「……」
むに…。
むにむに…。
ふむ、良い弾力だな。
この指が吸い込まれるような自然な柔らかさと、人の血が通う暖かさ。
ふにふにと触る度に漏れる吐息に聞こえないふりをしながら、俺は尚もソコを触り続けた。
「……俺は好きだな。触ってて気持ち良いし」
そっと、触られ続けて顔を赤める
「なぁ、反対側も触っていい?」
「っ、べ、別に…」
放課後の教室は夕日に照らされ、寂しげな色を醸し出す。
たった2人だけの世界。
そこで
「あ、あんさ…」
「ん?」
「…うにゅ…」
「あはは。うにゅ、だって」
思わず、触れていた指にほんの少しだけ力を込めてしまった。
その拍子に出た「うにゅ」って言葉に、俺は頬を緩める。
「…んーっ、んっ!ちょ、ちょっと待てし!!」
「ちょ、なに?いますごく良い所だったんだけど」
「なんだし良い所って!マジで何なの!?延々とほっぺを触られるって何プレイだし!?」
「おまえのほっぺは気持ち良い。多分トトロと同じくらい柔らかい」
ちなみにトトロのお腹で寝るのが俺の夢だ。
と、もう一度触り直そうとする手を
物悲しい2人だけの教室で、手と手が打つかった音が虚しく反響した。
まるで、コンサートホールに奏でる一線の音符のように。
「なんだよ。おまえが触って良いって言ったんだろ」
「あ、あーしは…」
ーーーー三浦 優美子は、小さくうつむき震えるような声を振り絞る。
目を潤ませて、それでも実直に。
ゆみゆみは小さな顔をゆっくりと上げた。
「…っ、あーしは!えっちのやり方を教えてって言ったんだし!!」
.
…
……
………
それはゆみゆみのほっぺを触り始める30分前のこと。
6限目から眠りこけていた俺は、6限目の終礼にも、下校の予鈴にも気付かぬまま、淡く綺麗な夢を見続けていた。
その夢に出てくる雪ノ下さんはすごく大人で、理想のお姉さんのような…。
デートをするにも我儘を言わず、ただただ緊張する俺の背中を優しく支えてくれて、そっと微笑むその表情にドキっとしたりして。
……。
あぁ、やっぱりリアルってクソだな。
だって、リアルな雪ノ下さんはただの淫乱我儘クソ女だもん。
一言目にはエッチしたい。
二言目には濡れちゃった。
三言目には子供欲しい。
…本当にまじで笑止!って感じですわ。
そんな風に、俺が夢にうなされていた時に。
ふわりと、誰かが俺の頭を優しく撫でた。
それは夢じゃくて現実だと、確かに伝わる暖かさが理解させた。
「…ん、雪ノ下さん…?…んぅ、エッチは…、今日はしませんよ…」
うとうとと、寝ぼけたままに俺は呟いていた。
夢と現実の狭間で揺れる。
あれ、雪ノ下さん…、なわけないか…。
だって、俺は学校で居眠りしてしまったわけだし、雪ノ下さんが学校に居るわけがない。
……ん?
それなら、この俺の頭を撫でているのは……。
「ふぇっ!?ひ、ヒキオ…?え、エッチって……」
………
……
…
.
.
「で、でね、あーしってこんなんじゃん?それなのに、しょ、しょ、しょ、…処女だから、あの、誰にも相談できなくて…」
「うん」
「…ぁぅ、でも、今更言えないし…」
「うん」
「…ヒキオ奉仕部じゃん。あーしにも奉仕してよ」
「おまえその言い方やめろし。マジでシャレにならんから」
なに?
この子って奉仕部のこと、あの夜の新宿にあるようなご奉仕しちゃうぞ!キラっ☆なお店だと勘違いしてんの?
違うよ?
違うからね?
健全な部活だからね?
「…ぅぅ、あーしも…、あーしも夜のお悩みをべらべら喋りたいし!童貞とか無理じゃね?って言いたい!!」
「あぁ、そう…、まぁアレだ…。が、がんばルビー!ってね…」
ルビーちゃん可愛いよね。
あ、帰ってサンシャイン見直そう。
そうしよう。
「待てし!あんた!あーしのほっぺをキズモノにしたことを忘れんな!!」
「…おまえのほっぺに傷なんて付けるかよ」
「ぁう…、そ、そんな曇り無きまなこで…」
もう一回ぷにぷにしていいのかな?
「あ、あーしのほっぺを触ったからには…っ、せ、責任取れし!!」
「…せ、責任…だとっ!?」
「そ、そうだしっ!!」
ふわりと、夕日に映えるゆみゆみの金糸が舞い上がった。
同時に、俺の胸元には女性1人分の重みが加わる。
正面から抱き着かれたのは彼女で何人目だろう。
ただ、制服に身を包み、如何にもな青春感を出してくれたのはゆみゆみが始めてだ。
みんな全裸か半裸だったし…。
「ハグーーーっ!どうだしヒキオ!これであーしは孕んだか!?」
「ハグで孕んじまったら少子化なんて起こらんだろうな」
「うぅぅーっ!!ヒキオの香りっ!甘い!」
「ま、待てよゆみゆみ」
「ぅぅ…、ゆみゆみ言うなし…」
震えながら俺にしがみつくゆみゆみを、俺は優しく引き離し、彼女の目尻に浮かぶ涙をそっと拭う。
高圧的で、少し怒りっぽい性格。
そんな風に見せて、本当は友達思いで誰よりも暖かい女の子。
ゆみゆみは可愛いし、なおかつ一途で純粋なコだ。
叶いもしない想いを抱いて、彼女は今もこうして頭を悩ましているのだろう。
「…エッチっていうのはね、すごく儚くて、それでいて尊いモノなんだ。…ゆみゆみは可愛いし、素敵な女の子だ。だからね、簡単にエッチだなんだって言っちゃだめなんだよ?」
「…あぅ!か、可愛い…、素敵……っ!!」
「ゆみゆみ?」
こちらまで熱くなりそうなほどに顔を火照らせたゆみゆみは、糸の切れた人形のごとく、カタカタとしたぎこちない動きで俺の胸ぐらに手を伸ばした。
ぎゅっと胸ぐらを掴まれると、女の子とは思えない力で引っ張られる。
「っ!」
吐息が掛かるくらいの近さ。
唇を少しでも動かせば触れてしまいそうなほどに。
ゆみゆみの顔が近くにあった。
「あ、あの…っ、ほ、保健室っ!保健室なら、誰も来ないから!!」
ーーーーーーーー
初めてだった。
綺麗だとか、美人だとかとは良く言われるが、可愛いって言われたのは初めてだった。
鏡を見るたびに思う、厳しくて鋭いあーしの目元は、あまり女の子としては嬉しいモノではない。
ただ、今更可愛い女の子になれるはずもなく、ため息ばかりをこぼしながら、少しだけ高圧的に、身に合った性格を演じなければならない。
女王気質なキツめな女。
周りがそんな評価をしていることなんて、聞かずともわかる。
だってあーしがそう望んで演じたのだから。
「…ぁ、か、可愛い…、あーしが…、可愛いっ!?」
それなのに、目の前に佇む細身で弱々しい男は、あーしの事を可愛い女の子と言った。
我ながら単純だとは思うが、そう言われた時に、心の隙間を縫うような想いが身体に駆け巡る。
顔が熱い。身体も熱い。
感情が込み上げるみたい…。
そう、嬉しいんだ。
あーしはヒキオに可愛いと言われ、嬉しいと思ったんだ。
「…ゆ、ゆみゆみ?保健室に行きたいの?どこか怪我でもしたのかな?」
「ぁ、あの、怪我は…、してない…」
「なら、保健室なんて行く理由は無いよね?」
「…病気なの…、あーしは…」
「は?」
「恋の病になったんだしーー!!」
「……あぁ、この子もアホの類いか…」
呆れた顔であーしを見つめるヒキオの腕を掴み、あーしは無理矢理にでも保健室へと連れて行こうとグイグイ引っ張る。
可愛いとか、ゆみゆみとか、あーしの弱い所を優しく突っつくヒキオが悪いんだかんね…。
「ま、待てよ。おま、ほ、保健室じゃ恋の病とやらは治らんて。そ、そうだ、一度家に帰って頭を冷やせ。な?」
「あ、頭はもう冷えてるし!身体が熱いだけだから!」
「なおタチが悪いわ!」
「わかった!部室ならいいっしょ?奉仕部の部室なら誰も居ないっしょ!?」
「ダメに決まってんだろうが!!」
「わがままばっかり!優しくしろし…っ、あーしにも優しくしろし!!」
思わず、叫んだ言葉に涙が溢れる。
こんなにも人を求めたことは今までにあっただろうか?
掴んだ腕から伝わるヒキオの体温がこんなにも心地良く、そして幸せに感じてしまう。
「…な、なんであーしにばっかり意地悪するの?」
「い、意地悪!?え?俺が悪いの?」
「結衣や雪ノ下さんが困ってたら直ぐに助けてあげるくせに!」
伝わらない…。
きっと、あーしがギャルっぽいからだ。
慎重なヒキオは、こんなギャルの言葉は信じてくれないんだ。
……だったら…。
「……言いふらしてやる…」
「あ?」
「ヒキオがあーしのおっぱい触ったって言いふらしてやるんだかんね!?」
「お、おまえ、それはだめだぞ?まじで…」
「あーし!ヒキオに孕まされましたー!!」
「ちょ、こ、声がでかいっ!」
「しかも堕ろせ堕ろせって腹パンもされたし!!」
「なんて非人道的な奴だ…」
「……分かってくれた?」
「分かるか!!」
パシンっと、あーしはヒキオに頭を叩かれる。
はい、暴行罪も加わりました。
これでもう詰んだね。
「…それじゃ、保健室に行くし」
「ぐぬぬ」
優しく、ヒキオの手を握る。
先ほどまで頑として動こうとしなかったヒキオはゆっくりと、されども足取り重そうにあーしの後を付いてきた。
不思議な奴…。
17.8の男子高校生なんて、欲望に植えた発情真っ盛りな年頃だろうに。
よくもまぁ、これだ抵抗するものだ…。
……でも、嫌いじゃない。
あーしを見て、いやらしく目を細める男子共に比べれば、どこか恥ずかし気に目を背けるヒキオは可愛らしいし……、そ、その、愛おしいと思えるのだ…。
こんな男の子に初めてを捧げるのも悪くない。
なんてーーー。
「…ぁ、ぁのさ、本当にあーし、初めてだから…、ヒキオがリードしてね?」