「リュウさん!待って!」
ナリルの制止を振り切りリュウは駆け出していく。
しかたなくリュウを追いかけるが、一人と一匹の姿はどこにもなかった。
「ああっ!もう!」
―――――
リュウは一匹を追いかけて通路を駆け抜ける。
混乱したノーブルウルフはリュウから逃れようと逃げ回る。
そして明かりの灯った大部屋へと駆け込む。
「待てえ!」
「うわあ!」
「なんだこいつ!どこからきやがった!?」
大部屋では四人の男が酒を飲みながらくつろいでいた。
そこに捕えていたはずのノーブルウルフと見知らぬ少女が駆け込んできたのだ。
混乱するのは当然だ。
その騒音が聞こえたのか開け放たれた扉の向こうからさらに三人入ってきた。
「うわあ!また増えた!」
「なんだ、おまえは!」
「捕まえろ!」
男たちは剣を抜いて、リュウを取り囲む。
「おとなしく…ぐわっ!」
不用意に近づいた男を斬り伏せると、ひるんだもう一人に斬りかかる。
「こいつ!」
反対側にいた男が剣を突き出すと、リュウは紙一重でかわす。
男の剣はリュウが相手していた男に突き刺さった。
そのまま男の腹を剣で横に薙ぐ。
「こいつ、案外できるぞ。」
男たちはリュウから少し距離をとる。
その間にリュウは息を整えるため、深呼吸する。
リュウが息を吸い込んだ瞬間、男が切り込んでくる。
それを読んでいたリュウは身体を回転させ、迫る刃を刀身で受け流す。
そして無防備に身体を泳がせた男の頸部に剣を突き立てる。
今度は左右から二人が斬りかかる。
リュウは左からきた男の刀身を横から打ち、剣を叩き折る。
そしてその勢いのまま、右から来る男の刀身に当て、男の態勢を崩す。
態勢を崩した男の顔面に膝蹴りを食らわせ気絶させる。
「うおおおおっ!」
もう一人の男はメイスを振り上げ、殴りかかる。
リュウは剣を交差させなんとか一撃を防ぐが、予想外に重い一撃は少女を弾き飛ばした。
机にぶつかり、上に載っていた食器や酒瓶をまき散らしながら壁に叩き付けられる。
男は好機とさらに追い打ちをかける。
リュウは身体を転がして避けようとしたが、周りは壊れた机と壁で塞がれている。
あの重い一撃はリュウの剣では防ぎきれない。
メイスを振りかぶる男に、リュウはとっさに手元に転がる酒瓶を投げつけた。
一瞬ひるんだ隙にリュウは袋小路から抜け出す。
振り下ろされたメイスは、リュウがいた場所の石床を無惨に叩き壊す。
男はリュウを仕留めようとめちゃくちゃにメイスを振り回すが、リュウは一撃一撃をしっかりと見切る。
そして大振りした隙を逃さずに、一気に踏み込むと喉に剣を突き刺す。
「化け物め!」
先程剣を折られた男が短槍を突き出す。
リュウは槍の切っ先を巻き上げると、無防備な腹部に剣を叩き付けた。
男は膝をつき、自身が作った血だまりに沈む。
「はあ…はあ…背中痛い…足も少しひねっちゃったかな。」
リュウはふらつきながらノーブルウルフを探す。
ふとみると古い扉の取っ手が破壊され、少し開いている。
扉を開けると、上へ行く階段と下へ行く階段に分かれており、下へと続く階段のほうに白い毛が落ちている。
リュウはケガした足を引きずりながら、階段を降りる。
降りた先には牢屋があった。
薄暗く、ところどころに人骨が転がっている。
奥まで進むと石の壁がたたずみ、その前でノーブルウルフが右往左往している。
逃げ場のなくなった一匹はリュウに向き直ると、鋭い歯をむき出し威嚇する。
「なにもしないよぉ。むしろあたしがされたんだけど…。」
リュウはゆっくりと近づき、膝を地面につける。
今度は手を出すことなく、やさしく話しかける。
「大丈夫。助けにきたんだよぉ。おまえをここから出してあげるからねぇ。」
「それはできないな。」
突然の人の気配にリュウは振り返る。
声のしたほうに目を向けると、暗闇から細身の男が現れる。
「誰だおまえ?」
「それはこっちのセリフだ、白髪娘。ここへはどうやってきたんだ?」
「階段を降りてきた。」
「そういう意味じゃ…まあいい。おとなしくその狼を渡せ。命だけは助けてやる。」
「見てわかんない?あたし今絶賛嫌われ中なんだけど。」
「そのようだな。じゃあ、そこからどいてくれ。」
リュウは両手の剣を男に突き出す。
「断ったら?」
「もっと痛い目にあう。」
細身の男…ダチルはそういうと天井に頭を向ける。
右手を口に突っ込み、なにかを探るような動きをする。
そしてなにかをつかむと、口外へ引きずり出し始めた。
目の前の男は隙だらけ。
にもかかわらず、リュウは動けなかった。
ダチルが口から取り出したものは棒だった。
しかも短いものではなく、短槍程の長さのあるれっきとした棒だ。
普通ならば体内に隠しておける長さではないが、目の前の男はそれを口から取り出した。
「おうぇっ!なんでそんなもの口から出せるの!」
「武器を隠すには自分の身体がちょうどいい。ここならば没収されることもないしな。」
ダチルは口内から取り出した棒を構える。
リュウも自身の喉に不快感を感じながら気を引き締める。
ゆらりゆらりと左右に振れながら、ダチルはリュウとの距離を詰める。
おそらく、リュウが足を引きずっていたのを見たのだろう。
リュウの剣の間合いには入らず、自身の得物が届く位置で止まると、フェイントをかけるように肩を動かしたり、棒先を突きつけたりする。
その動きに釣られて、リュウの剣先も小さく反応する。
そして、ついに男が動く。
小さく踏み込むと、鋭い突きを繰り出した。
突然の動きにも、リュウはよく反応した。
鋭く繰り出される棒先を剣先でいなす。
伸びきったところに一撃を加えようとするが、棒の戻りが早い。
ダチルはリュウが満足に動けないとわかっていて、間合いの外からの攻撃を繰り返す。
なんとか防いでいたリュウだが、鋭い一撃に態勢を崩す。
その隙を見つけるや、ダチルは大きく踏み込み、リュウの頭を狙って棒を横凪ぎに叩きつけてきた。
(かかった!大振り!)
リュウは強打を左剣でしっかりと受け止めると、がら空きになった男の右肩に剣を降り下ろす。
突然、後頭部に衝撃を感じた。
一瞬目の前が真っ暗になるが、必死に意識を繋ぎ止める。
リュウの放った一撃はダチルの肩に傷をつけたが、深手にはなっていない。
(後ろから…!)
リュウは目の前の男を警戒しつつ、後ろに目を向けるが、壁しかない。
「驚いた。あの一撃を食らって立っているとは。さすがにわたしも無傷とはいかなかったか。」
ダチルはリュウが攻撃に耐えたことに驚いたようだが、リュウも驚いている。
後ろからの第三者の攻撃でないとすれば今の一撃はこの男からということになる。
だが、男の横凪ぎの強打は完全に防いでいた。
あのときダチルの両手は棒をつかんでおり、左手に別の武器を持ってリュウを攻撃したということはあり得ない。
ましてやリュウが食らった一撃は後頭部だ。
完全にリュウは混乱していた。
ダチルは振りかぶると上段から棒を降り下ろす。
リュウは両手の剣を交差させ、一撃を確実に防ぐ。
(こいつの両手は棒についてる!防いだ!)
しかし、リュウは背中に強力な衝撃を受け、耐えきれず床に膝をつく。。
「がっ!」
背中に受けた衝撃は、リュウの肺から空気を押し出す。
膝をついたリュウにダチルは止めの一撃を降り下ろす。
「ぐわっ!」
棒を降り下ろそうとした瞬間、男の表情が苦痛に歪む。
足元をみると、先程までリュウに向かって唸っていた子狼がダチルの足に食らいついていた。
「この、犬っころめ!」
ダチルは足を降って子狼を振りほどくと、思い切り棒を振り抜く。
子狼は悲鳴をあげて吹き飛び、牢の扉に当たって動かなくなった。
「ワンちゃん!」
「おまえは他人の心配してる暇ないだろ。」
男は棒を降り下ろすが、リュウは横に転がってなんとか避ける。
(なんだ今の!?あの棒…なにかおかしい?)
男が狼を弾き飛ばしたときに感じた違和感。
満身創痍の現状で確かめるには危険が大きすぎるが、このままではやられる。
(また一か八かだけど…)
リュウは覚悟を決めると、男に向かって構える。
攻撃はすぐに始まった。
手負いの少女を鋭い突きが襲う。
リュウはなんとか身体を動かし、一撃一撃をギリギリでかわす。
だが、ついに男の突きが傷ついた足に直撃した。
態勢を崩すリュウ。
そこに止めとばかりに横降りの豪打が迫る。
(今だ!)
リュウは一歩下がると横を向き、剣を交差させて豪打を真正面から受け止めた。
すさまじい打撃音とともにリュウは吹き飛ばされ、狼と同じように牢の鉄格子に叩き付けられた。
「ほう、気づいたか。これはただの棒ではない。力を加えることで先端が自在に曲がる双節棍を改良したもの…双節棒とでもいうかな。まあ、わかったところで対処できないからな。武器の名前だけでも教えてやる。」
これで今まで食らった衝撃の謎が解けた。
先端が曲がるのであれば、先刻からのリュウの防ぎ方では防ぎきれない。
謎は解けたが、状況は最悪だ。
先端の一撃さえ止めれば勝機があると考えていたが、その一撃は勢いがついて破壊力が増加している。
今のリュウではどうにもできない。
(どうしよ…ホントにヤバい…)