※この作品はR-18です。

女舞戦記   作:愚犬

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魔術師

 リュウの目の前にはウェーランズ領主の娘マリアンが立っていた。

 リュウが目にしたのはマゼッタ視察のときのみ。

 それ以外は馬車の中か、天幕に隠れるようにして姿をみせないようにしていた。

 

 

(なんでここにいるの!?)

 

 

 突然の出来事になにもできず突っ立っていると、マリアンは顔を少し赤らめ、目をそらしながらいう。

 

 

「あの…よかったら服を…」

 

 

 その言葉にリュウは現状を把握する。

 今自分はなにも身に着けていないと。

 急いで上がり、服を身に着ける。

 

 

「あの…お嬢様は…なんでここに?」

「ちょっと散歩にでたらあなたが水辺に向かうのが見えたんです。マゼッタで体調が悪そうだったから気になって……の、覗くつもりはなかったのよ!ただ、突然震えだしたので心配になって……体調は大丈夫?」

 

 

 リュウは驚いた。

 まさか領主の娘がここまで気にかけてくれるとは思ってもいなかった。

 

 

「だ、大丈夫です。そ、それよりいいんですか?こんなところにいて?」

「いいのよ。いつまでも天幕や馬車に押し込められていたらそれこそ身体に悪いわ。たまにはこうやって身体を動かさなきゃ。」

 

 

 マゼッタの町でみたマリアンにはみえない。

 あのときはお嬢様という雰囲気を前面に出していたのに、今目の前にいるマリアンは活発な町の女の子だ。口調もかしこまったものではなくなっている。

 

 

「よかったらおしゃべりしない?話し相手がセディーンとロビーナしかいなくて退屈してたの。」

「ロビーナ?」

「ああ、あの御者の名前よ。彼女ロビーナっていうの。あなたはリュウよね。みんなに名前を聞いてまわってたから覚えてるわ。」

「う、うん。」

 

 

 話し相手を欲していたのかマリアンはどんどん話しかけてくる。

 リュウも久しぶりの会話に盛り上がる。

 

 

「へー。じゃああの街は最近入ったばかりなんだ。」

「うん。最初の仕事で信頼を得られなくて、それから仲間はずれみたいにされてる。この仕事もやっと手に入れたんだ。」

「そうなんだ。でも、リュウはなんか他の賞金稼ぎと違う気がする。会った時のこと覚えてる?セディーンにケンカ売ったあの賞金稼ぎ。」

「覚えてる覚えてる。あいつはじめて話しかけたとき、いわれた言葉が「雑魚は消えろ」だよ?セディーンが殴り飛ばしたときはスカッとしちゃった!」

「ね~。あんなに人が飛ぶとは思わなかった。そういえばリュウからみてセディーンは強いと思う?」

「強いよ。剣技は見てないけど、それでも強い。いいな~、一度たたかってみたいな~。」

「じゃああのとき戦ってみればよかったじゃん?セディーンも誘ってたし。」

「ダメだよ~。せっかく手に入れた仕事なくなっちゃうじゃん。でもやってみたいな~。いつか手合せできるかな~。」

「そうだね。…ん?しまった!そろそろ戻らないと!ロビーナに叱られる。」

 

 

 ふたりが話し始めてから二刻(一時間)は過ぎていた。

 

 

「ねえ、リュウ。よかったら明日も話さない?」

 

 

 もちろん大歓迎だ。

 二人は約束を交わし、マリアンは天幕、リュウは自分の寝床へとそれぞれ戻っていく。

 

 寝床に戻ったリュウは、ばれないようにもぐりこみ、毛布をかぶる。

 先程の悪夢は嘘のように消え去っている。

 目を閉じるとリュウはあっという間に眠りについた。

 

 

 

 

ーーーーー

 それからは夜になるとリュウはマリアンと二人でこっそり抜け出して互いのことを語り合った。

 しかし、マリアンは見抜いていた。

 リュウがまだなにかを隠していることを。

 その秘密が左腕に隠されていることを。

 

 

「ねえ、リュウ。その左腕はどうしたの?赤い布を巻いてるけど…」

 

 

 リュウの身体がビクッと震える。

 そして目をそらしながら答える。

 

 

「な、なんでもないよ。」

「嘘言わないで。この間リュウの裸見たときに見えたのよ。ひどい傷があったじゃない。」

「そ、そうなんだ。ま、前にケガしちゃって…そ、それで隠してたんだ。」

「リュウは嘘が下手ね。ねえ、おしえて?わたしはリュウの力になりたいの。」

 

 頑なに拒否するリュウ。

 しかし次の一言がリュウの心を変えた。

 

 

「わたしたち、友達じゃない?」

 

 

 リュウは左腕の赤布を取り去る。

 そこには鋭利なもので何度も突き刺した跡と皮を切り取った跡が残っていた。

 そして一言一言を絞り出すように語り始めた。

 

 

「私…奴隷だったんだ。何年も…奴隷にされて…なにもかも…奪われた。」

 

 

 マリアンは驚いたが、同時に納得がいった。

 マゼッタでみせたあの怯えた仕草…奴隷のように扱われる囚人と自分を重ねたからだろう。

 

 

「あのとき怯えていたのもそのため?」

「うん…わたし……鞭が怖いんだ……鞭をみると…叩かれた衝撃が…よみがえるんだ…」

 

 

 思い返せば、リュウは馬車の後方警備にあたり、決して前方には出なかった。

 御者の操る鞭が怖かったのだ。

 マリアンはそっとリュウの身体を抱きしめる。

 

 

「話してくれてありがとう。つらいことを思い出させてごめんなさい。」

 

 

 しばらくマリアンは泣いているリュウに寄り添っていた。

 そして傷痕を指でなぞるとリュウに話しかけた。

 

 

「これからすることを誰にも口外しないでね。」

 

 

 そういうと、右手を傷痕にかざす。

 ふいに掌が光り、温かい光がリュウの左腕を包み込んでいく。

 やがて光が収まるとリュウは驚いた。

 傷痕が跡形もなく消えている。

 強くこすってみるが完全に消えている。まるで元からなかったように…

 

 

「えっ…なんで…どうして…?」

 

 

 なにが起こったかわからないまま、何度も傷痕のあった箇所を触る。

 そしてふっと隣にいるマリアンをみる。

 

 

 

「わたしは魔術師よ」

 

 

 

 

 

 

 

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