※この作品はR-18です。

艦娘抱けるかな   作:狂猫病

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言えない駆逐、仮りそめの時間 *

「──いいか」

 

 叢雲の入り口にあてがいながら、提督が尋ねる。

 指でずっと触れられていたせいで、その部分はもう十分に濡れていた。

 ソファーの上で顔を横向けたまま、叢雲は頷く。

 顔の表面がひどく火照って、熱かった。

 

「力を、抜いてくれるか?」

「……う、うん」

 

 がちがちに固くなっていることは、叢雲自身にもわかっていた。

 ストッキングと下着を太腿までずらされ、両脚を提督に抱えられている。

 お互いに、ほとんどの衣服を身に着けたままである。裸体でないのがせめてもの救いだが、剥きだしの局部を異性の前にさらけ出しているというそれだけで、叢雲は羞恥で全身に火がついたような思いだった。

 

「緊張してるのか?」

 

 少し笑みを含んだような口調で、提督が言う。

 叢雲は顔を上げようとしたが、眼を合わせることまではできなかった。

 ワイシャツの襟もとから覗く胸のあたりを睨みながら、答える。

 

「仕方、ないでしょ。初めてなんだから」

「──そうだな。つまらないことを訊いた」

 

 こだわりもなく、提督が言う。余裕のあるその態度が叢雲には羨ましくもあり、小憎らしくもある。

 先端を入り口にあてがったまま、硬直はそれ以上侵入してこようとはしない。

 気遣われているのが、心苦しかった。

 叢雲は、深呼吸する。こんなときにまで素直になれない自分が、情けない。

 

「大丈夫だから──挿れて」

「しかし、もっとほぐしてからのほうが、おまえも」

「いいの。痛いのなら、私は、平気だから」

 

 顔を見て、言うことができた。

 その距離の近さに、動悸が速くなる。

 提督の二の腕に手を添え、続けて言う。

 

「だから、来て──あんたの好きなように、動いて」

 

 

 

 挿入直後に感じた痛みは、だいぶ和らいできていた。

 叢雲は拳を噛むように口もとにあてがいながら、顔を横向けている。躰の上で提督が、ゆっくりとした動作を続けていた。

 ときおり提督が、大きな動きで、奥深くに腰を押しつけてくる。

 

「んっ……っ……」

 

 声にならない息が漏れた。

 気持ちいい、ってわけじゃない──叢雲は言い訳がましく思う。

 快感で声を上げたのではなく、躰の内側から強制的に圧迫されたことによる、ただの生理的反応だ。

 押しつけたまま、提督がわずかに腰を回す。

 ちゅく──と、結合部から確かな水音が響いた。

 叢雲は顔をいっそう熱くし、片手で覆い隠す。あまりの恥ずかしさに、とても提督の顔を見ることができない。

 ちゅく、ちゅく、ちゅく──。

 羞恥を煽るように、提督が腰を回し続ける。

 

「やっ……ちょっ、と……だ、め……」

 

 顔をそむけたまま、切れぎれに叢雲はうったえる。

 受けいれられるとは思っていなかったが、提督の動きがゆったりとしたものに戻っていった。

 安堵し、ひっそりと息を吐く。

 乱れかけた呼吸を整えつつ、下半身の結合部に意識を集中させる。提督は、ゆっくりとした前後運動を続けていた。

 苦痛は、かなり薄くなってきている。そのかわり、なにかもやもやとしたものが、膣内の奥に漂っていた。

 叢雲は、ソファーに横顔を押しつける。押しつけて、埋もれてしまいたかった。

 

 ──切ない。

 

 無性に切なくなっていて、やりきれない。

 口を覆った手の中に、幾度も息をつく。

 自分の抱いている感覚の正体が、わからない。その曖昧さが、叢雲には不安だった。

 突然、提督が動きを止めた。荒い息を、ついている。

 

「──すまない」

 

 突然謝られ、叢雲は戸惑いを深くする。

 自分がなにか、気分を損ねるようなふるまいをしたのだろうかと、自問する。

 提督は続けて言った。

 

「もっと、おまえが気持ちよくなるようにしてやりたいんだが──」

 

 提督の顔は、苦々しげに歪んでいた。

 もしかして──と叢雲は下半身に意識を向ける。

 提督は叢雲の内部で、はっきりと硬度を保っていた。萎(しお)れてしまっているわけではないようだ。男にはそういうことがあると、雑誌か何かの記事で読んだことがあった。

 ためらいつつも、叢雲は尋ねた。

 

「あの……どうしたの? もしかして、私──」

 

 提督は小さく首を振った。

 

「おまえじゃなくて、俺のほうの問題だ。……情けないことに、もう、いきそうで」

「え……」

 

 自嘲気味に、提督は唇を歪めた。

 

「おまえの初めてなんだから、もっと丁寧に長い時間をかけてしてやりたいが、とても、無理だ。こうして止まっているだけでも、あまり耐えられそうにない」

「……それって、よくないこと、なの?」

「いや、よくないことはない。むしろ逆に、よすぎるんだろう。相性も、あるかもしれないが」

「相性?」

「そう。つまり、構造の話だが。すごく、いい。極上と言ってもいい。──入り口はやたらきついくせに、中は柔らかくて……まさに、おまえそのものって感じだ」

 

 叢雲は、首を傾げた。提督が何を言いたいのかよくわからないが、叢雲の躰を褒めているのだろうということは伝わってきた。

 

「要するに──あんたは、私の躰で気持ちよくなってるってこと? それで、早く終わっちゃいそうなのね?」

「そうなんだ。申し訳ないことに」

「──馬鹿ね」

 

 叢雲は提督の頭の後ろに両手をまわし、引き寄せた。肩口のあたりで抱きしめる。上体に提督の重みがかかってきた。

 

「あんたが気持ちよくなってくれてるなら、それでいいわ」

 

 提督の髪に指をうずめながら、叢雲は言った。膣の内部で、提督がひときわ大きくなったように感じた。

 

「好きなように、動きなさいよ。そんなふうに気をまわされるのこそ、私は好きじゃないわ」

「しかし、まだ痛むだろう?」

「少しはね。でも、平気だって言ったでしょ。それに……少しぐらい痛いほうが、いいかも」

 

 叢雲は顔を横向け、テーブルの上にある吹雪のカーディガンを見た。提督と繋がる前に叢雲がそこに置いたのだが、余裕がなかったせいか雑な置かれ方で、片方の袖が端から垂れてしまっている。あとでしっかり畳みなおさないと──と叢雲は思った。

 提督が動きはじめた。ゆっくりと腰を波打たせてくる。

 

「くっ……んっ……」

 

 押し拡げられ、掻きまわされる感覚に、叢雲は息を詰めた。

 さすがに、痛む。

 だが痛みの奥に、なにか甘い感覚がある。

 

「痛いか」

 

 叢雲の耳の近くで、提督が問う。叢雲は頷き、提督の頭をきつく抱いた。

 

「うん……痛い、わ。痛いから、もっと、強くして。痛いの、嫌いじゃない、から……」

 

 応えるように、提督がより強く腰を押しつけてくる。

 苦しさは増したが、それにともなうように、妖しく艶めいた感覚が叢雲の内部に広がっていく。

 

「はぁっ、んっ……そう、もっと、強く、痛くして……痛いの、好き、よ……」

 

 叢雲は、言葉を乱す。

 提督も、息を荒くしていた。腰の動きは攻撃的なほどに、激しくなっている。

 

「くっ──ん、あっ──んっ──」

 

 叢雲は拳を噛む。抑えようとしても、声が漏れていく。

 一心に腰を振り続ける提督にはもう、叢雲を気にかける様子はない。痛みなのか快楽なのか、叢雲にはわからなくなりつつあった。

 突如、提督が前触れもなく動きを止めた。

 その瞬間だ。

 叢雲の内部で、提督が激しく痙攣していた。

 提督が歯を食いしばり、息を強く吸い込む気配がした。

 

「あっ……あぁ……」

 

 叢雲は声を上げる。内部で、提督の硬直が暴れ、震えていた。

 避妊具越しにその気配を感覚しながら、提督を抱きしめる。もっと深く、自分の中にこの男を刻みつけたかった。

 知らず知らずのうちに、提督の首筋に唇を這わせていた。

 男の肌と、汗の味がした。

 

 

 ◇

 

「……こうやっていつも、一緒にシャワーを浴びてるの?」

 

 叢雲が問うと、背後から提督の答えが返ってくる。

 

「いつもじゃないが、終わったあとでなら、たまに」

「恥ずかしがったりは、しない……わよね、みんな」

「そういうことも、あるにはあるが。そのうち、たいていどうでもよくなる」

「そうよね……やっぱり」

「ひとそれぞれさ」

 

 提督は笑うように、そう言った。

 その明るい調子に、自分が気遣われていることを意識して、叢雲はなんとも言えない心持ちになる。泡立てたスポンジを、胸もとで握りしめた。

 背中合わせでなら──などという条件をつけてしまったのは、やはり子供じみていた気がした。

 ソファーの上で躰を離したあと、一緒にシャワーを浴びるか──と提督から言われたときには、素直に嬉しかったのだ。

 嬉しいのに、叢雲はいつものようにそれを覆い隠してしまう。

 

 ──ありがとう、嬉しい。

 

 胸の内で、叢雲はつぶやく。

 それだけのことだ。

 それだけのことを、口にする勇気がない。

 裸を見られるのが怖いのと同じように、自分の気持ちを口にするのが怖い。

 

 ──なんて、半端者。

 

 羞恥心を持つ程度には子供でないくせに、開きなおれるほど大人でもない。

 性行為を経験しただけでは、自分はなにも変わっていないのだ。

 背後では、提督がシャワーの湯で躰を流していた。律儀に約束を守って、叢雲のほうを見ようとはしない。

 提督が湯を止め、ノズルをフックに戻す音がした。叢雲が黙っていれば、このままシャワールームから出て行くだろう。

 それは、嫌だった。自分の気持ちを伝えずに、このまま離れてしまうのは、すべてが無駄になるような気がした。

 手を後ろに振って、提督の手を掴んでいた。無言で握りしめる。

 一瞬の戸惑いの気配のあと、提督が優しく、握り返してきた。

 

「──どうした」

 

 背中を合わせたまま、提督が尋ねる。

 逡巡したが、叢雲は思いきって言う。

 

「──私、まだ、あんたにキスしてもらってない」

 

 言ってしまうと、全身から力が抜けていくような気がした。

 手を引かれて、振り向かされた。

 提督は、優しい眼をしていた。

 肩を抱かれ、唇を重ねられる。

 長い接吻のあとで、顔をわずかに離して提督が言った。

 

「されたくないかと、思っていた」

「そんなこと、ない」

「すまんな。気がつかなくて」

「……鈍いのよ、あんたは」

 

 言って、叢雲は顔を寄せ、提督の顎の横に唇をつけた。この期に及んでも憎まれ口を叩く自分が、嫌になる。

 吹雪なら──と考えてしまう。吹雪なら、もっと自然な愛情の示し方ができるのだろうか。

 ところどころに泡のついた躰を、提督にすり寄せた。

 

「わかりにくい女だって、わかってる」

「──おまえがか」

「そう、私。可愛げがないって、前から思ってる」

「ほう……」

 

 提督は叢雲の顔を覗き込むようにしながら、裸の背を撫でてきた。泡でぬめった肌触りに、叢雲は躰を震わせた。

 

「可愛げなら、あるだろう」

「お世辞はやめて」

「お世辞じゃない。──ほら」

 

 下腹部にこすりつけられる硬い感触に、息を呑んだ。

 見ると、提督が屹立して先端を天に向けている。叢雲はすっかり、目を奪われた。

 

「……なんで、そんなになってんのよ」

「勃っちまったんだからしょうがない。おまえのことを気に入ってるんだろう」

「……馬鹿」

 

 軽口を交わしつつ、まじまじと見つめてしまう。

 先ほどの交わりでは、こんなふうにはっきりとその形を見ることができなかった。感触から想像していたよりもずっと、大きいもののように感じられる。

 

「こんなに……大きくなるものなの? さっきまで、こんなじゃなかったのに」

「ずっとこのままだったら、病気かもな」

「……ほんと、馬鹿」

 

 硬直した触角は、違う生きものであるかのように脈動している。

 見つめているうちに、叢雲の中に好奇心が膨れ上がってきた。

 

「ねえ……触っても、いい?」

「ああ」

 

 おずおずと手を伸ばし、陰茎の中ほどにそっと触れてみた。

 びくん──と大きく陰茎が跳ね上がり、悲鳴を呑み込んで指を引いた。

 含み笑いをする提督を、叢雲は睨みつける。

 

「ふざけないで」

「わざとじゃない。不随意運動ってやつだ」

 

 叢雲は溜息をつき、あらためて陰茎に手を伸ばす。

 指先でおそるおそる触れ、思いきって軽く握り込むと、叢雲が畏れを抱くほどの熱と硬度が伝わってきた。手の中で脈打っている。

 握る手はそのままに、指を蠢かせて軽くさすってみる。

 触っているうちに、慣れてきた。先端付近にはわりと弾力が感じられるのが、意外な発見だった。

 提督が、小さく溜息をつく。

 

「──大丈夫?」

「ああ、気持ちよくて」

「これで、気持ちいいの? 触ってるだけよ」

「いや、上手だ。指が」

 

 提督が言葉を詰まらせた。

 

「──指が?」

「指が、細いんだな──おまえは」

「そう? よくわからないけど」

 

 叢雲はそう言って、小さく笑う。

 指の形が綺麗だというのは、吹雪や白雪からも以前に言われ、ひどく羨ましがられたことがあった。それを自慢に思ったことは今の今までなかったのだが、提督に自分の躰の一部分でも意識させることができて、悪い気はしなかった。

 そっと、空いた手の人差し指で、提督の鎖骨をなぞってみる。胸板に繋がって盛り上がっている部分が男性的で、好ましい。

 鎖骨の硬さと、胸板の弾力──その対比が、もう片方の手で握っている男性器の構造を叢雲に連想させる。

 性的な、昂ぶりを感じた。

 提督が叢雲を見つめていた。

 見上げた叢雲と、視線が絡む。

 自然と唇を寄せ合い、重ねた。どちらからともなく舌を突き出し、絡ませる。

 叢雲の手の中で、陰茎がいっそうの熱と硬度をもっていた。

 唇を離して、ゆっくりと陰茎をこすり上げる。

 

「こういうのが、気持ちいいの?」

 

 囁くように訊くと、提督は切なげに顔を歪めて頷いた。快感に必死に耐えているような様子が、叢雲には可愛らしく見える。

 手を下げて陰茎を握っている姿勢が、窮屈に感じられてきた。

 思いきって、床に跪いてみる。

 堂々と屹立した男根を眼の前にして、叢雲は緊張を押し隠しながら言った。

 

「まったく……慎みってものがないのね、これは」

「さんざん育てておいて、それはひどい」

 

 苦笑混じりに言った提督は、少しだけ余裕を取り戻してきたようだった。

 叢雲は小さく鼻を鳴らし、ふたたび手の中に握り込んで、上下に動かしはじめた。

 作業に、集中する。

 注意深く穏やかな刺激を加えながら、その器官を穴のあくほど見つめた。手のひらへ伝わってくる熱に誘引されてか、無意識に頬を寄せていた。

 

「……すごく、熱いのね、これ」

 

 頬ずりしながら、うっとりと叢雲は言う。同時に、眼の前の陰嚢にも手を伸ばしていた。

 下から支えるように、優しく、表面を撫でてやる。

 提督が呻くように息を吐いた。

 

 ──撫でられるの、気持ちいいのね。

 

 凶悪な雰囲気のある男根部分に比べると、陰嚢のほうは比較的ユーモラスな形状で、愛らしさすらある。

 愛玩するように撫でまわし、口づけし、さらに追い詰めるように舌を這わせる。

 提督が、呼吸を荒くする。

 叢雲もまた、腿の間が熱くなっていくのを自覚していた。両手がふさがっているので、触れて確かめることも、慰めることもできない。落ち着かない気持ちで、太腿をこすり合わせる。

 

 ──ああ、好き。大好きなの。

 

 胸の内で言いながら、男性器のあらゆる部分に舌と指で触れていく。透明な粘液の滲(にじ)む先端に、幾度も口づけした。

 提督が、叢雲の両肩を掴んだ。

 

「叢雲」

 

 呼ばれて、見上げる。

 微笑むことができた。

 視線を合わせたまま先端の裏側を、舌先でちろちろとくすぐってやる。

 

「叢雲」

 

 ふたたび、提督が呼んだ。切迫した気配が、濃くなっている。

 叢雲は唇をわずかに外し、言った。

 

「もう、だめ?」

「ああ──もう、出てしまいそうで」

「そう……」

 

 満足感を押し隠して、叢雲は意地悪げに笑ってみせる。

 膨らみきっている先端に軽く口づけしてから、言った。

 

「いいわ。出しなさいよ」

「──そのままだと、躰を、汚す」

「構わないわ。出して、汚して」

 

 両手で陰茎を、包み込むように握った。胸の前で、祈るようなかたちに捧げ持つ。

 提督を見上げながら、速度を上げてこすり上げた。

 手の中で陰茎が膨らんだ次の瞬間、爆発していた。

 勢いよく飛び出した滴が顎の先にかかり、さらにより濃い白濁が叢雲の胸に散っていく。

 

「ああ……」

 

 粘った白濁液から発散される熱と匂いに、叢雲は目眩を起こしかける。

 生命を持つもの特有の熱と、匂いだ。

 力を失っていく陰茎を愛おしさをこめて眺め、叢雲はやがて優しく唇をつけた。

 

 

 ◇

 

 提督私室のベッドの上で、叢雲は組み敷かれていた。

 お互いに、衣服は身に着けていない。

 羞恥心はない。

 広げた両手を制された体勢で、唇を重ねている。

 貪っている。

 貪欲に、舌を絡めている。

 

 ──欲しい。

 

 叢雲の頭の中には、その思いしかない。

 この男のすべてを、欲していた。

 肉体のあらゆる部分で繋がって、すべてを吸いつくしてしまいたい。

 シャワールームで見たあの白い爆発を、躰のいちばん奥で受けとめてみたかった。

 叢雲は舌を絡ませながら、しきりに男の唾液を求めている。

 吸って、味わい、嚥下する。

 

 ──あ(・)れ(・)に比べれば、ずっと甘い。

 

 陶然としながら、叢雲は思った。

 唾液をこんなにも求めるのは、あからさまな代償行為であると、自覚していた。

 

「んん……」

 

 接吻したまま、叢雲は鼻にかかった声を上げた。

 提督の器官の先端が、叢雲の濡れた秘裂をしきりにくすぐっている。

 幾度も触れては押しつけられるのだが、挿入は果たされない。

 

 ──焦らされてる。

 

 それはわかっている。

 わかってはいても、欲望は勝手に燃え上がる。

 押しつけられるタイミングに合わせて腰を上げ、迎え入れようとした。

 提督が敏感に察知し、腰を引いて離れる。

 

「んん……もう……!」

 

 叢雲は顔をしかめた。抗議の意思を込めて、睨みつける。

 

「意地が、悪いのね」

 

 叢雲が言うと、提督は微笑む。いかにも意地悪く笑ったつもりなのかもしれないが、その眼差しのやわらかさに、叢雲は一瞬見とれてしまう。

 すぐに我に返り、唇を尖らせて横を向いた。

 提督はいっそう笑った。

 

「欲しいんなら、言えよ」

「……わかるでしょ。いちいち聞かなくたって」

「わからんさ。俺は鈍いらしいからな」

 

 そう言うと提督は、叢雲の首筋に口づけした。

 

「あ……」

 

 血管を探るように、提督の舌先が動いている。

 唇の触れたところの皮膚から、ぞくぞくとした快感が叢雲の全身に走っていった。

 もういくらも、我慢してはいられなかった。

 提督の耳もとに顔を寄せ、囁く。

 

「ねえ……お願い。欲しいの。あなたが欲しいの。あなたのあれが欲しいの。あなたの硬いのが、ほんとうに欲しいの。あれを、私のなかに、ちょうだい──」

 

 口をついて出る言葉の卑猥さに、自分で驚いていた。

 驚きながら、同時に確かな興奮を感じている。

 自分は淫乱なのかもしれない──と叢雲は思った。

 

「偉いな、叢雲」

 

 提督が叢雲の頭を抱えるようにして、撫でる。全身の肌と肌が触れ合っていて、暖かい。

 心から嬉しくなった。

 裸の、男と女なのだ。

 意地も見栄もない。

 繋がって、ともに快楽を求める。今はただ、それだけだ。

 提督が、ベッド脇にある避妊具の紙箱に手を伸ばした。

 その手を、叢雲は掴んで止めた。

 

「ねえ、それは、嫌」

 

 叢雲は懇願する。

 今度は絶対に、隔てられたくなかった。直接、触れ合いたい。

 

「リスクがある。わかってるか」

 

 提督が叢雲を見て言う。

 叢雲は、提督の腰に手をまわした。

 

「わかってる……けど、お願い。あなたと繋がりたいの。ひとつで、いたいの」

 

 しばらく逡巡したのち、提督は息をついた。

 

「できるだけ、外に出すようにする」

「……うん、ありがと」

 

 頷いて言って、提督を抱き寄せるようにして促す。

 提督が腰を沈めてきた。

 硬直が入り口にあてがわれると、叢雲はすぐに脚を開いて受け入れた。

 

「はっ、あぁぁん……」

 

 分け入ってくる硬い感触に、声を上げていた。自分のものとは思えないような、甘い声だった。

 痺れるような快感と、一体になれた悦びで、泣きそうになる。

 提督が、ゆっくりと腰を前後させてきた。

 

「あっ……やっ……ん」

 

 雁首が膣の内壁をこすり上げる感覚で、叢雲は反応を強制される。

 口もとを片手で覆ったが、声が漏れるのを止めることはできなかった。

 

「可愛いな、叢雲」

 

 叢雲の髪を撫でながら、提督が言った。

 

「んっ……」

 

 叢雲は躰を震わせる。全身が──それこそ髪の先まで敏感になっていて、男の指先や声の刺激だけで達してしまいそうだった。

 男が、唇を重ねてくる。叢雲は応える。

 唇を合わせながら、突き上げてきた。しがみついて、躰を震わせる。

 満ち足りていた。

 この瞬間瞬間には、自分の求めていたすべてがあると、そう思った。

 唇を離して、叢雲は言う。

 

「おねがい、ぎゅって、して」

 

 応えて、提督が叢雲の肩を抱く。優しく、穏やかな力が加えられてくる。

 叢雲は首を振った。

 

「もっと強く、抱いて。痛いくらいに。壊れるくらいに。──今だけでも、私を離さないで」

 

 より強く、密着する。

 男の肩に、叢雲は顔を埋める。

 硬い躰に唇をつけ、声にならない声で言う。

 

 ──あなたが、好き。

 

 やがて、閉じた瞼(まぶた)の裏が白く輝きだし、何も考えることができなくなっていった。

 

 

 ◇

 

 叢雲が頬へと軽く接吻すると、ゆっくりと男は目を開けた。

 

「──起きてたか」

「つい、さっきね」

 

 まだ早朝と言える時刻で、外からの光で部屋がわずかに薄明るくなってきていた。

 男はベッド脇の時計を眺めつつ、頬を掻いている。

 

「いま、なんかしたか」

「なんかって?」

「なんかだよ」

「してないけど──べつに、なんにも」

 

 素知らぬ顔で、叢雲はとぼけてみせた。提督に見えない角度で、ひとり微笑む。

 

 

 起きることにした。

 執務室のソファーに並んで座り、朝食をとる。

 提督がありあわせの材料で手早くつくったサンドイッチと、ドリップして淹れたコーヒーだけの簡素な食事だった。それでも昨日の昼からいっさい食事をとっていなかった叢雲には、これまでにないほど美味しく感じられた。

 本当は和食のほうが好みなんだけど──などと叢雲が言ってみせると、提督は笑った。次は味噌汁でもつくってみるか、と返してくる。

 次、と言ってくれたことが嬉しくて、サンドイッチを口にしながら叢雲は、胸の奥に暖かいものが満ちるのを感じた。

 

「──訊くのを忘れていたが、ミルクと砂糖は入れなくていいのか」

 

 あらかたを食べ終わり、コーヒーを口にしたところで提督が言った。

 

「普段は入れてるけど、今はいいわ」

「入れるなら、持ってくるが」

「いいの。あんたが入れないから、私も入れない」

 

 微笑みながら叢雲は、袖余りの両手で握ったマグカップへ口をつける。

 スウェットの上だけを、提督から借りて着ていた。当然サイズが大きく、ちょっとしたワンピースのように着られてしまったこともあり、それ以外には中に下着を着けているだけだ。剥きだしの両脚が、少し涼しい。

 ブラックのコーヒーは思ったほどは苦くもなく、深い味がした。

 

「昔は、コーヒーに砂糖もミルクも入れずに飲むやつの気が知れない、なんて思っていたな」

 

 提督が言った。

 

「昔って、いつ?」

「高校の頃ぐらいかな。そのあたりから、入れずに飲むほうが多くなった」

「きっかけは?」

「なにも。最初はただ面倒で、苦いのを我慢してそのまま飲んでいた。いつの間にか、甘いばかりなのがそれほど美味いものとは思えなくなった」

「舌が、大人になったのよ」

「どうかな。味に慣れたってだけじゃないか」

 

 提督がカップを口に運ぶ。

 その横顔を見つめながら、叢雲は満たされた気持ちになる。他愛もない会話が、この上もなく幸せだった。

 執務机の上の、電話が鳴った。

 提督が舌打ちをして立ち上がり、机まで歩いていく。

 叢雲は、傍らに置いてあった吹雪のカーディガンを見つめた。夜の間テーブルに置きっぱなしになっていたせいで少し皺ができていたが、食事の前にきれいに畳みなおしたばかりだ。

 

 ──わかってるわ、吹雪。

 

 胸の内でそう言って、目を閉じる。

 借りものの服と、仮りそめの時間だ。

 吹雪は、強いて返せと言うことはないだろう。しかしそれに甘えることだけは、自分に許してはならない。

 屋上で半袖になっていた吹雪の笑顔を思い出す。

 叢雲は微笑んだ。強がってばかりなのは、自分も吹雪も同じなのかもしれない。

 受話器を戻す音がした。それほど長い通話ではなく、提督は幾度か短い相槌をうっていたようだった。

 電話に手を置いたまま、提督が硬い表情をしていた。何かを考え込んでいる。

 不安が、叢雲の胸に差し込んできた。

 声をかけようとした瞬間に、提督が顔を上げた。

 

「悪いが、コーヒーを飲み終わったら着替えて部屋に戻ってくれ。そのうち放送と連絡があるだろうが、これから忙しくなる」

 

 忙しくなる──? 叢雲の心拍が速くなる。

 

「それは、何かあったってこと? 今の電話は──?」

 

 叢雲が問うと、提督は苦いものを噛んだような表情をした。

 

「当直の陸奥からだ。前線基地からの連絡で、金剛や赤城が手ひどくやられたらしい。防衛ラインを抜けて、一両日中にも敵艦隊が近海へ侵入する。──迎撃戦だ」

 

 

 

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