※この作品はR-18です。

良くあるVRMMOモノ   作:てんぞー

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ぱーとえいと

「結構面白いことをしてるわよね。何の魔法なのかしら?」

 

「私ですか?」

 

 歩きながらもタクローが警戒する中で、リムルがそんなことを話しかけてきた。その言葉にうなずきが返ってくる―――仕草は可愛らしいが中身が男だとわかっているとややげんなりしてしまうのはなぜだろうか? まぁ、そんな戯言はともあれ、率直に答える。

 

「錬金術ですよ」

 

「え、魔法スキルじゃないの」

 

 まぁ、魔法っぽいスキルは使っている、と言葉を挟み込みながら掌の上にカードを浮かべる。

 

「まぁ、私はメイジではなくアルケミスト兼ネクロマンサーですからね。従え、動かし、支援しつつ妨害するのが役割ですよ。図書館で勉強してみましたか? この世界の9割はエーテルによって構成されているうえに万能の燃料としても利用されています。つまりはエーテルに干渉し、それによって物質の原子配列を入れ替えたり性質や特性に干渉が可能となる錬金術とはまさに奇跡の学問です。世界に干渉し、己の都合のいいように結果を操作するのですから」

 

 リムルが首を傾げ始めている。そうですねぇ、と言葉を置く。

 

「つまりこの世界はエーテルで満ちています。そして錬金術とはエーテルに干渉して結果を弄ったりする学問です。私はそれを戦闘利用しているだけで。エーテルが燃料だったら濃度を弱めれば動きが鈍くなるのは当然ですし、エーテルを魔力に変換してから魔法を放っているんですから、そこに原液であるエーテルを注ぎ込めば炎の中にガソリンを投げ込むように燃え上がる……解りますか?」

 

「さすがにそこまでバカじゃないわよ。だけど……そうね、聞いたことがないけどマイナーなのかしら」

 

 おそらくはそうだと思う。錬金術はそもそも学問であり、錬金術師は生産者でありながら研究職だと言われている。このカード型の武装は戦う錬金術師の為の専用武装だ。空間に対するエーテルに干渉しやすくするための補助道具である。つまり自分と同じように考え、空間のエーテルを操作して戦える錬金術師がどこかにいるはずなのだ。じゃなきゃレシピが存在するはずがないのだ。だけどこれはスキルではない。

 

 技術(スキル)だ。

 

 言葉は一緒だがその意味はまるで違う―――不思議なものだ。

 

「まぁ、錬金術なんて研究室かアトリエでやるもんですからね。私の様な実戦派はマイナーなのは確かでしょう。……いえ、まぁ、なんというか、私もお金と素材とスキルの問題さえなければアトリエに永遠に引きこもりたいのが事実ですが」

 

「これは日本人由来の職人気質を感じる」

 

「それな」

 

 まぁ、こういう変にこだわるところが日本人だよなぁ、と自分でも思っている。まぁ、それでも自分ができるのは下位属性の融合、増幅、減算ぐらいだ。もっと習熟―――知識と技術をつければできることは増えるだろうと思っている。そのためには使い慣れるために実戦と錬金術を繰り返し行う必要があるだろう。まぁ、

 

「―――どうあがいても私は支援職でしょうね。後ろから投擲して攻撃するぐらいならいいかもしれませんけど、前線で壁を張るのは絶対無理でしょう。バフとデバフ、あとはそうですね、ハーモナイザーなしで環境エーテル値の調整を行えるぐらいでしょうか」

 

「うーん、長期の冒険でぜひともほしい性能」

 

「これが終わったらパーティー組まない?」

 

「私にも夢があるので」

 

 苦笑しながらダンジョンを進んで行く。このダンジョンに出現するのは大小様々なロボットであり、そのすべてが武装として弾丸を放ってくる銃を装備している。これがものすごい厄介であり、ヘイト取りに失敗した場合、一瞬で後衛が蹂躙されるという危険性を保有している。そのうえ、機械の体なので非常に刃が通りづらく、なおかつ生体であれば通じる毒の類の攻撃も通じない。そう考えるとかなり恐ろしい相手になってくるだろう。実際、機械的な精確さから放たれてくる銃撃を回避するのはよほど敏捷に振り込んでいないと不可能だ。

 

 だが逆に機械的だからこそ解りやすい部分もある。たとえば危険度の判定とか。機械は一番強く恐ろしい相手から優先的に排除しようとする。そのため、耐える事と破壊することができるタクローが攻撃すれば一瞬でターゲットが彼へと集中し、後衛は比較的安全に魔法の準備などを行うことができる。これが普通に賢いエネミーとかだと後衛から優先的に殺そうとしたりするので、そういうヘイトコントロールが通じるだけかなりやりやすい相手らしい。それに弾丸は物理的な攻撃であるため、魔法的な耐性を保有せずに戦えるというのがもう一つの点である。

 

 それに加え、これはものすごい個人的な感想な感想だが、人間には不可能な動き、そういう機械的な正確無比さを見せてくる。そこが逆に読みやすい、と感じる。そのため、道中のエネミーは相手が何であれ、ほぼ作業的な殺戮になることは否めなかった。とはいえ、それはそれで楽しい。

 

 まず最初に空間エーテルの減算を行ってロボット達の出力を低下させる。それで動きが大きく鈍ったところにタクローをぶつけ、ターゲットがそちらへと向いている間にリムルで大技を叩き出す。唯一不安なのは専業のスカウトやレンジャーが居ないことで、ダンジョン施設内のトラップを除去する方法がない、ということだ。

 

 まぁ、ただしこれも空間のエーテルを燃料に稼働しているため、《エーテル干渉》で空間エーテルの減算を行えば割と簡単に威力を低下でき、あとはタクローが防御しつつ破壊すればそれで終わる形だった。こういう先史文明の遺跡はエーテルを利用した科学系統の兵器、トラップが非常に多いらしく、普通にスカウトを雇うよりは自分のような職業を雇ったほうが効率的であるように感じられた。

 

 ともあれ、そういう事もあり、タクローとリムルを運用するうえでは常に自分が一番最初にデバフかカットを入れて相手の動きを封じる、あるいは削ぐ必要はあるものの、全体的にダンジョンとの相性の良さは感じた。そのため、必要以上に苦労する事もなく、こちらから抑え込んでから攻撃を繰り出せばタクローへの被弾回数が大きく減るため、物資の消費も減らせたのが嬉しい誤算とも言えることだった。そういうこともあって、探索は順調だった。

 

 それに《キネシス》が非常に役立っているのが良い。カードに自由で細かい操作を行える他、ランクが上がっていることでテレパスで瞬間的な指示を送り出せることは今後、ナイトと一緒の時や英霊が増えたときに使える技能だ。魔力依存なのがややつらいところではあるが、段々と戦う錬金術師、という形が出来上がっている中、もはや戦うことを否定する事はない。

 

 相手をハメて、そして蹂躙することに対して割と快感を覚えてきているからだ。これはこれで楽しいのだ、また錬金術とは違う楽しみ―――いや、愉しみというべきなのだろうか。すべての存在を自分の掌の上で転がし、そして支配しているという感覚だ。そうやって完全に場を支配してから握りつぶすという感覚が楽しくてしょうがない。

 

 つまり、戦いを通してちゃんと動かせている、という実感を感じ始めているのだ。手ごたえと感触、それを感じながら奥へと進んでゆけば、二時間ほどでダンジョンの終わりへと到着する。

 

 巨大な鋼鉄のスライドドアは明らかにボス部屋へと続く扉のように見える。深度が深まるとボスが奇襲したり普通にウロついているという話を聞いている手前、こうやってちゃんとボス部屋が存在するのは軽い驚きだった。ハプニングを期待していたからがっかりともいえるのだが、同時に自分の感想としては、

 

「―――えらく整っているんですね、このダンジョンは」

 

 というものだった。ボス部屋へと通じる扉の前でそんなことを呟くとそれにうなずく姿が見えた。

 

「あぁ、なんというか……妙に綺麗なんだよな、ここ。上の深度とかはまだ壊れてたり崩れてたりするんだけどな。深度4になると何故か妙に整ってるんだよなぁ。まぁ、それを含めて調査のし甲斐があるってもんよ。それを解き明かせば何らかの報酬が出るだろうしな」

 

 なるほど、そうやってボーナスが支給されるから冒険者はやめられない、ということなのだろう。実際ボーナス取得のSPなんか冒険者でもない限りは絶対に手に入れられないだろうなぁ、とは思う。自分のように研究室に籠りっきりの人間だと発見や解決からは程遠いのだ。そんなことを考えてから思考を切り替える。とりあえずボス戦を終わらせて、ダンジョンレイドの1週目を終わらせてしまおう、と。

 

「ではとりあえず1週目を終わらせましょうか。いろいろ試すのはとりあえずボスと一度普通に戦ってからで」

 

「了解」

 

「今回は依頼人がものすごくまともで助かるわねぇ」

 

 まぁ、自分は安全志向が基本ですから、と答えながらボス部屋の扉前に立てばホロウィンドウが出現し、侵入するか否かの選択肢が出現する。もうすでに情報を集めているので知っているが、これに許可を出した瞬間、扉が開くのと同時にアラートが鳴り始め、ボス部屋に入れるようになるのだ。そしてアラートがボスが出現している間常に鳴り響き、雑魚ロボットが無限湧き状態となるのだ。これはボスを討伐すれば消えるものであり、ボスの討伐、そして雑魚のヘイトコントロール、と高度な戦場支配を行う必要があるのだ。

 

 初見なら戸惑うが、解っていれば対処法はある。だからこそ情報収集とは非常に重要なことである。実はナイト専用で奥義とも呼べる技を思いついたので、それを実験したいところなのだが。まぁ、一応情報はあっても初見だ、さすがに試す気にはならない。

 

 ―――禁術、禁忌の実践。2週目から3週目で実験してみよう。

 

 そんなことを考えながらボス部屋の扉を開ける。アラート音がそれと同時に鳴り響き、このエリア内のロボット達が排除のために一斉にやってくるその気配をエーテルの揺らぎで感じる。錬金術、直接的な攻撃力は低いけどサポート回りに関しては便利だなぁ、なんてことを思いながら、8枚のカードを無手で引き抜いた。

 

「長々と付き合う必要はありません―――即行で終わらせます。良いですね?」

 

「問題ないわよ」

 

「俺たち好みだぜ」

 

「では―――」

 

 扉が完全に開いた。闇に包まれた大部屋の中央、赤く光るカメラアイの姿が視えた。それと同時に部屋の闇を照らすように照明が点いて行く。それに照らされ直径10mを超える、四足歩行、パンサーの様な形をしたロボットの姿が見えてくる。その両肩には砲塔の姿が見え、機械化されている体は質量の塊だ―――ぶつかれば当然それだけで体がバラバラになりそうなほど凶悪な金属質の体をしている。……自分がさらに錬金術師として腕を磨けば、あの金属の性質を粘土にでも置換して一気に破壊することもできるようになるのかもしれない。そんなことを考えながら、

 

 迷うことなくカードを投擲した。姿を現したパンサーのロボットが口を開いて光の砲撃を放ってきた。だがそれよりも早く光属性のエーテルを減算し、闇属性のエーテルをその中へと混ぜ込むように融合し、そして闇属性のエーテルを魔力によるバックアップで増幅させる。三つのプロセスを八つのカードで分割しながら並列に作業を行うことで素早く完了させ、攻撃が届く前に砲撃への干渉を完了する。

 

「非常に残念ながらそれは通じません」

 

 僅かに残った砲撃はもはや脅威足りえず、それから受けるダメージを覚悟で正面からタクローが突貫する。大幅に弱った砲撃ではダメージを全く与えられず、体にわずかな焦げ跡だけを生むに留まり、一気に正面に飛び込んだ。その動きをサポートするように発動する氷の蔦に対し新たに取り出したカードで処理に介入、式の演算をエーテルを流し込むことで加速させ、魔法の発動時間をカットする。結果、回避しようとしたパンサーの足を氷の蔦がつかみ、動きを止め、そしてその瞬間に潜り込んだタクローがアッパーを繰り出した。

 

 筋力特化型という変態的なステータスを持った男の一撃は圧倒的重量差を物ともせずにその鋼の巨体を後ろ足で立たせるように浮かび上がらせ、

 

「一気に決着をつけるぉ―――!」

 

 ―――肌を赤熱化させた。

 

 まるで鬼神とも表現すべき姿に、肌を赤く燃え上がらせたタクローはそのまま追加で拳を叩き込み、完全に鋼の巨体を床から引きはがして浮かび上がらせ、続けて蹴りを繰り出し前足を砕き飛ばし。さらに連続で拳のラッシュが入る。連続で繰り出される拳の圧に耐え切れずに天井へと向かって連続で殴り飛ばされながら圧潰されて行き、ボスとは思えないほどに鮮やかに破壊されて行く。その姿を大きく上へと蹴り飛ばし、

 

 それを跳び越えるように跳躍し、上を取った。

 

「こいつが俺の本気だ―――地獄へ落ちろ……!」

 

 頭上を奪った状態から振り下ろすように渾身の拳が落とされた。それを受けたパンサーはその姿が一撃で真っ二つに砕け散った。その残骸を突き抜けるように着地すると、砕け散った残骸がエーテルへと変換されて消え去って行く。アラートも消えて静けさを取り戻し、報酬を示すホロウィンドウが出現した。

 

 ボスの討伐が完了された証拠だった。

 

 着地し、肌が燃え上がるような赤へと変貌していた姿が元に戻ったタクローへと向かって軽く拍手を送る。実際、拍手を送りたくなるレベルで凄まじい動きだった。自分はどうあがいてもあんな動き、無理だ。

 

「いやぁ、強いですねぇ。さすが筋力特化型といいますか。化け物じみた破壊力ですね」

 

「お、そうだろそうだろ。こいつはおれの固有スキルのおかげよ」

 

 デデン、と口でサウンドエフェクトを演出しながら、力瘤を作ってそれを叩く。

 

「まぁ、もう解ってるかもしれないが、俺は筋力を自身の肉体強度に反映する事ができる。それがおれの最初の固有スキルで―――二つ目の固有スキルは筋力を二倍にするって内容なんだよ。このゲーム、HP概念が存在しないおかげで割と簡単に即死させることも即死させられることも出来るからな。ピーキーな性能でも殴り飛ばせるなら何とかなるんだよ」

 

「ほう」

 

 第二の固有スキルはレベル100で習得すると言われている。今のところ自分のレベルは85……いや、今のボスの撃破によってレベルは86に上がっている。つまりあと14レベル、現在のレベルキャップに届いたときに習得するだろう。

 

「まぁ、固有スキルは自分が欲しい様な、そんな願望が投影されるって噂だし、マスターもなんか欲しいそれっぽいスキルを思い浮かべればいいんじゃねぇか? 俺もそうしてたら実際そうなったもんだしなぁ」

 

「ちなみに私のは範囲拡大とデメリット付きの魔法の即時発動。二つを組み合わせて固定砲台になるわよー」

 

「なるほどなるほど、勉強になります」

 

 二つ目の固有スキルかぁ、と口の中で転がす。ダンジョンをクリアした事である程度安心してもいい余裕が生まれたので軽く息を吐き、ダンジョンレイドの成果を確認しながら考える―――固有スキルを得たとして、どういうものがほしいのだろうか、と。錬金術のことを考えてたら《魔眼》なんて便利なスキルが生み出された。これのおかげで驚くほど錬金術の作業効率が上昇した。だからこそ、次も求めるのはやはり、錬金術関連だろうなぁ、と思っている。

 

 何せ、今見て、そして干渉しているのは基本の六属性に無属性を追加した合計七属性だ。その上位である虚無を司る虚属性、時間軸を司る時属性、空間を司る空属性などの上位属性に関しては一切干渉ができていないからだ。図書館で確認した本には才能の問題である、と書かれていたが、たぶん固有スキルで干渉能力を得れば触れることができるようになると思っている。

 

 詳細なレシピは全く見つからないが、おおざっぱな賢者の石のレシピは公表されている。

 

 その中には一(・)か(・)月(・)間(・)休むことなく作業を続ける必要があり、なおかつ上位属性のエーテルに干渉できる才能が必要とされるのだ。そのため、錬金術の道をさらに突き進むならまだまだ必要となる技能は多い―――まだ武器の一つを生み出しただけだ。しかもこれもまだ上のランクが存在するという状態だ。ほしいもの、いっぱいあるなぁ、と胸中で呟く。

 

「レアアイテムの類は今回はなかったみたいですね」

 

「熔かせば素材になりそうな鉄塊がほとんどねー。正直熔かした方が売れるんだけど熔かす手間が面倒なのよ」

 

「あ、錬金術でいい感じにできますよ、私。アタノール必要ですが。依頼が終わったらやりましょうか? あ、ビタ一文負けませんよ。サービスは笑顔までです。それでよければ今回の儲けを鉄塊と一緒に溶かしに来てください」

 

「ド畜生め」

 

 笑いながら応え、ボス部屋の奥に出現したエレベーターの扉へと向かって歩き進んでゆく。これでとりあえずは一周目が完了した。間に軽くポーションを飲んだりしたが、やや腹が空いてきているのも事実だった。地上に戻ったらまずは休息ついでに食事に手を出すか、と決めた。

 

 

◆

 

 

「―――えー、それでは反省会を始めたいと思います」

 

 地上に戻ったところで休む場所は割と用意されている。どこがいい、悪い、というのは自分よりも経験のあるタクロー達のほうがもっと解っているだろう。だから見栄を張らずに選んでもらい、そこで食事をすることにした。そうやって反省会をするのに決めたのはバーベキューだった。グリルの上で肉がじゅうじゅうと音を立てながら濃厚なソースの匂いとともに食欲を誘っていた。だが肉よりも海が近いことから魚のほうが多く、魚のグリル焼きがおすすめらしい。自分も魚を食べることを選んだが、サーモンのような魚のタルタルソースがけ、これがまた絶品なものでフォークが止まらない。ただし、本当に止まらないという言葉はタクローの為にあるのだろうと思う。

 

 目の前、プレートの上には山盛りになった肉が見えた。

 

 食費、こっち持ちなんだよなぁ、と山盛りになった肉を見て軽く契約内容を後悔した―――固有スキルの反動らしく、凄まじくカロリーが消費されるため、使用した後は大量にカロリーを摂取しないとそのまま死んでしまうらしい。というか一回餓死に成功しているらしい。まぁ、プレイヤーだからこそ出来る実証実験だろう。

 

 死ぬのとか自分は絶対に嫌だけど。

 

「反省会……反省会……ぶっちゃけ不満らしい不満とかないんだよなぁ」

 

「凄く動きやすかったしサポートも的確だったしね」

 

「それじゃあ反省会にならないんですよ。駄目だった場所を徹底的に洗い出して対策して強化するんですよ」

 

 肉を口の中へとほぼ吸い込むという表現で食べているタクローと、ワインを片手に優雅に食べ進めているリムルを前に、やや呆れつつそう言葉を投げると、そうだなぁ、と二人が揃って首を傾げていた。コンビ歴長そうだなぁ、と息の合った仕草を見せる二人の姿に嘆息しているとあぁ、と肉を食い千切りながらタクローが呟いた。

 

「マスターはアレやらねぇんだな。号令とかのアレ」

 

「あー……アンデッドを強化するときにしか使っていませんでしたねぇ」

 

「アレな、ただ単純にバフをばらまいたりするのとは別に、発展させるとステそのものに干渉する様な事もできるようになるらしいぜ。一回軍略の上位ランク習得してる奴と組んだ事あるけど、そ(・)い(・)つ(・)に(・)速(・)度(・)を(・)合(・)わ(・)せ(・)ら(・)れ(・)た(・)からな、まぁ、だから指揮官ビルド? するならそういうのも取得したほうがいいんじゃねぇかなぁ。実際あるなしで俺たちみたいな特化型が死ななくなるし」

 

「ふむふむ……そう言われると色々と思いつくことがありますね。暇なときに用兵書でも読みますか」

 

 そんな呟きを漏らしたこちらに対して、明らかに怪物を見るような視線をタクローが向けてきた。そんな姿を見てリムルが溜息を吐いた。

 

「脳みそまで筋肉でできてるアンタとは違うのよ。つか学習するまで何回死んだのよ」

 

「それ言われちゃあおしまいだけどさぁ! だけどさぁ、勉強とかめんどくさいもん! 俺もう勉強とかいやだぞ! んなの高校で終わらせたんだからさぁ!」

 

 そんなタクローに囁きかけるように、

 

「因数分解。読書感想文。レポート。エッセイ。はい、二人組作ってー」

 

「グフッ」

 

 おそらく思い出したくもないであろう言葉を浴びせてみる。それを食らったタクローが白目になって後ろに倒れた。これはこっちが大学生であることは黙っておくかなぁ、とその姿を見ながら苦笑しつつ、ステータスウィンドウとスキルウィンドウを開く。確か《号令》がSだったはずだ。Mにするつもりはないし、このまま派生スキルで上書きしてしまおう、と《軍略》を取得する。また同時に《カリスマ》も取得できるので、それも取得しておく。

 

 《軍略》はそのまま派生。バフではなくもっと人を動かす、全体の動きに対する補正を与えるようなスキルで、《カリスマ》は交渉等を有利に進めるための威圧感ともいえるスキルらしい。まぁ、舐められたら終わりだしこういうスキルの一つぐらいは持っていたほうがいいだろう。段々とスキルが増えてきて手に負えなくなってきた感じもする―――ここらへんで新規のスキルをとるのは諦め、持っているスキルを成長させる事だけに集中したほうが良いのかもしれない。

 

 そこまで考えたところで、あまり長々と考え事をしていると魚が冷めてしまうと思い出し、食べ進め、話題を変える事にした。

 

「そういえばタクローさんとリムルさんはコンビで活動をしているようですが、何か具体的な目標でもあるんですか?」

 

「火力……火力を求めるのだ……一心不乱のDPSを……!」

 

「タクはDPSを叩き出そうと沼にはまっちゃったけど、私は理論最高値の威力を叩き出すことを目標としているかなぁ。まぁ、ある意味このコンビは必然だったわよねぇー……」

 

 火力&火力、MMOの典型的とも言える組み合わせ、ビルド、というかそもそもMMOというジャンル自体PSかポーションでダメージは抜けてDPS最高値を叩き込み続けろ、というのが王道だから通常でいえばこの二人のスタイルが普通なんだよなぁ、と思ってしまう。だからこそ、従来通りじゃまともに活動できないこの世界のリアリティさが面白いのだが。

 

「だからそうなのよねー。次の大型アプデにはけっこー期待しているのよね」

 

「レベルキャップの解放でしたっけ」

 

 そうそう、と頷きが返ってくる。

 

「それよそれ、レベルキャップよ。今レベル100が上限でしょ? これが150だか200ぐらいまで解放されるって話よね」

 

 確かどこかの解説によるとレベル100が凡人の壁と言われており、NPCの7割はここまでしか成長できない。次が秀才の壁でこれがレベル200が上限で2割までしか至れない。そして最後が天才の壁、と言われていてこれで上限レベルは300らしい。アップデートのたびにこの壁が取り払われ、異邦人―――つまりはプレイヤーはさらにレベルを上げることができるようになると言われている。というか凡人クラスで終わらせるようなネトゲはないだろうし、間違いなくキャップ解放は来るだろう。

 

「まぁ、でもアプデがレベルキャップだけとは思いたくないよなぁ……」

 

「何か来ると思っているんですか?」

 

 おう、とタクローは頷いた。

 

「―――俺は戦争が始まると思うぜ」

 

 戦争、という言葉が重くのしかかった。

 

「戦争が始まりそうって話は何度も聞いてるし、すでに帝国と共和国の間で小競り合いが始まっているらしいからな。アプデでレベルキャップの解除が来たらたぶん、レベルを上げるための環境として戦争そのものが提供されるんじゃねぇか? って某所では言われてたな」

 

 戦争―――戦争かぁ、と呟く。戦時は需要が上がるのはいいが、価格も一気に高騰するからレア素材の調達が面倒になりそうだなぁ、というのが素直な感想だった。正直な話、戦う技術を覚えているのは自衛と悪魔対策のためであり、傭兵や冒険者たちのように戦場へと飛び込んでゆくような勇気が自分にはないし、そんな度胸をつける予定もない。ただ、

 

「そうですねぇ、実験用の死体が手に入りやすくなるのは良さそうですねぇ」

 

「今更ながらネクロマンサーだと思い出す発言」

 

「今食事中なんだけど……」

 

 すみません、と答えつつ、話を続ける。

 

「戦争、始まったらどうします?」

 

「そうだなぁ……稼ぎ時だし行く、かなぁー」

 

「まぁ、レベリングのチャンスだしねぇ、行かない理由はないわ。何より死んでもまたよみがえる異邦人って存在は戦争する国家にとっては最高の兵士になるだろうわね」

 

 そう、異邦人(プレイヤー)は死なない。いや、正確には死ねる。死亡するとデスペナルティとして経験値のロストと能力の一時的な低下を受け、リアルで一日のログイン不可状態となる。だがそれさえ終わってしまえば再びこの世界へと舞い戻る事ができるのだ。霊体になることができなければそのまま死んでしまうこの世界の住人とは命の重さがまるで違う。だから兵士として非常に有用な存在だと、自分は思う。

 

 まぁ、それでも自分が戦場に行くようなことはないだろう―――死なない自信がない。

 

 そもそも2割、1割存在するという事を理解してれば、自分よりもはるかに強い存在が国家に所属しているということぐらい解って然るべきだろう。レベル200といえば単純に火力が2倍ぐらいあると考えていいだろう。あるいは2倍の速度で動いてくるだろう。そんな相手がいる戦場へ行く? 無理無理、絶対無理だ。流石のナイトでも守り切れないような気がする。だから戦場はパスだ。死体集めは少々魅力的だが、後方から荒稼ぎさせてもらうスタイルでいかせてもらう。

 

 まぁ、だが戦争が始まると困ることもある。

 

 安全に旅ができるラインに到達したらナイトの記憶を追う為に旅を始める予定もあったのだ。アルケミストキットという簡易式の錬金術キットも存在し、これも数百万はするんだがどんな環境でも簡易的な錬金術を行えるようにする道具だから、それを片手に旅をしつつ記憶を探ろうと考えていたのだ。だが戦争が始まればそれも出来なくなってくる。まず間違いなく街道の類は封鎖されるだろうし、治安も悪化するだろう。あまり、喜べる状況ではない。

 

「ふむ……ほかにアプデで何が来るんでしょうかね?」

 

「んー……新しいスキルとか? あとはイベントとか?」

 

「イベント……公式主催イベントって過去にやってるんですか? エクワ」

 

「やったぞ。割と派手にな」

 

 ほー、と返答しながら聞くのは第一回公式主催イベントの内容だった。公式主催イベントの内容はスキル修練の倍率上昇、経験値倍率の上昇という至極真っ当な内容で、ゲームらしいといえばゲームらしい、良く見るイベント内容だった。それ以外にも何度か今までイベントを主催しており海開き、異邦人専用闘技大会なんてものも開催されたらしい。なんだかんだでリアリティ求めていてもこういう部分はしっかりとゲームの運営らしくやるんだなぁ、という感想だった。

 

「あー、でもスキル修練効率上がるイベントはほしいですね。現状育てたいスキルばかりで」

 

「あぁ、うん。その気持ちは本当に良く解る。レベル100に届いてもスキルだけはそう簡単に上がらないしSPの底が見えている分逆に焦るんだよなぁ……まぁ、だから結局はガンガンダンジョンレイドして修練するしかねぇんだけどな」

 

 自分も戦闘関連のスキルを修練するためにはダンジョンへとレイドしに行く必要がある。Mランク化を目指さないのであればナイト道場を開催すればいいのかもしれない。まぁ、計画するのはいいが先のことを考えすぎるのも問題だ。今は目の前にあることを一つずつこなしながらステップアップを目指そう。まだ《使役術》のランクが上げられそうな気配はない。まだまだダンジョンを周回して経験を積む必要があるのだろうと思う。

 

 まぁ、それはそれとして。これからアップデートで追加されるであろうコンテンツに関しては実に楽しみである。

 

 イベントも戦争以外の何かを開始してくれたらうれしいのだろうが、流れからして帝国と共和国の戦争はほぼ確実に勃発するだろう、というのが自分と、そしてほぼすべての人が抱いている感想だった。ここまで来て戦争を回避するというのは聊か非現実的すぎる話なのだ。これは、戦争が始まる前に何らかの対策か準備をしていたほうがいいのかもしれない。そんなことを考えながらタクローとリムルの三人で昼食を突く。

 

 美味しいし、実際に何度も前線に出て戦っているプレイヤーという立場の二人からはひたすら引っ込んで作業しかしていない自分とは違う、経験と知識を持っていて、引き出せる話は実に面白かった。そのおかげか、割と楽しんで昼食を食べることができた。相手がNPCではなく、メタ視点から話す事のできるプレイヤーであることが一つの理由だったのかもしれない。

 

 

◆

 

 

「お、もしかしてレイドか?」

 

 昼食が終わってダンジョンの2週目に挑戦しようとした所で、足を止めさせられた。話しかけてきたのは見たことのない冒険者の姿だった。えぇ、と答えながら片眼鏡を軽くかけなおすとそうか、だったら気を付けろよ、と言葉を返された。

 

「実は今朝から何人か帰ってきてないんだ。時間がかかってるのか、或いは全滅しちまったのか……まだ解放されたばかりの深度で情報が不足してるんだ。何か変だと思ったら即座に脱出することを選べよ? ……って異邦人はそこまで心配する必要ねぇか。そんじゃ、良き冒険を」

 

 そう言うと話しかけてきた冒険者は別の冒険者へと注意喚起し始める―――たぶんそういうたぐいの仕事なんだろう。そう思い。視線を冒険者から護衛の二人へと向けた。

 

「どう思いますか?」

 

 言葉にタクローが頭を掻いた。

 

「まぁ、ありえなくはない」

 

 それが彼の感想で、

 

「ぶっちゃけ深度4にしてはダンジョンが綺麗すぎるというか……温いって感じはしてた。もうちょっと殺意高めの感じを予想してたし、時間経過か利用回数に伴ってダンジョンの機能が取り戻された、とかだったら割とアリよ」

 

 それがリムルの判断だった。

 

「それとももしくはどこか調査中の間にダンジョンの機能を誤って回復させた、とかね。まぁ、普通にポカして帰ってきていないってのもアリだけど、冒険者的に考えてあまり油断しすぎるのは良くないわ。たとえ異邦人というタグが私たちにはついていても感じる痛みはリアルだもの。なるべくなら痛い思いはしたくないわ」

 

「なるほど」

 

 まぁ、ダンジョンに潜らないという選択肢が存在しない以上、警戒しつつダンジョンに潜るという選択肢しか自分にはないのだ。最低限払った金の分、そして《使役術》をMランクに上げない限りはここから離れるつもりは一切ない。そうじゃないとここまで来た意味がないからだ。

 

「まぁ、適度に警戒しつつ進みましょう。ダンジョン構造に変化があったらそれを調べて売り飛ばす方向性で」

 

「やだ……この依頼人逞しい」

 

 適度に冗談を挟みながら再びダンジョンへと通じるエレベーターに搭乗する。軽く中を見渡して確認するが、構造の変化は見えない。やはり実際に潜らないと解らないか、と胸中でつぶやきながらエレベーターに深度4の異界へと潜行するように入力する。もう既に経験したことのあるエレベーターの唐突な揺れ、そして落下の感覚を感じながら、一気に地下へ、ダンジョンへと向かって落ちて行く。長く感じるエレベーターの落下の中、ドンドンと空間に存在するエーテル濃度が高まって行く。それはダンジョンの深度が上昇していることの証でもあった。濃い場所ほど、出現するエネミーの類が強力になるのはこの世界共通のことでもある。

 

 ダンジョンの構造変化があったとしたら実に興味深い話だ。そんなことを考え、今回はどうやってダンジョンを探索しようか、そんなことを考えていると、エレベーターの動きが停止した。

 

「それじゃあ頼みました」

 

「おぉ、任せな」

 

 一歩後ろへと下がり、前にタクローが出る。今回もやはりナイトは抜きで回る事にする。ゆっくりとエレベーターの扉が開いて行き、磨かれた鋼鉄が覆う機械的な空間が姿を現す。広がっているその空間の中、

 

 ―――そこには巨大なパンサー型のロボットの姿が此方へとカメラアイを向けていた。

 

 それはどこかで良く見たことのある、というか一切のボケなしで返答するとボス部屋で見かけたあのボスのパンサーロボットである。完全に殺すつもりでこちらにカメラを向け、そして砲塔をこちらへと向けていた。開幕直後にボスが待機しているという状況に思考が停止しそうな中で、ここで思考停止したら間違いなく死ぬだろうし、それは痛いだろうなぁ、と素早く考え、

 

「―――ふむ、それで(≪軍略:神速の陣≫)は頼みましたよ(≪使役術≫)、ナイト(【Evil】)」

 

 言葉が漏れるのと同時に、音を砕きながら前へと叩き出されたナイトの姿が視界から消えた。次の瞬間目視するのは爪腕と槍を握ったナイトの姿であり、砲塔の射線を邪魔するように正面に立ちながら真っ直ぐ攻め込んでいた。次の瞬間こちらが割り込む暇もなく放たれた砲塔からの閃光を光を纏った槍を振るい、切るのではなく、叩くように薙ぎ払いを叩き込んだ。砕けるような音と共に砲塔から放たれた光の奔流が叩かれた地点を起点に拡散し、エレベーターの周りへと広がるように散った。そのまま光の中へと一歩進むようにしながら僅かに体を下げ、

 

『―――お見事ですマス(≪虐殺機関≫)ター』

 

 爪腕で床を剥がし、それを楯のように投げつけた。床はそれを受けて融解するが、そのころにはすでに次の動きを入れる余裕がこちら側には存在した。槍が砲塔の中に叩き込まれるのと同時に覚えたての《軍略》で速攻状態を付与し、同時に《キネシス》と《エーテル干渉》で場のエーテル濃度を下げる。味方を強化し、戦場を見渡しつつ、相手の足を引くように弱体化を押し付け、つけ入る隙を生み出す。

 

 そこに群がるようにタクローの拳が、そしてナイトの連撃が叩き込まれる。正面から砕くように叩き込まれる一撃が顔面を、そして前足をその砲塔ごと吹き飛ばし、

 

「そ、っこぉ―――!」

 

 巨大な氷の棘が瞬間的に生成され、足元からその胴体を串刺しにした。それでもなお動こうとするパンサーの姿をタクローとナイトが油断なく解体するように殴り、切り飛ばしながら破壊してゆき、確実にその姿を葬る。完全に動きが停止してエーテルへとその姿が分解され始めたところでも一切警戒を落とすことなく、エレベーター内部からリムルと共に踏み出しつつ、カードを投擲して環境操作を開始する。出現するリザルトウィンドウを無視して環境エーテルを操作し、その濃度を下げながらハーモナイザーがやるように均一の状態へと調律する。

 

「リムルさん上級魔力回復薬をどうぞ。ナイト、引き続き警戒で。タクローさんも同じく迎撃態勢でいてください」

 

「了解」

 

「固有の反動でMP数倍消費してるからありがたく飲ませて貰うわって、ちょ、痛っ」

 

 《ポーションピッチャー》で上級魔力回復薬をリムルに叩き付けて割る。性質調整で叩きつけて浴びてもその効果が発動するようにしてある為、それでも問題なく回復する。一瞬文句を言おうとしたリムルだが、回復し始めるMPを見て意図を察したのか何も言う様子は見せない。その代わりに、警戒するナイトとタクローの向こう側へと視線を向けた。自分も同じように奥のほうへと視線を向けた。

 

 消え去ったパンサーの向こう側に広がっているのは整った、綺麗なダンジョンの姿だった。まるで新品同然に磨かれた床と壁、交換されたばかりのように輝いているライト、そして奥へと向かってエネルギーを供給しているパイプライン、それらは前回潜ったときよりもはるかに活動的に見える。昼食前に訪れた空間よりもはるかに活発な姿を見せていた。それを見て、リムルが口を開いた。

 

「―――ここ、本当に深度4? 寧ろ5って言われたほうがしっくり来るんだけど」

 

 リムルのその言葉には同意せざるを得なかった。

 

「……エーテルの濃度が昼前に降りた場所よりも遥かに濃いですね。奥に進めば進むほど属性も無秩序に混ざり合っています。ハーモナイザーもなしに魔法を使えばおそらくそのまま属性災害が発生しそうな勢いですけど……その前にエーテルの濃度に溺死しそうですね。明らかに深度4なんてレベルじゃありませんよ、これ。確かにエレベーターで深度4へと向かうように設定した筈なのですが……」

 

「レアイベントキタコレ……! って喜べたらいいんだけどなぁ」

 

 まぁ、そんな安易に喜べる訳もないだろう。そんな事を考えている内に足元を揺らすような音と共に、正面から見えてくる姿があった。巨大な10メートルを超える鋼の巨体はまずパンサーのものであり、それとは別に同じサイズの二足歩行、ヒト型のロボット兵器が巨大な鋼鉄のブレードと、ライフルを片手に足のホイールを回しながら接近してきていた。冷や汗を流しつつ素早く確認する背後、すでにエレベーターは閉ざされ姿が消えていた。

 

「深度5では4のボスがザコとして出現するんですね。これは勉強になりました」

 

「まったくだ! はっはっはっはっは―――もう笑うしかねぇな。嫌な予感して固有温存して正解だったわ」

 

 畜生、と言いながらタクローが拳を構え、リムルが杖を構えた。それに合わせて素早くナイトへと指示を飛ばす。

 

「命あっての物種ですからねぇ―――ナイト、全力で殲滅しろ」

 

『任務、拝承しました』

 

 言葉に応えるように《力翼》が発動するのが見えた。その動きをサポートするための半透明の光の翼が出現し、深く、足元を歪めるようにナイトが踏み込んだのが見える。僅かに輝き始める槍の姿を見せ、新しく表示されるホロウィンドウには《聖槍技》と《決戦存在》と表示されていた。レベル的に見れば間違いなくこの雑魚共は自分だけじゃなくナイトすらも上回っている。そんな危機の前に生前の業が微かに蘇ってきているのかもしれない。

 

『魂なき哀れな鉄塊よ、失せろ』

 

 瞬間、ナイトが誰よりも早く加速した。一瞬で正面へと飛び出す姿を見て、ナイトから視線を外す事にした。最(・)後(・)ま(・)で(・)見(・)る(・)必(・)要(・)は(・)な(・)い(・)。ナイトに殲滅しろ、と命令を出した以上、絶(・)対(・)に(・)完(・)遂(・)さ(・)せ(・)る(・)だ(・)ろ(・)う(・)。少なくとも現状のナイトの能力であれば多少劣っていてもその程度跳ね返して圧殺することができるだろうと思っている。あの《虐殺機関》という戦闘スキル、その効果を発揮すると毎回、まるで予知しているかのように先読みし、完全に型にハメて相手を圧殺している。たぶんそういう事を可能にするスキルだと思う。ともあれ、だからナイトやタクローのほうは見なくていい。それよりも自分の事、そして今の状況の事だった。

 

 《魔眼》を通して空間のエーテルを確認すると凄まじい濃度がこの階層に集まっているのが解る。またそれと同時に圧縮されたエーテルの塊が奥の方から接近してくるのも解る。おそらく敵の援軍だろう。横目で確認しつつ《ポーションピッチャー》で上級回復薬をタクローに投擲し、思考に没頭する。

 

 ―――ここはおそらく深度5だろう。それは間違いない。脱出と情報収集は可能か?

 

 WIKIへとアクセスしようとしてアクセスが遮断された。メール機能を使用しようとするとそれも遮断される。脱出用アイテムは一応存在するし、持っている。インベントリの中にしまってあるそれを確認すると、見事に使用不可と書いてあった。なるほど、やはり脱出不可能ですか、そーですか、と胸中で呟きながら溜息を吐く。背後のエレベーターが消えている以上、前へと進むこと以外に今の自分たちに選択肢はないのだろう。

 

「……って異邦人はそこまで心配する必要ねぇか。そんじゃ、良き冒険を」

 

「……少しは疑っておくべきだったか」

 

「納得しないで助けてよ! こっち割とカツカツなんだからぁー!」

 

「あぁ、すみません、ちょっと考えを纏めていたものでして」

 

 回復用のポーションを幾つか投擲しつつ《キネシス》でカードを操作し、環境調整とエーテルの減算をひたすら叩き付け続ける。これがおそらく今の自分に可能な唯一の支援方法なのだろう。だけどそんなことよりも重要なのはこの状況の突破方法だった。おそらく敵の数に限りがある、なんて優しい仕様を祈るのは現在確認されている最高難易度の深度5では期待してはならないだろう。となるとやはり、

 

「敵を怯ませてその隙に突破します。ここで迎撃し続けてても多分潰されるので適当に撒いたら休息を取ります」

 

「了解!」

 

『拝承』

 

「ブレインがいる、指示に従うだけでいい、もう、何も怖くない……!」

 

「おいバカやめろ! これが終わったら俺は腹いっぱいステーキ食べるんだよ!」

 

「はい、死亡フラグ散布オッケーです、というわけで強引に突破しちゃいましょうか。ナイト」

 

 呼びかけと共に閃光が爆裂した。巨大なロボット二体を押しのけるように槍の一撃が敵を砕いた。その瞬間に予め抜き出しておいた鼠の骨を《死霊術》でアンデッド化させてよみがえらせ、カードを咥えさせてダンジョン内を疾走させる。残念ながら俺のほうが敏捷が高い為、後方にいるリムルはこちらが回収し、前線のタクローはナイトが回収し、

 

 ―――迷うことなく逃亡した。




 Name:マスター
 Level:88
 Status:
 AP:415/425
 筋力:70 魔力:94 敏捷:130 体力:130
 Title:【錬金術師:中級】【Evil】【ネクロマンサー】【探究者】
 Skills:
 SP:293/329
 《死霊術:M》 《テイミング:M》 《超魔力:E》 《審美眼:C》
 《エーテル干渉:D》 《闇魔法:M》 《語学:S》 《光魔法:M》 《キネシス:B》
 《ポーションピッチャー:F》 《軍略:F》 《薬学:A》 《付与術:A》 《魔眼:M》
 《深淵:F》 《外法:F》 《ミスディレクション:E》 《邪眼:E》 《使役術:S》
 《カリスマ:E》
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