翌朝、リュウは目覚めるとベットに寝かされていた。
何かを聞かれて、答えようとしたら意識を失って…
そう考えると胃のあたりが苦しくなる。
頭を振って考えを振り飛ばすと、ふと隣を見る。
そこにはディールが静かに寝息を立てている。
前も似たような光景を見た気がする。
起こさないようにそっと動くが、気配を感じたディールの目がゆっくりと開く。
「おはよう、ディール。」
「おはよう、リュウ。よく眠れた?」
「たぶん…ってなんで裸なの!?」
隣で寝るディールは衣類を一切身に着けていない。
よく見るとリュウも何一つ身に着けていない。
記憶が混乱する…昨夜はなにがあったのかと。
皆で飲んでいた記憶はある。
だが途中で記憶がなくなり、裸でベットを共にする女二人。
「…なにがあったか覚えてる?」
「あら、あなたは覚えてないの?あんなに激しくヤったじゃない?」
妖艶な微笑みを向けてくるディール。
リュウはただ笑うしかなかった。
ーーー昨夜、リュウが気絶した後…
「どうしたってんだ?なにがなんだかさっぱりわかんねえよ!」
「たぶんリュウにとって故郷のことでなんらかのトラウマがあるのでしょう。これ以上は追及しないほうがいいわ…」
マリアンの一言に全員が同意する。
「でもどうすんだ?起きて今のこと思い出したら、また同じこと繰り返すかもしれねえぞ?」
「それは私にまかせて。作戦があるわ。」
そういうと、二人きりにするよう言い残し、ディールはリュウを別の部屋に連れて行った。
ーーーー
「…ディール…その…昨日は…ほんとに…あの…」
「あら…ほんとに忘れちゃったの。激しくしすぎたかしら…。ねえ?昨日のこと思い出したくない?」
そういうと戸惑うリュウにゆっくりと近づく。
リュウは後ろに引いていくが、ベットの端に追い込まれる。
身動きがとれないリュウの頬に触れそっと引き寄せる。
そして震える唇をやさしく包み込む。
「…なにしてるの?」
扉に目を向けると、ヴァリがあきれた表情で立っている。
「おはよう、ヴァリ。見てのとおりよ。」
「ヴァリ!?あのね…そういうことじゃなくて…その…」
「……部屋で待ってるから」
ヴァリはそういうとリュウたちの部屋を後にする。
部屋には裸の女二人が取り残された。
「よう、ヴァリ!リュウはどうだった?」
マリアンの部屋ではアシェルとセディーンが朝食の用意をしていた。
マリアンは部屋の隅で正座し、ロビーナから説教を受けている。
今朝方、部屋を抜け出し町を散策しようとしたところをロビーナに見つかったのだ。
「…うん。…大丈夫そう。…二人で抱き合ってた。」
「もうそんな仲になったのか。ディールもやるねえ~。」
「まあディールなりの考えがあってのことだろう。」
それからしばらくしてディールとリュウが部屋に入ってきた。
ディールは上機嫌だったが、リュウは顔を伏せている。
「やあ、お二人さん。昨日はお楽しみだったようだね。」
アシェルがひやかすと、リュウは耳まで真っ赤になり、縮こまる。
二人が部屋に来たことでようやくロビーナの説教が終わり、マリアンは震えながら立ち上がろうとするが、足がしびれているのだろう、四つん這いになったまましばらく悶絶する。
「ど、どうしたの?」
「なんでもないわ。ただ、すぐには動けない…」
マリアンの痺れが取れるまで待ち、各々席に着いた。
食卓には、パンとサラダ、豚肉を薄く切り卵と炒めたものが大皿に載せてある。
食事をはじめてしばらくすると、今後の話し合いになった。
「まず我々がすべきことはウェーランズへの帰郷。領主様にブリルの反逆をご報告する。あいつが馬鹿ならウェーランズに戻っているだろうが、そこまでは期待できない。だが、一刻も早く戻らなければ奴を捕まえる機会を失うだけだ。」
「あたいは今すぐ奴を追ったほうがいいと思う。ファルダンが関わってるに決まってるんだ。戻ったって大した捜索もされないだろうよ。」
「…アシェルの意見に賛成。」
「そうだとしても領主様に知らせに戻るべきだと思う。領主の号令があればあいつは賞金首だ。周辺領土の協力も見込める。」
「………」
「あいつは知略家を気取っているからねえ。そういう対策をしてるかもしれないよ。馬鹿だけど。」
「兄と悪巧みするときはいつもあいつが知恵を出してたわ。馬鹿だから穴だらけだったけど。」
「もしかしたら今回もお屋敷でふんぞり返ってるかもよ。馬鹿だから。」
ブリルへの評価はそれほど高くないらしく、さんざんな言われようだ。
だが、そんなやつに出し抜かれたということで皆少々苛立っている。
結論としてはセディーンの案に従い、ウェーランズへの帰郷を最優先とすることになった。
「さてじゃあ次の案件に移りますか。リュウ!」
この作戦会議に参加していていいのだろうかと、できるだけ関わらないようにしていたリュウだが、マリアンの指名で注目を浴びる。
「はっ、はいっ!」
「こんなだから、ジャルークには戻れなくなっちゃったわ。急だけど、ここで任務終了ということで。」
「う、うん。」
「そこで提案なんだけど…あなた、わたしたちと一緒に来ない?」
突然の勧誘だった。
周りを見ると皆が笑顔で自分を見つめている。リュウの参加に異議はない、と。
「………ごめんなさい…。」
「…そっか。」
「なんでだよ!もしかしてあたいが言ったこと気にしてんのか!?それなら謝る!だから一緒に行こうぜ!?」
「……ごめん。ほんとは皆と一緒にいたい…この旅でみんなのことがとても好きになった…でもダメなの。あたしとずっといると危ないの。」
「どういうこと、リュウ?なんであなたといると危ないの?」
「……それは……いえない…。」
「もしかして奴隷のこと?」
マリアンの言葉にリュウの身体が震える。
隣にいるディールが、震える肩に触れやさしく話しかける。
「あんたが元奴隷でも、ここにいる奴は気にしないよ。安心しな。」
「…違うの…そうじゃないの…そのことに関わってるけど…違うの……危ないの。」
「どういうこと?わけわかんないよ。」
しばらく考えていたロビーナがふっと思いついたように次の言葉をいう。
「…もしかして奴隷主人のこと?」
その瞬間、リュウの目がカッと見開き、震えが激しくなった。
「ダメ…危ないの…ダメなの……だって…みんな…大切なんだもん……ごめんなさい…ダメなの。」
激しい震えを抑えるように両手を回すリュウ。
あまりの動揺にディールも手を離してしまっている。
皆がどうしていいかわからない状況で、静かに金髪の令嬢がすすり泣くリュウに近づいた。
「わかったわ。あなたの意思を尊重する。でもこれだけは覚えておいて。あなたはこのマリアンの大切な仲間なの。誰が何と言おうとね。だから…困ったときはいつでも頼って。あなたが助けを求めたら、わたしたちはどこにいようと必ずあなたを助けに行く。約束よ!」
そういうと、震える肩にやさしく手をのせる。
そしてリュウの手をしっかりと握りしめた。
それに続きディール、セディーン、ロビーナ、アシェル、ヴァリも手を重ね合わせる。
心強い仲間はリュウの気が治まるまでずっとそばにいてくれた。
リュウは言葉に出さなかったが、心の中で誓った。
(みんなのことはあたしが守る。絶対に……