※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーとしっくす

 ―――マスターという男を評価するのであれば典型的な日本人と言える。

 

 臆病で、保守的で、頑固で、それでいて流されやすい。それが表層上のマスターという男のパーソナリティである。ならば深層部分は? マスターという人物は一体どういう人物なのか? それが一番最初に露出したのは小学生の頃まで遡る事となる。友達と一緒に遊ぶごっこ遊びの中で善悪に分かれて戦う時、マスターが常に好み、そして選んだのは最(・)善(・)手(・)だった。たとえば悪側に立ったら人質を使ってそのままハメ殺す。善側になったら隠れて奇襲して確実に一人ずつ葬る。その深層部分の一つ目のキーワードが【完璧主義者】とも言える。何かをやるなら徹底してやらないと気が済まない、中途半端が許せない。ある意味日本人らしい職人気質なのかもしれない。

 

 それがさらに進むようになるのが中学時代だった。中学生になって更に遊びの幅が広がるとTRPG、RPをしながら遊べるゲームに手を出す様になってくる。フルダイブ型のゲームが存在する中では珍しいチョイスではあったが、一緒に遊ぶ友人もあり、のめり込むように遊ぶようになったのは事実だった。だが、それも長くは続かなかった。TRPGというゲームがついにマスターの目覚めさせてはいけない暗黒の側面を完全に開花させたのだ。

 

 ―――彼はクソ和マンチ野郎だった。

 

 マンチ、つまりはMan Chiken。それはルールを逸脱しない範囲でシステムの穴を付いて方法を選ぶクソ野郎に与えられる名称である。マンチキンには大きく分けて二種類ある。一つは困ったちゃん代表と呼ばれる洋マンチプレイヤー、そしてもう片方が和マンチプレイヤー。この内、和マンチとはルールを端から端まで読み込み、それを理解した上でシステムや考えの裏を突くような手段、行動を選ぶクソ野郎に与えられる称号である。

 

 たとえばそこに扉がある。その扉を開ければ罠が発動するだろう。

 

 だからつるはしで横の壁を壊して進む。初歩の初歩ではあるが、これはル(・)ー(・)ル(・)に(・)禁(・)止(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)行為である為、それを実行する事は可能である。だが普通はそんな事をしようとは思わないし、考えもしないだろう―――だがそういう仕様の穴を縫うように選択肢を選んで実行するのがマンチと呼ばれる連中である。

 

 そしてマスターはそういうタイプの人間だった。

 

 だから、招待状を彼が取った後の行動は実にシンプルであった。

 

 調査、リソースの確認、そして対策の構築。この三つだった。

 

 予想できる相手はなんだ? 目的は? どう考える? 何を想定すればいい? 状況は? 環境は? 何を使ってくる? 何が使えない? 何を意識する? 何を意識させられる? それを考え、判断し、そしてロジックを構築して行く。自分に接触する様な人間はまずいない。《禁忌》スキルの取得をおそらく理解し、記憶している人間はいない。誰にも教えていないし、バレたのであればもっと大変なことになっているからだ。そこから判断し、まず人間以外―――そして悪魔という選択肢が頭にくる。こいつならやるだろう、とも。

 

 何より背徳、そんな言葉を使う相手は真っ当な世界に生きるものではない。そこから判断し、対策を練り上げて行く。幸い、彼には考える時間と調べるだけの余裕が存在していた。なら話は簡単だ。WIKIへとアクセスし、WIKIに寄せられた情報の中から悪魔に関する事だけをフィルタリングして集めつつ、並行して悪魔に関する書物、対処法、経験談を探す。幸い、図書館でもメジャーな分類に入る為、対処法なんかは調べれば出てくる。

 

 悪魔は高濃度のエーテル体。つまり精霊の様に実体の存在しない生物とも言えない存在であり、ドス黒い原罪のエーテルその物が本体でもある。故に属性の魔力かエーテルでもない限り、それを霧散させる事は出来ない。純粋な物理的攻撃は通じない―――この時点で攻撃手段、そして対処法を絞り込める。

 

 つまりは魔術的見地からすると属性が一色に染まっている状態に意志が芽生えたのが悪魔と表現していい存在である。つまりはそ(・)の(・)属(・)性(・)を(・)ぐ(・)ち(・)ゃ(・)ぐ(・)ち(・)ゃ(・)に(・)し(・)て(・)形(・)が(・)つ(・)く(・)れ(・)な(・)く(・)な(・)れ(・)ば(・)霧(・)散(・)し(・)て(・)死(・)ぬ(・)存在でもあるのだ。街に展開されている調律結界は自動的にすべての属性をイーブンに落ち着かせる。不要な属性を一気に叩き込んでぐちゃぐちゃにすれば、後は干渉する必要もなく結界の力によって勝手に自滅させることが出来るのだ―――街中であれば。

 

 この時点で殺害方法と殺害可能であるという事実が出現し、それが情報として脳内に記憶される。

 

 そもそも最初から接触の仕方、そして明らかにリードし、導こうとする見下したやり方が気に入らなかったのも、またマスターにとっての事実だった。故にこの時点でマスターの脳内では毟れるだけ毟って殺すという思考が完成していた。だがそこで目を曇らせず、相手の目的と手段を考え、そして一番警戒するであろう事を考える。

 

 だから暗殺という手段を択ぶ。

 

 奇襲し、一気に殺しにかかるのが成功率が高い―――それに警戒されるのはナイトだろう。

 

 だからまずはスケープゴートの用意が必要だった。

 

 それを認識したマスターは迷(・)う(・)事(・)無(・)く(・)ニ(・)ヴ(・)ル(・)ヘ(・)イ(・)ム(・)を(・)巻(・)き(・)込(・)ん(・)だ(・)。一旦クランの地下本部へと帰還すると、他のネクロマンサー達にこれからやる事と《禁忌》スキルに関してを説明し、そして協力を仰いだ。

 

 ―――そしてもちろん、それは通る。

 

 

 当たり前だ、た(・)か(・)が(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)なのだから。忌避すべき《禁忌》のスキルであろうと異邦人(プレイヤー)にとってはただのRP用のスキルでしかない。それで何か新しいスキルが、面白いスキルが取得できるなら万々歳、WIKIの情報も充実するだろうし、それを拒否する理由なんてものは存在しない。そういう事もあってナイトの鎧をコピーして作成したリビングアーマーのスケープゴートが完成した。

 

 既にレベル100に他のクランメンバー達は到達している為、レベル80というマスターから見て規格外であるナイトはしかし、そこまでレベルだけを見るなら恐ろしい物ではない。無論、そこに込められた経験、能力、技量、気迫は真似は出来ない。だがそれを置いて、ガワだけなら真似する事は可能である。

 

 後は錬金術という最大の武器と経験を活かし、リビングアーマーの中に悪魔を殺害する為の属性をひたすら大量に詰め込み、まるで大量の魔力を持った鎧騎士―――つまりはナイトのようであると誤認させるための準備が完了した。

 

 そこからは簡単だ。

 

 会話し、手札を引き出させ、誘導し―――そして暗殺する。

 

 とてもシンプルな方法で、こうやってマスターはレベル150を超える化け物を一方的に殺害した。

 

 

◆

 

 

「ま、勝因は俺がイケメンだった、ということかな。あんな女ウケしなさそうな顔をしているのが敗因の全てだと断じる。まぁ、どこからどう見てもかませ顔だったからね」

 

「流石畜生メガネの名に恥じぬ発言」

 

 魔人をバラバラに解体し、その成果を確認し終わり、APやある程度のSPの分配が終わったら報告の為にも再びニヴルヘイムのクラン本部へと帰還した。現状、ここが自分にとっての一番安全な場所である―――なぜなら悪役ロール、畜生ロールに対して理解あるのがここの連中だ。というかロールプレイという概念自体にプレイヤーたちが理解がある。今回の件の情報を纏め、それを投下する事をWIKIの雑談所で軽く零せば、餌に群がる魚の様に一瞬で食いついてくる姿が大量に見えた。

 

 たぶん、これ放流したら更に悪役プレイヤーが増えそうで、実に楽しみにしている。

 

 その結果帝国と共和国が更に荒れそうだが、そこは割と知った事じゃない。

 

「まぁ、そんな訳で皆さんの協力のおかげで悪魔くんから最上級聖遺物を毟り取ってきました」

 

「呼び出されたけど交渉に乗るとは言っていない」

 

「まさに外道」

 

「だがそれがいい」

 

 イエーイ、と声を漏らしながらハイタッチを決める。ニヴルヘイムの館、その談話室には現状、ルーゼンに存在しているクランメンバー全員が集まっていた―――とはいえ、それも割と少数だ。そもそもネクロマンサー愛好会みたいな集まりなので、数自体が少ないのだ。新鮮な死体を手に入れる為に小競り合いをしている方へと向かったりしている連中も多い為、現在館にいるのは自分を含めて合計で五人ほどだった。自分、死骨、ゾンフェチ、吸血鬼、そして先生だけだった。

 

 割と真面目な話―――アンデッドの維持はめんどくさい。

 

 吸血鬼だったら新鮮な血液を定期的に供給しないといけない。

 

 スケルトンだったら骨の疲労を感知して修復しないといけない。

 

 ゾンビだと防腐剤の他に消臭剤なども必要だ。

 

 ゴースト系列は燃料となる魔力がなくなればそのまま蒸発するか怨霊となって暴れる。

 

 良く創作物では恐怖の象徴として描かれるアンデッド族だが、疲れを感じない、というメリットを抜けば割と普通に壊れるし損耗するから無敵でも超便利だとでもいう訳ではない。特にお気に入りのゾンビとかはかなり気を使ってメンテナンスなどを行わないといけないらしく、もうそこまで来ると完全に職人芸というレベルに入るらしく、ネクロマンサーは研究している時間よりもメンテナンスの時間が数が増えれば増える程加速度的に増える。

 

 その為、割と真面目に忙しいしお金がかかるらしい。

 

 そういう理由もあって大半のクランメンバーは常に死体や素材調達、メンテナンス費を稼ぐために教会で死者の慰撫をしていたりで非常に忙しく走り回っているらしい。

 

 全く以って世知辛い世の中である。

 

 ファンタジーのクセに夢が欠片もない。リアリティ重視のゲームとは聞いていたが、本当にリアリティに全部ぶっこんでるよなぁ、と納得しなきゃいけないほどこのゲーム、EX:Worldは法則やルールというものには煩い。ちゃんとリアルがそうである様に、この世界もまた独自の法則やルールで動いているのだ。設定ではなく、そういう世界法則がちゃんと存在している―――それを理解しているからこそあの魔人を圧殺出来たのだが。

 

 という訳で、手に入れた遺物―――銃のグリップを取り出して掲げる。

 

「という訳でこれよりSSR確定英霊ガチャ会を始めようと思います」

 

「運営の敗北」

 

「勝利のチケット」

 

「このガチャ我々の勝利だ!!」

 

 声援と共にバックにいるアンデッド共と共にクランの馬鹿共が盛り上がり始める。

 

「―――ですが!」

 

 それを止める。

 

「リソースが足りないのでガチャっても召喚できません!」

 

 その言葉と共に崩れ落ちる姿が見える。

 

「編成コスト」

 

「枠の拡張は課金で」

 

「レベル不足で理想編成不可」

 

「お前らの発言で怨霊達が心地よさそうな表情を浮かべてるから少しは自重しろよ」

 

 ―――まぁ、真面目な話をするとナイトの運用コストが重すぎるのだ。現状ナイトを霊体で仕舞っておくだけでもMP上限を三割、解除して戦闘状態にして六割喰われているのだ。これでナイトと同じレベルの英霊だったら、残りMP0が上限という状態になりかねない―――流石にそれは死ねる。だけどそう簡単にナイトの記憶を見つけ出すことが出来る訳でもない。

 

 という訳で、必要なのはリソース管理だ。

 

 消費リソースの効率化。つまりはナイトのコストを減らそうという事である。

 

「ですが、なんと、ここでマスター君を手伝って《英霊奏者》を取得させればなんとかガチャって即座に編成できます!」

 

「レベリングだ……」

 

「あぁ、一心不乱のレベリングの時間だな……」

 

「SSRを! SSRを腐らせてはいけないんだ! 爆死した皆の為にも!」

 

「なんだこれ」

 

 その光景を見てはは、と笑い、

 

「チョロイ奴らだ……」

 

『流石ですマスター』

 

 ―――という訳でレベリングのお時間だった。真面目な話をすると《死霊術》は雑魚アンデッドを使役する為のスキルであって、ナイトのような強力な英霊を使役する為のスキルではない為、どうしても効率が悪くなってしまうというデメリットがあるのだ。その為に《英霊奏者》という英霊を使役する為のスキルを取得したいのだ。これがあればおそらく消費上限MPのコストを抑え込み、もう一人ぐらいなら英霊を使役するだけの余裕を自分に作る事が出来る筈だと思っている。少なくともコストカットをどうにかやらないと無理だ。

 

 そして《英霊奏者》の習得に必要なスキルは《死霊術:M》+《テイミング:M》+《闇魔法:M》+《光魔法:M》+《使役術:M》だ。前提となるスキルの数を見れば解るだろう、かなりの上位スキルであるという事が。幸いなのは《使役術》が発展ではなく《テイミング》の派生スキルであるという事だろうか。《審美眼》や《超魔力》の様な発展スキルは必要SPが2(・)倍(・)なのだから。そう簡単に上がってくれなくなる。

 

 とりあえず、現在のステータスを確認する。

 

 Name:マスター

 Level:78

 Status:

 AP:345/375

 筋力:70 魔力:59 敏捷:110 体力:110 

 Title:【錬金術師:初級】【Evil】【ネクロマンサー】

 Skills:

 SP:234/289

 《死霊術:S》 《テイミング:S》 《超魔力:E》 《審美眼:E》

 《エーテル干渉:E》 《闇魔法:A》 《語学:A》 《光魔法:A》

 《ポーションピッチャー:F》 《号令:A》 《薬学:A》 《付与術:B》 《魔眼:M》

 《深淵:F》 《外法:F》 《ミスディレクション:F》 《邪眼:E》 《使役術:B》

 

 前提スキルは最低でBラインまで行くことが出来た。《投擲》は上書きしてメインウェポンとなる《ポーションピッチャー》へと変化させた。《深淵》と《外法》は《禁忌》をM化させたときに出現したスキルだったので、両方とも取得してしまった。今はそれぐらいだ。あの魔人を倒したことで大きなコストカットボーナスが入ったので、そのおかげで幾つかスキルのランクは上げられた―――後はここから引き続き修練だ。

 

「《死霊術》と《テイミング》は後はM化の為に二つ合わせて一日って所ですかね。後は光と闇の魔法を二つともSまで上げて、まだBの使役の方をSまで上げないと」

 

「割とありますな……」

 

「ただ錬金術やりながらではなく集中的に戦闘で上げて行けばかなり効率的に上昇させられると思うぞ」

 

 吸血鬼のその言葉にそうだな、と頷く。基本的にどのゲームでもそうである様に、このゲーム、EX:Worldでも格上と戦った方が経験値効率、スキル修練効率というのは高い。だからこそ150レベルを超える相手と戦って一気に20近いレベルが上がったのだ。ただアレは奇襲だからこそ達成できたのだから、また同じことをやろうとは思わない。

 

「だいぶレベル上がって来た―――というかカンストが見えてきましたね。この時点ではアンデッド大戦は無理ですか?」

 

「アレは序盤専用だよ。基本的に《死霊術》で操れるアンデッドは雑魚だからね。だから雑魚相手にいくら魔法使ってもスキルの修練にはならないよ……だからそろそろ本格的にダンジョンに潜る必要があるね」

 

「えー……」

 

 露骨に嫌そうな表情を浮かべると苦笑を返される。やはり戦闘は好きじゃない。俺は格(・)上(・)を(・)蹂(・)躙(・)す(・)る(・)様(・)に(・)勝(・)つ(・)の(・)が(・)好(・)き(・)なのだ。だから態々ダンジョンへと向かうのは趣味の違いで興味はないのだ。だってダンジョンは時間がかかるし、めんどくさいし、リアクションもつまらないのだ。最低でも相手が悪魔とかだったらやり返した時に絶望の表情か、嬉しそうな表情を浮かべてくれるからそれを踏みにじるのが実に楽しいのだが。

 

「ここら辺で80前後で行けるダンジョンあったっけ?」

 

「ないない。少し遠出しないとない」

 

「えー……やだぁー! 拙者ルーゼンから放れたくないでござるー! いーやーなーのー!」

 

『マスター……』

 

 駄々っ子芸は駄目か、とナイトへと視線を向けると頷きを返された。なら仕方がねぇな、と溜息を吐く。またアトリエに引きこもって錬金術しながらひたすらアンデッド大戦をやって時間をかけるのも悪くはないが、それだと今度は四週間ぐらい時間がかかりそうなのだ。もう既にここに来るまで二週間が経過している中、更に数週間も時間をかけたくはない。もっと効率的な方法がある筈だ。つまりは同レベル、もっと上の存在相手に魔法を使って戦闘を繰り返せばいいのだ。そうする事でスキルを修練できるのだ。

 

 ―――そこまで考えた所で、ナイトへと視線を向けた。

 

「あっ」

 

『いかがなさいましたかマスター?』

 

 この手があったか……。

 

 

◆

 

 

 正面、相対側には鋼を纏った戦士の姿がある。

 

 それに対して此方の正面に立つのは歪な形のスケルトンであった。まるで爬虫類の様な頭蓋骨を持ち、背中にはかつて翼があったであろうその名残が存在する、片手に盾を、もう片手にシミターを握った竜骨の兵士―――ドラゴンボーンソルジャーの姿だった。錬金術によってリザードマンの骨を媒体に竜の素材を少量混ぜ込んで生み出した触媒を通して生み出した竜骨兵は龍(・)属(・)性(・)を保有するレベル60はあるアンデッドモンスターだ。ナイトと対峙する上では明らかに役不足だと言わざるを得ないが、これからやる事を考えればこれで十分だった。

 

『宜しいでしょうかマスター』

 

「あぁ、頼むぞ」

 

 そう言葉を置き―――正面から竜骨兵に切り込ませた。シールドでチャージする姿に対応するナイトは左腕を盾にぶつけ、互いに弾くようにしながら振るわれるシミターを槍の柄で横へと弾き、そのままカウンターに槍を叩き込んでくる。竜骨兵はその一撃で完全に砕け散った。《死霊術》と《闇魔術》でその姿を再び再生させ、《使役術》と《光魔法》、《テイミング》で竜骨兵を強化する。

 

『格上と戦う場合は絶対に正面から戦ってはいけません。ですがどうしても正面から戦う必要がある場合は絶対にまともに戦ってはなりません。一部技量でレベルや能力値差をどうにかしてしまう鬼人とも評する存在がいますが、それを抜きにすれば正面からぶつかると確実に砕け散ります―――もう一度どうぞ』

 

 竜骨兵を動かす。エンチャントされた光の属性をシミターから斬撃として放ち、それを牽制に回り込むように竜骨兵がステップを取って横へと踏み込む。爪腕でそれを殴り壊しながらナイトが踏み込み、牽制に槍を叩き込んでくる。足元の闇を腕へと変形させ、それを槍へと絡み付かせ、一瞬だけ動きを停止させ、その瞬間に竜骨兵が一気に跳びかかる。だがそれに対応する様にナイトが槍を手放しながらシミターをレギンスで蹴り、そのまま素早く拳を叩き込み、竜骨兵をあっさりと殴り飛ばした。

 

『未熟な存在であれば武器を手放さないでしょう。ですが戦場に慣れた存在であれば全身そのものが凶器です。特に鎧はそれ自体が重量の存在する鈍(・)器(・)です。体当たりだけで人を殺すだけの破壊力があります。鎧はそれそのものがウェイトとして機能するので着慣れた人間は鎧を筋(・)肉(・)代(・)わ(・)り(・)にも使います』

 

 つまり武器を奪った程度で安心するな、という事だろう。

 

『正解です。武器を己の体の一部の様に扱って一流、という言葉があります。ですがあくまでも、の様に、であって肉体同様の存在であると考えてはいけません。場合によっては武器を捨てて素手で戦う事が正解ということもあります。その為、超一流とも呼べる存在は魔導士、剣士、銃士関係なく素手での格闘を行えるように自らを鍛錬しています―――武器を失って戦えなくなるようではどうあがいても一流程度です』

 

「一流を程度、と言える辺り凄いな」

 

 断言するナイトの言葉に合わせる様に竜骨兵を戻しながら再生と再びバフを行う。今度は錬金術を使って簡易融合と簡易付与を行い、竜骨兵の素材に効果を追加する。それによって全体的な強度を上昇させつつ自動再生効果を付与する。即席戦闘錬金術、魔人戦で行えたその技術はちゃんと使えるらしい。

 

『どうなのでしょうか。意図せずそういう発言が出るということはそ(・)う(・)い(・)う(・)事(・)なのかと思いますが、あまりにも記憶が損耗していて……』

 

「それも俺が強くなれば多少マシになるだろうか、ね―――よし、続行だ」

 

 強化された竜骨兵を差し向けるのと同時に、用兵ではない部分が己の領分だと思い出し、《魔眼》を通して戦場を見る。竜骨兵に使った魔法の反動で空間には光属性のエーテルと闇属性のエーテルが多く満ちている。竜骨兵が一蹴される中、それを錬金術の要領で《エーテル干渉》でぶつけ合う様に融合させ、反発させる。属性が打ち消しあわず、反発させたときに発生したエネルギーが融合されながら放たれ、その反応として闇属性の閃光が放たれる。そこそこの威力が出るかと思ったが、それは爪腕で切り裂きながら槍で叩かれ、壁の様に崩された。

 

『マスターはおそらくどう動けばいい、というのは解らないでしょう。それは戦士の資質ですから。ですがマスターは魔道の才、そして策士の才―――相手が最も嫌う事を見抜く事が出来るように感じられます。戦場に満ちる全てが道具だと認識すれば、それだけ手段が増えます』

 

「成程な、魔法を使えばその属性のエーテルが満ちるから、それを錬金術の要領で融合してやれば魔法のような反応を起こすことが出来る、って訳か……普通に魔法を使うよりこっちの方が反応早くてやりやすいな」

 

『では再生をどうぞ。続行します。マスターにある程度の用兵術を覚えて貰うには最適かと』

 

 成程、と答えながら修練を続行する。

 

 …やっている事はとてもシンプルだ―――ナイトと相対し、修練の相手をしてもらっている。それだけのことだ。レベルで言えば100のクランメンバーたちの方が遥かに強いのは事実だろう。だがそれとは別にスキル、経験、そして技量の面からナイトの方がレベル差を無視する強さを誇っている。その為、誰よりもナイトを相手に戦った方が遥かに効率が良いのだ。

 

 しかもなによりも、記憶はなくても戦い方、戦術はその魂に刻み込まれているようで、戦えば戦うほどそれが引き出されて行く。本人は覚えていなくても、実際に相対すると自然とそれが引き出される。故にそれを通して此方も勉強をさせて貰う。面倒だし、趣味でもない。戦うのは依然嫌いだし、怖い。だがそれとは別に、事実としてこれは覚える必要がある、という認識もあったからだ。

 

 昨日(さくじつ)、魔人との対戦、ああいう化け物が平気な顔で街中に紛れているというのが解った。アレは怖い。それこそ本気になられたら一瞬で殺されるだろうし、それに自分は気づく事さえできないだろう。最低限、対応できるレベルまで鍛える必要がある。そうしないと好きな様にこの世界で遊ぶことが出来ないからだ。

 

 認めよう―――EX:Worldにハマってしまったという事実を。

 

 もっと深く、更に濃く、この世界を探求したい。法則を見出したい。未知なる道具を生み出したい。強者を蹂躙したい。英雄を使役したい。そういう強い欲望が己の内にある。理解していた。自分の意識は《深淵》へと向かって歩み進んでいた事を。だがそれもまた一興。否定するつもりはないし、飲み込もうとするそれを飲み干してこその支配者である。故に、事前に出来る事はすべてやる。

 

 ペルソナに依頼した講師に《死霊術》と《テイミング》をMにしてもらうのを合計一日で終わらせ、《語学》スキルが進んだことによって可能となった学術書を読むことなどを通して自身の闇と光の魔法やその属性性質を理解しながら、ナイトと実践する形で戦い、学習する。

 

 己に必要なのは数千回を超える素振りではない。

 

 知識、それを活用するだけの脳味噌、そして、何が出来るのか、何をどうすればいいのか、その発想だった。何度も何度も繰り返す必要なんてない―――、一度見たことを一度で覚え、一度実践した事を一度で学習する。それを繰り返せばいい、それだけの話だった。本気になって覚えようとすればこれぐらい、誰にだって出来る。人間が一日の間に本気で学習する為に使える脳の時間は一時間―――だから覚えるその瞬間だけに絞って頭を使えば、効率的に学習が出来る。

 

 覚えるだけなら―――難しくはない(天賦の才)。

 

 そうすれば《闇魔法》も《光魔法》もSになった直後にはM化が行えるようになっていた。学術書を読み込んだりしていたが、その知識だけで十分だったらしい。またSPを消費する事になるが、聞けば大きな事件を解決したり、新しいダンジョンを見つけたり、それを踏破する事によってSPは取得可能らしく、あまり惜しみすぎると戦力強化が滞るらしい。その為、基礎スキル系列であれば多少のガバ勘定でもSPを使った方が最終的な成長率は高いらしい。

 

 ともあれ、そうやって数日かける事で《使役術》以外の前提スキルをMへと持って行くことが出来た。《使役術》もただ使役するだけのスキルではなく、用兵を含むスキルである為、部下、下僕、或いは奴隷とも言える存在を動かす為に戦術を覚える事も必要だった―――その前提を頭の中に叩き込みつつ、最後の仕上げの為に行動に出る。

 

 即ち《使役術》のM化である。

 

 

◆

 

 

「―――依頼人よ、我が止まり木を利用して貰うのは実にありがたい話ではあるが、今回の依頼に応える事は出来ない」

 

「なんと」

 

 ペルソナの経営する銀の蹄亭、もう既に何度か利用している事も会って大分勝手が解って来た。実際それだけではなく何度か利用した結果、店主であるペルソナの有能っぷりを気に入っている事もある。値段も高くなく、安くなく、相場通り―――つまりは情に流されず、周りに流されず、しっかりとビジネスを通してくれる相手だ。こういう相手はルールの範囲内である限りは、絶対に仕事を守ってくれる。そこが気に入っている。だからペルソナの応えられないという言葉に割と驚いた。だが同時に無理とは一言も言っていない。

 

「無理とは言っていませんね……つまりはどういう事ですか」

 

 まさか《深淵》と《外法》がバレたか? なんて事を考えるも、違ったらしく、

 

「学者が陥る典型的な病に陥っているというだけの話であるが故、依頼を受ける訳にはいかない。このような事で金銭を請求するのは贔屓にしてもらっている者に対して不義理であるが故に」

 

「ふむ……それはつまり、教えられる範囲で教えられる事はない、って事ですか」

 

「然り」

 

 成程、と呟き納得する。研究者の病、そして他のペルソナの発言から自分に足りないものが見ええて来た。

 

「経験ですか」

 

「賢き依頼人よ、そうやって一人で察してしまうとあまりにも酷いではないか―――まるで教えられる事がない。これでは職を失ってしまうではないか」

 

「それは失礼しました。ではミルクを」

 

 はちみつ入りのミルクを仮面の店主に注文しつつ、軽く息を吐く。運ばれてきたミルクに口を付けながら、糖分で思考を回す。

 

「《使役術》とは配下を手足の如く操り、導くスキルである。おそらく依頼人の事だ、己の配下一人で戦う方法でしか運用しておらぬのだろう」

 

「言葉を借りて返答するのであれば……然り、ですね」

 

「故に経験が足りていない。使役し、支配し、そして操るのはおそらく、見立てた範囲ではおそらく一切の問題はないのであろう。しかしそこに決定的に欠けているのは実戦の経験。己と配下だけの世界ではない。そこに他者という自由に考え、動く異物があっての状況。そんな環境で自由自在に操れてこそ真に使役したと名乗れる」

 

「学者が患う病、確かにそうですね。言われなければたぶんクランでひたすら使い込んでたでしょう」

 

「知識があり、知恵があり、そこで満足してしまう。学者の病である。故に必要なのは冒険だ。狭い研究室から飛び出し、その足で大地を踏み、そしてその両手で鋼を握り、未知へと切り込んで行く世界。それが最も必要な事であろう」

 

「つまりはダンジョンレイドをしろ、という事ですね」

 

「然り、然り然り」

 

 ではここからがビジネスの話だ、とペルソナが言葉を続けてくる。

 

「無論、出会いを求めて冒険者として登録し、同じ目的の仲間を集め、そして明日なき明日を求めて彷徨うという手段もあるだろう。しかし依頼人の目的を考えるのであればランダム性に賭けるのは些か不確か、効率が悪い、自由がないだろう。故に薦めよう、護衛という形式で雇う形で冒険者を連れて行く事を。加えて言えば最近、近場のダンジョンで新たな深度の発生が確認された。今ならば市場に出回る前に新たな素材や魔道具に手を伸ばすチャンスもある」

 

 商売上手だなぁ、とペルソナの言葉に苦笑する。だが確かにそうだ。一緒に冒険する相手を探すよりは、金を出して雇った方が此方が上位を取れるし、実験に付き合わせる事も出来る。ダンジョンに潜る事があるなら仲間を募るよりも雇った方が個人的には都合がいいんだよなぁ、と内心呟く。それが解っているのか、ペルソナはそれ以上誘惑する様な言葉を放ってこない―――ある意味悪魔らしい男だった。

 

 だがそうだ、《使役術》のM化の為、見知らぬ誰かを使役するという経験もまた必要だろう。

 

 第一VRMMOの野良パーティーはNPCが混じってプレイヤーとの意識の齟齬や違いで無駄に摩擦を生む、なんて話を聞いている。そう考えるとやはり金を出した方が賢明だな、と思える。第一冒険者は誰が良い、なんてものは自分にはわからない。そうなるとやはり金を出すのが手っ取り早い。

 

 ここ数日、修練の合間、本を読み進めながらも錬金術で小遣い稼ぎに中級回復薬の調合に成功し、それを売却する事である程度の金銭を確保している。ぶっちゃけた話、片手間に作成しているせいでそこまで誇れるようなクオリティでもないのが非常に不満なのだが、それでも一定の品質はクリアしているおかげで普通に売れる。そのおかげで数万ゴールドの余裕はある為、お金の方面でも問題はない。

 

 だから後は自分がその選択肢を選べるか否か、だけだ。

 

 ―――そして別にコミュニケーション障害であるつもりはない。

 

 これもまた、EX:Worldの楽しみ方なのだろう。

 

「ナイト」

 

『なんでしょうか』

 

 ナイトを呼び出し、質問する。

 

「どういう手合いが良いと思う」

 

 そうですね、とナイトの言葉が置かれた。

 

『―――まともに使いやすい手合いを雇ってもいい経験にはならないでしょう。ですからここはいっそ、一点特化型のコンビでも雇うのが宜しいかと。扱いづらい手合いに十全な指示を出せるように、戦場を支配すればそれで十分でしょう』

 

「ご苦労」

 

 ナイトの姿が消え、そしてペルソナへと視線を戻す。そこでという訳で、と言葉を置き、

 

「―――ビジネスの話をしましょうか」

 

「うむ、ビジネスの話の時間であるな依頼人よ」

 

 仮想電卓を呼び出しつつ、ペルソナとにこやかに相対しつつ。調べた冒険者の雇用費、それをどれだけカットするかをそこからペルソナと議論する。普通に雇えばそれこそ数日で数十万という金額がかかるのは当然だ。だからそこからがスタートだ。そこに天引きする要素を加えてなるべくコストをカットする為に交渉をする。たとえば回復薬の類いは此方で用意する。或いはモンスターのドロップの所持優先権は冒険者の方に譲るとか、ダンジョン内で発見した武具に関しては冒険者の方に委譲する。自分が譲歩する事によって相手から譲歩を引き出す。

 

 ただそれを強引に推し進めると関係が崩れてしまう―――だからあくまでも対等に、お互いの利を優先してバランスを取るのだ。どうすればお互いに収支がプラスになるか、それを相談するのだ。依頼人は依頼の達成が第一目標だが、それを通してなるべく別の利益を得たい。店側は仲介料を受け取りながら知名度を伸ばし、尚且つ冒険者側もちゃんと利益を得る様に動かなくてはならない。その為、真面目な話はそれなりに長く続く。

 

 一時間ほど交渉してからダンジョンの情報を購入し、後日準備が整ったら連絡する、という運びでその日は終わった。そこから5日間、ダンジョンへと向かう日までの間は純粋な金策と準備をする為に時間を消費する事に決定する。

 

 予想よりも金銭の消費が激しい―――というかやりたい事が増えれば増えるほどお金がかかるという事実を新しく見出してしまった。その為、まとまった時間での金策は必須だった。それに雇う冒険者のポーションを一部此方で負担するという話もしてしまった。

 

 錬金術の時間だった。

 

 

◆

 

 

 場所はニヴルヘイムのアトリエへと戻り、作成するのは中級回復薬。最下級の時は材料は薬草、清水、ゼリー玉だけだった。だが中級になると材料は大きく変化してくる。

 

 中級回復薬の材料は薬草、ブラッドオレンジ、清水、ハーン花の四つだ。

 

 最下級回復薬の作成は実に簡単で、そして奥が深かった。工程は磨り潰して混ぜるだけだった。が、これが中級回復薬となってくるとまるで変わってくる。だが同時に、中級回復薬の作成は錬(・)金(・)釜(・)の(・)使(・)用(・)が(・)解(・)禁(・)さ(・)れ(・)る(・)難易度でもある。

 

 ちなみに錬金釜のあるなしだと作成難易度はまるで変わる。錬金釜なしでの中級回復薬の作成方法は、

 

 1.蒸留器で蒸留水を生成する

 2.ブラッドオレンジを皮と実で分けてから実から液体のみを絞りだす

 3.薬草を磨り潰し、ハーン花から花粉のみを回収する

 4.ブラッドオレンジのジュースをまず花粉と共に50℃で温度調整し混ぜる

   次に磨り潰した薬草を80℃で熱してから冷やすと出現する上澄みを回収する

 5.4で作成した薬草の上澄みを4で作成した液体と調合する

 6.5で完成した薬液を60℃で1時間放置する

 7.薬液と蒸留水を混ぜ、そこにブラッドオレンジの皮を追加する

   70℃で温度を調節し、43秒でブラッドオレンジの皮を引き抜く

 8.薬効成分を集束させ、その上澄みを回収する

 

 その上澄み部分が中級回復薬となる訳だ。見ての通り複数回にわたって温度管理を行わないといけないし、このレシピはあくまでも基本の部分である。作るだけならこれでいいが、品質の向上や効果の追加、エーテル値の操作などの要素を追加するとなると細かい作業が多すぎる様になってくる為、非常に面倒だ。それこそ反射的に手を使わずに作業する為に魔法系のスキルで《キネシス》を取得する程度には。

 

 いや、まぁ、後悔はしていない。ランクが低い内は出来る事は少ないが手がもう一本増えたようなものだし、実際には便利だ。もう少し早く取得しておけばよかったと思う程度には。

 

 ともあれ、これが正規の調合、或いは調薬とも呼べるやり方である。

 

 だが錬(・)金(・)釜(・)を(・)使(・)っ(・)て(・)こ(・)そ(・)錬(・)金(・)術(・)本(・)番(・)とも言える。ぶっちゃけた話、錬金釜を使わない錬金術はどこか調合とか調薬とか、そういう非ファンタジー的な要素の方が多い、現実的な生産作業の様に思えるだろう。だがこの錬金釜を使う事によって錬金術に関するあらゆる認識が覆る。これ一つに数百万という値段が付くのもまた、これではないと行えないのが本格的な錬金術だからだ。錬金釜を使用した場合の中級回復薬の作成手順は大きく異なり、

 

 1.蒸留器で蒸留水を作成、それで錬金釜を満たす

 2.ハーン花から花粉を採取し、他の素材と共に花粉を錬金釜へと一つずつ投入する

 3.120℃にて全ての素材を錬金釜内で溶かす

 4.溶けた素材で不要な物を固形化させ、沈殿させる

   純粋に必要な成分のみをそのまま残し、混ぜ合わせる

 5.液体が透明になったら薬効を集束させる

   上澄み部分のみ回収し完成とする

 

 他にも色々と細かい技術が入るのは確かだが、下準備等の多くのプロセスを排除する事によって同じ薬液であれば一度に大量生産をする事が可能だし、何よりも一つの過程で全体を調整する事も出来る。ぶっちゃけた話、錬(・)金(・)釜(・)で(・)の(・)使(・)い(・)方(・)を(・)極(・)め(・)れ(・)ば(・)濾(・)過(・)機(・)も(・)遠(・)心(・)分(・)離(・)機(・)も(・)必(・)要(・)な(・)い(・)のが事実だ。錬金釜はそのまま、錬金術のキモとも言える部分である。あらゆる素材を溶かし、そしてその中に眠るエーテル、薬効、成分、それに干渉する方法と知識を保有して初めて利用する事が出来る設備なのだ。

 

 ニヴルヘイムは錬金術を利用するが、錬金術ギルドではない為、使っている錬金釜は高性能であっても良い所中級ランクのものだった。だがこれでも900万ゴールドはする超高級品だ。上級、最上級の超高級品となってくると一体どれだけ設備を整えるだけに金がかかるのか、もはや考えたくもない。だが設備が良ければ良い程エーテルや成分に対して干渉しやすくなるのは事実だった為、何時かは見据えないといけない未来ではある。

 

 ともあれ、こういう風に上位の錬金術は錬金釜の使用が必須と言っても良い。その前段階でも錬金釜を利用する事であらゆる過程をカットすることが出来る―――錬金術師を養成する学園では最終的なゴールが一流錬金術師の育成である為、最初から錬金釜を使っての作成で教えたりすると聞く。なんとも羨ましい環境だ。

 

 それはともあれ―――錬金釜を使った中級回復薬の大量生産だ。

 

 それが今の自分の金策だ。回復薬の類いは作っても作っても常に消費されて行く為、常に高い需要が存在する。特にこれから戦争がはじまりそうという環境の中、回復薬の需要は高まっている。商人たちが戦の気運を感じ取って事前に買いだめする事を始めている。傭兵や冒険者たちも本格的な高騰が始まる前に小まめに購入し始めている今、その値段は上がりつつある―――自分の様な供給側としては嬉しい話だ。

 

 錬金釜を使って作成する。

 

 蒸留水は予め作成してストックしてある。それを錬金釜の中へと放り込み、まずは温度を上昇させる。煮立つように温度を120℃まで上昇させ、そこから一つ目の素材を、薬草を手に取る。《エーテル干渉》のスキルで薬草の内部のエーテルに自(・)分(・)の(・)エ(・)ー(・)テ(・)ル(・)を(・)保(・)護(・)す(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)流(・)し(・)込(・)み(・)、それを錬金釜で溶かしながら次の素材も同じように、エーテル部分だけを保護して流し込む。それを何度も繰り返し、最終的には錬金釜の中にエーテルだけが保護された状態の、素材が解けた溶液が完成する。

 

 この状態の溶液は様々な素材が混ざっている為にくすんだ色をしている―――端的に言えば汚い状態だ。それは素材部分だけが混ざっており、成分となるエーテル部分が混ざっていないからだ。ここから薬効を、成分を兼ね備えたエーテルを混ぜ込んで行く。だがそれは直ぐに混ぜ込むのではなく、それぞれの素材のエーテルに含まれている成分、それを自分が支配するエーテルでフィルタリングし、干渉するのだ。

 

 有用なのはそのまま、ブラッドオレンジは文字通りやや鉄分が多くそこが不味い果物である。故に鉄分にエーテルをぶつけて相殺させることで気化させて、錬金釜の外へと弾き出す。そうやって苦味、えぐ味、臭味、そう言った不要な成分を回復薬に混ぜない様に除去する。

 

 そうやって必要な成分だけを濾過する様に錬金釜の中に混ぜ込んで行けば、濁っていた溶液の色に透明性が出現してくる。同時にブレッドオレンジの鉄臭さに隠れていた純粋な柑橘系の爽やかな香りが錬金釜から零れ出し、色もブラッドオレンジの色を引き継いだ鮮やかだが透き通った赤色の薬液に完成する。内部で完全に溶けきった素材を処理する必要も、上澄みのみを回収する必要もない。ここから更に薬効を凝縮させて集める事が更に上位の回復薬を作成する為の条件なのだが、エーテルへの干渉によって不要な成分が全て除去されているなか、完全に溶けきったこの錬金釜の中身は完全に完成された中級回復薬だ―――これで完成品となる。

 

 中級回復薬 ランク:C エーテル値:99 製作者:マスター

  効果が高く、ある程度の即効性を兼ね備えた回復薬。

  多様する事は中毒性を引き起こす可能性がある為注意すべき。

  EX:致命傷でもない限りはこれさえあれば大体の傷はどうにかなる。

  値段:一瓶辺り2000ゴールド

  ・徐々に魔力を回復する効果がある

  ・最高品質によって効果がかなり高められている

  ・服用だけではなくかける事でも効能を発揮する

  ・精神安定剤の効果を持つ

  ・さらさらしていて非常に飲みやすい

 

 今回完成させた中級回復薬はこんな値段になっている。数百という値段で販売出来た最下級に対して、下級をすっ飛ばして中級の回復薬を作成しているのだからそうだが、値段が割とインフレしている。ハーン花とブラッドオレンジが栽培不可能でダンジョンでのみ採取可能な為、此方が冒険者に依頼しないと入手できない素材で地味に手間がかかる。

 

 だが作成するコストを計算すると、一瓶辺り利益は1400ゴールドだ。一回の調合で使用する時間、そして作成できるのは1時間で20瓶分となってくる。本来のやり方であればもっと数は少ないだろうが、この一切無駄を生み出さないやり方であればこんな風に、一気に大量生産が行える。故に1時間当たりの稼ぎはプラスで2万8千ゴールドになってくる。

 

 今まで最下級回復薬でチマチマやっていたのが馬鹿馬鹿しくなってくるレベルだ。

 

 上位ダンジョンの1周での儲けが確か5万だがアレは数時間潜る事前提だから、やはり此方の方が遥かに儲けが出る。ログアウト、食事、買い出しや支払い、販売等色々とあるから時間をざっと計算し、錬金術に投げる事の出来る一日の時間は大凡12時間程。

 

 ひたすら錬金術をする事だけ考えると1日の稼ぎが33万を超える。

 

 約1か月間ノンストップで生産と販売を続ければ錬金釜を購入できる―――安い、と考えたいが毎日12時間錬金術に拘束されるのは流石に楽しいし好きであっても辛いな、と思わざるを得なかった。

 

 ―――なお中級回復薬の作成方法を説明した所、錬金術師のギルドから【錬金術師:中級】の認定を受けた。センス、感性、知識、知恵、そして技術が必要とされる錬金術という学問の中で、異例とも言えるスピードで成長しているらしく、大きな期待をギルドの方から向けられているらしく、これからの成長と発展を願って新しくレシピを何個か無料で譲って貰った。

 

 その中には錬金術師用の戦闘補助道具の作成レシピなんてものがあった。

 

 ペルソナと約束した期限まではまだ2日程時間があった。既に100万近く稼いでいる事もあるし、この武器、作成してみよう。期待半分で作成する事を決定した。

 

 自分が数ある中でも着目したのがカード型の補助具だった。カードを通す事でエーテルへの干渉力を増強することが出来るという補助具であり、また同時にカードそのものにエーテルを込める事も出来るというシンプルな道具だった。それは逆に言えば吸収や瞬間的な増幅にも行えるという事だったし、自分が頭の中で考えている 即席錬金 の実現を叶える為の一歩だと思えた。

 

 ブック型のバインダー、そして端末のカードでワンセット。カード部分は消耗品ではあるが、ブック型バインダーが無事である限りはある程度の材料を消費する事によって即座にカードを再生成する事が可能となっているらしい。材料を要求してくる辺り、なんとも錬金術らしい道具だと思った。ともあれ、

 

 ブックとカードの作成に必要なのはエイン高級紙、アストラルクロス、フェウガ聖銀、ハーモナイザー、メタルファイバー、そして魔流布だった。カードが損耗した場合に再精製するのに必要な素材はエイン高級紙である為、これだけは他の材料よりもかなり多めに作成する必要があるとレシピを確認してみた。しかし、

 

 これらの材料は全(・)て(・)が(・)錬(・)金(・)術(・)で(・)の(・)み(・)作(・)成(・)で(・)き(・)る(・)ア(・)イ(・)テ(・)ム(・)だ。

 

 つまり作成の前提に錬金術でエーテル値を調整し、効果を調節したアイテムが必要という事なのだ。

 

 その作った物を考慮して作成するのではなく、最終的に材料として、素材として使う事を意識してその先にあるものの完成図を認識し、錬金する必要があるという極めて複雑なプロセスだ。

 

 しかも軽く確認した所、素材はダンジョンへと潜る必要のあるものばかりで、作ろうと思って簡単に作れるものではなかった。

 

 エイン高級紙は前提として普通の紙(ゼッテル)を素材に使うが、このゼッテル自体錬金術で作成できる。しかもそうすればゼッテル自体に付与効果を与え、それを通してエイン高級紙にそれを受け継がせることが出来る。ただそれだけが理由ならまだ購入して準備すればいいだろう。だけどエーテルの操作は万能ではない。

 

 たとえば用意した素材のエーテル値が全て90だとする。

 

 平均値で落ち着こうとする素材は混ざった状態で90のラインをキープしようとする。《エーテル干渉》での干渉可能領域は±50だ―――つまり40までしか操作できない。

 

 そうなるとエーテル値1~39で優秀な効果が存在した場合、それを利用する事が出来ない事となる。だから素材の時点でエーテル値をある程度調整する必要もあるのだ。それに極端にエーテル値が低い素材なんてものも存在したり、素材として利用した場合一気に数値をマイナスにしたりする、なんていう効果のある素材もある。その為全体のバランスを管理しなくてはならないのだ。それだけならばいいが、作成する前提の素材は全てが錬金釜だけで作成できるわけではない。

 

 エイン高級紙、アストラルクロス、魔流布は錬金釜。

 

 フェウガ聖銀、メタルファイバーはアタノール。

 

 ハーモナイザーに関しては工学がやや絡む。

 

 更に細かくするとエイン高級紙はゼッテル、上級回復薬、魔輝石。

 

 アストラルクロスは霊界の布、流体金属、精霊の残滓。

 

 魔流布は上級魔力回復薬、活性剤、黄金リンゴ、漆黒の羽。

 

 フェウガ聖銀はミスリル、ネクタル、聖水、黄金火薬。

 

 メタルファイバーは鋼鉄のインゴットと食物繊維。

 

 ハーモナイザーは基本6属性のエーテル大結晶、虹色の羽、銀糸、アルテナ大音叉。

 

 が、必要な材料となってくる。無論、これらを作成する材料も大半が錬金術によって作成するアイテムである事が大半だ。その為、非常に手間がかかる事は目に見えていた。というかこれ、二日で用意するのは流石に無理なんじゃねぇの? なんて事をついには考え始めた。だがまて、大丈夫だ、ジャパニーズ・社畜・スピリットが俺にはある。それこそ2週間ぐらいノンストップで働けたという実績があるではないか。

 

 だが材料はどうする?

 

 そう思った瞬間にはインベントリから100万程の金貨が詰まった袋を取り出してナイトへと投げつけていた。

 

 数時間後、ナイトが戻って来た―――材料を全て購入するにはお金が足りなかった。

 

 失意と本当の絶望に床に倒れると、それを見ていたクランの皆がげらげら笑い、投資してきた。また借金が増えるが、この際金に糸目をつける予定なんぞなかった。ありがたく借りながら再びナイトに基本的な素材の入手に走らせる。時間は有限だった。根性と気合いと才能と嬉々で何が何でもダンジョンアタックまでに完成させるつもりでいた。そのやる気っぷりに触発されたのか、見ているだけだった本部にいるクランメンバー達も協力を申し出てくれた。これならギリギリ2日で間に合うかもしれない、そんな発言に湧き上がって期限に間に合わせようぜ! と言われる辺り実にジャパニーズな自分達であった。伸ばすとか後回しにするというかそういう発想が出てこない。

 

 ともあれ、そうやって眠気覚ましを一人20本。栄養ドリンクを30本ずつ用意し、

 

 突発的にノンストップ錬金術デスマラソンが開催された……!

 

 肉は腐り、骨は露出し、そして魂だけとなった―――アンデッドとなっても社畜は働かされるのだ。




 Name:マスター
 Level:80
 Status:
 AP:355/385
 筋力:70 魔力:69 敏捷:110 体力:110
 Title:【錬金術師:中級】【Evil】【ネクロマンサー】
 Skills:
 SP:265/305
 《死霊術:M》 《テイミング:M》 《超魔力:E》 《審美眼:D》
 《エーテル干渉:D》 《闇魔法:M》 《語学:A》 《光魔法:M》 《キネシス:E》
 《ポーションピッチャー:F》 《号令:S》 《薬学:A》 《付与術:B》 《魔眼:M》
 《深淵:F》 《外法:F》 《ミスディレクション:F》 《邪眼:E》 《使役術:S》
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