翌朝……
リュウは頬にあたる温かい感触で目を覚ます。
目をあけるとそこには白い毛をした子狼が気持ちのいい朝を知らせるようにやさしく頬をなめていた。
しばらくボーっとしてココを見つめていると、起きたことに気付いたのか頭をこすりつけてくる。
リュウは要求に応えるようにカリカリと耳の後ろを掻いてやり布団から起き上がる。
そして周囲を見回して絶句する。
布団は雨ざらしにしたようにぐっしょりと濡れており、身体はだるく、腰が重い。
ここで昨夜の情事がよみがえる。
情事の途中で意識を手放したリュウだったが、おそらく自分が気絶したあとも勝負は続いたのだろう。
直腸内に違和感が残っており、肉芽と肛門はヒリヒリする。
机に目を向けるとリュウをこんな目に合わせた二人がなおも口論していた。
「私の勝ちよ!」
「あれは潮じゃないわ!粘り気があったじゃない!」
「いいえ!違いますぅ!あれは潮でした!」
「潮じゃないよ!ていうかナリルが数えてたのはほとんど淫液でした!あれは潮じゃありませんぅ!」
いまだに口論している二人にされたことを思い出し、羞恥で真っ赤になるリュウ。
昨夜は爆睡していたココは自分には関係ないとばかりに起きたてのリュウに甘えてくる。
「あっ、リュウさん。おはようございます!」
「お、おはようございます……」
「リュウ、おはよう!ねえ、さっそくだけど昨夜はどっちのほうが気持ちよかった?」
「ええっ!?」
「ソエル!いきなり何言ってるの。リュウさんは気絶しちゃったのよ(私が快感を与えたあとに)。ごめんなさい、リュウさん。つい夢中になっちゃって。」
「ちょっと!今ボソッと何か言わなかった?」
再びケンカになりそうな雰囲気になったので、リュウは昨夜の目的が達成させたのか聞く。
「ね、ねえ!昨日のことはどうなったの?」
「当然、私の勝ちです。」
「ちょっと!ナリルのは潮じゃないのも混ざってたでしょ!わたしの勝ち!」
「あれは間違いなく潮だったわ!」
「その話じゃなくて!アルレイアの巫女の話!あたしは巫女だったの?」
リュウの質問に二人は表情を変える。
「「あっ!!」」
「忘れてたの!?」
「そ、そんなわけないじゃないですか。もちろん覚えてましたよ。」
「そ、そうだよ。それが目的で協力してもらったんだし…」
「忘れてたんでしょ!?」
「ちょ、ちょっと待っててね。そう!今ちょうどそれについて話してたんだ。」
「結論は出かかってるんですけど、もうちょっと整理しなきゃいけないんです。でもすぐに終わりますから!少しだけ待っててください。」
「嘘だ!絶対忘れてたでしょ!?今だって勝ち負けの話だったじゃん!」
リュウの指摘を受けるまですっかり目的を忘れていた二人は緊急会議をひらく。
その会議もすぐに終わり、二人はリュウに向き直る。
「リュウさん。まず結論から言います。」
リュウはごくりと唾を飲み込む。
「あなたがアルレイアの巫女であると、私たちには判断できません!」
「そうだと思ったよ!!」
「待って、怒らないで。ここから重要なんだから。」
ソエルがリュウを落ち着かせ、ナリルは次の一言を発する。
「私たちには判断できません。なので……頭領に会っていただきます!」
「頭領?」
「そう。実はわたしたちの研究を支援してくれてる人がいるの。わたしたちは頭領って呼んでる。」
「頭領は自分をアルレイアの司祭だと言っていました。アルレイアに関する知識も豊富です。すべて自称なので本当なのかはわかりませんが、可能性としては一番高いです。もしかしたらこの呪いを解く方法も知っているかもしれません。」
呪いが解ける……その言葉を聞いた瞬間、リュウの表情はこれまでにないくらい明るくなる。
「ただ頭領にはちょっと問題があって、リュウさんに対してとある要求をしてくる可能性が……」
「…行く」
「えっ?」
「あたし、その頭領に会いに行く!それでこの呪いが解けるなら!」
「リュウ。解ける可能性があるって話で…」
「可能性があるなら行く!この呪いが解けるならあたしはどんなことでもする!」
リュウはそう言うとソエルをじっと見つめた。
強い決意がその瞳に燃えているのがわかる。
「わかりました。あなたを頭領に会わせます。」
こうしてリュウはナリルたちの頭領に会いに行くことになった。
――――――――――
とある山道にたたずむ一台の馬車。
それは権力という限られた者しか持っていない力を煌びやかな装飾として馬車全体に施しており、その周辺は重厚な鎧を身に着けた兵士たちによって守られており、所有者がどのような人物なのかを表している。
その馬車に一人の男がスッと近寄る。
兵士たちは緊張した表情で男にむかって敬礼する。
全身を黒い外套で覆っている男は馬車に近寄ると豪華な扉を静かに叩く。
「入れ。」
中から声が聞こえると、男はフードを外して扉を開ける。
あらわになった男の頭部は剃りあげられており、側頭部から右頬にかけて大きな傷がある。
扉の奥では貴族風の男が果物をつまみながら、高級葡萄酒を飲んでいる。
「失礼します。」
「なにかつかめたか、ダチム。」
馬車に入るなり貴族風の男、セイルラム領主第五子のフェルトが傷の男に話しかける。
「はい。奴らは北のクアレズ領へ向かったものと思われます。昨日、領境近くで商人が女だけの旅人に品物を売ったそうです。その中に白毛の子犬と白髪の若い女を見たと証言しました。」
「確かか?白い毛の犬などどこにでもいるぞ。」
「白い毛の犬はいても、白髪の娘はそういません。」
目的の相手を見つけたという報告だが、フェルトの表情はよくならない。
フェルトは苛立たしげに手にした果物をダチムにむかって投げつけた。
「昨日?昨日だと!?ならば奴らはもう領地を越えてしまったのではないか!?」
「すでに越境したものと思われます。」
フェルトは机の上にある大皿を怒りに任せて放り投げる。
果物が壁に当たり中身をぶちまけてもお構いなしだ。
「奴らが逃げてどれほど経っている!?なぜこれだけの時間がありながらたかだか数人の女も見つけられなかった!?」
床に散らばる果物を投げつけられてもダチムは身動き一つしない。
黙ってされるがままにされていた。
「貴様ら双子を拾って世話してやったのは誰だ!?我が父、ジャルダン・セイルラムだぞ!さらにセイルラム第五子である私に仕えるという名誉まで与えてやっているのに役に立たない!ダチルにいたってはあの砦で女に負けて死んだだと!?恩を仇で返しおって!!」
もともとこのような人探しは死んだダチルが得意としていたことだった。
ダチムはフェルト配下の戦闘部隊を指揮しており、このような捜索は不得手だ。
しかし、死んだ兄弟を侮辱されても黙ってその場に立っている。
フェルトの八つ当たりはしばらく続いた。
「はあっ…はあっ……私は屋敷へ戻る。」
暴れまわったフェルトは息を荒らげながら未だに微動だにしないダチムにそう告げる。
「貴様はこのままクアレズ領に入り、ノーブルウルフとあの女を捕まえてこい。それができるまで私の前に現れるな!!」
「…はい。」
ダチムは一礼すると馬車をあとにする。
顔についた果物の破片を取り除きながら近くの茂みに入り込む。
しばらく進むとそこにはダチムと同じ格好をした男たちがたたずんでいた。
ダチムが来たとわかるや全員が膝をついてダチムを迎える。
「俺たちはこれからクアレズ領に入る。奴らを捕まえるまで戻ることはない。」
異議を唱える者はいない。
命令が下されるや各々すぐに準備をはじめる。
ダチムは近くにあった木を思い切り殴りつけると、自身も準備のために荷物をまとめ始めた。