山賊を退治した翌日、リュウはラウルと再会を約束して別れた。
組合への登録は、ラウルの推薦のおかげで問題なく…………………なかった。
退治した山賊の頭領は元は名の通った剣術家だった。
さらに調査団の報告で手下の山賊の死体も多数発見されている。
ラウルの報告書ではすべてリュウこと白髪の少女の功績になっているが、支配人を含め多くの同業者が疑問を抱いている。
ラウルは何度も説得を試みたが、笑われるだけだった。
しまいにはラウル自身が「臆病者」「恥知らず」と罵声を浴びせられることになった。
怒ったリュウが「証明してやるから表にでろ」とケンカをうり、あわや大惨事になるところだったが、ラウルのとりなしでなんとか収まった。
結果として、リュウの組合への登録は認められたが、組合や同業者の信頼は皆無だった。
必然的に単独で仕事をすることになったが、本人はあまり気にしていない。
しかし、リュウが希望する討伐系の依頼は受けられる可能性が少なくなった。
何故なら、討伐系依頼の多くは複数人での仕事になる。
一人の行動が全員の生死に直結する。
リュウのような異端児がいれば、問題が起こる可能性が高くなり、依頼の達成が危ぶまれる。
なので同業者からも拒否されるが、組合側がリュウの参加を受け付けない。
事実、リュウが持っていく討伐系の依頼書はすべて組合側が却下している。
山賊の討伐が完了してから一週間経っているが、リュウがこなした仕事は一件もない。
今日も朝から組合の掲示板の前で依頼書とにらめっこしていた。
さすがにもう手持ち金が尽きそうだ。
若干の焦りを抱きながら依頼を探す少女の耳に男たちの声が入ってきた。
「おい、聞いたか、あの話?」
「隣町までの護衛だろ?報酬が金貨十枚ももらえるってやつ。」
「俺応募してくる!」
「馬鹿!護衛に金貨十枚なんて危ない仕事に決まってるだろ?」
「ここいらじゃ怖い山賊なんていねえから大丈夫だ。俺行ってくる!」
そう言うと男は受付に走っていくが、すぐに肩を落として帰ってきた。
「どうした?実力不足で戦力外通告か?」
戻ってきた男は仲間たちが笑われ悔しそうにする。
「あれは俺たちには無理だ。」
「おいおい、実力不足なのはおまえだろ?なんで俺たちも入るんだよ。」
「実力云々じゃなくて女しか依頼を受けられないんだよ!」
賞金稼ぎのなかにも女性はいるが、数が圧倒的に少ない。
しかも、この依頼は戦闘系の部類に入る。
数の少ない女性賞金稼ぎで、戦闘の実力者となればその数はかなり限られる。
依頼を受けた人はまだ一人もいないかもしれない。
しかし、リュウにとっては好機だった。
自らの望む戦闘系の依頼であり、都合のいいことに女性という絶対条件をクリアしている。
リュウはさっそく受付に向かった。
組合の依頼受付は、多くが受付嬢によってまわっている。
皆頭もよく、綺麗どころがそろっている。
彼女たちの笑顔は多くの賞金稼ぎたちを癒してきた。
リュウもその癒しにあやかりたいと願い続けてきたが、悲しいことにその機会は一度も来ていない。
リュウが受付にいくと必ず「少々お待ちください」と言われ、奥から支配人が呼ばれる。
当然、これまでの申請を却下してきたのも支配人だ。
初期段階で信頼関係の構築に失敗したリュウだが、今回ばかりは退くことはできない。
どんな手をつかってでもこの依頼を受注しなければならない。
リュウは覚悟を決め、支配人に護衛依頼を申し出た。
「女の人しかできない護衛やらせて!」
「毎度懲りることなく、よく来るな。おまえにはまだ早いと言ってるだろうが…」
予想通りの回答だ。
いつもならここで言い争いに発展するが、今日のリュウは違う。
数歩後ろに下がると、その場でひざまずき、額を地面にこすりつけた。
いつものように食って掛かってくるだろうと予想していたであろう支配人は、突然のリュウの行動に唖然としながら、土下座する少女を見つめていた。
周囲にいた賞金稼ぎたちもなんだなんだとリュウに視線を送る。
「ヒゲ……支配人、お願いします。この依頼を受けさせてください。」
(しまった!最初からつまづいた。)
いつもヒゲ親父と呼んでいるため、無意識にその言葉が口から出る。
全単語は口にしなかったが、ここまでいえば誰でもわかる。
(作戦失敗か…)
そう思ったが、誰も注意してこない。
おてんば娘の土下座というこれまでにない大きな出来事が、今の失敗を掻き消していた。
(今しかもういう機会がない!)
意を決したリュウは言葉を続けた。
「私に信頼がないのはわかってます。ですが、お願いです!一度でいいから機会をください!私は戦うことしかできません!それしかできないんです!必ず期待にこたえます!どうか、私に機会をください!お願いします!」
必死に額を床に擦り付けた。
笑っている賞金稼ぎもいたが気にしなかった。
今この仕事を受けられなければ、一生無理だと思ったからだ。
「……わかった。やらせてやろう。」
小さなつぶやきに近い声だったが、リュウにははっきりと聞こえた。
ばっと顔を上げると、支配人がやれやれといった表情で見下ろしている。
「明日の昼頃、依頼主がこの街にくる。南門の前に集まっとけ。」
そういうと依頼書をつかみ、奥へと入っていった。
周囲はざわついている。
あの支配人がまさか許すとは思わなかったのだろう。
リュウ自身も信じられなかった。
だが、しっかりと聞いた。
明日の昼、南門に集まるようにと。
リュウの身体は小刻みに震え、拳は固く握られている。
大勢の前で土下座をしたからではない。
支配人が自分に機会をくれたからでもない。
(やっと戦える…)
その思いがリュウの拳に力を与え、身体を震わせた。