二人が連れ去られた後、しばらくするとセディーンたちが探しにやって来た。
ロビーナを見つけたのはヴァリですぐさま他の護衛たちを呼び寄せた。
「ロビーナ、何があった?」
身体を抱き抱えながらセディーンが問う。
ロビーナは痺れる唇をゆっくり動かしながら状況を説明する。
「お嬢様は賞金稼ぎに連れていかれた。すまない、何もできずにさらわれてしまった。」
「上出来だよ。痺れながらもこいつら倒したんだろ?しかし、やっぱり賞金稼ぎどもだった。あいつら初めから裏切るつもりでいやがったんだ!ディールがあの白髪頭と懇ろしてやがったから…」
「あんただって煙吸って地面に這いつくばってただけじゃない!なにもしてないあんたが偉そうに言わないでよ!」
ディールとアシェルが再びにらみ会う。
「だから、今は争ってる場合じゃないだろう!ケンカならお嬢様を助け出してからやれ!」
「そうだな……それにアシェル。お前は一つ間違っているぞ。お嬢様をさらったのはもう一人の賞金稼ぎの方だ。白髪頭は関係ない。更に言うと、ここで倒れている奴らは皆あいつがやったんだ。私じゃない。」
ロビーナがいうと皆信じられないというような顔をした。
「あいつが倒したって?そんなことしてあの白髪頭に何の得があるんだよ?」
「さあ、わからん。だが、ここで暴れたから白髪頭もお嬢様と一緒に連れていかれた。たぶん、慰めものにするためだろうがな。」
「とりあえず、その話は置いといて周囲を探ろう。何か痕跡が残されているかもしれない。」
セディーンの指示で皆動き出す。
探索をするなかでディールはリュウのことを考えていた。
(どうしてこんな自分に不利益なことをしたのだろうか?……仕事だから?そんな奴にはみえなかった……お嬢のため?確かに仲良くなってはいたが、話をしたのはたかだか数回だ。命をかけるほどでもない……)
ディールたちにとっては数いる賞金稼ぎのうちの一人、リュウにとっては数いる依頼人のうちの一人。
たまたま仕事を一緒にしたというだけで命をかける理由にはならない。
マリアンとリュウの密会は全員が気付いていた。
が、誰も咎めはしなかった。
マリアンには人を見る目がある。
この旅に同行している者は、皆マリアンに選ばれた。
初めは互いにいがみ合っていたが、マリアンに助けられ、または助け、互いに絆を深めあった。
今では皆親友であり、家族だ。
マリアンは自分たちと同じように、リュウにも何かを見出したのだろう。
だからリュウに自らの秘密を明かし、傷を癒したのだ。
マリアンと話していたリュウはとても無邪気で、心の底から楽しんでいた。
道中も明るく、皆に無視されていても自分を貫き通していた。
だが、町に入った途端にリュウの様子が変わった。
あの場のすべてに怯え、身体を震わせていた。
ディールはかつて闇に飲み込まれたことがある。
すべてを恨んだ。
自分以外はすべてが敵だった。
そして物事をなんでも暴力で解決していった。
「獣」だった自分を変えてくれたのがマリアンであり、今の仲間たちだ。
リュウにも自分と同じ…否それよりも深い闇があるのがわかる。
本人は闇に囚われ続けており、その闇に向き合うことを恐れている。
ディールにはリュウのことが他人事とは思えない。
そして決意する。
(あんたはわたしが助け出す!)
ーーーーー
ディールたちが合流する少し前…オーリルたちは自分たちの隠れ家に到着した。
そびえ立つ岩壁にぽつんと空いた穴。
そこから入ると中はいくつもの道に分かれ、入り組んだ迷路のようになっている。
マリアンとリュウは目隠しをされ、男たちに担がれていた。
痺れ毒の効果はもうとっくに切れているが、拘束されているため身動きはとれない。
リュウには拘束のうえさらに痺れ薬を飲ませている。
先程は痺れ毒を吸っていたにもかかわらず、襲い来る男たちを切り伏せたのだ。
用心するに越したことはない。
しばらく進むと護衛のついた部屋の前に出る。
オーリルが護衛に札のようなものを見せると、護衛たちが部屋に合図を送る。
中から複数のカギがかけられているらしく、いくつものカギを開錠する音がする。
やがて重々しい音とともに扉が開かれる。
部屋に入るとマリアンとリュウは目隠しを外される。
部屋の中には数人の護衛に囲まれた男が椅子でくつろいでいた。
髪はマリアンと同じ輝くような金色、その身には煌びやかな装飾品を身に着けており、優雅に葡萄酒を飲んでいる。
「これはマリアン嬢。ようこそお越しくださいました。」
「久しぶりねブリル…なぜあなたがここに?」
マリアンは驚く様子もみせず、冷たく言い放つ。
男の名はブリル。
ウェーランズ領主オーストの息子ファルダンの側近である。
ファルダンとは幼馴染であり、よく遊んでいた。
そして二人でマリアンをいじめていた。
成長してからも二人の親交は変わらず、ブリルはファルダンの威光を前面に出して出世していった。
ファルダンも事あるごとにブリルを昇格させ、今ではファルダンの相談役でもある。
「久しぶりの再会なのに冷たいですね。」
「質問に答えなさい…お兄様の腰ぎんちゃくがなぜここにいるの?」
「口が悪いですねえ。そんなことをいうとオースト様が悲しまれますよ。」
「お父様の名を気安く呼ばないで!」
マリアンの怒声を浴びるとブリルは恍惚の表情を浮かべる。
昔からそうだった。
ブリルはマリアンをいつも侮辱し、苦しむ様子を見て喜んでいた。
今でもそれは変わらない。
ひとしきり優越感を味わうとブリルは話し始めた。
「わたくしはいつもウェーランズの繁栄のためこの身を捧げてきました。今回もウェーランズに関わりがあるためこの場におります、マリアン嬢。実はある情報筋から我らがウェーランズに魔術師が潜んでいると報告がありまして、その調査を兄君ファルダン様がわたくしにお命じになりました。」
「それで?それと私がここに連れてこられたのとどんな関係があるの?」
ブリルはマリアンの後ろに控えている賞金稼ぎに目を移す。
「オーリル、報告を。」
「はい。調査の結果…マリアン嬢が魔術と何らかの関係があることがわかりました。先日、護衛隊長セディーンと魔術を扱う現場をこの目で確認しております。」
「これは驚いた!まさか領主のご息女が魔術師だったとは…」
オーリルの報告にブリルが大げさに驚く。
もちろんオーリルの報告はでたらめだろう。
だが、マリアンが魔術師であることは事実だ。
リュウは実際にマリアンが魔術を使った現場にいた。
おそらく、ブリルは以前からマリアンが魔術師であるという疑問を抱いていた。
だが、証拠がなかったので今までなにもできなかったのだろう。
そして強硬策に出た。
嘘の証言をでっちあげてマリアンを排除しようというのだ。
(でもなんでわたしを排除する必要があるの?)
「ブリル…まさかこいつの証言をそのままお父様に伝える気?」
「オーリルはわたくしの信頼する部下のひとりです。」
「おめでたい頭してるわね…お兄様がわたしを排除しようとしているのはお父様も知っていることよ。その側近が信頼する部下の証言をお父様が信じると思う?」
「私だけでなく、この白髪頭も現場におりました。」
オーリルはリュウを足で転がし、ブリルの前に連れてくる。
「紹介してくれてありがとう、信頼されてる部下さん。」
見下ろすオーリルに皮肉を返すリュウ。
「立場をわきまえろ、白髪頭。」
地面に転がるリュウをにらみつけるオーリル。
ブリルは椅子に深く腰掛けると、咳払いし傲慢な態度で問いかけてくる。
「小娘、オーリルと現場にいたか?」
「オーリル?こいつのこと?ごめん、記憶にないな。」
「…毒を吸い込んだので混乱しているようです。」
「そうかもしれない。そういえばあんた護衛にいたっけ?いつからか目に映らなくなっちゃってさあ。次から目に映すように努力するよ。」
オーリルの眉間にしわが寄る。
さすがに怒ったようだ。
「現場にいた白髪頭さんは信頼されてる部下を見ていないようね?」
マリアンも笑みを浮かべてブリルを皮肉る。
ブリルが護衛になにやらささやく。
すると護衛は部屋の隅から縄を持ってくる。
そしてマリアンの手首を縛りあげ、天井から吊り上げる。
「な、なにをするの?」
「確かに、マリアン嬢の言う通り、わたくしの部下の証言だけでは信頼を得られそうにない。ここはマリアン嬢ご本人の口から語っていただこうか。」
そういうと、ブリルは上着を脱ぎ、袖をまくり始める。
脇には鞭を持った護衛が控えていた。
「ま、待って!マリアンになにするのさ?」
「オーリル。その小娘は大事なことを忘れているようだから思い出させてやれ。」
「承知しました。さあ、白髪頭。他人の心配より自分の身を心配しな。」
オーリルも縄でリュウを縛り上げ、その先端を一人の男に渡す。
「おまえ、さっきは役に立ってたね。ご褒美をやろう。こいつを連れてきな。」
男は下卑た笑みを浮かべると、縄の先端を持ち引きずっていく。
リュウは抵抗するがまだ身体が痺れているため思うように動かない。
部屋から連れ出されると扉が閉められる。
そして鞭が振り下ろされる音とともに領主の娘の悲鳴が響き渡った。