けいおん!LinkCorpse(リンクコープス) 作:レパード☆アブデカ
「ちくしょ…。どうなってんだよ…。なあ、篠崎。」
「うん…。」
如月学園の残り3人のうちの2人、岸沼 良樹と篠崎 あゆみは、仲間たちを探して校舎をさまよっていた。
良樹はその金髪に、ボタンの上2つが開いたYシャツの襟から見える赤いアンダーシャツと、外観だけ見ればいかにも“ヤンキー”といった感じの風貌だ。
哲志とは古くからの幼なじみである彼、髪型やその色をのぞけば、哲志と制服の着こなし方は似ているのだが、上着を羽織っている(ボタンはかけていない。)のが決定的違いだった。
あゆみは軽く肩にかかる程度の、短めのツインテールに、繭や唯・律・憂よりも3~5cm低い151cm(前4人は154~156cm。)と、高校2年生とは信じがたい背の低さだ。
172cmの良樹と並ぶと、その身長差が一目瞭然で見てとれる。
この2人は哲志たち如月の面々はもとより、唯たち桜高の面々からも切り離された次元にいた。
そのために、ほかの仲間たちのように桜高の9人の誰とも直接会うことがなかったのである。
ほかにあと1人、クラス副担任の宍戸 結衣(ししど ゆい、桜高の唯とは名前の書き方と名字が違う。)がいるのだが、これまでのところ消息はわからない。
彼女は学校のOGで、大学卒業後、4月に新卒で母校に赴任したばかりであった。
先生、つまり教師としてはまったくのひよっ子なのである。
桜高で言えば、憂や梓・純が入学し、進級した唯たち4人が新入部員勧誘に勤しんでいた、まさにその時期にほかならない。
英語を担当する結衣は、友好的な性格から一部の生徒や保護者に厚い信頼を置かれていたものの、生来のドジっ子で、生徒を前にして教鞭を取るという面ではどうにも苦心しており、ほかの生徒や保護者からは、“ダメ教師”としてレッテルを貼られ、叱咤・非難の的になっていた。
元々教師志望で、それに向けた努力を1日たりとも怠らなかった彼女が、実際に教師になってから初めてぶつかった、1人では越えようのない“壁”だった。
きちんと教えられないのでは、先生失格かと悩んだ末、先輩で恩師の担任、山崎 一(やまざき はじめ)に相談すると、“きみはきみのやり方を続ければいい”と激励を受け、それを起爆剤としてやり玉に上げられていた生徒・保護者との関係も瞬く間に改善された。
最近の教師にはあまり見られなくなった、“生徒寄り”の教師だった山崎は、結衣の寛容な性格や、たゆまぬ努力を学生時代から誰よりも理解し、評価していた。
とにかく出世欲その他もろもろが先行し、生徒など“アウトオブ眼中”(某走り屋漫画の某キャラのセリフ。)といった人々が多い中、まさに彼らの鏡となるべき存在であった。
かくして彼女は、そんな恩師の助言によってどうしようもないダメ教師から、学校きっての“人気教師”に出世し、全校に名を馳せることになったのである。
この良樹自身も、最初はその教え方を名指しで叱咤していた1人だったが、今ではその逆だ。
これでも、心の優しい友人思いの性格、正義感も人一倍だったので、結衣の性格や努力を理解するのに、そんなに時間などかからなかった。
それと対照的存在だったのが繭で、森繁以上によく面倒を見てもらったこともあり、赴任当初から結衣を強く慕っていた。
その縁で、転校が迫る学園祭終了後、世以子と双璧をなすクラスや学校のムードメーカーの役割を担ってくれたことに対して、結衣から感謝とねぎらいの言葉をかけてもらっていた。
良樹もあゆみもやはり人魂に、多重次元の話を一通り聞いてはいたが、結衣のいるのが自分たちと同じ次元か、違う次元なのか見当すらつかない。
同じ次元にいるなら、一刻も早く再会したいのだが……。
ちなみに桜高のさわ子も、同じく学校OGである。
やはり新卒だが、教員歴は結衣よりも若干長いし、年齢もやや上だ。
結衣と違い、特定の学年やクラスを持っているわけではない(※ただし翌年に唯たちの3年2組を受け持つ。2期DVD/ブルーレイをご参照…。)が、担当は音楽で、軽音部と吹奏楽部の顧問をかけ持ちしているのだ。
このかけ持ちには、実はある“深いわけ”が潜んでいるのだが、ここでは語らないことにする。
「哲志たちも、結衣センセもどこ行っちまったんだよ……。さっきから探してっけど、ろくに手がかりもねーし…。」
「うん…。」
「おまけに、ほかの学校の連中の死体も転がってるし…。ちっ…ふざけんなっての。」
「岸沼くん…。愚痴ばっかり言ってないで、なんとか手がかり見つけなくちゃ…。」
「はいはい…。わぁってるよ。探しますよ、っと…。」
そんな2人には、こんな逸話と馴れ初めがあった。
良樹は1年生のころ、男子トイレでこっそり喫煙していたのを、体育教諭の坪田 美喜男(つぼた みきお)に見つかってしまった。
生徒指導にとりわけ厳しいことで知られる坪田は、良樹に退学を促すが、そこに現れた人こそが、ほかならぬあゆみその子だった。
あゆみは、基本的に“自分勝手で上から目線”な大人たちに、快い感情を抱いていなかった。
長いもの、ここではつまりその大人たちに巻かれることが、プライドとして許さなかったのだ。
ここだけ見れば、典型的な“反抗期”だが、しかし同年代の子たちとはどこか違う、独特さを感じるものだった。
しかし結衣に対しては上記の観点から、繭同様に強く慕っていた。
親以外、なおかつ校内で心を許せる、数少ない大人であった。
そんな性格から、この場面でも臆することもなく、強い口調で坪田をはねつけ、結果として良樹の退学をさらりと帳消しにしてしまったのである。
その1件以来、彼女のいなかった良樹はあゆみを慕うようになり、やがて異性としての強い意識、すなわち恋愛感情を持ち始めるようになった。
しかし、生来の不器用さが邪魔をして、1年が過ぎた今もうまく告白することができていない。
友人の哲志には、すでに直美といういずれ将来の伴侶となるであろう人がいるのに…。
「なあ、篠崎。」
「なに?」
「ろうそく、あと何本なんだ?もう、2本使っちまったけど。」
「5本持ってきてたから、あと3本だけど……。」
あゆみは制服のスカートの両ポケットに、ろうそくを2本/3本の計5本入れていた。
そのうち右ポケットの2本(澪・直美たち、唯・哲志たちが目撃)は、すでに使ってしまっていたので、残っているのは左ポケットの3本だけ。
いつかはわからないが、いずれ使わなければいけないときがくるだろう。
そこで下手に浪費すれば、この暗闇に明かりを灯すものが事実上ほぼなくなってしまう。
なるべく使わないよう、少しでも節約しなければならない。
「3本じゃ、なるべく手ぇつけねーように取っといたほうがいいかもしれねーな。気ぃつけろよ?下手に使っちまったら、本当に真っ暗闇だぜ?」
「うん…。そうする。」
「……ん?」
「どうしたの?」
「誰か、来るぜ?」
廊下の前方に、2つの人影が見えていた。
「持田くんたち?」
「いや…。ほかんところの連中みてーだな。」
人影はやはり制服を着ていたが、如月のものとは違うようだ。
小豆色+グレーのブレザーである。胸には、縞の入った青いネクタイ。
「白檀(びゃくだん)かな…ちょっと、声かけてみようぜ。」
「でも、学校が…。」
「いいじゃねーかよ。話くらい、聞いたって。」
良樹はその2つの人影に、声をかけた。
「おう…。お前ら、白檀の連中だろ?」
「あ…。」
「えっ…?」
その人影、2人の少年がびっくりして立ち止まる。
1人は薄めの茶髪、もう1人はやはり薄めのグレーだ。
「悪りぃな。オレ、如月学園の岸沼 良樹ってんだけど。お前らも、おまじないか?」
「そ…そうだけど…?」
茶髪の少年が、どきまぎした感じで言う。
良樹の風貌に、引いているのだろうか。
「あの…。よかったら、2人の名前、教えてくれる?あたし、岸沼くんのクラスメイトで、篠崎 あゆみっていうの。」
あゆみはそう言って、2人に自己紹介を求めた。
2人は1つ返事ですぐ応じ、茶髪の少年は大川 智寛(おおかわ ともひろ)、グレー髪の少年は片山 良介(かたやま りょうすけ)と名乗った。
2人とも、白檀(びゃくだん)高校の2年4組だという。
白檀高校は、如月学園からそう遠くない場所にある私立高校である。
偏差値の高さで知られ、オーストリアの名門校、ヴァルテーヌ学園と姉妹協定を結ぶ進学校だ。
“協調・平静・叡智”を校訓として、ブレザーの上着の左胸(女子はセーラー服の襟元。)の校章にそれらが示されていた。
盾を象ったベージュ色の枠内に、大きなアルファベットの“B”、下に小さく“HS”(ビャクダン・ハイスクール)と書かれ、さらにその下からつながった3枚の木の葉2対が、双方で上の3文字をはさむようにカーブしながら突き出ている。
この2対の木の葉が、それぞれ上から順に、“協調・平静・叡智”ということなのだ。
ちなみに如月学園の校訓は“希望・忍耐・絆”で、3話で説明した梅の花・つぼみ・枝入りの校章がそれらをそれぞれ示している。
世以子が話していたように中高一貫で、リボンの色が中等部は赤、高等部が青という違い以外は、ほぼ共通したデザインの校章であった。
両部の制服と体操服には、色を消した校章がそれぞれ描かれている。
良樹たちが2人にことの次第を確認すると、やはり、おまじないでここに来たと答えた。
放課後、あゆみと同じくおまじないに興味のある、クラスメイトのとある女の子の発案で行ったのだという。
「…じゃ、岸沼くんたちも…。」
「おう。うちのクラスでさ、親の仕事で転校する女子がいてよ…。こいつが、離れ離れにならないようにってさ。」
良樹はあゆみを指差した。
「まだ、誰とも会ってないの?篠崎さん。」
「うん。うちのクラスの先生もいるんだけど、まだ…。」
すると、
「おう。お前ら、なにしてんだぁ?」
声がして、後ろからもう1人の少年が現れた。
やはり白檀の生徒らしいが、その身なりは目の前の2人とは雲泥の差だった。
長身で赤髪のその少年、ネクタイもつけず、これ見よがしにシャツの前を開け、ネックレスやアクセサリーをジャラジャラとこちらに見せつけている。
腰のまわりにはなにかのホルダーをぶら下げ、校則違反上等と言わんばかりの風貌だ。
良樹のほうが、まだ上品なものに見えてしまいそうである。
「島田…。」
智寛が振り返って言った。
島田と呼ばれた少年は2人の後ろに来ると、向かい合う良樹・あゆみに目をやって、
「ん?誰だよ、そいつら。」
「如月の岸沼くんと、篠崎さんだけど…。」
「んぁ?如月…?まぁ、制服でわかったけどよ…。こんなとこで、デートかぁ?お熱いぜ。」
風貌にふさわしく、初対面2人に配慮もない、生意気さのにじみ出た歯に衣着せぬ露悪たっぷりの口ぶりである。
良樹はムッとして、
「デート…?おい、なめてんのか?…ってか、まだ名前聞いてねーぞ。そっちこそ、誰だよ?」
「島田 快(しまだ かい)。こいつらの、クラスメイトだよ。一応、モデルだ。」
(モデル…?ちっ…。なおさら、なめてやがるぜ。)
言われてみれば、確かにモデル稼業をしていてもおかしくなさそうだ。
しかし良樹はそれより、初対面でいきなり“デートかぁ?”などと生意気な口を叩かれた、気に食わなさのほうがむしろ先行していた。
「そりゃ、結構だけどよォ……。それより、お前ちょっとなめ過ぎてんじゃねーのか!?やぶから棒に“デート”だなんて、ふざけた口聞きやがってよ。」
「んぁ?んだよ。ケンカ売ってんのか?」
「岸沼くん…。」
「誰が、こんなとこで好き好んでデートするかってんだよ!赤毛!」
「なにぃ?やんのかぁ!?」
島田は良樹に飛びかかろうとする。
智寛・良介がそれを2人がかりで組み止めた。
「おい、よせ!島田…!」
「っ!離せよ…!こいつ、許せねぇ…。」
「わかるけど…こんなとこで、ケンカなんてよせって…!」
「そうだよ…!落ち着けって…!」
2人の必死の説得で、島田はようやく落ち着いた。
「ちっ…。おめでてぇやつだ。覚えとけよ…?刻命だったら、速攻殺ってたぜ…?」
「キザミ?」
「刻命 裕也(きざみ ゆうや)。こいつらと同じ、2-4のクラスメイトだ。でも、あの野郎…気にくわねぇ。」
「なにが、気にくわないの?」
あゆみが尋ねる。
「“オレさまが、一番だぜよろしく!”みてぇな、でけぇツラしやがって…。」
刻命 裕也なる生徒が、どんな存在なのかわからないが、よほどの恨みつらみがあるらしい。
もっと話を聞きたいが、これ以上踏み込めば先方の性格上、また面倒になってしまいそうだ。
あゆみはすぐに話題を変えて、
「大川くんたち、ほかに誰かおまじないしたの?同じクラス?」
「うん。今言った刻命と、黒崎と袋井、あとは女子3人だけど。」
「その女子3人の1人が、今回やろうって言い出したんだよな。」
「合わせて、9人…。同じじゃねーかよ。」
「先生は、いない?」
「ああ…。うちって、どっちかって言えば真面目一筋な校風だし…。こんなのに興味持ってる先生なんて、ほぼいないに等しくてさ…。」
「むしろ、なにやってんだ!って、問答無用で没収されちゃうかもなんだよな…。」
「篠崎さんたち、いいよなぁ。めっちゃフレンドリーな先生がいてさ。」
「うん…。今年、新卒で来たOGの先生なんだけど…。」
「とにかくよ。美人で、気立ても面倒見もいいんだぜ。学校中、羨望の的だよ。」
「羨望の的かぁ…。1回、見てみたいよな。智寛。」
「うん…。」
「おい…。なに、勝手にしゃべりまくってんだよ!?オレも、混ぜろよ。」
置き去りにされかけていた島田、少しいらだった様子。
「あぁ…。ごめんね。それより、みんなは人魂には会ったの?」
「ん?人魂ぁ?」
「篠崎さん…。人魂が、どうかしたの?」
「うん…。教室で、気がついたときに…あたしと岸沼くんの前に現れたの。」
「それで?」
あゆみは人魂が、この学校のこと、謎の怨霊のこと、おまじないに参加したものが、別々の次元に分断されて送られていることを話したと、智寛たちに説明した。
「そんなことを…。」
「オレたち、まだなんにも聞いてないよなぁ…?」
「うん。」
どうも人魂には、ここに迷い込んだものに対してあらましを親切に教えてくれたり、反対に教えてくれなかったりする2つのタイプが存在するらしい。
澪・直美たちや唯・哲志たちにも言えるが、良樹・あゆみは前者、対して智寛たちは後者のタイプということになる。
つまり迷い込んだものや、その次元によっては、人魂からなにも聞かされず、なにも知らずにただ校舎内を“迷走飛行”し続けている場合もあるということなのだ。
ということは、ここまで見て来たいくつかの死体は、そんな“迷走飛行”の末に、衰弱して力尽き、そのまま命を落としてしまったものたちのなれの果てなのだろうか。
「島田くんは?」
「同じだよ。話どころか、そんなもん見ちゃいねーぜ?」
3人の話を一通り聞き終わって、あゆみはこう切り出した。
「ねえ。大川くん、片山くん、島田くん。」
「え?」
「えっ?」
「あ?」
「ちょっと…相談があるんだけど…。」
「篠崎…?」