※この作品はR-18です。

女舞戦記   作:愚犬

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セイルラム皇子

 山中にある砦ーアブル砦。

 外壁が所々崩れており、廃墟にしか見えない。

 入口らしき門からは気休め程度に整備された道がある。

 その道を優美な装飾を施した馬車がゆっくりとやってきた。

 馬車の周囲には護衛のためか複数の兵士がついている。

 兵士は皆、重厚な鎧を身に着けており、左肩部分に貴族の紋章が彫られている。

 御者が門前にちょうど扉がくるように馬車を止めると、兵士の一人が馬車の扉を開ける。

 すると、馬車の中から貴族の服に身を包んだ中肉中背の男が降りてきた。

 その腰からは宝石が散りばめられた剣の柄が伸びている。

 男は周囲を見渡すと、ゆっくりと砦の敷地内に入っていく。

 その後ろを二列になった兵士がついていく。

 

「フェルト様。こちらでございます。」

 

 砦内の崩れた建物の隙間からフードをかぶった男が声をかける。

 敷地の中央であたりを見回していた男―フェルトはゆっくりと建物に近づく。

 

「こちらからお回りください。」

 

 フードの男の指す方向に行くと、そこには大人一人分ほどの大きさの穴が開いている。

 フェルトがゆっくりと穴を通過すると、兵士たちも後に続こうとするが、身に着けている重厚な鎧が邪魔をして中に入ることができない。

 

「なにをしているのだ、おまえたちは…もういい。ダチル。おまえなら通れるだろう。ほかの者は外を警備しろ。」

 

 兵士たちの間をすり抜け、馬車の御者をしていた細身の男がなんなく穴を通りフェルトの傍に着く。

 通路を進んでいくと、つきあたりに先程のフードの男が立っていた。

 

「セイルラム第五皇子フェルト様。このようなところまでご足労いただきありがとうございます。」

「まったくだ。こんなところまで呼び寄せたのだ。間違いだったでは済まされんぞ。」

「まぎれもなく本物でございます。間違いございません。」

 

 男は自信に満ちた表情を浮かべ、足元にある木の扉を開く。

 そこには暗い地下へと降りるための梯子がかけられていた。

 

「どうぞ中へ。暗いので足元にお気をつけください。」

 

 そういうと男はスルスルと器用に梯子を滑り降りる。

 フェルトはゆっくりと梯子に足をかけると、しっかりと足元を確かめながら一歩一歩と降りていく。

 下ではフードの男がどこからか持ってきた松明を手に、フェルトが降りてくるのをじっと待っていた。

 フェルトは底に到着すると辺りを見回す。

 そこは大きな地下道となっており、大人一人横になれるくらいの幅がある。

 梯子から離れると、ダチルが上から飛び降り、猫のようにひらりと着地する。

 

「こちらです。はぐれないようについてきてください。」

 

 フードの男はそう告げると、暗闇の奥へと歩き出す。

 しばらく歩くと、大きな木製の扉が現れる。

 扉を一発叩くと、目線の高さにある小さな窓が開く。

 

「女神」

「金」

 

 中からの言葉にフードの男が答える。

 窓が閉まり、すぐに扉が開けられる。

 そこには小さな机が置かれ、壁からは様々な武器がかけられている。

 中にいる男たちは皆たくましい身体つきをしており、所々の傷が相手に威圧感を与える。

 その中の一人がフェルトに声をかける。

 

「武器はこちらでお預かりします。」

 

 男の言葉にフェルトの顔が曇る。

 

「断る。この剣はおまえが触れていいものではない。」

「しかし、ここの規則ですので…」

「おまえはここの規則と、私への礼節、どちらが優先されるべきものかわからないのか?それにこの剣がいくらするものと思っている?貴様が生涯働いても稼げない額だぞ。傷つけでもしたらどうなるかわかるか?」

 

 男は困った顔でフードの男をみる。

 

「かまわん。お通ししろ。」

 

 フェルトは澄ました顔で男の横を通り過ぎる。

 その後にダチルもつづこうとしたが、男に行く手をふさがれる。

 

「おまえはだめだ。武器を置いていけ。」

 

 ダチムはため息をつくと、腰の剣と懐に忍ばせていた短剣を机に置く。

 その後、男に全身を触られ、武器を隠し持っていないことを確認されて、ようやく通された。

 そこからフードの男に連れられ、いくつかの部屋を通過し、廊下を進むと、見張りの立つ部屋の前で立ち止まる。

 

「こちらです。」

「やっと到着か。そろそろ我慢の限界がきていたところだ。」

「重要なものですので、致し方ありません。どうぞ。」

 

 男に促され、フェルトは部屋に足を踏み入れる。

 そして目の前の光景に感嘆の声をもらした。

 

 

 

 

 

 部屋の奥にある小さな檻。

 その端にいる小さな毛の塊が、赤い光をこちらに向けている。

 

「これはおどろいた…まさか本当に…」

 

 灰色というよりも白に近い体毛、足先から伸びた強固な爪、口からむき出しになった鋭い牙、そして獲物を威圧する赤光の瞳。

 

「これが……ノーブルウルフか!」

 

 ノーブルウルフ―堂々たる体躯と鋭い牙、真紅の瞳を持つ、獣の中でも無類の強さを誇った大狼。

 成獣の体高は1メートル近くあり、個体によって体毛の色が異なる。

 その神々しい姿から、一部の地域では神として崇められ、ノーブルウルフを見たものは幸福になれるとされていた。

 帝国による統一後、各領主はこぞってノーブルウルフを手に入れたがった。

 もともとの数が少なく、個体によって体毛の色が異なるという希少性からその皮は高値で取引され、爪や牙は装飾品として、高価な贈りものになった。

 その結果、ノーブルウルフは山の奥深くに消え滅多に姿を見せなくなった。

 一部ではもう絶滅してしまったとも言われていた。

 

「間違いなく、ノーブルウルフです。しかもこいつは幼獣。」

「これの親がどこかにいるはずだな。」

 

 フェルトは欲望にまみれた笑みを浮かべる。

 昨今では絶滅説まで流れているノーブルウルフ。

 その親子を手に入れたとなれば、フェルトの名は帝国中に広まる。

 うまくいけば帝都での生活も夢ではないのだ。

 

「おい。どうやってこいつを捕まえた?」

 

 フェルトはフードの男に問いかける。

 

「実は…こいつはある女が持っていたんです。」

「女だと?」

「はい。はじめはその女を奴隷にしようとして襲ったんですが、そいつの持ち物にこいつがいたんです。奴隷になるのが嫌で必死に抵抗していると思ったら、とんだ掘り出し物でした。」

「その女にこいつをどこで手に入れたか問い詰めたのか?」

「それを今やっているところです。ですが、その女が強情で、自分の名前も明かそうとしない。獣のことをいえば助けてやるといっても言おうとしません。」

 

 ノーブルウルフは巨万の富になる。

 おそらく女もそれがわかっていて話さないのだろう。

 せっかく手に入れたお宝を他人に奪われるのはつらい。

 しかし、命あっての富だ。

 おそらく厳しい拷問も受けているであろうが、自身の名も明かさぬとはたいした根性だ。

 フェルトはその女に興味を持った。

 

「そいつはどこにいる?案内しろ。」

 

 

 

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