(俺の名前は遠野真。十八歳の誕生日、たまたま見つけた胡散臭いチラシに応募したらカルデアとかいう場所に拉致され、何故かマスターと呼ばれる何かになっていたごく普通の男の子だ。色々あって滅びそうになってる人類の歴史を救済するため何やかんやと頑張っている。人類最後のマスターとして行動している俺だが、実は二つの大きな問題を抱えている。一つはこのカルデアに召喚されるサーヴァント(何か凄い人たち)が何故か女性しかいないということ、そしてもう一つは女性サーヴァントたちとの距離が物理的にも精神的にも近いということだ)
「~♪」
ここは人理継続保障機関『フィニス・カルデア』。食堂へと続く廊下を一人の美少女が長く艶やかな三つ編みの金髪を揺らし、鼻歌を歌いながら歩いていた。誰がどう見ても上機嫌だと思う彼女の名はジャンヌ・ダルク。オルレアンの乙女、クラスルーラーのサーヴァント。そして聖処女(元)だ。
普段は物腰柔らかく、時に厳しく時に優しく、そして理知的に振る舞う彼女だが今日は妙に浮かれ気味。それも無理からぬこと、何故ならあのジャンヌ・オルタにお茶に誘われたのだ。
ジャンヌとジャンヌ・オルタ。第一特異点のフランスでは救国の聖女、竜の魔女として相争った二人だが、ここカルデアでは共に人理を救う仲間として轡を並べて戦っている。とはいっても互いに、特に黒い方は白い方に対して複雑な感情を抱いているようで、関係は幾分かギクシャクしていた。
ジャンヌとしてはジャンヌ・オルタと良好な関係を築きたいと思っており、何か仲良くなる方法や切っ掛けはないかと日々思案に暮れていた。一番手っ取り早いのはマスターである真に仲介なり何なりを頼むことだが、色々と多忙なマスターの手を煩わせてはならないとジャンヌは一人悩む日々を送っていた。
そんな中、何とジャンヌ・オルタの方から話をする切っ掛けを作ってくれたのだ。自分から歩み寄る方法を思いつかなかったジャンヌはジャンヌ・オルタからの誘いを一も二も無く受ける。ジャンヌ・オルタの性格から考えてただ普通にお茶を楽しむ、なんて展開はまずないだろうが、それでもこうして二人で話し合える場が設けられたのがジャンヌには嬉しかった。
「あら、随分早かったじゃない。そんなに私とのお茶が楽しみだったのかしら……何です、その締りのない顔は? かの高名な聖女様は頭の中がお花畑にでもなってしまったのかしら」
約束の時間よりも早く食堂にやって来たジャンヌを辛辣な言葉で迎えるジャンヌ・オルタ。しかし、そんな態度は何時ものこと。ジャンヌ・オルタの棘のある言葉にジャンヌは気を悪くするでもなくニコニコと微笑んでいる。
「オルタさん。今日はお茶に誘っていただきありがとうございます」
「はっ、別に誘った訳じゃないわよ。私は実験台、というか生贄が欲しかっただけだから……何か勘違いされてもうざったいので、今ここではっきりと言っておきましょう」
ビシッ、とジャンヌ・オルタはジャンヌの鼻先に指を突きつける。
「私、貴方と仲良くお茶する気なんてこれっぽっちもありませんから。ただ、これから作る料理の味見役が欲しかっただけですので」
「味見役に私を?」
首を傾げるジャンヌにジャンヌ・オルタはえぇ、と唇を三日月型に歪めて意地の悪い笑みを浮かべた。
「貴方にだったらどんなに不味く出来上がった失敗作を食べさせても心が微塵も痛みませんから。寧ろ、その姿を肴に美味しく酒、もといお茶が飲めるというもの……いっそ、わざと不味いものを作って食べさせるというのもありね」
どこか誰もいないところで言うならともかく、本人を前にして口に出す言葉ではない。自分から誘っておいて何だそれはと機嫌を損ね、そのまま回れ右して帰っても可笑しくないジャンヌ・オルタの発言にもジャンヌは微笑みを崩さない。この程度の悪態を吐かれることは想定の範囲内だ。
「それでも構いません。例えどのようなものを出されたとしても、今日こうして貴方と話せることが私には嬉しいですから」
「……ふん、相変わらず吐き気がするほど清廉な女ね。本当、忌々しい」
苦虫を噛み潰したような顔するジャンヌ・オルタだが、どんな暴言を言ってもジャンヌには蚊ほども効かないことは分かり切っていたのでそれ以上は何も言わなかった。
「まぁいいわ。じゃあ作ってくるから、そこ座って待ってなさいな」
「そういえば聞いてませんでしたが、今日は何を作るんです?」
ジャンヌの問いにパンケーキ、と言葉短く答えるジャンヌ・オルタ。予想外の返答にジャンヌは小さく目を見開く。普段、ジャンヌ・オルタがマリーや頼光、カルデアの女性陣に頼まれて作っているショートケーキ等のお菓子や和菓子類の方が難易度は高いのではなかろうか。
「別にどっちの方が作るのが難しいかなんて関係ないわよ。初めて作るものなんだから、練習して当然でしょう」
ジャンヌの疑問を察したのか、エプロンを着ながらジャンヌ・オルタは言った。
「それに、真には美味しく出来たの食べて欲しいし」
ぼそりとジャンヌ・オルタが呟いた台詞にジャンヌは思わずクスリと笑う。要は好いた男に美味しいものを食べさせたい、自分が作ったものを美味しいと言って欲しいという彼女の乙女心だ。
「な、何よ。その微笑ましいものを見る目は?」
「いえ。貴方も真君のことが大好きなんだなと思って」
「うっさい! ほっとけ! そのにやけ面を止めなさい! さもなきゃ燃やすわよ!」
うがー! と顔を真っ赤にしてジャンヌ・オルタは脅しをかけるが、ただの照れ隠しであることが丸分かりなので何の効果も無かった。加えて、彼女の着ている黒いエプロン。胸元に施された可愛らしいデフォルメワイバーンの刺繍がジャンヌ・オルタの迫力を無きものにしている。
ちなみにこのエプロンは真がジャンヌ・オルタのために手作りしたものであり、彼女は殊更に大切にしていた。洗濯も人には任せず、アイロンがけから畳むまでの工程を全て自分でするほどだ。そんなことはさて置いて話を戻そう。
「ぜぇ、ぜぇ、調理前にこんな怒鳴らせるんじゃないわよ。塩と砂糖、間違えて入れてやろうかしら……」
ぶつぶつと言いながらジャンヌ・オルタは調理場に入っていく。ジャンヌも指示された椅子に座り、料理の到着を待った。
既に下準備を終わらせていたのか、幾らもしない内にジューと生地の焼ける音と甘く香しい匂いが調理場の方から流れ、聴覚と嗅覚を通してジャンヌの食欲をくすぐった。漂う美味そうな匂いに思わず腰を浮かせかけた彼女の腹が可愛らしくきゅるると鳴る。
「あぅ///」
一人赤面しながらジャンヌは座り直し、早く食べたいという気持ちを抑えて大人しくしていた。
「あら、素直に待ってたのね。意地汚い貴方のことだからつまみ食いしに来るかと思ってましたが」
更に待つこと数分、調理場からジャンヌ・オルタが出てきた。右手には湯気の立つパンケーキを乗せた大皿を持っている。
「わ、私はそんなに食い意地を張っていません」
どうだか、とせせら笑いながらジャンヌ・オルタは大皿、ナイフとフォークをジャンヌの前に置いた。皿の上には食欲をそそる香りを放つパンケーキが二枚重ねにされている。たっぷりのメープルシロップがかけられ、長方形のマーガリンがちょこんと乗った定番の味付けだ。
ぱぁ、とジャンヌの顔が輝く。古今東西、例え聖女と余人に謳われた者であったとしても、女の子が甘いもの好きなのは余程の例外を除いて世界共通のようだ。
「はっ、何て顔をしているのかしら。丸で、何時間もお預けを喰らった犬のよう……聞いちゃいないわ、この女」
はぁ、と嘆息しながらジャンヌ・オルタは目を閉じて感謝の言葉を呟き始めたジャンヌと向かい合うように椅子に腰かける。
「敬虔なのは結構だけど、冷める前に食べなさいよ」
「勿論。では、いただきます」
ナイフとフォークを手に取り、パンケーキを切り分けていざ実食。途端にフワフワとしたパンケーキの優しい触感が口の中に広がった。噛むとケーキに滲み込んでいたシロップがじゅわっと溢れ出し、溶けたマーガリンと混ざり濃厚な味わいとなって舌を直撃する。
「美味しいです」
一言感想をジャンヌ・オルタに告げ、ジャンヌは食事に没頭した。ナイフでパンケーキを食べ易いサイズに切り、フォークで口元に運ぶという作業を夢中で繰り返す。見てて清々しさすら感じられる食いっぷりだ。
「そんなに慌てて食べなくてもいいでしょうに。別にパンケーキは逃げたりしないわよ」
呆れた声音で言うものの、ジャンヌ・オルタの顔は嬉しそうだった。相手が心中複雑な感情を抱いている女だとしても、ここまで美味そうに、そして幸せそうに自分が作ったものを食べてくれる光景は中々悪くない。
ご馳走様でした、とジャンヌが両手を合わせるのに時間はかからなかった。
「素晴らしいの一言に尽きます」
「そう、それは良かった。これなら真に出しても大丈夫かしら? いや、もう何人かに食べてもらって感想聞いてからの方がいい……何よ?」
顎に手を当てて何やら考え事をしていたジャンヌ・オルタは自身に注がれる視線を無視出来なくなり、ジャンヌへと体を向けた。キラキラと、純真無垢な子供のように輝くジャンヌの双眸に思わずたじろぐ。
「な、何ですかその目は?」
「……(じぃ~)」
黒い魔女の質問に答えず、白い聖女は唯々期待の籠った眼差しを続けた。
「どういうつもりか知らないけど、その目を止めて下さらないかしら? 心底気持ち悪い」
「……(じぃ~)」
「耳が腐ってしまったの? その目を止めてと言っているでしょう。鳥肌が治まらないわ」
「……(じぃ~)」
「……人の話を聞いているのかしら? そんな風に私を見詰めていいのは
「……(じぃ~)」
「……あの、せめて何か言ってくれない?」
「……(じぃ~)」
「だ、だから、その……」
「……(じぃ~)」
「……まだパンケーキ作れるけど、食べる?」
「是非」
魔女が聖女に屈した瞬間だった。
その後、ジャンヌはジャンヌ・オルタが作ってくれたパンケーキを只管食べ続けた。モッキュモッキュモッキュモッキュモッキュと頬がパンパンになるくらいパンケーキを詰め込んでいく姿はどこかの黒い腹ペコ王が乗り移ったかのよう。出しては消え、作ってはジャンヌの胃袋に収まっていくパンケーキにジャンヌ・オルタはこの世の無常を垣間見たような気がした。
「ふぅ……ご馳走様でした。主に感謝を」
「そこは作った私に感謝しなさいよ……しっかし、その体のどこにあれだけの量が入ったのかしら。ある材料全部使って作ったのに」
両手を合わせるジャンヌに紅茶のカップを差し出すジャンヌ・オルタ。最初に出した二枚のパンケーキを一人前と仮定して計算すると、ジャンヌは三十人分以上食べたことになる。これには流石のジャンヌ・オルタも嫌味を忘れて唖然とするしかなかった。
「こんなに美味しいものをお腹一杯。オルタさん、ありがとうございます」
「それは良かったわね。もっと寄越せと言われたらどうしようかと思ったけど……まぁ、満腹になって当然でしょう。何せ、貴方は他の人達の分の食材まで食べ切ってしまったのですから」
へ? とカップを傾けた体勢でジャンヌは固まる。彼女の額からたらりと冷や汗が流れ落ちるのをジャンヌ・オルタは愉悦の表情で眺めていた。
「そ、それはどういう意味で……」
「そのままの意味よ。もし、美味く出来たら他の人達にも食べてもらって感想を聞くつもりだったのですが……その為に多めに用意した材料も全て今はどこかの誰かさんのお腹の中、という訳です」
顔を青くさせ、ダラダラと汗を流すジャンヌを心底愉しげに眺めながらジャンヌ・オルタは容赦なく言葉の刃を振り翳す。
「『私はそんなに食い意地を張っていません』。何て言ってたのはどこのどちら様だったかしら。ねぇ、聖女様?」
「はうぅ!!」
言葉の刃は狙い過たずにジャンヌの胸を貫いた。見えない刃物で本当に刺されたように胸元を両手で押さえ、ジャンヌはばたりとテーブルに突っ伏す。角度の問題で顔色や表情は窺えないが、真っ赤になった耳を見れば今彼女がどんな顔をしているか容易に想像出来た。
「ま、これ以上は言わないでおきましょう。貴方が食い意地の張った女だというのは今更なこと。パンケーキもまた今度、材料を集めて作ればいいだけですし」
本当はこのネタで延々とジャンヌを弄り倒したいところをぐっと我慢する。ジャンヌが泣き出すまでイジメ続けるのも大変魅力的だが、ジャンヌ・オルタには他にやりたいことがあった。
「それに、満足するまで食べさせてあげたんですもの。ここで私が頼みごとの一つや二つしても、断ったりしませんよねぇ?」
「頼み事、ですか?」
「別に警戒しなくてもいいわよ。今更、
いえ、別に警戒はしていませんが、というジャンヌから視線を逸らし、顔を薄らと朱に染めながらジャンヌ・オルタは前髪を指に巻いたりしていた。
「ど、どんな感じなのよ? その、真と、ゴニョゴニョする時って?」
「え、真君がどうかしましたか?」
真の名前は聞き取ることが出来たが、そこから先が妙に小声で聞こえない。
「だ、だから、真とするアレよ、アレ」
「アレ?」
ジャンヌ・オルタの言う『アレ』というのが何なのか本気で分からないらしく、ジャンヌは疑問符を頭上に浮かべながら首を傾げる。そんなジャンヌにジャンヌ・オルタは気付けよ、察せよと視線を送るが効果は無かった。
「あぁ、もう! 冬のナマズじゃあるまいし何でそんな鈍いのよあんた! 真とのアレって言ったらコレしかないでしょ!」
何時まで経っても『アレ』が何なのか見当のつかないジャンヌに業を煮やし、ジャンヌ・オルタは両手であるジェスチャーをする。左手の親指と人差し指でリングを作り、その中に右手の人差し指を出し入れさせる言葉にするよりもよっぽど卑猥な手振り。
「え、えぇ~!?」
事ここに至ってジャンヌはジャンヌ・オルタの聞きたいことが何なのか理解した。早い話、彼女は真との情事について聞こうとしているのだ。
「そ、そんなこと言える訳ありません!」
「お黙り! あんたに拒否権は無いのよ! あれだけ一杯パンケーキを作ってあげた私に少しでも感謝しているならちゃきちゃき答えなさい!」
顔を真っ赤にさせながら向かい合う二人の姿は服装や髪の色と長さ、双眸の色彩の違いはあれど、鏡に映っているのではないかと思えるほどそっくりだ。
「Hurry! Hurry!」
うぅ、と可愛らしく唸りながら目を伏せるジャンヌに容赦ない催促を浴びせるジャンヌ・オルタ。愛する男との秘め事を誰かに語って聞かせるなど気恥ずかしさの極致だが、料理を作ってもらったこともあってジャンヌは断るという選択肢を取ることが出来なかった。あれだけの量を食べさせてもらって、その上で頼み(というより最早脅迫だが)を断るというのは不義理が過ぎる。
「えっと、真君に抱いてもらう時はですね、まずご褒美を貰うところから始まります」
「ご褒美? あぁ、何か日本の文字の書き方教えてもらってるのよね。ご褒美ってその?」
「はい。真君が作ったテストで一定以上の点数が取れたらご褒美が貰えるんです」
「……いいなぁ、私も真に教えてもらおうかな。ご褒美ってどんなの?」
羞恥心で顔を余さず紅に染めて語られるジャンヌの話にジャンヌ・オルタは鼻息を荒くしながら聞き入った。
「私がして欲しいことを頼めば、真君がご褒美としてしてくれるんです。この前は私のどんな所が好きで、どんな所を愛しているのか耳元で囁やかれながらお、オマンコをクチュクチュしてもらって、その前は優しく抱き締められながら何時間もディープキスして……ほ、他にもシックスナインというものを///」
「け、結構過激にやってるのね(確かに
主に身を捧げたはずの聖女様も、愛する男との睦み合いを覚えてしまった今となっては肉欲を貪らずにはいられないらしい。真との行為を思い出しているのか、どこか幸せな表情をしながらジャンヌは話の内容を前戯から本番へと移していく。
「指や口でしてもらった後は真君のおちんぽで/// 抱き合った体勢で愛してもらったり、後ろから犬みたいにハメまくってもらって、色んな体勢で優しく、激しく愛し合うんです。それで、オマンコにたっぷり精液を注いでもらった後は、お、お尻を……///」
「お、お尻ってその、後ろの穴よね? そこってそんなにいいの?」
ジャンヌ・オルタの問いに真っ赤になった顔を両手で覆いながらジャンヌは小さく、だがはっきりと頷いた。もし今二人が話している場所が屋内じゃなく、屋外だったらジャンヌの顔から薄らと湯気が立ち昇っていることだろう。
「私、もう前も後ろも愛してもらわないと満足出来なくなってしまって……」
真との初体験を終えた後の、姦淫に溺れてしまったと嘆いていた彼女はどこに行ってしまったのだろうか? ここにいるのは聖処女などではなく、肉悦から逃れられなくなった一匹の浅ましい雌だ。
「あ、貴方少し乱れ過ぎなんじゃない? 『主よ、この身を委ねます』と言った者の言葉とは思えないわね」
「分かっています、分かっているんです。自分がどれだけ許されざる行為に耽っているか。でも」
顔を隠していた両手をゆっくりと開き、ジャンヌは両手の下に浮かべていた表情を曝け出す。
「マスターに、あの人に愛されると自分が何者なのか忘れてしまうくらい幸せで、真君以外の何もかもがどうでもよくなるほど気持ち良くなってしまうんです」
現れたのは紛れもない『女』の顔。愛する男と肌を重ねる快楽と、情を交わす悦びを知ってしまった者の表情だ。桃色に染まったままの頬に両手を添え、恍惚に目を光らせてジャンヌは悩ましい吐息を漏らすのだった。
(こ、これが噂の快楽堕ちってやつなのね……!)
人間要塞と称しても過言ではない精神力を持った
とはいえ、快楽堕ちと言っても属性が悪い方向に変わる訳でもなし。人理救済の使命は恙なく遂行しているし、ジャンヌの精神性が歪んでしまったということもない。ただ、彼女が少しばかり、いやかなり、というか物凄く真との魔力供給(意味深)が好きになってしまっただけのことだ。何の問題も無い。ないったら無いのだ。
「お、オルタさんはどうなんですか? 真君とはどんな風に?」
「うぇっ、わ、私!?」
振った話題を相手から返され、ジャンヌ・オルタは声を裏返らせる。まさか、逆に自分が聞かれる立場になると思っていなかったジャンヌ・オルタは言葉を詰まらせるも、答える義理は無いと強めに鼻を鳴らした。
「ふ、ふん! 何で私がそんなことを態々答えてあげなきゃいけないのですか? 男女の秘め事を誰かに話して聞かせるなんては、破廉恥だわ!」
「そ、そんなぁ。私だって恥ずかしいのを我慢して話したんですし、オルタさんも話してくれたっていいじゃないですか」
「貴方が話したのはあくまでパンケーキのお礼としてでしょうが。私は貴方にお礼を返さなきゃいけないことをしてもらったことはない。だから話す必要なんて無し。はい、論破!」
「それは、そうですけど……っ! ま、まさかオルタさん。そんなことを言っていますが貴方、本当は真君にとても口では言えないようなことを強要しているのではないですか? だから何も話そうとしないのでは」
「は、はぁ!? お尻で悦んじゃうあんたと一緒にすんなっての! 私とあいつはラブラブよ! 映画化したら全米が号泣しちゃう純愛物語になるくらいね!」
バン、とテーブルを両手で叩き、ジャンヌ・オルタは猜疑の眼差しで見てくるジャンヌに唾を飛ばす勢いでがなり立てる。真に何か望まぬ行為を強いている。そう思われること自体、ジャンヌ・オルタには心外だった。
「だったら、話してくれますよね!?」
「えぇ、話してやろうじゃない、話してやりますとも。私と真のラブラブっぷりをね! 聞いて嫉妬すんじゃないわよ!」
売り言葉に買い言葉。殆ど勢いでジャンヌ・オルタは真との情事を告白することを了承してしまう。荒げた鼻息を落ち着かせている内に後悔の念に駆られるも、やっぱ今の無しと自分の発言を翻すのはプライドが許さなかった。顔を赤らめ、白金の髪を指先で弄りながら彼女はぽつぽつと語り始める。
「私の場合、まず真と一緒にケーキを作るとこから始まるわね」
「ケーキですか?」
「えぇ。ケーキの種類はその時々で違うけど、二人で食べるのに丁度いい大きさのものを作って、真の部屋で互いに食べさせ合うの。交互にあ~んってして、ちょくちょくキスとかボディタッチとかもしながらムードを高めるのよ。ケーキを食べ終わる頃には二人とも気分が最高潮になって、そのままベッドに……って感じだわ」
恋人と一緒にケーキを作り、二人きりの部屋で互いに食べさせ合う。字面だけ見ると、思春期のカップルがするような健全で甘酸っぱいデートにも思えた。
「そ、そうなんですか。私、もっとこう、過激なものを想像してたのですが」
「ご期待に添えずごめんなさいね。私、ピュアだから」
字面通りに自分の言葉を受け取ったジャンヌにジャンヌ・オルタは心の中で舌を出す。
嘘は言っていない、嘘は。ケーキを食べさせ合うというのも事実だし、キスやボディタッチをするというのも本当だ。ただ、その内情を語っていないだけ。
食べさせ合う、キスをしてボディタッチをするとジャンヌ・オルタはさらりと言っていたが、実情は肉欲に満ちたものだ。
まず、食べさせ合う時の体勢。一人用の椅子に腰かけた真にジャンヌ・オルタが跨り抱き付く対面座位の状態で二人はケーキを食べさせ合うのだ。一本のフォークを交互に使って切り取ったケーキを相手に食べさせる。一人がケーキを口に運んでくれている間、もう一人は相手の体に両手を這わせて官能を高め合った。
興奮が高まるに連れ、二人の行為も激しさを増していく。フォークを使っての食べさせ合いは口移しに変わり、脳や舌がドロドロに溶けてしまいそうな甘いディープキスを二人は楽しむ。
何回もやって慣れたのか、服を脱がすのもお手の物。体が密着した対面座位の姿勢も関係なしに二人は互いの服を破くこともなく器用に脱がしていく。そうやって裸になった真とジャンヌ・オルタは思う存分相手の体に触れ、自らの手で自身の性欲を煽っていった。
ケーキを食べ終える頃には二人の口元はクリームや涎でべとべとに汚れ、性器も分泌された体液でびちゃびちゃになっており、二人は昂ぶった体が求めるがままベッドへと雪崩れ込んで互いを貪り合う……というのが真とジャンヌ・オルタが肌を重ねる時の流れだ。
そんな事とは露知らず、ジャンヌは自分も真と何か恋人っぽいことをしたいな、と考えてたりする。
「ベッドに入った後は……まぁ、言うまでも無いでしょう。気絶するまでひたすら愛されるのよ」
「体も頭の中も真っ白になるくらい精液出してもらって、起きた時は真君が腕枕してくれてて」
「『目ぇ覚めたか』って言いながら額にキスしてくれるのよね」
「そして優しくぎゅうって抱き締められて、耳元で『愛してる』って囁かれて……」
「あの時の……何て言うのかしら? 満足感? 心も体も幸せで溢れ返りそうな感覚。あれを味わっちゃったら」
「はい。もう、
二人は己の両腕で体を抱き締め、幸福に染まった吐息を零した。喜色満面に蕩けた顔から二人の心と体がどれだけ真の存在で満たされているかが窺える。
「「あぁ、真(君)……」」
もう、色ボケ具合MAXだった。
「にしても、やっぱりエスっ気強いわね、あいつ。気絶するまでやるとか普通しないでしょ」
色ボケトリップ状態を脱したジャンヌ・オルタは何か考え込んでいた。何のことですか、とジャンヌが訊ねても彼女は何も言わず顎に手を当て、値踏みするようにジャンヌを見据える。そしてジャンヌに聞き取れない声量で何かを呟いた。
「こいつも一緒なら……」
「何か言いましたか?」
「別に……いえ、特別に教えてあげましょう。私、貴方以外の連中にも聞いたのよ。真とのアレについて」
そう言ってジャンヌ・オルタは懐からボイスレコーダーを取り出す。特にこれといった特別な機能もついていない、掌サイズの極一般的な代物だ。
「え? 皆さんに聞いたんですか!?」
「お菓子で釣ってね」
驚くジャンヌに何でもないことのように答えながらジャンヌ・オルタはレコーダーの再生スイッチを押した。ザ、ザと電子音が鳴り、ジャンヌの良く知る女性の声がスピーカーから流れ始める。
「この声は、マリー?」
貴方の体が私のステージ。嬌声絶唱アイドル『マリー・アントワネット』の証言。
『オルタ、今日はお茶に誘ってくれてありがとう。貴方とお話し出来てとっても嬉しかったわ。お菓子も美味しくて、ふふ、素敵な一時だったわね』
『私に聞きたいこと? 良いわ。何でも聞いてちょうだい』
『え、真とのアレ? あの、アレってもしかして……や、やっぱり。た、確かに何でも聞いてとは言ったけれど、そんな恥ずかしいこと……』
『お茶とお菓子のお礼? もう、そんな風に言われたら断れないじゃない。意地悪な人』
『この前のことなのだけれど私、真とする前にヘッドフォンを渡されたの。何だろうって思って付けてみたら、物凄くはしたない声が聞こえてきて。その声は私が真に抱かれている時の声だったわ』
『慌ててヘッドフォンを外そうとしたんだけれど、真が付けたままじゃないと何もしてあげないって言うの。酷いと思わない? 私、恥ずかしいのを我慢してヘッドフォンから流れてくる自分の声を聞き続けたわ』
『どんどん、どんどん声は乱れていったわ。抱かれている最中は全然気付かなかったけれど、あんなに大きな声を上げているものなのね。私、自分の声を聞いている内に体の奥が熱くなって、オマンコもびちょびちょに濡れちゃって。怖いくらいに興奮してしまったの』
『そんな私を真はイジメてきたわ。私の感じちゃう部分をねっとり、でも絶対に逝けない力加減で弄ってきて。逝きたいのに逝けないのが続くあれはもう拷問の域よ。私が泣きながら逝かせてって言っても、真は酷薄に笑って私を
『何十分、いえ、何時間も焦らされて気が狂ってしまいそうだったわ。だから、あんな淫らに真に懇願してしまったのね。私、思いつく限りの卑猥な言葉で真にお願いしたの。自分の手でオマンコを開いて涙と涎で顔をぐちゃぐちゃにしながら犯してって』
『真はとても愉しそうに笑っていたわ。そして私からヘッドフォンを取ってこう言ったの。もっと凄い声で啼かせてやるって。こ、この先はとても言えないわ。私、あんなに激しく……///』
『きっと、その時の声も録られてしまっているのよね。あれ以上イジメられたら本当に変になってしまうかも……でも、それもいいって思ってしまうの。私、真にイジメられるのが病みつきになってるのかしら……』
「へ、ヘッドフォンを使って声を……マニアックですね」
マリーの話を聞き終えたジャンヌは顔を真っ赤にしながら、友人が自分の知らない世界へと続く扉を潜っていったことに寂しいような悔しいような羨ましいような非常に複雑な思いを抱いた。
「真って普段は優男って感じだけど、ベッドの上だと妙なスイッチ入るわよね。ベッドヤクザって奴なのかしら……それは後で考えるとして、次はブーディカよ」
今度、詳しくマリーに話を聞こうとジャンヌが考えていることなど露知らず、ジャンヌ・オルタは次なる証言を再生する。
熟れた体を持て余す。欲求不満くっ殺系未亡人『ブーディカ』の証言。
『ねぇ、この紹介文って何なの? そこはかとない悪意を感じちゃうんだけど。あたしの考え過ぎ? そうかなぁ……』
『まぁいっか。それで、真とセックスする時の話だっけ? え、そんなストレートに言うな? そっちから話を振ってきたのに何言ってるのさ。初心というかピュアというか、オルタは純情だね』
『でも、こうやって改まって誰かに聞かせるってなると結構恥ずかしいな。あぁ、安心して。美味しいケーキをご馳走になった分、ちゃんと話すからさ』
『あたし達はよく玩具を使ってるよ。とは言っても、全面的にあたしは使われる側なんだけどね。玩具ってどんなのかって? そりゃディルドどか、ローターとかバイブとか。もしかして見たことない? 興味があるなら今度ダ・ヴィンチに聞いてみなよ。サンプル持ってるらしいし』
『少し話が逸れたね。それであたしは真に玩具を使って気持ち良くしてもらってるんだけど、それがちょっと過激というか苛烈というか。あたしを凄くイジメてくるようになったんだよね。まぁ、割と最初っからどSな所があったけど、最近は特に顕著で』
『拘束具って言うの? 手錠とか、目隠しとか。そういうのされてさ。オマケに何か変な息が出来るボールみたいなの咥えさせられるし、あ、脚をM字に固定されちゃうし。何も見えない、喋れない、動けない状態で真に可愛がられたんだ』
『本当、死んじゃうかと思ったよ。乳首とクリトリスにローターを貼られて、子宮が潰されちゃうと思うくらいバイブをオマンコに突っ込まれて。それで容赦なくフルパワーで振動させてくるんだもん』
『それだけじゃない。性質の悪いことに真ってばあたしが逝きそうになる瞬間を的確に見抜いてくるんだよね。あたしが逝きそうになったらローターとバイブのパワー弱くして、少し落ち着いてきたらまたパワーを上げてって絶妙に緩急つけてくるんだ。戦術眼を発揮するのは戦闘の時だけでいいのに』
『一時間くらいそうされてたのかな。ずっと逝かさず、殺さずって感じで焦らされて。頭が変になりそうだった。だから、ボールで碌に喋れもしないのに必死で真に逝かせて、逝かせてって涎だらだら流して泣きながらお願いしたんだ』
『そしたら頬がぬるってして。多分、真があたしの涙を舐めたんだろうね。ビックリしてるあたしの耳元で壊れるまで犯してやるって呟かれて、バイブを引き抜かれて代わりにおちんぽをオマンコにぶち込まれたんだ』
『そこから先は、正直言ってあんまり覚えてない。真の気が済むまで、オナホールみたいに扱われて、何十回も中出しされて。ちょっと苦しかったけど、頭が沸騰しそうなくらい気持ち良かったんだよね。こんなこと言うのもどうかと思うけど、またして欲しいかな』
『と、まぁこんな感じであたしの話は終わり。参考に……はしない方がいいと思う。というか、絶対しちゃ駄目だよ』
『それと、これは年長者からのアドバイス。真と変わったプレイを楽しむのもいいけど、もしやるんだったら程々にね? あたしみたいに後戻り出来なくなってからじゃ遅いからさ……』
「ぶ、ブーディカさん。貴方も玩具で///」
「何よ、玩具って。ちょっと上級者過ぎるでしょ。目隠しって、手錠って……ちょっと待ちなさい、聖女様。あんた今、貴方『も』って言ってなかったかしら?」
「次! 次、聞きましょう、ね!」
頭から煙を噴き出して机に突っ伏していたジャンヌ・オルタは聞き捨てならないジャンヌの発言に顔を上げる。金色の双眸が投げつけてくる問い質すような鋭い目線から逃れようと、ジャンヌは慌てて録音を再生させる。
彼女もまたブーディカ同様、真に後戻り出来なくなる所まで堕とされてしまっているのだが、これは後で語るとしよう。
次にレコーダーが流したのは平安最強の神秘殺しの声だった。
黒縄雷霆、無間地獄の母性愛。魔性と悪い虫絶対潰す対○忍系源氏棟梁『源頼光』の証言。
『何ですか、無間地獄とは! 母の愛をそのように言われるのは心外です! それに○魔忍というのも止めて下さい! この姿は紛れも無い戦装束。あ、あのような如何わしいものと同列に扱うなど、オルタさんでも許しませんよ!?』
『ふぅ、ふぅ……すみません、取り乱しました。それでオルタさん、一体私に何の御用で?』
『なっ、し、真との睦言について聞きたい!? そんな、閨でのことを話すなんて出来ません!』
『じゃあこれは渡せない? っ! そ、それは金鍔。何時の間に作って……真とのまぐわいを話してくれたらあげるですって? 何て卑劣な……!』
『侮らないで下さい。私は真や金時のように子供ではないのです。この源頼光、甘味などに屈したりしませんわ(もぐもぐ)!』
『あら。私、何時の間に食べて?』
『……』
『ごほん! 食べてしまったものは仕方ありません。恥ずかしさで悶絶死してしまいそうですが、話すといたしましょう』
『戦装束姿の私と交わるのが気に入ったようで、真と床を共にする時は大抵この姿です。勿論、鎧や具足は外していますが。そしてあの子は無防備になった私の装束を破くのです。ち、乳房や股間だけが露出する絶妙な手付きで。もう、どこであんな悪いことを覚えてきたのでしょう? いえ、今気にすることではありませんね』
『あの子はとにかく私の胸が好きでして、最初に必ず胸を揉んできます。両手で遠慮なく揉み潰し、舌で乳首を舐め回し、口付けするように吸い付いてくるんです。恥ずかしいことですが、私、そうされるだけでも果てるようになってしまいました』
『それに最近、乳の出も良くなってしまって。あの子に触れられるだけでも乳首からぽたぽたと。まぁ、真が美味しそうに飲んでくれるので何の問題も無い。むしろ、母冥利に尽きるというものですが』
『私の乳を味わった後、あの子は胸を犯してくるんです。ぱいずり、というのでしょう。何でも乳と汗が混ざったぬめり具合が格別だそうで、それはもう激しく。大体は真に馬乗りされているのですが、時には私が上になってすることもあります。くす、私にぱいずりされている時のあの子の顔、とても可愛らしいんですよ』
『はしたないと承知していますが、私、ぱいずりで真を逝かせるのが大好きなんです。母の胸の中で精を放つあの子の顔も一段と良いのですが、何よりも装束の中が精液で満たされていく感じが堪らないんです。肌にべっとりと白い精が貼りついて、むせ返りそうな雄の匂いに包まれて。あぁ、思い出すだけで潤ってしまいます……』
『その後は言うまでもないでしょう。獣のように激しく、でも
『あぁ、でも強いて不満を挙げるとすれば、何時も私の方があの子よりも早く意識を失ってしまうことでしょうか。頭を優しく撫でられながら起きる朝は良いものですが、偶には私が真を起こす側になりたいものです』
「服を着ながら、ですか。着衣プレイ、というものなのでしょうか?」
「いや、頼光の場合もう完全にコスプレでしょ。何よあのピッチリスーツ。あれが戦装束とか馬鹿なんじゃないの。ていうかあれ何で出来てるのよ、何であんなの着させてたのよ。趣味? 頼光の親父の趣味だったのかしら?」
頼光の纏う源氏スーツはサーヴァント達の間でも謎の存在となっていた。様々な憶測、考察がされているがこれが真実だと言えるような結論はまだ出ていない。
「ところで、頼光さんの言っていた対○忍って何なんですか?」
純粋な疑問が湛えられた瞳がジャンヌ・オルタに向けられる。私も詳しくは知らないわよ、と首を振りながら彼女は懐から取り出した携帯端末をジャンヌに見せた。ちなみにこの携帯端末、全てのサーヴァントに支給されてたりする。
「でも、どんな格好をしてるかだけは分かるわよ。浪漫野郎のHDDってやつにデータが入ってたからすっぱ抜いてやったわ」
「浪漫野郎って、ドクターのですか!? ま、拙いですよ」
「構わないわよ。別に何か悪用する訳でもないし、知的好奇心を満たすだけだから」
携帯端末の電源を入れ、ジャンヌ・オルタはこっちに来いと手招きする。口では拙いと言いこそしたが、内心では興味津々らしくジャンヌは誘われるがままジャンヌ・オルタの隣へとやって来た。
「じゃあ、いくわよ」
「は、はい……!」
まるでこれから特異点へとレイシフトするかのような面持ちの二人だが、実際にやっていることは親に隠れてエロ本を見る中学生レベルのこと。身を寄せ合い、こそこそと何かしている姿はパソコンでアダルトサイトにアクセスしようとしている双子姉妹のようだった。
ジャンヌ・オルタが操作する端末が目的の○魔忍画像を空中に投影する。目の前に現れたキャラ画像にジャンヌは顔を真っ赤にしながら口元を両手で覆い、ジャンヌ・オルタもジャンヌほどで無いにしろ顔を朱に染めていた。
「こ、こんな格好。何て破廉恥な……」
「何度見てもインパクトが凄まじいわ、これ。女の忍ってことは所謂くのいちってやつなのよね、こいつら。何、くのいちってこんな服じゃないと務まらないの? 半端ないわね、日本」
何か日本が凄まじい方向に勘違いされているが、悲しいことにそのことを指摘出来る者はこの場に一人もいなかった。
「や、やっぱり真君もこういう格好の女性に興奮するんでしょうか?」
「そりゃするんじゃない。だから服着たままの頼光と、その、ヤってるんだろうし……この服、ダ・ヴィンチに頼めば作ってくれるかしら?」
「……今度、二人で行ってみましょう」
「えぇ。材料、何をどれくらい持っていけばいいのかな」
とんでもない約束を交わす二人だった。
ちょっとばかり話が変な方へと向いたが、気を取り直して再び二人は向かい合う。
「じゃ、次いくわよ」
次に再生されたのは江戸は幕末に活躍した美少女剣士のものだった。
私の血で貴方を染めさせて。病弱血噴き人斬り娘『沖田総司』の証言。
『ちょっと、この紹介文悪意に満ち過ぎてませんか!? 何ですか私の血で貴方を染めさせてって? そんなサイコでスプラッターな願望、沖田さんは持ってません! それに病弱血噴きっていくら何でも酷過ぎるでしょ! 最美最強人斬り娘と訂正してくだ、え、何ですかこのお団子と金平糖? くれるんですか? やったー!』
『いやぁ、大変美味しかったです。オルタさん、和菓子も作れるんですね。凄いなぁ……あ、すいません。ちょっとお茶を一杯いただいても?』
『ありがとうござ、あれ、くれないんですか? え、渡してもいいけどその代り真さんとの情事について教えろ?』
『ふ、ふふふ。聞いちゃいます、聞いちゃいますか? 沖田さんと真さんのラブラブっぷり! いやぁ、自分でこんなこと言うのもなんだと思いますけど私達の仲はあっつあつですよ。きっと、世界ベストカップル賞とかがあったら、受賞すること間違いなすみませんごめんなさい調子に乗りました。謝りますんで首筋に旗を突きつけないで下さい!』
『と、威勢のいいこと言いましたけど、何を話せばいいのでしょう。普段やってること? そりゃ夜這いプレイとかやってますけど』
『何それって、言葉通りですよ。皆さんが寝静まった夜に私と真さんのどっちかが互いの部屋に侵入して、ベッドに潜り込んでイチャイチャするんです』
『基本、夜這いをかけるのはどっちていうのは決まってないですね。夜這いをかけたくなった方が相手に合図を送って、その日の夜に部屋に忍んでいくって感じです。合図ってどんなのかって? それは教えられません』
『他にもお医者さんプレイとかやってます。はい、ご想像の通り、私が患者役で真さんがお医者さん役です。お医者さんの格好した真さんが白いどろどろのお薬を太くて大きい注射でオマンコに一杯注いでくれるんですよ。溢れ返ってあそこがべちゃべちゃになるくらいたくさん』
『それだけじゃ終わりません。上からも摂取しないと効果が薄いって言って、私の口に注射、もといおちんちんを突っ込むんです。私、精液で溺れそうになったの初めてですよ……上も下も収まり切らないくらい出してもらっちゃいました』
『でもでも、沖田さん的に一番嬉しかったのはその後なんです。プレイが終わった後、真さんが膝枕してくれたんですよ! 横になった私の頭を朝までずっと優しく撫でてくれました。正に至福、それ以外に言葉が見つかりません』
『真さんに膝枕をした人は何人かいると思いますけど、真さんに膝枕をしてもらったのはきっと沖田さんが初めてってオルタさん、何故に旗を構えていらっしゃるんでしょうか。オマケに周りに黒炎渦巻かせて。え、羨ましい? いやいやいや、オルタさんも真さんに今度膝枕やってもらえばいいだけの話じゃないですか!? それとこれとは話が別? 何が別なんですかあっつぅぅぅい!!!』
「とりあえず、
「だから今日、総司さんは寝込んでたんですね。八つ当たりにしても度が過ぎるのでは?」
「はん、心配しなくてもちゃんと手加減はしたわよ。実際、総司のお尻が軽く火傷しただけだし……そんな目で見ないでよ、これでも本気で反省してるんだから。ただ、我を忘れるくらい総司が羨ましくて……」
「それでも宝具はやり過ぎです」
ぴしゃりと、厳しい口調でジャンヌはきっぱり言い放つ。羨ましいと思う気持ちは分からないでもないが、それにしたってやることが過激すぎだ。ジャンヌ・オルタも本気で反省しているらしく、ジャンヌの言葉に異を唱えずにこくんと頷いている。
実際今日、ジャンヌ・オルタはジャンヌと会う前、総司に謝りに行っていた。その際、今度お詫びに山ほど団子や饅頭をご馳走するという約束もしている。
「そうですか。二人の間で話がついているなら私からはこれ以上何も。ただ、感情に任せて動くのは控えたほうがいいとだけ言っておきます」
「はいはい、分かってま~す」
ジャンヌの言葉を遮るジャンヌ・オルタの姿はまんま姉に怒られる妹だった。ポチッと、と話題を変えようとジャンヌ・オルタはボイスレコーダーを操作する。
余り喋らないけどマスターを想う気持ちは人一倍。可憐で一途な機械娘『フランケンシュタイン』の証言。
『ゥ? ウゥ~?』
『ゥゥ、ウゥゥ!』
『ゥ、ゥ、ゥゥゥ』
『ゥ~、アウ~』
『ゥ! ゥ!』
『ウ~///』
『わたし、ますたーが、だいすき』
「あの、フランさんは一体どんなことを言っていたんでしょう?」
「分かる訳ないでしょ。私は真やマシュと違ってバーサーカー言語翻訳技能なんて持ってないもの」
じゃあ何で聞きに行ったのですか? とジャンヌに問われるが、ジャンヌ・オルタは何でかしらね? と恍けた答えしか返せなかった。
「とりあえず、真のことが好きで好きで仕方ないってことは嫌ってほど伝わってきたわ。あの子、凄い身振り手振りだったし。それに大好きって言ってるもの」
人の手により創り出されたフランケンシュタイン。己の花婿を定めた彼女は一途に、そして直向きに花婿を愛するのだった。
「フランの次はマシュなんだけど……本当に聞く?」
「な、何故そのような確認を?」
ジャンヌ・オルタの真剣な眼差しに思わず喉を鳴らすジャンヌ。
「あの子の話が一番過激なのよ。私、聞いてて鼻血出しちゃったもの」
頬を紅潮させるジャンヌ・オルタの姿にジャンヌは更に大きく喉を鳴らした。
マシュ・キリエライト。どのサーヴァントよりも早く、人理救済の始まりから真に寄り添っていたデミ・サーヴァント。現在、真への想いを解放させた彼女は人目があろうがなかろうがお構いなしで、以前の彼女なら顔を茹蛸のようにすること間違い無しの行いを平然としていた。
人前で抱き付いたり軽くキスしたりするなど日常茶飯事。共に行動する時は戦闘時でもない限り真の腕に自身の腕を絡め、これでもかと自慢のマシュマロボディを押し付けている。他にも飯時は常に真の隣を陣取り、あ~んしたりと例を挙げればキリが無かった。
最近のトレンドは真の目を見ることらしく、暇さえあれば真の首に両腕を回し、少し唇を突き出せばキスが出来る距離で彼の青い瞳をじっと覗き込んでいる。ちなみにその時二人の間でなされた会話がこれだ。
『……(じぃ~)』
『なぁ、マシュ。俺の目なんか見てそんなに楽しいか?』
『なんかじゃありません。先輩の目は最高水準のダイヤが霞んじゃうくらい素敵ですから。わたし、先輩の目を見てるだけで山盛りご飯十杯食べれちゃいます』
『そ、そうなのか。もうちょっと、野菜とか肉とかバランス良く食べた方がいいと思うぞ』
『色んな人を食べちゃってる先輩みたいにですか?』
『こふぅ』
『くす、冗談です。だから、そんなショックを受けた顔しないで下さい。あ、先輩の目に関して冗談は一言も言ってませんよ。わたし、大好きです。空みたいに青く澄んでて、海みたいに深く優しくて……ずっと見ていたいなぁ』
何かもう、口から砂糖が量産出来てしまいそうだった。
こんな感じで最近のマシュは四六時中真と引っ付き、そしてイチャイチャしていた。これにはスカサハ達が黙っていないのではないかとカルデアスタッフ一同は気が気でならなかったが、意外にもサーヴァント面々の反応は大らかなものだった。
『あの娘は今まで我慢をし過ぎていた。その反動が出てきたと思えばあの行動も可愛いものだ。やっと素直になれたあの子に嫉妬するような狭量な女、真に抱かれた者の中にはおるまいよ』
とはスカサハの言葉だ。彼女の言う通り、マシュを押しのけて自分が真とイチャつこうとする者は誰もいなかった。ただまぁ嫉妬はしていないが羨ましくはあるらしく、マシュがカルデアの仕事でいない時は我先にと真に甘えてたりする。無論、ジャンヌとジャンヌ・オルタも例外ではない。
と、長々と話したが今その話は何の関係も無い。話を二人に戻すとしよう。
「そんなに凄いんですか、マシュさんの話は?」
「聞けば分かるわ、聞けば」
わたしが先輩の一番。子犬と侮ったら痛い目を見ますよ? 超肉食ど淫乱
『先輩と? はい、昨日もたっぷり愛してもらいました。寝る前の先輩をわたしの部屋に誘って、お茶にお薬を混ぜて一服盛ったんです』
『これがそのお薬です。ダ・ヴィンチちゃん特製の精力剤。と言っても、わたしが使ったのはこれじゃなくて更に効能を強くしたバージョンアップ版ですが』
『凄かったですよぉ、先輩。目をギラギラさせながらわたしをベッドに押し倒して、服もびりびりに破いて、わたしのオマンコにバキバキ勃起おちんちんをずぼって。あぁいうのをレイププレイって言うんでしょうか』
『もう、ガンガン犯されちゃいました♡ ベロチューされながらベッドに押さえつけられて、勃起おちんちんでオマンコたくさん抉られて……あの時のわたしは先輩が満足するまで中出しされ続ける肉便器でした』
『何時間ぶっ通しでヤってたんでしょう? 先輩が正気に戻った時はもう真夜中で、皆さんも寝静まってましたね。先輩、わたしがお薬を使ったことを怒ってましたけど、誠心誠意体で謝ったら許してくれました。本当に先輩は優しい方です』
『その後も愛してもらおうと思ったんですけど、ベッドが先輩のザーメンやわたしのマン汁で酷いことになってまして。とても横になれるような状態じゃありませんでした。替えのシーツも無かったので続きは先輩の部屋でということになったのですが、ただ普通に場所を変えるのも面白くないと思ってわたし、先輩を誘ったんです。先輩の部屋に行くまで雌犬プレイしませんかって』
『雌犬プレイって何、ですか? 飼い主と飼い犬が部屋から出てすることなんて一つしかありません。散歩ですよ、散歩。まぁ、散歩と言っても
『リード? いえ、してませんよ。わたしを繋いでいたのはリードじゃなくて先輩のおちんちんでしたし。どういうことって、言葉通りです。立ちバック、って言うんですか。あの状態でわたしと先輩は廊下を移動してたんです。わたしの部屋を出た辺りは本当に犬みたいに四つん這いになってたのですが、それだと歩き難くて。苦肉の策でした』
『やってみてどうだった? とっても、とぉっても素敵でした。一歩進むとおちんちんが子宮にゴチュッ、ゴチュッってキスして……わたし、気持ち良過ぎてて何回も廊下で潮噴きしちゃいました』
『逝く度に先輩にお仕置きしてもらったんです。お尻が真っ赤になるくらい叩いてもらって、でもその内痛いのも気持ち良くなっちゃって、もうお仕置きがご褒美になってました。わたし、先輩の部屋に着くまで何回叩かれたんでしょう?』
『部屋に着いた後はお仕置きセックスの始まりです。床に四つん這いにされて、耳元で雌犬って罵られながら後ろからあんなに激しく、それも起床時間まで……あ、駄目、思い出すだけで逝っちゃう……!』
『……すみません、見苦しい所をお見せしました。わたしの話はこれで終わりです。ところでオルタさん、こんなこと聞いてどうするつも、オルタさん!? 鼻から凄い血が出てますよ、大丈夫ですか!?』
「は、はにゃぢが……///」
マシュの録音を聞き終えたジャンヌは鼻を押さえた両手の指の間から赤い血を雨漏りのように滴らせていた。姦淫に溺れていると自覚している彼女でも、マシュの話は余りに刺激が強過ぎた。
鼻腔から血を溢れ出させるジャンヌの姿にジャンヌ・オルタはこれが私も通った道、と妙に感慨深い想いを抱きながら顔と両手を赤く染める彼女にティッシュ箱を差し出す。
「は、はひはほふほはひはふ」
待つこと数分。数十枚のティッシュを血染めに仕立て上げ、漸くジャンヌは落ち着きを取り戻した。
「ま、マシュさん、貴方は何てことを。へ、部屋でならともかく、廊下でなんて……はふん」
訂正、落ち着くことなんて出来なかった。再び鼻血を噴き出すジャンヌ。急いで鼻の穴にに丸めたティッシュを詰めるジャンヌを嘲笑うことも忘れ、ジャンヌ・オルタは彼女に同意して何度も頷く。
「廊下でとかレベル高過ぎでしょ。誰もいない真夜中だったから良かったけど、誰かに見られたらどうするつもりだったのかしら」
見せつけるつもりでした。と、ジャンヌ・オルタの脳裏に姿を現したマシュはそれはそれはいい笑顔をしていた。
「そ、そういえばマシュさん、廊下でお漏らしをしたと言ってましたが、それはどうしたんでしょう?」
「真がどうにかしたんじゃない? あいつ、そういうとこ結構まめだし……にしても、話を聞く限り真の奴もノリノリね。やっぱ、あいつどSよ」
録音した、真と関係を持った女性達の話を聞いてジャンヌ・オルタは改めて思った。真にはサディストとしての面があると。少なくとも、彼がイジメる側にいるのは確かだ。
「オルタさん、一つ聞かせてもらってもいいでしょうか。録音のマシュさんも言っていましたけど、こんなことを聞いて回ってどうするつもりなんです?」
「それに答える前に一つ質問するわ。あんた、真としてる時に『上』になったことってある?」
「う、上ですか? はい、何度か。下から思いっきり、何回も突いてもらいました///」
「
ジャンヌ・オルタの質問にジャンヌは考え込む。ジャンヌの場合、快楽で意識がぶっ飛ぶまで責め立てられるのがほとんどだ。主導権を握れたことなど一度としてない。それはジャンヌ・オルタも同じだ。
「こちとら
その為に皆から色々と話を聞いて真の弱点を探したんだから、と息巻くジャンヌ・オルタ。普段、自分がベッドの上で真にイジメられているのと同じように、彼女も真を可愛がりたいらしい。復讐者のクラスであるジャンヌ・オルタらしいといえばらしい願望だ。
ジャンヌ・オルタの告白にどういう顔をすればいいか分からず、ジャンヌは曖昧な表情をしていたがふとある疑問が頭を過った。ジャンヌ・オルタは真の弱点を知りたいと言っていた。なら、何故彼女から話を聞いていないのか?
「スカサハさんには話を聞かなかったのですか? マシュさんを除けば、真君と最も長く過ごしているサーヴァントが彼女です。経験も豊富だと聞きますし、彼女なら真君の弱点も主導権の取り方も知っていると思うのですが……」
尻すぼみになっていくジャンヌの声。ついさっきまで拳を握り、どうやって真をイジメるかを語っていたジャンヌ・オルタの顔がスカサハの名前が出てから能面のようになっていた。無表情に見詰めてくるジャンヌ・オルタにたじろぎ、ジャンヌは言葉を詰まらせる。
「あの女に話? 聞きましたよ、えぇ聞きましたとも……あいつ絶対いつかぶっ飛ばす」
物騒かつ不穏なことを呟きながらジャンヌ・オルタはレコーダーの再生スイッチを押した。
主のハートに恋のゲイ・ボルク。魅惑のケルトおっぱいタイツ『スカサハ』の証言。
『……前々から言おうと思っていたのだが、このおっぱいタイツというのは何とかならんのか? ならない? 最早、正式名称? そうか、そうか、そうなのか……』
『まぁいい、呼び名などどうでもいいことだ。それで、真との情事についてだったか? 色々なコスプレをしながらシチュエーションプレイをしているぞ。最近では婦警、チャイナドレス、それに女教師の格好でまぐわったな』
『中々悪くないぞ、決まったシチュエーションに沿って愛し合うというのも。獣のように互いを貪るのとはまた違った快感がある』
『婦警の格好をした時は取調プレイ、と言えばいいのか? それをやったぞ。無実を主張する真をあの手この手でイジメて、焦らして自白させるのだ。真の必死で快楽に耐えるあの表情、思い出すだけで体が疼いてしまうな』
『チャイナドレスの時は逆で、私がイジメられる側でな。設定としては拳法の師匠に勝てない弟子が媚薬を使って、閨での睦み合いで師匠を雌に堕として屈服させるのだ。言うまでも無いと思うが、私が師匠役だぞ? 実際にダ・ヴィンチに作らせた媚薬を用いてみたが、あれはとてもいいものだ///』
『女教師の姿でする時のシチュエーションは二パターンあってな。私が真を誘惑するのと、真が私を襲うものの二つだ。このプレイは私も特に気に入っている。ルーンで真の頭を少々弄ってな、女と交わった記憶を全て消してあいつを童貞の頃に戻すのだ……心配せずとも、した後はちゃんと真の記憶を戻している。私との記憶だけを残しておくというのは魅力的だが、己の欲求を優先してカルデアを割るような真似はせんさ』
『記憶を消した時のあいつは……いいぞぉ。私の仕草の一つ一つで顔を赤らめる初心さ、童貞丸出しの余裕の無い腰使い。我武者羅にピストンを打ち込まれるあの感覚。本当に堪らない』
『他にもやってみたいことは色々とあるのだが、如何せんダ・ヴィンチの奴が忙しそうでな。中々、衣装の製作を頼めんのだ。皆に何かと頼られているようだが、万能の天才というのも考え物だな』
『ん、閨での主導権? 私が握る時もあれば、真に身を任す時もあるぞ。どちらか一方が主導権を持ち続けているというのは余り無いな。主導権の奪い方? そんなことを聞いてどうす……あっ(察し)』
『ふむ、そうか。そういうことか。お主も大変なのだな……ふっ』
「ガッデム!!」
突如、吼えたかと思えば、ジャンヌ・オルタは椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がってボイスレコーダーを床へと叩き付けた。それだけじゃ怒りが治まらなかったようで、ガ~と耳障りな電子音を発し始めた半壊しているレコーダーにこれでもかとストンピングの嵐を浴びせていく。
「あぁ、今思い出しても腹が立つ! あの嘲笑、あの可愛らしいものを見るような表情! 影の国の女王だか真の初めての女だか知らないけど、余裕に満ちた顔して……うぎぃぃぃぃぃ!!!!!」
憤怒の暗黒面に堕ちていくジャンヌ・オルタ。歯は竜の牙のように尖り、舌が蛇のようにくねりながら伸びていく。顔は骨格そのものが変わってしまったのか、般若と見紛うばかりの形相を浮かべていた。オマケに彼女の周囲に黒炎が舞い踊り、テーブルやら椅子、床と天井を焦がしていく始末。
「オルタさん落ち着いて! 食堂が、食堂が燃えちゃう!」
「ジェラララララ!!!!!」
後ろから羽交い絞めにすること数分。話題をスカサハのことから変えることでジャンヌはやっとジャンヌ・オルタの正気を取り戻すことに成功した。
「それで、さっき真君のことをあひんあひん言わせたいって言ってましたけど、具体的な方法は考えているんですか?」
正直言って、何をどうやっても返り討ちに会う
「確かに私一人じゃ真に敵わない。でも、二人なら……!」
ぐわっし、とゴリラもビックリの握力でジャンヌの肩を握る。痛いくらいに肩に指を食い込ませる手と、自分をじぃっと見据える金色の双眸を交互に何度も見比べるジャンヌ。脳をフル回転させてジャンヌ・オルタの理解し難い発言の真意を見抜き、熟した棗のように顔を赤くして目を見開いた。
「え、えぇぇぇ!!!??? そ、そんな二人一緒に真君とするなんて破廉恥なこと、ででで出来ません!」
「喧しい! あんだけ色々と真とよろしくやっておいて今更純情ぶってんじゃないわよ!」
出来ないと連呼するジャンヌを強引に説得し、ジャンヌ・オルタは最終的に彼女を丸め込むことに成功した。
「待ってなさい、真、それにおっぱいタイツ! 真のアヘ顔ダブルピースを写メって、その写メをおっぱいタイツに送り付けてやるわ! 精々、真を寝取られた悲しみに打ちひしがれながら枕を涙で濡らすことね! くっくっく、あっはっはっはげっほ、げっほ!」
悪役じみた高笑いから一転、盛大に咽せるジャンヌ・オルタの背中を優しく擦りながらジャンヌは心の中で溜め息を吐く。やっぱり、どう考えても真から主導権を奪えるとは思えなかった。
「それで、具体的な作戦はあるのですか?」
「えぇ、とびっきりのやつがね!」
自信満々にドヤ顔を決め、ジャンヌ・オルタは瞳をキラリと煌めかせた。
翌日、真のマイルーム。
「よし、これで完成と。どうだ、着心地は?」
「フォーウ」
「悪くない? それは良かった。じゃ、俺もこれ付けてっと……それではご唱和下さい」
「「フォッフォッフォフッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッ 」」(V)o¥o(V)
「何やってんのよあんたら……」
呆れた声にベッドに座っていた真と、彼の頭の上に乗っていたフォウ君が部屋の扉を見る。そこには黒と白のダブルジャンヌの姿があった。
「おぉ、オルタ。それにジャンヌも。何か用か?」
「いや、用っちゃ用だけど、マジで何やってんの?」
「バルタン星人ごっこ」
「ダフォーウ」
両手にザリガニのようなハサミをつけた真に追従するようにセミに見えなくも無い謎の着ぐるみを着たフォウ君が鳴く。
「あんた、いい歳してごっこって」
「未成年だから問題ないも~ん。で、もっかい聞くけど何の用?」
両手からハサミを外しながら改めて訊ねる。真の問いにジャンヌ・オルタは答えず、代わりに背後にいるジャンヌに前に出るよう顎をしゃくった。
「あの、真君。これ、オルタさんと一緒に作ったんです。よければ、食べて下さい」
ジャンヌが両手でフォークと皿を差し出す。皿の上には木の切り株を模したケーキ、ブッシュ・ド・ノエルが乗っていた。
「あんた、前にこのケーキ食べたいって言ってたじゃない。だから、態々この聖女様と一緒に作ってあげたのよ」
おぉ、と真は目を輝かせる。確かにそんなようなことを以前ポツリと言ったことがあった。
「え、作ってくれたのか? ありがとう。うわ、マジで嬉しい」
何気なく呟いたことを覚えていてくれて、尚且つ本当に作ってくれたことが真にはとても嬉しかった。善意の裏に隠された企みに気付かず、純真無垢に喜びながらフォークと皿を受け取る真。まさか、このケーキに薬が盛られているなんて露ほども思っていないだろう。そんな真の姿がジャンヌの良識をギャリギャリと削っていった。
(お、オルタさん。私、罪悪感で胸が押し潰されそうです……!)
(我慢しなさい! この後、罪悪感なんかぶっ飛ぶくらい気持ち良いことするんだから!)
「ん、二人は食わんのか?」
こそこそと話す二人に声をかける真。机に皿を置き、椅子に腰かける真に二人は首を振って見せた。
「あんたのために作ったんだから私達のことは気にしないで食べちゃいなさい」
ジャンヌ・オルタの言葉にジャンヌもこくこくと頷く。
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えていただきま」
「フォーウ!」
早速、食べようとすると、頭の上にいたフォウ君が不満の声を上げた。ひらりと真の頭から飛び降り、てしてしと短い前足で机を叩く。
「フォーウ、フォウ、フォーウ!」
「えっと、真君。フォウ君は一体何て言ってるんでしょう?」
「僕の分のケーキはどうした、だと」
「は、ある訳無いでしょそんなの」
「フォシャー!」
無慈悲なジャンヌ・オルタの返答にフォウ君は全身の毛を逆立てて怒りを露わにした。どうやら、彼もケーキを食べたいようだ。
「フォウ!」
「一口、いや、半分を要求する、って言ってるけどどうする?」
「駄目に決まってんでしょ。っつか、一口ならまだ分かるけど半分って図々しいわね、この不思議
ヒョイとフォウ君の首根っこを摘まみ上げるジャンヌ・オルタ。ジタバタと激しく暴れるフォウ君だったが、ジャンヌ・オルタの手から逃れることは出来なかった。
「フォウ、フォーウ!」
「HA☆NA☆SE! さもないと来週のお茶会に出てくるお菓子を全部、一口ずつ食べてやるぞ! だってさ」
「はっ、やってみなさいよ! その自慢のフワフワの毛を私の黒炎でチリッチリにしてやるから」
スタスタとドアまで歩いていき、ジャンヌ・オルタは横にスライドして開いた扉からフォウ君を廊下に投げ捨てる。
「フォーウ!」
「夢に化けて出てやる! って言ってるけど……まさか俺もじゃないよな?」
「出てきたら出てきたで追っ払えばいいだけの話でしょ。ほら、溶ける前に食べちゃいなさいよ」
フォウ君に申し訳ないと思いつつも、ジャンヌ・オルタに促されて真はケーキをフォークで小さく切り分け、口へと運ぶ。ケーキ表面のチョコクリームとスポンジに挟まった生クリーム、生クリームの中にあるチョコチップの味わいが絶妙だった。
「うん、美味いよ」
真の言葉に二人はぱぁっと顔を華やかせ、夢中でケーキを食べていく真を嬉しそうに見ている。一人で食べるのに丁度いいサイズだったケーキは数分もしない内に真の腹へと収まっていった。
「ご馳走様でした。俺のために作ってくれてありがとな、二人とも……ふあぁ」
不意に大きな欠伸が真の口から漏れ出る。何の前触れもなく、強烈な睡魔が真を襲っていた。
「何か、急に眠く……」
「きっと疲れてるのよ。ただでさえ色々な時代にレイシフトしているんだから。ほら、ベッドまで連れてってあげるから立ちなさい。聖女様、あんたも手伝って」
「は、はい」
ジャンヌ・オルタとジャンヌに左右から支えられ、フワフワとした足取りで真はベッドに向かっていく。ベッドに横たわる頃にはもう瞼を持ち上げているのも億劫だった。
「今日はこれといった予定は無いのだし、寝ちゃいなさいよ」
「あぁ、そうさせてもらおうかな……」
目を閉じる真。視界が閉じきる寸前、ジャンヌ・オルタの唇が邪悪に歪んだように見えたが、まぁ気のせいだろうと自分に言い聞かせ、真は心地よい暗闇の中に意識を沈めていった。
「これでよし。さ、こっちも準備するわよ」
「うぅ、騙してごめんなさい、真君。騙してしまった分、一杯気持ち良くしてあげますからね」
果たして真の運命や如何に。後半へ続く。