※この作品はR-18です。

乙女提督が着任しました。   作:蒼樹物書

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【13】

 「被害状況は以上です、司令」

 「了解です。まずは消火、弾薬庫周りは入念にお願いします。復旧は入渠設備を優先して下さい」

 

 未だそこかしこに火が残り、黒い煙を上げる鎮守府。

 そこに立ち、私の隣で被害状況を報告する霧島に指示を出す。

 

 あれから。

 一時間近くに及ぶ執拗な空襲を行った敵航空機部隊は、いち早く戦闘機を展開したあきつ丸、それに続き換装を終えた空母達。そして何より駆けつけてくれた陸軍の新型戦闘機によってその大半を駆逐、撃退に至った。

 話には聞いていたが、まさかこんな形で助けられることになるとは思わなかった。新型戦闘機、飛燕。初めて艦娘を介さず陸上から出撃可能な、陸軍の戦闘機。まさに虎の子を引っ張り出してきたのは、疑うでもなくパパだろう。全く。

 

 「入渠設備が復旧次第、高速修復材を全力投入。大破した者から修復を」

 「わかりました……あの、よろしいので?」

 「はい」

 

 眉を寄せながら尋ねる霧島。その視線は、担架で今軍用車に運び込まれようとしている彼に向けられている。

 

 あの時。

 作戦室の天井が空襲によって崩落した瞬間。

 彼は私に覆い被さるようにして庇ってくれた。

 不幸中の幸いで崩れ落ちた天井、直撃した部分は大きな塊ではなく私達を避けるように崩れてくれた。だが、彼は意識不明。命に別状はないようだが、意識がなく頭に破片が直撃してしまったことから京都市内の軍病院で精密検査を行うこととなった。付き添いには漣と北上が同行するそうだ。

 胸が、締め付けられる。目尻から零れそうなそれを必死に堪える。叶うなら、彼女達と同じように狂乱し、泣き叫んで彼の傍にいたい。その手を、握ってあげたい。けど。

 

 「可能な限り迅速に復旧します。そして」

 

 今現在、この空襲を行った空母の捜索が行われている。

 近海であれほどの航空機を展開可能な多数の空母型は確認されておらず、可能性としては単機で高性能、大搭載量を持つ鬼級・姫級の空母型が少数の可能性が高い。

 本部も今回の周到な襲撃、そして明確な戦略を持った動きから例の鬼級空母によるものであると確信しており、その脅威度は最高レベルのものとして扱われることとなった。ありとあらゆる手で以って捜索中、恐らく日本海側にいると思われる為発見までそう時間はかからないだろう。

 そうして、見つけ出したのならば。

 日本海側は私の、舞鶴の担当だ。

 必ず。

 

 「――この代償は、必ず支払わせます」

 

 それから二日後。

 目標の敵空母、鬼級深海棲艦は発見された。

 呼称名、空母水鬼。追撃、撃滅が舞鶴鎮守府に命じられることとなる。

 

◇

 

 静かだ。

 この季節の日本海にしては波が低く、風もほとんどない。凪の、海。

 

 「……金剛お姉様」

 「どうかしましたカ、榛名」

 

 縦一列になってそんな海上を進むワタシのすぐ後ろ、榛名が声をかけてくる。その榛名の後ろには、比叡、霧島、飛龍、蒼龍。あの演習と同じ編成。舞鶴の、全力の編成。

 ワタシ達は今、空母水鬼撃滅の為出撃している。

 

 「あの、呉の提督。榛名は、遠目に少ししか見れませんでしたが」

 「はい。提督の、想い人デショウ」

 

 知っていた。会うと分かった時の彼女の様子、傷つき倒れたあの男を見つめる彼女の表情。

 彼女の寝室に飾られた写真立ての男。

 ワタシ達の愛する提督の心は、彼の元にあるのだと。

 努めて穏やかであろうとしているが、内心は気が狂いそうなほどの嫉妬の炎が燃え上がり、この身は焼け焦げそうになっている。

 

 それこそ、あの男を殺してやりたいと思うほど。

 

 だが、そうすれば彼女は悲しむ。絶対に、許しはしない。あの男を傷つけた空母水鬼。私情を挟むべきではないという彼女の矜持を尊重し、指摘こそしなかったが今、提督は静かに怒り狂っている。それほどまでに、あの男を深く想っている。相手の方も、そんな彼女を庇っての負傷というのだから脈がないわけではあるまい。

 

 「……」

 「ダメですヨ、榛名」

 

 ワタシと同様、提督に恋焦がれる榛名も同じ気持ちだろう。目を細めた榛名を諌める。

 

 「――それにまだ、負けていませんから」

 「お姉様……」

 

 分かっている。これは、負け戦。

 彼女の心がワタシ達のモノになる可能性は限りなく零に近い。だったら応援し、祝福してあげるべきだ。彼女の、幸せを。

 そう理解していながらも、心は納得しない。だから、先送りにする。

 

 通信が入る。観測機が目標、空母水鬼を発見した。

 

 「だからまずは。人の恋路を邪魔する奴を、蹴り飛ばしに行きマショウ!」

 

◇

 

 冬の寒風が身に染みる、よく晴れたある日。

 私は鎮守府を一時離れ、京都市内の軍病院を訪れていた。彼の、入院先。ようやく初めて、訪れることができた。コートを脱いで、病院内に足を踏み入れる。

 受付で彼の病室を教えてもらう。個室らしい。

 

 目標、空母水鬼の撃滅に成功、作戦は完了した。

 これまでの深海棲艦と異なり戦略を持つ個体ということでかなり警戒をしたが、単艦で待っているかのように艦載機も出さず棒立ちだったそうだ。会敵、砲撃を開始するも無抵抗。鹵獲も一時考えたが、罠の可能性も考えそのまま砲撃にて轟沈させた。

 あまりにもあっけない幕引きに何かの意図を感じもしたが、結局はわからないままだ。

 

 廊下を歩き、階段へ。病院独特の、薬品の匂い。二階、その一室へ。

 有馬 望と書かれたネームプレート。その扉の前で、こっそり深呼吸を一回。少し震える手でノック。

 

 「どうぞ」

 

 ドアを開ける。彼は、ベッドで上体を起こし何やら書類仕事をしていたらしい。どこの鎮守府の提督も、書類に追われるのが常らしい。

 少し苦笑しながら、お疲れ様です、と見舞い品の果物籠を掲げてみせる。お気遣いどうも、という彼にお気遣いどうぞ、と返しサイドテーブルへ。傍らの椅子に腰かけさせてもらう。

 ここには私と彼の二人きり、鎮守府内では律したが平素の言葉、訓練学校時代の言葉使いにさせてもらう。

 彼は、『彼』のまま、流石に病院では女装していない。艦娘の前でない以上必要ないということだろう。

 

 入院して五日目、入念に経過を見るため一週間入院させられるとのことだが、そろそろ戻りたいと愚痴られる。時間だけはある環境に耐え切れず書類を持ってきてもらうようにしたそうだが、それでもやはり暇らしい。

 羨ましいよ、と昨日も遅くまで書類を片付けていたことを話す。彼も、普段はそんな様子らしい。本当に提督業は難儀だ。

 

 あ、そうだ、と。

 お礼参り、してきましたと冗談めかして言う。既に報告では聞いているだろうが、どうしても直接話したかった。

 ありがとう、お疲れ様と彼が言ってくれる。どんな階級の高い人からの言葉より、どんな勲章より嬉しかった。

 

 「――そっか。もう、僕も追い付かれるどころか追い抜かれちゃったかなぁ」

 「うん。主席は返上しなきゃだね」

 

 彼とこうして話していると訓練学校の頃に戻れる。

 時間も忘れ、会話を楽しむ。そうして。

 一時、会話と会話の合間。途切れた、瞬間。

 

 

 

 

 

 ――好きです。私と、お付き合いして下さい。

 

 

 

 

 

 彼の一瞬表情が固まり、次の瞬間耳まで真っ赤になる。

 我、奇襲に成功せり。とらとらとら。

 

 

 

                     【了】

 




これにて、乙女提督が着任しました。完結となります。
あとがきについては活動報告にてさせて頂きます。
多数のUA、お気に入り、ご評価、ご感想ありがとうございました。

次話として【EX】を投稿しておりますが、こちらは番外、BAD ENDになった場合のお話となります。ハード目、凌辱なお話になっておりますので苦手な方はこのままお戻り下さい。やだやだ乙女提督は艦娘にヤられなきゃやだーというお方はどうぞ。
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