目を開けた提督を、吹雪が穏やかな表情で覗き込んでいる。
首の後ろに吹雪の柔らかい腿を感じた。執務室で昼食を終えたあと、膝枕をさせたまま寝入ってしまったのだった。
眼が合って、吹雪が微笑みかけてくる。
「お目覚めですか、司令官」
「──悪いな、重かっただろ」
「いいえ、ぜんぜん」
「いつの間にか寝てしまっていたな。もう昼休みも終わる頃合いか」
「はい。あと5分ほどで」
「こんなに寝るつもりはなかったんだがな。ちょっと目を閉じたらこれだ」
「よかったと思いますよ。この一週間、司令官は夜も満足にお休みになれない状況でしたから」
「ようやく、昼寝くらいの余裕はできたってところだな」
「あの……今日は、もう少しお休みになっていても」
「いや──」
提督は躰を起こし、伸びをした。
「──そろそろ陸奥が来る。打ち合わせの約束をしてあるんだ」
「あ、今度の作戦の件ですね。私も同席したほうがいいですか?」
「いや、今日は細部の確認だけだから、いい。おまえのほうの午後の予定は?」
「ええと、とりあえず工廠に行くつもりでした。交換用装備の仕上がり個数の確認です。急がなくてもいいよと明石さんはおっしゃってくれましたけど、それなりに数があるそうなので早めにやっておこうかなと」
「なら、そっちへまわってくれ。作戦は明日の午後に最終ブリーフィングがあるから、そのときにおまえも立ち会っておけばいい」
「わかりました。──じゃあ、入り口の鍵、開けてきますね」
吹雪がソファーから立ち上がった。閉めきってある執務室の扉にむかう。
「吹雪」
「はい?」
呼び止められて、吹雪が提督を振り返った。
「さっきまで、夢を見ていた。昔の夢だった」
「昔……って、いつぐらいの?」
「たぶん、艦娘が20隻も揃ってない時期だな。まだ前線基地もないし、鎮守府もいちばん古い建物だった頃のだ」
「へえ……どんな夢だったんです?」
「それがな──」
提督は、ソファーの背にもたれて息をつく。
「全然、誰もいなくなる夢だ。鎮守府のどこを探しても、艦娘たちは誰もいない。皆が勝手に出撃していってしまったかと、俺がひとりでおろおろしてるっていう、そういう夢だった」
「誰も、いなかったんですか……?」
「そう、誰も。たしか陸奥や赤城の姿を探したが、見つからなかった」
「私も、ですか?」
「おまえもだ」
吹雪は振り返った姿勢のまま、提督の顔を見つめていた。やがて、笑顔を向けて言う。
「大丈夫ですよ、司令官。誰も、勝手にどこかに行ったりなんかしません。私たちはみんな、ここにいるんですから」
◇
深海棲艦の大規模な反攻が発生してから、一週間が経っていた。
すでに、近海における敵艦隊の跳梁は終息に向かいつつある。遠洋の防衛ラインは突破されているものの、所属艦娘のほぼすべてを投入した最初の迎撃戦で鎮守府は完勝を収め、制海権を維持することに成功していた。
ここ数日では、日に数度、小規模の敵艦隊や単独行動の潜水艦相手の小規模な戦闘が発生する程度にまで、近海の状況は落ち着きが戻っている。
隠れた深海棲艦の一団が密かに
「──大筋はこのままでいい。細かい作戦時刻の変更と、いくつか補足を入れておいた」
提督はローテーブルの上に冊子を置き、ひとり掛けに座る陸奥のほうへと滑らせた。表書きには『前線基地救援作戦 概要』とある。
昨夜のうちに、陸奥から提出されていたものだった。今朝の明け方近くまで、その作戦計画書の精読と修正作業に提督は没頭させられていた。
テーブルの上で冊子を開いた陸奥が、前屈みの姿勢でゆっくりとページを繰っていく。
最後のページまで確認し終えて、陸奥は顔を上げた。
「本当に、あまり大きな変更はないようね。長門が一生懸命頑張って作った甲斐があったかしら」
「おまえが手伝ったものだと思っていたが」
「ほんのちょっとアドバイスしただけ。いい出来だったのなら、ちゃんと長門を褒めてあげなさいよ。きっと喜ぶわ」
「そうだな」
提督の短い返事に陸奥は小さく肩をすくめ、作戦書へと視線を落として口を開く。
「旗艦は長門ね」
「当然だ。前線の制空権は敵に取られているし、作戦にはそれほど多くの艦娘を割くことはできない。敵の包囲を突破するのに必要な打撃力も考慮に入れて、この作戦の立案者でもある長門が仕切るのが最善だろう」
「なるほどね。あと問題なのは、金剛たちの引き上げのほうなんだけど」
陸奥が思案顔をして言う。
救援作戦は、二段階で構成されている。
前線基地への救援艦隊の派遣、敵包囲陣の撃破を作戦の第一段階とすると、第二段階は損傷した艦娘たちの鎮守府への退却を目的としたものである。
防衛ラインを突破された際の激しい戦闘で、それぞれ前線司令・副司令の任を負っていた金剛と赤城が大破、自力航行が不可能な状態にまで追い込まれていた。
前線基地の修復設備では、大破した艦娘の損傷に対応することができない。鎮守府まで撤退させ、
「金剛と赤城のほかにも、何隻かの艦娘は撤退させる必要があると思うわ。近海防衛のための戦力を考えると、大艦隊を差しむけて護衛させるってわけにもいかないわよね」
「現地の四水戦とは連絡がとれたか?」
「今朝、由良と少しだけ通信したわ。短い時間だったけど、なんとか作戦の概要を伝えることだけはできたかしら。少なくとも、彼女たちが金剛や赤城の護衛役を務めることになるということだけは」
「──それで、由良は?」
「やれます、と。四水戦も相当疲労しているだろうけど、弱音はひと言も吐かなかったわね」
前線基地には現在、阿武隈を旗艦とする一水戦と、由良を旗艦とする四水戦の、ふたつの水雷戦隊が駐留している。
通常では前線に駐留する水雷戦隊は一部隊だけのはずなのだが、四水戦から一水戦への引き継ぎ作業が遅れていた事情で、深海棲艦の襲撃時には二部隊が前線にいる状況が偶然生まれていた。
四水戦に所属する艦娘たちからしてみれば、二ヶ月半の前線勤務から解放される直前に激しい戦闘に巻き込まれ、敵の包囲を受けるという不運な事態だった。
しかしながら基地を防衛するために十分な数の艦娘が現地に揃っていたことは、不幸中の幸いであったと言えるのかもしれない。
作戦の第二段階の主目的である大破艦の撤収において、現地から近海までの護衛艦隊を四水戦が務めることになっている。彼女たち自身が護衛を必要とするほどのレベルで消耗しているはずなのだが、戦力バランスの関係上、ほかに方法が見つからなかった。
「由良と四水戦には申し訳ないが、やってもらうしかない」
「一隻も損なわずに──というのは、今回ばかりは難しいかも」
「それでも、やってもらう。艦娘を失うことはできない」
提督の顔を、陸奥がじっと見つめてきた。
「例の話、本当だと思ってる? 沈んだ艦娘は、深海棲艦になってしまうっていう」
「……そういう説もあるってだけだ。前例がないから未検証でもあるしな。検証しようとも思わんが」
「その説を唱えてたのが、艦娘理論の提唱者でもある貴方のお父さんなんでしょ?」
「実際に艦娘を創れたからといって、親父の理論が何もかも正しかったということにはならんさ。言い出した当人が消えちまったのも、吹雪が完成する前だ。どういう根拠があってそんな理屈を言っていたのか、確認のしようもない」
提督は息を吐き、ソファーの背もたれに躰を預けた。
「とにかく──こちらからは由良たちの帰路へ可能なかぎりの支援をおこなおう。航空隊と、別方面への陽動だな」
「わかってる。そっちの手配も整えて、明日のブリーフィングまでには概要をまとめておくわ」
陸奥は、持ってきていたファイルに作戦書を綴じ込んだ。
「──ところで、金剛と赤城を戻すのなら、その後任を決める必要があるわね」
「ああ、それか」
提督は目頭を揉んだ。昼寝して少しは解消されたとはいえ、昨夜の作業の疲労が残っていた。
「司令は長門に引き継がせる」
「まあ、それはそうよね。副司令のほうは?」
「未定だ」
提督は短く答えた。
実際のところ、後任問題には頭を悩ませている。
格や実績からすれば現地にいる加賀か金剛型のいずれかに任せるのが適当だろうが、艦娘たちの細かい損傷の程度が掴めていない。場合によっては金剛や赤城と一緒に撤退させることになる。また、彼女たちの前線での滞在日数の長さも、責任ある立場に置きにくい理由のひとつだ。
となると、鎮守府から後任を選抜する必要があるのだが、これも諸事情により簡単にはいかない。大規模な艦隊運用の経験と能力を有する者というのは、200隻近くいる艦娘の中でも貴重な存在であった。
視線を上げて、提督は陸奥を窺う。
てっきり何か文句を言ってくるものと予想していたが、陸奥は押し黙っていた。部屋の窓へと顔を向け、外を眺めている。青空と、太陽の光を反射している工廠の三角形の屋根が、窓からは見えた。
「──わかったわ。じゃあその件は、貴方に任せるわね」
陸奥が提督に視線を戻して言った。
「早いうちに決めておく」
提督の言葉に頷き、陸奥は軽く伸びをしながらソファーに躰を沈めた。
「あーあ……でも、残念だわ」
「なにがだ」
「長門のこと。せっかく、貴方といい感じになってきたってところだったのに」
陸奥はソファーの背もたれに躰を預けたまま、眼だけで提督を見つめてくる。
「薬も、やっと最近から
「薬?」
「ピルよ。低用量のね」
こともなげに言った陸奥を、提督は唖然として見つめた。
「ピル、だと?」
「そうよ、当然でしょ。セックスしてるんだもの、貴方たち」
「……いちおう、避妊には気をつけてるつもりだが」
「勢いでゴムも着けずにしたことがあるんでしょ。まさか外に出してるからいいんだとか、そういう幼稚な言い訳でもする気?」
提督は絶句した。陸奥はしかつめらしい顔で続ける。
「べつに孕ませる覚悟でしてるんなら、私からは文句もないけど。いい大人なんだから、行動にはもっと責任をもちなさい」
「責任、なあ……」
「ま、どっちにしろ、その手の医薬品は正式に仕入れてもらうつもりだったんだけどね。妙高や明石とも、そのことで話をしたことがあるのよ。避妊とは無関係に、女の躰にはいろいろとメリットが多いから」
含むような言い方をして、陸奥が見つめてくる。提督は溜息をついた。
「面倒そうな話題だな」
「変なところで純情よね、貴方。セックスのほうは平気なのに生理の話は苦手って、変なの」
「うるさいな」
「なんかトラウマでもあったりするわけ?」
「黙ってろ」
陸奥は肘掛けに頬杖をついて、くすくすと笑った。
「まあ、いいわ。こんなところで勘弁してあげる。──ところで、このあとのご予定は?」
「予定? 俺のか。とりあえず、今日は溜まった書類仕事を片付けてしまおうと思ってた」
「書類って、戦闘詳報の取りまとめとか予算の申請書とか?」
「そうだ。こんなときでも、書類仕事はいつものように溜まっていく」
「それ、手伝ってあげてもいいわ。ていうか、私が全部やってあげる」
「なに?」
提督は思わず眉をひそめた。美味しい提案ではあるのだが、言い出したのが陸奥というのが気にかかる。
悪戯な笑顔を、陸奥は浮かべていた。
「で、そのかわりなんだけど──」
手に持っていたファイルを、提督のほうに差し出してくる。
◇
「出立前の貴重な休みを邪魔して悪いな、長門」
提督が言うと、長門は窓枠にもたれかかるような姿勢のまま首を振った。
休みのためか見慣れたいつもの服ではなく、長袖のTシャツにジーンズという私服姿だった。どちらかといえば地味な格好ではあるのだが、それが逆に長門の
「することもなくてちょうど退屈していたから、むしろありがたい。わざわざ部屋まで持ってきてくれるとは思っていなかったから、少しびっくりしたが」
長門が視線を動かして、提督の手にあるファイルを示した。
提督は、カバーの掛けられているベッドに座っていた。膝の上で、作戦計画書の綴じられているファイルを開く。
「とりあえず、さっくりと終わらせてしまおう。──こっちに来てくれ」
長門を隣に座らせ、提出された作戦計画書に対する変更、補足事項を提督は説明していった。
初めのうちは緊張した面持ちで躰を硬くしていた長門であったが、次第に身を乗りだすように聞きはじめ、説明の終わりにさしかかかる頃には肩が触れあわんばかりにまでなっていた。
「──いろいろと細かい修正を入れさせてもらったが、最終的には現場で柔軟に判断していい。艦隊戦なら、俺よりもおまえのほうがよくわかっているはずだ」
「いや、細かく問題を指摘してもらって、本当に助かる。陸奥にもよく言われるが、やはり私の立案では大雑把にすぎる」
「そうでもない。──いい出来の作戦だ。ほとんどおまえひとりで作ったと聞いて、驚いた」
若干の照れを覚えながら提督が褒めると、長門は嬉しそうに微笑んだ。普段の張り詰めた雰囲気からは想像もつかないほどかけ離れた、十代の少女のような笑顔だった。
提督はぎこちなく視線をそらした。
「……ただ、問題がひとつ残っていてな。副司令の後任が決まらないんだ」
「副司令──赤城の後任か」
「金剛たちを撤退させたら、司令はそのままおまえが引き継ぐことになる。が、副司令については適任者がなかなか決まらない。当面は、現地に残る大型艦の誰かに任せることになりそうだ」
「妙高か、龍驤あたりを作戦のメンバーに加えるというのは?」
「妙高は前線から戻ってまだ日が浅い。空母勢については、基地周辺の海域に安全な展開スペースを確保するまでは派遣を控えたい」
「ふむ、なるほどな……」
長門は自分の顎に手を添えて思案しつつ、提督の膝上にある計画書をめくって参加艦艇の一覧を探した。
「──たしかに、作戦後の人事については考えが及ばなかった。救援部隊の副艦は長良と球磨にやってもらうつもりだったのだが」
「どちらも小規模部隊の指揮には適役だが、基地の副司令となるとな。裏方や補佐で資質を発揮するタイプじゃない」
「となると、このメンバーからは──」
長門がいっそう身を乗りだして計画書を見つめる。提督の眼の前で、黒髪のひと房が垂れ落ちた。長門はそれを、なにげなく耳の後ろへかき上げる。
女らしい、清潔な香りがした。唐突に介入してきた性的な気配に、提督はどことなく息苦しさを覚えていた。
「──難しいところだな。私も陸奥も、そういう観点ではメンバーを選んでいなかった。だからといって新しい誰かを編成に加えるというのも──」
ひとり話し続ける長門の横顔を、提督は見つめていた。
端正な薄い唇が動いている。塗られているのはリップクリームだろうか、表面がわずかに艶を帯びた朱の色をしていた。
手を伸ばし、その唇に親指で触れた。
長門が、電流を流されたように硬直する。見開いた眼で、提督を見つめてくる。
引き寄せて、接吻した。
リップクリームのせいか、どことなく甘い唇だった。柔らかい感触の奥に、緊張した硬い気配が感じられた。
長い口づけのうちに、長門の唇が提督を求めてくる。遠慮がちではありながら、たしかな動作で提督の舌を要求している。
猛りきった提督の陰茎を、長門が口に含んでいた。
横顔を提督に向けたまま、なだめるかのような慎重さで顔を上下させている。提督の下半身の素肌の上をつややかな黒髪が動きまわり、くすぐったいような感触があった。
目を伏せた長門が、ぎこちなさの残る奉仕を続けている。こうした行為に、長門は明らかに慣れてはいなかった。
口もとを隠すように垂れている横髪を、提督は指先でそっと持ち上げた。
充血した怒張が口内におさまっているさまが、露わになる。
口を開いた長門の横顔には、輪郭において微妙な乱れが生じていたが、その乱れすらが美しいと思える光景だった。
提督は、魅入られたように凝視する。
長門が動きを止め、口から陰茎を外した。困惑したように眉尻を下げ、横目で提督を見ながら言う。
「提督──そんなに見つめられるのは、ちょっと」
「恥ずかしいか」
「……うん」
長門は気弱な微笑を浮かべて頷いた。陰茎に眼を戻し、溜息をつく。
「しかし……本当に硬いな。怖いぐらいに」
「ここのところ、ご無沙汰だったせいかな。溜まっている」
「そうなのか……吹雪とも?」
「ああ、お互いに忙しかったからな」
茎部を握った長門が、感触を確かめるように二度三度とゆっくりと手を上下させる。優しく穏やかな手つきから伝わる快感に、提督は思わず深く息をついてしまう。
「なんだか、つらそうだ」
長門が言う。陰茎を見つめていた。
「こんなにぱんぱんに、熱く膨れあがってしまって、かわいそうなほどだ。自分の意思ではどうにもならない──まるで
「業、か……それは、いい表現だ」
「あるいは煩悩か。人の奥にある、
「らしくもなく、うまいことを言う」
「ふふ……」
長門は笑い、愛おしげに頬をすりつける。
「こんなに熱くて硬くて、怖いぐらいなのに……でも、どこか可愛い」
そう言って先端へ軽く口づけすると、長門はふたたび提督を口内におさめてしまう。
ちゅる──と秘めやかな唾液の音をたてて、亀頭に舌を絡めてくる。
突然巧みさを帯びてきた口技に、提督は思わず息を詰めた。快感と興奮が、陰茎への血流を一段階増加させたような気がする。
提督は長門の横顔を見つめながら、奉仕に身を委ねていた。
唾液の音をたてつつ、長門の口内で舌が生きもののように蠢いている。
やがて、兆しが背に這いのぼってきた。
このまま口内で爆ぜさせてしまいたい衝動を懸命に抑えつけ、長門の肩を掴んで行為を中断させた。
「ベッドに上がって、両手をつけ」
命じられた長門が、手の甲で口の端を拭いながら頷く。
四つん這いにさせた長門の背後で、提督は膝立ちになる。
左右によく張った腰を見つめ、手でその質感を確かめながら、ジーンズを下着と一緒に引き下ろした。
長門の秘所はすっかり蕩けきっていて、粘った透明の分泌液をしたたらせていた。
提督は両手の親指で、門を押し広げた。糸を引いて、左右に開かれる。
「煩悩を抱えているのは、お互い様みたいだな」
露出した粘膜部分に指を這わせると、とろりとした愛液がまとわりついてくる。
長門がもどかしげに尻を左右に振った。
「ふっ、あ、あ……」
背をきつく反らせ、か細く可愛らしい鳴き声をあげる。
提督は躰を前方へ倒し、長門に上体を重ねるようにして囁いた。
「気をつけろ。あまりに遠慮なく声を出すと、外に聞こえるかもしれない」
長門はたちまち耳朶を真っ赤にして目を見開き、細かく幾度も頷いた。
提督は陰茎を握った。ふたりとも下を露出させただけの中途半端な格好だったが、上を脱いでいる手間が煩わしい。
手探りで先端を長門の粘膜に押し当て、ひと息に貫く。
「……んっ……!」
きつく目を閉じた長門が、息を呑んで躰を震わせた。
長門の下半身を押し潰すようにして、腰を動作させている。派手な音をたてないように注意を払ってはいたが、乱れたふたつ分の息遣いと、ベッドがかすかに振動する音は隠しようもない。
「んっ……あ……はっ……」
抱きしめた枕に顔を押しつけた長門が、短く喘いでいる。
提督は、長門の膣内の敏感な箇所に、亀頭をこすりつけるようにして動いていた。柔らかい膣壁が、きつく、甘く、陰茎の根もとと先端の両方を絞りあげるように絡みついてくる。
早々に、限界が迫っているのを感じた。
躰を重ねたまま、長門の耳もとに唇を寄せる。
「もう、いいか?」
枕の上で長門が懸命に顔を振り向かせ、提督に視線を向けてきた。泣き出しそうに歪んだ表情で、しきりに頷く。
濡れた唇が動いていた。声にはなっていなかったが、出して──と言ったのがわかった。
長門が後ろに手をまわし、提督の尻をきつく抑えつけてきた。
──離れないで。
切実な想いが、手のひらに込められた力の強さから伝わってくる。
提督はいっそう激しく、無遠慮なまでに長門の内部を探っていく。ベッドが
枕に横顔を押しつけた長門が、だらしないほどに口を開け、声もなく喘いでいる。
乱れきったその表情を見つめながら、提督は達した。
「んっ……くっ……!」
長門が唇を噛み、提督の躰の下で痙攣する。
膣内のきつい収縮によって、溜まりきっていた精液が、搾り取られるように吐き出されていく。
下半身から脳髄へと突き抜ける強烈な快感に、提督もまた芯から震えていた。
たて続けに、三度交わった。
三度とも、思うさまに膣内へと精を流し込んでいた。
充実した思いと同時に気怠い疲労がある。そのままベッドでひと眠りしてしまいたいぐらいだったが、午後の任務を終えた戦艦たちが寮に戻ってくる刻限が近づいていた。
「もう、時間なのか?」
時計を気にしている提督の気配を察してか、長門が問いかけてきた。ベッドカバーの上で、お互いに裸のまま躰を寄せ合っていた。
「ああ」
提督は短く答え、長門の背を抱く。なめらかで温かな長門の肌の感触が心地よく、離れがたい思いがした。胸もとで長門の髪を撫でつけながら言う。
「おまえをもっと、手もとに置いておきたかった。遠くに行かせたくない」
命じる立場の自分がこうした言葉を発するのは、どこか卑怯なあり方のような気がしていた。
それでも、口をついて出てしまった。
長門が躰をより密着させ、答える。
「……うん。ありがとう」
密着すると離れがたさが増し、それと比例するように愛おしさも膨らんでいた。
行くな──とまで言ってしまいたかった。
だが、言葉としてそれを発することはできない。
口の外に吐き出してしまえば、たちまちそれは嘘になるだろう。長門にとっても提督自身にとっても、その嘘は好ましいものではないはずだ。
「提督──なにもそんなに悲愴な顔をすることはない。今生の別れってわけでもないのだから」
「……次は、いつ戻せることになるか。金剛や赤城の状態の詳細が不明だし、運用上の都合でそうそうすぐには交代できないかもしれない」
「大丈夫」
「しかしな──」
「大丈夫だ」
長門が強く、しがみついてくる。豊かな胸が、提督の躰で丸く押し潰されている。
「私は、貴方のそばにいられる。どんなに遠くに離れたって、こうして抱き合っていることは、私の心の中に確かなものとして在り続ける」
見上げてくる長門の顔は、曇りのない、晴れやかなものだった。
「提督──どんなときでも、私は貴方とともにある。だから私は、大丈夫」
◇
提督は、手持ち無沙汰な思いで執務机の前に座っていた。
長門の部屋から執務室に戻ってくると、すでに陸奥の姿はなく、だいぶ前に工廠から帰ってきていたらしい吹雪が出迎えの言葉をかけてきた。
どうやら陸奥は、溜まっていた提督の書類仕事をさっさと片付け終え、ついでに秘書艦としての吹雪の業務まで大いに手伝っていったようだった。
予定より早く午後の仕事が済んでしまったという吹雪は、執務室に隣接した記録保管室から古いファイルを引っ張り出してきていて、秘書艦用の机で中身の整理にとりかかっていた。
吹雪と同じく手の空いてしまった提督は、海域情報などを調べるふりをしながら、吹雪の様子を窺っている。
どうやら、書類整理の作業はあまり
時系列順に綴じ込まれている書類を項目別に整理しなおしていくだけのはずなのだが、ときおり視線を上げては、さりげなく提督のほうを気にするような雰囲気を発している。
お互いが、お互いの様子を窺っているのだった。
気まずい空気に耐えかねて、提督は声を上げた。
「なあ、吹雪」
とたんに、吹雪が椅子に座ったまま背を伸ばして提督を見た。
「はい──!」
吹雪の返事の声の大きさと勢いに気圧され、提督は一瞬言葉に詰まった。空咳をしてなんとか気を取り直し、告げる。
「あのな──実は、長門のところに行ってきたんだが」
「あ……はい。それは、陸奥さんからうかがっています。今度の作戦の、打ち合わせだったとか」
「たしかに打ち合わせは打ち合わせだったんだが、遅くなったのは、その……別の理由があってだな」
「……はい?」
「つまり、抱いてきたんだ。長門を」
吹雪は短く、あ──と声を上げた。少し驚いたような表情で硬直し、二度三度とまばたきをする。
提督は頭をわずかに下げた。
「最初からある程度そうなるつもりで、長門の部屋に行ったんだ。先に工廠に寄って、おまえにひと言知らせるべきだったと思っている。──悪かった」
「いえ、そんな──」
吹雪は躰の前で、広げた両手を振った。やがてなんとか笑顔をつくると、なだめるような口調で言う。
「大丈夫、ですから。そんな、お気遣いをいただかなくても」
「気遣いで言ってるわけじゃない」
「ええと、その……」
吹雪は眼を回すようにして、視線を上に泳がせた。
「あ──あの、長門さんの様子はいかがでした? 司令官がお部屋に来てくれたのなら、とても喜んでいらっしゃったと思いますけど」
「長門は……まあ、よろこんでくれたんじゃないかと思うが」
頭の中で『悦ぶ』という字を思い浮かべてしまい、提督は慌ててそれを打ち消した。
「喜んでいたはずだ。嬉しかったと言っていた」
「そうですか……それなら、よかった」
吹雪は微笑んでそう言うと、顔をわずかにうつむかせた。どこか自嘲するような、憂いを帯びたような雰囲気が、提督は気になった。
立ち上がり、座ったままの吹雪に歩み寄る。
見上げてきた吹雪に、なかば強引に唇を重ねた。
顔を離して、尋ねた。
「ほかの女を抱いてきたばかりの男にこんなことをされるのは、嫌か?」
「──いいえ。嫌じゃ、ないです」
「やきもちを焼いてくれたりは、しないのか」
「いいえ、焼きません」
「少しぐらい焼いてくれるほうが、俺にとっては嬉しいんだが」
重ねて言った提督を見つめながら、それでも吹雪は首を振る。
ほかの艦娘を提督が抱くことについては、吹雪自身が言い出したことだ。それだけに、吹雪はけっして嫉妬めいたことを口にしようとはしないだろう。
自分の不実さは置いておくとして、吹雪のその強情さと一途さが愛おしかった。だが、吹雪の瞳には依然憂いの気配が残っている。
「なあ吹雪。どうしたんだ」
「え──」
「俺が戻って顔を合わせてからずっと、何か言いたいことがありそうな表情だ。やきもちを焼いているわけじゃないなら、ほかに気になっていることでもあるのか?」
「あ……」
吹雪はふたたびうつむいた。ひどく、逡巡している様子だった。
提督は黙って待った。
「あの……司令官。私、お願いしたいことがあるんです。でも、もしかしたら司令官からそのお話をされるんじゃないかと思って、それで」
「お願い? おまえが、俺にか」
「はい──」
吹雪は提督を見上げる。瞳には、吹雪が意を決したときの芯の強さが見えた。
「今度の作戦の救援部隊に、私も参加したいんです。長門さんたちと一緒に戦場に行って、みんなを助けたいんです。──お願いです、司令官。出撃の、ご命令を」