辺りが少し明るくなってきた頃、リュウは不穏な気配を感じた。
「ディール、起きて。」
リュウは横で眠るディールを小突いて起こす。
ディールはすぐ目を覚まし、槍を手元に引き寄せ警戒する。
「なにかあった?」
「嫌な気配がする。」
「どこ?」
「あのあた――」
リュウが指さした茂みが光る。
咄嗟にディールがリュウを突き放す。
二人の間を矢が飛んでいき、彼方へ消える。
「敵襲!!」
ディールが叫び、茂みを警戒する。
さすが護衛を長くしているだけある。
ディールの叫びに全員が反応し、すぐさま臨戦態勢に入る。
「リュウ!あなたは中央でセディーンの指示に従って!」
ディールが指示を出すと同時に、茂みから武装した男たちが飛び出してきた。
ディールは先頭を切ってきた男に槍を突き出す。
電撃のような突きに男は声もあげずに貫かれる。
すぐさま槍が引き抜かれ、牡鹿の鎧を身に着けた女戦士が敵の集団に突っ込む。
槍が女の細い腕に操られ、まるで生き物のように動く。
触れた者は身体の一部を切断されるか四方に弾き飛ばされる。
男たちは距離をとろうとするが、ディールの槍は獲物を逃さない。
避けたと思った瞬間、穂先が伸び男たちに襲いかかる。
中央ではセディーンとアシェル、ヴァリともうひとりの賞金稼ぎ(確か名前はオーリル)がそれぞれの武器を構え、待機している。
「アシェルとヴァリと賞金稼ぎたちはここで敵を防ぐんだ。お嬢様は私とロビーナが守る。」
武装した男たちが天幕目がけて進んでくる。
アシェルは剣と小盾、ヴァリは両手にナイフ、オーリルは剣を構え敵と交戦する。
リュウも両手に愛剣を構え切りかかってきた男の一撃を受け止める。
アシェルは小盾で攻撃を受けると同時に剣で敵をたたき伏せる。
ヴァリは素早く動き回り、敵を翻弄しながら的確に急所を仕留める。
セディーンは自慢の長剣を豪快に操り、迫る複数の敵を次々と切り伏せる。
リュウも奮闘するが、敵の攻撃に違和感を覚える。
(まだ数はいる感じがする。なのに全員でかかってこない…なにかを待ってる?)
そのとき、オーリルが何かを落とした。
途端に辺りが煙に包まれる。
「なんだ!?」
誰かの驚く声が響く。
煙は男たちも巻き込んで広がっていく。
「煙を吸うな!毒だ!」
セディーンが叫ぶ。
襲撃者の男たちにとっても予想外だったらしく、煙を吸って次々と倒れていく。
ーーーーー
煙はすぐに晴れた。護衛たちはそれぞれ口に当て布をしているが、襲撃者は地面に倒れている。
「痺れ毒か…すこし吸ってしまったな。皆無事か?」
セディーンが点呼をとる。
「あたいは大丈夫。」
「…平気。」
「毒を少し吸い込んだけど、わたしも大丈夫よ。しばらく動けそうにないけど…」
護衛たちも痺れ毒を吸い込み、座り込んでいる。
襲撃者ほど吸い込んでいないので痺れはじきとれるはずだ…
「お嬢様、ご無事ですか?」
天幕に声をかけるが返事はない。
一気に不安が押し寄せる。
セディーンは痺れる身体を引きずり天幕に向かう。
「お嬢様!ロビーナ!」
天幕の中をのぞくが誰もいない。
「セディーン!お嬢は?」
「天幕にはいない…ロビーナが連れて逃げたのやもしれない。」
「こっちには賞金稼ぎがいないぜ。二人ともだ。」
アシェルが苛立った声で報告する。
「リュウもいないの!?」
ディールが驚きの声をあげる。
「おまえ、あの白髪頭と仲良さげに話してたな?油断してたんじゃないか?」
「そんなこと…でもあいつは…」
「情でもうつったか?賞金稼ぎなんか信用しやがって…だからあたいは嫌だったんだ。あんな奴ら連れてくの!」
ディールはアシェルをにらみつける。
互いに動けないためにらみ合うだけだが、殺気がこもる。
「ここで仲間割れしても仕方がない。だが、賞金稼ぎがなにかしたのは確かだ。動けるようになったらすぐに周囲を探すぞ。いいな?」
セディールが指示を出すが、その言葉には焦りと怒りがこもる。
護衛たちはそれぞれ体力の回復を優先させ、動けるようになったときの行動を話し合った。
ーーーーー
野営地から少し離れた一画、ひらけた場所にマリアンとロビーナはいた。
マリアンは御者に担がれて移動している。
痺れ毒を吸ったのだろう…マリアンは身動き一つしない。
ロビーナもなんとか動いているが、次第に歩みは遅くなり、ついに膝をついてしまった。
「お嬢様…申し訳ありません…私はもう動けそうにありません…ここでセディーンたちが来るのを待ちましょう。」
マリアンは返事をしない。
毒を吸い込んだため口も動かせないのだ。
賞金稼ぎの足元から煙が発生したのはわかった。
セディーンの警告を聞きすぐさまマリアンを抱え、その場からの脱出を図ったが、煙を吸い込んでしまった。
なんとかあの場からは離れられたが、判断を誤ったかもしれない…
そう思っていたロビーナの背後から足音が聞こえる。
痺れる首を音がしたほうに向けると、そこには賞金稼ぎオーリルが武装した男たちを従え、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「まさかこんなところまで逃げられるとは思わなかったよ。なかなかいい護衛を持ってるね、お嬢様。」
「おまえは…何者だ?なぜ我々を狙う?」
「そんなことおまえにいうわけないだろう?動けないんだろう?そのままそこでじっとしてな。」
オーリルはそういうと、男たちを従えマリアンに迫る。
ロビーナは痺れる身体を持ち上げ、剣を構える。
「まさかそんな状態で私たちを相手にするつもり?」
合図すると隣にいた男がロビーナに近づき、構えた剣を簡単に弾き飛ばす。
そして動けないロビーナの腹を思い切り蹴り上げた。
小さな悲鳴を上げ近くの木に叩き付けられるロビーナ。
そんなロビーナに目を向けず、マリアンに近づくオーリル。
そのとき…
「マリアンから離れろ!」
振り向くとそこには白髪の少女が剣で身体を支えて立っていた。
「驚いた…なんであんたがここにいるんだい?」
「煙が出た後、あんたがマリアンの天幕に向かうのが見えた。怪しいと思ってつけてきたんだ。」
「その身体でここまでつけてくるなんてやるじゃないか。でも判断を誤ったね。あんた一人でここにきたのが間違いだよ。あんたたち、やっちまいな!」
オーリルの号令で男たちが襲い掛かる。
迫りくる刃を前にリュウは深呼吸する。
最初の一撃を受け止めると、勢いを殺さぬまま剣を受け流す。
そして態勢の崩れた男の首を一薙ぎする。
続けてきた男は足を切り付け転倒させる。
そして驚いて立ち止まっている男の喉に剣を突き立てた。
次々と襲い掛かる男たちの剣を器用に受け流しつつ、リュウは一人、また一人と切り伏せていく。
「なにやってんだい!たかだか賞金稼ぎの小娘相手に手こずってんじゃないよ!」
オーリルは檄を飛ばすが、リュウの動きは止まらない。
痺れ毒を吸ってるはずなのになぜあんなに動けるのか…オーリルの疑問をあざ笑うかのように男たちを仕留める少女。
ついに痺れを切らして、オーリルはマリアンの首筋に剣を突き付ける。
「おとなしくしな!こいつがどうなってもいいのかい!?」
マリアンの姿を見たリュウの動きが止まる。
と同時に身体の力が抜けたように崩れ落ちた。
「やっぱり痺れ毒は効いてたんだな。よくも暴れてくれたね。これはちゃんと借りをかえさなきゃいけないねえ?おまえたち!そいつも連れてきな!」
男はリュウを後ろ手に縛り抱き上げる。
別の男はマリアンを抱えている。
ロビーナが悔しそうな顔でにらみつける。
「じゃあね。ほかの奴らにもよろしく言っといてくれよ。」
そういうと襲撃者たちは二人を連れて、茂みの奥に去って行った。