ヴァリは最後の傭兵の喉元にに短剣を突き立てる。
男は一声も発さずにその場に崩れ落ちる。
ヴァリが得意とするのは諜報と暗殺…この隠れ家の内情を探ったのも、マリアンとリュウの監禁場所がわかったのもヴァリの手柄だ。
監禁場所がわかったとき、ディールは真っ先にリュウの救出に志願した。
単身でも乗り込みそうな勢いだったので、監視・制御する役でヴァリもリュウ救出作戦に同行することになったが、ディールは破竹の勢いで敵をなぎ倒して先に進んでしまった。
置いてけぼりをくったヴァリだったが、敵の残党を始末し、逃げ道を確保する。
とうとうリュウの監禁場所にたどり着き、開けっ放しの扉から中に入る。
「……なにやってるの?」
目の前の光景に唖然とした。
台に拘束されたリュウの背後にディールが立っている。
その手には浣腸器が握られており、高くかかげられた尻に突き刺さっている。
浣腸器の中には薄紫色をした液体が入っており、三分の一ほどが注入されている。
「もう無理!もう入らないよ!」
「我慢しなさい!まだ半分も入ってないわよ。ヴァリ!いいところに来たわ。リュウのお尻を押さえつけて。暴れるから中に入らないのよ。」
とりあえずリュウのお尻を押さえつける。
リュウは激しく抵抗しているが、押さえつけられてはどうにもならない。
「…どういうこと?」
ヴァリはディールに状況説明を求める。
「リュウはお腹にタギナの蜜を塗られたのよ。強力な痒み薬よ。しかも、入口だけじゃなくて奥にも流し込まれてるから浣腸で排出させるの。タギナの蜜はアルコールで分解されるから、葡萄酒を少し水で薄めて入れてるのよ。」
確かに先程からリュウは「もう無理!」と同時に「かゆい」と叫んでいる。
腸の奥まで流し込まれているなら、浣腸は仕方ないだろう。
リュウはしばらく「かゆい」と連呼していたが、次第に「苦しい!」「熱い!」と叫び始める。
浣腸器の液体がすべてリュウの腹に納まると、ディールは壁にかけてあった栓で菊門にふたをする。
そしてゆっくりとリュウの尻を上下左右に揺らし始めた。
リュウの叫び声がなくなり、うめき声に変わる。
「もう大丈夫でしょう。」
ディールがそう判断すると、リュウの肛門付近に拷問用の密閉マスクをかざす。
そして菊門に挿さっている栓を引き抜いた。
リュウが絶叫する。
薄紫の液体が肛門から吹き出し、マスクに溜まっていく。
すべてを出し切ったリュウはしばし呆然とし、己の痴態を自覚すると耳まで真っ赤になる。
「さあ、ここから移動しましょう。あなたの鎧と剣よ……どうしたの?」
ディールが目を向けると、リュウは粗相をした子犬のような情けない表情で見上げてくる。
「…大丈夫。…誰にも言わないから…」
ヴァリのフォローが痛々しい。
リュウは拘束を解かれると、うつむきながら鎧を身に着ける。
拷問部屋から抜け出すが、リュウは元気がなかった。
三人は集合場所である洞窟の入り口に向かって進むが、敵兵にはひとりも出会わなかった。
なんだか嫌な予感がする……そしてその予感は的中する。
入口付近にセディーンたちの姿を確認するが、彼女らは身を隠していた。
「おまたせ。どうしたの?」
「敵の増援が入口に陣取っている。さすがに私とアシェルだけだと心もとないからおまえたちを待っていたんだ。」
確認すると70人近くの傭兵が入口を固めている。
あれは手間取りそうだ。
しかもこちらにはマリアンを抱えているロビーナがいる。
リュウも万全の状態ではないから、セディーン、アシェル、ディールで一人当たり約20人を倒さなければならない。
これまでも戦闘続きだったのでさすがにキツイ。
だがやるしかないだろう。
「私とアシェルとディールで道を切り開く。その間にロビーナとヴァリとリュウはお嬢様を……リュウはどこだ?」
ふと見渡すと、リュウの姿がない。
先程まで隣にいたのに…。
と突然、傭兵たちの悲鳴が上がる。
目を向けると、白髪の少女が敵の真っただ中に突っ込んでいる。
「あのバカ!」
アシェルとディールがすぐさま追いかける。
「ロビーナはここでお嬢様と待機。穴があいたらすぐさまそこから離脱しろ!」
指示を残してセディーンも戦いに加わる。
長剣が振り下ろされ、剣が煌めき、槍が突き出される。
傭兵の悲鳴が多くなる。
その中でも白髪の戦士の動きは際立っていた。
振り下ろされる剣を受け流し、繰り出される槍を両断する。
流れるように敵をすり抜け、切り刻んでいく。
まるで今までの恨みを晴らすように、容赦なく傭兵に斬りかかる。
しかし、八つ当たりともいえるその行動によって敵の数はみるみる減っていく。
そしてついに、72人の傭兵を全滅させた。
ロビーナとマリアンはその光景をただ呆然と眺めている。
隙をついて脱出しようとしたが、まさかこの数を全滅させるとは思わなかった。
護衛たちが強者だとは知っているが、なによりあの白髪の少女の強さに驚いた。
そしてその動きの美しさに目を奪われた。
「すっきりした?」
牡鹿の鎧を血で染めたディールが、双剣から血を滴らせる少女に話しかける。
「まあまあかな。一番斬りたかった奴が逃げちゃったし。」
リュウは笑いながら剣についた血を振り払う。
そこにはいつも通りの笑顔を浮かべる少女の姿があった。
ーーーーー
一行は近隣の町へ行き、一室を借りる。
マリアンは予想以上に衰弱しており、高熱を出してうなされていた。
なんとか薬を手配できたため、マリアンが大事に至ることはなかったが、ここ数日はとても慌ただしかった。
三日後、ようやく熱が下がり、マリアンは意識を取り戻した。
すぐにでも故郷へ帰ろうとするマリアンを全員で引き止め、もう数日はこの町に留まることになった。
マリアンが意識を取り戻してからしばらく経った。
マリアンは十分に回復し、動き回れるほどになったが、ロビーナがベットに縛り付けている。
駄々をこねるマリアンのもとに、白髪の少女がやってきた。
「リュウ、無事で本当によかったわ。あなたのおかげで命拾いしました。ありがとう。」
笑顔で迎えるマリアンに突然リュウは土下座する。
「ごめんなさい!私はマリアンを傷つけた。あのときちゃんと助け出していればマリアンがこんな目にあわずにすんだのに……ほんとうにごめんなさい!」
涙を流し、謝罪するリュウにマリアンはやさしく話しかける。
「あのとき、あなたはどうして私を助けにきてくれたの?あのときはあなたの命が危なかった。身体が痺れているのにくるなんて自殺行為よ。どうしてきてくれたの?」
「ミレカンスの町で…私はなにもできなかった。傷を癒してくれた恩人が危ない目にあいそうなときに、ただ震えてるだけだった。それがとても情けなくて…悔しかった。だから思ったんだ。次にマリアンが危険な目にあいそうになったら絶対に助けるって!だって…マリアンは私のこと……友達って呼んでくれた。それがとてもうれしかった。だからどうしても助けなきゃって…」
「私も同じ気持ちよ。あのときあなたが来てくれた…それがとてもうれしかった。だから謝らないで。友達なら当然でしょ?」
「…うん……ありがと………ありがとう。」
その日の夜は軽い宴会を催した。皆思い思いに飲んで、食べて、話をした。
「アシェルったらこういったのよ!あいつは賞金稼ぎだから信用ならないって。自分も賞金稼ぎだったくせに!」
「自分がそうだったから信用できなかったんだよ。あのときはそんなこといってごめんな。」
「いいよいいよ!ていうか私その現場にいなかったし!」
リュウはセディーンやアシェル、ヴァリとも仲良くなった。
ディールにいたっては親友といっていいほど互いのことを認め合っていた。
思い思いに話を進め、話は武術の話題になる。
「そのリュウの剣術…武舞だっけ?聞いたことないんだけど、どんなやつなの?」
「んー…自分の拍子に合わせて戦う…うーん……まあ簡単にいえば舞に近いけど…なんて言ったらいいかわかんないや。とにかく自分の中に拍子があって、それに合わせて身体が勝手に動く感じかな?」
「いまいちよくわからんが、戦う様は見事だった。戦いの最中でなければ見惚れていたところだ。」
「…うん。…綺麗だった。」
皆から褒められ頭を掻きながら照れるリュウ。
そんなリュウの表情が次の一言で変わる。
「リュウはどこの出身なの?」
緊張した表情。目を見開き、額から汗が流れる。
「…そう…だよね。言わなきゃね…」
「リュウ?」
「…大丈夫?。」
「どうしたんだ?具合が悪そうだぞ?」
「……平気だよ。…そうだよね…言わなきゃね…友達だもんね…」
リュウは椅子から立ち上がるが、足元はおぼつかない。
机に手をかけ何とか立っている状態だ。
明らかに酒のせいではない。
「リュウ、無理するな。言いたくないなら言わないでいい。」
ディールは心配そうに話しかけるが、リュウは深呼吸すると皆に話しかける。
「私。私の出身地はね…」
突然リュウが口を床に崩れ落ちる。
「げえっ!…おえぇっ!」
「リュウ!!」
ディールがすぐさま駆け寄る。
リュウの吐しゃ物を浴びつつもしっかりとリュウを支える。
「リュウ!しっかりしろ!無理するな!」
リュウの嘔吐は止まらない。
胃が空になってもまだ吐き続けた。
ようやく収まったとき、リュウは意識を失っていた。