「―――良し、ここ最近で一番の出来だな」
完成された防腐剤に《審美眼》のスキルを使う。
防腐剤 ランク:E エーテル値:96 製作者:マスター
ステイン型の防腐剤であり、染み込ませる事で腐食を防ぐ。
この防腐剤は死体を腐らせない事に特化したレシピとなっている。
EX:毒性が非常に強く生物に使う事はオススメされない、非常に良質である
・本来よりもかなり長く防腐効果が続く。
・これは損傷から保護する。
・高品質によって効果が高められている。
・損傷した時に徐々に修復を行う。
「あー……ここまで完成度を高めるのに苦労したなぁ……」
「いや、ほんとここまでやるとは思いませんでしたよ。助かったのは事実でしたけどね」
「あ、死骨さん」
こんちわ、と片手を上げながら挨拶をするが、そうやって挨拶を向けられた死骨の方に顔を向ければ軽くドン引きしている様な、そんな表情を浮かべていた。ただそれを気にする事もなく、サムズアップを向けながら完成した防腐剤を納品する。そのクオリティを見てまた呆れられながらも、軽く笑い、そして何もない骨の双眸で此方へと視線を向けて来た。
「マスターさん、アトリエに籠って何日が経過しました?」
そうですねぇ、と呟きながら腕を組み、軽く首を捻ってどれだけアトリエに籠ったのかを考える。まぁ、ログアウトを何度か繰り返しているのは覚えているし、ナイトにメシを持って来させるために何度も外へとマラソンさせたのも覚えている。だけどなんというべきか、記憶がだいぶ曖昧なのだ。というか日にちの感覚が凄い薄い。覚えているのはひたすらスキルのランクを上げ続けた事と、スキルを上書きした事等、そういう事実ばかりだ。だからうーん、と唸りながら、首を傾げ、そして、
「―――思い出せません」
「2週間ですよ」
物凄く強調する様な声と共に死骨が言い放った。あぁ、なんだ、それだけの時間が経過してたのか、と苦笑しながら認識する。2週間、たった2週間かぁ……思ったよりも早くここまでレベル上がったなぁ、というのが素直な感想だった。いや、まぁ、そのほとんどはこのクランが素材を提供してくれたおかげだから物凄く助かっているのだが。あぁぁ、と長く続くような声を漏らし、
「もうそんなに経過してたんですか……」
「ぶっちゃけた話、ここまで籠られるとは一切考えていなかったんですけど」
「いや、だって期限とか制限とかなかったんでもうこれは遠慮なしにやり続ければいいんではないのか? と思ってしまいまして。その代わりに最高品質の防腐剤を量産したのでそれで許してください」
「ゾンフェチさん辺りはめちゃくちゃ喜んでるし私は別にいいんですけど……いや、まぁ、ほんとここまで引っ込むとは驚きでしたわ。私達もちょくちょく冒険に出かけたりでここから出て行っているんですけど……マスターさんは出て行かないのですかな?」
「え、自分が金を出していない最高の設備を自由に使えるのに使わない理由ってあるんですか?」
「うーん、この畜生論」
はっはっは、と笑いながら自分のステータス画面を開く。2週間というこのゲーム時間、リアルで言えば約4日と十数時間の話だ。ひたすらこの地下アトリエを借りて籠りっぱなしだった。好意に甘えるどころかそれを滅茶苦茶利用する形になってしまったが、それでも作業はかなり捗った―――お金以外の事に関しては大分進んだ、という明確な感触が自分にはあった。それをステータスを確かめながら確信する。
Name:マスター
Level:56
Status:
AP:265/265
筋力:70 魔力:29 敏捷:70 体力:100
Title:【錬金術師:初級】【Evil】【ネクロマンサー】
Skills:
SP:196/203
《死霊術:S》 《テイミング:S》 《超魔力:E》 《審美眼:E》
《エーテル干渉:E》 《闇魔法:B》 《語学:B》 《光魔法:B》
《投擲:C》 《号令:B》 《薬学:A》 《付与術:B》 《魔眼:M》
《禁忌:S》 《隠蔽:S》 《邪眼:E》 《使役術:C》
まずレベルが41から一気に56まで上げられた。いや、一気にではないか。上がった幅はほとんど最初の頃が1日の2レベル、後半からは1日1レベル程度の上り具合だ。最初は上がりやすかったレベルも段々とだがスローペースになり始めた。それに伴いSPやAPもなかなか手に入り辛くなってくるだろう。とりあえずメッセージログを2週間前までさかのぼりつつ自分のステータスへの変化を確認する。
まず能力値に関しては魔力以外これでほぼ完成と言えるレベルだ。少なくともレベルキャップ100の状態で、これ以上筋力と体力を上げるつもりはない。敏捷は状況次第、後は錬金術とネクロマンシーの為に魔力を集中的に上昇させたいという所だろう。現在の魔力は29、つまり最大29体までの雑魚アンデッドを使役することが出来るが―――まぁ、ここら辺実は興味ない。重要なのは魔力が増えれば増えるだけ、錬金術作業をもっと効率的に、そして強く行えるという事だ。何よりナイトにも回せるリソースが増えるという事だ。
次にスキルの変化。《鑑定》と《計量》と《識別》が組み合わさり、その三つを上書きする様に《審美眼》を習得した。このスキルに関しては材料に使ったスキルの効果をそのまま組み合わせて進化させたような効果をしている。《鑑定》等のスキルではどういうものなのか、という程度までしかわからなかったが、《審美眼》になった事でその物の価値が解るようになった。具体的には市場に流す場合の現在の適正価格を把握することが出来る。
《超魔力》は《魔力強化》を発展させたスキル、《エーテル干渉》は《魔力操作》、そして《
更に良くWIKIを探っていけば《禁忌》スキルの存在を発見することが出来た。
《禁忌》のスキルは一種のアンロックキーとも言えるスキルだった。
獲得し、ランクを上げる事によって本来は習得できないスキルへのルートを開拓させることが出来るのだ。だがその大半が外法とも呼べる、正規のルートからは外れたデメリットが存在していたり、疎まれるようなスキルだったりする。アンロック条件もそこまで難しい事ではなく、
つまり自分の場合、あの悪魔が女を犯し、そして融合するところを見たアレが原因なのだろう。
割と条件ゆるゆるだなぁ、と思いつつも所持すること自体がある意味反社会的なサインであるらしく、保有する事を決定した場合は最優先で隠す事がプレイヤーには求められるらしい―――でなければ、おそらくまともに街中で活動する事は出来ないとも。そういえば闘技場の管理者たちが技能やレベルを見抜くような事をやっていたし、あんまり近づくのは止めた方がいいな、と思った。まぁ、ネクロマンサーなんて禁忌に触れてナンボだから個人的にやっちまった、という感じはあまりしない。
ともあれ、続けて新しいスキルは《邪眼》だろう。これも《禁忌》がアンロックキーになっていた。《夜目》を上書き発展させ、《魔眼》もアンロックキーの一部だった。その効果はシンプルで視線を合わせた存在のエーテルへと干渉する事が可能になる、というスキルだった。なんだかスキル構成がドンドン悪役というか邪悪というかそっち方面に踏み込んでいる自信があった。ちなみに最後の《使役術》は割と普通のスキルであり、《テイミング》の派生スキルだ。
WIKIでは《禁忌》系統の発展スキルの情報を募集中だし、これはこれで面白いから情報提供者として頑張るのも悪くはない、と既に考えていた。
まぁ、街中に居られないならここに引きこもればいいし。
「なんか今おかしなことを考えませんでしたか?」
「いや、もう、このままなし崩し的にクランに所属しちゃおうかなぁ、って。ひたすら引きこもって錬金術に没頭できるのが素敵すぎるんで」
「や、もう、なんというか一週間ぐらい前には所属しているって認識だったので別に構わないんですけどな」
これでクランへの加入と正式にこの設備が使えるようになった―――とはいえ、やはり自分専用の設備が欲しい所だ。やはり資金稼ぎをして自分用の設備をどうにかして用意しなくてはならないだろう。その前にまずは、Sランクに上がったスキルをMにする作業だ。このまま作業を続行すると流石にスキルを発展させることが出来ないので非常に勿体ない。
「んー……ふぅ、じゃあ久しぶりに地上の世界でも確認しますかー」
「隠者的発言ですな。まぁ、私はとりあえず他の皆に報告しておきますので、出入りは自由で良いと思いますぞ」
「ういーす、どうも」
利用できるものは何度も利用するかねー、なんて事を考えながらとりあえず、日光を浴びに行く事にする。
「―――ぐわぁぁ、光に焼かれるぅ……!」
『マスター、まるで悪魔の様な発言を』
「遊んでるだけだから許せ」
ふぅ、と息を吐きながら墓場から空へと視線を見上げれば、爛々と輝く太陽の姿が見えた―――実に眩しい。2週間ぶりの地上だと思えば、まぁ、納得できる眩しさでもある。しかし2週間籠った程度では下位とも基本とも呼べるスキルを全部Sまで持っていけなかった辺り、このゲーム、スキルの修練はかなり時間と労力が必要になるというのが解った。ここからスキルの修練は更に時間がかかりそうだ。2週間でこれなのだから、次は月単位だろうか? まぁ、今は夏期休校中なので数か月の余裕はあるのだが。
とはいえ、MMOだけではなくゲームというものは
レベル100が凡人の限界、という事は100レベルあればある程度は安全に旅が出来るという事でもある。安全の基準ラインとも取れる。つまりレベル100になって漸くスタートラインだと判断するべきなのだろう―――少なくともレベル100を超える存在はこのゲーム、そこそこいるらしい。まぁ、それはそれとして、今はやる事がある。WIKI片手に情報を調べつつ進めなくてはならない事が。
「さて―――クエストだなぁ」
『クエスト、ですか』
ナイトの疑問に頷く。スキルのランクはSが最上ではない。Masterの意味でMというランクがSの上にある。そのMランクへとスキルを上げるにはクエストを受諾し、達成しなくてはならない。そうする事によってMランクへとスキルを上げることが出来る―――最上位関連のスキルは基本的にMランクにしなくては獲得できないらしい、とはWIKI先生のお言葉だった。
「現状俺がMランクを目指すスキルは《死霊術》と《テイミング》と《隠蔽》だ。《禁忌》もMを目指せるからこれもMを目指したい。そうすればその次が見える筈だ。その後は《使役術》をSまで上げて再びMランククエストを終わらせて目標のスキル獲得だ―――」
本当なら《闇魔法》と《光魔法》のMランク化を目指したいが、現状Bまでしかランクを上げきれていないので、タイミング的には《使役術》と同じタイミングになるのではないかと思っている。まぁ、それは先の話だから問題は今あるスキルのM化だ。此方をさっさと終わらせて次のスキルを取得したい。
『そう言う話を聞いているとマスターが本当に別世界の人間である事を自覚しますね』
「まぁ、そういうもんだからな―――さて、どうするか……」
何が問題って、スキルそれぞれにクエストが存在するので《死霊術》、《テイミング》、《禁忌》、《隠蔽》全部バラバラのクエストをクリアする必要があるのだ。しかもこれ、地域や状況によって発注元が変わってたりする、と既にメジャーなクエストであれば20パターン近く別の派生が確認されている。基本的にクエストで発生するという点は守っているが、人によって進行方法は大きく変わっていたりする。となってくると、
―――俺用のクエストの始め方を見つけなきゃいけない、って事なんだよな。
クエストは突然発生する物ではない。誰かに頼まれたり、自分で困っている人を見つけたり、売り込んだりすることで発生するものだ。プレイヤー同士でしか交流していない中でクエストが発生する訳がない。つまり俺自身がNPCと接触し、クエストを発生させる条件を満たさなくてはならないのだ。
その為、まずはクラン本部から出なくては意味がない。その上で誰かと交流、或いはクエストの発端になりそうな出来事を見つけなくてはならない。だが残念ながらそういう事に関する
何と言ったってずっと引きこもって錬金術をしていたのだ―――ほぼ引きこもりだ。
「という訳でだ、ナイト。どこか、或いは何か案がないか?」
『案ですか? ……そうですね』
経験のある者―――今はほぼ記憶喪失だが、ナイトに聞いた方が万倍マシだろうと判断し話を振ってみる。それを聞いてナイトはそうですね、と鋼の首を傾げて、
『知識が欠けているのであまり詳しい事は言えませんが、自分の場合は
成程、話しは通る。それでクエストを発行できるのはNPCだけだ。だからNPCで、自分のスキルに関連する人物を探せばいい、という事なのだろう。こうやって考えてみるとそこまで難しい話ではないな、と気づかされる。だから後はその人物を探すだけだから―――そうだな、ここは長い間訪れる事もなく、利用しなかった施設を利用する事にしようと決める。
『決めたみたいですねマスター』
あぁ、と答える。
「―――冒険者を利用するさ」
―――冒険者。それは社会の底辺の者。
ゲームでの冒険者の立ち位置と言えば主人公、なんでもやる連中、或いは主人公や物語の進行役である。自由が利く立場は動かしやすいのかもしれない。だが実際の所、冒険者という存在は大半が食い詰めの元傭兵等で、全体の一割、或いは二割だけが物語でよく見るような優秀で綺麗で、ロマンを求めて冒険者をやっている。冒険者とは最後の砦、のような物なのだ。
日本で言えばハローワークに近い。
基本的に
そんな冒険者に依頼をしに行く―――おそらくこれが一番探すのが簡単な方法だからだ。
なんでも屋の側面が大きい冒険者という連中は軽く評判を調べれば簡単に名前が挙がってくる。その評価が彼らにとってのメシの種なのだから当然だ。だからここら辺で信用できる冒険者の宿、つまりは達成率の高い所を幾つか聞き込み、信用の出来そうな所を選び、行く。
その結果ルーゼンの中でも有名なのは 銀の蹄亭 と呼ばれる宿だと分かった。遠慮する理由も迷う理由もないので早速向かってみれば、昼間から既に盛り上がっているのが遠巻きからも解った。銀色の蹄が描かれた看板をぶら下げる宿の中に入れば、オーソドックスに一階部分は酒場として開放されており、それとは別に依頼を張り付ける為の掲示板など、冒険者に配慮した構造をしているのが見える。カウンターの向こう側にいるのは目元を隠すハーフマスクを被った男ではあるが、それ以外の店員は若い制服に身を包んだ女性たちだった。
どうやら酒場としても機能しているらしいが、其方方面でも信頼があるのかもしれない。そんな事を考えながらフロア部分を抜けて奥、店主なのだろうか? 仮面を被ったいかにも怪しそうな男の前に立つ。
「すまない、店主か? 依頼を出したいのだが」
「ふむ、見た事のない顔だな―――ならば宜しい、一番最初にシステム的な話をするが宜しいかね?」
「頼む」
やや芝居がかってはいるが、言葉に嫌悪感の類いは感じられない。寧ろ面白いとすら感じる。目の前に座ってくれと言われるので素直に着席し、適当な飲み物を頼んでおくことにする。これぐらいのサービスは良いだろう、場合によっては何度も利用する可能性があるのだから。仮面の男はゆっくりと礼を取った。
「始めましてお客人よ、私の名はペルソナ。ここ、銀の蹄亭の主をさせて貰っている者だ。一体誰が明日を明るいものだと決めた? 盲目的にそこに未来があると信じるのは些か愚かではないか? ならば我々人類が開拓する者として明日に火を灯さなくてはならない。その手伝いをする為に私が、そしてここにいる冒険者たちがいる。改めてようこそお客人、銀の蹄亭へ」
「錬金術師ギルド所属のマスターだ、よろしく頼む店主」
運ばれてきたミルクの入ったグラスを受け取り、それに口を付ける―――感じる甘味ははちみつの物だろうか? かなり美味しい。依頼前に酒を入れたくはないし、これは丁度いいのかもしれない。そう考えながらペルソナと握手を交わす。
「銀の蹄亭では私が依頼を吟味し、そしてそれを確実に達成できるであろう冒険者にのみ斡旋する。その為、依頼の達成は余程何らかのアクシデントでも発生しない限りは確実だと言ってもいい……だが確率は常に100%ではない事を留意して欲しい。不確定要素が存在すればこそ、この世の中は面白くあるのだから」
「確かにそれは真理だが依頼する側としては泣けるな」
「然り、だからこそ困難に当たっても達成できる人材とは重要な物なのだ。それでは依頼者よ、その願いを語ると良い。私がそれにふさわしい依頼料を設定しよう」
ふむ、と呟く。依頼料―――まぁ、金は問題ない。実はニヴルヘイムのアトリエで作業している間、こっそり金策用に下級回復薬の調合も行っていたのだ。それをナイトに何度か売りに行かせて、それでレックへの服装の返済に充ててたのだ。だから借金した10万ゴールドとは別に、現在個人資産で8万ゴールド程自分で稼いでいる。2週間という期間としては非常に少量と断言しても良い。最大の理由は防腐剤の作成に情熱を注ぎ込みすぎた事なのだが。
ともあれ、ペルソナに告げる事にする。《死霊術》、《テイミング》、そして《隠蔽》の
「確かに闇雲に新参の異邦人が走り回って探すよりは地元を知る人間に仲介して貰った方が遥かに効率的だろう、実に合理的だ」
そう言葉を告げ、ペルソナは答えた。
「あい、解った。《死霊術》と《テイミング》に関しては依頼として受けよう。《隠蔽》に関しては心当たりがある為、探すまでもない。情報料さえ払ってくれるのであれば即座に紹介しよう」
「本当か、それは運がいいな」
それからペルソナに依頼料を聞かされる。探すのに一度目の報酬を、そして仲介に追加料金、という形だった。値段に関してはそんなに高いものではなかったらしい。ルーゼンが大きな町であって多く歩き回る事は予想されるが、それでも命の危機でもなんでもないし、必要なのは交渉技術と運である為、そこまでハードルの高さは求められていないからだ。その為、《隠蔽》をMまで鍛えられる人の人物の情報料を含め、依頼料はトータルで6000ゴールド程度で済ませることが出来た。
ついでだから素材の探索と取得に関しても依頼する事にする。ニヴルヘイムの素材を借りて自分の錬金術をする訳にもいかないし、まだまだ手持ちのお金には余裕があるし、幾つか試したい調合や作成があるのだから、素材の獲得を頼む事にする。其方はやはり戦闘の危険などが存在するものもある為、そこそこ値段がかかり始める。一時間ほど値段や何を取ってくるべきかをペルソナと相談し、商談を完了させる。
その結果、トータルで出費が5万程になる。
だが鉱石や狙ったモンスターの素材に関してはやはり直接依頼するのが手っ取り早い。ラインナップは記憶している為、錬金術師のギルドでは手に入らない中級用の調合アイテムの採取を依頼し、そこで交渉が成立する。継続的に金策し続けないとキツイなぁ、とは思うが思い出せば現在解放されている上位深度のダンジョンに潜れば1周5万だったか、そこに潜れるようになれば確かに黒字だろうなぁ、とは思った。ともあれ、やっぱり戦う事よりも生産できる奴の方が遥かに偉いし社会の役に立っているから冒険者なんかよりも人気なのだろうが。
「それでは早速話を通してくる事にしよう」
「頼む」
「では依頼人よ、希望し待つが良い」
そう言うとペルソナはまるで日に当てられた闇の様に掠れて消えた。咄嗟に発動した《魔眼》の効果によってペルソナが消える寸前にその姿を闇属性のエーテルへと変質させているのが見えた。自分の体内の属性そのものを変化させる事で闇と同化する性質を得た、という事だろうか。失敗すればそのまま影だけになって自我まで消えてしまいそうなものだが―――そこら辺が達人と呼ばれる所以なのかもしれない。ペルソナ、アレは間違いなく強いと今の動きで解った。
『おそらくレベルは150以上は確実にあるでしょう。現時点では戦いたい相手ではありません』
「まるでその内倒せるようになるって発言だな」
『相対する事を考えた際に本能的な恐怖を感じない相手でした。となるとおそらくは昔の私であれば殺せたかと』
流石英霊級―――今はこんな風に劣化してしまっているが、本来であれば自分の様な雑魚についてくるような器ではないのだろうと思う。まぁ、それはそれ、これはこれだ。今は自分に忠誠を誓う下僕だ。散々使い通して離れられない様に縛り付けるしかない。こんな手駒を手放すことが出来るものか。そんな事を考えている内に、ペルソナが一人の男を連れて帰って来た。
黒髪のペルソナとは変わり、此方の男は色素が抜け落ちたような白髪だった。片目を眼帯で隠しており、マントで上半身をすっぽりと覆って隠している。ただ内側のふくらみが小さくだが見える―――レンジャーかスカウトの類いだろうと、緑に同化する様な色の服装をと恰好を見て憶測する。その男の登場に一旦席から立ち上がる。
「彼はディークだ。《隠蔽》のみならず様々なスカウト、レンジャー、シーフ関連の技能を取得している人物だ」
「よぉ、坊主。スキルをM化させたいんだってな? おい、ペルソナ。酒だ。酒を持ってこい」
「奢りましょう」
「話が分かるじゃねーか。そういう奴は嫌いじゃねぇぜ」
どっこいしょ、と声を零しながらディークが横の席に座るので、自分も座る。さっそく運ばれてきたエールにディークは口を付け始める。酒はおいしそうだが、流石に昼間から飲む気にはなれない。何より交渉中だし。はちみつ入りのミルクをペルソナに頼み、それを受け取りながら視線をディークへと向けた。
「それで、話を進めても良いでしょうか?」
「おう、いいぞ」
「《隠蔽》をMランクへとあげる事が出来ると聞いたのですが」
「あぁ、出来るぜ。俺にかかればちょちょいのちょい、っとな。だけど、まぁ、そういう話に入る前に質問をするけどよ―――お前、ランクのSとMの間にあるもんってなんだと思うよ」
その言葉にそうですね、と間を置いてから答える。
「……習熟具合だと思っています。どれだけそのスキルに精通しているか、どれだけ使いこなすことが出来るのか、とも」
「顔同様可愛げがねぇなぁ! もっとそこはアホの子を演じる所だろう! せんせー! 解りませーん! 的な感じに」
「イケメンですみませんねぇー」
軽く笑い声を零し、ディークの言葉へと耳を傾ける。
「いいか、スキルってのはランクだけじゃねぇ。使えればそれでいいって訳じゃねぇんだ。ランクが上がればいいって訳でもねぇ。いいか、スキルってのはSまではSPを捧げれば上がるってもんだわ。才能次第でレベルの上限が俺達にはある。そしてだからこそSPも限られている。才能を数値化したのがSPだとか言われているんだ……だけどな、Mランクってのはただ単純にランクを上げたって訳じゃねぇんだ。
ぶっちゃけな、とディークは言う。
「
じゃあその条件はなんだ? とディークは口にする。そしてそれはもちろん、
「正しい知識、正しい使い方、その基本、基礎、そして応用。それらが出来て漸くマスターした、って言えるんだよ」
「成程、そういう事でしたか」
プレイヤーの場合クエストという形でMランクへと上がる事に必要な知識や使い方を覚えるのだ。ランクばかりを上げて育てていたプレイヤーの足りない部分、知識や技術面をそうやって伝え、教え、そして終わったころにはMへと至らせる様にシステムが出来ているのだ。簡易式の職業訓練とも取れるのかもしれない。
「初期や基本的なスキル程簡単だから《隠蔽》ともなりゃあ半日もあれば俺がMランクを目指すのに必要な知識と技術を教えてやる。値段は1万ゴールドぽっきり! どうだ?」
ディークのその言葉に対して、軽く頭を下げる。
「よろしくおねがいします」
「良し来た。これでしばらくは働かずにいられるぜ」
ディークのその言葉に苦笑するが、仕事と決まった途端に飲むのを止めた辺り、真面目に働くつもりがあるはあると見えた。それ故にそれ以上心配する必要もなく、ミルクだけを飲み干して早速授業を始めて貰う事にした―――文字通り、時は金なり。浪費している時間働くことが出来れば、その間は金を稼ぐことが出来るのだ、
―――お互いに。
《隠蔽》というスキルはただ単純にステータスなどを隠すだけの効果があったわけではない。実際にその道のプロフェッショナルに指導されながら使用して見れば、まるで出来る事が違うという事が解った。たとえば装備、《隠蔽》を発動させながら隠せばある程度派手に動いたとしてもスキルの補正によって看破系統のスキルが存在しない限りは気付けない、という効果が発生する。自分は主にスキルを隠す事に全力を費やしていたが、本来はそう言う風にデータを隠すスキルではなく、体術や装備などを隠し、奇襲等を行う為に使うスキルに近いらしい。
そういう基本的な知識が抜けている事は大いに認めるしかなかった―――スキルをMランクにするとはそういう事だった。理解し、そして十全にその機能を発揮させるために習熟する。そうする事によってSランクはMランクへと上がることが出来るようになる、その選択肢がスキル画面に出現するのだ。無論、Mランクまで上げなくても別のスキルへと発展させる事も出来るが、Mにする事で2ランク上のスキルへと発展させたり、特殊なスキルの要求だったりする為、割と重要だったりする。
とはいえ、あまり専門外のスキルもMランク化させようとすると、最終的には覚える事でパンクしてしまう為、系統を一本に絞ってやるべきであると理解させられた。何でもかんでもMランクが目指せるのは序盤、そして終盤のみ。その間は一々M化を狙っているとその作業量で死ねるというのを身に染みてよく理解した。
そしてそのレッスンと共に、自分が他のスキルがM化に至らない理由も良く理解した。
《死霊術》に関しては基本的にナイトの運用以外を考えていない。《テイミング》に関してはモンスターを捕まえるどころか《死霊術》で作ったアンデッドを強化する事にしか使っていない。《禁忌》に関しては完全にノリと趣味でSPをぶっこんだだけだ―――そもそも禁忌に触れるような事は何もしてない。というか禁忌に触れる、という事がら自体よく理解していない。此方に関してはまぁ、向こうからクエストがやってくるまで待つしかあるまい。
ともあれ、ディークの解説はその見た目に反して実に解りやすく、そして陽気なものだった。解りやすく紙に書いたりして説明を行い、簡単に実践する為にダンジョンに潜って試し、宣言通り半日が経過する頃には《隠蔽》の極意とはいかなくても、コツみたいなものは掴めていた。システム的にはそれで十分だったらしく、スキルを確認すると《隠蔽》のランクをSからMへとあげる事が可能となっていた。
迷う事無くランクをMへと上昇させ、契約が完了した。ディークに1万ゴールドを支払って依頼が完了する。ついでに《隠蔽》を上書きする形で発展、上位スキルである《ミスディレクション》を取得する。此方のスキルとしての効果は意識をズラすこと、意識させない事、そういうスキルだった。上位、或いは発展系のスキルは前身のスキルを内包する為、上書きしても忘れた形ではない。つまり《ミスディレクション》は《隠蔽》を内包しているのだ。だから引き続き《禁忌》を隠蔽しつつ、ミスディレクションによって意識し辛くする。
―――とはいえ、看破、解析系の達人がいたら簡単にバレそうなので、あまり堂々と人前で歩く気にはなれないが。
夕暮れが見え始める頃には1万ゴールドを支払ってディークと別れた。ランクがMになった以上、それ以上付き合う必要も付き合わせる必要もなかったからだ。使っていた場所も深度1の前アイザックと共に利用した森のダンジョンだった為、あっさりとルーゼンまで戻ってくることが出来た。
「割とあっさりとMランク化出来た事に驚きを隠せない」
『まぁ、そんなものですよマスター。上位とも呼べる様なスキルならともかく、今のスキルはまだ初期の物ですから難しい事はない筈です』
ナイトの発言通りなのがちょっと悔しい。しかしこの感じだと、《死霊術》や《テイミング》の方も講師を雇って訓練すればあっさりとMランク狙えるな、と思えた。だが目的のスキルには他にも魔法のランクを上げたりする必要もあるし、数日中にどうにか、というのは少々無理かもしれない。特に《禁忌》に関してはどうも、なんて事を考えている内にルーゼンに帰還する。
夕暮れ時のルーゼンは人々が忙しそうに歩き回っているのが良く見える。活気あふれる港町は常に違う人の姿を見せている―――見ているだけで飽きないな、と思えた。とりあえず《隠蔽》をMにして次の段階へと進むことが出来た。まだ依頼が完了すると指定された日時までは余裕もある。となると金策の為に軽く錬金術でもした方がいいのだろうか? 錬金術師のギルドで素材を買い込んで、金策の為に錬金術をするか、と決める。
ギルドへと向かって歩き出そうとしたところ、正面から誰かが軽くぶつかってきた。その時、懐に軽く手が入るのが見えた。
「お前―――」
振り返りながらぶつかった相手を探そうとするが、そこに人の姿は一切なかった。なにか盗られたか? 追いかけるよりも先に懐の中に手を伸ばせば、そこに新たな感触があるのに気づけた。それを掴み、引き抜いてみれば、
そこには金色の装飾が施された封筒が入っていた。その封筒には、《語学》のスキルがないと読み取れない複雑な文字でこう書かれてあった。
『どうやら探す必要はなくなったようですね』
「飛んで火にいる夏の虫……と、言いたい所だが―――」
これはシステム的に補足されてしまっているのだろうか? それともどこかでスキルを看破されてしまっているのだろうか? どちらにしろ、封筒を開けて手紙を確認する必要があった。《語学》スキルがないと内容を読めないという事はここで開けても別に大丈夫そうだが、少しだけ考えてから路地裏の方へと進み、マントに付随したフードを被って顔を隠しつつ、封筒を開けた。肌触りのよい便箋には不思議に輝く赤い文字で、封筒と同じ言語で言葉が書かれてあった。
その内容は難しくはなかった。禁忌を直視する道を選んだ新たな同朋に先達として道を教えよう、という手紙の内容だった。それを読み終わるのと同時に、
クエストの開幕を告げるアナウンスがホロウィンドウと共に出現した。つまり《禁忌》をSにし、そして同時に何らかの条件を満たした為に《禁忌》のM化クエストの受諾条件がそろった、という事なのだろうか? ……いや、まだ安心するには早い。手紙の中には深夜、先達として道を教える為に、そしてその対価を受け取る為にとある場所へと来るように、と書いてあった。それを読み終わってから闇魔法を発動させ、生み出した影の手に手紙を飲み込ませ、腐食し、欠片も残さない様に処理した。封筒と便箋を始末した所でさて、と声を漏らした。
「どうしたものか……」
『間違いなく誘われています』
そこだ。そこには間違いがないのだ。《禁忌》の先達、システム的に考えると間違いなく悪魔側の連中、或いは悪魔そのものだと思う。そう言えば自警団の青年が内部からの手引きがあったとかなんとか発言していた気がする―――つまりはそういう連中もまた可能性があるという話だ。まぁ、それでも求めていたクエストなのだから。ぶっちゃけある程度独学でM化が狙えるというのは判明したが、それとは別に《禁忌》のM化ってなに? 人体実験をしろって事なの? という意味不明な状況なので、ぶっちゃけクエストを受諾し、遂行する以外の選択肢が自分には存在しないのもまた事実なのだ。
実に悔しい話だが自分には選択肢というものがないのだ。まぁ、待ち望んでいた、と言ってしまえば待ち望んでいた事でもある。精々準備をしてしっかりと向かうぐらいだろうか、自分が出来る事は。そこまで考えた所で、頭が回り出す。
「―――ふむ」
小さく呟き、そして笑みを浮かべた。その姿にナイトがマスター? と声をかけて来たので答える。
「いやぁ……最近畜生らしいことやれてないのは畜生メガネの名折れだからね?」
だから、まぁ、なんというべきか。
「―――少しばかり戯れようか」
夜中の港には全くと言える程に人気が存在せず、停泊された船の中からは僅かな灯が存在する。それらはおそらく船が盗まれない様に見張っている船番なのだろう。だがそんな船が停泊している部分から放れて倉庫街へと近づけば、完全に光が消えて、そして人の気配等も消え去る。こうなってくると完全に無人なもので、昼間はあんなに騒がしかったのに、夜となると不気味と表現できる程に一切の人影を見せず、夜の闇が完全に世界を覆い尽くしていた。
そんな倉庫街の一角が待ち合わせに指定された場所だった。
今は既に《邪眼》となってしまったが、それでもその中に《夜目》のスキルが内包されている。その為、この暗闇の中でもまるで明かりがついている様に世界が見える。まるで夜行性の動物にでもなったような気分だったが、便利である為文句を口にする事もなく倉庫街を進んで行く。
やがて倉庫街の隅にひっそりと佇む一つの倉庫を見つける。確認すればその中へと通じる扉は開いている―――既にステータスで大幅にブーストされている今の身体能力であればたとえ鍵がかかっていても開ける事は難しくはないが、そこはそこ。周りへと視線を向けてから静かに中に入る。やはり倉庫の中にも光はない。だが索敵スキルがある訳でもないが、自分でも確実に
そんな夜闇に包まれた倉庫の最奥に一人の男が立っているのが視えた。紳士服姿の男は闇に同化するように輪郭が曖昧で、10メートルの距離まで接近した所ではっきりとその姿を捉えることが出来ない。すぐさま視界を通常の状態から《魔眼》へと切り替えれば、正面、人の形をした存在は人間の肉と皮という袋の中にドス黒いエーテルを詰め込めるだけ詰め込んだ、肉袋であるという事が発覚した。
やはり、というべきか―――人の肉を得た悪魔だった。
悪魔を見て《禁忌》の扉を開いたのだ。だとすればその進み方を教えるのもまた、悪魔なのだろう。
「―――ようこそ、新たな背信者よ」
「背信者、この俺がか」
「然り」
「断言してくれるな、悪魔め」
笑みを浮かべ、和やかに返答しながらも視線は悪魔から外さず、スキルを発動させながら静かに状況を探っていた。《魔眼》によって相手の存在の密度を精査する―――やはり異常にエーテルの密度が、そして濃度が煮詰まっている。
間違いなく大物だ。
正面から戦おうと考えれば間違いなく磨り潰される。敵対しないことが賢明なのだろう。少なくともレベルキャップが解除されていないこの状態では。静かに鋼の鎧を横に召喚させ、何時でも迎撃できるぞ、というスタンスを敢えて見せつつ、悪魔と相対する。
「それで?」
「ふふ、そう警戒する必要もあるまい。禁忌の道に足を踏み入れる―――それだけで我らにとっては同朋の様なものだ。そうやってその道を進めば進むだけ理から外れ、そしてそれが周りからの敵愾心を勝手に呼び寄せる。道を究めようとすれば必然的に外法に身を染める―――故にそれだけで十分だ。その道を選んでくれたことそのものにメリットがあるのだよ」
「成程、つまりはいい感じに世を混乱させてくれる手駒が欲しい、と」
「辛辣だな。しかしそれは否定しない。乱れれば乱れる程再び我らはこの世界へと姿を現しやすくなる―――人も愚かだ。戦争なぞまた始めて。実に都合がよすぎて笑い声が漏れそうだ」
なるほど、と声を溢し、軽く肩を振りながらで、と言葉を続ける。
「教えてくれるのでしょう?」
「対価と引き換えに、ではあるがね」
やはりタダとはいかないか、予想通りの展開に視線を油断なく悪魔へと返す。それを受けている悪魔はくすぐったそうに笑い声を零しながら心配する必要はない、と此方を安心させる様に声を放ってくる。何も難しい事を要求するのではない、と。
「―――自警団の隊長を暗殺してくれれば良いのだよ。難しい話ではないのだろう? そんなにも強そうな鎧騎士がいるのだから」
その視線はすぐ隣に立つ鎧姿へと向けられている。だけどその言葉に対しておいおい、と言葉を返す。
「割に合わんぞ貴様。道を教えるのに社会的立場を犠牲にしろ、と? 俺には今金はないし、資金源のほとんどはこの街で製作物を売買する事で賄ってるんだぞ? バレなくても隠れて暮らす必要が出てくるぞ」
つまり、
「―――もっと寄越せ。まだあるのだろう? 餌が。出し惜しみしていないでとっととそれを出せ」
率直な言葉に悪魔はニンマリ、と笑みを浮かべた。それこそ唇が割け、頬まで割ける様に伸びた笑みだった。人の形をしているのに人という形状を逸脱したその冒涜的な行いはなんとも心の中に本能的な忌避感を生み出す類いの物であった。それを直視しながらも、一切態度を変える事無く、視線と態度で強欲に寄越せよ、と宣言する。それが嬉しかったのか、あぁ、そうだろう、確かにそうだろう、と言葉を放ってきた。
「素晴らしい。実に素晴らしい欲望だ。身の破滅さえ省みる事無く求めるその姿こそが最も禁忌の道を歩む者に相応しい心だ」
そう言うと悪魔が手のひらの上に何かを取り出すのが見えた。
―――銃のグリップ部分だ。
「流石に一度の仕事では無理だが何度か我々の手伝いをしてくれたらこれを譲っても良かろう」
「SSR確定英霊ガチャか―――確定チケはいい。無駄な悲哀を生まないからな」
その言葉を悪魔は聞いてふむ、と声を漏らし、
「聞いた事がない言葉だが―――ガチャ……うむ、実に欲望を感じさせる言葉だ。涙と血と喜びを感じさせる素晴らしい響きを感じるな……英霊ガチャ……ふむ、なんか良く解らんが言葉の響きが素敵だな。もっとなにかしらランダム性のあるものを持ってくるべきだったか」
もう既にガチャという概念に悪魔が浸食されつつあった。これはヤベェ、と思いつつもさて、と言葉が響き、場の珍妙な空気がリセットされた。ともあれ、相手が握っている者を見てちゃんと報酬を用意しているのが見えた。ある意味人間よりも誠実とも言えるのかもしれない。ただ、まぁ、なんというべきか、
「解った」
そう言葉を置き、悪魔が言葉を続ける。
「契約を―――」
その言葉を引き継ぐように声を被せた。
「―――
言葉と共に悪魔が解っていたかのように攻撃に備え―――
魔人が姿を知覚できるギリギリの速度に一瞬で加速しようとし、それよりも早く接近していたナイトがその左の爪腕で魔人の脇腹を掴み、噛み付くようにその爪を突き立てた。重なる様に発動する様々なスキルの中、魔法を起動させようとするのが見える。故に単純な作業として錬金術でやる様に、《エーテル干渉》で魔力のナイフで魔法を構築しようとするその属性の流れを裁断し、別の属性を横から引っ張って流し込んでやる。
「馬鹿な―――」
『
腹部を千切りながら魔人の体を床へと叩き付けてバウンドさせた。闇が形を得るのを諦めて魔人の体へと向かって吸い込まれて行くのが解る。その動きが早く、ナイトの敏捷を超えているのが解る。それを妨害する為にも、
「
あらかじめ用意して連れ込んで来た鎧騎士を崩した。
魔人が、回復出来ない。
「―――な訳ないだろ」
落ちて来た腕の中の遺物を回収しつつ、見た。
エーテルを掻き混ぜられ、奇襲され、致命傷を叩き込まれ、回復を阻害され―――動きも攻撃も特性も属性も能力も封じ込まれた、完全に獲物となってしまった憐れな魔人の姿を。驚いたような表情から一転、喉を槍が貫通し、床に縫い付けられながらも魔人は言葉を口にした。
素晴らしい、と。
直後、槍から放たれた閃光が塵すら残さず姿を完全に焼き払った。切り離されて残った片腕も落ちて来たところを蹴り捨てれば、闇に解ける様に消え去った。それと同時に、
《禁忌》のMランク化条件が達成されたとホロウィンドウに表示された。大量の経験値と獲得しているスキルのコストが全て-1されているのを確認しつつ、《禁忌》のランクをMへと上昇させる―――それによって出現するその発展スキルを後で確認するとして、
今は闇夜に乗じて逃亡する事が優先された。
こんな事でさえやらかせるのか、と。クエストの依頼人をぶち殺してそれでもいいのか、とも。そんな掟破りが、畜生の様な行いが肯定されるのか、このゲームは。
―――実に
更にどっぷりと、EX:Worldの魅力に自分が飲まれて行くのを自覚した。
Name:マスター
Level:78
Status:
AP:265/375
筋力:70 魔力:29 敏捷:70 体力:100
Title:【錬金術師:初級】【Evil】【ネクロマンサー】
Skills:
SP:197/289
《死霊術:S》 《テイミング:S》 《超魔力:E》 《審美眼:E》
《エーテル干渉:E》 《闇魔法:B》 《語学:B》 《光魔法:B》
《投擲:C》 《号令:B》 《薬学:A》 《付与術:B》 《魔眼:M》
《禁忌:M》 《ミスディレクション:F》 《邪眼:E》 《使役術:C》