骨猿を9体一気に作成してしまい、

 

「よし、猿共貴様らは外で適度に殴り合え。ナイト、お前は壊れた猿が出てきたらここへと運んでまた外に送り出して来い。んで俺はここでレシピを何百回も読み直しながらひたすら錬金術を繰り返す」

 

『拝承しました』

 

 此方の言葉に従ってナイトがその姿を現す。鋼の姿を引きずるように骨猿達を外へと導いて行く。既に骨猿には互いに攻撃し合え、と命令を出しているから外に出たら命令を実行してくれるだろう。後は自分が錬金術で作業を開始するだけだ。改めて感謝する、と死骨に告げると、いやいや、と言葉を返される。

 

「初心者に優しくするのはこの界隈の基本ですしなぁ……それに先ほどのナイトさん? 実に見事な英霊だとも。将来的にクランに入団してくれれば文句なし、という感じで粉をかけているのですよ、……まぁ、クランの目的は育成し辛いネクロマンサーの補助なので、実際はこれがクランの活動とも言えるのですがね!」

 

「感謝以外の言葉がないっすわ」

 

「なら将来取り立てに行きますから!」

 

 はっはっは、とカタカタ鳴らしながら死骨は笑って去って行く。このゲームを始めてからいろんな人に助けられている―――何時か、恩返ししなきゃなぁ、と考え、それにはまずレベルアップとスキルアップだ。手札が少ない内はなにをやっても失敗ばかり、儲けもない。とりあえずはレベル100を目指さなくてはならない。レベル100、それは所謂凡(・)才(・)の(・)限(・)界(・)と呼ばれる領域らしい。

 

 どんなNPCもレベル100までは到達できるとか。

 

 現在のプレイヤーのレベルキャップが100なのも環境をインフレさせ過ぎない制限なのだろう―――そしてそのキャップが解除されるときはきっと、

 

「……まぁ、今はいいか。そんな事よりもトレーニングだ」

 

 《禁忌》と《隠蔽》にSPを衝動的に捧げてしまった以上、これから他のスキルに関しては割と真面目に節約できるだけ節約してランクアップさせないと、レベル100になってSPを使い切ってもスキルのマスターが終わっていない、なんて事になってしまうかもしれない。そうなると将来的なプランが致命的に拗れるので、色々とヤバイ。

 

 ―――ともあれ、作業開始だ。

 

 防腐剤のレシピを確認する。材料には毒性の物が多いのを確認する―――そういえばリアルで使うホルマリンも強い毒性を持った水溶液だったなぁ、というのを思い出し、軽くWIKIへとアクセスしてチェックする。ホルマリンはホルムアルデビドの水溶液―――駄目だ、専門的すぎてそこら辺は良く解らない。ただゾンビなどがメインの場合は防腐剤の調合で必須の知識なのであろうな、とは理解出来た。

 

 とりあえず人体に有害であるならゴーグル、マスク、手袋を装着する。ここら辺はちゃんと教科書や専門書でも読み込んでいる。イメージばかりに囚われてしっかり対策を行わない錬金術師はただの馬鹿で直ぐに死ぬ、と。ともあれ、材料をチェックする。

 

 ニルガリ毒草、ブルーゼリー玉、清水、ライレデ木の根、そして苔葡萄。

 

 毒草と苔葡萄を混ぜた際に一部毒性が気化する為、風によって換気を促すことが出来ない場合はマスクの着用が必須であるとレシピには書いてある。そこらへんの小道具は錬金術師には必須道具だったので、既に自分用の物をギルドの方で購入しているので、着用する事にする。

 

 まずは、作業工程を確認する。

 

 1.蒸留器を使って清水を蒸留水へ加工する。

 2.他の四つの素材を粉、或いは液状になるまで乳鉢で磨り潰す

 3.蒸留水4ブルーゼリー玉1の比率で混ぜる

 4.ニルガリ毒草1苔葡萄1の配分で混ぜる

   4の工程で毒性が気化するので注意する。

 5.3で出来た液体と4で出来た物を2:1の比率で混ぜる

   この時両液体の温度を70~80℃で固定する。

   詳細な温度のコントロールは錬金釜が一番行いやすい

 6.5で調合した液体に粉になったライレデの木の根を1リットル容量に対して

   1グラムの割合で混ぜる。

 7.ライレデの粉が完全に溶けきれば色が透明に変色するのでそれで完成

   エーテル値62~64にて防腐効果延長(小)の効果を確認

   エーテル値91~98にて防腐効果延長(大)の効果を確認

   エーテル値21~22にて防腐効果延長(中)の効果を確認

 

「……聞いた事のない素材ばっかりだなぁ。ワクワクしてきたな」

 

 蒸留水の作成も地味に初めてだ。だが確認した所、工程が多いだけでそこまで複雑という訳ではない。錬金釜も詳細な温度のコントロールの為に必要とする、という程度だ。別に必ずしも必要という訳ではないらしい。ただこれでもまだ中級に片足踏み込む程度のレシピらしいから、本格的に中級に踏み込んだ場合の必要とする道具や素材、工程の多さに驚かされそうだ。ともあれ、時間は無限なわけではないのだ。

 

 骨猿達も既に殴り合っているだろう―――自分も作業を開始する。

 

 レシピを慎重に確認しながら初めて触れる蒸留器で蒸留水を作成して行く―――予想よりも時間がかかるな、と考えながら並行して乳鉢を四つ用意し、それぞれで素材を細かく磨り潰す作業を行う。体力と筋力を優先して振り分けていて良かったな、と作業を始めながら思った。

 

 これは、体力も筋力も使うぞ。

 

 細かく磨り潰す作業は丁寧さが必要だし、焦れば飛び散ったりダマを作ってしまう。それに荒々しいと素材の中に内包されたエーテルを放出してしまい、加工された素材としての効力、品質を低下させてしまう。工程の途中にある温度調整はおそらく品質の低下を防ぐための物なのだろう。この先作業をする時は更に温度や状態の管理とかが追加されるのかと思うと、少し興奮してくる。

 

 蒸留水が完成した所でしっかりマスクとゴーグル、手袋、そして空調が生きているのを確認しつつ調合に入る。焦る必要はないし、レシピを確認しながらの作業だ。難しい事ではない。ちゃんとレシピ通り作業を行えばそう時間をかけずに最初の完成品が出来た。

 

 防腐剤 ランク:E エーテル値:63 製作者:マスター

  ステイン型の防腐剤であり、染み込ませる事で腐食を防ぐ。

  この防腐剤は死体を腐らせない事に特化したレシピとなっている。

  ・本来よりも多少防腐効果が長く続く。

 

「こんなもんか」

 

 完成したそれを四つほどの瓶に中身を移しながら、技術的には既に自分で作成できるラインにはあるな、というのが自分が今、感じた感触だった。鑑定して確認したアイテムのランクはE、という事は自分が今まで作成していた最下級の回復薬よりはワンランク上の難易度を保有するアイテムだと発覚した。防腐剤の作成はやや面倒であったが、問題はない―――このまま続けるのは可能だし、品質の向上も狙えるな、と正直な感想を抱いた。だけどこれは時間がかかる。かなりかかる。

 

 まぁ、WIKIを確認する限り、SP1でスキルのランクを上げたい場合、数日修練する事が前提とか描いてあった気がするし、これはこれでしょうがない事なのかもしれない。

 

 まぁ、環境に恵まれている分、文句を言う権利はないだろう。

 

「……うし、電気を消して《夜目》もついでに鍛えるか―――」

 

『マスター。最初の犠牲者を運んできました』

 

「うむ、ご苦労」

 

 ナイトが残骸となった元骨猿の姿を運んでくるのを確認しつつ、軽く息を吐いた。まぁ、考えるのは後だ。《闇魔法》と《光魔法》で回復と支援を行いつつ再びナイトと復活した骨猿を送り出す。どんなVRMMO系列のゲームは基本的にレベリングやスキルのランクアップには数日はかかるものだと聞いているし、こういうのは深く考えてはいけないのだ。そう、なるのだ。

 

 社畜の心に。

 

 休みを考えず、ただひたすら働いて働いて休みに働く。それを永遠に繰り返す。この心をアンデッドにしてひたすら作業をして自分を鍛えるのだ。

 

「その果てに栄光のマイ・アトリエが待っていると信じて―――!」

 

 これから満足できるまで、ノンストップ作業の修羅道に入る。数日でも数週間でも、ノンストップで働き続ける日本人の社畜スピリットをここに―――。

 

 

◆




 Name:マスター
 Level:41
 Status:
 AP:195/195
 筋力:50 魔力:9 敏捷:40 体力:100
 Title:【錬金術師:下級】 【Evil】
 Skills:
 SP:143/161
 《死霊術:C》 《テイミング:D》 《魔力強化:C》 《鑑定:C》 
 《計量:D》 《魔力操作:C》 《闇魔法:E》 《語学:E》 《光魔法:E》 《識別:C》
 《投擲:D》 《夜目:D》 《号令:E》 《薬学:D》 《付与術:E》 《魔眼:M》
 《禁忌:E》 《隠蔽:A》
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