「―――いやぁ、割と真面目に死を覚悟しましたね」
行き止まりで身を隠す。場所を空けるためにもナイトには一旦姿を消してもらい、《光魔法》に存在する光を屈折させる魔法を発動し、水のエーテル属性と光のエーテル属性で環境を軽く変異させながら炎のエーテル属性で熱量を操作し、視覚的情報、サーモセンサーを騙すように小さな空間を生み出した。そこに詰め込むように自分とタクローとリムルがいる。完全に安全だと断言することはできないが、それでも普通に姿を隠そうとするよりは安心できる、自分なりの対策だった。タクローに即効性のある回復薬を渡し、同様にリムルには魔力回復薬を渡し、隠れながら回復に努めていた。やや笑い声を混ぜたような言葉にほんとそれな、とタクローが言葉を返す。
「ボスが徘徊してるってのは経験あるし奇襲されて全滅したこともある―――だけど初手ボスラッシュってのはマジで初めてだぞコレ。深度3と4のボスが揃って雑魚の様に湧いて出てくるって何事だよ……うぉ、治る治る。はえー」
笑いながらもタクローの目は全く笑っていなかった。それもそうだろう、ボスが雑魚扱いで出現するフロアとか考えたくもない。雑魚として出現するということはつまり《量産可能である》ということの証拠でもあるのだから。そりゃあ悪夢以外の何物でもないだろうと思う。考えたくもない出来事だが、それを考えて行動する必要がある。
「とりあえず脱出も通信もアクセスもできないことは確認したわ。完全に閉じ込められたわよ」
「レベルキャップさえ解放されていればなぁー……レベル100を超えることができるならレベル上げながら脱出を安全にこなす事ができたんだけど。何もこんなタイミングでトラブルが発生しなくてもいいと思うんだけどなぁ―――あぁ、やめやめ。弱音は吐けば吐く程心が腐る。とりあえず問題はここからどうするか、だよ。死に戻りだけは嫌だぜ」
タクローの視線は此方へと向けられた。依頼人として、このダンジョンへと挑戦することを決めた張本人としてこの状況を率いろ、と訴えかけているようだった。それに応える為にもそうですね、と言葉を漏らしつつ頷いた。
「まず第一に確認しますが、深度5の推奨レベルは幾つになりますか?」
「120だ」
「つまり我々プレイヤーの最大レベルから+20以上も適性が離れていることになります。私に限っては30以上レベル差があります。ですが
その言葉にリムルが続く。
「レベル100のパーティーによる攻略例があるから、でしょ」
はい、と頷く。詳しいことは知らないが、それでも深度5に関しては攻略された記録が存在するのだ、それも
「まぁ、確かにそれは事実だけど、楽な話じゃないわよ? なにせ一番バランスがいい5人という人数の上に、それぞれがバランス良く役割分担されているし、十全に準備をしているという事実があるからね。三人……ナイトを入れて4人ね。それだけじゃ辛いわよ」
「えぇ、ですが攻略不可能ではありません。それは事実です―――少し、やる気が出てきたでしょう?」
その言葉に小さく笑い声が漏れる。二人とも少しだけ気分を持ち直したように見える―――まぁ、ここら辺のメンタル管理もパーティーの臨時リーダーの仕事、という部分だろう。アンデッド達はまるでその心配はないし、ナイトは精神が鋼過ぎてケアする必要性がかけらもない。こうやって会話して、コミュニケーションをとって、それで誰かの心に余裕を持たせるのなんて初の経験だ。まぁ、得難い経験ではあるし、持ち直したのならこれで良し、とする。
「とりあえず
「敵がクソ強い」
「湧きが異常ね」
「特殊なギミックがダンジョン内にあったりするわな」
「ボスがクソ強い」
「それはつまり、なぜ深度5が攻略が難しいか、という要素が理解できている状態でもあります」
いいですか、と言葉を置く―――痛いのは嫌だ。だから臆病に、クールに、そしてスマートに思考するのだ。前線で体を張らない以上、自分がすべきなのはスマートに考えることなのだ。その分析力と冷静さが指揮者には必要な素養なのだろう、と自分は思っている。
「敵が強いなら相手をせずやり過ごせばいいんです。ギミックが面倒というのなら正面から相手をせずにズルして壊せばいいんです。ボスが馬鹿みたいに強いというのならキッチリメタって圧殺すればいいんです。こういうハードモードは正面からまともに相手をするだけ無駄です。キッチリカッチリマンチして通り抜けます。いいですね?」
此方の言葉におう、と言いながらタクローは頷いた。
「はは、そう言われるとそう難しい話には見えなくなってくるな……俺はあんたに従うぜ。考えるのは苦手だしな!」
「元々雇われているしね……この縛りプレイ状態で抜けられたらたぶん一躍有名人よ。逃す手はないわね」
タクローとリムルがやる気を見せ始める。これで最低限の条件はクリアした。モチベーションは高ければ高いほどいい、なにせ土壇場で踏み込めるのはそのモチベーションの差が重要である―――と 優秀なモンスターテイマー という本には書いてあった。まぁ、人心掌握も大体そんなもんだろ、と思う。気合が入っているほうが6ゾロの確率だって高まるような気がする。RPが運に反映され始める現象はTRPGプレイヤーであれば誰もが経験したことのあることだ。
「では頭が貧弱な脳筋高火力勢にもわかるように作戦を話し合いましょう」
「流れるようにディスられた」
他人に任せきりで自分の頭で考えようとしないのであれば当然だ。ともあれ、ここで生存することで最も大事な事を注意する。それは間違いなく、
「―――戦わない事でしょう」
その言葉に二人が同意する。実にわかりやすい話だが、このダンジョンの敵はすべて格上だ。これが探索や狩りを目的としたダンジョンレイドであれば戦闘を避けることは出来ないだろう。だが今回、これは突発的な事故であってレイドを目的とした探索ではない。少々惜しい気もするが、それはそれとしてまともに相手と取り合う必要はないのだ。そのため、最優先事項は戦闘を回避することである。
「ですので前もって既に手は打ってあります。逃亡する前に魔力を込めたカードに減算と増幅の効果を与え、それを骨鼠に持たせてダンジョン内を全力疾走させています。なんか監視カメラぐらい普通にありそうな科学力が見えますが、どうせ動力はエーテルでしょうし、鼠共にフリーランさせてジャミングさせておきました。追手がいないことを見るとたぶん正解だったんでしょうねぇ、これ。おかげで偽装はしていますけどそれとは別にゆっくり相談できそうです」
「マスターぐう有能」
「良くそんな考えが浮かぶわね……」
まぁ、マンチというのは結局のところどこまで相手の想定を外し、自分の思うとおりに展開を進められるか、ということの勝負だ。相手が用意した舞台、取得した情報から一体自分に何が可能なのかを吟味する必要がある。無駄にそういうスキルは鍛えられているから嫌がらせの達人なんて呼ばれていたりする―――決して、誇る事ではないのだが。
それでもそれが生存へと繋がるというのであれば、今回に限っては自重ゼロでやらかさせてもらおう。
―――いやぁ、実に心が痛くなることだ。辛い、とても辛い。辛くて泣きそうだ。はっはっは。
「まぁ、もうすでに放った半数の鼠が潰されてしまった訳ですが、ですがそのおかげである程度の情報は獲得できました。いやぁ、使い捨てのできる斥候を簡単に作成できるのってホント便利ですね、《死霊術》って」
人間だったらこうもいかないからな、と呟く。まぁ、魔法使いなら魔法使いで使い魔でも作成して同じことをするだろうけど。戦士に関しては手段がないので諦める。ともあれ、次の行動を見越して先に行動を挟み込んでおくのは後衛の必須スキル、策士の常、そして鬼畜メガネの基本である。むしろこういう逆境はゲーマー的に燃えてくるところさえある。
まぁ、自分から好んで飛び込もうとは思わない。
だけど、
―――これを仕組んだ奴の顔面に綺麗なカウンターを叩き込んでざまぁ、と言ってるのはきっと楽しいのだろうと思う。
だがその為にはまず生存しなければいけない。生きてダンジョンを抜けて、そして外へと脱出しなければいけないのだ。故に意識しなければいけないことは多い。故にさて、と言葉を置いた。そうやって思考のスイッチを切り替えて、考えすぎないように考え始める。
まず第一に敵に見つからないことが重要である。移動を開始したら索敵と攪乱用にまた骨鼠を放つ必要があるだろう。敵に見つからないためにはデコイ、ブラフ、そして相手の行動パターンの把握が必要である。幸い、相手がボスであるというのならその行動パターンは前の層のボスだった時のを前提に、そこに変化があるだろうと予測して動けばいい。それにトラップと言っても冷静に観察し、そして考えれば予測する事はそこまで難しくはない。
つまり一種の
ここでこの機械化遺跡というダンジョンに関するメタ情報を整理しよう。
事前にここが数千年前の科学文明の遺跡であることは理解している。そして同時に遺跡の機能はエーテルによって動いているのであり、深度の違いは空間に存在するエーテル濃度の違いであり、それが遺跡の活動能力を制限しているという事も解っている。また同時に出現するエネミーはロボットで、それもエーテルを燃料として稼働している。損耗することを抜きに考えれば大気中のエーテルを吸引してそれで動けるのだから半永久機関と言っても良い暴力的な性能をしている。
さて、ここまで整理すれば相手は
つまり科学をベースとした構造を相手が取っているというのが解る。これは物凄い助かる。何せ、科学であれば
まずボスは恐ろしいが既に動きを把握している為、此方からハメて無傷で倒すことは可能である上に、タクローとリムルの火力であれば確実に一撃で破壊出来る。エーテルの高濃度はそのまま、錬金術師としての技能を使って中和し、調整することで安全に進むことができる。数多くのトラップに関しては近未来的な科学ダンジョンだと発覚しているので、良く考えればどういうトラップが存在しているのかを予測できるのだ。セントリーガン、レーザーガン、落とし穴、偽装鏡面、レーザーセンサー等、人間が考え付ける発想には限界がある。つまり
このやり方はほかのプレイヤーを相手にするとものすごく嫌がられるやり方ではあるが―――今回、オンラインゲームという形式で考えれば嫌がるような相手はいない上に、生死がかかっている為、一切遠慮する理由が存在しない。
そういう訳で、開発者に謝る気皆無でメタを開始する。
一番コストが低く扱いやすい骨鼠を50匹ほど一気に錬成し、ジャミング効果を付与したカードを持たせて人海戦術というか、鼠海戦術で一気にフロア内に解き放つ。動体反応とエーテルの乱れによって一気にフロア内が騒がしくなる。その結果フロア内の情報がカードと鼠を通してこちらへと集まり、フロア内のトラップや構造が見えてくる。それを利用し、奥へと続く最短ルートを進みながら鼠達をトラップに突っ込ませ、わざと起動させながらその対策を練る。
たとえば落とし穴は一度発動してしまえば回避は可能だ。
高圧電流の流れる床は流れるエーテルを減算して違う属性を混ぜれば無力化できる。
セントリーガンは一度起動してしまえば位置が筒抜けな上、場所が分かっていれば破壊も簡単だ。
偽装鏡面は光属性のエーテルを利用した技術である為、《魔眼》ですぐに見破れる。
どうしても避ける事のできないエネミーに関しては先手を確実に奪ってからタクローとリムルのコンビが一撃で始末してくれる。
この様に、深度5はかなり極悪ではあるが、
これで火山とか洞窟とか、エーテルを利用した技術と全く関係のないダンジョンであれば環境を整えるぐらいのことしか出来なかった。だが機械類に、トラップに利用されているのがエーテルを燃料とした技術であれば、錬金術師として干渉できる範囲に入る―――存分に暴れまわることができる。
故にやる事は実にシンプルである。
無駄に戦わず、最短ルートで、トラップを潰しながら進む。
アイテム探索や素材探索は余裕のあるチームで来た時にやればいいし、レベリングなんてやっている余裕はない。ただ単純に出口を目指す事だけを考えて行動すれば、攻略事態はそこまで難しくはない。難しい、無理だ、そう考えてしまうのは先入観と情報ばかりを鵜呑みにしてしまうのが最大の原因だと思っている。
これはゲームやダンジョンだけの話ではないし、大学でレポートを書いている時にも実践している事だが、大きく見える事、困難に見える事、それはブロックに分けて処理をするのが一番解りやすく、そして対処しやすいと思っている。料理する時だって下ごしらえ等の作業がある。それと一緒で一つずつ処理を施してゆく事で全体のプロセスを進めるのだ。
こういう部分が特に錬金術では良く見られる。というか錬金術は一つ一つの工程を重ねて一つの完成されたものを作る辺り、物凄く料理に似ている。確実に、着実に一つ一つ処理して段階を踏んで行けば完成品を生み出せるという辺り、自分は錬金術が好きだった。作成している間は何と言ったってオートではない。実際に自分の知識と経験と技術で頑張っているのだ。全部ぶっこんであとはシステム任せのオート、なんていい加減さがないのだ。
だから自分は、錬金術が好きであり、
こうやって、困難を横から蹴り飛ばして蹂躙してやるのが楽しくて好きなのだ。
これは絶対に無理だろ。強すぎて絶対に勝てない。こんなこと普通やらせるかよ。そういう高い難易度程、チートはしないが、ズルとも言えるルールに許された反則スレスレのラインまでの事を利用し、徹底的に蹂躙してやる事に楽しみを覚える。そしてそれはこの深度5のダンジョン攻略でも言える事だった。
最初はタクローもリムルもやや、不安そうな表情を見せていた。おそらく自分よりもダンジョンというものに関わっている以上、高難易度の恐怖とその難しさを理解しているのだろう。だがダンジョンを攻略し、徹底的にダンジョンのトラップやエネミーを一方的に屠り続けるとやがて二人の表情から不安の表情が消え、それが純粋な警戒心へと変わった。臆病さが抜けて、行ける。という自信と共に勇気が付いたのだ。
そうやってダンジョンを攻略し始めて二時間ほど、もはや疑うような気配も、不安そうな表情も二人は浮かべておらず、ただ単純に高難易度のダンジョンに対して楽しそうに挑む、プレイヤーの表情を浮かべ始めていた。常に漂う緊張感の中、神経をすり減らしながら機械化された要塞の中を進んでいる感覚があるのは確かだった。だけど不可能ではない。達成が困難に設定されてはいるが、それでも不可能ではないのは、攻略しながら解ってきた事だった。
故に、自然と。やってやったぞ、
ざまぁみろ生きてるぞ、
攻略してるぞ見たことか、と、その意思が声と表情に表れ始める。心が明るい方向へと進んでゆく。何事も気の持ちようから。それを意識し、ワザと二度三度、エネミーとぶつかってタクローとリムルにエネミーを破壊させる事で倒す事は問題ない、倒せるのだ、と心に勇気を植え込む。軽くそうやってメンタルを補強しつつ徹底して行動すれば、
―――攻略は、不可能ではない。
頭を低く、三人で密着しながら移動している。少し前には骨の鼠が存在し、カードを背中に背負って進んでいる。それが通る道を予めジャミングしていて、罠除けとして機能している。数メートルほどの距離を開けているのは安全確保のためであり、何かあればまず間違いなく最初に消し飛ぶのは骨鼠だ。それが死んでからゆっくりと解析し、解除し、そして対応すればいい。死兵の陣である。リアルなら間違いなく使えない手だが、ネクロマンサーという側面を持っている己であれば簡単に使い捨ての兵が生み出せる。そのおかげもあって、探索は非常に順調であり、時折突発的に出現するエネミー以外に関しては問題なく進めている。
とはいえ、予め深度5の攻略を想定した準備はしていないため、消費アイテムの類は湯水のごとく消耗されて行く。常に魔力を消費している状態だから魔力回復薬はあたり前のように消費するし、それとは別に鼠の生成と召還とエーテルへの干渉で常に気力を消耗している。とはいえ、それが今までにない緊張感を生んでいて楽しさを作っていたのも事実だった。
自然と笑い声が零れそうな、そんなことが許されない状況の中で、何度も何度も心臓が止まるかと思いつつも、施設の中を進んで行く。
そう、施設。このダンジョンを表現するならそれが一番適切だった。
基地、あるいは工場。それが進みながら思えるこのダンジョンの感想だった。何せ、ダンジョンを進んでいて、その時々に確認できるのは強化ガラスの壁に、その向こう側ではパーツを運ぶベルトコンベアの姿が見えたからだ。見覚えのあるパーツは破壊し続けている雑魚ロボット達の存在を思い出させ、思わず身震いさせる。このゲームに無駄なものはない。方法を選べばどこにでも行けるし、HPなんて概念はないからどんな相手でも場合によっては一撃で粉砕することはできるのだ。
だからベルトコンベアで運ばれているパーツは幻想ではなく、実用品だ。
そのリソースは一体どこから来ているのだろうか? そんな謎を残しながらもダンジョンの攻略は、或いは逃亡は進んでいた。その確かな実感があった。奥へと進めば進むほど異常に敵の数が増えるのは事実だった。だが極限まで神経をとがらせて、集中すればやり過ごすことは可能であり、密着し、センサーの類を騙しながら進んで行く。
―――そしてやがて、そこに到着した。
入り組んだ迷宮のような通路を抜けた先、コンソールの設置された一つの扉があった。ここに来るまでそんなものは存在せず、磨かれてさえいるように見える新品のコンソールはおそらく、ボス部屋へと通じるための入力端末だった。
背後へと視線を向ければそこには通ってきた道があり、そして敵の姿はそこにはなかった。
「―――すげぇ、俺たち生きてる」
「ま、私に言わせてみればこれぐらい出来て当然のスペックと手札なんですよ」
格好つけるようにそう言うが、実際のところ、心臓はばくばくその存在を主張していた。マジで? マジ? 本当にここまでこれたのか? 死なずに? 一回目で? ウソだろお前。内心はそんな風にここまで抜けきった事を疑いまくっていた。実際、どっかで全滅する可能性があるだろうなぁ、と頭の中では常に考えていたのだから。だけどそれを言葉にすることはないし、表情に出すこともなく、安心させるような言葉を吐き出す。我ながら大分こういうことにも慣れてきたよなぁ、という感想を抱いていた。
「ただ油断しないでください。この先にボスがいるんですから」
「そうね……だけど任せなさい。戦うということなら私たちの出番よ。ここまで温存したリソースをすべて吐き出して―――」
「―――封殺する。安心しろ。50レベ差ぐらいまでなら正面からでもワンパンで殺せる自信はある。ここからは俺達の領域だ」
頼りになりすぎる言葉だった。実際、ここまで運ぶのが自分の仕事だ。ここまで来たならほぼ役割は完了したと断言してもいいレベルだった。だからそれで一気に気が抜けてしまいそうになり、まだ終わっていないのだ、と自分に言い聞かせる。
「えぇ、任せましたよ。私の護衛なんですから、しっかりと私を無傷で地上に返してくださいよ? あ、特にボーナスとか出しませんから。これ、事故ですし」
「守銭奴ォ!!」
明確な終りが見えたことに三人で少しだけ盛り上がりながら。さて、と言葉を漏らして視線を端末へと向けた。一目見ただけでは何が書いてあるのかが全く理解できないが、《語学》スキルが発動し、自動翻訳によって書かれていることが理解できるようになった。
「えーと……パスワードを入力しろ、って書いてありますね」
「えっ」
「無論そんなもの、私達にはありません」
「終わったな……」
「えぇ、完膚なきまでに終わったわね……」
「いやぁ、探索必須タイプのダンジョンだったんですねぇ、ここ! はっはっはっは―――笑えないわ」
どうするんだよこれ、と全員で黙り込んで顔を両手で覆った。いや、ほんとこれはどうしろと言うのだ。正直な話、ここへと来るだけで手一杯だ。探索する余裕なんて存在しないし、たぶん探索に出たら
マズイ―――全滅が今、確実に見えた。それを回避する方法を模索する。
《魔眼》で端末を確認する―――が、まるで触れた痕跡が見えない。エーテルに関しても動力として利用されているだけで、ここがこう、みたいな具体的な感じは見つからない。無力化するのであればまず間違いなく得意なのだが、ハッキングとかは専門外だった。これはマズったなぁ、と考えたところで、
めんどくせぇ、と呟く。
「―――扉、ぶち壊しましょう。ルールを守ってやるのもこれまでです」
「その言葉を待っていた」
「そうよ! 最初から壁をぶち抜いて進めば良かったのよ!」
『あぁ、疲れてきたんですね、マスター……』
割とかなり。すでにこの遺跡に潜ってから6時間以上が経過しているのだ。ずっと神経をとがらせて集中しながらここまで生存したことを褒めて欲しい。そろそろ元祖脳筋スタイルで暴れたいぐらいにはイライラとストレスが蓄積し始めているのだ―――つまりダンジョンを破壊させろ、ということだ。実にシンプルな話である。
「俺、扉、殴る」
「あまりの喜びにタクがついに言語を削り始めてる……!」
「本当に脳みそまで筋肉っぽいロールしてくれるしノリがいいからから結構好きですよ、貴方達の事。やっぱりボーナスは出しませんけど。それはそれとして、準備を整えたらダッシュで乗り込んでダッシュで殺してダッシュで脱出しますよー」
「はーい」
声の揃った返答が帰ってきたところでキーン、と調整する様な鋭い音が一瞬だけ響いた。動かしていた動きを止め、そして耳を傾ける。直後、
『―――ようこそ、侵入者の皆様方』
聞いたことのない電子音声が響いた。それに素早く反応し、《キネシス》を使ってテレパシーで素早く指示をほかの三人へと送り、同時に戦闘のための準備を完了させる。一瞬で切り替えを終わらせたところで、電子音声は続く。
『当方は二千年ぶりの来訪者を死と共に歓迎します。どうぞ、先にてお待ちしております』
言葉が消えるのと同時に正面、コンソールが勝手に起動し、その横にあった先へと進む扉が開いた。それはおそらくはボスの絶対の自信を表すものだった。アイコンタクトで互いに進む意思を確認してから前へと進むことにする。開かれている扉を抜けて行けば、そこには短い通路、そしてその先に開いた空間が存在するのが見えた。ゆっくり、警戒しながら歩き進んで行くとやがて通路を抜けた先の開けた空間へと出る。
それは今までの閉鎖された空間とは大きく違っていた。
天井が存在せず、ひたすら終わりの見えない筒状の空間だった。足元はガラスで作られており、その下には終わりのない闇が見えた。ここがこのフロアの決戦場なのだろう。その証拠として奥にはぼろぼろのローブを纏った人の形が見えた。見えるのは女の顔だから、恐らくは女なのだろう。だが《魔眼》は高密度のエーテルの反応を対象から察知していた―――それこそまるで燃料のように溜め込まれているように。やはりロボットか? と頭の中で見える範囲の情報を整理しながら思考する。
「
正面の相手へと向けて言葉を放つと、ローブの中から機械的な手が伸ばされてくる―――そこに握られているのは銃であり、その銃口が一瞬だけ光った。それと同時に足元に閃光が撃ち込まれていた。光線銃だ。中々凄まじい物を持ってらっしゃる。
「肯定です。当方はセクション5-Fの管理を担当しているDZ-659です。それと妙な真似を慎んでください。監視カメラを通して冒険者は4人だと把握しております」
「
と、言葉を放ちながら《死霊術》でリビングアーマーを生成し、召喚する。既に一回やったことがあるため、かなりスムーズに出来ている。そうやってエーテルのカーテンで本当のナイトを隠蔽しつつ、その身代わりとしてリビングアーマーにナイトと同量の魔力、エーテルを注いで形成する。会話を開始した直後から先手を奪うために仕込みを始めているが、リビングアーマーの姿を見て疑うような姿は見せない。
やはり視覚情報は機械類の場合だとエーテルがベースとなっているらしい―――道中の雑魚ボス軍団を蹴散らしながら学習した事だ、利用させて貰おう。
「ではミス
「問題ありません、ミスター。当方はこのセクションを管理する為に在る物です。侵入者を排除するためには確実な方法を取るべきであるが故、当方は物量で排除するよりも自らの手で処断するほうがはるかに効率的で損害が少ないと判断しました」
「
「故に―――」
そう言葉を放ちながらDZの纏っていたローブが燃え上がる。その下から球体関節を持ち、腕が四本体に接着することなく浮かび上がり、そして翼のようにレーザーブレードが背中で浮かび上がる、殺戮兵器の姿が現れた。四つの光線銃に四本のレーザーブレード、そして推定レベルは120前後、絶望的な相手だなぁ、と思いつつも、
「―――ここで死んでもらいます」
「
直後、砕けるような音とともに腕が二本、足が一本、そして翼がすべて砕け散った。会話の間、隠蔽されながら霊体状態で移動を続けていたナイトが完全に背後を取り、こちらの言葉に従って一気に不意打ちを仕掛けた。その素早い連撃にDZの武装が一気に砕けて弾けた。その事実に感情らしい感情を浮かべず、残った二本の腕と武装で対応を始めようとした瞬間、一瞬で生成された氷の腕が足元から伸び、DZの姿を握り潰すように掴んだ。
それが内側から弾け、損壊が増えるDZの姿が出現するが、既にカードは配置されており、エーテルの減算が行われている。その初動は完全に停止している。
その姿を迎えるように、
「全身全霊の一撃って奴だ―――行くぜ?」
肌を赤熱化させたタクローがスタンバイしていた。体からは蒸気が上がっており、筋肉はちぎれんばかりに盛り上がっていた。筋肉達磨とでも表現できてしまいそうな悪鬼の形相を浮かべたタクローは全力で踏み込み、足元のガラスを砕くことなく踏み込んだ足の部分だけ
全力で拳を振るった。
―――音は拳を振り終わった後で追いつくように発生した。
拳がDZに触れた直後その金属の体は僅かに波打つかのように揺れ、音が追いつくのと共にインパクトが完全に伝わり、拳が届いた胸を中心に体が内側から弾け飛ぶ様に爆散した。文字通り一撃―――一撃必殺。胸が弾け飛び、胴体が消し飛び、頭が千切れ消えて、機械の体が千を超えるパーツに分解されてからもその衝撃を殺すことができずにさらに砕けて細かいパーツに分かれ、もはや残骸という領域を超えてバラバラになって完全に砕け散った。
それが降りぬかれた直後、振りぬいたタクローの腕が音を立てて血を噴出し、肉が千切れる音が何重にも重なり、ぶらり、とぶら下がった。赤熱化は消えたが、笑みをその表情に浮かべており、まだ無事な方の腕を掲げ、
「アイ! アム! ザ! チャンピオン! このボスさえも一撃でぶち殺す超火力! この即死火力こそがネトゲの醍醐味よ! はーっはっはっはっは! ざまぁみろ! ワンパンだ! ワンパンだぞオラァ!!」
げらげらと笑い声が響く。その片腕は治療しない限りは使い物にならないだろうに、それを気にすることなく自分の成果と、そしてビルドの正しさを確認して笑う姿はまさにゲーマーの鑑だった。その姿にリムルは苦笑しつつも嬉しそうな表情を浮かべ、そして自分も苦笑しながらお疲れ様、とナイトを迎える。
「見事な隠形でした」
『いえ、マスターの指示あってこそのものです。替え玉で騙す作戦、現在の所成功していますね』
「悪魔も機械も識別方法はエーテルが中心になっているようなのでそれを操作する私のスタイルとはどうも相性が良いようですねーーーまぁ、進んで戦いたい相手ではありませんが」
とはいえ、同じ手を三度も使うと今度はそれに慣れて依存してしまう可能性もある。今度からは別の方法を考えておく必要があるなぁ、と新しくまともに戦わず、ボスをハメ殺せるような戦術を考えることにした。そんな中、リザルトウィンドウが出現し、大量の経験値とドロップアイテムが表示される中で、自分のレベルが一気に100まで上がった事、そして現在最高難易度である深度5をクリアしたことでSPボーナスが発生した。ボーナスはSP10点だった。まぁ、無いよりはマシとも言えるレベルだ。
だが一番重要なのはレベルが100になったことで第二の固有スキルが生えた事だった。ホロウィンドウにはそれもちゃんと表示されていた。
―――その名も《幻想の色彩》だった。
その効果は待ち望んだ上位エーテル属性への干渉の解禁であり、そして《魔眼》でそれを視認する事が出来るようになるというアップデートだった。心の中でヒャッハーと叫びながらガッツポーズをとる。キャラが崩れてしまうため、絶対に、絶対にそれを表情に出してはならない―――だが拳は叫びたくてぷるぷると震えているのは自覚していた。それだけの達成感が今、ここにはあった。ダンジョンの攻略に成功した程度でここまで喜ぶことができるとは、なんて捻くれたことを考えながら息を吐く。
「これで、クリアですね」
「ボーナスなんかなくてもこれは大儲けの予感がするぜ」
「一時は絶望すらしていたけど、まともに戦わなきゃ何とかなるわねー」
まぁ、いつものことだが
ただ、まぁ、疲れた。ものすごい疲れた。スキル関係をチェックするといつの間にか《使役術》がMに上げられるし、多くのスキルの要求SPが大幅に減っていた。やはりそれだけの価値はあるダンジョンレイドだったんだな、そう胸中でつぶやいて出口を探そうとしたところで、
『―――おぉ、マジで倒しちゃったっすね』
新たな人の声がした。
Name:マスター
Level:100
Status:
AP:485/485
筋力:70 魔力:119 敏捷:150 体力:150
Title:【錬金術師:中級】【Evil】【ネクロマンサー】【探究者】【畜生メガネ】
Skills:
SP:306/385
《死霊術:M》 《テイミング:M》 《超魔力:E》 《審美眼:C》
《エーテル干渉:C》 《闇魔法:M》 《語学:S》 《光魔法:M》 《キネシス:B》
《ポーションピッチャー:F》 《軍略:E》 《薬学:A》 《付与術:A》 《魔眼:M》
《深淵:F》 《外法:F》 《ミスディレクション:D》 《邪眼:E》 《使役術:M》
《カリスマ:E》 《幻想の色彩:M》