※この作品はR-18です。

お姉さんが処女のままなのは間違っている。   作:ルコ

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婚約コンティニュー

 

 

 

 

 

 

 

「…娘を大切に思っているからこそなんだよ…」

 

そう呟くのは何度目だろう。

最近では久しく行っていなかった駅前にある小さな居酒屋で、私は昔の私を知る大将に訴えかける。

廃れた店に、私のような悩みを抱えた悲しき中年以外の客は居なかった。

だからこそ、こうして周囲の目も気にせずに本心を吐露できるのだが、大将は昔と変わらず、うんうんと小さく頷くだけ。

 

「分かってくれるはずなんだ…。あと数年もしたら…」

 

陽乃は少しばかり恋愛に多感な年齢である。

それでも、高校生の頃くらいまでは物分かりの良い娘だった。

いや、そう演じてくれていたんだ。

それがいつ頃からだろう。雪乃が家を出て、陽乃も時折強引な挙動を見せるようになった。

家族が形を壊していくとも感じた。

 

雪乃は芯が強く、陽乃は曲げない。

 

そんな2人が、いつしか柔らかい笑顔を見せるようになったものだから、ああ、私の教育も間違っていなかったのだと、分かってくれたのだと安心したのはつい半年前の事だ。

 

「…でも…、違ったんだよぉ。あの子らを変えたのは…」

 

酔いが脳に回る。

たまたま街で見かけた雪乃の笑顔が、陽乃の楽しそうな姿が目に浮かんだ。

 

いつだって、あの子達が柔らかく笑う先には彼(・)が居た。

 

彼(・)の話は時折、家内から聞いていたが、それがどちらかの彼氏であろうなんて微塵にも思っていなかった。

ましてや、陽乃の事をあそこまで変えるなどとは。

 

「比企谷…、八幡…」

 

憎いよ。キミが…。

私たち家族を、家族としての形を取り戻させてくれたのがキミだと思うと…。

何より、そんなキミを、私は陽乃から引き離そうとしてることが…。

 

あの1人ぼっちだった雪乃を、誰をも近寄せない陽乃を、キミは随分と無茶をして救ってくれたようじゃないか。

 

ほんわかした優しさ。

 

ふわりと揺れる暖かさ。

 

自己犠牲を厭わない行動。

 

巧みなテクニック…?

 

家内の口から出るキミの評価は、本当にどこぞのなろう小説かってくらいに惹き寄せられる…。

 

でもさ、でも…、キミに陽乃を幸せにできるのかい?

なんせ内の娘はガンダムよりも強固な装甲を持ち、キラやLよりも頭が回るんだぜ?

そんな完璧な娘を、キミが幸せにできるのか?

 

…辛かろう。そんな妻を取ると言うのは、男して何よりも辛かろうさ。

 

 

「……キミのためでもあるんだ…、だから、分かってくれ……」

 

 

と、溢れた独り言に、小さな言葉が返ってきた。

 

 

「…何をですか?」

 

「……」

 

 

いつから居たのだろう、カウンターで飲みくれる私の隣に1人の青年が座っていた。

アホ毛を揺らしながら、じっとりとした瞳で真っ直ぐに私を見つめる彼は、明らかに外から持ち込んだであろう黄色と黒色の缶を片手にそこに居た。

 

 

「…幻想かな…、それとも私の娘を奪いに来た悪魔か…」

 

「…言い換えれば、貴方の娘を奪いに来た貧乏神です」

 

 

そうか。

やはりキミは現れるんだな。

いやなに、陽乃が見込んだ男だ。

どこかで私の前に現れるとは思っていたさ。

 

 

なぁ、比企谷くんーーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー☆

 

 

 

 

 

良い歳をした中年が、ホッピーをちびちび飲みながら頬を赤く染めている。

俺が隣に座ったことにすら気づかず、男は尚もぶつぶつ呟き続けた。

 

「……キミのためでもあるんだ…、だから、分かってくれ……」

 

言い訳などいくらでも作れる。

男は娘を思って当然の事をしているのだ。

いくら外装を綺麗に固めようと、男には娘の将来しか目に入らないだろう。

 

だが男は、何を勘違いしてか、俺のため、と呟いた。

 

「貧乏神です」

 

「はは…、まさか、本当に現れるとはな…」

 

「随分と飲まれていますね」

 

「あぁ、悩み事が尽きなくてね…。その元凶が目の前に居るのだが…」

 

大将の事っすか?なんて言える雰囲気ではない。

もちろんその元凶は俺の事だろう。

俺さえ居なければ、男の悩みは多少なりとも軽くなるだろうに。

 

「…貴方は娘が大好きなんですね」

 

「もちろんだよ。キミだって娘を持てば分かるさ…」

 

なんとなく、小町の事を考えてしまった。

娘ではないが、俺にとっては大切な妹だ。

いつぞやだったか、小町が彼氏を家に連れてくる夢を見た。

酷く悲しく、辛く、だけど小町の笑顔を見ると、そんな俺の感情は表に出せまいと…。

いや夢なんだけどね。

 

「…娘のための外堀作りは順調みたいで」

 

「嫌な事を言うなよ…。私だって、陽乃が結婚に乗り気じゃない事くらい分かっているさ」

 

「それでも、彼女にとっては大切な外堀だと?」

 

「…あぁ。ウチのは完璧過ぎるからねぇ…。自慢とか、親バカとかじゃなくてね」

 

分かっているさ、そんな事。

アレが如何に完璧かなんて、高校生の頃にどれだけ思わされたか…。

 

完璧だからこそ、屈強で強靭な男が隣に立つべきだと。

 

親じゃなくとも理解が出来る。

 

「その分、丸岡のところなら大丈夫だろう。バカ息子なぞ飾りにして、陽乃なら誰よりも上に行ける」

 

「…はは。あの人ならあり得ますね」

 

「そうだろ?陽乃は規格外だ。だから……、だからさ、キミだって……」

 

「そんな女性の隣に立つのは窮屈だと?」

 

「……あぁ」

 

男は、パパのんはジョッキを傾けながら俺から目をそらす。

空になったジョッキには、カラカラとなる氷が物悲しく滑っていた。

 

「比企谷くん、キミには感謝してる。本心だ。娘達を救ってくれたのも、家族を取り戻してくれたのも、全部キミのおかけだ」

 

「……」

 

「だが婚約となれば話が違う。キミがどれだけ優秀だろうと、アレを幸せにすることなんて出来ないんだよ」

 

アレアレ言うのも可愛そうだが、確かにアレを幸せにする自信なんてない。

俺ごときがアレの隣に並び立つことなんて出来るわけがない。

俺なんて人生の敗北者じゃけえ。

ちょっとばかし頭は良いが、それだけじゃアレの足元にすら及ばないんだ。

 

ただ。

 

たださ、パパのんは一つ勘違いをしている。

 

それはとんでもなく大きな勘違いで、鼻で笑うことすら躊躇うくらいにトンチンカンな勘違いだ。

 

 

 

「…ふざけんな」

 

「…っ」

 

 

 

ハゲが。

娘の事をそれだけ思っていて、なぜあ(・)の(・)結(・)論(・)に辿り着けないんだ。

陽乃さんを幸せに出来ない?

そんなこと百も承知だっての。

それを分かってても、俺は陽乃さんと一緒に居たいと思ってんだ。

 

舐めんなよ。

 

クソ親父。

 

そのふざけた幻想。

 

俺がぶち壊してやる!!

 

 

 

「誰が陽乃さんを幸せにするって言ったんだ? 陽乃さんが、陽乃がっ!ーーーーーーーーー

 

 

ーーー俺を幸せにしてくれるんだ!!」

 

 

 

 

「っ!?!」

 

 

男のプライド?劣等感?価値観?そんなもんは全部妖怪に食べてもらったわ!

いつだってあの人は完璧で、誰よりも綺麗で強くて、そんな人が隣に居たいと言ってくれる…。

 

あいわかった!

 

それなら俺が専業主夫になりましょう!!

 

仕方ない。苦渋の決断よぉぉ!

 

窮屈だぁ?飾りだぁ?

 

俺は、俺はーーーー!!

 

 

「陽乃に幸せにしてもらいますから!?俺みたいなちっぽけな人間なら、あの人は小指で支えてくれるはずだ!!」

 

「ちょ、ま、待って…。き、キミは何を…」

 

「信じてるんで。俺は彼女を。それに、陽乃さんに外堀なんて必要ありませんよ」

 

「…っ」

 

あの進撃の陽乃なら、どれだけの大企業で外を埋めようともぶち壊してくるに決まってる。

それはもう恐ろしい程の破壊力ですわ。

 

「…いつだって、俺は陽乃さんに引っ張られてきました。それはこれからも変わらないでしょう」

 

俺はポケットから1枚の紙を取り出す。

 

「…っ!こ、婚約届…、だと…!?む!?な、なぜ証人に私の名前が…っ!そ、それにこの字面は私の物…、わ、私は書いていないぞ!!」

 

「勘違いしないでください。これは全て陽乃さんが書いたものです」

 

「!?」

 

「ちなみに俺の記入欄も既に作成されていました」

 

「!?!」

 

コレを見つけた時はゾッとした…。

俺が書いた文字と寸分違わぬ字体に、親指の血印…。

どうやって作ったのか…、と問いただす前にこの紙は処分するべきだと盗んでおいたのだ。

 

「…もう分かったでしょ?陽乃さんは規格外なんです。もはや人間の領域を超えているんだ」

 

「むう…、し、しかし…」

 

「…人が…、死にますよ?」

 

「な!?!」

 

「一族末裔皆殺し…、陽乃さんが寝言で呟いていました…」

 

「ほ、本気だったのか…っ!!」

 

 

パパのんの額に冷や汗が浮かぶ。

気付けば、先程まで赤めていた頬は青ざめ、どこか小刻みに震えている。

 

 

 

 

 

 

「パパのん…、いえ、お義父さん。娘さんを俺に任せてください…」

 

 

 

 

 

.

…

……

………

……………

…………………

 

 

 

 

「ひっきがっやくーーん!!」

 

 

晴天のとある日。

陽気な声に振り向けば、その暖かな体温を惜しむことなく俺に押し付ける彼女が居た。

満面の笑みを浮かべる彼女の抱擁を受け止めながら、俺は小さく溜息を吐いた。

 

 

「はぁ…。…重い…」

 

「照れ隠し!にゃあん、にゃぁん」

 

「…キモ」

 

「うへへ。あのねー、お父さんが、丸岡との婚約は無かった事にする。だって!」

 

「…そうですか」

 

「処女膜は破っても約束は破らない!これこそ私の愛した比企谷くんだよ!」

 

「……」

 

 

人目もはばからない彼女に笑みを送りつつ、少し離れるようにとやんわり身体を押し返す。

 

さらさらとした髪から漂う甘い香りを残しつつ、彼女は俺の腕を握りながら尚もくっつこうとしてきた。

 

 

「ねえねえ、今回はどうやって私を助けてくれたの?」

 

「…別に。ただ、陽乃さんを俺にください。って言っただけですよ」

 

「詳しく!」

 

 

何をそんなに聞きたいんだか。

 

だが、彼女の笑みが柔らかく、ふわりふわりと感じる体温も相まって、その幸せが本物であるのだと実感させられる。

 

俺はそっと彼女の頭を撫でながら

 

 

「陽乃を幸せにします。誰よりも。って言っただけですよ」

 

「〜〜っ!さ、さすがですわ比企谷様!!あ、そうだ!それじゃあ早速結婚しなくちゃ!ちょっと待ってて!」

 

そう言うと、彼女は鞄をごそごそと漁り始めた。

 

そんなに慌てなくても俺は逃げませんよ。

 

……ていうか逃げれませんよ。

 

 

「あれー?おかしいなぁ…、ここに入れておいたのに…」

 

「…何がです?」

 

「んー?婚約届だよ?」

 

「……ああ、きっと風にさらわれてしまったんでしょう」

 

「むむぅ…、ま、いっか!また作り直しておくよ!」

 

 

そうですか…。

そんなに手軽に作れる物なんですね…。

 

とはいえ、こうして俺は、学生の身でありながら婚約が決まったわけだ。

 

とりあえずゼクシィでも買っておこうか、などと悩みつつ、何の気なしに陽乃さんと目を合わす。

 

 

「……」

 

「む?な、な、な、何かな?」

 

「…陽乃さんは、本当に俺でいいんですか?」

 

「…」

 

 

確信している。

彼女はそう言った。

俺と一緒に居れば幸せになれると。

 

その言葉に嘘はないだろう。

 

疑っているわけじゃない。

 

ただ、この陽だまりのような笑顔を失いたくないから。

 

法律や紙切れではない本音と言葉による約束を。

 

 

「私が信じられない?」

 

 

「いえ。信じてますよ。絶対的にね」

 

 

「そう」

 

 

意地悪なお姉さんの悪戯な笑顔で、陽乃さんは俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

青色の柔らかな風に髪をなびかせながら。

 

ゆるりと揺れる表情。

 

その美しさたるや、制欲に負けて脱ぎたがる女性の姿は無い。

 

 

 

「言葉すらいらないわ。私の愛は…、キミを捕まえるためだけに生まれた感情なんだから」

 

 

ああ、そうですか。

 

なんと言う重いお言葉だろう。

 

だが、その言葉こそが、俺が彼女に求めた本物だ。

 

 

「…はは。陽乃さんらしいですね」

 

「ええ、私は私だもの。…それで?比企谷くんの答えは?」

 

 

決まってるだろ。

 

その感情、その想い、その身体。

 

誰にも渡さぬ俺の全てだ。

 

 

 

 

 

「陽乃、おまえは俺の物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーend

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






同棲編でエッチ書く。
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