けいおん!LinkCorpse(リンクコープス) 作:レパード☆アブデカ
「うぅ……。どうなってるんだ…。この学校………!?」
「なんか、さっきから…死体ばっかりじゃねーかよ……。」
「………っ………。」
「……ん……。」
澪・律・直美・世以子の4人は、仲間の行方と脱出の手がかりを求めて校内をさまよっていた。
澪の表情は青ざめ、律や直美に世以子も決して穏やかとは言えない様相だ。
白骨死体(+人魂)と赤いワンピースの女の子に遭遇して以降、行く先々で死体を見かけるようになった。
いずれも見るに堪えぬもので、やはり白骨化していたり、ミイラ状態だったりとその状態は凄惨にして多種多様、飛び出した肉片や臓器、脳みそにウジ虫やらハエやらがおびただしくたかっているものもあった。
その多くが自分たちと同じ、制服を着た高校生で、例のおまじないを行ったもののようだった。
中には由香と同じ中学生や、年端も行くのか行かまいかの小学生の死体まであって、おまじないの情報が、もはやすでに高校生などと言わず、ネットを通じて学生単位で広範囲にまで広がっていることを伺わせた。
一度白骨死体を見てパニックになっているだけに、澪は何度も叫びそうになったのだが、ひたすらこらえていた。
直美・世以子はともかく律のこともあるので、なんとか自分が一番しっかりしなければならないという思いがあった。
(早く手がかりを見つけて、唯たちと…みんなと、桜高に帰らなくちゃ………。直美ちゃんたちのことだってあるんだし………。)
さっきの教室を飛び出して、すでにかれこれ10分。
死体を見かける以外、唯たちに会うどころか新しい手がかりすら得られていない。
暗さを一段と増した廊下を、ゆっくりと進む。
ギシ……ギシ……
ギシ……ギシ……
「…………ん?あれは…。」
また、新聞が落ちている。
澪はすかさず、それを拾い上げた。
ほかの3人も集まってくる。
広げた1面はさっきと同じ、連続児童失踪事件についての記事だったが、その内容は、誰もが望みがたかったであろう悲惨な結果を表していた。
【天神町奉知新聞】
〈児童4名連続誘拐・殺人事件速報〉
ここひと月の間に、町内で多数発生していた連続児童失踪事件は、当局の捜査の結果、急転直下、最悪の形で解決へと向かった。
昭和48年9月18日午後7時、天神小校内にて失踪中の児童3人の遺体と、血のついた断ち切りばさみを手に放心している教員1名を発見。これを確保した。
遺体はすべて舌が切り取られており、うち1人は頭部を切断された状態で、当局ではこのはさみを凶器と断定し――――――――――――――――――――
その先はくしゃくしゃになって、中途半端にちぎられてはいたが、“急転直下、最悪の形”の言葉に恥じず、事態の深刻さやむごたらしさを物語るのには十分を越えていた。
連続児童失踪事件は、その失踪した子どもたち全員が、それも舌や頭を切り取られた遺体となって発見される、悲惨な誘拐・殺人事件へと発展していたのであった。
記事の上部には、被害にあった子どもたちの顔写真と名前も載っている。
上から、
吉沢 遼(3年)
辻 時子(1年)
管乃 雪(5年)
篠崎 サチコ
となっていた。
これはおそらく、失踪した順番を示しているのだ。
死亡したときの年齢を考えると、事件がなければ今では40代前後のおじさん・おばさんあたりになっていたはずである。
澪たちの父母や、叔父・叔母などともそんなに年齢は離れていなかっただろう。
犯人の教員は、そんな将来ある幼い教え子たちの命を、ゴミのように散らしたのだろうか。
「……そんな……。」
「ひっでぇ……。」
「はさみで、舌を…。それに、頭なんて…。かわいそう…許せない……。」
「あゆみちゃんからは、聞いてたけど…。ここまでひどかったのかな……。」
しかし、ここで気になることがあった。
最初に気づいたのは、律だ。
「………あれ………?」
「ん?」
「この記事、なんかちょっとおかしくねーか…?」
「なにが?律ちゃん。」
「この見出しだよ。“児童4名”って、あるだろ?」
「それが?」
「澪。さっきの新聞、あるか?」
「ああ……。ほら。」
澪から受け取った、さっきの新聞の1面の見出しを、律はみんなに見せた。
「見てみろよ。こっちには、“行方不明者 ついに3名に”ってあるんだぜ。澪も、見たろ?」
「ああ。」
「“3人”だったのに、こっちで4人なんてどう考えたっておかしいじゃねーかよ。」
「うん……。」
言われてみれば、そうだ。
さっきの記事は、3人目の行方不明者が出たときのもの。
遺体が発見され、現場にいた犯人の逮捕を告げるこの記事では“4人”。
……1人増えている。
「…この記事のあとに、もう1人行方不明になったんじゃないのか?」
「でもさぁ…。それだったら、その新聞と記事ぐらい、見つかってるはずじゃねーか。さっきから歩いてるけど、“4人目の行方不明者”なんてどこにもなかったぜ。」
「うん…。」
「それにさ。なんで、“3人の遺体”なんだよ?この写真だって、4人載ってるのにさ。」
これも、まったくその通りだった。
見出しと写真は4人なのに、記事本文の遺体は“3人”。
たった1人の差とはいえ、矛盾しているにもほどがあり過ぎる。
「そう言われてみれば……。……ん?」
澪の視線は、4人の写真の一番下に釘づけになった。
「どうしたの?」
「この一番下の子……。あの、赤いワンピースの子にそっくりじゃないか……?」
「えっ……?」
「あ…ちょっと、見せろよ!」
律も横から、その4人目の子、篠崎 サチコの写真をのぞき込む。
顔の輪郭は、紙面にこびりついた汚れのせいかややぼやけているが、髪型は明らかにあの赤いワンピースの女の子そっくりだ。
「……ほんとだ…。マジで、そっくりじゃねーか……。」
「律ちゃん。貸して。」
直美も律から新聞を受け取り、世以子とともに写真を見つめる。
「ほんとに、そっくり……。」
「服装も、なんとなく似てる気がするよ……。」
さらにどうしたわけか、この子だけは上の3人にある学年の記載がない。
誤植なのか、それともなにか別の理由でもあるのか?
「なんで、学年書いてないんだろ……?」
「さあ……。」
すると、
「………………………ボ………………………。」
「?」
「……………………ッボ……………ゴボボ…………………。」
“ゴボゴボ”という、うがいをしているような声が後ろから聞こえてきた。
「………なんだ………?」
後ろを振り返る。
今澪たちが来た廊下の奥から、青白い小さな人影がゆっくりと近づいて来ていた。
その人影が、ようやく視認できる場所まで来たとき、4人は再び戦慄した。
「……!?」
「……っ!!」
人影はピンクのシャツに、赤いキュロットをはいた幼い女の子のようだった。
見た感じ、6才~7才くらいだろうか。
その女の子には、下あごから上の頭がなかった。
口の横から後頭部にかけて、なにかでざっくりと切り落とされているのだ。
さらに、残っている下あごの歯の間に見えている舌も途中から切り取られ、その下あごの奥ののどから、血の混じったあぶくを苦しそうに吹き出している。
“ゴボゴボ”という声は、このためだったのだ。
「…………………ゴボ……………………。…………………ゴボ…………………。」
「ひっ…!!」
「……………ゴボ…………………。ホメェ…ヒャン…………………。」
「……………………。」
「あ………。あ………。」
「……………ハハヒフォ、アファハ…………ファエヒヘ……………。」
なにを言っているのか、まったく理解できない。
4人とも生きた心地もなく、顔面蒼白になり、その場に硬直して動けなかった。
特に澪と直美は、足をブルブルガクガクとけいれんさせ、どうしようもない状態だ。
(な………。なんだよ…こいつ………。)
(こ…この子………。一体………。)
「………………ネェ………………。」
(!!)
ここで直美は、今の記事を思い返した。
(もしかして………。頭を切られた子って………。)
「……………ハ・ヒャ・フゥ……………。」
女の子は右手を振り上げた。
その手にはさっき和たちを追いかけた女の子と同じように、血のついた大型の断ち切りばさみ。
(!!)
(!!!)
「…っ!」
「ぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」
金切り声と同時に、澪が猛然と廊下の前方へ駆け出した。
律・直美・世以子も、それに引っ張られるように走り出す。
タッ!タッ!タッ!タッ!タッ!タッ…!
「はっ…!はっ…!はっ…!はっ…!」
「ふぁ…!ふぁ…!ふぁ…!ふぁ…!」
女の子ははさみを振りかざし、必死に逃げる澪たちを執拗に追ってきた。
「っ…!っ…!っ…!っ…!」
「っは…!っは…!っは…!」
チャキ…チャキ…
チャキ…チャキ…
「……ゴボ…………ネェ………。………ナンヘ………?ナンヘ…ニフェウノ………。」
「来んな!来るんじゃねぇ!あっち、行けよ!」
「ふぁ…!ふぁ…!ふぁ…!」
チャキ…チャキ…
チャキ…チャキ…
「来んな!来んなぁぁぁ!」
「…………ニヘナイヘ…………。ニヘナイヘッハラァ…………。」
「来んなよぉぉぉぉ!」
声をからさんばかりの勢いで、律が叫ぶ。
ただでさえ全力で走っているので、息は上がり、酸欠にもなってしまいそうだ。
しかし女の子はそんな叫びも一向にお構いなし、はさみを開く・閉じるを交互に繰り返しながら、ものすごいスピードで追ってくる。
頭がなくて、こちらどころか周りの様子だってろくに見えないはずなのに、信じられない。
どこかの階段の踊り場に差しかかると、猛スピードで駆け降りる。
澪・律のグレーのスカートや、直美・世以子の水色のスカートは、その短さゆえに、風圧でふわっふわっと断続的になびいて浮き上がり、その下のパンツが見え始めている。
男子でもそこにいたら間違いなく“ガン見”されてしまいそうだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
ちょっとでも止まるか、スピードをゆるめただけでも確実に追いつかれ、捕まってしまう。
そうなったらおそらく、そこですべてが終わりだ。
とにかく、必死で走り続けるしかなかった。
チャキ…チャキ…
チャキ…チャキ…
(ど、どこか……隠れる場所を……!)
澪は恐怖で落ち着かない頭の中、女の子をやり過ごせる場所はないものかとあたりを見回した。
さっきの和たちと、ほぼ同じ考えである。
しかし和たちの場合は、相手との距離間に多少の余裕があったのと、階段を駆け上がってすぐの、扉が開いている教室に飛び込んだので、女の子が上がってくる前に隠れられたのだ。
繭の悲鳴で見つかりはしたが、結果的にお守りのおかげで難を逃れている。
こちらはそれほどの距離感もなく、もう階段を大幅に過ぎてしまっているし、女の子も階段を通過してこちらを視認できる場所にいる。
もちろん、お守りもない。
どこかの教室の扉が開いていたとしても、飛び込んだら一瞬で見つかるし、閉まっている扉に至っては、もし運悪く開かない扉にぶち当たって、それを無理やり開けようとしようものなら結局その間に捕まってしまう。
いずれにしても、無事でいられる保証はないのだ。
それでも澪は、通り過ぎる教室の扉という扉を必死に見て回った。
どの扉も閉まっているか、目でわかるように釘づけされたものもあって、飛び込めそうにない。
(どうしよう……。どうすればいいんだ……!)
なすすべもないまま、ただ走り続ける。
と…………。
(?……あれは……?)
廊下の左手に、ぼんやりと明かりが見えた。
火のついたろうそく。
直美たちと会った直後に、階段の踊り場で見たあのろうそくにそっくりだ。
4人は全速力で、澪・律・直美・世以子の順に、そのろうそくの前を駆け抜けた。
この流れなら、もちろん追いかけてくる女の子もろうそくの前を通過するはずだった。
だが……。
「?………待って!直美!律ちゃん、澪ちゃん!」
「っ……?」
「………?」
最後尾を走っていた世以子が、振り返って声を上げた。
声をかけられた前の3人、それに反応して振り返ると………。
「あれ……?」
「いない……。」
4人はスピードを落とし、女の子が追いかけてくる方向を向いたまま立ち止まった。
………女の子の姿が、どこにもない。
「はぁ…。はぁ…。おい…どうなってんだよ……。」
どこへ行ったのか。
待ち伏せ?そのために、どこかに隠れたのか?
いや、ターゲットはすでに目の前にいるのだから、ただ執拗に追い続ければいいだけの話だ。
そんな回りくどい手を、わざわざ使うとは考えにくい。
息を整えながら、もう1度4人で見渡したが、やはりどこにもいない。
はさみのチャキチャキ…という音も消えていた。
「……一体、どこに……。」
「で、でもさ…。と、とりあえず…助かったんじゃねーの?」
すると、世以子がおもむろにろうそくのところに近づいた。
ゆらゆらと揺れるその明かり(火)を見ながら、
「……あゆみちゃん……。」
「へ?」
「このろうそく、あゆみちゃんのだ……。」
「あゆみちゃん…?」
「あゆみって…あいつか?あの、おまじない教えた子だろ?委員長の…。」
「うん…。あたし、よく見てるんだ…。あゆみちゃんが、これ持ってるの。ね、直美?」
「うん…。篠崎さん、いつもおまじないグッズいっぱい持っててさ。これも……。」
律と澪は、顔を見合わせた。
階段で直美たちが、あの踊り場のろうそくをじっと見つめていたのは、このためだったのだ。
ということは、保健室で黒い影に襲われた唯たちが見たろうそくも、あゆみのものだろう。
哲志が“篠崎の”と言ったのも、直美たちと同じくそれを持っていたのを見たからだ。
あゆみに会って、すぐにでも話を聞きたいが、もちろん現時点ではかなわない。
女の子とはさみの恐怖から、ひとまず解放された4人はさんざん走らされた体を休めるため、とりあえず廊下に腰を下ろしたのだった。