さして広くない脱衣所に、阿武隈はひとり立ちつくしていた。
磨りガラスの扉の向こうで蛇口の栓をひねる気配がして、床を叩くシャワーの水音が聞こえだした。
待つべきか、服を脱ぐべきか、ひどく迷っていた。
阿武隈は片手で頬を軽く叩いた。顔を上げ、服のボタンに指をかける。
これは任務なんだ、受け身になっちゃいけない──そう念じて、上から順にボタンを外しはじめる。
数分前、私室の入り口で鉢合わせした提督に、阿武隈はしどろもどろになりながらも、なんとか事情を説明した。
陸奥から『艦娘の務め』を果たすように言われ、ここで待っていた──と告げると、提督は少し疲れたような表情で溜息をついた。
阿武隈と眼を合わさずに小声でシャワーを浴びることを告げ、脱衣所へと入っていく。
どうするべきか迷ったが、結局阿武隈は提督を追った。
脱衣所の入り口に立った阿武隈を一瞥すると、提督は服を脱ぎ、無言で磨りガラスの向こうに姿を消した。
普段から不必要なことをあれこれと話すタイプではないが、無口を通り越して邪険さすら感じられる態度だった。
出かけた先でなにか嫌なことでもあったのだろうか。それともあるいは、自分がここにいることがそんなに気に入らなかったのか。帰ってきた提督には、陸奥が話を通しておくという手筈だったのだが。
阿武隈の胸の中で、不安が渦巻いていた。
下着も脱いで全裸になると、部屋から持ってきていた自前のバスタオルを躰にしっかりと巻きつけた。
『背中を流す』とでも言って入れば、いかにもそれっぽい感じだ。
悪くない──阿武隈はひとつ深呼吸してから、シャワールームの扉を開けた。
提督は入り口に背を向け、頭から湯を浴びていた。
「し、失礼します……」
阿武隈が遠慮がちに声をかけると、提督は振り向きもせずハンドルに手を伸ばした。頭上のシャワーヘッドから勢いよく流れ出ていた湯が止まる。
「あの……お背中、流そうかと思って……」
提督が、ゆっくりと振り向く。
髪の先から水滴が滴り落ちている。阿武隈を、わずかに険のある眼で見つめた。
阿武隈は視線をそらした。提督の顔も躰も、まともに見られそうにない。
「脱げ」
低い声で、提督が言った。
阿武隈は驚き、顔を上げる。提督の顔には内面を窺わせるような表情がなかった。
「脱いで、躰を見せろ」
重ねて提督が言う。発した言葉には、拒否することを許さない気配が漂っていた。
阿武隈は逡巡し、のろのろとバスタオルに手をかけた。
震える手でタオルの両端を掴むと、目をきつく閉じ、前をゆっくりと開く。
心臓が早鐘を打っていた。
緊張して激しく波打つ胸を、提督に見つめられている。それを意識したとたん、頬へ血がのぼって熱くなる。
不意に、床で水音が鳴った。
驚いて目を開けると、眼前に提督が迫っていた。
「あっ──」
裸の腰に腕をまわされ、引き寄せられる。
唇が重なった。
無遠慮な提督の舌が、阿武隈の唇を割って侵入する。
「んっ……」
提督の硬い躰に包み込まれ、阿武隈の全身から力が抜けていく。
提督の舌が、口内でなにかを探し求めるように動きまわっていた。
阿武隈も口内でおずおずと舌を動かし、それに応えてみる。
舌先が幾度も触れ合い、複雑に絡んだ。ぬらぬらとしたその感触と、提督の唾液の味に、阿武隈はすぐに酔ったような感覚に陥った。
口を塞がれる息苦しさが、情欲を駆りたてている。
気がつくと、バスタオルが床に落ちていた。空いた手を提督の濡れた背にまわし、裸の躰を押しつけてきつく密着する。
提督の手のひらが、阿武隈の腰から尻にかけての部分に這わされた。ざらざらと荒れた男の手指の感触が、このうえなく愛おしく感じられる。
阿武隈の下腹部に、硬く熱い突起が触れた。
「……あっ」
阿武隈は思わず唇を離して下を向き、息を呑んだ。
硬直した男根が、阿武隈の顔へと切先を向けていた。
肩に、提督の手が添えられた。押し下げるように力をこめながら、提督が言う。
「床に、膝をつけ」
阿武隈が問うように見返すと、提督は頷いた。眼に、有無を言わせない雰囲気がある。
当惑しつつ、阿武隈はタイルの床に跪く。落ちていたバスタオルが、ちょうど膝へのクッションがわりの位置にあった。
間近で見る男根の表面には血管が浮き上がり、生きもののように脈うっていた。先端は粘液で濡れ、
雄そのものの気配を濃厚に発散させているその器官を眼の前にして、阿武隈は目眩を覚えた。
「舌を出して、舐めろ」
阿武隈は躊躇しつつ、言われたとおりに舌を差し出し、表面に這わせた。
提督が深い溜息を漏らす。
舐めはじめると、阿武隈は取り憑かれたように夢中になった。
舌の動きを徐々に大胆にしていくにつれて、提督が呼吸を荒くしはじめた。自分が提督に快感を与えているのだと意識すると、心の奥底から興奮が湧き上がってくる。
あらゆる角度から、余すところなく男根を舐め上げる。口唇での奉仕の技術については少し調べた程度だったが、ずいぶん前からそれを知っていたかのように自然におこなうことができた。
したたるほどたっぷりの唾液を男根に絡めつつ、右手で陰嚢を下から優しくさする。
「う……」
快感に耐えかねた様子で、提督が呻き声を上げる。
嬉しくなって、阿武隈はいっそうせわしなく舌を這わせ、男根の先端を吸った。
不意に、提督が阿武隈の二の腕を驚くほど強い力で掴んだ。
「立て」
勝手がわかってきたところでもあり、内心では奉仕を続けていたかったが、抗いがたい力で立ち上がらされる。
提督の眼の奥に凶暴な気配があるのを見てとって、阿武隈は思わず怯んだ。
「後ろを向いて、壁に両手をつけ」
怯えを押し殺し、言われたとおりの姿勢をとる。
提督が阿武隈の上体を片手で押さえ込み、なかば強引に尻をつき出させた。
恥部が露わになっているのを感じ、阿武隈は羞恥と不安で唇を噛んだ。
秘裂に沿って、男根がすりつけられる。
「あっ……やっ……」
興奮で鋭敏さを増している陰唇を刺激され、阿武隈は思わず声を漏らしてしまう。
提督は両手で阿武隈の外側を押し広げると、即座に加減なしで男根を挿し込んだ。
「んんんっ……!」
阿武隈は声を殺して呻いた。想像していたような甘い感覚ではなく、突き刺すような痛みと内臓を拡げられる圧迫感がほとんどだった。
提督が震えるような吐息を漏らし、阿武隈の苦痛を慮ることなく動作を始める。
「んっ──くっ──あっ──」
壁の冷たいタイルに両手をついて躰を支えながら、阿武隈は苦悶の声を上げる。背後から激しく突き上げられ、つまさき立ちの姿勢でバランスをとるのが精一杯だ。
提督は容赦なく律動を続け、阿武隈はきつく目をつぶって痛みに耐えた。
大丈夫、きっと、最初だけだから──必死にそれを、自分に言い聞かせていた。
やがて唐突に提督が低く唸るような声を上げ、躰を硬直させる。男根が激しく収縮し、阿武隈のなかに熱く粘る液体の感触が広がった。
抵抗する気力もなかったが、もとより両手でがっちりと尻を抱えられているため逃げようもない。
諦めて、提督のすべてを受け入れた。
放出しきった提督は深々と溜息をつき、手の力を緩めて阿武隈を解放する。
「あ……」
腰から力が抜け、阿武隈はその場にへたり込むように倒れかけた。
提督の手が伸び、阿武隈の腰と背中を抱きとめるように支える。
阿武隈は、提督の顔を見た。なぜだか、泣きだしそうな表情をしていると思った。
「……すまん」
提督が言う。
頬を伝う液体の感触で、阿武隈は自分が涙を流していることに気がついた。慌てて首を振り、提督の首にすがりついて接吻する。
「いいんです……これ、嬉し涙だから」
精一杯の笑顔をつくって、阿武隈は言った。
◇
阿武隈はひとり洗い場に残って念入りに躰を清めた。
自分の躰を簡単に流した提督は、去りぎわになにかを言いたげな表情をしていたが、結局は黙ってシャワールームをあとにした。
洗い場から出る前に、阿武隈は自分の下腹部をそっと押さえた。出血こそなかったが、いまだに鈍痛とかすかな異物感がある。
持ち込んだ自分のバスタオルは、床に落ちたせいでびしょ濡れになっていた。
仕方なく、脱衣所の棚に積まれていたバスタオルで体を拭いた。少し迷ったが、もう一枚取って躰にゆったりと巻きつける。
これほど暴力的な交わりは、予想していなかった。動揺はしているが、不思議と提督が怖いとは思わなかった。
提督の、泣き出しそうなあの表情を頭に思い浮かべる。
──なんだか、かわいそう。
そう考えて、自分の任務を思い出した。
壊れてしまうかもしれない──と陸奥は言っていた。
提督を癒やすのが、自分の仕事なのだ。へこんでいる暇なんて、ないはずだ。
自分を鼓舞するように頬を叩いて気を引き締め、脱衣所の外に出た。
下着姿の提督がベッドの縁に腰掛け、神妙な表情で缶ビールを飲んでいた。脱衣所から出た阿武隈に顔を向け、すぐに気まずそうに視線をそらす。
阿武隈はつとめて明るい表情をつくって歩み寄り、提督の隣に腰掛けた。
躰を心持ちすり寄せるようにしながら言う。
「あたしも、飲みたい」
提督は考えるように少し間を置いてから、黙って手の中の缶を差し出した。
阿武隈は若干の緊張を覚えながら受け取って、一口だけ飲む。ビールの苦味が舌の上に広がった。
「うー……苦ぁい。やっぱあたしこの味、苦手」
顔をしかめて阿武隈が缶を返すと、提督は小さく笑って受け取り、一口飲んだ。
「──俺もだ。正直、それほど美味いもんだとも思えない」
「じゃあ、お風呂上がり、いつも飲んでるってわけじゃないんですか?」
躰をさらに寄せ、少し甘えるような口調で阿武隈が訊く。提督は顔を伏せたまま答えた。
「めったにないな。このビールを買ったのも、もう何ヶ月も前だ」
残りを飲み干すと、提督は缶をベッド脇のくずかごに放り込んだ。乾いた音が響く。
気詰まりな沈黙が降り、かける言葉の選択に阿武隈が迷っていると、提督がつぶやくように言った。
「乱暴にして、悪かった」
阿武隈はいたたまれない気持ちで、ベッドに置かれた提督の手に自分の手をそっと重ねる。
「ほんとに、いいから、気にしないでください。ちょっとびっくりしたけど……ああいうの、そんなに嫌いじゃないかも、なんて思っちゃったりして」
冗談めかして阿武隈は言ったが、提督は暗い表情のまま顔を伏せていた。
提督の手を強く握りしめ、重ねて言う。
「あのね……あたし、提督の喜ぶことなら、なんでもしてあげる。ちょっとぐらい乱暴なのだって、平気だもん」
「もっと、気持ちよくしてやればよかった」
「ん……じゃあ──」
巻きつけていたバスタオルをほどいて落とす。提督の裸の肩に躰を寄せた。押しつけるだけの胸の大きさがないのが、ちょっとだけ口惜しい。
「──今度は、気持ちよくして……ね?」
提督が驚いたように阿武隈を見つめる。
阿武隈のほうから顔を寄せ、唇を重ねた。
シャワールームでの接吻とは違い、控えめで優しい提督の舌遣いだった。阿武隈の唇を丹念になぞり、お互いの舌先をノックするようにやわらかく押し合う。
恋人同士のキス──そんな言葉が阿武隈の脳裏をよぎる。
唇を離した提督が、阿武隈の胸の間を指の先でそっと撫でた。感嘆するように、しみじみと言う。
「おまえの躰は、ほんとうにきれいだ」
跳び上がるほど嬉しかったが、阿武隈はわざと不満そうに唇を尖らせた。
「……スタイルには、あんまり自信ないんですけど」
「そんなことはない」
提督が上体を曲げ、阿武隈の胸に顔を寄せた。
「ん……」
乳首を口内に含まれて、阿武隈は鼻にかかった声を上げた。提督の舌が、敏感な部分を探るように動いている。
もう一方の乳首が、提督の親指の下で転がされていた。
阿武隈は、風呂上がりでわずかに湿った提督の頭髪を愛しげに撫でる。
音をたてて乳首を吸う提督が、このうえなく可愛いらしい存在に思えた。
すべてを受け入れてあげたい。ぼんやりと、母親になるというのはこういう気持ちなのだろうかと考える。
唇を外した提督が床に膝をつき、阿武隈の正面にまわった。含むような視線で見上げてくる。
阿武隈は躊躇したが、思いきって脚を開いた。
提督が阿武隈の太腿を肩に担ぐようにして尻を抱え込み、秘所に顔をうずめる。
「あっ、ん……やっ……」
提督の口唇で、阿武隈のその部分がぴったりと覆われていた。襞と襞の隙間を、唇で徹底的に舐め上げられる。
阿武隈が体験したことのない快感だった。
あまりの快感の強さに、阿武隈が反射的に股を閉じようとすると、提督は腕を太腿にまわして抑え込んだ。
提督の頭髪が内腿の敏感な部分をくすぐるたび、阿武隈は自分の秘裂に愛液が溢れるのを感じた。それを、提督が音をたてて
「んっ……やだ……そんな音たてちゃ……」
こうした哀願が自分と提督の興奮を煽ることを、阿武隈は抜け目なく悟っていた。
提督が舌をいっそうせわしなく動かし、阿武隈は腰をくねらせて喘ぐ。
提督の指が、阿武隈の核心を覆う部分を押し上げながら広げた。唇が密着し、きつく吸い上げる。
電撃のような快楽が、阿武隈の脳を灼いた。
「あああっ……! だ、だめ、そこは、だめ……!」
腰をひねって逃げようとしたが、提督は許さなかった。
細かく回転する舌先に核心を刺激され、阿武隈は躰を反り返らせる。
すぐに、なにも考えられなくなった。
阿武隈は生まれて初めて、他人によって絶頂まで導かれた。
◇
ベッドの端に腰掛けた提督に、阿武隈は跨っていた。
「痛くないか」
提督は繋がったまま阿武隈を見つめ、優しい声で訊いた。
避妊具によって隔てられてはいるが、シャワールームのときよりも一体感があり、提督の体温も感じられる。
涙ぐみそうになりながら、阿武隈は頷いた。
「うん、気持ちいい。……提督は?」
「すごくいい。最初から、こうしてやればよかった」
「気にしないで。ちょっと乱暴な提督も……好きだもん」
好きと言ってしまうと、阿武隈は肩から荷が降りたような気がした。
提督が少し照れたように笑う。その笑みの裏でわずかに曇ったものがあるのを感じて、阿武隈は慌てて提督の唇に接吻した。
「ね、提督。どうしたらいちばん気持ちいい? あたしが動いたほうがいい?」
「いや、俺はいいから──」
「おねがい、教えて。提督に、気持ちよくなってほしいの。あたしの躰、めちゃくちゃにしてもいいから」
提督はしばらく逡巡している様子だったが、どうやら阿武隈の眼を見て踏ん切りをつけたらしい。小さな尻を抱え、軽く持ち上げた。
「──つらくなったら、言えよ」
阿武隈が頷くと、提督は動作を始めた。
両手に抱えた阿武隈の尻を上下させながら、自分の腰をわずかに前後に揺する。
はじめは遠慮がちな雰囲気が漂っていたが、次第に動きが激しくなり、挿入が深くなっていく。
「んっ──くっ──」
快楽よりも内部からの圧迫感が強まり、阿武隈は顔を歪めて苦悶の声を漏らした。提督が気遣うように言う。
「苦しいか」
「う、うん。──でも、やめないで。もっと、苦しくして」
提督は息を吸い、自棄になったように腰を動かしはじめた。阿武隈の内部を、硬い男根が蹂躙する。
下唇を噛んで痛みに耐えた。
薄目を開けて提督の様子を窺うと、すでに阿武隈の顔を見てはいなかった。結合部を凝視しながら、快楽を得るための動きに集中している。
「提督、気持ちいい……?」
顔を上げた提督は、表情を歪めて頷く。
「ああ。すごく締めつけて、痛いぐらいで……それが、どうしようもなく気持ちいい」
「いいよ……提督。遠慮しないで動いて。あたし、提督の道具だから、好きにして……」
提督の動きがより大きく、力を込めたものに変化する。
阿武隈の内部に強い痛みがあり、その奥に、かすかな快感の気配が篝火のように揺らめいていた。
唐突に提督が動きを止め、吠えるように息を吐いた。
阿武隈の中で男根が収縮し、切なげに痙攣した。
「あ……」
篝火が、ふと消えてしまった。
同時に、痛みと息苦しさがゆるやかに去っていく。
阿武隈は一抹の寂しさを覚え、小さく息をついた。
天を仰いだ提督の頬に両手を添え、唇と顎の間に接吻する。
「提督……ありがとう」
愛しい男の顔を見つめながら、阿武隈は言った。
◇
阿武隈は提督に後ろから抱かれ、ベッドの中に横たわっていた。
シャワーを浴びなおして髪も乾かし、スキンケアとブラッシングも終えて完全に寝る体勢ができている。お気に入りのパジャマを持ってきたことだけは、提督が笑いを噛み殺している様子を見て、さすがに用意が周到すぎたかと後悔した。
「なあ、阿武隈。ひとつ訊きたいんだが──」
寝たかと思っていた提督が、不意に口を開く。腕に抱かれた体勢の阿武隈は振り向かず、顔をわずかに傾けて答えた。
「なに?」
「……おまえ、髪を下ろしているほうが可愛いんじゃないか」
身構えていた阿武隈は、拍子抜けして呆れまじりの溜息を漏らした。
「そんなこと、ないです。髪色は派手だけど、あたし、けっこう地味な顔立ちだから」
「さっき鏡の前で髪を梳かしているのを見たら、ちょっとドキッとしたぞ。普通の美少女って感じだった」
「むぅー……もぉ、『だった』って、なに? 今だって、下ろしたままなのに」
拗ねたような口調をつくって、そっぽを向く。本気で怒ったと思われないように、甘えたニュアンスも含めておいた。
冗談めかした反応が返ってくると思っていたのだが、予想に反して意外なほど真剣な口調で提督は言った。
「ああ……だから、今もちょっとドキドキしてる」
「え……?」
阿武隈は振り返ろうと首をひねったが、提督の表情はよく見えなかった。
提督が阿武隈の首もとに顔を寄せ、続けて言う。
「それに、なんだかいい感じの匂いがするな。さっきはしなかったと思うんだが」
「えっと……乳液かな。あたし、いいの使ってて──あっ……」
うなじに唇を這わされ、阿武隈は鼻にかかった声を上げた。ぞくりとした快感が全身に満ちる。
「もう……ダメだってば。せっかく塗ったのに」
「知るかよ」
ぞんざいな言い方が、無性に嬉しい。
落ち着かなげに動かした阿武隈の尻に、硬い突起が触れた。その意外な硬度に驚きつつ、呆れた口調で訊く。
「提督、もしかして」
「ああ」
「……したいの?」
「ああ」
阿武隈は少し黙って、考えるふりをした。十分に焦らしてやってから、仕方ないといった感じで頷く。
「──いいよ。しよ」
「悪いな」
提督が枕元に置かれた箱に手を伸ばし、避妊具を取り出す。最初に中に出しちゃったんだから今さら──という気もしたが、きっとこれは提督なりの誠意の表れなのだと、阿武隈は好意的に解釈することにした。
「あの……服、脱ぎます?」
片腕に抱かれたままの阿武隈が訊くと、提督が首を振る気配がした。
「いや、下だけでいい」
言うやいなや提督の手がパジャマのズボンにかかって、下着ごとずり下げられる。
阿武隈が息を呑んでいる間に、提督の指が秘裂へと伸び、そこが十分に潤っているのを確認した。
「んっ……もう、仕方ないんだから……」
言いつつ阿武隈は期待に胸を膨らませ、提督が挿入しやすいように尻をつき出した。
手早く避妊具の装着された男根の先端が、入り口に密着する。
「あっ……入ってくるぅ……」
ゆっくりと、左右の壁を押しわけ、硬い男根が侵入してくる。
阿武隈の内部に侵入しきったあとも、提督は動作を始めようとしなかった。
「……提督?」
いぶかしむ阿武隈の問いに、提督は静かに答える。
「こうして、おまえのかたちを味わってるんだ。動かないほうがよくわかる」
言われて、阿武隈は自分の中に留まっている男根を意識した。内部でぴったりと密着しているので、たしかに提督のかたちがよくわかった。
「ほんとだ……」
快感が、内部からさざ波のように広がっていく。
目を閉じ、その感覚に身をゆだねようとした。
「阿武隈」
不意に提督に声をかけられ、阿武隈は現実へと引き戻される。
「ここを出ていこうとしたってのは、本当か」
「あっ……」
阿武隈は慌てて首を反らせ、提督を見ようとした。
「それは、そうだったんだけど……」
「本当なのか」
「あ、あのね、本気でそうしようなんて、思ってなかったの……誰かに、構ってもらいたかっただけ」
提督は黙ったままだ。
必死で背と首を反らし、阿武隈はやっと提督の眼を見た。じっとなにかを考えこむような、真剣な表情だった。
「ごめんね、提督……怒らないで」
阿武隈は提督の腕をさすりながら言いつつ、媚びるように腰を動かした。その部分から伝わる快感の強さに、阿武隈は内心で驚いた。
「べつに、怒っちゃいないさ。ただ──」
提督が中途半端に言葉を切る。その声色に、沈んだものを阿武隈は感じた。
必死で腰を動かす。それが、今の自分にできるすべてだと思えた。
「大丈夫、大丈夫だから、提督。あたし……家出なんかしない」
「阿武隈」
「あたし、提督の女だもん……どこに行ったって、それは変わらないから。だから、出ていったりしないの……」
「俺の、女……」
阿武隈は頷き、腰を懸命にくねらせた。
とろけるような快感だった。
切れそうな理性をなんとか保ちながら、阿武隈は続ける。
「そう。彼女とか、恋人とかじゃなくて。……ときどきでも、提督が、あたしとしたいって思ってくれたら、それでいいの」
「そんなんじゃ、おまえは──」
「嫌なことがあったら、乱暴にしたっていいよ。あたし……そういうのぜんぜん平気だし、提督のためなら、どんなことだって、応えてあげる」
「阿武隈……」
「……だから、キス、して」
提督は息を詰めたのち、阿武隈の顎を片手で支えながら、唇をそっと重ねる。
しばらく舌を絡ませ合ったあとで唇を離し、震える声で阿武隈は言った。
「……お願い、嘘でもいいから、好きだって言って。あたしの名前を呼んで、好きだって──」
提督は一瞬だけ悲痛そうな眼をしたが、すぐに笑んで阿武隈の耳に口を寄せ、それを囁いた。
快感に全身を震わせながら、阿武隈は目を閉じる。
この嘘を、いつまでも大事にしていこう──そう、思った。
◇
夜明けの直前、提督の胸の中に顔をうずめるようにして寝息をたてていた阿武隈は、室内のスピーカーから流れるサイレンによって目覚めた。
提督が跳ね起き、サイレンのあとに続いて流れる大淀の事務的な声に耳をすます。
鎮守府近海での深海棲艦艦隊の接近を、告げていた。